No.141 2000 7 
科学技術庁 科学技術政策研究所
NATIONAL INSTITUTE OF SCIENCE
AND TECHNOLOGY POLICY


 Dr. Veli - Pekka Saarnivaaraフィンランド技術庁(TEKES)理事長(右列奧から2番目)、
 Dr. Errki Leppavuoi国立技術研究所(VTT)理事長(右列奧から4番目)他
との日本の科学技術政策についての意見交換
       
     

 
目次 [Contents]  Ⅰ. レポート紹介 科学技術政策コンセプトの進化プロセス〜科学計量学的アプローチによるダイナミクスの分析〜 − Policy Study No.5 −
元第2研究グループ主任研究官 藤垣裕子
Ⅱ.論説紹介
科学技術に関する国民意識調査について −我が国及び各国の調査の状況 その1−
第2調査研究グループ上席研究官 岡本信司
Ⅲ.トピックス
新任挨拶  総務研究官 市丸 修

欧州連合(EU)の科学技術政策の動向について
科学技術振興事業団ブラッセル事務所 所長 植木 勉

アンケート調査の結果について 情報分析課

Ⅳ. 最近の動き

Ⅰ.レポート紹介

科学技術政策コンセプトの進化プロセス〜科学計量学的アプローチによるダイナミクスの分析〜 − Policy Study NO.5 −
元第2研究グループ主任研究官 藤垣裕子、永田晃也(客員研究官)

 

 多様なステークホルダーの利害の調整を経て政策シナリオの設定が行われる公共政策の立案プロセスは、諸個人の認知、パースペクティブなどを他者と共有可能な概念(コンセプト)として表出するプロセスとして捉えることができる。たとえばCOE、研究組織の流動性、あるいは研究アカウンタビリティ論など、その年度、あるいは時代ごとにキーコンセプトとして現れる概念は、そのままその年度や時代に必要とされる政策のありかたをうまく反映し、またそれゆえに多様な利害の調整に役だっていると考えられる。本研究の目的は、明文化される政策コンセプトの時系列変化を捉え、科学技術政策の歴史を政策コンセプトのダイナミックな進化のプロセスとして捉える視点から検討することである。政策コンセプトがどのように生成され、正当化、普及、定着の過程を辿るのかを調べ、新しい政策コンセプトが生成されるための条件を抽出し、今後の政策立案におけるコンセプト生成に寄与することを目的とする。
 本研究で用いた方法論は、科学計量学(サイエントメトリクス)のアプローチである。これは1970年代から、主に科学論文の定量的評価のために発展してきた方法論であるが、これを政策文書に応用する試みを行った。まず科学技術会議の過去の全答申、1960年の第1号答申から1996年の第23号答申まで、36年分のデータベース化を行い、これを用いて語の頻度分析、因子分析、共語分析を行った。
 まず頻度分析の結果であるが、36年の間に周期的に出現する語群と単峰的なブームが観測される語群が観察された。前者は、「国立試験研究機関」(3号、13号、23号答申で出現頻度が突出)「創造」、「基礎研究」などの語が含まれる。これらの語群の周期的出現パタンは、語の表す政策課題などが周期的に主要なアジェンダとして取り上げられていることを示している。後者は、「エネルギー」(石油危機以降の6号および11号で著しく頻度が高い)、「生産性」(第1号答申では頻繁に用いられるが、その後の出現頻度は顕著に低下し、第12号答申以降はほとんど用いられない)、「知的所有権(または知的財産権)」(いわゆる技術摩擦が顕在化した1980年代末に初めて出現している)などの語がふくまれる。これら単峰型の出現頻度分布を持つ政策語の消長には、科学技術をとりまくマクロな環境要因の変化が関わっているケースが多い。また、新しいコンセプトの創出、例えば「COE」、「産学連携」、「地域科学技術」などの語の出現を時系列的に追うことができた。これは、当時の公共ニーズと国際トレンド、すなわち海外からの要求や日米関係等を反映している。分析では、同時に、各答申における語の出現頻度ランキングの動向による政策イシューの変化を追跡した。
 さらに、政策のキーコンセプトを追うために、頻度の高い語のグルーピングを因子分析を用いて分析した。その結果、「Resource:資源」「System:システム」「Publicity:公共性」「STS:科学技術と社会」「International:国際」「Institutional-support:制度的支援」の6つの因子を抽出した。この結果をもとに、これらの因子得点の答申による時系列変化を追った分析を行った。
 続いて共語分析を用いて、基本的な政策コンセプトの文脈の変化を追った。一文に共に出現した語Aと語B間の関連は高いとし、この傾向を数値化して尺度化したもの(関連性尺度)を用いて数量化した。その結果、まず「科学技術」という語は、1960年には「進歩」という語とともに語られるのに対し、1984年には「人間」「社会」「発展」という語とともに語られるようになり、また1996年には「社会」および「理解」という語とともに語られていることが数値的に示された。「研究開発」は、1960年に「発展」とともに語られているのに対し、1984年には「強化」、1996年には「確立」「発展」「利用」「強化」そして「競争的資金」といった語とともに語られるようになっている。このように関連性尺度を用いた分析結果から、各基本コンセプトをめぐる社会の状況変化が、語のネットワークの変化として表れていることが示唆される。さらに、各期の社会政治的付置(たとえば大学と国研の関係など)の動きが共語マトリクスに反映されていることが示唆された。
 考察では、本分析と科学技術政策史との対応および政策語分析の含意が議論された。優れた政策コンセプトは、過去にだされた政策課題が状況の変化にともなって現実と乖離してコンフリクトを起こした際、そのずれやコンフリクトを解消するダイナミクスを提供してきたと考えられる。分析結果から得られるこのような知見は、今後実際に政策立案に携わった担当者の経験に照らして検証される必要があるが、長期にわたる政策コンセプト進化とその環境である社会―政治的システムの変動のダイナミクスを探る上で、本研究で用いた方法論は有効な分析手法を提供すると考えられる。このような分析を積み重ねることによって、政策コンセプトと科学技術活動をとりまくマクロな文脈の共進化構造を検証することも可能となり、新たな政策コンセプトが形成される条件や、高次の意味作用を持ち広範な施策を呼び込むコンセプトの特性に関する理解が得られるものと期待される。
 尚、本レポートの英語版として、雑誌Science and Public Policy誌上の論文が利用可能である。
(Fujigaki, Y. and Nagata, A. , Concept Evolution in Science and Technology Policy: The Process of Change in Relationship among University, Industry, and Government, Science and Public Policy, 26(6) 387-395. 1998)

