政策研ニュース No.176

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目次

  1. Ⅰ.レポート紹介
  2. Ⅱ. 海外事情
    • 科学技術に寄与する人材の測定 - 日本における関連統計のデータソースとしての有用性と質 -
      第1調査研究グループ上席研究官 三浦有紀子
  3. Ⅲ. 最近の動き

Ⅰ.レポート紹介

産学連携 1983 - 2001 - 調査資料96 -

第2研究グループ 齋藤芳子、中山保夫、細野光章、福川信也、小林信一

写真 :第2研究グループ  齋藤芳子、中山保夫、細野光章、福川信也、小林信一

本資料は、産学連携に関する制度のうち「民間等との共同研究」制度について、文部科学省科学技術政策研究所第2研究グループと研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室が協力して実態を分析し、産学連携の実態を明らかにしようとするものである。

分析の基本となる共同研究データベースは、民間等との共同研究制度により研究を行った国立大学等が翌年 5 月までに提出を義務付けられている「『民間等との共同研究』実施報告書」をデータソースとして構築された。制度開始の昭和 58 年度(1983 年度)から平成 13 年度(2001 年度)までの 19 年間のデータを含むデータベースに収録された共同研究の契約総件数は 29,577 件である。また、大学等、および民間等の各種の属性データ等をデータベースに付加し、分析に用いた。

分析にあたっては、より実態が明確になるよう多面的視点を導入した。具体的には、大学側から見た共同研究実態のみならず、連携のもう一方の当事者である民間等(国内民間企業、ハイテク産業、ならびに地方自治体等団体)の側も含め、共同研究を行う双方の視点から分析を実施している。


「民間等との共同研究」は地域の特性や大学の特性によって多様に発展してきた。図 1 に示す国立大学の連携先国内民間企業規模別実施件数割合の推移からは、国立大学が連携する企業規模の多様化がみてとれる。図 2 は企業規模別に連携先大学等の数を示したもので、企業規模によって連携の傾向が異なっていることがうかがえる。

各種分析から抽出された傾向に基き、表 1 に「民間等との共同研究」の発展の特徴を 4 段階に整理した。



第 1 期は制度が導入され、定着するまでの段階である。この時期は、有力大学と有力企業が産学連携を牽引した。第 2 期と第 3 期は制度が定着した後に制度が安定成長した時代である。ただし、第 2 期と第 3 期では若干傾向が異なる。第 2 期は、中小企業の参入の拡大や団体、地方自治体の参入が見られはじめる時期である。第 3 期には地域内連携の拡大、業種や研究分野の多様化が顕在化する。ここにいたって、有力大学と有力企業が牽引した産学連携の担い手が、中小企業、多様な業種、多様な研究分野へと広がっていった。直近の第 4 期は、いまだ 3 ヶ年しか経過していないものの、従来以上の量的拡大と多様化が同時に進んでいる時期である。つまり、19 年間の制度の発展は、担い手が交替するというよりは、新たな担い手と連携パタンが登場し、重層化してきたとみるべきであろう。


本報告は、産学連携に関する分析の端緒を開いたにすぎない。産学連携は必ずしも充分なエビデンスの分析に基づいて議論が展開されてきたわけではなく、その意味で、本調査を実施した目的は政策的議論の基盤となるデータベースの確立にあったともいえる。データベースの構築は非常に手間のかかる仕事であり、作業のほとんどが費やされたため、積み残された分析課題は多い。

最大の課題は、産学連携の効果をいかに測定し、評価するかという問題である。民間等との共同研究制度への新規参入が拡大してきたことは、それ自体が産学連携の評価指標となる。より本質的には、どのような量と質の知識が移転したのか、その結果としてどのような影響が生じたのかが問題である。具体的には、産学連携を実施したという事実よりも、産学連携の結果として、発明が行われた、といった実質的成果や、その結果としての経済発展、雇用拡大といった間接的効果を重視して考えなければならない。間接的効果の評価は方法論的には非常に難しい問題であるが、今後はそのような観点による分析の実施も検討してゆく必要があろう。

