政策研ニュース No.183


今村 努 科学技術政策研究所所長 (右) と平野 千博 総務研究官 (左)
今村 努 科学技術政策研究所所長 (右) と平野 千博 総務研究官 (左)
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目次

  1. Ⅰ. 年頭挨拶 科学技術政策研究所長 今村 努
  2. Ⅱ. 海外事情
  3. Ⅲ. 最近の動き

餅のアイコンⅠ 年頭挨拶

科学技術政策研究所長 今村 努

明けましておめでとうございます。2004 年の年頭に当たり一言ご挨拶申し上げます。
当研究所は文部科学本省とともに、昨年末丸の内に移転しました。気持ちを新たにして今年の業務を開始したいと存じます。


さて、当研究所の今年の大きな課題は、総合科学技術会議と文部科学省からの依頼を受けて進めている「第一期、第二期の科学技術基本計画の達成状況調査」と「技術発展予測調査」の結果を出すことです。この二つの調査はいずれも 2006 年度からの第三期基本計画を策定する上での重要な資料として期待されているものです。大きな期待に応えるべく当研究所の総力を挙げて取り組んでいるところであり、関係方面の一層のご協力ご指導をお願いいたしたいと存じます。


また当研究所では、科学技術指標を 4 年ぶりに改定して今年の春に公表予定です。さらに、4 年目を迎える科学技術動向センターの調査活動について一層の充実を図りたいと考えています。一方、当研究所の重点分野である科学技術と経済との関わりにつきましては、イノベーション研究や企業競争力研究などの実証的研究に積極的に取り組みます。


昨今、科学技術政策をめぐって、戦略の必要性がしばしば指摘されています。厳しい経済環境の下、どの程度の国家資源を科学技術分野に投ずるべきか、具体的な研究開発目標とその達成手段はいかにあるべきかなどについての議論を踏まえた '選択と集中' による政策展開がますます求められています。科学技術政策に戦略が必要とされるゆえんです。しかし適切な戦略を打ち出す上で大事なのは、的確な現状の把握に基づく科学的な議論であると思われます。かつて、わが国は工業生産力など自らの国力を正確に把握しないまま精神主義に陥って戦争を始め、結局、敗戦への道をたどった歴史があります。戦前の一時期のわが国は、国の方向を決めるに当たって正確な現状分析に基づく科学的な議論を重ねるような社会ではなかったということかもしれませんが、今日においても、わが国は科学的な議論を尽くして物事を決めることがあまり得意でない国柄ではないか、と思わせるようなことが見受けられます。


わが国は '科学技術創造立国' を旗印に政策が進められていますが、これを単なるスローガンに止めないで、国家戦略として政策目標と推進方策を具体的に定めていくことが大切です。このためには、戦略を議論する際にわが国の科学技術力の現状と国際的にみた能力水準、そして、研究現場の動向を正確に把握しておくことが大前提です。当研究所は調査研究を通じてこうした正確なデータを積極的に産業界、学界、行政に提供していくことによって科学技術政策の戦略的推進に貢献したいと考えています。


今年も所員一同努力する所存ですのでよろしくお願いいたします。


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ロケットのアイコンⅡ 海外事情

科学技術大国への変貌を遂げた中国における地域イノベーションシステムの構築
- 上海の発展と北京の飛躍 -

第3調査研究グループ研究官 岩本 如貴

第3調査研究グループ研究官 岩本 如貴
上海硅酸塩研究所 羅瀾副所長 (中央)、角南篤科学技術政策研究所客員研究官 (右から 2 番目) 他と (左から 2 番目が筆者)

いわもと ゆきたか
平成 4 年埼玉県庁入庁。税務課、労働商工部地域産業課などを経て、平成 15 年 4 月から科学技術政策研究所第3調査研究グループ研究官。産学官連携を中心とした地域イノベーションシステムの調査研究に従事。
1. はじめに

2003 年 10 月 15 日 〜 24 日の 10 日間、北京市及び上海市に所在する中国政府関連機関、大学等を訪問し、地域イノベーション振興施策、産学官連携等についてヒアリング調査を実施した。

中国は人口 12 億人を擁し、行政区の最大単位である省 (23)、省と同レベルである直轄市 (4)、自治区 (5)、特別行政区 (2)がある。20 年前、故鄧小平氏が「科学技術は第一の生産力である」とのスローガンを打ち出し、現在でも中国の科学技術政策の基本をなしている。政府高官のほとんどは理工系の教育を受けており、現在、研究開発費は世界第 3 位の地位を占めている。

