政策研ニュース No.179


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  1. Ⅰ.海外事情
    • パリ・2003 年夏
      OECD 科学技術産業局・経済分析統計課 柿崎 文彦
  2. Ⅱ.トピックス
  3. Ⅲ. 最近の動き

Ⅰ.海外事情

パリ・2003 年夏

OECD 科学技術産業局・経済分析統計課 柿崎 文彦

みなさま、こんにちは。今回、再び政策研ニュースに寄稿することになりました。こちらに赴任しましたのが、昨年の 7 月ですので、はや 1 年が過ぎています。

この 1 年、様々なことを体験しましたが、とりわけ、OECD 事務局の引越しは最も大きな出来事のひとつでした。現在、事務総長と総務部門以外のスタッフは、パリの西側 (凱旋門から約 4 〜 5 km) の、La Défense という巨大オフィス街の一角のビル Tour Europe で執務を行っています。長年住み慣れたパリ 16 区の La Muette の旧オフィスビルは改装され、およそ 9 年後には事務局全体が戻る予定になっています。

La Défense 地区には、La Grande Arche (新凱旋門) がある程度で、決して観光スポットではありません。むしろ、フランスの巨大資本の高層オフィスビルが立ち並び、それらが織り成す近代的な雰囲気は、パリ市内の優雅さとは全く趣を異にしています。引越し直後は、通いなれたアール・ヌーボーの優美な街並みを懐かしみながら、窓外の無機質な風景を眺めていることもありました。しかし、住めば都。ビジネス街であるがゆえに、様々なサービスが機能的に提供されているので、時折、ここはパリなのだろうか、それとも東京なのだろうかと錯覚することさえあります。

そして、今年の夏。昨年の記録的な冷夏とは正反対に、記録的な猛暑でした。8 月上旬の約 2 週間、連日 40 度近い気温でした。エアコンや扇風機なしの生活ですので、これにはかなりこたえました。さらに、ごく一部のバスや列車を除き、公共交通機関にもエアコンなどは備え付けられていないのです。単純明快な一言。暑かったです。

さて、前回の寄稿では、赴任直後ということもあり、担当しているプロジェクトの立ち上げ時期でしたため、あまり仕事の内容をお伝えすることができませんでした。

1 年が過ぎ、この間プロジェクトの原案作成、専門家会合メンバーとの連絡調整、そして会議の運営を行ってきました。こうしたことのご紹介を通じて、海外勤務の所感をお伝えしようと思います。

現在、私は、「科学分野分類の改定 (Revision of Field of Science; FOS)」というプロジェクトを担当しています。このプロジェクトは、科学技術指標プログラムの中に位置づけられ、研究開発活動の定量的な把握のためのガイドラインとなっている「フラスカティ・マニュアル」に関するプロジェクトと密接な関係にあります。このフラスカティ・マニュアルの最新の改訂は昨年行われたところです。なお、この改定作業にあたっては、OECD 加盟国の中でも、日本政府の様々な支援が最大なものでありましたので、最新版の冒頭には日本に対する謝辞が明記されています。

このマニュアル自体は、通常の OECD レポートとは異なり読み物ではありません。むしろ、研究開発に関連する調査などを実施するに当たり、調査手法の検討、調査対象の定義、などを綿密に検討する際に手放すことのできないマニュアルなのです。このニュース・レターを購読されている方は、これに関連するお仕事に携わっていらっしゃる方も多いと思いますので、このマニュアルを何らかの機会に一度お手にとっていただければありがたく思います。