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我が国の科学雑誌に関する調査 - 調査資料 97 -

第2調査研究グループ上席研究官 大沼 清仁

1. 調査の趣旨

科学技術を伝えるメディアの一つである科学雑誌は休刊が相次いでいるが、発行部数などの状況については伝えられることは少ない。本調査では、一般向けの総合的な内容をもつ科学雑誌について、1970年以降の発行部数等を調査し、国民の科学技術に対する関心との関係について考察した。

2. 調査の結果

(1)発行部数について

「出版指標年報」の「科学部門」のうち「科学一般」に分類されている雑誌の発行部数は、1980年には約345万部だったものが、1983年には約1,262万部と、1981年から1982年の科学雑誌の創刊ラッシュで発行部数は急激に増加した。しかし、その後は減少に転じて、1990年約897万部、2000年約500万部、2001年は約415万部で発行部数がピーク時の1983年の3分の1まで減少した(図1)。

(2)「日経サイエンス」の購読者層の変化について

1973年の「日経サイエンス」の月間発行部数は約2.5万部、1981年には約3.7万部まで発行部数を伸ばしたが、2001年では約2.5万部という状況である。出版社が行う購読者に関する調査から購読者の年齢層の変化を調べたところ、「日経サイエンス」の1979年の購読者層は10歳代と20歳代の合計が40%、30歳代が28%と若年層の読者が多かったが、2000年では、10歳代と20歳代の合計が21%、30歳代が23%と若年層読者が減少した。
発行部数と購読者割合から各年代の推定購読者数を計算し、各年代人口と比較することで各年代1万人あたりの購読者数の変化をみると、20歳代で大きく減少していることがわかる(図2)。

(3)日米の科学雑誌の発行部数比較

"Scientific American"の月間発行部数は約70万部、"Scientific American"の日本語版「日経サイエンス」の発行部数は約2.5万部程度であり、日米の人口当たりの発行部数を比較すると"Scientific American"は「日経サイエンス」の10倍以上売れていることになる。

3.考察及び提言

世論調査から科学技術への関心の推移をみると、20歳代、30歳代は1976年調査では関心の高い世代だったが、1998年では関心の低い世代になっている。科学雑誌が好調だった頃、購読者の中心は20歳代、30歳代で、その世代の科学技術への関心が高かったこと、科学雑誌が低迷している近年は、20歳代、30歳代の購読者の割合が低下し、科学技術への関心も低下していることの関連がうかがえる。科学雑誌の内容の充実、分かりやすい科学技術情報の発信、ひいては、国民の科学技術への関心の向上に関連して私見をまとめた。

(1)小中学校段階での理科好きの維持

「理科はおもしろい」とする児童・生徒の割合が小学校高学年、中学校段階で急速に低下する。これを低下させないことが重要である。そのため、児童・生徒向けの理科に関する雑誌・書籍や副読本を充実させるとともに、小中学校教員に対して科学技術情報をわかりやすく提供することが重要である。

(2)科学技術情報伝達の担い手(コミュニケータ)の確保・育成

科学技術についての関心を高めるためには、科学技術情報量や情報に触れる機会を増加させることが必要である。そのためには科学技術情報伝達の担い手であるコミュニケータを確保・育成が必要である。

(3)科学技術理解増進に関する活動への研究者・技術者の参画

研究者、技術者が直接語りかけることは影響が大きい。科学技術理解増進活動に参加可能なリストを作成することが有効である。また、理解増進活動に参画する研究者等の評価も検討の必要がある。

(4)大学・研究所など情報を発信する側の広報体制の整備

情報を発信する側が情報伝達の媒介者である科学ジャーナリストに対してわかりやすく情報発信することが科学技術に関するわかりやすい記事の提供につながり、国民の科学技術理解増進につながる。そのためには、大学・研究所などの広報体制を充実させることが必要と思われる。

(5)インターネットを通じた科学技術情報の発信

インターネットの普及により情報伝達経路が大きく変わりつつあり、公的機関により科学技術に関するサイトを構築し、わかりやすい科学技術情報を発信することが重要である。



おおぬま きよひと: 2001年4月、林野庁より出向して現職。現テーマは「科学系博物館における科学技術理解増進活動」。
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Ⅱ. 海外事情

