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No.158 2001 12
文部科学省 科学技術政策研究所
NATIONAL INSTITUTE OF SCIENCE
AND TECHNOLOGY POLICY



2001年、政策研の研究成果


 
目次 [Contents]  Ⅰ.海外事情 新たなイノベーション政策の構築に向けた挑戦 第3調査研究グループ主任研究官 柿崎文彦

第3回日独ハイテクベンチャーワークショップ報告 第1研究グループ客員研究官、高知工科大学大学院教授 前田 昇

Ⅱ.トピックス
科学技術政策研究所国際シンポジウム2002の開催のご案内 第2研究グループ

科学技術に係るモラルに関する調査 (社)日本技術士会 企画部長 吉水正義

Ⅲ.最近の動き 科学研究費補助金の申請 企画課業務係長 宮本祐吾





Ⅰ.海外事情



新たなイノベーション政策の構築に向けた挑戦 ―
 クラスターと産学連携、そしてイノベーション・システムへ ―

第3調査研究グループ主任研究官 柿崎文彦

 今、世の中はものすごい速さで変化しています。社会や経済もさることながら、科学技術に注目すると、例えば、情報技術(IT)やライフサイエンスなどの領域では、R&Dそのものの進化がとても急速です。こうした状況のもと、世の中のニーズに対応できる技術革新(technological Innovation)の加速のため、制度や環境の整備の視点からもイノベーション政策に対する関心が世界中で高まっています。
 10月14日〜10月28日の日程で、筆者は地域イノベーション・システムの調査研究に関連して、3つのOECD専門家会合出席と、EU研究総局(ブリュッセル)及びEU統計局(ルクセンブルグ)訪問の機会を得ました。なお、出席した会合は以下のとおりです。
① クラスター・ネットワーク政策(Cluster- and Network-oriented Policies)会合(ウィーン):本報告末尾の参考文献に示す通りのレポートが刊行されています。
② 企業R&Dと科学技術政策(Changing Strategies for Business R&D and Their Implications for Science and Technology Policy)ワークショップ(パリ):講演ドキュメントは、末尾に示すウエブ・サイトから入手できます。また、2002年に刊行予定の「Science, Technology and Industry Outlook」で、この会合のエッセンスが紹介されることになっています。
③ フラスカティ・マニュアル(科学技術統計の収集手法)改訂のワーキング会合(パリ):2002年内の改訂マニュアル完成に向けて、文書化が進められているところです。
 上記の会合①及び②は、現在、日本の科学技術政策の中で、大きな関心事項の一つとなっている「産学連携」や「知的クラスター」について、今後そうした施策を実効的に進めるためにどのような政策研究が必要になりますか?という問に対して示唆を与えるものと考えます。

クラスター・ネットワーク政策会合
 まず、「クラスター」の概念は、産業集積(地理的な集積)、産業連関(付加価値の連鎖)等、国によって様々な状況となっています。「クラスターとは…?」という国際標準を作る動きはなく、「クラスター」が実体として把握できるサイズのイノベーション・システムであることから、クラスターの機能を効果的にする方法等が議論の対象になっていました。つまり、クラスターを構成している企業、大学、政府機関の相互のコミュニケーション、それを通じた知識移転を進める政策が何であるかということです。
 例えば、オランダでは10年前にクラスター政策を導入しています。その基本的な考え方は、「競争による選択と集中」と「対話の促進」で、特に後者については、政府機関あるいは非営利機関の仲介の下、技術のプロデューサーとユーザーの意思疎通を向上させることができたようです。ユーザーの求めていることが明確になったため、技術やサービスを提供する側においてスピンオフがかなり起こっているとのことで、もちろん、スピンオフをサポートするインキュベータの機能もしっかりしているということです。
 「ネットワーク」については、個々のクラスター構成要素、例えば企業と企業、企業と大学等の間の意思疎通をどのようにすれば実りの多いものにできるか?また、そうしたネットワークの形成を支援するために、公的な機関はどのように努力すればよいか?などが議論されていました。ここで紹介された「グッド・プラクティス」からは、イノベーションを進めるためには、まず「目標を明確」にし、「適切な相手」を知り、「対話」を行い、「信頼」を得て、様々な「知識」を活用する、ということが必要であると考えられます。

