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No.157 2001 11
文部科学省 科学技術政策研究所
NATIONAL INSTITUTE OF SCIENCE
AND TECHNOLOGY POLICY




 
目次 [Contents]  Ⅰ.レポート紹介 Transaction Costs and Capabilities as Determinants of the R&D Boundaries of the Firm
A Case Study of the Ten Largest Pharmaceutical Firms in Japan
(研究開発における「企業の境界」の決定要因としての取引費用と能力-日本の製薬企業10社についてのケーススタディ)
−DISCUSSION PAPER No.19−

第一研究グループ総括主任研究官 小田切 宏之

Ⅱ.海外事情
欧州諸国との新たな協力の開始
所長 間宮 馨、第1調査研究グループ上席研究官 鈴木研一

Ⅲ.トピックス 短くも有意義な1ヶ月
科学技術環境省科学技術政策・戦略研究所 科学技術予測部長 Dr. Nguyen Van Thu

Ⅳ.最近の動き
在京科学技術アタッシェ会の当研究所訪問企画課長
斎藤 尚樹




Ⅰ.レポート紹介



Transaction Costs and Capabilities as Determinants of the R&D Boundaries of the Firm: A Case Study of the Ten Largest Pharmaceutical Firms in Japan(研究開発における「企業の境界」の決定要因としての取引費用と能力-日本の製薬企業10社についてのケーススタディ)
−DISCUSSION PAPER No.19−

(英文版のみ)

第一研究グループ総括主任研究官 小田切 宏之

 企業はその活動のどこまでを企業内でおこなうのか、どこまでを他企業に発注し、委託し、あるいは共同でおこなうのか、これは「企業の境界」をどこに設定するかという問題である。製品生産を自前でやるのか、専門業者に外注してやらせるのか、原材料・部品をどれだけ内製するのか、販売チャンネルを自前で構築するのかなど、生産や販売における垂直統合に関わる「内製か外注か」(make or buy)の問題は企業の境界の問題として代表的なもので、特に、自動車や電機のような組立産業について幅広く調査・議論されてきた。
 企業の境界の問題は研究開発においても重要である。企業は新製品や新工程開発を目的として研究開発をおこなうが、その過程で外部の知識や能力を幅広く活用するからである。伝統的なモデルでは、基礎的な研究を大学などの公的機関がおこない、その成果は論文などで公知のものとされて、企業はそれらを活用しつつ研究開発をおこなって応用・製品化すると考えられてきた。しかし企業は、それ以外にもさまざまな形で外部知識・外部資源・外部能力を活用して自社の研究開発に生かしている。
 企業はどのような場合にその活動を内部でおこない、どのような場合に外部に(そしてどこに)発注・委託・共同するのか、これを決める理論として代表的なものが取引費用の理論と能力(ケイパビリティ)の理論である。取引費用の理論を中心的に論じたのはウィリアムソンで、市場で契約を通じておこなう取引には不確実性の存在や情報の偏在のためにさまざまな取引費用がかかることを強調する。この取引費用が高い場合には内部取引が有利となる。ただし、内部取引には、効率化へのインセンティブが減少することによるインセンティブ・コストや、エージェント(代理人)である組織メンバーが組織の目的以外の個人的な目的を追求することから発生するエージェンシー・コストがあるため、これらが大きいときには、市場取引が有利になる。一方、能力理論はペンローズの考え方を発展させたもので、それぞれの組織が異なる能力を持つことを重視し、最も高い能力を組み合わせることによる効率性を強調する。また、社内で能力を育成することの重要性をも強調する。
 外部能力の活用の方法としては、研究開発業務のアウトソーシング、技術導入、研究委託、共同研究を分けることができる。さらに技術導入は、導入後に追加的な研究開発活動することなしに生産販売に生かすことができるような「販売のための技術導入」と、導入企業が導入後に追加的な研究開発活動をおこなう必要があるような「開発のための技術導入」に分けることができる。また、共同研究は少数の間での共同と、コンソーシアムと呼ばれる多数の間での共同とがある。これらいくつかの活動を規定する重要な要因は「業務の定義可能性」と「成果の予測可能性」である。前者は、外部に依頼する業務をどれだけ明確に契約書に記載することができるかを示すもので、動物実験やデータ処理など定型的業務のアウトソーシングでは高く、研究における具体的作業が未確定のまま始まるような共同研究では低い。成果の予測可能性とは、その契約が実行される結果として得られるはずの成果を契約時にどれだけ予測できるかを示し、研究完了済みの技術を導入する場合には高い。一方、基礎的知識のための共同研究では、成果が生まれるかどうか、生まれたときにはどのようなものになるか、不確定性が高い。
 本論文では、これらのうち、アウトソーシングを除く技術導入、研究委託、共同研究をあわせて研究提携と呼び、日本の代表的医薬品メーカー10社につき、どのような提携をおこなっているかを調査した。1999年から2001年8月までに新聞報道された提携は10社をあわせ105件で、販売のための技術導入16件、開発のための技術導入27件、研究委託16件、共同研究(コンソーシアムやナショナル・プロジェクトを除く)36件であった。また、提携相手が国内のものが45件、国外のものが60件であった。下図はその分布を示している(共同研究を国内・海外両方の提携先と実施している場合があるため、図での共同研究数合計は35件である)。

