政策研ホームページへ

No.156 2001 10
文部科学省 科学技術政策研究所
NATIONAL INSTITUTE OF SCIENCE
AND TECHNOLOGY POLICY




 
目次 [Contents]  Ⅰ. レポート紹介 地方公共団体が設置する公設試験研究機関における研究課題評価の仕組みに関する−考察
前第3調査研究グループ(現埼玉県総務部文書課主査) 特別研究員 新舩洋一

Ⅱ.海外事情
カリフォルニア州の挑戦 −21世紀に羽ばたく第二、第三のシリコンバレーを−
科学技術動向研究センター 特別研究員 清貞 智会

Ⅲ. トピックス
科学技術政策研究所中期計画について
企画課  藤原 志保
Ⅳ. 最近の動き




Ⅰ.レポート紹介



地方公共団体が設置する公設試験研究機関における研究課題評価の仕組みに関する一考察 −DISCUSSION PAPER NO.18−

前第3調査研究グループ 特別研究員(現埼玉県総務部文書課主査)新舩洋一



1 はじめに
 地方公共団体が設置する公設試験研究機関においても、その研究課題に関する評価が必要であるとの認識が高まってきている。平成12年3月に科学技術政策研究所で開催した地域科学技術政策研究会では「地方公共団体における研究評価の手法とあり方について」をテーマに学識経験者の講演及び地方公共団体の科学技術政策担当者からの施策説明が行われたが、42の地方公共団体から90人の参加者があり、活発な意見交換がなされた。また、平成12年度に科学技術政策研究所で実施した「地域における科学技術振興に関する調査(第5回)」において、地方公共団体の多くが何らかの形で公設試験研究機関における研究課題評価を実施していることが判明した。
 本レポートは、上記のような地方公共団体が設置している公設試験研究機関における研究課題評価に関する関心の高まりを踏まえて、研究課題評価を実施している地方公共団体の担当者へのヒアリング調査の結果を基に、今後の公設試験研究機関における研究課題評価のあり方についての筆者の私見を記したものである。

2 公設試験研究機関における研究課題評価の概要
 「地域における科学技術振興に関する調査(第5回)」において、平成12年度において、47都道府県及び12政令指定都市のうち、49団体において、一部の公設試験研究機関だけが実施している場合も含め、何らかの形で公設試験研究機関における研究課題評価が行われていることが明らかにされた。ただし、設置している公設試験研究機関すべてを対象とした全庁的な評価のための仕組みを有している団体は少なく、多くの団体においては、各公設試験研究機関が独自に研究課題評価に取り組んでいる状況であった。

3 全庁的に研究課題評価を実施している県の状況
 筆者は、今後、全庁的な評価の仕組みを構築しようとする地方公共団体が増えてくるのではないかと予想し、既にそのような仕組みを有していると思われる地方公共団体として宮城県及び高知県を、また、そのような仕組みを構築するための準備段階にあると思われる地方公共団体として秋田県及び兵庫県を選び、これら4県の科学技術政策担当者を訪ね、ヒアリング調査を実施した。
 宮城県と高知県では、産業系の公設試験研究機関を同一の部で所管し、それらの公設試験研究機関で実施する研究課題評価を全庁的な評価委員会で実施している点では同様であったが、評価委員会の委員構成(どのような分野の方を委員とするか等)、評価の進め方等の点で違いが見られた。
 秋田県では、平成12年度においては県庁の職員を含めた評価委員会を設け、研究課題評価を試行的に実施したとのことであり、平成13年度以降にあらためて評価委員会をどうするかを検討しているとのことであった。また、兵庫県では、公設試験研究機関のあり方について検討が行われ、その結果を踏まえて平成13年度以降に研究課題評価委員会の仕組みを立ち上げることを予定しているとのことであった。
 また、いずれの県も現在の仕組み、取組みをもって良しとせず、さらに良い仕組みを構築できないかを検討していることが強く感じ取られたので、本レポートを読まれて関心を持たれた方は、それぞれの県において、研究課題評価の仕組みがどのように進化しているのかについて、直接当該県を訪問し、担当の方に話を聞かれてはいかがかと思う。

4 まとめ
 ヒアリング調査の対象とした4県の公設試験研究機関における研究課題評価の仕組みは、それぞれに特色があり一様ではなかった。いずれも、自らの地域における公設試験研究機関の役割を明確にし、研究機関での研究課題評価をいかに行うべきかを考えた上で、評価委員会の委員構成、評価システム等を創意工夫して作り上げてきたためであると思われる。他の地方公共団体においては、自らの研究課題評価のあり方を検討するに当たっては、既存の評価のあり方を安易に模倣することなく、自らの地域における公設試験研究機関の役割は何であるのかを明確にし、研究すべきテーマ(課題)は何かをはっきりさせた上で行う必要があるのではなかろうかと筆者は考える。
 また、研究課題評価を行うに際しては、評価を行う側、評価を受ける側の双方に相当の負担がかかること等、研究課題評価を実施している各地方公共団体ではいくつかの課題を抱えている現状からして、各地方公共団体が独自に問題の解決を図るだけではなく、国が何らかの形で地方公共団体が抱える共通の課題を解決するために援助することもいかがかと考える。