ながた あきや
北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科助教授。元科学技術政策研究所第1研究グループ主任研究官。技術経済論、科学技術政策。最近の論文に「知識創造プロセスにおける開発リーダーの機能」『ビジネス レビュー』(Vol.47, No.3, 2000)など

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Ⅱ.論説紹介
                


科学技術に関する国民意識調査について −我が国及び各国の調査の状況 その1−
第2調査研究グループ上席研究官 岡本信司

 

1 はじめに
 我が国では、「若者の科学技術離れ、理科離れ」が問題提起されて久しいが、国民への科学技術に関する意識調査結果によると、若者のみならず国民全体の科学技術への関心は、ここ数年間で大きな変化は見られないものの、各国と比較すると低い水準にある。このような国民を対象とした科学技術に関する意識調査については、これまで当研究所や総理府等で実施されており、また、欧米諸国をはじめ世界各国においても実施されて、時系列比較、国際比較研究等が行われている。
 特に欧米諸国では、主要新聞、雑誌等における科学技術関連記事に関するメディア分析、科学技術教育、博物館活動等幅広い調査研究分野を体系的に位置づけた "Public Understanding of Science and Technology" (科学技術の公衆理解)に関する研究として、国際ジャーナル "Public Understanding of Science" の発行、関連国際会議開催等の活動が活発に行われている。
 本稿では、これら科学技術に関する意識調査について、我が国及び各国の現状を紹介していくこととするが、今回は我が国の現状について紹介する。