企業R&Dと科学技術政策のワークショップ
 OECDの研究開発統計によれば、研究開発投資全体の2/3は企業セクターによるものです。グローバル化の流れの中、産学のパートナーシップ、ベンチャー・ビジネス、Regionalisation(地域に着目すること)について、1990年代の後半以降、関心は高まるばかりです。このワークショップでは、以下に示す5つのセッションの下、企業の方々によるグッド・プラクティスの講演を中心に意見交換が行われました。
・企業R&Dの主要動向(Overview of Key Trends in Business R&D)
・新たな企業R&Dモデル(Towards A New Model of Business R&D)
・知識創造・習得のネットワーク(Networks of Knowledge Creation and Acquisition)
・企業R&Dのグローバル化(Globalisation of Business R&D)
・科学技術政策の強化(Strengthening of Science and Technology Policy)
 企業の技術担当リーダーの目には、ビジネスの機会を拡大するためのR&Dはどうあるべきか?ビジネスと技術のリンケージはどのようにあるべきか?が最も重要な課題になっています。特に、市場の変化を積極的に受け止め、R&Dの期間を短縮することが重要な戦略の一つに位置付けられています。そのためにはR&D資源を選択し集中させる必要があり、R&D資源のクリティカル・マスを確保する目的から、研究指向の大学や公的な研究機関とのパートナーシップが必要になります。次に、アウトソーシングとアライアンス。自分にないものは、信頼できる他者の協力を得る。そして、短期間で既存の知識と新たな知識を統合するために、小回りのきく集団(ベンチャービジネス)が適している、ということです。
 グローバル化が進んだため、パートナーとなり得るチームやグループは世界中どこでも見出すことができます。そうしたエクセレンスとのネットワークを構築することで、実質的に昼夜を問わずR&Dを実施することが可能とも言われています。一方、R&D拠点周辺のニーズ発掘は、貴重な市場情報になりますから、異業種企業との提携・協力、あるいはコンソーシアムに参加することなど、世界中の多様なパートナーとのコミュニケーションを深めるうえで「地域に着目すること」がクローズアップされています。
 また、科学技術政策の課題としては、知的所有権、イノベーションに適応可能な人材の育成・トレーニング、資本環境の整備(ベンチャーキャピタル)等、制度におけるイノベーションに関することのほか、ベンチマーク(現状を把握するための指標の開発とベスト・プラクティスの追求)の実施についても指摘されました。
 多くの国の多くの方々の考えを知ることとなりましたが、なかでも印象に残っている発言があります。それは、「孤立からはイノベーションが生まれない」。と言うものです。競争と協調についての思いを新たにした次第です。

【参考文献・URL】
1:「Innovative Clusters; Drivers of National Innovation Systems」, OECD (2001).;
2:「Innovative Networks; Co-operation in National Innovation Systems」, OECD
3:「Innovative People; Mobility of Skilled Personnel in National Innovation Systems」, OECD (2001).;
 OECDのNISプロジェクトは1997年に開始され、「クラスター」、「ネットワーク」、「人材」等のフォーカス・グループを結集し議論が行われました。
ここに示した文献は、この過程で作成された一連のワーキング・ペーパーの集大成となっています。筆者の論文(共著)も、「Innovative Clusters」に掲載されています。
http://webnet1.oecd.org/oecd/pages/home/displaygeneral/0,3380,EN-document-notheme-1-no-20-17953-0,FF.html



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第3回日独ハイテクベンチャーワークショップ報告
− 独のベンチャー育成政策と産官学クラスター、その後の進捗

