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No.150 2001 4
文部科学省 科学技術政策研究所
NATIONAL INSTITUTE OF SCIENCE
AND TECHNOLOGY POLICY


政策研国際セミナーで講演を行っている、Prof. Luke Georghiou(英)(中央)、
左上から時計周りDr. Hariolf Grupp(独)、Prof. Vicki Sara(豪州)、朴 秉武氏(韓国)、
及び当所を訪問されたMichael J. Tansey氏(米)(間宮所長と懇談)


   
目次 [Contents] 
Ⅰ.レポート紹介 科学技術とNPOの関係についての調査 - 調査資料 - 78
前第2調査研究グループ上席研究官 寺川 仁

Ⅱ.海外事情
ドイツにおけるハイテクベンチャー育成政策
− 大学、研究所からの起業、特にアン・インスティチュートを中心として −」
第1研究グループ客員研究官 前田 昇

Ⅲ.言々句々
第11回科学技術政策研究所顧問会議 企画課

Ⅳ.最近の動き





Ⅰ.レポート紹介



科学技術とNPOの関係についての調査 - 調査資料 - 78


前第2調査研究グループ上席研究官 寺川 仁



 近年、ボランティア活動が注目を集めるようになってきた。そして、ボランティア活動を行っている人たちが集まった団体や市民活動団体など、社会貢献を行うために自主的に営利を求めない活動を行う民間の団体は「NPO(Non-Profit Organization:民間非営利団体)」と呼ばれ、このような団体の活動を推進するため、1998年には「特定非営利活動促進法」(通称「NPO法」)が成立・施行された。
 一方、科学技術行政は、従来の科学技術の研究開発に当たる機関や専門家を対象とした事業中心から、科学技術理解増進事業にみられるような一般の国民を対象とした事業へと幅を広げつつあり、今後は、ボランティア活動やNPOとの連携も政策の視野に入れていく必要があると考えられる。
 本調査は、これらの点を踏まえ、科学技術に関連が深いと考えられる14のNPOについて事例調査を行うことにより、これらのNPOの現状を把握するとともに、今後の科学技術行政における、NPOを視野に入れた対応の方向を検討したものである。
 今回の調査は、科学技術に関連が深いNPOに対する聞き取り等による事例調査を中心に行った。調査対象のNPOは、基本的な情報が公開されている点及び責任体制が明確であるため科学技術関連施策の対象としやすいという点から、主としてNPO法に基づいて設立されたNPO法人から選定することとした。具体的には、科学技術とNPOの関連を、「科学技術の理解増進」、「自由な研究の場の提供」、「政策策定への参加」、「技術者の育成」、「技術の普及」と想定したうえで、これらの観点から、公開されているNPO法人の定款上の活動目的を調べ、13のNPO法人を事例調査の対象として選定した。さらに、政策決定への参加に密接に関連すると考えられる任意団体のNPOを1団体加え、合計14の調査対象とした。
 今回、事例調査を行ったNPOの活動や考え方の主なものは次のとおりである。
① 博物館のボランティア団体がNPO法人として独自に法人格を有し、自主的に活動を企画・実施している。
② 科学や自然に特に関心が高い小中学生に対して、学校教育ではなかなか実施できないような実験、観察等を行う科学実験教室を開催している。
③ 研究者が中心となっているNPOが、研究活動のほかに、自分たちが係わっているテーマについての科学的知識の普及などを幅広い人々に対して行っている。
④ 研究者を中心に研究開発に取り組んでいるNPOが、競争的研究資金の獲得を目指している。
⑤ 一貫性がある長期戦略を持った国際的な研究開発活動が行えるようにするため、自前の研究所、研究スタッフ、事務スタッフを有し、物理的、人材的に研究活動の核となるようなNPO法人の研究機構、すなわち「NPO型研究所」の設立を提案し、自らもそのような研究機構を指向している。
⑥ NPO法における特定非営利活動に基礎研究など科学技術活動に関する項目を追加すべきであると考えているNPOがあった。
⑦ 任意団体のNPOが、科学技術への市民参加を図るため、コンセンサス会議方式等の採用を社会に提案し、支援していくことを目的として活動している。
⑧ 比較的規模が大きいNPOが、原子力に依存しないエネルギーシステムの確立を目指す立場から、資料の収集、調査研究、さらに政策提言等を行っている。行政と原子力政策に対する考え方や立場は異なるが、共通のテーブル上で議論していきたいとの考えを持っている。
⑨ 技術者育成の観点から、Linux(コンピューターOS)の技術者認定試験の実施などを海外の非営利団体と協力して行っているNPOや技術者の継続教育を計画しているNPOがあった。
⑩ 地球温暖化防止のため太陽光、風力といった新エネルギー技術の普及や、地域を中心に情報リテラシーの向上、デジタル・ディバイドの解消などに取り組むなど、技術の普及を通じて社会に貢献する活動を行っている。
 今回の調査によって、科学技術の理解増進や研究開発などの科学技術活動において、NPOが主体の一つとして機能しており、今後はこれらの活動においてNPOが大きな役割を果たすことが期待できることがわかった。
調査の結果を踏まえ、科学技術行政とNPOの関わりやNPOに期待される役割などを検討した結果、次のようなことに取り組むべきであると考えられる。
 ① NPOを科学技術活動の主体の一つとして明確に位置付けるべきである。
  ・ NPOの競争的研究資金獲得の促進
  ・ NPO型研究所の整備に向けての支援
  ・ 科学技術への市民参加についてのNPOと連携した取り組み
  ・ 政策提言機能を持つNPOとの一層の対話の推進、情報の公開
 ② 法的にもNPO法の別表で定められる特定非営利活動に科学技術活動を位置付けることが望ましい。
  ・ NPO法の特定非営利活動に科学技術の振興や研究開発活動などの項目を追加すること
 ③ 科学技術行政としても科学技術活動を行っているNPOとの連携、支援を図っていくべきである。
  ・ 博物館・科学館等における「自立型」ボランティア団体であるNPOとの連携
  ・ 研究者を巻き込んで科学実験教室などを行うNPOへの支援
  ・ 技術者の育成に取り組むNPOに関する情報収集と連携
  ・ 社会に貢献する技術の普及を行うNPOとの連携・支援
* このレポートは小嶋典夫、平野千博(岩手県立大学)、永野博との共著です。