 取引費用理論によれば、委託や共同研究では業務の定義可能性が低く、またフリーライダー(ただ乗り)問題のおそれも大きいだけに、距離的および言語的な理由から取引費用が高くなりがちで、契約締結や監視の費用も高い海外提携先とのものは少ないと予想される。実際にはこの予想は成立しておらず、研究委託は外国とのものの方が多いなど、取引費用理論にもとづく仮説を裏付ける傾向は見られなかった。また、外国の企業や大学との提携を結ぶ際に取引費用が少ないと見られる技術導入ではなく、むしろ研究委託や共同研究として提携する傾向があり、プロビット推定によってもこのことは確認された。このことから、取引費用仮説は説明力を持たず、企業が研究提携をおこなう場合には、能力の違いを利用して効果を上げることを最大の目標としているものと推論される。このほか、これら企業がおこなった特許の共同出願や、ナショナル・プロジェクトへの参加状況についても分析している。


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Ⅱ.海外事情



欧州諸国との新たな協力の開始

所長 間宮 馨、第1調査研究グループ上席研究官 鈴木研一


 2001年10月14日(日)〜10月20日(土)の日程で、欧州4カ国の科学技術政策研究に関わる計13機関を訪問し、我が方の近況を紹介するとともに、先方の動向を把握し、今後の協力関係について意見交換を行った。訪問先は、ベルギー、フィンランド、スウェーデン、およびオランダにある以下の各機関であり、フィンランドおよびスウェーデンの関係機関とは、それぞれ研究協力に関する覚書(MOU)を交換した。
1)ベルギー:EU欧州委員会研究総局 調整局<A局>及び人材局<D局>、
 未来技術・社会経済研究局<K局>
2)フィンランド:研究開発基金(Sitra)、国家技術研究センター(VTT)、技術開発庁(Tekes)、
 フィンランド・アカデミー、ヘルシンキ工科大学(HUT)
3)スウェーデン:イノベーション・システム庁(VINNOVA)、戦略研究財団(SSF)、
 カロリンスカ大学(KI)
4)オランダ:経済省、蘭科学研究機構(NWO)、
 蘭応用科学研究機構(TNO)-戦略・技術・政策研究所(STB)

