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No.161 2002 3
文部科学省 科学技術政策研究所
NATIONAL INSTITUTE OF SCIENCE
AND TECHNOLOGY POLICY




 
目次 [Contents]  Ⅰ.レポート紹介 中国の環境問題と日本の技術移転 〜石炭燃焼炉の転換と脱硫技術を中心として〜
前情報分析課特別研究員(中部電力(株)碧南火力発電所発電課副長) 花井光浩

Ⅱ.海外事情
チェコ、フランス出張報告 −原子力コミュニケーションとエネルギー市場自由化−
科学技術動向研究センター研究員 大森 良太

オーストリア紀行 −EUの東方拡大で注目を集めるオーストリアのイノベーション政策−
科学技術動向研究センター特別研究員 清貞 智会

Ⅲ.最近の動き




Ⅰ.レポート紹介


中国の環境問題と日本の技術移転 〜石炭燃焼炉の転換と脱硫技術を中心として〜

前情報分析課特別研究員(現中部電力(株)碧南火力発電所発電課副長) 花井 光浩



 中国における環境問題は、急速な経済発展に伴い年々深刻さを増し、日本も直接的影響を受ける問題となっている。この問題を解決するため、先進国は環境技術を移転し、中国の環境対策を支援する必要がある。本調査研究では中国科学技術部科技促進発展研究中心と共同で、中国の環境問題と環境技術移転の現状について分析を行った。

 中国における排煙脱硫技術は、海外からのプロジェクト等による実証研究の段階にある。研究は80年代から実施されているが、中国の国土は広大であり、各地域で経済条件、石炭の品質、石灰石資源、環境保全の要求等が異なる。このため、中国では世界で使用されている多くの脱硫技術を導入しており、中国にとって将来どのような脱硫方式が適切か、技術導入先を模索している状況と言える。
 日本も中国に対して、様々な環境保全に関する技術協力を広範囲に実施してきた。しかし多くのプロジェクトを実施している割には、欧米のプロジェクトと比べて高い評価が得られているか疑問視されているところである。日中の環境保全技術移転関係者へ、技術移転促進のための方策について聞き取り調査を行った結果、以下の取り組みが求められていることが分かった。

1. 日本側の取り組み
(1)環境装置のコスト低減
 中国の実情に適合した仕様にスペックダウンしてコスト低減を図るとともに、中国の脆弱な技術基盤に適合したメンテナンスフリーを実現する等、低コスト・簡易型の技術を開発・普及することが必要である。また、環境装置のコストを押さえるためには、材料、部品等をできる限り現地で調達することも有効な方策である。このため、地元企業の人材育成等を通じた技術移転を積極的に進めていくことにより、部品調達、ユニット生産等を現地で行うことが必要である。
(2)技術協力
 日本の技術は欧米より安価な場合もあるが、部品が中国で調達できないことにより運転が継続できない事や結果として高くつく事例が見られる。プロジェクト終了後、部品調達のための連絡が取れない状況が続いたので、米国企業にメンテナンスを依頼したという事例もあった。これは現地企業を作ってアフターサービスを向上させるか、国産化のための協力を進める必要があったと思われる。
(3)ユーザー・テクノロジーの商品化
 中国では技術の国産化政策をとっており、外国からの導入技術は脱硫装置など、国内にない技術が前提となっている。また、次の段階では、その技術に対しても国産化を目指している。従って製造技術・ノウハウの提供は、一時的になる可能性があることに留意する必要がある。中国には世界中の技術の売り込みが行われているため、技術・ノウハウのパッケージソフト化を図るなどユーザー・テクノロジーの商品化が必要である。欧米は極めて高額なテクノロジーの売却を中国において行っており、その額は欧米の国内市場と同じ価格であることが多いと言われている。 また、政府資金を活用した同様技術が複数の企業から移転されているが、過去の経験を活かすため、プロジェクト毎に結果を評価し情報公開することが大切である。この点で日本企業がノウハウのドキュメント化を進め中国へ販売することは企業自身にとっても利益となる可能性がある。