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Ⅱ.海外事情



ドイツにおけるハイテクベンチャー育成政策
− 大学、研究所からの起業、特にアン・インスティチュートを中心として −」


第1研究グループ客員研究官、高知工科大学教授 前田 昇


 ドイツはこの数年ハイテク・ベンチャーの創出が活発である。新市場(ノイア・マルクト)を中心とするIPO(株式新規上場)企業数は1996年から毎年倍増を3年間続け、1999年には168社が上場し、日本の年間新規市場上場数を抜いてしまった。しかもそのほとんどは情報技術を含めた技術系の企業である。
 大学教授や大学院学生等の大学からの起業は1997年で650社あり、あのアメリカの2.5倍もある。最近発行されたハイテク青年起業家事例紹介パンフレットStart up for Innovationをみても、18企業の内13企業は博士の学位を持った起業家が興している。多くの工学博士や医学博士が若くして大学や国立研究所から起業している。日本ではまだまだ考えられないことである。
 このドイツ・ハイテク・ベンチャー躍進の秘密には、NISTEPが共催した昨秋東京での日独ハイテクワークショップで報告したように、4つの大きな要素が絡みあっている。それらは1)レギオ方式による選択と集中のクラスター創出、2)ベンチャーキャピタル育成の革新的なマッチング・ファンド方式の創設、3)フランホーファやマックスプランク等の研究機関での5〜6年の厳格な有期雇用制と起業促進施策の創出、4)大学のそばに教授が研究所を設置し、大学院学生を使って企業と共同研究するアン・インスティチュート(大学近接研究所)の4つである。 アン・インスティチュートはドイツ南西部が中心で、それ以外では大学と産業の直接的な連携を歓迎しない教授が多く、その数はごく少ない。デュッセルドルフが州都のNRW州には約100あり、全国で約300くらいと思われる。規模は数人のものから数百人のまで多様であり、研究テーマも情報技術、バイオ、知能機械、強化プラスチック、広告、流通等多様であり、数十年の歴史を持つものもある。
 そのアン・インスティチュート(大学近接研究所)を今年1月、ドイツ連邦教育・研究省パフハウゼン氏のコーディネーションで今回ドイツ南西部のアーヘン、ドルトムンド、ケルン、デユッセルドルフを訪問し、調査研究してきた。訪問大学はドルトムンド大学、アーヘン工科大学、ケルン大学で、計4つのアン・インスティチュートを見学し、教授である研究所長のお話を御聞きした。
 その中でドイツ・アン・インスティチュートの典型的と思われるドルトムンドのRIF研究所とアーヘンのIKV研究所を紹介する。

