政策研ニュース No.173

科学技術政策に係る海外専門家との意見交換


(左上から時計回りに)

Mr. Petri Peltonen フィンランド Tekes 国際ネットワーク局長他 15 名 (2 月 6 日)

Dr. Marshall Moffat (写真右) カナダ産業省 Knowledge Infrastructure 局長兼 Advisory Council on Science & Technology (ACST) 事務局専務理事兼 Dr. T. Philip Hicks カナダ大使館科学技術参事官 (2 月 10 日)

Mr. Daniel Descoutures (写真左) EU 研究総局国際科学協力政策担当課長及び Dr. Pierrick Fillon-Ashida EU 在京代表部科学技術部長 (2 月 14 日)

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目次

  1. Ⅰ. レポート紹介
    • 産学官連携事例から見た地域イノベーションの成功要因解明の試み - 調査資料 - 92
      第3調査研究グループ 岡 精一
  2. Ⅱ. トピックス
    • 平成 15 年度科学技術政策研究所予算案について
      企画課 樋口 晋一
  3. Ⅲ. 最近の動き

Ⅰ.レポート紹介

産学官連携事例から見た地域イノベーションの成功要因解明の試み - 調査資料 - 92

第3調査研究グループ 岡 精一

写真: おか せいいち
おか せいいち
2001 年 4 月、埼玉県庁より第3調査研究グループにて特別研究員として勤務。地域イノベーションの成功要因に関する調査研究のため、主に産学官連携を中心とした現地調査等を行う。

1. はじめに

現在第3調査研究グループでは、海外及び国内の地域産学官連携の先行地における状況調査を実施し、地域イノベーションの形成要因・成長要因等を総合的に比較・分析することにより、実効的な方策を明らかにしようとしている。本調査資料は、国内事例のうち成功していると仮定した 3 政令指定都市をあらかじめ選定の上、インタビューを実施した産学官連携の調査記録と、その各都市に共通する、若しくは異なっている成功要因の解明に繋がる幾つかの特徴的な事項についての報告である。調査にあたっては①研究環境②ビジネス環境③社会資本・制度④衣食住環境の視点から、大学等研究機関、TLO などの中核的研究機関、ベンチャー企業、地方自治体の政策担当者等を訪問しインタビューを実施した。

今回訪問した札幌、京都、福岡地域のインタビュー結果や文献から、3 地域は日本国内において比較的研究体制・ビジネス環境等が整備され、衣食住環境も良好であることが推測できた。そして、成功要因解明への特徴として次の5つの項目について検討してみた。1) 地域の大学 2) 産学官連携ネットワーク 3) 地域のイニシアティブ 4) 衣食住環境 5) トリガーメーカーの存在

以下にその中から3項目について報告する。

2. 成功要因解明への特徴的事項

2-1 地域の大学

図 1 は、大学発ベンチャー企業数について、政令指定都市内に本部がある大学を地域別に集計した結果であり、札幌 19 社、京都 44 社、福岡 14 社となっている(筑波大学「大学等発ベンチャーの現状と推進方策に関する調査研究」から集計)。大学発ベンチャーが活発に起こり、大学からの技術の移転が活発に行われ、大学がその地域において中核となり地域イノベーションの加速に向けた原動力となりつつある。

2-2 産学官連携ネットワーク

札幌では、ネットワークコミュニティの集大成として BizCafe が誕生し、「ボランティア運営型」のネットワークが機能的に作用したことにより、産・学・官の潤滑油となり現在の成功をもたらすことになる。それに対して、福岡では、「行政運営型」組織である「福岡県システム LSI 設計開発拠点推進会議」(シリコンシーベルト福岡)のネットワークの趨勢が地域の成長に影響を及ぼすと考えられる。今後、分類されたネットワークのパターンとその地域の成長過程の相関関係に注目することは興味深いことであり、成功要因の 1 要因としてネットワークを分析する上で何らかの示唆を与えることになると考える。

2-3 トリガーメーカーの存在

トリガーメーカー、若しくはキーパーソンの存在について、サッポロバレーの誕生から現在までキーパーソンとして活躍してきた北海道大学青木由直教授を多くの方が指名された札幌を除き、京都、福岡とも特定の人物の活動が地域全体に周知されるまでには至っていないようである。これらの地域においては新たなトリガーメーカー、キーパーソンが出てくるのを待つか、若しくは外部から呼び込むなどの方法により早晩対策が講じられることになるであろう。