中国へ到着した日は、くしくも有人宇宙船神舟 5 号が打ち上げられ、その夜のテレビでは祝賀ムード一色の特別番組が各局で放映されていた(詳細はNHKニュースで情報収集)。翌日訪問した中国科学院・上海硅酸塩 (セラミックス) 研究所では、研究成果が神舟 5 号の開発に活かされており、終始和やかな雰囲気の中でのヒアリングとなった。


2. 地域イノベーションの進展

最初の訪問地である上海は中央直轄市の 1 つであり、経済開発区にも指定され、様々な対外開放政策が展開されている。特に開放政策の 1 つとして国家認定の開発区となっている張江高科技園区(ハイテクパーク) は、IT 及びバイオに特化し、研究機関・工場が多数進出。法律事務所から、広告代理店、政府の医薬管理局まで企業が必要とするあらゆる機能が集まり、世界中から企業の進出が続いている。

また、政府の方針としてインキュベート事業を積極的に支援しており、地方自治体が設置・運営するインキュベーターを通じて創業者に対するサポートサービスを提供している。全国のインキュベーターへの入居企業は 1 万社以上に上る。上海においても、市設立の上海市科技創業中心では、安価なインキュベート施設と施設内での法律、会計、社員研修等のサポート機能を提供し、地方税の優遇措置等と併せて起業家を支援している。中でも、中国の地方銀行は審査が厳しく、上海などではベンチャー企業が融資を受けることは非常に困難であることから、特許等をベースに連帯保証の役割を担うことがインキュベーターの重要な役割となっている。

上海は、上海交通大学や復旦大学などから優秀な人材が豊富に供給されており、高度な産業集積を持つことから、ベンチャー企業に対する資金供給システムが機能すれば、急速な経済発展にも後押しされて世界有数のクラスターとなる可能性を秘めている。


3. 中関村の R&D 拠点

北京市は、中国のシリコンバレーとして名高い中関村を市の科技園 (サイエンスパーク) 特区に認定し、企業、研究者に対する税制を始めとした様々な優遇政策を講じるとともに、市の行政機能の全てを園内で提供している。

国内トップレベルの大学 (清華大、北京大等)、中国科学院等の研究所、外資企業が集積し、他地域に本社が所在する企業でも、R&D 拠点は中関村に置く傾向がある。現在の企業数は約1万社。毎年2千社のペースで増加しており、企業の構成は IT・ソフトウェア分野が 8 割を占めている (収益ベース)。「中関村」のブランド効果もあり、同地域の成長にかげりは見えない。


4. 産学官連携と基礎研究空洞化の懸念

中国では産業が未発達であったため、大学が企業を直接設立し (校弁企業)、子会社的経営管理をするところが産学連携の特徴の 1 つとなってきた。技術シーズを産業化する方法として、最近では大学・公的研究機関ともに、企業と共同で新たに企業を創設して事業化することが多い。

政府から提供される研究資金の不足により、結果的に大学は資金確保のため成果の産業化に取り組まざるを得ない。産業化に結びつきにくい基礎研究には、政府からも企業からも資金が回らない。

中国科学院等の基礎研究を中心とする研究機関も同様の立場にあり、純粋な基礎研究から応用重視の研究へシフトを検討していると回答した研究所もあった。行き過ぎた急激な産業化への傾斜が基礎研究の空洞化を招くことが懸念されている。このため、中国の研究者は、基礎研究については政府が長い目で支援すべきであると考えている。最近では、清華大学など一部の有力大学は企業経営とは距離を置き、大学が出資して設立したサイエンスパークを介して、大学のシーズを生かしたインキュベーション機能を強化し、大学の本来の役割である教育や基礎研究と企業経営(校弁企業)を明確に分ける方向に舵を切りつつある。


5. 海外研究者の帰国支援

中国科学院の「百人計画」など、海外からの帰国者 (海亀族) に研究費を重点配分する等の様々な優遇制度により、海外の研究人材の帰国が増加している。一方、帰国者と国内人材のレベルには語学以外の能力に差はないとの意見も多く聞かれた。両者に待遇で差を設けないとする研究所も少なくない。このことは、国内でも優秀な人材が育っていることと、現実には必ずしも優秀な研究者が帰国していないことの両面を示していると考えられる。