2.中国側の取り組み
(1)環境技術の導入基盤の整備
 日本の企業が環境技術を中国に移転・導入するためには、これらの企業が所有する技術に係る知的財産権が十分に保護されていることが不可欠である。このため、中国において、技術の価値に対する認識を高め、知的財産権保護制度のいっそうの整備が今後行われると思われる。関連して、工場の環境対策の実効性をあげるためには、現場作業者に対して、技術向上に対するインセンティブの付与が日本の経験では必要である。
(2)技術導入に関連する諸制度の整備
 中国の貿易に関係している諸制度は、WTO加盟により大きく変化しつつあり、技術導入に関連している諸制度は、外国企業から移転された技術やノウハウの評価、技術ロイヤルティの支払い、外国企業の直接投資での進出条件に関しての税制、移転した技術に関する義務や権利保護を整備しつつある。
(3)環境規制の徹底
 中国においては、環境規制、行政側の技術指導力について、対象企業の規模、資本力による環境規制の実効性の不明瞭性等により、環境対策の実効性があげられていないとの指摘もある。このため、モニタリング・システムの充実等による環境管理体制の整備・強化、技術的、資金的に実行可能な水準の環境基準の設定、環境行政人材・ノウハウの充実、罰則規定の強化、環境規制の運用の透明性向上等により、環境規制の運用の徹底が図られようとしている。
(4)設備更新、環境装置・技術導入に対するインセンティブの確保
 旧式生産設備の環境調和型への更新や環境装置・技術の新規導入には多額のコストが必要となることから、中国においてこれらの更新・導入が進展するためには、規制の徹底と並行して、企業に対する経済インセンティブが重要である。このような観点から、旧式生産設備の更新や環境装置・技術の新規導入を促進するための税制上の優遇措置、低利融資制度の整備・拡充、エネルギー料金制度の整備等が検討されようとしている。



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Ⅱ.海外事情


チェコ、フランス出張報告 −原子力コミュニケーションとエネルギー市場自由化−

科学技術動向研究センター研究員 大森 良太



 筆者は、科学技術動向研究センターで環境・エネルギー分野の国内外の政策動向、技術開発動向の調査研究を担当していますが、2月上旬、「原子力コミュニケーション」と「エネルギー市場自由化」に関する2つの国際会議に出席しました。本稿では、両会議の概要と印象を中心に報告したいと思います。プログラムの詳細や発表OHP等の一部は、それぞれの主催団体のホームページでご覧になれます。
 なお、プラハ滞在中には、筆者の出身大学の原子力工学科の大先輩でもある、石田寛人チェコ大使(元科学技術事務次官)を表敬訪問しました。在チェコ日本大使館はプラハ観光のメッカ、カレル橋の近くの閑静な界隈にあり、いわゆるプラハ的な美しい建物や路地に囲まれています。この辺りでは、映画のロケもしばしば行われるそうです。ご多忙中にも関わらず、暖かく大使室に迎えていただき、チェコの科学・技術、政治、経済、歴史、芸能等につきまして、たいへん貴重なお話をしていただきました。茲に厚く御礼申し上げます。


1)第14回原子力コミュニケーションに関する国際ワークショップ(プラハ)
(http://www.ens-pime.org/)

 本ワークショップは欧州原子力学会(ENS)の主催で毎年開催されています。今回は55件の研究発表があり、参加登録者数は158名でした。
 学会主催ではありましたが、大学や研究所からの参加者は比較的少なく、産業界からの出席者が目立ちました。口頭発表においてもアカデミックなアプローチによる研究成果は要請されず、情報提供・交換を目的とした発表も多数見られました。
 全般的には、いわゆるパブリック・アクセプタンスをいかに得るかという視点に立った発表が多く、結局のところは原子力関係者に対する信頼感、情報公開、透明性、パブリックインボルブメントの重要性を指摘していましたが、新しい知見の獲得という点では全般的にやや不満でした。結局、90年代初頭を中心に発表された、社会心理学者P. Slovicらによる研究のスコープを出ていないということでしょうか。誰かが面白い発想の優れた研究論文を出すと、その後しばらくの間、その亜流の研究成果が大量に生み出され、周辺を固める。これも学問の発展の道筋なのでしょうが、そろそろ新しい発想に基づく研究が期待されます。
 筆者も日本原子力研究所が実施している社会技術研究プロジェクトに参加していますが(非常勤)、「社会技術」研究というとどうも観念的、抽象的な議論になりがちです。対峙すべき問題を明確に設定し、実体的な研究をしていくことの重要性を感じました。

