政策研ホームページへ

No.153 2001 7
文部科学省 科学技術政策研究所
NATIONAL INSTITUTE OF SCIENCE
AND TECHNOLOGY POLICY



松本零士先生のイラストで見る技術予測
イラストの紹介は最終頁の編集後記をご覧下さい。


     
目次 [Contents] 
Ⅰ.レポート紹介 第7回技術予測調査 −NISTEP REPORT No.71−
科学技術動向研究センター

加速器技術に関する先端動向調査 −NISTEP REPORT No.67−
科学技術動向研究センター 瀬谷道夫

Ⅱ.海外事情
科学技術統計の整備をめぐる動向 ― フラスカティ・マニュアル改訂を中心に ―[前編]
第2研究グループ主任研究官 富澤宏之

Ⅲ.トピックス
科学技術政策と政策研の役割
総務研究官 下田隆二

Ⅳ.最近の動き




Ⅰ.レポート紹介



第7回技術予測調査 −NISTEP REPORT No.71−


科学技術動向研究センター


 技術予測調査は、国内の技術専門家を対象として、デルファイ法(同一内容のアンケートを繰り返し、回答者間の合意を得る手法)により技術課題の重要度や実現時期等を予測し、今後30年間の技術発展の方向性を把握することを目的としている。この調査は1971年以来約5年おきに実施されており、今回は7回目となる。本調査では、新たな試みとして、①主として人文・社会科学専門家からなる分科会において社会・経済ニーズを検討し課題作成への反映を図ること、②流通、経営・管理など情報技術の応用分野の新設、③制度やライフスタイルなど、純技術ではないが技術発展に大きな影響を及ぼす課題(非技術課題)の設定、を行った。

1.調査の概要
○調査分野:16分野(情報・通信、エレクトロニクス、ライフサイエンス、保健・医療、農林水産・食品、海洋・地球、宇宙、資源・エネルギー、環境、材料・プロセス、製造、流通、経営・管理、都市・建築・土木、交通、サービス)(下線は新設分野)
○技術課題数:全分野計1065課題(非技術課題を含む)
○設問:技術課題に対する設問(重要度、期待される効果、実現予測時期、第一線にある国等、政府がとるべき有効な手段、懸念される問題点) 全分野共通設問(今後10年及び2010年以降の我が国の重点科学技術分野)
○回収状況:3106通(第1回アンケート回収率:86%、第2回アンケート回収率:82%)

2.主な調査結果
(1)重要度と実現予測時期の関係
 重要度及び実現予測時期の分野別平均をプロットしたのが右図である。重要度は高いが実現に時間を要する分野として、ライフサイエンス、エレクトロニクス等が、重要度は相対的に低いが比較的短期間で実現する分野として、流通、経営・管理、サービス、情報・通信等があげられる。


(2)重要度及び実現予測時期から見た分野の特徴
 全課題から重要度上位1/2の課題を抽出し、実現時期により3つに分類した。各領域の課題を技術分野別に集計し、課題数の比較的多いものを取り上げると下図の通りとなる。
○情報系技術
 情報・通信分野の課題の実現時期は早いが、エレクトロニクス分野の課題は遅い。次世代デバイス等エレクトロニクスの発展を基盤とした情報通信は長期的な方向性は見通しにくい状況にある。 ○生命系技術
 ライフサイエンス分野は含まれる課題数が多い。実現時期は遅いものが多いが、比較的早期のものも含まれる。保健・医療分野の課題は中位グループに現れる。農林水産・食品分野の課題は、比較的早い時期に実現が予測されている。
○環境系技術
 環境分野の課題は、実現時期中期以降に比較的均等に分布している。環境分野と関わりが深い資源・エネルギー分野の課題は中期に実現するものが多い。基礎的分野である海洋・地球分野の課題の実現時期は比較的早い。
○材料系技術
 材料・プロセス分野の課題は、重要度上位・中位とも実現時期中期以降に均等に現れており、この分野の技術の多様性を示している。
○その他の特徴
 製造分野の課題は重要度上位グループの数が多く、実現時期の早いものから遅いものまで多様である。これは情報系技術、環境系技術、材料系技術と深い関わりを持つこの分野の特徴を示すものである。都市・建築・土木分野の課題は中位グループに現れる。


