昨今、研究開発ツールが研究内容を規定すると言っても過言でないほど研究開発用機器の重要性が増しており、世界最先端の研究成果を生み出すのは世界最高の計測・分析機器であるといえる。しかしながら、我が国は、最先端の機器・分析技術の多くを海外に依存しており、国の研究投資の多くが海外に流れていると言われている。また、一方では、大学等の研究機関における基礎的な研究開発の過程において、斬新な計測・分析手法が生み出されているにも拘わらず、これらの技術が適切に製品化、実用化に結びついていないことも指摘されている。
そこで、研究者を対象とし、先端的計測・分析機器に関する質問票調査を行った。
なお、本調査は、研究振興局研究環境産業連携課の要請により実施したものであり、具体的な施策の検討のためのパイロット調査と位置づけられるものである。
2003 年 4 月 22 日〜5 月 8 日に、科学技術動向研究センターの専門家ネットワークのアンケート機能を用いて実施し、217 名から回答を得た。
なお、先端的計測・分析機器とは、質量分析装置、X 線回折装置、核磁気共鳴装置、液体クロマトグラフィー、紫外・可視分光光度計、DNA 増幅装置、DNA シーケンサー などを指す。
○研究に使用する機器のうち、7 〜 8 割以上について日本製が存在する (日本のメーカーが生産・販売している) という回答が半数を超える。分野により差がありナノ・材料では約 7 割に対し、ライフサイエンスは5 割弱にとどまる。
○この 10 年間では、日本製機器の存在率は増加または横ばいと見る回答者が多い。
○実際に日本製を 7 〜 8 割以上使用している者は 4 割程度である。日本製があれば、実際に使用している率も高いという傾向がある。
○先端的計測・分析機器に関する情報 (利用可能な施設や、購入可能なものの性能等) の入手のしやすさについては、日米・日欧で顕著な差はない。
○日本では機器の価格は高いと回答した者は、5 割以上である。
○高い理由としては、代理店に関すること、競争原理が働いていないことをあげる者が多かった。
○外国製は性能がすぐれているから、世界標準になっているからという回答が多かった。
○市場規模は米国より小さい。
○技術移転について問題が多々あると指摘。
○政府・民間ともに投資額は米国より小さい。
○日本企業の開発能力については相当の能力があると評価。
ライフサイエンス分野とナノテクノロジー・材料分野について概要をとりまとめた。
○独自性ある機器開発が重要である。
○研究の現場において、機器開発が重要であるとの認識を高める必要がある。
○機器の実用化には、産学連携が不可欠である。
大学等の研究現場においては、機器開発の評価が低くこのような開発研究に携わることのインセンティブがないという現状がある。まずは、この問題意識を広げていくとともに、適切な評価が行われる環境をつくっていくことが第一歩である。
日本の企業は普及品・汎用品をつくっており、外国企業が最高級品・最先端品をつくっているというコメントが多く寄せられた。対象を最先端の機器に絞れば、もっと日本製の存在率や利用率は低くなる可能性がある。また、分野依存性がかなりあり、同じ研究分野の中でも傾向が異なることから、分野を細分化した分析も必要と考えられる。
単なる機器メーカーの支援というのではなく、画期的なテーマやアイデアを持つ技術者を支援していく必要がある。
日本企業は、ユーザーのニーズを捉え、的確な開発を行うような産学連携を実現していく必要がある。研究者は日本企業のポテンシャルは高いと評価している。
さらに、公的研究機関の役割として、これらが日本製を積極的に導入することによって、意見が企業にフィードバックされていけば、機器が改良され国際的にもよく使われるようになる、という提案も注目される。
機器に関する内外の価格差について、優れた日本製品が存在する領域では、外国製品の内外価格差は小さくなっているという指摘があった。より多くの領域で優れた日本製機器が提供されるようになれば、日本の研究コスト自体を低減させ、研究費のより有効な活用が可能になると考えられる。
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6 月 8 日から15 日にかけ、梅雨入り直前の日本から爽やかな気候の欧州を訪れ、英国・ EU 他の科学技術政策動向の調査分析を行うとともに、 EU 主催国際会議「欧州研究圏のガバナンス: 市民社会の役割」に出席した。本件調査の主な結果は、当所を中核として実施中の科学技術振興調整費「基本計画レビュー」調査報告の中で、今年度末までに取りまとめ予定である。今回は、出張を終えての「所感」を中心に記してみることとする。