3. 最後に

各地域とも個々の研究基盤や支援制度等のインフラ整備は進んだものの、クラスター集積の面から各地域の活動を観察した場合はまだ緒に就いたばかりである。今後の海外調査・国内調査により調査データを蓄積し、それらの比較分析等を行い、更なる調査研究を進める必要がある。


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クラスター事例のイノポリス形成要素による回帰分析 - Discussion Paper No.28

第3調査研究グループ上席研究官 計良 秀美

写真 :けいら ひでみ
けいら ひでみ
2002 年 4 月、農林水産省より出向して現職。「地域イノベーションの成功要因及び促進政策」が調査研究テーマ。

1. 地域イノベーションとクラスター

現在の日本の経済状況はデフレ不況といわれて低迷していますが地方経済はさらに厳しい状況になっています。これまで地域に雇用の場を提供してくれた工場が中国など賃金の安い海外に移転し、地域産業の空洞化が進んでいます。県などが大企業へ土地を安く提供したり、税金をまけてやっても企業はなかなか来てくれなくなりました。そこで、地域において科学技術を振興し、その成果を活用して新たな産業を起こす地域イノベーションの重要性が広く認識されるようになっています。

地域イノベーションを考えた場合、先進国ではシリコンバレーのようなクラスターの形成という特徴が見られます。我が国の第2期科学技術基本計画においても知的クラスターの形成を通じた地域イノベーションの促進がうたわれていますし、文部科学省は平成 14 年度から「知的クラスター創生事業」をスタートさせ、経済産業省も平成13年度から「産業クラスター計画」を実施しています。

2. クラスターの成功要素

日本においてクラスターをうまく形成していくためには諸外国の先進事例が参考になります。そこで第3調査研究グループの客員研究官で本ペーパーの共同執筆者である前田昇高知工科大学教授らが欧米6地域のクラスター先進事例をいろいろな機会に現地調査し、11 の成功要素(イノポリス形成要素)を抽出しました。それは、①核となる大学等がある、②変化を要求されるような差し迫った経済状況がある、③シリコンバレーのターマン教授やオースチンのコズメツキー教授のようなトリガーメーカーとなるキーマンがいる、④いつでも一緒に昼飯を共にできるような同一場所での産学官の結合、⑤地域イニシアティブ・地域特性(サポートインフラ、ネットワーク、地域の魅力)、⑥ヒューレット・パッカードやデルのような初期に技術ある核企業の存在、⑦産業分野・技術分野の選択と集中、⑧大企業やベンチャー、大学からの活発なスピンオフ拡散、⑨グローバル展開、⑩初期の顧客になり得る大企業との連携及び⑪結果としてのベンチャーの創出と IPO 実績です。

3. クラスターの活動指標と成果指標

このイノポリス形成要素を使って日本の各地の達成度を自己評価できるよう、「◎」、「○」、「△」、「×」の簡易な評価基準をつくり、欧米 6 地域と国内 6 地域について評価を行いました。その際、イノポリス形成要素の①から⑦までをクラスター形成にかかわるものとみなして「活動指標」とし、⑧から⑪までをその結果としての「成果指標」としました。これらをプロットしたのが次ページの図です。日本のクラスターは取組が開始されたばかりでもあり、欧米に比べ両指標とも低くなっています。また、「活動指標」が高くなれば「成果指標」も高くなる傾向が見られます。さらに、活動指標要素のうち⑥初期に技術ある核企業と③トリガーメーカーの存在は成果指標との相関が高く、日本のクラスターが欧米並みの成果をあげるためには、特にこれらへの取組が急務であるといえそうです。

なお、このレポートは NISTEP のウェブからもみることができます。


活動指標
;①核となる大学、②変化を要求される背景、③トリガーメーカーの存在、④産学官の結合、⑤地域イニシアティブ・地域特性、⑥初期に技術ある核企業、⑦選択と集中の合計点の満点(68 点)に対する割合。
成果指標
;⑧活発なスピンオフ拡散、⑨グローバル展開、⑩大企業との連携、⑪ベンチャー創出とIPO実績の合計点の満点(32 点)に対する割合。


注;
1) 各地の評価点は前田教授らのグループや当所第3調査研究グループの暫定的な評価点をもとにしている。
2) 図の( )内の数値は①から⑪までの合計点である。
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Ⅱトピックス

平成 15 年度科学技術政策研究所予算案について

企画課 樋口 晋一

1. はじめに

現在、第 156 回国会において、昨年末に閣議決定された平成15年度政府予算原案の審議がなされています。新年度を目前に控え、次年度の当研究所予算案についてご紹介いたします。