(3)重要度上位100課題の特徴
 重要度の高い上位100課題を、環境関連、情報関連、生命関連、災害関連、新エネルギー関連、その他の6区分に分類し、課題数の推移を見た。今回調査では、前回調査と比較して、環境関連技術及び情報関連技術はほぼ横ばいであり、生命関連技術は増加した。内容を見ると、生命関連技術では、ポストゲノム、再生医療、生命倫理に関する課題が増加し、環境関連技術では、循環型社会に関する課題が増加している。その他、ナノテクノロジー、燃料電池、メタンハイドレートに関する課題が上位100課題に入ったことも今回の特徴である。

(4)現在第一線にある国等
 第一線にある国として選択された割合を基に、課題を日本優位課題から海外優位課題までの5段階に分類した。日本優位課題が多かった分野は、交通及び資源・エネルギー、海外優位課題が多かった分野は、保健・医療、宇宙、流通、ライフサイエンス、経営・管理、サービス等であった。

(5)主要分野の重要課題(例)
 生命系技術、情報系技術、環境系技術、ナノテクノロジーの重要課題例を示す。
 例えば、生命系技術については、2010年代前半にゲノム科学の様々な応用が進展し、後半には再生医療が可能となる。さらに、2020年以降には脳研究の発展により、アルツハイマー病の治療等が実現するといった生命系技術の展望が描かれている。

○生命系技術の重要課題(例)

○情報系技術の重要課題(例)

○環境系技術の重要課題(例)

○ナノテクノロジーの重要課題(例)

(6)政府がとるべき有効な手段
 有効とされた割合が高かったのは、①研究開発資金の拡充、②研究開発基盤の整備、③産学官・分野間の連携強化、④人材の育成と確保、であった。
○「研究開発資金の拡充」の割合が高かった課題(例)
 がん化の機構が解明される。
○「研究開発基盤の整備」割合が高かった課題(例)
 神経幹細胞の移植により、運動麻痺の回復を促進する治療法が実用化される。
○「産学官・分野間の連携強化」の割合が高かった課題(例)
 LCAの考え方を取り入れた土木・建築構造物の設計方法が普及する。
○「人材の育成と確保」の割合が高かった課題(例)
 DNA塩基配列情報から新規のタンパク質機能を推測する手法が開発される。

(7)我が国の重点科学技術分野
 科学技術を下図のように情報系、生命系など6つに大別し、「今後10年」と「2010年以降」に重点をおくべき科学技術分野を3つまで選ぶよう全分野の回答者に依頼した。その結果は次の通りである。
○今後10年の重点科学技術分野の認識
 どの分野の回答者も、地球・環境系技術、情報系技術、生命系技術の3分野を重視している。
○2010年以降の重点科学技術分野の認識
 どの分野の回答者も、地球・環境系技術、生命系技術の2分野を重視している。
 情報系技術は低下している。その理由について追加調査を行ったところ、多くの回答者は、情報系技術は基盤的性格が強まり他分野との融合等により新たな領域の発展があると想定している。ただ、その際"情報系技術"がどこまでの広がりを持つかについて意見が分かれており、新領域も含めて"情報系技術"と考える専門家は、2010年以降も重点分野であると考え、狭く捉える専門家は相対的な優先度は下がると考えている。長期的な視点からは、情報系技術の分野概念について専門家間にもコンセンサスがなく、この概念の検討に取り組んでいく必要が示唆されている。



目次へ




加速器技術に関する先端動向調査 −NISTEP REPORT No.67−


科学技術動向研究センター 瀬谷道夫


1.調査の目的・背景など
(目的)
 本調査は、加速器の大幅な小型化に寄与するキーテクノロジー(先進加速技術)を抽出するとともに、それに関する研究開発の支援策の検討・提言を行ったものである。
(背景)
 加速器を利用する加速器科学は、これまで加速器の開発を担ってきた、素粒子・原子核物理学ばかりでなく、物質・材料科学(物質の構造解析など)、生命科学(蛋白質や生命体高分子の構造解析など)、医療利用(がん治療、冠状動脈造影など)分野などに拡大しており、加速器はこれらの拡大した分野での先端研究を支える重要な装置となっている。しかし、これまでの加速器はいずれも大型で利用拠点が限られており、更なる先端研究の推進や先端医療の普及のためには、現在の大型加速器でしか実現できない加速器ビームの供給を、非常に小型のもので(低いコストで)供給できる、新しい技術に基づく高性能な小型加速器(先進小型加速器)が必須である。
(小型化の目安)
 全国的な普及の観点で小規模な研究室や病院などに設置可能な規模のものとして、以下を想定した。