1.EU
○ 欧州の研究活動を全体として、調和あるものに改善する欧州研究圏(ERA)構想を進めている。このための政策手段として、次期第6次研究技術開発枠組計画(2002〜2006年)を欧州議会に提案中。その総予算額は、175億ユーロで、現行計画の17%増。来年中頃決定される予定だが、満額確保の見込みである。また、次期枠組計画では、域外研究者を惹き付けるとともに、欧州の研究者を呼び戻すべく、流動性向上を軸とする人材関連の予算を一気に倍増する。さらに、次期枠組計画については、欧州域外を含む非EU加盟国に開放予定である。
○ エクセレンス網、統合プロジェクト等により、産学協力を強化中。また、各地域に対し、枠組計画への参加機会を提供し、各地域の関連機関を連携させることにより、地域の活性化を図っている。
○ 技術予測の結果が、EU内の各部局の意思決定に活用されるよう、各種会合、資金提供等を行っている。
○ EUと政策研の間で、地域科学技術政策、イノベーション調査等を中心に協力を一層拡大していくことで合意した。

2.フィンランド
10年前、不景気と貿易相手国ソ連の崩壊が重なり、経済成長率マイナス5%強、失業率20%という最悪の事態に陥ったが、挙国一致で科学技術に重点投資するとともに、林業等ローテク産業を活用しつつ、情報通信等ハイテクへの産業構造の転換を図った。この間、政府からの研究開発投資の総額は約3倍となり、その対GDP比は1990年の2.1%から急拡大し、2000年には3.3%になると予想されており、OECD諸国中第7位から一挙にスウェーデンに次いで我が国と並ぶ水準に達している(図-1)。

○ 世界的なIT化の波にも助けられ、10年前は輸入の半分だったハイテク製品の輸出が、輸入の倍近くとなった。また、全輸出品に占めるハイテク製品の比率も10年前は5%強で、OECD諸国中第10位だったのが、2000年には23%となり米、日に次ぎ英国と並ぶまでになった。この結果、1994年以降の経済成長率は、約5%と先進国の中で最高となっており、失業率も10%弱まで改善された(図-2)。

○ これは、他の欧州諸国からは、賞賛に価するサクセス・ストーリーとみなされており、スウェーデン等はフィンランドのやり方に学ぼうとしている。
 フィンランド自体、この成功の要因を分析して今後に活かそうとしているが、小国なるが故に意思決定が早かったということ、議会が好意的であったことの他、未だ解析し切れていない。
○ 今後については、社会構造上、他の産業からハイテクへの労働力移行が進みにくく、これまでのように簡単に失業率が低下していくとも思われない中で、2010年までに最も成功した3つの国の1つになることを目指して、国際級人材の育成と中核技術における研究・産業の国際競争力の強化を図ろうとしている。このため、技術開発庁(Tekes)においては、情報通信技術、バイオテクノロジー、物質技術、新生産およびプロセス技術を基幹分野として推進することとしている。
○ 議会の未来委員会、議会の所管するフィンランド研究開発基金(Sitra)、首相を議長とする科学技術政策会議、教育省傘下のフィンランド・アカデミーと大学、貿易産業省傘下のTekesと国家技術研究センター(VTT)が有機的かつ、効果的に機能しているように見受けられる。
政策研究については、VTTの技術研究グループが、イノベーションと産業再生、技術政策研究、技術予測と技術評価に関する興味深い研究を精力的に進めている。
○ 今回政策研とTekes/フィンランド・アカデミー間で協力覚書(MOU)に署名をしたが、これを機に、VTTの技術研究グループ等適当なカウンター・パートと具体的な協力を進めていくことで合意した。