6. 所感

中国の 1 人当たり GDP は 1,000 米ドルに満たない状況だが、上海では高層のオフィスビル、マンションが立ち並び、高価な自動車も多数走り、日本より豊かではないかと錯覚する場面もあった。マンションは値上がりを見込む人々が殺到し、図面の段階で完売することも多いそうである。途中、新郎新婦の乗ったリムジンの後を高級欧州車が何台も連なって進んでいく光景も目にした。

このように沿海部が経済発展を続ける一方、内陸部との地域間格差が重大な課題となっており、その是正を図るべく地域における科学技術振興の必要性が叫ばれている。このため、西部大開発を始めとして、沿海部に集中する知的資源の地方展開を図り、効果的な地域イノベーションシステム構築への取組みが進められている。その動向は日本においても目を離すことができないと考える。


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木

韓国のスピンオフ政策 韓国の筑波「テドク・クラスター」の変貌を探る

第3調査研究グループ客員研究官 前田 昇
第3調査研究グループ上席研究官 計良 秀美

第3調査研究グループ客員研究官 前田 昇
まえだ のぼる
大阪市立大学大学院教授。IBM 日米本社を経てソニー日米欧の本社・子会社で戦略企画部門本部長、VP 等を担当。1999 年高知工科大学大学院教授。著書に『スピンオフ革命』東洋経済 2002 年、『日本の産業クラスター戦略』共著 有斐閣 2003 年、「キャッチアップ・モデルからの開放」一橋ビジネスレビュー 2003 秋 等。

昨年 11 月、当グループで実施している「地域イノベーションの成功要因及び促進政策に関する調査研究」及び「基本計画レビュー調査」の一環として、韓国テジョン (大田) 市にあるテドク (大徳) バレーの研究機関、ベンチャー企業、地方政府、大学を訪問し、ヒアリング調査した。


韓国の筑波の大変貌

テドク・バレーは、30 年前に日本の筑波研究学園都市を手本に建設され、国立研究所や大学の知的集積の場であったが、1997年の IMF 危機以降の 1999 年に中央政府が行ったスピンオフ推進政策により研究機関からのスピンオフや大学からのベンチャー等が急増し、今や世界的に注目される IT/バイオのクラスターに成長し始めている。

2 〜 3 年で 800 近くのベンチャー企業が研究所からのスピンオフを中心に生まれ、又はソウル近郊から移転したりしてきた。 しかし最近ではITバブルの影響を受け、その半数が倒産したりソウル近郊に戻ったりして、テドク・バレーも一時の勢いは無くなりつつあると言われているが、そのスピンオフ政策の実態を調査すると同時に、クラスター育成の成功要素を探ってみた。

テドク・バレーは大学や政府研究機関の知的集積地で、5 キロ四方の科学技術団地に大学が4つ、政府系研究所が30、民間研究所が25、計16,000人の修士・博士が研究開発に携わっている。そのうち博士は 6,900 人という超知的集積バレーである。テドク・バレーの北部に 2007 年完成予定の大規模ベンチャー・研究機関集積団地を新たに市が造成中である。2005 年には現在 2 時間かかるソウルへの鉄道が 40 分の高速鉄道になるそうだ。(筑波研究学園都市は官民合わせて 270 の研究施設、17,000 人の研究者、うち博士は 5,500 人。2005 年秋に秋葉原へ 45 分の筑波エキスプレスが開通予定)


研究者による起業

筑波と違って、この数年間で数百のスピンオフ・ベンチャーが大学や国立研究所から創出し、すでに 5 社が IPO したという、驚くべきスピードで知的産業化が進んでいる。IT バブル以降の景気の停滞で少しトーンダウンしていたが、筑波とは大きく違うので驚いた。大企業をあてにしないで、ベンチャーを活性化して研究の集積を研究と産業の複合集積に変えるのだといっていた。韓国のシリコンバレーになるのだとの気迫があり、大学や研究所からの研究者による起業が爆発的に伸びた。 KAIST (韓国科学技術院、Korea Advanced Institute of Science and Technology) は科学技術省直轄の研究所兼大学 (学生 7,000人、うち博士課程 2500 人、修士課程 1700 人) から 1995 年以降で 300 社の技術系ベンチャーが生まれ、そのうち 130 社は大学内のインキュベーション施設に入居。