話が少し脇道に入ってしまいました。FOS をわかりやすく言いますと、理学、工学、農学、保健、社会学、人文学などの学問分野の分類のことを示しています。科学技術の進歩が急速でなければ、こうした分類でも耐えられるのでしょうが、実際には日進月歩で膨大な知識が蓄積されています。例えば、バイオテクノロジー。研究開発費や研究人材などを、どの分野で取りまとめるのが最も適切か?理学か、工学か、農学か、保健か?かなり頭の痛い問題です。もう少し例示をすると、バイオ・インフォマティックス、ナノテクノロジーなど、FOS の検討が必要な領域は、科学技術の最先端分野に多く見られ、旧来の学問分野の融合領域あるいは境界領域であることが極めて多いのです。FOS の改定は、とても地道な仕事ですが、科学技術の先進国のほとんどが加盟している OECD であるがゆえに実施可能なプロジェクトなのです。

さて、FOS に関するプロジェクトは、先のフラスカティ・マニュアルの改訂の際にも当然のことながら入っていました。しかし、残念ながら FOS については、加盟国の間で改定に向けた合意ができたのにもかかわらず、新しい FOS を採用するには至らなかったのです。一つには、学問分野の分類ですので、各国固有の文化を反映しています。また、社会や産業の構造なども直接的、間接的に FOS に影響を与えています。総論は賛成、しかし各論、FOS の場合は科学分類の細部に位置づけられる研究領域の分類に相当しますが、その各論部分での合意形成が難しかったのです。

FOS プロジェクトを立ち上げるに当たり、こうした過去の経験は非常に重要です。どのようにすれば各国が納得できるような枠組みを提示できるか。このため、各国の FOS の現状把握などを目的に、加盟国の専門家の方々に調査票をお送りすることにしました。この調査票の設計は最も重要な段階の一つです。経済分析統計課の同僚とは頻繁に意見交換を重ね、最終的には質問の文言一つ一つまでも丹念に検討しました。そして、科学技術指標専門家会合 (NESTI) の議長、NESTI の運営委員との調整を経て、ようやく調査票を送ることができたのです。

前回の寄稿でも書いた記憶がありますが、こちらの打ち合わせは、長くとも 1 時間。効率性が重視されています。翻って、1 時間で意図した成果を出すためには、十分な準備が必要です。1 時間ですから、説明資料は多くても 3 ページが限度です。自分の意図することをわかりやすく取りまとめ、なおかつ体裁を整えること。これには十分のトレーニング (多くの場合 OJT) が必要です。また、口頭発表の習熟は必須です。

次の段階は、各国からの回答の集計と説明ドキュメントの作成です。特にドキュメントは OECD の公式文書として OLIS というデータベースにファイルされますので、最終的には科学技術産業局内部の承認を得ることが必要です。そして、6 月に開催されたタスク・フォース会合とこれに続く NESTI での報告を経て、各国からの承認を頂き、FOS プロジェクトは次の段階へと入っていきました。

プロジェクトを実施するときには、コミュニケーションが重要です。日本でもこれはまったく同じことが言えますが、ここでは様々な国の多様な考え方を持った方が多数いますので、自らが主張するところ、そして相手の良い意見を受け入れるところ、そうしたコミュニケーションの基本的なルールに基づくプロセスを経ることで合意形成が可能になります。相手の意見のネガティブ・チェックに始まるようなコミュニケーションのとり方は、お互いに気分を害するだけでなく、さらには、それが時間の浪費となって跳ね返ってくる、といっても過言ではないでしょう。

日常生活は、それ自体が場合によっては見ず知らずの人たちとのコミュニケーションの連続で成り立っています。例えば、パリの街中には自動販売機もコンビニもないので、何かを買うときにはお店の人とのコミュニケーションが不可欠なのです。挨拶に始まり、買い物をしてお礼を言って店を出る。簡単なことなのですが、日本では忘れられつつあるものが、こちらでは健在であるような気がして止まないこの頃です。


かきざき ふみひこ: 1988 年 科学技術政策研究所入所。第2研究グループ、第3調査研究グループ主任研究官。専門は地域イノベーション・システム。1989 〜 1990 年米国国立科学財団 (NSF) 客員研究官。2002 年 7 月より OECD/STI/EAS Principal Administrator。

※ La Defense の「De」の"e"の上にアキュート (点) が入る
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Ⅱ トピックス