3.スウェーデン
○ スウェーデンにおいては、過去数十年間、研究開発は高い優先度を与えられてきた。国全体のR&D支出の対GDP比は、1980年代から3%弱を保っていたが、1991年頃から急上昇し、1999年には3.8%とOECD諸国の中で最高となっている(図−1)。
○ 教育省が、政府の研究開発の調整に責任を有しており、教育大臣が研究諮問会議の議長を務める。この会議のメンバーの1人として政府は科学顧問を任命しているが、それが今回訪問したカロリンスカ大学ウィグゼル総長である。
○ 上記のとおり、研究開発投資に支えられて、全輸出品に占めるハイテク製品の比率は、1990年の10%強から1998年には15%に達している。しかし、この間にフィンランドに先行されてOECD諸国の中で5位から6位に後退している。
○ 隣国であり、人口も少く、一時は属国であったフィンランドの急伸は、スウェーデンに危機感をもたらしており、彼我の差の分析に対する関心を生み出しているように見受けられる。
○ このような危機感を背景に、1997年から、政府において、時代遅れとなった研究政策や行政組織の見直しが行われた。その結果、2001年1月に行政改革が行われ、それまで細分化された分野毎に基礎研究資金の調達・配分をしていた数多くの研究会議を統合した1つの研究会議、すなわち、スウェーデン研究会議と、イノベーションの支援をより効果的・効率的に行うため、既存の組織の関係機能を結集して研究開発を主導し、資金配分を行うひとつの行政庁、すなわち、イノベーション・システム庁(VINNOVA)が誕生した。
○ 基礎研究については、スウェーデン研究会議が、これまで困難だった境界領域や複合領域の研究を促進する条件を抜本的に改善し、才能溢れる研究者が独立の革新的な研究を発展させられるよう適切な支援を行うこととなった。また、政府は、研究政策について分析し、政策上の諸課題について助言する業務をスウェーデン研究会議に付与した。このほか、研究政策として、バイオ、情報通信、材料、環境、人文・社会、教育、芸術、健康、と言った重点分野に付加的投資を行うこととしている。
○ イノベーションを通じた成長を実現するためには、VINNOVAは、大学と企業と政界の3つを統合する必要があると考えている。
このうち、大学と企業は良くやっているが、インフラとなるべき政治家に問題があり、科学技術が政治課題になっていないことがフィンランドと違うということで、焦りを感じている。このため、ウィグゼル科学顧問を押し立てて、議員と有識者のフォーラムを作っており、我々が訪問した日にその第1回会合を開催していた。
○ VINNOVAは、フィンランドのTekesが、良好な実績を挙げていると評価しており、Tekesのようになることを目標としている。
また、VINNOVAは、分野と地域を重畳させたイノベーション・システムを志向しており、一例としてウプサラ大学にバイオを、またブレキンゲ大学に情報通信技術を集中させている。
○ 戦略研究財団(SSF)の基本戦略は、世界最高レベルで、かつ、スウェーデンの未来の発展にとって重要な研究のための環境整備を推進することであり、この一環として、研究リーダーを育成するためのグラント・プログラムを実施している。
カロリンスカ大学(KI)も独自のリーダーシップ・プログラムを実施している。
○ スウェーデンでは、科学者が知的財産権を持つ。これを活用するため、1996年にKIでは持株会社を創設することにした。
これを機に、起業に必要とされるシステムの要素をすべて取り揃えることとした。
まず、起業文化を確立するため経済学の教授をリクルートし、医療イノベーション・センターを創設した。ここで、産業技術と医療用バイオ・インフォマティクスの2つの研究を立ち上げた。資金は民間投資会社から集めた。
次に持株会社としてカロリンスカ・イノベーション会社(KIAB)を設立した。その運営のため、企業のトップ人材をリクルートした。さらに、資金を集め、カロリンスカ投資基金を創設し、KIに50%資金が還流するスキームを作った。現在、50日毎に1社誕生し、これまでに32社となっている。
また、10年後に8000人の雇用を見込んで、ストックホルム・バイオサイエンス計画を推進しようとしている。
VINNOVAのイノベーション・システム部門では、インパクトの予測・分析・評価を行うとともに、イノベーション・システムの研究を行っている。また、現時点でイノベーション調査(CIS3)はほぼ完了しつつあるとのこと。
○ EU欧州委員会の欧州科学技術調査ネットワーク(ESTO)の活動状況については、スウェーデンではあまり評価されていない印象を受けた。
○ 今回、政策研とVINNOVAの間で、MOUの署名を行ったが、これを機にイノベーション・システムの研究や、イノベーション調査について具体的な協力を進めていくことで合意した。