通信関係の ETRI (韓国電子通信研究所、Electronics and Telecommunications Research Institute) は研究者 2,000 人の国立研究所であるが、ここからこの4年で100社のスピンオフ・ベンチャー企業が起業している。

スピンオフ・ベンチャーの自社ビル
政府によるスピンオフ推進政策

最大の理由は 1997 年の IMF 経済危機で政府からの研究機関への資金が大幅に減少し、人減らしをせざるを得なかった。そこでキム・デジュン大統領は下記のようなスピンオフによる技術ベンチャー育成政策を1999年に発表した。

1) 研究団地内で研究開発以外を禁じていたが、生産販売等もできるようになった。


2) 研究者は、1年目は給与をもらいながら独立の準備に専念できた。その後独立して3年以内は研究所に戻れることを保障する。


3) 大学の先生は、兼務で会社の社長や取締役をしてもいい。何時間ビジネスにかかわってもよい (欧米や日本では普通 20% 以内)。大学内に株式会社を設置してもいい。


4) 借入金の利息を約3%補填する。


5) 家賃が安くなるように補填する。


6) 全研究所と大学にインキュベーションセンター設置


7) 海外展示会出展を補助する。


8) 利益が出た際の税金の割引をする。


9) ビジネス教育を援助する。 等々



創業エンジニアの活力

KAIST と ETRI からスピンオフしたファイバープロ社とハビタット・インフォメーション社の 2 人の社長が、ベンチャー企業のために3年前に土地を取得しサイエンスタウンを造成し、そこに 11 のハイテクベンチャーが 4 階建ての自社ビルを建て、残り 9 社はひとつのビルを共有している。中央に食堂とコンビニのビルも建てた。皆、数年後の IPO を目指している。苦難の末にサムソンやソニー等の大企業を顧客に取り込んでいる。

韓国は、ドイツ同様、研究所や大学スピンオフが技術系ベンチャーを引っ張っていきそうです。日本は企業スピンオフが中心になるでしょう。政府系研究所からの起業はまだ時間がかかりそうです。日本は科学技術振興で研究機関への資金を増やす方向なので韓国やドイツのようには当分はならないでしょう。

政府の委員もしている忠南大学の呉徳性教授とは、韓国の National Innovation System とクラスター、ベンチャーのかかわりについて討議し、我々と考えていることが似ているので驚いた。全体として韓国のテドク・バレーは IT バブル後に生き延びた力のあるベンチャー群が地域の大学、研究所と連携し、市の後押しでスピードを落としながらも堅実にクラスターを醸成しつつあると感じられた。


韓国の技術系ベンチャーの起業事例 (参考)

1) ハビタット・インフォメーション社

ByungSun Park. (朴丙善) 社長 現在 48 歳。

(1)朴社長のプロフィール

・ 1999 年 5 月、45 歳のとき電子通信研究所 (ETRI) から 1 人でスピンオフ。

・当時、ETRI ではスピンオフを奨励しており、スピンオフ後 1 年間は ETRI から給料がもらえ、また、3 年以内であれば ETRI へ戻ることができた。朴社長は 3 年以上経過したので、もう戻れない。この 4 年で ETRI から 100 人がスピンオフした。

・サムソンと共同研究を行い一部の生産技術やシステムの提供を受ける。

・新製品ができたのは 2 年後。発明者は朴社長、特許は会社が所有。

・マーケティングに苦労し、ソニーに自社製品を売り込むため 10 回ぐらい赴き商談成立。サムソンと関係があったのでソニーへも売り込めた。

・海外経験は ETRI 時代研修で 3 ヶ月間欧州へ。日本へは 30 回ぐらい行っている。

(2) ハビタット社の概要

・ハイテク光学機器の生産・販売を行っている。特許は10件。うち7件が海外特許。

・売上は今年 10 億円以上。

・販売先はサムソン、LG、日本のソニー、東芝、サンヨー、など。中国でも販売。

・従業員は 120 人。10 名は他の企業等から。うち 5 名にストックオプションを付与。20 人は新卒。90 人は生産スタッフ。

・テドク研究団地内に自社ビルを持ち、すばらしい研究、生産、品質管理設備を持つ。

・会社のモットーは "One stop shopping place of optical components for information technology"。