  目次へ




Ⅱ.海外事情

カリフォルニア州の挑戦 −21世紀に羽ばたく第二、第三のシリコンバレーを−

科学技術動向研究センター 特別研究員 清貞 智会

 科学技術動向8月号(科学技術動向研究センター)の特集記事「カリフォルニア州技術革新イニシアティブの動向」 にて、現在、カリフォルニア州で産学官が一体となって進めている技術革新イニシアティブ(以下、CISIイニシアティブと呼ぶ)の概要を紹介しました。その後、8月下旬に同イニシアティブの中核機関である

・CALifornia Institute of Telecommunications and Information Technology (CAL(IT)2)
・California NanoSystems Institute (CNSI)
・Center for Information Technology Research in the Interest of Society (CITRIS)

を訪問し、各研究所のディレクターや研究開発部門を代表する方々から、研究開発ビジョン、ライバル機関との差別化、同イニシアティブ終了後(2004年〜)の生き残り作戦等についてお話を伺う機会に恵まれましたので、ここで皆様に感想をお伝えしたいと思います。

 CISIイニシアティブとは、カリフォルニア州各地に第二、第三のシリコンバレーを誕生させるため、産学官が一体となって20〜30年後を睨んだ技術革新のための基盤を構築するプロジェクトです。この背景には、20世紀後半にシリコンバレーが世界のハイテク中心地として栄えた成功体験をもとに、21世紀もハイテク産業で世界をリードしたいという同州の強い希望があります。
 同イニシアティブの実行機関は、カリフォルニア州立大学内に設立されたITを中心とするCAL(IT)2、社会における情報システムの果たす役割の研究を中心とするCITRIS、ナノ科学を中心とするCNSI、バイオテクノロジーを中心とするQB3 です。これらの研究所に産官学から人とお金が集まり、4年間をかけて先進的な研究開発および次世代のハイテク産業を牽引するリーダーの育成が行われています。

 ユニークなのは、上述のとおり各研究所はコアとなる領域を持ちますが、学際性が重要視されている点です。例えばCITRISでは、「過去4半世紀の間、電子工学やコンピュータ科学の研究開発は、これらの領域あるいは関連領域のフレーム内で行われてきたが、今後、電子工学やコンピュータ科学を発展させるには、従来の延長線上ではなく、社会や産業との関わりを考慮に入れ、工学、自然科学、社会科学および経済学等、様々な視点を取り入れることが求められる。」との認識に基づき、学際研究が進められています。ここでちょっとお勉強。学際性を英語にすると"multidisciplinary"となりますが、この接頭語"multi-"には、「たくさんのものが融合する」という意味があります。今回の訪問を通じて、CISIイニシアティブは語義どおり、様々な分野の専門家の知識を融合させ、新たなコンセプトの技術を生み出そうとしていることを強く感じました。

 一方、90年代に「学際性」というキーワードが流行ってから、わが国でも多くの大学が学際性を謳った研究機関を設立してきましたが、様々な分野の研究者を一か所に集めただけで、研究者は「わが道を行く」かのごとく各自の専門分野の研究に専念しているケースが多く見られるのが現状です。この背景には、国立大学を中心に学科の再編成が困難なこと、徒弟制度をベースとする講座制度が根強く、次世代を切り拓く若手研究者が講座の研究テーマとかけ離れたテーマに取り組み難いこと等があり、こうした問題を一朝一夕に解決することは困難ですが、わが国は、平成13年度からスタートした第二期科学技術基本計画が「21世紀初頭に知の創造と活用により世界に貢献できる国となることを目差す」ことを謳っている点からも、新しい領域を開拓するために不断の努力を行う必要があります。

 今回の訪問を通じて、「わが国はうかうかしていられないぞ!」というのがわたくしの直感ですが、わが国は優秀な研究者、技術者に恵まれ、またこれまで蓄積してきた高い技術力があり、これらをうまく活用すれば、知の創造と活用により世界に貢献することは十分可能であり、これを実現させていくことが我々、科学技術政策に関わる者の使命だと感じています。


清貞 智会 きよさだ ともえ
1997年 東京大学大学院工学系研究科修了
1997年 株式会社 日本総合研究所
2001年 科学技術政策研究所
著書:日米欧の研究開発2001 ―21世紀の国際競争力への指針― 2000年11月、株式会社日本総合研究所



目次へ





Ⅲ. トピックス



科学技術政策研究所中期計画について


企画課  藤原 志保


 本年9月、当研究所では、平成11年1月の機関評価委員会報告書を踏まえ、中期計画を策定しました。本中期計画は、本年1月の中央省庁再編に伴う新たな科学技術行政体制の発足及び当研究所の位置づけを考慮し、10年程度の将来を展望しつつ、今後5年間程度の当研究所の調査研究の活動計画として定めたものです。