第1研究グループ客員研究官、高知工科大学大学院教授 前田 昇

ワークショップ
 「ハイテク及び環境技術に関する日独協力評議会」主催の第3回日独ワークショップ「環境・ハイテク分野の新規創業」が11月26、27日ベルリンで開催された。昨年は科学技術政策研究所や科学技術振興事業団(JST)等の共催で東京で開催されている。昨年度までの植之原氏(前政策研顧問)から川崎宇宙開発委員会委員(前JST理事長)を経て、現在は興JST専務理事が評議会委員として担当されている。
 今回は、鹿島建設(株)建築技術本部・本部次長に出向中の永野前科学技術政策研究所・総務研究官を筆頭に、新規事業志向型研究開発成果展開事業(プレ・ベンチャー事業)関係者4人、RSP事業に係わる北海道、群馬県、愛知県、熊本県の科学技術コーディネーターを含む地域事業推進関係者5人の計10人がJSTから出席した。独側は、日独評議会ドイツ側委員であるドイツ経済合理化・イノベーションセンターのフランツ会長をはじめ、連邦学術研究省フォン・ファイデン部長、ライナー参事官、リップサス・ベルリン経済専門大学教授等約20人が出席した。
 フォン・ファイデン、永野両氏の基調講演の後、大学からの起業、プレベンチャー事業の事例報告、旧東独地域での医療技術起業事例報告、日独ハイテク企業各12社のケーススタディとパネルディスカッション、ビオレギオ、EXIST、イノレギオ等レギオ方式による政策のその後の展開、地域起業推進政策、各地の事例報告等が報告・討議された。ワークショップ終了後、11月28日〜30日まで、ミュンヘン、ドルトムント、ケルン各地の産官学結合クラスター及びベンチャー企業を訪問した。下記にそのうちの2点について述べる。

レギオ方式による政策のその後の進展
ビオレギオ
 1995年に開始したバイオクラスター三地域創出(ミュンヘン・ケルン・ハイデルベルグ)戦略は大成功を収め、英国を抜き欧州一位となる目標を達成し2001年度に終了するが、三地域の更なる発展の為、同地域のフォローアップをどうするか考えている。
EXIST
 1997年に200地域の応募で開始した大学からの起業促進ネットワーク・クラスター五地域創出(カールスルーエ、シュツットガルト、ドレスデン、ブッパータール、イルメナウ)戦略は、その五地域の大学生による起業を援助するEXIST−SEEDを含め予定通りの成果をあげているので、EXIST−Transferのプロジェクト名称で、あと8〜12地域を加えていく予定。
イノレギオ
 1999年に開始した社会主義化で後退した旧東ドイツ地域の伝統的な地域技術を再建し、イノベーションを起こさせる戦略は、444地域の応募に対し現在23地域を認定し進めている。工作機械、IT、バイオ、造船、楽器、自動車等、地域に根ざした産業技術は地域ごとに多様である。各地域内でのネットワーキング、地域間のネットワーキング造りを目指している。将来は産業ごとに世界ネットワークをねらう。

産官学結合クラスター ミュンヘン郊外のジーン・バレー
 ビオレギオの一番の成功例ミュンヘン郊外マーチンスリード一帯は、ジーンバレーと呼ばれている。その中央に有名なBioM株式会社(http://www.bio-m.de)がある。スタッフは11人で、約8億円の資本金の最大株主はバイエルン州である。他に銀行やベンチャーキャピタル、製薬会社等が株主である。ビオレギオ申請時に目玉として創出したバイオ創業支援のワンストップ・ウインドウ会社である。インキュベーションセンター機能とベンチャーキャピタル機能を持ち、マーケティング、会計、特許、政府援助金、大学、製薬会社、外国政府等あらゆるところへのネットワーキング機能を無料で果たしてくれる。

 ミュンヘン地域でのバイオベンチャー企業数及び従業員数は1996年の36社から2000年には107社に増加し(図1参照)、雇用数は1996年の300人から2000年の2500人にと数年間毎年約70%増を続けている(図2参照)。これはドイツ全体の1996年の173社4000人から2000年の332社10670人の約30%である。参考までに欧州全体では、1996年1036社39000人、2000年1570社、61100人である(出典:Ernst & Young)。