2 我が国における意識調査について(1)−科学技術政策研究所における調査研究−
 当研究所においては、科学技術と人間・社会との関係、特に科学技術に関する国民の意識に関連して、これまでに以下のような5つの調査研究(「NISTEP REPORT」は当研究所の報告書を示す)が行われている。
 その調査研究の一環として、意識調査が実施されたものは、以下の中で(3)〜(5)である。
 (1)「科学技術に対する社会の意識について〜世論調査から人々の意識を探る〜」(平成元年6月NISTEP REPORT No.2)
 (2)「科学技術と社会とのコミニュケーションの在り方の研究(科学技術に関する社会的シンパシーとコミニュケーション活動の展望)」(平成3年3月 NISTEP REPORT No.17)
 (3)「日・米・欧における科学技術に対する社会意識に関する比較調査」(平成4年3月 科学技術振興調整費報告書)
 (4)「科学技術が人間・社会に及ぼす影響調査」(平成6年3月NISTEP REPORT No.34)
 (5)「生活関連科学技術に関する意識調査」(平成7年3月NISTEP REPORT No.40,平成8年3月NISTEP REPORT NO.45)

 次に簡単にそれぞれの調査研究について紹介する。
(1)「科学技術に対する社会の意識について〜世論調査から人々の意識を探る〜」
 本調査研究は、総理府の実施した科学技術等に関する世論調査結果をベースにして、科学技術に対する意識の全体的な傾向をはじめ情報社会、原子力発電とエネルギー問題、ライフサイエンス、環境問題への意識といった個別分野、国際比較(試論)について、分析を行って考察を加えている。
 なお、本調査研究においては、科学技術政策研究所独自の意識調査は実施していない。
(2)「科学技術と社会とのコミニュケーションの在り方の研究(科学技術に関する社会的シンパシーとコミニュケーション活動の展望)」
 本調査研究は、科学技術のレベルの評価や科学技術の情報源等の科学技術に関する意識について、総理府、マスメディアの世論調査等をベースにして、科学技術に関するコミニュケーションについて分析して考察を加えている。
 また、環境・資源・エネルギーを見る視点等5つのテーマについて事例研究を実施している。
 特に興味深い分析として、「科学技術の知識が増しても必ずしも科学に対する信頼感、安心感が増すとは限らない、新しい知識の増加によってかえって非合理的な反応を強めてしまう場合も時にはある」といった情報提供の在り方に関する示唆が挙げられる。
 なお、本調査研究においても、科学技術政策研究所の意識調査は実施していない。

(3)「日・米・欧における科学技術に対する社会意識に関する比較調査」
 科学技術政策研究所が1990年から米・欧の研究者と協力して開始した「科学技術に関する国際比較研究」(International Comparative Study for the Public Understanding of Science and Technology)の一環として、我が国における基礎的なデータの収集、方法論の検討及び現状における各国データ(米、欧(EC:当時)、英、仏)との国際比較を実施した調査研究である。
 本調査研究では、平成2〜3年度の科学技術振興調整費により、科学技術政策研究所に9名の学識経験者等の委員で構成される「科学技術に関する社会意識研究会」を設置するとともに、平成2年度に1400人規模のパイロット調査、平成3年度に国際比較を念頭においた2000人規模の意識調査を実施した。
 また、平成3年度には米国及びEC(当時)3カ国における意識調査の現状に関する海外調査を実施した。

  (4)「科学技術が人間・社会に及ぼす影響調査」
 本調査研究は、平成5年度の科学技術振興調整費により、科学技術が人間・社会に及ぼす影響の観点から、科学技術政策研究所に11名の有識者で構成される「科学技術が人間・社会に及ぼす影響に関する調査委員会」を設置し、1000人規模の一般国民に意識調査を実施するとともに、この調査結果と生活価値観との関連や因子分析等の解析を行うことによって、科学技術に対する意識の分析と人間・社会との接点における科学技術の新たな分類の構築を行っている。
 なお、本調査研究の因子分析による解析手法については、欧州連合(EU)の研究グループが高い関心を示したため、筆者は1995年12月にベルリンで開催された「科学技術の公衆理解に関する国際会議(EU会合)」においてEU欧州委員会第12総局(ECDG12)の依頼に応じて論文発表を行い、非常にエレガントな分析手法であるとの評価を受けた。