<中期計画の概要>
 複雑化・高度化する社会・経済の構造的変化に適切に対応し、適時的確に科学技術政策を展開していくことの重要性が増大しており、政策立案の基盤となるべき科学技術政策研究の新たな展開が従来に増して必要とされています。こうした状況の下、当研究所は自らの果たすべき使命として以下の3つを掲げました。

①俯瞰的・長期的見地から科学技術政策研究を推進し、国の科学技術政策の企画・立案を先導
②企業等における研究開発及びイノベーション・マネジメント戦略の策定を積極的に支援すべく、調査研究成果を提供
③国際的ネットワークの中核機関として、国内外の研究資源・人材を幅広く結集、政策研究の発展を図るとともに、実証マインドを有する政策研究者・政策立案者を育成・輩出

 当研究所では、こうした基本認識の下、国際性及び学際性を重視した広い視野に立ちつつ、以下のような広範かつ体系的な調査研究活動を進めています。

(1) 研究開発に関する調査研究
 技術が生み出されるプロセスやその前段階である「知」の創造プロセスとしての研究開発に焦点を当てた調査研究で、具体的には、内外の研究開発及び科学技術の動向把握、研究開発を担う人材の育成・確保、研究開発資金、望ましい研究体制・研究環境、研究評価、国際研究協力のあり方等に関する調査研究を行います。

(2) 技術の経済社会ニーズへの適応過程に関する調査研究
 研究開発の成果としての技術が市場等を通じ広く経済社会ニーズへ適応していく過程、これらニーズにより研究開発が進展する過程において、より多くのイノベーションが発生する条件及び方途、技術の経済社会ニーズへの適応過程において生ずる諸問題等を考察する調査研究です。具体的には、イノベーション促進方策、技術者・技能者等の養成・確保、研究開発・技術進歩と経済成長との関係等について調査研究を行います。

(3) 科学技術と社会の包括的な関係に関する調査研究
 科学技術と社会との関係が一般的にどうなっているかを認識し、どうあるべきかを考察する調査研究です。具体的には、科学技術と社会とのコミュニケーションの現状及び望ましいあり方等科学技術と社会のブリッジの強化(社会の意向を研究・技術開発、技術の経済社会ニーズへの適応に反映させる方策の検討)等に関する調査研究を行います。

(4) 共通的・基盤的・総合的な調査研究
 上記(1)〜(3)に共通し、又は基盤となる、更にはこれらを総合した調査研究です。具体的には、科学技術政策に関する理論的研究、技術予測調査、科学技術指標の開発・整備、地域科学技術振興の調査研究、海外の科学技術政策動向の調査研究等を行います。

 当研究所は中期計画に掲げた「10年程度のうちに研究成果、研究人材について質量両面で科学技術政策研究分野における世界第1級の中核機関となる」との目標達成を目指し、今後、本計画の具体化に向けた種々の取組みを進めていく所存です。本年1月の省庁再編及び新庁舎移転を契機として、文部科学省をはじめとした行政部局への情報提供や意見交換の機会は明らかに増加しており、大学や他の研究機関との交流では頻繁にセミナー等を開催し率直なご意見を伺うなど、既に目標達成への第1歩を踏み出しています。企画課をはじめとした研究支援部門においても、この第1歩を2歩、3歩と推し進めていくべく、行政部局の政策ニーズ等を先取りした研究課題の優先順位付けを図りつつ、優れた研究スタッフの確保、研究予算の獲得、外部機関との連携・交流の強化といった面から、より一層のサポートを行って参ります。
 10年後、2011年の科学技術政策研究所にご期待ください。




目次へ




Ⅳ.最近の動き



○ 主要来訪者一覧

  • 9/11
  • Mr. Michael Oborne: 科学技術産業局次長, STI,OECD フランス
    Mr. John Dryden: 情報・コンピューター通信政策課長, STI,OECD フランス
  • 9/21
  • Dr. Lars Ehrengren: ストックホルム大学スクール・オブ ・ビジネス准教授 スウェーデン
  • 9/28
  • Mr. Eric van Kooij: 科学技術参事官 在日オランダ大使館

    ○ 講演会・コンファレンス

  • 9/12
  • 「再生医学の最近の動向」
     西川 伸一:京都大学大学院医学研究科教授


    目次へ

    編集後記


      コンピュータの頭脳を冒す、ニムダ、コードレッド、サーカムといったウイルスが蔓延しています。そして、牛の脳を冒す狂牛病の感染防止対策がいろいろと打たれています。
      狂牛病の正式名は、「牛海綿状脳症」と呼ばれ、どんな生物でも持っている「プリオン」というタンパク質の異常化だそうですが、その感染メカニズムがはっきり分かっていません。
      どちらも危険であり警戒が必要ですが、前者は人間の故意によって作られたものであり、サイバーテロと呼ばれる「テロ」行為だということが決定的に違うところです。(s)






    文部科学省科学技術政策研究所広報委員会(政策研ニュース担当:情報分析課)

    トップへ