2.調査結果の概要
(先進加速技術の抽出および先進小型加速器の実現予測)
 加速器の大幅な小型化に寄与する先進加速技術として、高周波加速技術においてこれまでの限界に挑戦する高周波加極限加速技術の他、高周波加速とは異なる新しい加速技術(非高周波高勾配電子加速技術、非高周波高勾配陽子・重イオン加速技術やレーザー・コンプトン散乱による放射光発生技術)が抽出された(下表参照)。これらの技術による高性能小型加速器(先進小型加速器)の実現時期の予測では、(現状の研究開発状況が続くものとすると)実用化までに、今後10年程度の期間が必要との結果となったが、これらの先進加速技術に関するこれまでの研究開発投資は非常に少なく、今後の重点的な投資により実現時期がかなり早まるものと予想される。

(太字は、開発段階にあり、日本で開発に当たれる研究者がいる先進加速技術を示す。)
(先進小型加速器のうち開発ニーズの高いもの)
 以下のものに高い期待がもたれている。
○高周波極限加速小型陽子・重イオンシンクロトロン
○小型硬X線放射光源(レーザーアンジュレータ放射光発生装置)
(先進小型加速器の実用化のメリット)
 実用化のメリットは、下表のとおり。

(先進加速技術の研究開発に関する日本の取り組み、課題)
・先進加速技術関連の研究開発投資が極めて貧弱である
・限られた研究者数が個別離散している
・組織的な研究開発のスタートが米国よりも大幅に遅れている

3.先進加速技術等の研究開発方策についての提言
 以上の調査のまとめとして、先進加速技術の研究開発方策に関する主たる提言は以下のとおり。

運営母体組織を軸とする多研究機関参加・研究開発委員会主導方式


図-1 小型陽子・重イオンシンクロトン


図-2 大強度短パルス(硬X線)放射光源


図-3 高フラックス(硬X線)放射光源




目次へ




Ⅱ.海外事情

海外最新動向: 科学技術統計の整備をめぐる動向 ― フラスカティ・マニュアル改訂を中心に ―[前編]

第2研究グループ主任研究官 富澤宏之


1. はじめに
 科学技術に関する統計・指標に対するニーズが世界的に変化するなかで、最近、それに対応するための国際的な取り組みが活発化している。そのなかで、研究開発統計の調査方法や各種定義について定めたフラスカティ・マニュアルの改訂がほぼ10年ぶりに行われており、その作業には当研究所も参加している。同マニュアルの改訂項目は科学技術に関する様々な動向を反映している点で興味深い。以下に、本年5月に開催された会議の模様を中心に、関連する動向を報告する。

2. フラスカティ・マニュアル改訂の動向
 OECDより発行されるフラスカティ・マニュアル†は、OECD加盟国に限らず広く研究開発統計・指標の指針とされており、統計データの国際比較可能性を確保する上で重要な役割を果たしている。 最近の科学技術統計・指標の整備がイノベーション活動やグローバリゼーションの測定といった「新しい」領域を中心に進められてきたのに対し、フラスカティ・マニュアルは研究開発の測定という伝統的な問題を扱っている。それにも関わらずその改訂が必要となったことは、現行版(1992年版)の刊行以来10年近くが経過したためであるが、より本質的には、研究開発の様態が変化していることによると言えよう。
 同マニュアルの改訂作業は、OECDの科学技術政策委員会(CSTP)に設置された科学技術指標専門家作業部会(NESTI: Working Party of National Experts on Science and Technology Indicators)で行われている。同部会は、年次会合を開催する他、必要に応じて、アドホック会合を開催している。本年は、年次会合と併せて「フラスカティ・マニュアル改訂会合」(5月9日〜11日)がイタリアのローマで開催された。日本からは、当研究所の伊地知主任研究官(第1研究グループ)および富澤主任研究官(第2研究グループ)が参加した他、総務省統計局および文部科学省科学技術政策局(ただし定期会合のみ)より出席があった。以下に、我が国に関係の深いと思われる検討項目の概要を示す。