(5)「生活関連科学技術に関する意識調査」
 本調査研究は、平成6〜7年度の科学技術振興調整費により、人間・社会に関わりの深い科学技術、すなわち生活関連科学技術について、一般国民と有識者の意識を調査するもので、科学技術政策研究所に5名の有識者からなる生活関連科学技術調査委員会を設置するとともに2000人規模の一般国民への意識調査と350人規模の有識者への意識調査を実施した。
 平成6年度調査では、科学技術政策研究所で実施した第5回技術予測調査の成果を活用して、191課題の生活関連科学技術課題を網羅的に抽出して、それらに対する知識度、重要度、課題推進に対する意見、人間・社会との調和に関する配慮の度合い等について2000人規模の一般国民へのアンケート調査を実施することにより、生活関連科学技術課題について国民の属性に応じた意識の分析を行った。
 平成7年度調査では、社会・経済全体を視野に入れた立場からの意識として、特定の科学技術分野に偏らない350人規模の有識者(人文・社会科学系の学者、マスコミ関係者、評論家、審議会委員等)に対して、平成6年度一般国民意識調査の質問項目を更に充実させたアンケート調査を実施するとともに、専門家ヒアリング、海外における事例調査等を実施した。  本調査研究の特徴は、一般国民に対して、生活関連科学技術191課題に関する早期実現期待度、生活関連度、不安・心配を質問した点であり、この種の大規模かつ網羅的な調査は例がなく唯一のものと考えられる。
 なお、本調査研究の一般国民意識調査について、執筆者は1995年10月に北京で開催された「科学技術の公衆理解に関する国際会議」において論文発表を行ったが、この種の大規模な個別技術課題に関する国民意識調査は国際的にも類例がなく、各国の研究者から高い評価を受けた。

3 我が国における意識調査について(2)−総理府世論調査等
 総理府広報室(内閣総理大臣官房広報室)においては、国民の意識を調査するため、社会意識をはじめ様々なテーマについて世論調査を年間十数回実施している。
 「科学技術に関する世論調査」についても、1960年以来これまで何度か調査が実施されており、過去約10年間においては以下のとおり3回実施されている。
(1)1990年1月調査「科学技術と社会に関する世論調査」
(2)1995年2月調査「科学技術と社会に関する世論調査」
(3)1998年10月調査「将来の科学技術に関する世論調査」
 総理府世論調査の特徴は、調査対象、調査手法及び主要調査項目の一貫性にあり、全国18歳以上を母集団とする3000人規模の訪問面接法による大規模な調査が継続して行われていることである。
 総理府世論調査の時系列データの一例を図に示す。
 なお、総理府以外では、新聞社、行政機関、社会調査機関等において科学技術に関連した世論調査(意識調査、調査項目の一部に科学技術に関する事項が含まれている等)等が実施されている。

4 おわりに
 当研究所においては、本年度に科学技術に関する意識調査の実施を計画している。
 この意識調査では、今後の継続的な時系列調査に向けた「科学技術意識調査スタンダード・モデル」の作成、米国、欧州連合等との国際比較、科学技術教育・理解増進方策等に関する調査項目を盛り込む方向で検討しているところである。
 なお、本稿に関連して、行政官、政策研究者等を対象としたガイドブックとして、意識調査の実施・分析手法等を含めた詳細な内容及びデータを「科学技術に関する意識調査の実施と分析手法について」と題する資料としてとりまとめているので、入手希望があればご連絡されたい。