・中国のハルピンに小さい工場があるが、1 年後には本格的に進出するつもり。

(3) 経営状況

・1999 〜 2001 年は赤字、02 年から黒字。

・ベンチャーキャピタル 7 社から 2.5 億円の出資を受ける (持分 10%)。

・朴社長のシェアは 50% 以下。ベンチャーキャピタルは経営に参加していない。

・現在ランニングコストの手当てに悩んでいる。

(4) 政府等からの支援

・利子補給を受けたのが一番助かった(7% → 5%)。

(5) その他

・テジョンで創業した理由は、ソウルは土地、物価が高くここのほうが良いから。

・ファイバープロ社の社長と一緒に周辺の土地を買い、ベンチャー団地の造成に努力した。

2) テドクバイオ社

ChangKun Sung. (成昌根) PhD.社長 現在 49 歳

(1) 成社長のプロフィール

・米国ノースダコタ大で学位を取り、米国から帰国後、忠南大学で教鞭をとる。論文を書いたが社会に対して何のインパクトもないと思い、論文よりも3つぐらい新製品を作ろうと思い立つ。

・午前中は大学の仕事 (授業、リサーチ)、午後はビジネスをやっている。1999 年 5月に朝鮮日報のベスト 50 ベンチャーに 3,800 社から選ばれる。

・1999 年 12 月にサムソンよりベスト6ベンチャーに3,200社から選ばれる。このときサムソンより51%のシェアなら資金を出すといわれたが断る。

・教授や学生と相談し、2000年に株式会社を設立。これらの大学関係者やベンチャーキャピタルから資金を集めた。

(2) テドクバイオ社の概要

・バイオ技術を使って飼料添加剤、有機農業用農薬 (いちご、メロン用)、漂白石鹸、機能性米 (マッシュルームライス) などを開発。自社工場 (大学より車で 40 分程度) で生産し販売

・従業員 38 名中 20 名が研究員。13 名が生産部門。

・飼料についてはドイツのバイエル社のOEM販売を行っている。有機農業用の農薬は韓国最大の農薬会社を通じて独占的に販売。

・日本を含む海外への販路開拓が課題。

(3) 経営状況

・1999、00 年は赤字、01 年は黒字になったが 02 年は再び赤字。借金をしている。

・自分のシェアは当初 60% であったが今は 32%。Samyang 社が 20%、その他ベンチャーキャピタルがもっている。

・ラッキー・ゴールド・ケミカル社に事業に使わない特許を売ったこともある。

・IPO を目指してはいるが、現在の売上は 2.5 億円なので、これが倍にならないとできない。あと 2、3 年はかかる。

(4) 政府等からの支援

・1999 年から国立大学の先生がビジネスをやっても良いということになった。ほとんど制限がない。KAIST では教官の 30% までしかビジネスを認められない。時間の制限もなく大学の中で会社が持てる (テドクバイオ社も忠南国立大学内にある)。

・借入金の利子補給を受けるとともにソウルで安くオフィスを貸してもらっている。

・テジョン市の中小企業支援センターはコンセプトが中心でマーケティング的なことはやってくれない。実務がない。

(5) その他

忠南大学から 40 のベンチャーが出たが今は 20 社程度しかない。このうち本当に動いているのは5社程度である。

3) KAIST のハイテク・ベンチャー・センター入居の2企業

KAIST のハイテク・ベンチャー・センターは 1994 年に KAIST 内に設置したインキュベーションセンターのTBIを母体に1997年に設立。韓国の産業基盤を強化するため、国の技術能力を結集し、有望なハイテクベンチャー企業を育成、支援することを目的とする。施設規模は 12,426 ㎡、130 社の入居が可能。テドク・バレー最大のインキュベーションセンター。

(1) マックスメット (Max Met) 社 Hee-Tae Kim社長 (教授)

・流量計測技術を基本技術として、その応用製品を販売。

・金社長は 44 歳で KRISS からスピンオフして 2000 年にマックスメット社を設立。社員 7 名。

・従来、韓国の流量測定器は全てが外国製で高価。そこで低価格製品を販売し、2 年間で 50% のシェア獲得を目指す。

・この 3 年間で 1 億円の研究開発。うち 9 割が政府からの支援。全て前金。(競争率 10 〜 20 倍)