2)国際エネルギー機関定期フォーラム「エネルギー市場における競争」(パリ)
(http://www.iea.org/about/forum.htm)

 国際エネルギー機関(IEA)は1997年以降、電力およびガスの自由化に関するフォーラムを年1,2回開催しています。今回は7回目にあたり、IEAとフランス経済・財政・産業省の共催で、エネルギー自由化市場における公共サービス義務と供給セキュリティ確保のあり方をテーマに開催されました。会議は2日間にわたり開催され、出席者は約150名(日本人の出席登録者2名)でした。参加費無料ということも本会合の特色の一つでしょう。
 今回の催されたセッションのテーマは以下の通りです。
・エネルギー分野における公的サービスのあり方
・米国新国家エネルギー政策とカリフォルニア電力危機からの教訓
・エネルギー供給セキュリティ(送電ネットワーク、系統管理など)
・ガス供給セキュリティ
 各セッションの議長は大臣など各国政府や国際機関の重要ポスト経験者で、その見識の高さのみならず、英仏両言語を駆使したコミュニケーションや会場からのコメントのさばき方の巧みさには感心しました。
 本会合の全般的な印象ですが、エネルギー分野におけるEU諸国の一体感を強く感じました。EU本部にもエネルギー政策担当の委員会があります。今後さらに、エネルギーセキュリティーや環境問題に対して、EU全体で足並みを揃えながら対処していく傾向が強まるでしょう。現に、東欧諸国も含め、電力送電網、ガスパイプライン網がかなり発達しており、欧州電力統一市場なるものも真剣に議論されています。各国のこれまでのエネルギー政策とEU全体の政策の整合性をいかに取るか、今後の動向が注目されます。
 米国カリフォルニア州の電力危機については、その制度設計の失敗が多数論じられています。では何故、あのような稚拙な制度が策定され、州政府に承認され、実施されてしまったのか。確かに、巨大複雑システムの設計は困難ではありますが・・・。制度的要因、組織的要因、好景気に沸く米国の自己過信なども背景にあるのでしょうか。この記念碑的失敗例の分析は社会技術研究の事例研究テーマとして興味深いと思われます。
 その他、電力料金の透明性や規制の不確実性の問題など、欧米固有の論点についての議論も展開されていましたが、長くなりましたのでこれくらいにしたいと思います。

 パリは大学院生時代に1年間留学して以来、8年ぶりの訪問でした。あの頃、地下鉄車内でよく見られた失業者の姿は消えていました。




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オーストリア紀行 −EUの東方拡大で注目を集めるオーストリアのイノベーション政策−

科学技術動向研究センター特別研究員 清貞 智会


 2004年1月、最大10カ国の中東欧諸国がEUに加盟する予定です。これを機に、地理的にEUの中心を占めるオーストリアが注目を集めています。
 オーストリアは、ハプスブルグ帝国の没落後、「大国」のイメージが薄れていますが、「会議は踊る」で有名なウィーン会議を開催し、あるいはIAEA(国際原子力機構)、UNOV(国連ウィーン本部)、OPEC(石油輸出機構)、UNIDO(国連工業開発機構)等の国際機関の本部を誘致する等、ユニークな戦略で国際的な発言権を強めています。

 このオーストリアで、最近、R&D活動が活気付いています。オーストリア政府は2000年7月11日、当時1.8%だった研究開発費の対GDP比を、2002 年に2.0%、2005年に2.5%に増加させる目標を発表しました(図2)。2.5%といえば、日本よりは低いですが、米国とは同等で、他のEU諸国やOECD加盟国の平均値よりも高い値です(図2)。このようにオーストリア政府は積極的にR&D活動をバックアップする姿勢を表明しています。