独ドルトムント大学のアン・インスティチュート
 RIF(ドルトムント・コンピューターインテグレイテッド製造研究所)

クロスタック教授、ザール所長
 ノンプロフィットオーガニゼーション(e.V)でアン・インスティチュートの75%は、このような形態である。GmbH(有限会社)やAG(株式会社)等の企業形態にすると事務的に役所への届出事項等で煩雑になる。10年前にNRW州の経費DM21M(約十億円)で設立された。年間予算はDM4.5M(約2.3億円)で、半分は州等のパブリックファンドで、半分は約50のお客である企業からで共同研究や委託研究費として入ってくる。
 数人の事務員の他に兼任教授7人とポスドク4人と30数人の大学院学生で構成されている。当研究所から既に10社のベンチャーを生み出している。学生の半分はドルトムント大の学部から修士に来た人で、半分は全国から集めている。これら合計約40人のリサーチャーにそれぞれ1社の研究テーマを任せ、多くの場合企業からコ・オペレーターとしてエンジニアが一人ずつ派遣されてきている。リサーチャー達は関連の有る技術は研究所内でお互いに連携し合いながら進めている。
 大学教授の仕事とアン・インスティチュート所長の仕事は両立が可能であり、その相乗効果は大きい。日本でも考える価値がある、との事であった。

独アーヘン工科大学(RWTH)のアン・インスティチュート
 IKV(プラスチック・プロセス研究所)

ハバーストロー教授
 アーヘン工科大学には、5つのアン・インスティチュートがあり、総数400人の教授のうち10人がかかわっている。 その中でIKVは1950年創設で所員総数390人の大型アン・インスティチュートである。80人のリサーチャー、60人の補助業務者、250人の学部及び大学院学生で構成されている。80人のリサーチャーは主にアーヘン工科大の卒業生を採用している。
 学部の学生は、大学での講義や実験の合間を縫って三分の一程度の時間を研究所で働き、毎年40人くらいが博士課程の大学院生となる。大学院生は、実験に基づいた学位論文を書いたり学部学生の実験論文指導等をしながら、三分の一程度を研究所でのリサーチプロジェクトのマネージや企業との折衝にあたる。当研究所から毎年12人くらいの博士が生まれている。
 学生の賃金は一時間DM15(約800円)で、月約30から50時間働く。月収はDM500からDM700(約25,000円から35,000円)であり、この地域は物価が安いのでこれでも生活費の約半分をまかなえる計算になる。
 年間予算は昨年でDM27M(約14億円)で、経済産業省、教育研究省、EU等政府関連から約50%、企業から38%、大学から7%、工業組合から3%、NRW州から2%である。建物は連邦政府からの寄贈で、設備は企業と連邦政府からの寄贈である。
 国内外320社の企業がスポンサーで主に委託研究を行っている。各社は、メンバーシップフィーとして年額DM1万(50万円)を払い、委託研究プロジェクトごとにさらにお金を支払う。常に約200のプロジェクトが走っている。企業のエンジニアは出向してきていない。時々技術会議の為に来る。当研究所の研究員は5%程の時間を企業に出かけて顧客と技術的な打ち合せをする。
 アン・インスティチュートからは毎年約60ベンチャーが起業するが、アーヘン地区のアン・インスティチュートからはその内約20を占める。それらの企業は強化プラスチック等のハイテクもあるが情報技術系の様に華々しくは無く、成長性は低く中小企業で終わってしまいIPO(株式上場)は無い。隣のビルもISFという金属溶接関連のアーヘン大学教授が所長のアン・インスティチュートである。

これらの訪問を終えて思うこと
 アン・インスティチュートの大きなメリットは、大学院学生にとって一石三鳥の効果があることである。優秀な学生が暇はあるけどお金が無い。自分の研究に関連したアルバイトを大学のそばで、自分の研究の空き時間にやれるので時間効率が良い。しかも教授や企業のエンジニアの指導を受けながら企業の最先端研究テーマの技術に関わり、そのデーターが取れて博士論文にも許可を取れば利用できる。企業のビジネスマンとのミーティングや顧客訪問を通して、顧客の品質要求、コスト意識、開発時間競争等企業のビジネスの生々しさを学生時代に身をもって体験できる。博士学位をとって卒業する時には、この技術の応用で起業でもしてみるかの自信もできてくる。
 日本でもドイツのアン・インスティチュートに似たような教授主体で大学院生を取り込んだ企業との共同研究所が大学のそばに2つほど西日本にできている。ドイツの様な州政府の補助や税の優遇制度は無いが、博士学位を持った人が起業意欲を持てる様日本的なアン・インスティチュートとして成長していって欲しいものである。日本産業変革に必要なハイテク・ベンチャー創出活性化の為にも、日本でも国としてこのドイツのアン・インスティチュートを参考にした日本的な施策を考えてもいいのではないだろうか。