・キム政権時代にはベンチャー支援が充実していたが、ノ政権にかわってサポートがなくなった。

(2) メビシス (MEVISYS) 社 Jung Pill Choi 社長

・社長の Choi 氏はスオンにあるサムソンの先端技術研究所から KAIST の大学院にきて IT を学び 2001 年 34 歳で起業。

・3 次元画像の医療用 CT/MRI ソフトを開発。

・サムソン SDI と共同研究を行い、ハードはサムソン、ソフトはメビシス社が開発。

・売上高 2003 年約 2000 万円。社員 8 名

・起業に際しては政府からの支援はほとんど受けていない。


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木

日韓の科学技術系人材養成上の問題点比較

第2調査研究グループ JSPS フェロー 李 性奉

李 性奉
 

1. はじめに

国の科学技術競争力を強化する上でもっとも大切なのは、科学技術研究の核となる人材の持続的な養成と活用である。優秀な研究者人材の確保は、世界各国の科学技術政策においてきわめて高い位置付けがなされているが、OECD メンバー国の大半は、情報通信、生命工学等、枢要な研究開発分野での人材不足に直面している。したがって、この問題の解決は、いずれの国においても科学技術政策上の急務となっている。特に、急速に高齢化社会へと突入している日本と韓国においては、科学技術分野に進出する優秀な頭脳の養成がきわめて重大な懸案事項として浮上しつつある



2. 日韓両国の統計データによる比較

日本の科学技術政策研究所と韓国科学財団は、それぞれ科学技術に関する国民の理解度を 2002 年に調査している。その結果から、特に重要な項目を抜き出すと、次のような比較が可能である。

・両国とも、科学技術全般に関する関心度はきわめて低いレベルにあるが、環境汚染に関する関心度だけは、きわめて高いレベルにあることがわかる。これは、マスコミが、科学技術のプラス面に関する情報提供よりも、むしろマイナス面に関する情報提供に力を入れる傾向があることに起因していると思われる。

・科学技術に関して肯定的な意見を抱いている国民の割合については、日本の方が高いものの、無関心な国民の割合も決して少なくない。また、日本では、学校教育に対する関心度が、アメリカや韓国と比べてきわめて低い点も顕著な特徴である。

少数の統計データのみを用いて日韓両国の科学技術をめぐる現状を比較分析するのは難しいことではあるが、上記の調査結果を見る限り、それぞれ対象を異にする政策が必要であると言えるであろう。すなわち、

・日本の場合は、どちらかといえば、教育改革の持続的な推進、すなわち科学にあまり関心のない国民に対する科学技術理解増進対策が必要であると思われる。

・韓国の場合は、科学技術に対して否定的な見解を抱いている国民に対する積極的な説得策がもっとも肝要である。



3. 日韓両国における青少年の理工系進学率低下傾向に関する間題

日本の場合、青少年の理工系進学率がわりあい安定しているという事実を勘案すると、青少年の理工系進学回避がそれほど大きな問題に発展する可能牲は低いと思われる (ただしこの分析では、優秀な学生が理工系に進学する割合に関する統計資料は検討してない)。

韓国の場合も、理工系に進学する学生の全体規模にそれほど大きな変動は見られないが、成績上位10%の学生層の医科大学への進学率が大幅に増加している。そのため、優秀な人材を確保するためには、青少年を対象とした積極的な振興施策の必要性が求められる。こうした現状の違いが、次のような、両国の科学技術政策の違いを生み出している。

・日本は、公衆の科学技術理解に関する施策の重要性を認識しており、科学教育促進のためのインフラ整備(博物館の建設、スーパーサイエンスハイスクールの設置等)に多額の投資を行っている。

・韓国は、優秀な学生の理工系進学を促進することがきわめて重要な政策課題となっており、理工系に進学する学生を対象とした奨学金の規模を大幅に拡大すると同時に、科学系の英才教育を直接的、戦略的に推進している。



4. まとめ

科学技術政策研究所に滞在中、日本の大学教育に関する調査を実施する余裕はなかったものの、科学教育を強化する上で大学が果たすべき役割の重大性については認識できた。むろん、大学ほど改革の難しい機関はないわけだが、それなくして、科学技術系人材の養成をめぐる問題点の解決はありえないと考えられる。なぜなら、青少年を対象とする科学技術政策は、政府の意思で改革できる。企業も、急変する状況に対応するために、人材の新規採用に関する要件を適宜変更していく。ところが、大学の教育課程についてはそうはいかない。下図を見ていただきたい。図1は2000年以前の状況であり、図2は2001年以後の状況を簡略に示したものである。