2. 平成 15 年度予算案の概要とポイント

平成 15 年度予算案においては、「国際客員研究官プログラム」、「科学技術政策研究・企画に係る研修プログラム」等の新規事項を始めとする各プログラムを実施のため、総額 880 百万円の経費を計上しています。(次頁の表を参照)これに伴い、「国際客員研究官プログラム」を含む「科学技術政策研究国際協力推進」、「科学技術政策研究・企画に係る研修プログラム」を含む「科学技術政策研究に関する情報処理」等の予算総額に占める割合が増加しています。(下図を参照)

「国際客員研究官プログラム」(7 百万円)は、本年度行われた機関評価の際の提言を踏まえ、当研究所における研究に関する国際協力推進の一環として企画したものです。これまで、国内の有識者については「客員研究官」として研究活動に参画して頂いてきましたが、次年度以降は海外関係機関の有識者の知見も活用し、調査研究をより効果的かつ効率的に進めるとともに、海外関係機関との協力を一層推進することとしています。

「科学技術政策研究・企画に係る研修プログラム」(3 百万円)は、科学技術政策研究に関する基礎的スキルの取得ないし実践的なスキルの取得及び向上を目的として、当研究所職員、科学技術関係行政部局職員、関連大学院学生などを対象とした研修を実施するため、同じく機関評価の提言を踏まえて企画したものです。科学技術政策研究に関する研修は、本年度既に試行的に開始しておりますが、次年度より本格的に展開することとしております。

その他、機関評価における提言事項である「地域の研究開発・イノベーション活動の支援のための調査研究の強化」、「成果の国内外向け発信機能強化」等についても具体化のための経費を計上しています。

3. おわりに

平成15年度予算案は、政府全体における歳出抑制の方針により、当研究所においても前年度に比し 17 百万円の減額となりました。当研究所においては、このような厳しい財政状況の下、一層効果的かつ効率的な調査研究を進めるとともに、科学技術振興調整費等の外部資金の獲得に向けた取り組みを進めることとしています。

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Ⅲ.最近の動き

○ 主要来訪者一覧
・ 2/ 6Mr. Petri Peltonen: フィンランド Tekes 国際ネットワーク局長他 15 名
・ 2/10Dr. Marshall Moffat: カナダ産業省 Knowledge Infrastructure 局長兼
Advisory Council on Science & Technology(ACST)事務局専務理事
Dr. T. Philip Hicks: カナダ大使館科学技術参事官
・ 2/14Mr. Daniel Descoutures: EU 研究総局国際科学協力政策担当課長
Dr. Pierrick Fillon-Ashida: EU 在京代表部科学技術部長
・ 2/26Prof. Luke Georghiou: 英国マンチェスター大学工学科学技術政策研究所(PREST)所長
Dr. Youngrak Choi: 韓国科学技術政策研究院(STEPI)所長
Dr. David Cheney: RI社上席技術政策アナリスト
Ms. Eija Ahola: フィンランド Tekes インパクト分析担当研究マネージャー
Ms. Pirjo Kylakoski: 同上級技術アドバイザー
Mr. Heikki Uusi-Honko: 同品質ユニット長
Mr. Torsti Loikkanen: フィンランド VTT 技術研究グループ長
○ 講演会・コンファレンス
・ 2/27 - 2/28 「第 3 世代技術予測と科学技術政策における優先順位づけ - 第 2 回技術予測国際会議 -」
当所主催、於: 国連大学本部(東京都渋谷区)
○ 新着研究報告・資料
産学官連携事例から見た地域イノベーションの成功要因解明の試み(調査資料 - 92)
クラスター事例のイノポリス形成要素による回帰分析(Discussion Paper No.28)
「科学技術動向 2003 年 2 月号」(2 月 27 日発行)
 特集 1 「脳科学と教育」研究の動向
 ライフサイエンス・医療ユニット 茂木 伸一、庄司 真理子
 特集 2 燃料電池自動車普及の鍵を握る水素貯蔵材料
 材料・製造技術ユニット 玉生 良孝、客員研究官 緒形 俊夫
 特集 3 2004 年度米国大統領予算教書に見る R&D プライオリティの変化
 客員研究官 清貞 智会


文部科学省科学技術政策研究所広報委員会 (政策研ニュース担当: 情報分析課news@nistep.go.jp)

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