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Ⅲ.トピックス

新任ご挨拶
総務研究官 市丸 修

 このたび、木村さんの後を受けて総務研究官となりました。政策研はこれで2度目、前回は1989年から91年まで設立されて間もない政策研で企画課長をやっておりました。そのようなことから政策研にはもう十分慣れているだろう、とよく言われるのですが、正直なところかなり面食らっております。そもそも私には、科学技術政策というものがはなはだ難しい。この10年間、政策研を皮切りに神奈川県の科学技術政策室、南アフリカ共和国芸術・文化・科学技術省での科学技術政策アドバイザー(国際協力事業団の呼称では科学技術政策の"専門家"!)、その途中に在職した科学技術庁の研究振興課でも研究人材の活性化のためなにをすべきか、といったことを中心に仕事をして参ったわけでありまして、科学技術政策の決め手となるものに対するイメージがあっても良さそうなものなのですが、確たるものをもてないでおります。
 それはともかく、科学技術振興の目的は人々の生活の質の向上にある、と考えております。文化とか、世界の知的財産の云々というのも、詰まるところは生活の質の問題なのではないのでしょうか。この目的に向かって直線的に進む施策もあれば、ちょっと回り道の施策もあることでしょう。与えられた業務が「科学技術行政」ではなく「政策についての基礎的な調査・研究」であるところに、今やっている仕事が人々の生活にどう役に立つのかというのがわからなくなりがちな点もあるような気もいたしますが、それだけに一層、自分のやっている仕事が将来はどのように生かされていくのか、そのために何をすべきかという展望を持って行うことが大事なのではないかと思います。いずれにせよ、間口の広い仕事です。しっかりとアンテナを張ってお役に立つ仕事をしたいと考えております。よろしくご指導のほどお願いいたします。
 さて、最初に申しましたように、私はこの4月の初めまで南アフリカ共和国政府で働いておりました。芸術・文化・科学技術省はマンデラ新政権になって作られたまだ新しい役所で、イノベーション振興策(競争的ファンドの導入、中小企業・工業専門学校の育成プログラム等)、科学技術週間やサイエンスキャンプの実施等普及啓発事業、それに技術予測等を進めています。さらに基礎研究も忘れていませんよというシンボルとして、南半球最大の天体望遠鏡の建設等も行っています。関係者のみなさんは、今後アフリカを豊かにしていくには科学技術の振興がきわめて大事、との気概を持ってやっておりますが、研究協力その他技術先進国としての日本との関係強化を強く望んでおります。大方の日本の方々にとって南アはあまりに遠く縁の薄いところだと思いますが、南アは広大なアフリカ大陸の重要な拠点です。彼の地の試みが成功しますよう、皆様のご関心を少しアフリカにも向けていただきたく併せてお願いいたします。  

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欧州連合(EU)の科学技術政策の動向について
科学技術振興事業団ブラッセル事務所 所長 植木 勉

 EUの科学技術政策の中心はフレームワーク計画と呼ばれる基本計画である。これは、ほぼ5年ごとに策定されるもので、現在は第5次計画(98〜2002年)となっている。この計画では、同時に予算も決定しているので、実効性の高いものとなっている。現行計画の予算総額は、5年間で149.6億ユーロ(1兆4,660億円、1ユーロ=98円で計算)である。
 第5次計画は、欧州市民の期待に応える科学技術という点を強調し、雇用の改善、生活の質及び健康の向上、環境の保全に重点を置いている。このため、産業技術にかなり傾斜し、また、分野としては、バイオテクノロジーと情報科学技術に力を注いでいる。
 現行計画の次の計画である第6次計画は、従来の例からすると、2002年に策定されるものと思われる。すでに、次期計画の準備作業が始まっている。
 本年1月18日、欧州委員会(EUの行政執行機関)は、「欧州研究地域に向けて」(Towards an European research area)という報告書をとりまとめた。今後、この報告書が次期計画策定作業の中心になっていくものと見られている。
 この報告書は、EU全体の研究の現状を概観し、憂慮すべき状況であるとしている。すなわち、研究投資額について、米国はGDPの2.8%、日本は2.9%であるのに対して、EUは1.8%にしかならず、しかも米国との差は広がりつつあるとしている。また、専任研究者数でみても、EUは産業労働力千人当たり2.5人であるのに対して、米国は6.7人、日本は6.0人となっている。さらに、EUのハイテク製品の貿易赤字は、過去10年間、毎年200億ユーロに達し、しかも、この赤字は増大しつつあるとしている。これらを受けて、報告書は、欧州の研究をとりまく状況について「暗い絵」(a negative picture)しか描けないと結論している。
 私は、この報告書は、意図的に暗すぎる絵を描いていると思う。EU加盟国の中には、ギリシャやポルトガルなど研究開発活動がかなり弱体な国々があり、加盟15ヶ国を平均して、米国や日本と比較すると暗い絵しか描けないと思う。
 いずれにしても、このような認識を前提として、報告書は、欧州の優秀な研究機関のネットワーク化、研究基盤の整備に関するアプローチの明確化、加盟各国及びEUの研究プログラムの協調的実施、知的財産保護の効果的手段の整備、研究者の移動性の向上、研究における女性の役割の拡大など多くの施策を提言している。
 また、報告書は、現在、欧州の研究政策というものは存在しておらず、加盟各国とEUの政策が一貫性なく重複していると断じている。そして、「15+1」という構造を越えて、欧州全体として一貫性のある科学技術政策が必要であるとしている。
 ここのところは、現実に、EUと加盟各国の権限をどのように整理するかという大きな問題と関連している。また、私には、いささか中央集権的発想に過ぎるのではないかという気もするところである。ただ、このような動きは、科学技術分野だけでのことではなく、EU全体が、通貨統合に代表される「統合の深化」と東欧等への「統合の地域的拡大」という2つの目標を追求しているという大きな流れの中で、考えていく必要がある。
 この報告書の提言は、まだ抽象的なものにとどまっているが、今後、EUの内外で、第6次計画に向けて議論が深められていくものと考えられる。