科学報道と科学技術研究理解増進

第2調査研究グループ上席研究官 渡辺 政隆

2001 年に当研究所が行った「科学技術に関する意識調査」あるいは総理府が行った「将来の科学技術に関する世論調査」 (1998) 等を見ると、人々が科学技術に関する情報を入手する先は、テレビのニュースがおよそ90%、新聞記事が60〜70%で、他の媒体と比べると群を抜いて高い比率を占めている。たしかに、テレビや新聞という媒体には速報性という利点がある。しかし、テレビ・新聞をはじめとするマスメディアは、ニュースの価値を社会的な影響力で測るという傾向が強い。そのせいで、大きく扱われる科学技術関連のニュースは大事故や大災害の報道であり、必然的に科学技術の負の側面を強調した報道内容となりがちである。

そのような事情を踏まえつつ、公衆に対して科学技術情報を効率よく伝達し、全体的な科学リテラシーを高めるにはどうすればよいのだろうか。むろんそれがわれわれ第2調査研究グループの調査研究テーマであり、その答はもっか検討中の段階ではあるが、ここ2カ月ほどの間にいくつかの講義、会合などを体験する中で得た所感を報告したい。

1. 鹿児島大学理学部での「科学ジャーナリズム」講義

鹿児島大学理学部物理科学科 (宇宙コース) の学部3年生向けの授業「科学ジャーナリズム」の非常勤講師として、7月14日に90分+αの授業を行った。この科目は同コースの面高俊宏教授の発案尽力によって設けられたもので、同大学の学生にも科学ジャーナリストを目指す気概を持たせたいとの期待が込められている。そしてその背景には、面高教授が日頃から科学ジャーナリズムに対して抱いている不満もある。つまり、科学ニュースは、たとえば超新星などの新しい発見があった場合の単発的な報道か、上述したような事件報道が主体であり、継続的な科学研究、それも特に基礎研究の大切さを伝えるような報道は皆無に等しい現状を憂えてのことなのである。

講義内容は、主に地元鹿児島在住のジャーナリストや放送関係者、アーティストなどによる講義が中心だという。私が講師を依頼されたきっかけは、今年の2月に、科学コミュニケーションに関する調査研究の一環として面高教授へのインタビューを行ったことによる。面高教授は、「科学ジャーナリズム」の講義を実施しているほかにも、学生を積極的に動員して天文学の普及を目指す科学理解増進活動を精力的に展開している。

今回私自身が行った講義の内容は、マスメディアによる科学コミュニケーションの一環としてのサイエンスライティングに関するものだった。すなわち、講義の前半ではサイエンスライティングの歴史と発展を紹介し、後半では大隕石衝突による恐竜絶滅をめぐる研究とマスメディアの報道合戦が演じた一大騒動という (「宇宙コース」の授業ということを念頭に置いた) 事例研究の紹介である。講義を終えた印象は、面高教授の熱意とは好対照をなす、学生のおとなしさだった。

2. 「第 3 回日米科学技術増進専門家会合」参加

本会合は、1999年の小渕−クリントン会談、2000年の中曽根科学技術庁長官−コールウェル米国科学財団(NSF)長官会談での合意に基づく会合で、今回はNSF側の強い希望で2年ぶりに開催された (日本での開催は3年ぶり2回目) 。


今回の会合 (7 月 11、18 日の 2 日間、日本科学未来館) における大きなテーマは、従来の PUS (Public Understanding of Science 科学技術理解増進) にとどまらず、PUR (Public Understanding of Research 科学研究理解増進) を積極的に進めるにはどうすればよいか、日米で連携協力できることは何かを論議し合うことだった。NSF の PUR 上級顧問ハイマン・フィールド氏によれば、PUR とは耳新しい概念だが、NSF では 3 〜 4 年前から PUS との区分が行われているという。 PUS との大きな相違点は、PUS がすでに確立された (過去の) 科学技術知識に関する理解増進を図るのに対し、PURは現在進行形の研究開発に関する理解増進を図ることにある。