(1) サービス部門(特に金融・保険業)における研究開発
 今回、金融・保険業を始めとしたサービス産業を新たに調査対象とすること、また、製造業などにおけるサービスに関する研究開発も含むことをマニュアルに記載することが合意された。また、具体的な事例等の詳細については、引き続き検討が進められることになった。なお、サービス部門の特性に合わせて研究開発の定義を変更するとの提案が当初なされていたが、現行の定義を引き続き用いることとされた。
 なお、我が国の総務省統計局「科学技術研究調査」におけるサービス業の調査対象は、これまで「運輸・通信業」、「放送業」及び「ソフトウェア業」のみであったが、新たに「金融・保険業」、「情報処理・提供サービス業」、「専門サービス業」、「その他事業サービス業」及び「学術研究機関」を平成14年度から調査対象とすることが検討されている。

(2) SNA(国民経済計算)や企業会計との比較可能性の改善
 SNAとの比較可能性を改善することを目的として、「可能な限りSNAに基づいたデータとの比較を可能にするデータを集めるべきである」とする勧告をマニュアルの第1章に述べるとともに、データのリストをマニュアルの付属資料として詳細な説明を添えて記載するべきであるとされた。なお、この件については、将来を見据えて勧告を行うべきであるとされ、タスク・フォースを設けて検討が行われることとなった。なお、現在、各国の現状を把握するためにOECD事務局によって質問票調査が行われている。

(3) 研究開発費負担者と研究開発実施者からのデータの関係性の改善
 現行のフラスカティ・マニュアルは、研究開発の実施部門を網羅的に調査することによって、一国のデータを整合的に得ることを意図したものであり、これが研究開発統計の基本原理の一つとなっている。ところが実際には、研究開発費の負担者側のデータも政策上のニーズが高く、多くの国で収集・利用されている。我が国の場合は、政府の科学技術関係経費(いわゆる科学技術予算)がそれに相当する。
 今回、この問題のレビューを担当した米国より、研究開発の負担者側から推計された研究開発支出と研究開発の使用者側(実施部門)から推計された研究開発支出とは、そもそも両者には差が生じる可能性があり、その違いが必ずしも不正確な測定の結果ではないとの認識が示され、違いが生じる原因等の事例をマニュアルに記載することなどが提案された。各国ともこの提案を支持し、マニュアルの中に新たに一節を設け、具体例もあわせて記述することとされた。
 なお、違いが生じる理由として、①研究開発プロジェクトの契約先の多様化、細分化の影響(新規の規約先が増加したこと)により、出資者と実施者の間で研究開発の定義の認識が違うこと、②仲介団体(intermediary bodies)による資金提供の増加、③複数年契約による時間的なズレなどが考えられるとしている。

(4) FTE(専従換算)データのより精密な収集方法
 研究開発人材について、現行のマニュアルでは実際に研究業務に従事した時間割合を勘案したFTE (Full Time Equivalent)で測定することが勧告されているが、実際のデータには国際比較可能性の問題があることが指摘されていた。この項目は、我が国(当研究所)がレビューを担当しており、今回、マニュアルの問題点を整理するとともに、改訂の基本的な考え方について提案した。また、研究開発人材のFTEによる測定には原理的な問題があることを指摘したところ、複数の出席者より賛同する発言があった。議論の結果、高等教育部門については、必要に応じて時間配分調査を行うべきであること、専従換算を行うための係数の算出方法や利用例をOECDに報告すべきであることなどについて合意が得られ、今後とも我が国がマニュアル改訂案の作成が行うこととされた。
(以下、次号に続く)

† フラスカティ(Frascati)とはイタリアの地名であり、1963年の初版刊行に先立ち、その内容を検討するための会合が開催されたことから、このような名称が付されている。