 2002年には、教育・科学・文化省(Bundesministerium fur Bildung, Wissenschaft und Kultur Minoritenplatz)が、官民共同のゲノム研究プロジェクト「GEN-AU」を開始する予定です。同「GEN- AU」は9ヶ年プロジェクトで、研究開発投資は総額1億ユーロになる見込みです。同プロジェクトは、ポストゲノムの基礎研究を進め、新しい医療法や熱効率の高いエネルギー利用技術等の開発へ結びつけることを目標としています。

 同じく教育・科学・文化省は、2002年にAUSTRONプロジェクトをスタートします。同プロジェクトは、ESS(欧州核破砕中性子源)プロジェクト、SNS(米国核破砕中性子源)プロジェクト、FRM II(ミュンヘン研究炉Ⅱ)プロジェクトおよびJJP(日本原子力研究所と高エネルギー加速器研究機構の共同プロジェクト)に並ぶ加速器プロジェクトで、高密度の中性子線を利用して微細な物質構造を解析し、バイオテクノロジーやマテリアルサイエンス、化学、材料科学等の研究開発に役立てる予定です。同プロジェクトには3億ユーロ強が充当され、中東欧諸国、イタリア、スイス、トルコ等の研究者約300名が参加する見通しです。元々、中東欧地域には核物理分野やバイオ関連の優れた研究者が多く、AUSTRONプロジェクトで彼らのポテンシャルを最大限に引き出すことによって、革新的な技術が生まれることが期待されています。

 これまで、私の中でオーストリアは、「ウィーンフィルの小沢征爾氏が指揮した新年の演奏」や、「大統領が主催するオペラ座の舞踏会」等を連想させる国でしたが、今回の訪問により、「積極的に最先端の研究開発を進める国」、「東西ヨーロッパのゲートウェイとして今後、大きく飛躍することが期待される国」といった印象に変わりました。今後、同国がどのようにイノベーションを展開していくかウォッチしていきたいと思います。


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Ⅲ.最近の動き



○国立教育政策研究所との研究協力に係る意見交換

企画課長補佐 宮本  久

 2月22日午後、国立教育政策研究所幹部9名が当研究所を訪問し、今後の両研究所の協力について意見交換を行いました。当所間宮所長、教育政策研伊勢呂所長の挨拶に続き、当所斎藤課長及び担当グループ、教育政策研吉田研究企画開発部長より、両研究所の最近の活動状況、OECD生徒の学習到達度調査(PISA)や国際数学・理科教育調査(TIMSS)、科学技術に関する意識調査、人材育成に係る調査研究活動等が報告され、今後の理解増進や人材育成のあり方、両研究所の協力のあり方について活発な意見交換が行われました。
 今後、従来より両研究所で行ってきた科学技術と教育に係る政策の融合に向けた研究協力をさらに強化し、定期的な意見交換の場を持つとともに、理解増進、人材育成を中心とした調査研究について、引き続き実務担当レベルでの協力に積極的に取り組むこととなりました。

○ 主要来訪者一覧
 
・2/15Dr. Iris Wieczorec:ドイツアジア問題研究所
・2/22伊勢呂裕史他:国立教育政策研究所(写真参照)
・2/26Dr. Jean-Marie Cadiou:IPTS所長及びProf. Arie Rip:オランダ・ツウェンテ大学教授
・3/4Dr. Jean-Claude Gavrel:カナダNCEプログラム・ディレクター
・3/5王   元:中国科学技術促進発展研究中心主任
・3/12Ms. Helen Connell:OECD/DSTIコンサルタント

○講演会・コンファレンス
 
・2/26「欧州の科学技術政策動向」 
 Dr. Jean-Marie Cadiou:IPTS所長及びProf. Arie Rip:オランダ・ツウェンテ大学教授
・2/28-3/1「21世紀における科学技術システムの再構築と科学技術政策の新しい役割」
 科学技術政策研究所 国際コンファレンス
・3/4「カナダのイノベーション戦略とCOEネットワークの継続的役割」
 Dr. Jean-Claude Gavrel:カナダNCEプログラム・ディレクター
・3/5「中国科学技術政策の動向」
 王   元:中国科学技術促進発展研究中心主任

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文部科学省科学技術政策研究所広報委員会(政策研ニュース担当:情報分析課)

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