我が国でも、科学技術振興事業団 (JST) が未来館を中心に PUR を推進してはいる。未来館内に研究室を設置したり、第一線の研究者 (主に JST の大型研究プロジェクト参加者) の横顔や研究成果の展示コーナーを設けるなどの活動である。しかし JST が展開している PUR と NSF がイメージする PUR とのいちばん大きな相違点は、最新の研究に関連した倫理的、社会的、政策的な問題をめぐる議論に公衆を積極的に参加させるという視点のあるなしであろう。ただし NSF においても、そうした活動に関しては歴史も浅いため、方法論に関して未だ試行錯誤の段階であるという。2日間に渡って開かれた会合では、①人事交流、②新しい科学 (研究) による PUR、③若い人たちへのアウトリーチ (ただし成人も忘れずに) 、④グローバルな問題設定、⑤ PUR 研究の活発化という 5 点に力を入れるべきであるとの合意がなされた。

3. 生化学若手の会夏の学校ワークショップ「実践!科学ライティング入門〜科学を伝えるということ」講師、「第 2 回 生命科学と社会のコミュニケーション研究会」での講演

前者のワークショップは、NPO サイエンスコミュニケーションの企画により、8月8日に国立オリンピック記念青少年総合センターで開かれた。出席者は主に生化学を専攻する学部生と大学院生であり、サイエンスライターあるいは科学ジャーナリスト志望の学生のみならず、自分の言葉で科学を伝えることに関心のある学生数十人が参加した。後者の研究会は、上記の定義でいう PUR の実践を模索している京都大学人文科学研究所助教授の加藤和人氏が主催する研究会で、8 月 30 日に京大会館において開催された。

どちらについても詳しい内容を紹介する紙幅はないが、科学コミュニケーションに熱い関心を寄せる若者が多数存在することを実感し、意を強くした。鹿児島大学での講師体験とあわせて考えると、学生に科学コミュニケーションの意識を芽生えさせるためには積極的な啓発と受け皿の設定が必要であると感じられた。具体的には、たとえば、科学リテラシーを養うための (文科系学生も含めた) 教養教育の充実と、大学院初年度段階での科学コミュニケーション教育の実施が強く望まれる。そのためには、少なくとも自然科学系の大学院を備えるすべての大学に科学コミュニケーション講座を設置するなどの施策を検討する必要があると思われる。

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研究開発統計調査の見直し - 米国の現状と日本への示唆

第1研究グループ主任研究官 伊地知 寛博

新たな研究領域の出現、サービス業における研究開発活動の拡大、セクター間の連携の増大など、近年でも科学技術活動の様態は常に変化をしている。また、研究開発活動のみならずイノベーション活動や知的財産活動まで含めた科学技術システム全般にわたる把握の必要性も増大している。そのため、国全体として科学技術活動の全体像を適切に把握するために、研究開発統計調査など、活動を観測・測定する方法も、政策形成や戦略策定にとって重要な基盤をなす情報としてより正確かつ有用に提供することができるように、常に見直しが行われて改善や新設が図られる必要がある。研究開発活動の測定については、国際標準的なマニュアルとして OECD において策定されている"フラスカティ・マニュアル"があり、これも改訂されてきているが、各国においても、国際比較可能性の向上を図りつつ各々の状況に応じて、自国で実施する統計調査の見直しが行われている。我が国でも、研究開発費や研究者数等を観測し科学技術指標の中核をなしている「科学技術研究調査」 (総務省統計局実施、指定統計調査) が 2001 年度にかけて大幅に見直され *1、*2、2002 年調査より新たな調査票と方法論で実施されている。