英国では、労働党の掲げた 97 年以降の科学技術予算の「10 年で倍増」を目指した増加が、財政悪化に伴いそろそろ頭打ちの傾向にある。こうした状況の下、今英国が一番重視しているのが研究費の「適正規模」がどの程度かということである。一定の伸びが確保されている間に、適正な助成規模の共通認識を確立し、伸びが望めなくなった際の「言い訳」を準備しようとの狙いもあると思われる。そのために「持続可能な大学での研究のあり方」等色々な制度改革を試みようとしており、今後こうした研究助成システム改革の動きに注目していく必要があろう。 (※この項在英大使館・木村書記官の見解)
他方、長期的観点からの研究開発投資の重要性については、議会の与野党だけでなく、財政当局も十分認識している。その背景には、財政当局と科学技術行政担当省庁 (科学技術庁、教育技能省) の間の相互信頼関係に加えて、健全で公正な評価システムの存在が「安心感」を与えているとの印象がある。
こうした中で、評価システムの資源配分過程への反映を志向すればするほど、英国の柔軟で「賢い」研究コミュニティは当該システムへの適応を強め、「制度疲労」 (つまり「みんなが良い点を取り、差が付けられなくなる」) のリスクは高まることになる。英国において評価システムの「健全性」を保持するためには、絶えず柔軟に制度の見直しを行っていくことが必須と言える。
評価システム見直しのポイントは、全体としての「競争性」は高めながら、「競争資金」と配分経費 (appropriation) の二重の資金供給システムのバランスをいかに保っていくかである。英国の研究システムの主たる担い手である大学の研究機能について、教育・訓練や地域振興への寄与といった高等教育機関の果たすべき一方の重要機能を国全体として保持しながら、競争資金への依存度を増し、米国流の「Research University」への傾斜を強める新興大学が次々と出現する英国の底力は、国立大学法人化という「大変革期」にある我が国としても注目すべきであろう。
国際的観点からは、折しも小生の欧州滞在中に発表された英国の「ユーロ通貨統合参入見送り」に象徴されるように、一体性を更に強める EU とは経済政策面で一線を画す一方、国内の研究機関の高いポテンシャルを活かした競争資金獲得等を通じ、欧州域内の「研究人材・資源の流動性向上・ネットワーク化・再配分」の動きに英国の研究コミュニティがどう呼応していくのかが注目される。
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EU 25 ヶ国体制への拡大プロセスが順調に進む中、真の「統合」を目指した EU 憲章制定、「大統領」「外相」ポスト創設といった「単一国家」的システムの構築、域内政策の共通化・相互協調等の動きが益々加速している。
こうした流れの下、科学技術政策の面でも EU 総局の「求心力」は更に強まり、官民合わせた野心的 R&D 投資目標 (GDP 比 3%) の設定、その実現に向けた政策推進・調整ツールとしての「第 6 次研究開発枠組計画」 (FP6) の本格展開など動きは急となっている。但し、予算面では FP6 の役割は限定的で、むしろ「地方交付税交付金」的資金である「構造基金」等を研究開発・イノベーション関連の事業にうまく誘導する施策が効果的と思われる。域内の「恵まれない地域」へのテコ入れという「格差縮小」の側面と「ネットワーク・オブ・エクセレンス」形成という一種の重点化政策が整合的に進められるかどうかが注目される。
これら施策推進のカギとなるのは、域内の人材流動性向上である。EU のアプローチの優れた点は、このための他の施策領域 (社会保障システム、入管政策等) との効果的な政策協調で、域内の「最良事例」 (Best Practice) の積極的取り込みにより、改革のテンポは着実に速まりつつある。
特に今後の要注目点は「人材・成果の囲い込み」の動向ではないか。EU が入管政策変更により研究人材確保に悩む米国に対抗し、強力な「人材呼び戻し政策」を進めた上、欧州特許庁への制度一本化等により域内のプロパテント戦略を強化した場合、元々の研究環境の優位性と相俟って、日・米に対抗する文字通りの巨大な「欧州研究圏」形成につながる可能性も大いにあろう。 (他方、欧州の悩みの一つは、今回の国際会議でも議論された政策策定への「市民参加プロセス」の成熟に伴い、経済利益優先の強力な研究・イノベーション推進路線にブレーキがかかる場面が多いことか。「遺伝子組換え食品」への敏感な反応がその典型例であろう)