科学技術に寄与する人材の測定 - 日本における関連統計のデータソースとしての有用性と質 -

第1調査研究グループ上席研究官 三浦有紀子

写真 :みうら  ゆきこ

1. はじめに

科学技術創造立国の実現を目指す我が国にとって、科学技術に寄与する人材の育成および確保は重要な課題である。そのために、科学技術人材の量および質的現状を把握することは、非常に重要と思われる。しかし現在、科学技術人材に関する包括的な統計調査は、多くの諸外国と同様、我が国でも実施されていない。そこで、定常的に実施されている統計調査から、科学技術人材に関するデータを抽出、分析し、それらの科学技術人材データソースとしての有用性と得られたデータの質について検討した。

2. 検討内容

科学技術に寄与する人的資源 (Human Resources devoted to Science and Technology: HRST) の蓄積および流動を測定する目的で、1995 年に経済開発協力機構 (OECD) と欧州委員会欧州共同体統計局 (Eurostat) が共同で作成したキャンベラマニュアル (Canberra Manual: CM) の定義に従い、要求されている条件 (資格および職種) をわが国の労働力および教育に関する既存の統計と照らし合わせた。CM の定義が要求する条件に一致すると思われる部分を抽出し、資格条件については、国連教育科学文化機関(UNESCO)の国際標準教育分野分類 (ISCED-97) に、職種条件については、国際標準職業分類 (ISCO-88) および国際標準産業分類 (ISIC) に沿った形式で部分的あるいは全体的に加工した。抽出・加工の過程で、各データがCMの条件をどの程度満たし得るか、さらに、その確実性を上げるために必要と思われる因子について検討した。

3. 結果および考察

労働力および教育に関する既存の統計調査には、以下のようなものがあり、各々の特色をCMの定義が要求する条件に沿って挙げた。

(1)労働力調査: 毎月、雇用と失業の実態を明確にする目的で、抽出された約4万世帯、10万人に対し実施している。職種区分が大きすぎること、教育レベルを把握できないことにより、有用性はほとんどない。(学歴については、2002年から調査項目に加えられたが、2003年5月現在公表されていない。)
(2)就業構造基本調査: 5年おきに、就業構造の実態、就業移動の実態、就業に関する希望等を明らかにする目的で、約43万世帯、110万人に対し実施している。職種区分では、「専門的・技術的職業従事者」があり、教育レベル区分でも、ISCEDレベル5a(大学卒業)以上と以下とを分けられる。有用性は中程度。
(3)賃金構造基本調査: 毎年、主要産業に雇用される常用労働者の賃金の実態を、職種、性、年齢、経験年数等ごとに明らかにする目的で、抽出された事業所に対し実施している。職種分類は115区分にわたり、取り上げられている職業については比較的詳細なデータが得られるが、有用性は低い。
(4)学校基本調査: 毎年、学校教育に関する施策のための基本的事項を明らかにする目的で、学校長等に対し実施している。大学卒業、大学院修了者数が、専攻、進路、性ごとにわかる。専攻別卒業後の職業別就職者数では、「専門的・技術的職業従事者」が詳細に区分されており、HRSTインフローのデータソースとしての有用性は高い。
(5)国勢調査: 5年おきに、詳細調査と簡易調査を交互に、日本に居住する全人口に対し実施している。詳細調査では、職種分類115区分と教育レベル(ISCEDレベル5a以上と以下との区別)ごとの就業者数がわかる。HRSTストックのデータソースとしての有用性は高い。
(6)科学技術研究調査: 毎年、科学技術に関する研究活動の状態を調査し、科学技術振興に必要な基礎資料を得る目的で、法人等に対し実施している。HRSTのうち、研究開発人材についてのデータソースとしてのみ有用性が高い。

この他、雇用動向調査、労働経済動向調査等があるが、科学技術人材のデータソースとしては、ほとんど有用性はない。

労働力統計では、HRST の質的中心となる ISCED レベル 6 (博士号取得者)、大学および大学院における専攻分野を区別することがほとんどできない。また、諸外国よりも労働力の流動性が低いためか、初回インフローのデータが充実しているのに比べ、その後の HRST の流動を追跡することが困難である。