 ジーンバレーには公的基礎研究機関マックスプランク協会のバイオ化学・神経バイオ研究所やGSF(環境・健康国立研究所)、ミュンヘン大学(LMU)遺伝子研究センターやメルク、バクスター等の大手製薬会社が近接している。また多くの製薬会社が引っ越してきている。マックスプランク研究所からは13社、GSFからは9社、LMU研究所からは12社、合計34社のバイオベンチャー企業がメディカルエンジニアのスピンオフにより創出されている。またその多くはBioM社のインキュベーションセンター出身でBioM社のリードインベスターとしてのべンチャーキャピタル資金を受けている。ミュンヘン地区でこの5年間ですでにバイオ関連7社がIPO(株式公開)している。
 20社入っているBioMインキュベーションセンターの一社であるAXXIMA社(http://www.axxima.com)を訪問した。社長は独政府の援助で2年間日本で研究生活を送った経験があり、感染症関係のバイオベンチャーであるが、2年前創設ですでに8ブースの部屋を借り、多くの研究機器をそろえ50人の社員を抱えている。アメリカのベンチャーキャピタルから35億円のリスクマネーが入ることが決まっており、上場を意識している。売上はまだ無いが、製薬会社とのマイルストーンペイメントで研究費をまかなっている。

ドルトムント・クラスター
 ドルトムント市郊外の電車の駅前にある広大な敷地の中に大学とテクノロジーパークが東西にありその真中に挟まれるようにベンチャーのインキュベーションセンターを持つテクノロジーセンターがあり、その周りにアン・インスティチュートがある(図3)。同時に公設基礎研究所であるマックスプランク協会の分子生理学研究所と公設応用技術研究所であるフランホーファ協会の材料研究所がその南北に接して位置している。大学生2.5万人とテクノロジーパーク200社8千人、その他を加えて合計4万人ほどのハイテク集積である。

 テクノロジーパーク(写真)には、インキュベーションセンターであるテクノロジーセンターから孵化し従業員500人の中堅企業にまで育ち、2000年に最初のIPO(株式公開)を行った半導体企業EL−MOS社や2番目のIPO企業であるソフト開発のPRO−DB社の様に、ここから育った多くのハイテク・情報技術企業等が活動している。まさに研究開発から応用研究、インキュベーション、ベンチャー起業、中堅企業への成長と、プロセスのすべてが一ヶ所に集合している姿は壮観である。
 ドルトムント・テクノロジーセンターは1985年にドイツで初期に設立された全国にある300のテクノロジーセンターの一つで、その所長のバルノフスキー氏は、その全国組織であるADT(イノベーションテクノロジー協会)会長を今秋まで兼務していた。インキュベーションセンターにいる60社は3年から6年で出て行き、その半数はテクノロジーパークに移る。

 ベンチャーの内訳は、ソフトウエア・情報関連企業が約33%、ハイテク関連企業が約20%である。ベンチャー企業の約5%は大学教授が起している。インキュベーションセンターの家賃は各種事務サービス込みでDM250(12,000円)からDM600(3万円)くらいである。このハイテク集積地の魅力はあらゆる分野の連携・コミュニケーションがFace to Faceで即時に可能なことである。情報は距離の2乗に反比例するといわれるが、この近さは技術移転には魅力的である。まさに産官学「連携」というより産官学「結合」であるといえる。
 これら独ミュンヘンのジーンバレーやドルトモントのITクラスターは、有名なフィンランドのオウル市のテクノポリス、メディポリスと並んで、シリコンバレーに匹敵する産官学結合を創出している。文化の全く違うシリコンバレー型ではなくこれら「イノベーションポリス」と呼べる欧州型クラスターの日本への応用が今後の鍵である。