李 性奉

A は、高校までの青少年を対象とした科学教育によって育成できる学力レベル。C は、大学が提供する科学教育で得られる学力レベル。E は、企業が求めている大学卒業生の学力レベルである。つまり B は、青少年に提供できる科学教育 (以下、青少年科学教育) と大学が提供できる科学教育 (以下、大学科学教育) 間のギャップであり、D は、大学科学教育と企業が要求するレベル間のギャップを示している。

青少年の科学技術への関心度を高めるためには、なるべく分かりやすくてやさしい科学教育が望まれる。しかしその結果、青少年科学教育と大学科学教育間のギャップBは、B1へと拡大されてしまいかねない。その一方で、企業の生存戦略はより優秀な人材確保を要求するため、必然、企業の要求レベルはますます高くなり、大学科学教育と企業の要求レベル間のギャップ D は、D1 へと拡大する。以上の結果、大学教育が満たすベき領域は、当初の B+C+D という幅から、B1+C1+D1 という幅への拡大が強いられる。この要求を満たすためには、大学教育の持続的改革が必要とされる。

こうした観点に照らすと、2004 年度に予定されている日本の大学独立法人化プログラムはきわめて重大な意味を持っていると言わざるを得ない。しかし、大学改革には多額の財源が必要であり、そのすべてを国の支援に期待するわけにはいかない。そこでこの膠着状態を打開するためには、民間企業がさまざまなかたちで大学に投資できるような制度改革も平行して進める必要があると考えられる。

(本稿は、著者の日本語原文を、第2調査研究グループ渡辺政隆が編集したものである。)

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時計の図案Ⅲ. 最近の動き

○ 主要来訪者一覧
・12/ 4Prof. Jen-Shih Chang:カナダ マクマスター大学教授
○ 講演会・セミナー
・12/ 4Prof. Jen-Shih Chang:カナダ マクマスター大学教授
「北米における産官学共同研究の実態」
○ 所内研究成果発表会
・12/ 9「科学技術理解増進と科学コミュニケーションの活性化について」
渡辺 政隆:第2調査研究グループ上席研究官
「科学館等における科学技術理解増進活動への参加が参加者に及ぼす影響について」
中村 隆史:第2調査研究グループ上席研究官
「ライフサイエンス・医療ユニットの発足後 3 年間の成果より」
茂木 伸一:科学技術動向研究センター主任研究官(ユニットリーダー)
○ 新着研究報告・資料
「科学技術国際協力の現状」(調査資料 - 101)
国際級研究人材の養成・確保のための環境・方策(アンケート調査の結果より) - 「個人を活かす」ためのシステムへの移行 - (調査資料 - 102)
Determinants of Overseas Laboratory Ownership by Japanese Multinationals (Discussion Paper No.31)
Determinants of R&D Boundaries of the Firm : An Empirical Study of Commissioned R&D, Joint R&D and Licensing with Japanese Company Data (Discussion Paper No.32)
「科学技術動向 2003 年 12 月号」(12 月 26 日発行)
  特集 1 企業の科学技術人材における女性比率の拡大 - EU の政策と日本の課題 -
  ライフサイエンス・医療ユニット 伊藤 裕子
  特集 2 インターネットルータの技術動向 - 次世代通信インフラの整備に向けて -
  情報・通信ユニット 藤井 章博
  特集 3 新計測技術: マルチプローブシステム - ナノ・生体材料の機能の直接計測を目指して -
  客員研究官 長谷川 剛
 材料・製造技術ユニット 多田 国之
○ 科学技術政策研究所の移転のお知らせ

科学技術政策研究所は平成 16 年 1 月 5 日より千代田区丸の内の文部科学省ビル (旧三菱重工ビル) 5 階へ移転をしましたのでお知らせします。

移転の詳細は以下のとおりです。

・新所在地 東京都千代田区丸の内 2-5-1 文部科学省ビル 5 階

・郵便番号 100-0005

・電話/FAX 番号 代表及び各部署のダイヤルイン電話番号並びに代表FAX番号は変更ございません。

電話:03-3581-2391 (代表) FAX:03-3503-3996

最寄駅、周辺地図等は移転のお知らせをご覧下さい。


ふくろう

文部科学省科学技術政策研究所広報委員会 (政策研ニュース担当: 情報分析課news@nistep.go.jp)


蔦?

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