注)1 閣僚理事会(EU Council)はEUの立法機関であり、かつ、行政機関である。欧州委員会(European Commission)は閣僚理事会の決定に従って、実際の行政を執行する機関である。


2 欧州議会(European Parliament)は欧州市民の意見をEUに反映させるための機関であって、基本的には立法機関ではない。ただし、特定の事項については、閣僚理事会と共同決定という形で、部分的な立法権を持っている。



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政策研ニュースについてのアンケート調査結果
情報分析課

 政策研ニュース5月号(No.139)に付帯したアンケート調査表に対して多数の回答を頂きました。
 政策研ニュースは、産学官の多くの方にお送りしていますが、回答者をおおまかに「企業」、「大学」、「官庁・その他」、「政策研関係者」、「産・学・官に含まれているが政策研関係者でもある」に分類してアンケートの回答を分析しました。
 回答の集計結果を表1に示しました。1465通送付したのに対し、403通(27.5%の回答率)の回答がありました。回答率は「大学」が1番多く37.9%で、次いで「企業」が29.6%、「政策研関係」からの回答は約2割の返答がありました。







 図1に項目毎の割合を示しました。これを見ると「興味のあった記事の分野」は「企業」、「大学」は「レポート紹介」、「海外事情」が多く、「政策研関係」は「レポート紹介」、次いで「最近の動き」が多く、「官、その他」は「レポート紹介」、「海外事情」、「最近の動き」の3つがほぼ同じぐらい割合です。
 次に「今後掲載希望の記事(分野等)」について主だったキーワードを絞り、トピックとして表2にまとめてみました。 「企業」の掲載希望記事のトップは「政策動向」で企業のコメントの3割を占めています。次に「バイオ」が2割で、両方で半数を占めています。
 「大学」は、多岐にわたる分野にコメントがありました。
 「官・その他」は「政策動向」が多く、次に「研究・政策評価」となってます。「IT」、「競争力・産業化」なども1割程度のコメント率でした。
 全体としては、国内だけでなく、世界の動向、社会との関わり、研究評価についての国内外の状況及び考え方等の記事の掲載の要望が多いようです。
 「改善についての提案」では、「Webサイトとの連携の強化、記事の検索が出来るようにしてほしい」、「テーマを絞って編集する」、「政策研内の情報(講演会・会議などの事前のお知らせ等)」があり、「研究に留まらず政策提言をすべき」という意見もありました。
 その他「文字が多くて読みづらい」、「紙が良すぎる」、「現在のページ数及び内容で十分である」、「紙、印刷の質を低下させてもページ数の増量を望む」等、様々な意見がありました。

アンケートにご協力頂いた皆様にはご多忙のところ、大変ありがとうございました。この結果を参考にして「政策研ニュース」の編集に反映いたしたいと思います。これからも、どうぞよろしくお願いいたします。






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Ⅳ.最近の動き


○ 主要来訪者一覧