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Ⅱ.トピックス



科学技術政策研究所国際シンポジウム2002の開催のご案内


第2研究グループ


「21世紀における科学技術システムの再構築と科学技術政策の新しい役割」
NISTEP International Symposium '02: "New Articulation of Science and Technology Systems"

1.開催趣旨
 最近20年くらいの間に進んでいる、冷戦下の科学技術システムから新たな科学技術システムへの大きな転換をテーマとしています。産学官のそれぞれのセクターおよびその相互関係に、組織的・機能的にいかなる変化が生じつつあるのか、それは科学技術自身のどのような変質によるものなのか、また科学技術活動にどのような変質を要請するのか、さらに、科学技術政策、イノベーション・ポリシーの役割はどのようなものになるべきなのか。本シンポジウムではこれらの問題について理論的検討を行うと共に、世界各国の事例について検討を行い、新しい科学技術システム像を描出することを目的としています。

2.開催日 平成14年2月28日(木)〜3月1日(金)

3.会場 サイエンスプラザ(科学技術振興事業団東京本部) 大会議室(地下1階)
      住所:東京都千代田区4番町5−3
      最寄りの交通機関:営団地下鉄有楽町線「麹町駅」(6番口)より徒歩約5分
都営新宿線「市ヶ谷駅」(A-1-3番口)より徒歩約10分
JR「市ヶ谷駅」より徒歩約10分

4.主催 文部科学省科学技術政策研究所
      共催 社会技術研究フォーラム 後援 (財)つくば科学万博記念財団

5.プログラム
2002年2月28日(木)
  9:00− 参加受付
  9:30− 9:40 開会挨拶 間宮 馨(科学技術政策研究所 所長)
  9:40−10:10 キーノートスピーチ 小林 信一(科学技術政策研究所)
 10:10−11:00 講演1Re-Thinking Science Helga Nowotny(スイス連邦工科大学:ETH)
 11:30−12:20 講演2「プログラム科学」論 吉田 民人(日本学術会議)
 13:50−15:10 セッション1
  [産学関係の変化と新しい機能、組織の出現]
   Andrew Webster(英国 ヨーク大学)
   伊地知 寛博(科学技術政策研究所)
 15:30−16:50 セッション2
  [科学技術と市民:新しい公共空間の創出]
   Michel Callon(フランス パリ高等鉱山学校)
   小林 傳司(南山大学)
 17:00−18:20 セッション3[科学技術とガバナンス]
   David Guston (米国 ニュージャージー州・ラトガース大学)
   富澤 宏之(科学技術政策研究所)
 18:40−20:00 レセプション
2002年3月1日(金)
9:30−10:30 ケーススタディセッション1[科学技術政策の新展開]
  高志前(中国 科学技術促進発展研究中心)
  Eun-Kyoung Lee(韓国 科学技術政策研究院)
10:50−12:20 ケーススタディセッション2 [多様なコラボレーション]
  梶 雅範(東京工業大学)
  Michael Guggenheim(スイス ETH)
  Ragnhild Sohlberg(ノルウェー ノルスクハイドロ ASA)
13:50−15:40 セッション4 [21世紀の科学技術と政策]
  Arie Rip(オランダ ツウェンテ大学)
  Sheila Jasanoff(米国ハーバード大学)
  藤垣 裕子(東京大学)
16:00−17:20 パネルディスカッション
  進行 中島 秀人(東京工業大学)
  パネリスト Arie Rip
   Andrew Webster
   Michel Callon
   Sheila Jasanoff
   下田 隆二
   藤垣 裕子
17:20−17:35 クロージング・リマークス Helga Nowotny(スイス ETH)
17:35−17:40 閉会挨拶 下田 隆二(科学技術政策研究所 総務研究官)

5.申し込み方法
申込み締切: 平成14年2月8日(金)
定 員  : 120名(先着順)
参 加 費 : 無料
使用言語 : 英語・日本語(日英同時通訳付き)
申 込 先 : 科学技術政策研究所 国際シンポジウム'02事務局
       ・FAXによるお申込み FAX番号:03-3500-5244
       申込書は、下記URLからも入手できます。
       http://www.nistep.go.jp/conference/is2002_j.html