以上


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Ⅲ.言々句々



第11回科学技術政策研究所顧問会議

企 画 課

下記のとおり顧問会議が開かれました。

1.日 時  平成13年3月9日 (金)午前8時30分〜10時10分

2.場 所  パレスホテル「松の間」

3.出席者  植之原顧問、川崎顧問、末松顧問、中原顧問、中村顧問、牧野顧問、吉村顧問
  文科省  井上 科学技術・学術政策局次長
  政策研  間宮所長、永野総務研究官 他

4.説明等の状況
 所長、総務研究官、各グループ総括等から、科学技術動向研究センターの発足や調査研究レポート発表等の最近の活動状況、今後の調査研究計画、体制等についての説明を行った。
 会議では、活発な議論が行われ、顧問各位より当研究所における今後の調査研究の実施にあたっての貴重なご示唆をいただいた。

5.顧問から出された主なコメント等
 ・ 今後は、研究資源をどのように配分するかが重要であり、この点につき、理論的知見の提供を行うことが望まれる。
 ・ R&D投資がハイテク中小企業の活動に大きな貢献をしており、発注金額や対象等につき、データ収集・分析を行う意義は大きいと考える。
 ・ どの国が優位かの科学技術分野の分析に当たっては、米国のみならず、欧州に関する分析も重視すべき。
 ・ 技術予測アンケートにおいては、研究者と非研究者等対象者によって意見が異なると考えられ、偏りをなくす努力をするべきではないか。
 ・ バイオテクノロジーは実用可能となるまでには時間がかかるものであり、長期的に腰を据えて取り組む必要があるが、時の流行に左右されている傾向があるように思われる。
 ・ 技術貿易調査では、「先端技術」の定義を米国やOECDと整合性を持たせた方が良い。
 ・ 研究のアウトソーシングのメカニズムを考えていくことが重要。


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Ⅳ.最近の動き



○ 人事往来

  • H13/3/30 第3調査研究グループ総括上席研究官 渡辺 俊彦(異動先:科学技術振興事業団)
  • H13/3/31 第1研究グループ総括主任研究官 榊原 清則(異動先:慶應義塾大学)
  • H13/4/1            〃             小田切 宏之(旧:一橋大学)
             第3調査研究グループ総括上席研究官 向山 幸男(旧:科学技術振興事業団)
             総務課長   永田 豊(異動先:防災科学技術研究所)
                 〃     青木 章吾(旧:防災科学技術研究所)

    ○ 講演・コンファレンス

  • 3/15 「豪州の研究におけるイノベーション」
           Vicki Sara:豪研究会議ARC(Australian Research Council) 豪州
  • 3/19 「ナノテクノロジーと時空間機能材料」詳細
           原 正彦:理化学研究所フロンティア研究システムチームリーダー
  • 3/22 「独国における重点課題設定及び評価:分散型「知」の役割」
           Dr. Hariolf Grupp:フラウンホーファー協会システム・技術革新研究所(ISI)副所長 ドイツ
  • 3/23 「英国の研究・イノベーション政策重点課題設定及び定量的評価
           Prof. Luke Georghiou:マンチェスター大学工学・科学・技術政策研究所(PREST) 所長 英国
  • 3/27 「韓国の国家研究開発プログラムの計画と評価:システム、手続き、メカニズム」
           朴 秉武:韓國科學技術評價院(KISTEP)部長 韓国
  • 3/28 「遺伝子組換え植物・食物の研究現状と安全性確保」
           鎌田 博:筑波大学遺伝子実験センター所長

    ○ その他来訪者

  • 3/21 Michael J. Tansey:TS&H(米ISI社他)最高経営責任者(CEO Thomson Scientific & Healthcare) 米国

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    編集後記


    ◆再編後の新府省としての新年度がスタートしました。そして多くの国立研究所が独立行政法人という新たな機構で出発しましたが、当科学技術政策研究所は今まで通り文部科学省の付置研究所として活動を続けます。
    ◆今月号から表紙の色をグリーン系に模様替えしました。そして各グループ・課に関する記事をそれぞれが交替で紹介してもらうページを設けました。ご期待ください。(S)





    文部科学省科学技術政策研究所広報委員会(政策研ニュース担当:情報分析課)

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