4.オランダ
○ オランダは、過去10年間経済成長率3%を維持してきているが、これは、構造改革、市場の開放、賃金レベルの切り下げを進めてきた成果とみなされている。
 この中で、毎年10万人の新規雇用を作り出して、10年前の失業率7〜8%を2.5〜3%に改善した。
○ その結果、労働市場がタイトになり、この状況を打破するには、イノベーションが不可欠との認識になってきている。このため、経済省にイノベーション局を新設した。
○ これまで、大学と産業との関係は希薄であったが、今後は、産業が大学に接近すべきであると考えている。そのため、学外に情報通信研究所を設立した。幸いに、これまで自ら研究開発を行ってきた大企業でさえも、大学との協力を求めるようになってきた。
情報通信、ポリマー、新規材料、食料(バイオ)の4つを重点分野としている。
○ オランダ科学研究機構(NWO)は、研究開発とファンディングを行う機関だが、最近、2002〜2005年を対象とする戦略を作成した。基本戦略は、9つの領域を重点的に強化することと、有能な人材を惹きつけること、の2つである。
○ これまでオランダは、有能な人材の育成には成功してきている。しかし、大学に残っても、教授になるまでは研究チームを持てないので、Ph.D.取得後、すぐに国内外の企業に就職していた。このため、NWOのR&D予算の1/4を若手に振り向け、早くチームを作らせて教授になるまで大学に残ってもらうことにする計画。
イノベーションについて、NWOは、①NWOの研究に企業を参加させる、 ②官民共同出資による共同プロジェクトを行う、 ③成果を踏まえて商業化する、という3段階方式を採用している。その1つに日本と共同開発中のバイオマス触媒がある。
○ オランダ応用科学研究機構(NTO))の戦略・技術・政策研究所(STB)は、職員60人で 社会・経済的視点からの研究とイノベーションの研究をしている。
○ ESTOに関しては、新しい4ケ年計画がスタートしたとの情報を入手した。これまで、対象が広範で、政策志向であったのを見直し、今後は対象領域を狭めて技術予測志向で進む見込み。また、技術のみでなく科学も含む9〜10の領域を対象とするダイナミック・ロードマップを作る計画。
○ 政策研がESTOに参加する場合、資金のやり取りが生じないAffiliated member が適当との助言を得た。
○ 今回の訪問を機に、各機関と今後具体的な協力を進めていくことで合意した。

5.所 感
○ 各国とも、置かれた環境により条件は異なるものの、若手研究者の育成、重点分野への投資、産学連携・イノベーションの推進などほぼ同様の方向へ進みつつあること、その中においても各自の手法はかなり異なることが分り、最新の現地情報をタイムリーに入手することの重要性を痛感した。
○ とくに、フィンランドがこの10年、ハイテクへ向けての急速な産業構造の転換、それに伴う経済の急成長を遂げていることに強い印象を受けた。これは、次の2つの要因によるものと考えられる。
①1990年代に景気がどん底まで落ち込み、科学技術に特化して必死で這い上がろうとした。
②人口約500万人と北海道と同等の規模であり、行政改革の意思決定が早かった。
ちなみに、携帯電話で世界のトップ企業となったノキアのGNPに対する寄与率は約3%程度と評価されており、ノキアのみで這い上がった訳ではないとみることができる。
○ 各国がフィンランドを優れたモデルとして、その経験に学びたいとの意識が明確に見てとれた。スウェーデンでもフィンランドに対する意識が顕著であり、VINNOVAがTekesを目標としていること、政界の関与を高めるため、議員の参加を求めてフォーラムを開いていたこと、政策研が始めたR&D投資の経済効果の結果を用いて議員の説得をしたいと言ったことに、その意識が良く表れていると感じた。スウェーデンでは、議会が科学技術問題への関心が薄く、予算配分がタイトになりつつあることに焦りを感じているようであった。しかし、KIウィグゼル総長兼科学顧問の強力なリーダーシップにより、ストックホルム・バイオサイエンス都市計画や、若手研究者指導育成プログラムが押し進められており、ここ数年の変化に十分注目する必要があると思われる。
○ オランダは、これまで国内から産出する天然ガスを輸出して潤っていたが、新たな産業を創出するため、イノベーションとベンチャー発掘に力を注ぎ始めたところであった。しかしながら、今のところ、フィンランドやスウェーデンのように革新的な科学技術の核が見つからず、模索中であり、我が国等から学ぼうとする真剣な姿勢が印象的であった。
○ 今回訪問した各機関は、一様に我が国の科学技術行政及び政策研の研究に強い関心を示し、今後具体的協力を進めたい意向を表明した。我が方としても、積極的に対応することとしているが、各機関との具体的協力の進め方については、当面、お互いの研究成果を英文化して迅速に交換することと、互いの国で行われる会合等への出張の機会を活用して、相互訪問を増やし、共同研究等につなげて行くことが適当と思われる。
○ 懸案であったESTOへの参加条件については、EUとの間で資金のやりとりが生じないAffiliated memberが適当との感触が得られたので、域外国産か之在り方にかかるEU側の詳細検討を待って、国際的ネットワーク強化の一環として、早急に参加のための手続きに着手すべきと考える。
以上