4. おわりに

今回は、紙面の都合上、実際のデータは掲載できなかったが、加工後のデータから、日本の HRST の現状が読み取れる。まず、ISCED レベル 6 の比率が低いこと、さらに教育システムと社会ニーズのミスマッチによる HRST 需給の不一致である。前者に関しては、既に取り組みがなされており、後者に関しても政策担当者の注目度は確実に上がってきている。科学技術人材の統計的把握に関するワーキンググループが今年設置されるが、HRST の現状をより正確に把握する必要性が高まっている証であり、今後の展開が期待される。

本内容は、2003 年 3 月 7 日パリで開催された OECD/NESTI Workshop on Human Resources Devoted to Science and Technology において発表した。
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Ⅲ. 最近の動き

○ 主要来訪者一覧
・5/19渡辺 泰司: タイ国家科学技術庁 (NSTDA) 政策アドバイザー
Dr. Patarapong Intarakumnerd: 同全国イノベーション・システム・プロジェクト・マネージャー
・5/26Mr. Bjorn Haugstad: ノルウェー教育・研究副大臣 他
○ 講演会・セミナー
・5/ 8「工業廃熱の民生部門での利用に向けて 〜 高密度蓄熱装置による Off-Line 熱輸送方式の提唱〜」
飯沼 和正: 日本記者クラブ会員、元科学技術庁専門委員及び元神奈川サイエンスパーク
【排熱エネルギーの利用研究計画】オルガナイザー
・5/12「次世代ナノバイオデバイス研究の最前線と今後の展開」
馬場 嘉信: 徳島大学薬学部教授及び産業技術総合研究所
単一分子生体ナノ計測研究ラボ長
・5/14「自然災害への備えと危機管理」
河田 恵昭: 京都大学防災研究所巨大災害研究センター長・教授
・5/21「Research & Development for Sustainable Energy & Water Supply」
Dr. R. Kircher: シーメンス社東京支所技術部長
・5/28「海水ウラン捕集技術の研究開発の現状」
玉田 正男: 日本原子力研究所高崎研究所材料開発部主任研究員
「海水ウラン利用のシナリオと意義」
魚谷 正樹: 電力中央研究所狛江研究所原子力システム部上席研究員・部長
○ 基本計画レビューセミナー
・5/30「米国のR&D関連予算動向の詳細分析」(表紙写真)
Mr. Kei Koizumi: 全米科学振興協会 (AAAS) R&D 予算・政策プログラム長
「米国の政策動向のマクロ・ミクロ分析」
清貞 智会: 米 SRI インターナショナル社 科学技術・経済発展センター上級科学技術政策アナリスト
○ 科学技術政策研究所に係る平成 15 年度第 1 期研修プログラムの実施(表紙写真)
・5/ 7第 3 回「重点化戦略の形成と技術予測」
桑原 輝隆: 科学技術動向研究センター長
第 4 回「科学技術動向研究センターの活動の紹介」
横田 慎二: 科学技術動向研究センター総括ユニット長
・5/ 9第 5 回「需要側からの科学技術政策の展開 - 独 Futur を例として - 」
丹羽冨士雄: 政策研究大学院大学教授
○ 新着研究報告・資料
我が国の科学雑誌に関する調査(調査資料 - 97)
地域イノベーションの成功要因及び促進政策に関する調査研究(DISCUSSION PAPER No.29)
「科学技術動向 2003 年 5 月号」(5 月 30 日発行)
  特集 1 エピジェネティック・がん研究の必要性 - ポストゲノム時代のがん研究 -
  ライフサイエンス・医療ユニット 伊藤 裕子
  特集 2 RFIDの動向
  情報通信ユニット 小松 裕司、客員研究官 山田 肇
  特集 3 革新的原子炉としての高温ガス炉の研究開発動向
  環境・エネルギーユニット 大森 良太


文部科学省科学技術政策研究所広報委員会 (政策研ニュース担当: 情報分析課news@nistep.go.jp)

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