お問い合せ先
文部科学省科学技術政策研究所第2研究グループ
TEL: 03-3581-0968 FAX: 03-3500-5244
科学技術政策研究所URL:http://www.nistep.go.jp


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科学技術に係るモラルに関する調査

(社)日本技術士会 企画部長 吉水 正義


○調査の背景
 現代の経済社会では、科学技術の果たす役割が大きくなっている反面、安全問題や環境問題を生み出すなど社会に負の影響を与える状況も拡大しています。
 これに関し、科学技術に関する安全を重視し、公衆の安心を確保する観点から、科学技術に携わるもの全てについてその技術能力を向上させること、及び業務の遂行における職業倫理を徹底することが重要です。
○調査の目的
 そのような背景のもとに、技術者は企業等の組織倫理に過度に依存して業務を遂行するのではなく、技術者個人の自律的な責任によって、業務を遂行することが求められるようになってきました。また、国境を越えて活躍できる技術者の国際相互承認が進捗し、我が国においてもその運用が開始されました。こうしたことから、技術者が自国の技術者倫理規程を守り、同時に、業務を提供する相手国の倫理規程も守ることが求められるため、その考え方を整理・確認することとしたものです。
○調査の骨組み
 「科学技術に係るモラル」あるいは「技術者の倫理」というテーマは茫漠としているので、先ずその骨組みから構想しました。技術者の倫理とは何かという学術的な定義を目指すよりも、我々の社会がなぜ技術者の倫理を求めるかということを考察の基準にすえ、以下に、技術者倫理体系のモデルとして「法と倫理の関係」、及び技術者倫理教育の構築として「技術者倫理のイメージ」、この2例の提案を紹介します。

法と倫理の関係
  モラルは人が対人関係において、してよいこと、してはいけないことを識別し、判断する基準をそなえていて、その判断によって行動しようとする意識(又は感覚)です。モラルに基づく判断を規範の形にしたのが倫理であり、技術者についてのそれが、技術者倫理です。
 人々の意識に、モラルと常識があります。それが源泉となって、規範が発生します。主としてモラルから倫理が発生し、主として常識から法が発生し、こうして法と倫理が我々の社会の規範となるのです。
 共通のモラルがあるといわれながら、実際にはしばしば、モラル上の不一致に出会います。モラルにおける共通性と不一致は矛盾するものではありません。法にせよ倫理にせよ、規範といわれるものには「行為規範」としての側面と「評価規範」としての側面があります。人々は、一般に、大まかな行為規範では一致し、細部についての評価規範において不一致が起きるものです。