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Ⅲ.トピックス



短くも有意義な1ヶ月

ベトナム科学技術環境省科学技術政策・戦略研究所(NISTPASS) 科学技術予測部長 Dr. Nguyen Van Thu

 私はJSPSフェローとして9月20日から10月19日まで、科学技術政策研究所に在籍いたしました。この間の研究目的は「日本における社会・経済ニーズを実現するための技術予測の役割に関する事例収集・分析」です。受入研究者である科学技術動向研究センターの桑原センター長と、スタッフの皆さんから多くの示唆や協力を得て、政策研における私の研究は実り多く、また意義深いものとなりました。
わが国ベトナムは近隣諸国に比べると開発途上国に属します。さらに、現在、わが国は次のような点で過渡期にあるといえるでしょう。
・中央計画経済から国家が管理する市場原理への移行
・農業を基盤とする経済から産業化・近代化された経済への移行
・発展途上にある商品経済から世界に開かれた商品経済への移行
・科学技術開発における線形モデル(ソ連型)から非線形モデルへの移行
 いずれもベトナムにとって極めて大きな努力目標であります。これについては、「はたしてベトナムは新たな世界経済の中で近道を見いだせるのであろうか?」と問われるでしょう。
 その質問に対する回答を見つけるために、我々は後ろ向きになるのではなく前向きの考えに従うべきであると何人かの研究者が指摘しました。これが、わが国の科学技術環境省が農業・食品分野における技術予測の先行的プロジェクトに着手する決定を下した理由です。
 デルファイ法による予測調査では日本は先導的な立場にあります。我々はこの分野について日本の経験から大いに学びたいと思っています。政策研では、日本におけるここ30年間の技術予測調査に関して多くの事例について、桑原センター長とスタッフの方々と議論する機会を持つことができました。こうした経験により、私の日本の技術予測に関する理解はさらに深まり、系統的なものとなり、さらに私が得た暗黙知を明示的な知識にまで拡げることができたと思います。これは、今後の実践において意義あるものとなることでしょう。日本の専門家の方法論的アプローチや実践的な経験は、わがNISTPASS(科学技術政策・戦略研究所)にとって将来、大きな意味を持つことでしょう。ベトナムと比べ、日本は経済的にも科学技術開発においても極めて高いレベルにあり、様々な相違点もありますが、ベトナムに戻り日本での経験を我々の行っている仕事に反映させるために努力してまいりたいと思います。
 また政策研の他にも農林水産省の専門家にもお会いする機会に恵まれ、次のような興味深い課題について話し合うことができました。
・アジア地域における米の需要と供給についての予測
・日本政府の次年度の食料・農業政策
・メコンデルタ計画でのベトナムと協力関係にある日本の専門家による研究結果
 以上のことはこれからベトナムで始まる技術予測の試みに際し、有益な情報となることでしょう。
 私の知る限り、ベトナムに対する最大の援助国は日本であり、さらに、多くの分野でベトナムと日本との協力関係は年々増えています。しかしながら科学技術政策研究における協力はまだ緩慢であります。
 政策研とNISTPASSは科学技術政策研究において、その機能や役割に類似点があることに留意しなくてはなりません(参照 NISTPASSの組織図)。そこで、考慮すべき事項として次のような提案をしたいと思います。
 第一に、我々はベトナムの読者のために、経済発展の各段階における日本での科学技術政策に関するモデル・方法・改革の経験についての書籍をベトナム語に翻訳し、出版できればと考えます。これにより、さらに相互理解は深まり、協力関係の中から具体的かつ実りある成果が得られることを期待しています。
 第二に、日本側は、豊富な経験をもとにベトナムで科学技術政策に携わる管理職のためのトレーニングワークショップを組織することが考えられます。これを通じてベトナムと日本との相互協力をさらに促進させることができるでしょう。
 第三に、科学技術協力をさらに発展させるための例として、次のような興味ある共同研究があげられます。
・日本からベトナムへ効果的な技術移転が成功するための要因に関する研究
・ベトナム・日本間の科学技術協力における潜在的な可能性のある科学技術領域の調査
 政策研は科学技術政策研究に関しアジア・太平洋地域ではトップレベルにあり、この機会に、ハードな中でも創造的な仕事をしている政策研のスタッフを見てきました。1ヶ月という短い期間でしたが、ここで共に仕事ができたことをうれしく思っています。さらに今後も、政策研そして動向センターとの関係が続くことを願っております。