目次へ



Ⅲ.トピックス



科学技術政策と政策研の役割

総務研究官 下田隆二


 7年半ぶりに科学技術政策研究所のお世話になることになりました。といっても、最近も客員研究官として『科学技術指標』のとりまとめや、いろいろな研究会に参加し、政策研の活動の一部を身近にみていましたので、それほど久しぶりとも思えません。

 しかし、以前に在職したころとは大きく変わっている点がいくつかあります。まず、科学技術政策をとりまく状況の変化でしょう。科学技術行政体制が今年大きく変化し、文部科学省が発足、総合科学技術会議が設置されています。政策研在職当時はまだ成立をみていなかった科学技術基本法も1995年に制定され、科学技術基本計画は既に第二期の計画期間に入っています。つぎに、政策研の組織の変化です。科学技術動向研究センターの発足は、その顕著な例ですが、これは新しい科学技術行政体制における政策研の役割への期待を示す好例でしょう。そして、政策研の場所です。住み慣れた永田町を離れ、霞ヶ関に引っ越します。行政部局との物理的距離の変化が、調査研究にどのような影響を与えるかを興味深く見守っていきたいと考えますが、より好ましい相互作用が生み出されることを期待します。

 さて、今般の政策研着任にあたり、三点、思うところを述べます。
 第一は、科学技術政策と研究開発政策は同じではないという点です。「科学技術政策」あるいは「研究開発政策」で各人が思い描くイメージには大きな差があるとは思いますが、ここで研究開発政策は、重要研究開発分野の設定、具体的な研究目標の設定、研究活動の管理、人材・資金・設備など必要なリソースの確保及びそのマネジメントなどを念頭においたものと御理解ください。この場合、科学技術政策に研究開発政策が含まれることに異論はないと思いますが、後者が前者のすべてではありません。しかし、これまでの我が国の科学技術政策、特にここ20年程度のそれは、どちらかといえば、研究開発政策に重きがあったと思われます。さらにいえば、国立試験研究機関、特殊法人研究開発機関、国立大学などを中心にした研究開発政策がその主要な部分であったと思われます。 科学技術会議の過去の科学技術政策を分析した調査*においても、その答申の重点が、過去、技術から研究に移動し、その総合的な答申においては、初期の答申を除き、科学技術が主として重要研究開発の推進の観点から論じられていることが指摘されています。第一号答申においては産業界における技術を含めて技術に関する施策に多く触れているのに対して、その後の答申では、時期が新しくなるにつれて、技術への言及が少なくなり、研究開発政策への傾斜が強くなることが指摘されています。その要因として、①民間企業が国際競争力を獲得し、技術において政府を頼りにしなくても良いと考えられた時期があった、②貿易摩擦から産業助成的な色彩を持つとみられかねない政策の立案・実施が忌避された、③優れた研究開発の成果を出せば、その成果は自動的に民間に伝播し、その普及が図られるという認識が強かった、④科学技術会議の事務局や各省庁の研究開発担当部局も研究開発を支援する答申を望んだ、という点をその調査は指摘しています。

 他方、近年、経済活性化における科学技術の重要性が広く認識され、大学、国立試験研究機関発のベンチャーの重要性が叫ばれ、さらに先端技術が社会に惹起する倫理的な諸問題などが問われているのは、科学技術が経済を含めた社会とのかかわりで重要な地位を占めていることの証左でしょう。その重要性に対応する科学技術政策は、研究開発政策の範疇に留まることはできません。したがって、科学技術政策研究においても、広い意味の科学技術政策の研究を視野に入れていくことが、社会の期待にこたえることとなると考えます。

 第二は、実証的な調査分析に裏打ちされた政策立案の重要性です。政策立案の現場では、ともすれば時間的な制約から、少ない情報による判断を迫られたり、限られた数の専門家の意見などから政策を決めざるを得ないことがあります。この過程の中で、政策の根拠、効果を発揮するメカニズム、その効率性、代替策などについての注意深い分析もないままに政策が決定されていくことがないとはいえません。また、短期的な視点での対策では、長期的な真の解決にならない場合があり得ます。このようなとき、実証的な調査分析に裏付けられた政策の選択肢が必要とされるといえましょう。調査分析に裏付けられた政策立案の重要性が高まる中で、科学技術分野の重要な政策課題について、政策研は実証的な調査研究の成果を提供することにより、大きな役割を果たし得る立場にあると考えます。