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昨今の OECD における調査検討の動向で注目されるのは、かつては世界の優秀な人材を一手に引きつけ、「一人勝ち」状態にあった米の研究コミュニティが、国家セキュリティ強化に伴う科学技術人材の供給不足に悩み、これと呼応するように「世界最高」の人材関連データを保有する米国立科学財団 (NSF) が OECD の検討作業に積極参入する動きが見られることである。OECD 側も中国のオブザーバ参加等を契機に、 UNESCO 等関係機関とも連携し、南米等を含む世界の人材・イノベーション関連データの戦略的収集・比較分析に本格的に乗り出してきた。
こうしたデータや分析結果は、科学技術政策の「ベンチマーク評価」を志向する我が国としても参照・活用すべき重要な基礎情報であり、OECD の関連プログラムに対し人的貢献はじめ引続き積極的に関与していくことが重要であろう。
我が国では 1970 年代の初め、科学技術庁 (当時) により、デルファイ法による大規模な技術予測が開始され、約 5 年ごとの調査が継続的に実施されている。当研究所は、90 年代以降の第 5 回 (1992 年) 〜第 7 回 (2001 年) 調査の実施機関である。我が国の技術予測調査は、全技術分野を対象として、大規模かつ継続的に実施されてきた点で、世界にも類を見ないものであり、デルファイ法の予測に関するデファクトスタンダードとなっている。当研究所では、国内での調査に並行して、ドイツとの技術予測に関する国際共同研究による国際比較の実施や、技術予測に関する国際会議の主催など、世界各国の技術予測調査実施機関とも協力関係を構築している。
この度、科学技術振興調整費の「科学技術振興に関する基盤的調査」の一環として、「科学技術の中長期発展に係る俯瞰的予測調査」(技術予測調査)を実施する事となった。通算第 8 回目にあたる今回の調査は、第 3 期科学技術基本計画を検討する際の基礎資料を提供するという目的のもと、総合科学技術会議や関係部局における政策論議と明確なリンクを持った初めての調査となる。以下、今回の技術予測調査について概説する。
我が国では、第 2 期科学技術基本計画において初めて優先分野が明示され、また、総合科学技術会議の設立により研究開発資源、特に予算配分の戦略的重点化が行われるなど、科学技術を巡る環境は大きく変化してきている。科学技術に対する投資の充実を図るためには、将来に対する明確かつ俯瞰的なビジョンが必要であり、国の財政事情が逼迫する中で、投資を最大限に活用するための重点化が一層求められる状況にある。
このような重点化政策を進めるうえで重要なことは、優先順位付けを行う上で必要となる情報を有効に提供し、その上で政策決定者が的確な決定をなせるようにすることである。さらに、このような国家の意思決定の基礎となる資料を準備するプロセスにおいて、特に科学技術がどのような社会・経済ニーズへの貢献を目指すべきかなどについて、科学技術専門家に限らない多くの人々に意見を求める事が必要である。
90 年代以降ヨーロッパを中心に世界各国で多様な予測活動が実施され、これらが一定の蓄積を持つに至るとともに、技術予測は技術と社会のつながりを強めるべく、社会の各界各層の関係者が参画する「第 3 世代」に移行しつつある。このような状況を踏まえ、海外で実施された調査手法など活用しうるものを吸収し、予測手法の新たな発展を図っていくことが必要である。
今回の調査では、科学技術政策における優先順位付けを始めとする、戦略の策定に直接寄与できる調査とすることに力点をおく。このため、コンセンサス形成に重点をおくデルファイ調査のほかに新たな手法も加えて全体として俯瞰性のある調査を行う。次ページの図に示すように、本調査は 4 項目から構成される。
「社会・経済ニーズ調査」においては、社会・経済ニーズについて整理し、今後の科学技術に対する目標を検討する。調査にあたっては、ヨーロッパで行われている予測調査の手法を参考にし、科学技術専門家に限らない多くの人々に意見を求める。
「急速に発展しつつある科学技術領域調査」においては、論文データベース分析を用いて、過去数年間で論文数の急激な増加が見られる科学技術領域を抽出する。ここで得られた科学技術領域は将来的な重点分野・領域の候補となる。
「注目科学技術領域の発展シナリオ調査」では、今後 10 年程度を見通した場合に、社会・経済的な貢献が大きい科学技術領域、革新的な知識を生み出す可能性を持つ領域などを 50 程度抽出し、そのそれぞれについて、卓越した個人の見識にもとづく発展のシナリオを作成する。これにより、注目すべき科学技術領域について規範的な視点から発展の方向性を明らかにする。