今般、米国でも、NSF で実施されている一連の研究開発統計調査について、NSF はその見直しのために The National Academies (全米アカデミー) にプロジェクトを委託している。このプロジェクトは、この先 10 年を見通して調査のあり方やニーズを把握するため、統計、調査方法論、統計的データ分析、技術変化論、研究開発・イノベーション経済学、研究開発組織・運営論をそれぞれ専門とする第一線の北米の研究者・専門家らによって構成されたパネルによって検討が進められている。その一環として、7 月 24 日 〜 25 日にワシントンD.C. においてワークショップが開催され、筆者が、日本における研究開発・イノベーション関連の統計調査の経験や現状を紹介するために参加した (発表は、筆者と後藤晃東京大学教授 (政策研客員研究官) との共同による) 。本稿ではこのワークショップで示された米国における調査の現状や関心事を示し、日本における調査の改善や調査・分析体制の補強に資するものとしたい。

産業界における研究開発活動の状況については、NSF が Census Bureau (商務省悉皆調査庁) に調査を委託して実施してきている。調査は毎年実施されており、しかも、2002 年からは 5 年毎にすべての項目についての報告義務を課している *3。この調査で、各企業は、国内の全連結企業を対象に入れて回答する。質問項目の中で日本と対比して特徴的なのは、負担源について連邦政府の主要機関 (DoD、NASA、DOE、その他) 別に、また、使用研究開発費について連邦政府資金とそれ以外を含む全資金について各州別にそれぞれ、報告を要請していることであろう。州別データの報告に義務が課された 2002 年調査の結果に期待が寄せられているようであった。

イノベーションに関する統計的調査は、すでに EU 各国を含むほとんどの OECD 加盟国において実施されてきている。我が国でも、全国的・包括的なものとしては初めて、本年、科学技術政策研究所が、「全国イノベーション調査」 (承認統計調査) として、調査対象企業や関係機関のご協力を得て調査を実施し、現在、結果公表に向けた作業を進めている。しかしながら、政策形成や戦略策定に有用な情報を提供し他の指標等では代替しがたいと米国でも専門家には認識されていながら、主要国で唯一米国のみが、パイロット的調査を除き実施していないということもあり、ワークショップでの議論の一つとされた。米国では、いわゆるポリシー・コミュニティの側でまだあまり重要性が認識されていないことが未着手のおもな理由のようであった。

研究開発と国民経済計算 (SNA) 体系との関係について、すでに、OECD の場において関心を有する加盟国等の自発的参画を得て検討が進められている。これは、SNA の次の改訂に際して、研究開発費 (あるいはその一部) を資本として組み入れようとするためのものである。米国は、まだ着手されて間もないものの自発的にこの取り組みに加わっており、NSF と BEA (商務省経済分析庁) が連携を取りつつ進められるようである。

統計調査のみならず、業務データも集積・分析することを通じて政策形成のための重要な情報を提供する。RaDiUS *4 はそのようなシステムの一つである。連邦資金負担研究開発に関する包括的なデータベースであり、STPI *5 が維持・管理・運用している。政策評価・研究開発評価の導入で、我が国においても関心が生じたものの、この RaDiUS の構成やこのシステムを実現させている基本的要素についてはあまり情報が共有されてきていないのではないかと思われる。これは、連邦政府が全体として統一的に割り振っているプロジェクトや案件ごとの番号を拠り所とし、この情報を含む委託・助成や調達などに関わる歳出会計の 4 つのデータベースを基本とし、さらに各省庁が独自に構築しているデータベースにある情報を定期的に導入して編纂しデータの維持・更新が行われている。これをもとに STPI は、州別の研究開発状況の分析を行うなどしている。いわゆる電子政府への取り組みが我が国でも進められているが、全政府的な業務情報の電子的取り扱いがこのような分析を可能としていることに着目すべきであろう。

このほか、方法論上では、欠損値代入や推定のあり方などデータ処理について、また、調査内容については、基礎研究・応用研究・開発という研究のタイプについてなども議論された。そのほか、連携を取りつつ進められている関連のプロジェクトにおいて 4 月に開催されたワークショップでは、発表者を広範に招聘してデータへのニーズについても議論されている。