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Ⅳ.最近の動き



在京科学技術アタッシェ会の当研究所訪問

企画課長 斎藤 尚樹

 10月10日午後、在京各国大使館等の科学技術アタッシェ会(会長:カナダ大使館Hicks参事官)一行15名が当研究所を訪問、間宮所長挨拶に続き、斎藤企画課長より研究活動概況、下田総務研究官より中期計画、桑原科学技術動向研究センター長より技術予測調査につき各々ブリーフを行い、質疑応答の後、所長室にて懇親会を開催しました。
 当日は生憎の大雨の中ではありましたが、Zebrakovskyチェコ国大使はじめ参加したアタッシェ各氏の我が国科学技術政策及び当研究所活動への関心は高く、矢継ぎ早の鋭い質問に所員の側が苦労して応答する場面も見られました。ブリーフ終了後の懇親会では一転して和やかな雰囲気の下、井上科学技術・学術政策局次長や木曽官房国際課長他文部科学省本省からもゲストを迎え、アタッシェ各位との間で科学技術関連の話題や「お国自慢」に話の花が咲きました。懇親会終了直前には「野依教授ノーベル化学賞受賞」のビッグニュースもタイミング良く会場に飛び込んできて、「日本の科学技術の将来は明るい」とばかり一同大いに盛り上がり、2〜3年後の同アタッシェ会の当所再訪を約しつつ散会となりました。
 当所としては、科学技術政策研究分野における「国際的ネットワークの中核機関」を目指し、今後とも今回のような国内外への積極的情報発信に努めていく所存です。

○ 主要来訪者一覧

・10/11Mr. Jukka Salminiitty : 在京フィンランド大使館参事官
・10/31Mr. Hugh Richardson : 欧州委共同研究センター(JRC)副総局長
Dr. Maurice Boureneeu : EU駐日代表部首席参事官

○ 講演会・コンファレンス

・11/1「失敗学の構築」
畑村 洋太郎:工学院大学国際基礎工学科教授



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文部科学省科学技術政策研究所広報委員会(政策研ニュース担当:情報分析課)

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