「デルファイ調査」では、エレクトロニクス、ライフサイエンスなど 13 分野に対する技術課題を検討し、長期的な技術の発展について専門家集団の合意形成を図る。技術課題の作成に当たっては、社会・経済ニーズや急速に発展しつつある科学技術領域の動向に配慮する。
以上の調査を通じて最終的には、今後の科学技術政策において、重視すべき分野・領域の検討に際して必要となる基本的な科学技術の発展の方向性と推進上の課題などを明らかにし、政策立案のため基礎的な情報として提供する。
本調査は当研究所と (財) 未来工学研究所との共同で実施する。調査全体の総括の為に予測調査委員会 (委員長: 生駒俊明氏) を設置し、調査計画、実施方針など全般的な事項の検討、および調査結果の総合的な検討を行う。予測調査委員会の下には、ニーズ調査分科会、シナリオ調査分科会、技術系分科会を置き、各項目の調査を効果的に推進していく。
調査に当たっては、総合科学技術会議や関係部局との意見交換を折りにふれ実施し、次期科学技術基本計画の政策論議の進展に対応した柔軟な調査を行うことで、重点分野・領域などを検討する際に役立つ資料を提供していく所存である。
・7/3 | Prof. Edward G. Krubasik: 独国シーメンス社 |
Dr. Ralph Guendling: 独国シーメンス社駐日代表 | |
Dr. Roland Kircher: 独国シーメンス社技術推進室長 | |
・7/18 | Dr. Steven W. Collins: 米国ワシントン大学ボセル校教養学部助教授 |
北陸先端科学技術大学院大学にて滞在研究中) |
・7/ 4 | 「Research Activities of Semiconductor Optical Routing Devices at Yale University」 |
塚本 弘範: Yale University Dept.of Electrical Engineering Senior Research Scientist | |
・7/ 8 | 「2000 年から 2010 年へのゲノム革命とそれに対応する研究組織のあり方」 |
児玉 龍彦: 東京大学先端科学技術研究センターシステム生物医学ラボラトリーディレクター | |
・7/14 | 「札幌 IT クラスターの現状と課題」 |
青木 由直: 北海道大学大学院工学研究科教授 / 高橋 昭憲: (株) データクラフト代表取締役 | |
・7/16 | 「我国の Physician Scientist (臨床科学者) と Translational Research の困難な現状」 |
中尾 一和: 京都大学大学院医学研究科内科学講座教授 | |
・7/17 | 「ロボティクス推進のための課題と展望」 |
江尻 正員: 元日立中央研究所技師長、元日本ロボット学会会長 | |
・7/22 | 「調査資料-98『先端的計測・分析機器の現状と今後の課題』〜科学技術専門家ネットワーク アンケート調査結果〜」 |
桑原 輝隆: 科学技術政策研究所科学技術動向研究センター長 | |
・7/23 | 「システムバイオロジーの展望」 |
北野 宏明: ソニーコンピュータサイエンス研究所副所長 | |
・7/24 | 「ヨーロッパにおける情報市民社会」 |
高橋 聡: 中央大学非常勤講師 / 中野 幸紀: 関西学院大学教授 | |
・7/29 | 「国際水ビジネスと日本〜民営化の波〜」 |
吉村 和就: (株) 荏原製作所グローバルマーケティング総括 |
・7/11 | 「日本の製造業企業による海外研究所保有の決定要因」 |
岩佐 朋子: 第1研究グループ研究員 | |
「補助金と研究開発投資 - わが国の科学技術系新規創業企業の例」 | |
古賀 款久: 第1研究グループ研究員 | |
「研究開発と企業の境界ー企業活動基本調査データによる委託研究・共同研究・技術導入の決定因分析」 | |
小田切 宏之: 第1研究グループ総括主任研究官 | |
中村 健太: 政策研臨時雇用職員 (一橋大学大学院経済学研究科博士課程) |
・ | 「科学技術動向 2003 年 7 月号」(7 月 28 日発行) |
特集 1 人間中心のユビキタス・コンピューティングへ向けて - パラダイム変化を国際技術競争力向上のチャンスに - | |
情報通信ユニット 亘理 誠夫 | |
特集 2 材料の国際標準化からみた国際戦略の現況と課題 | |
材料・製造技術ユニット 玉生 良孝 |
7 月末に政策研 HP を主要研究テーマ解説ページを作るなど一新しました。是非ご覧ください。 |