 第三は、政策研の持つユニークなリソースをその調査研究に生かしていくことの重要性です。近年、科学技術政策においては総合的な視点、俯瞰的な視点が強調されますが、このような視点を、自らの組織で体現しているという点で政策研は誇るべきものがあります。すなわち、出身母体をみても、大学の教官、企業や公的研究機関の研究者・技術者、シンクタンク、行政部局の出身者など、組織的に産学官の極めて多岐にわたっています。また、地方の行政の経験をもった方もいます。女性陣の活躍にも眼を見張るものがあります。学問的な背景をみても、理学、工学などの自然科学の専門家に加え、人文・社会科学系の学問的な背景を持つ人もいます。政策研の研究者と外部の客員研究官、専門家とのネットワークも政策研の貴重な財産です。さらに、海外にいる研究者、海外から政策研を訪れる研究者との連携・協力も政策研の強みでしょう。しかし、これらの多様な背景をもった人々が単に「混在」し、ネットワークが単に存在しているだけでは、さほど意味がありません。それぞれに異なる経験や異なる学問的背景を持った人々が、相互に作用し、知的に触発し、創発していくことによって、政策研究において、より深みのある分析がもたらされるものと思います。

 もちろん、いかに政策研の研究者が能力に恵まれ、優秀であっても、その限られたリソースの中で科学技術政策の課題の全てについて調査研究を手がけるわけにはいきません。重要で困難な課題、また、余り注目されていないが近い将来重要になる課題など、科学技術政策の重要課題に政策研が先見性をもって果敢に、かつ、継続的に、取り組むことが重要と考えます。その際、政策研の研究者が相互に知的に触発し、より深みのある分析ができる雰囲気を醸成していくことが肝要です。このような認識を踏まえ、政策研内外の皆様と力をあわせて、科学技術政策研究に取り組んでまいりたいと考えています。

* 科学技術振興調整費委託調査『科学技術会議の活動を中心とした科学技術政策の変遷に関する調査』(2000年9月)(社)科学技術と経済の会


目次へ




Ⅳ.最近の動き



○ 人事往来

平成13年7月1日付け
  • 総務研究官
  • 永野 博(異動先:人事院人材局交流派遣専門員)
    下田隆二(旧:一橋大学イノベーション研究センター教授)

    ○ 講演会・コンファレンス

  • 5/30
  • 「21世紀の電力エネルギー供給システム−期待される技術−(電力の輸送と貯蔵の新技術)」
    嶋田 隆一:東京工業大学原子炉工学研究所教授
  • 6/27
  • 「第三の生命鎖糖鎖とポストゲノム解析」
    永井 克孝:三菱化学生命科学研究所所長
  • 7/6
  • 「地方公設試におけるマネジメントシステムの構築」
    飯塚 尚和:宮城県産業技術総合センター所長
  • 7/19
  • 「バイオセンサーによる環境中の微量化学物質の計測」
    大村 直也:(財)電力中央研究所 我孫子研究所


    目次へ

    編集後記


     技術予測のおもしろさは予測される課題のおもしろさによって、左右されるのではないでしょうか。表紙のイラストは、私たちにもなじみのある課題をテーマに松本零士先生に描いていただきました。
     中心に描かれているのは「めがねを用いないで見ることができ、かつ、視聴者が姿勢を変えても立体像が変形しない立体動画表示装置の開発(2015年)」、つまり、テレビのなかに入って見る、とでもいいましょうか、イラストのように月面散策もできてしまいます。
     左上は「砂漠地帯で100MW級太陽光発電システムが実用化(2020年)」、右上「一般客を対象とした宇宙往還機の開発(2027年)」、右下「水深10,000m用の資源探査ロボットの実用化(2015年)」、左下は「車いす等の高性能化、公共交通機関のバリアフリー化、バリアフリーの街づくり等により、障害者の社会生活が拡大(2012年)」の課題がテーマになっています。(k)






    文部科学省科学技術政策研究所広報委員会(政策研ニュース担当:情報分析課)

    トップへ