技術者倫理
 倫理と法が補完関係にあることは述べました。ある職務に従事している技術者が、自分の職務にどのような法律が関係していて、それが、規範としてどこまで有効に作用するかを知らなければ、自分についての倫理を具体的に理解することはできません。
 そうであれば、技術者倫理は、科学技術、倫理、さらに法が加わった三つが複合的に融合するものでなければならないでしょう。右図に技術者倫理のイメージとして、三角座標を組立ましたが、その置かれる場は、社会です。その座標の上に技術者の倫理があると見ることとします。
 理工系の教育においては、科学技術以外の2軸(倫理、法)それぞれの知識を融合的に広げるべきところですが、従来の手法ではそれぞれ専門の先生方(倫理は文学部の先生、法は法学部の先生)にお願いしましょうという「寄せ集め方式」でした。この3本の軸が共通の原点を持つことがありませんでした。分科ごとに独立して、分科ごとの専門家が自分の用語で学問を講義しました。ですから科学技術、倫理、法の三つの複合的な融合といっても、よほどの決意を持って取組まなければ、この国における技術者倫理の教育が期待通りの成果を得ることは難しいでしょう。
○最後に
①技術者のモラルや倫理では、倫理教育を担うのは通常年配者ですが、年長の技術者よりむしろ、若い人たちに大きな可能性があることから、教育によって若い人たちのモラル指向の天分を損なわないこと。
②技術者の倫理教育にできることは、技術者としての生活において倫理の実現を妨げる要素があるときそれに対処する手がかりを与えること、そして、それに立ち向かう勇気を与えること。
③技術者倫理を徹底するためには、社会全体が技術者倫理に対してよく認識し、技術者が属する企業等のあらゆる組織社会の一員として、技術者の倫理行動を支援する態勢を整えること。
④我が国の倫理教育を含む継続教育に携わる政府機関、大学、産業界等機関並びに国外の政府機関、学協会、高等教育機関等との密接な連携のもとに、よりよい継続教育、国際的な整合性の図られた継続教育の構築・実施について、今後とも努力していくことがさらに必要と思われます。
○謝辞
 本調査にあたっては、(社)日本技術士会内に技術者倫理に関係する有識者から構成される調査委員会を設置し、委員の方々に本調査の計画、経過及び結果についての貴重なご意見を頂きました。
 「科学技術と一般社会」分野においても学識の深い当研究所小林信一第2研究グループ総括主任研究官のご参加いただき、奥行きの深い議論の展開にご貢献いただいたことは誠に幸運なことでした。本調査が緒についたばかりであることから、広い分野に蓄積の多い本研究所のご支援ご協力を今後ともお願い申し上げる次第です。

1 平成12年度科学技術振興調整費による。

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Ⅲ.最近の動き



○科学研究費補助金の申請

企画課業務係長 宮本 祐吾

 当研究所は文部科学省への移行を契機に、本年9月、長年の懸案であった「科学研究費補助金申請機関」の指定を受け、これに続いて11月21日、14年度分の応募書類一式(計8課題)を日本学術振興会に提出しました。いずれも不慣れなことばかりでしたが、当研究所においても競争的資金拡充の流れに乗るべく、所員一丸の頑張りによって、一連の作業を無事終えることができました。機関指定申請に当たっては、行政職職員が調査研究を行うことの特殊性、人文社会系に共通する論文の少なさ等の説明、14年度の応募に当たっては、適切なカテゴリーの選択、コード番号の記載、申請書の色分け、用紙の選択、糊づけ等細まで続きました。
 現在、14年度予算案の折衝作業も大詰めを迎えていますが、競争的資金の大幅拡充が行われる中、一般研究所予算は大変厳しい状況に置かれており、科学研究費補助金を含めた競争的資金の獲得は研究所の運営に欠かせないものとなっています。科学技術政策の諸問題を幅広く扱う当研究所にとって、競争的資金の獲得は制度上少なからず困難を伴うものではありますが、今後我が国の将来にとって益々重要となる科学技術の発展、政策の充実に向けて、今後とも更に頑張っていきたいと思いますので、皆様のご支援、ご協力をお願いいたします。

○ 主要来訪者一覧
 
・11/8台湾科学技術関係者調査団、JST紹介調査団
・11/8Dr. Anung Kusnowo:インドネシアLIPI 工学科学担当次官
・11/28Dr. Hahn, Seong-Ryong:韓国ITEP R&D Performance Management Team Reader

○講演会・コンファレンス
 
・11/20「バイオインフォマティクスの最近の動向とこれからの課題」
 高木 利久:東京大学医科学研究所教授
・11/20「クリントン政権下での科学技術政策およびブッシュ政権下での変化の見通し」
 ジェラルド・ハネ:前米OSTP国際部長代理



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編集後記

2001年、新世紀初の1年が終わろうとしています。今年いったい何をしたのであろうかと、自問自答しつつ新年を迎える、ということを毎年しているような気がします。 今月号は2001年に発行された政策研の研究成果を表紙にしました。来年2月には政策研主催のシンポジウムもあり、今年以上に活性化した年にしたいと思っております。(k)




文部科学省科学技術政策研究所広報委員会(政策研ニュース担当:情報分析課)

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