米国の統計の見直しにおいて、このように関連する研究者・専門家・データ作成者が一同に会して改善を目指していることに見習うべき点が多いように思われる。一方で、研究開発統計や指標については、米国の国内事情にかなりの影響を受けていることにも注意を払うべきであろう。たとえば、議会や OMB (大統領府管理・予算庁) からの要請に基づいて、州別の詳細なデータの把握やさらなる情報公開の推進など調査内容や調査方法論やデータ処理の変更が多く認められる。また、指標で見ると明らかに 4 年ごとの変化が見られるが、それは政権交替に伴って省庁の対応もそれに伴って変化し、研究開発内容は変化していないにもかかわらず、統計調査への回答や予算関係文書上での分類のしかたなどを変えているということもあるという。

科学技術システム全体の連続的変動を捉えるためには調査における継続性の確保が必要であるが、その一方で、その不可逆的変化を捉えるには、見直しや改善を不断に行うことが重要であり、先見的・長期的取り組みが不可欠である。我が国の科学技術関連のデータのユーザにおかれても研究開発統計調査等への関心がさらに広まり、調査・分析活動に対して必要な支援が得られることを期待したい。


*1この見直しは統計審議会において「諮問第 278 号の答申『科学技術研究調査の改正について』」 (2001 年 12 月 14 日) として取り纏められた。
なお、「科学技術研究調査」はその前身の調査が 1953 年に開始され今年で 50 周年を迎えているが、統計審議会レベルでの見直しはこの半世紀で初めてのことであった。
*2科学技術政策研究所は、現状に即した研究開発統計調査の在り方に関する提案を、調査資料 No. 79「『科学技術研究調査』の見直しについて - 科学技術研究調査研究会に対する科学技術政策研究所の対応 -」 (2001 年 6 月) に取り纏めている。また、その参考資料として、我が国の研究者や専門家、関係各機関からの代表を交えて検討された統計局統計調査部内部での検討資料についても所収している。
*3我が国では、報告義務を課すこともできる「指定統計」に概ね相当する。
*4RaDiUS は,Research and Development in the United States (米国における研究開発) を表す。
*5 STPI: Science and Technology Policy Institute (科学技術政策研究所) は、NSF が資金提供し、RAND 社が管理している FFRDC (連邦資金負担研究開発センター) の一つであり、OSTP や他の行政機関等の支援等を任務としている。
いじち ともひろ: 科学技術政策研究所科学技術特別研究員、同研究所研究員等を経て現職。
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Ⅳ. 最近の動き

○ 主要来訪者一覧
・8/13 Mr. QIU Hua-sheng: 中国科学院国際合作局アジア・アフリカ・ラテンアメリカ課長他
・8/26 Mr. Stephane ROY: フランス大使館科学技術部バイオテクノロジー・生命科学担当官
Mr. Gregoire FAGES: フランス大使館科学技術部バイオテクノロジー・生命科学担当官補佐
・8/29Ms. SHEN Hua: 中国科学院科学技術政策局局長補佐・副教授 (表紙写真)
○ 講演会・セミナー
・8/5「日本の学術論文誌の危機と『インパクトファクター』―― JJAP からみる」
鈴木 徹: (社) 応用物理学会理事
・8/20「ウィルス感染症〜ポリオから SARS まで〜」
野本 明男: 東京大学大学院医学系研究科教授
・8/29「中国科学院知識革新プログラムによる国家革新体系の構築と人材育成について」
Ms. SHEN Hua: 中国科学院科学技術政策局長補佐・副教授 (表紙写真)
○ 新着研究報告・資料
「科学技術動向 2003 年 8 月号」(8 月 28 日発行)
  特集 1 ゲノム構造解析技術の研究開発の必要性
  ライフサイエンス・医療ユニット 島田 純子、茂木 伸一
  特集 2 外科手術の支援ロボットの導入と開発の動向
  材料・製造技術ユニット 奥和田 久美
文部科学省科学技術政策研究所広報委員会 (政策研ニュース担当: 情報分析課news@nistep.go.jp)

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