No.139 2000 5 
科学技術庁 科学技術政策研究所
NATIONAL INSTITUTE OF SCIENCE
AND TECHNOLOGY POLICY


 「日本における技術予測の現状」を発表する桑原第4調査研究グループ総括上席研究官
            

 
目次 [Contents]  Ⅰ. 国際&国内会議特集 技術予測国際コンファレンスの開催結果報告
第4調査研究グループ特別研究員 松久保雅弘
平成11年度「地域科学技術政策研究会」の開催について
第3調査研究グループ特別研究員 新舩洋一
Ⅱ.レポート紹介
我が国における製造業の集積と競争力変化に関する考察 - Discussion Paper No.15 -
元第1調査研究グループ上席研究官 中田哲也
Ⅲ.海外事情
ワシントン大学との研究協力についての意見交換
第3調査研究グループ主任研究官 柿崎文彦
Ⅳ.最近の動き

Ⅰ.国際&国内会議特集

技術予測国際コンファレンスの開催結果報告
第4調査研究グループ特別研究員 松久保雅弘

 

 政策研主催、APEC技術予測センターおよび(財)つくば科学万博記念財団の共催により平成12年3月7日(火)および3月8日(水)の2日間、都市センターホテル(東京都千代田区平河町)において以下のとおり技術予測国際コンファレンスを開催した。
1.テーマ
 技術予測国際コンファレンス−新たなアプローチとその可能性−
2.開催趣旨
 1990年代以降、欧州およびアジア諸国を中心とする世界各国において技術予測に関する関心が高まっており、各国の科学技術政策の立案や技術開発計画の策定のためにデルファイ法等による技術予測が広く利用されるようになってきている。このような状況のなか、技術予測活動の成果の活用を含む新たな展開と一層の発展に資することを目的として、海外および日本の予測に関する専門家が一同に会して意見交換を行う国際コンファレンスを開催する。
3.参加者
 講演者:20名(日本を含む14カ国、2国際機関)
 関係者(タイNSTDA代表団、技術予測委員会委員、科学技術政策研究所員等):約50名
 参加者:のべ約300名(7日:約200名、8日:約100名)
4.概要
 3月7日は、政策研所長挨拶、APEC技術予測センターの紹介のあと、セッション「各国の技術予測活動の現状」においてイギリス、ドイツをはじめとする各国の技術予測活動の紹介が行われた。翌8日には、APECおよびEUといった国際レベルでの技術予測活動のセッションにおいて「国際的な予測調査」、今後技術予測調査に取り組む国を対象としたセッションにおいて「新たに技術予測に取り組む国への提言」および社会経済的視点を考慮した技術予測活動の取り組みに関するセッションにおいて「社会経済的ニーズを考慮した予測」がそれぞれ紹介された。各テーマにおける講演の概略については以下のとおりである。

【主催者挨拶】柴田治呂(科学技術庁科学技術政策研究所所長)

 この会議の講演者・出席者および共催者であるAPEC技術予測センター・(財)つくば科学万博記念財団に対する謝辞、日本の技術予測調査の状況、「この会議が今後の予測調査の新たな展開と一層の発展に資するものとなることを希望する」という期待が述べられた。

【APEC技術予測センターの紹介】(Chatri Sripaipan APEC技術予測センター副センター長)

 APEC技術予測センターは、世界最初の地域レベルにおける技術予測調査をおこなう機関として1998年2月、バンコクで活動を開始した。主な活動としては、APEC地域の技術予測調査活動や技術予測調査に関心のあるAPEC加盟国に対する啓蒙活動があること等が紹介された。

【セッション1】各国の技術予測活動の現状

 英国、米国、ドイツ、日本をはじめとする計11カ国の予測活動が発表された。主な内容は次の通りである。
① イギリス(Prof. John Woodノッティンガム大学教授)
 現在、1994年〜1998年にかけて実施した第1回調査結果の更新を目的として昨年より実施している第2回の予測調査活動の途中である。そして、その成果は今年の11月に公表される。また、ネットワークを利用した知識プールを設ける等より広範な人々の参加を目指している。
② オーストラリア(Prof. Greg TegartAPEC技術予測センター上級顧問)
 Australian Science and Technology Council (ASTEC)が1997年にニーズサイドを中心に実施した調査について報告された。ASTECが1998年に解散したため、現在は、Science, Engineering and Innovation Council が科学技術のプライオリティづけを目的として、引き続き予測を実施している。国レベルの予測には政治的支援が必要であることも強調された。
③ カナダ(Dr. Sadiq Hasnainリサーチカウンシル(NRC)顧問)
 政府の科学技術戦略、産業部門における技術ロードマップ、NRCが実施した技術プロジェクトが報告された。政府レベルでは、科学技術戦略を策定するために、マーケットプル型のテクノロジーロードマップによる調査を実施した。一方、産業レベルでは、開発戦略を策定するための予測が実施されている。産業・企業については、デマンドプルの分析が必要であることが述べられた。
④ スウェーデン(Dr. Deiaco Enrico 王立理工学アカデミー会長代理)
 健康・医療、生物資源、社会インフラ、生産システム、情報通信システム、材料・リサイクル、サービス産業、教育の8分野で、デルファイ、シナリオ等の手法を併用して実施中の技術予測プロジェクトについて報告された。
⑤ ニュージーランド(Dr. Paul Reynolds研究科学技術省首席政策顧問)
 1998年度から1999年度にかけて実施中のプロジェクトについて報告された。規範的アプローチをとり、シナリオ分析により14の戦略目標を抽出した。結果は政府の研究開発投資に反映される。また、プロジェクトの成果をオンライン上で閲覧できるデータベース「InnovationLink:2010」が紹介された。
⑥ 米国(Dr. Bruce Don RAND科学技術政策研究所所長)
 1990年代始めから4回実施されているcritical technology調査を中心に、米国の動向が報告された。この調査では、産業を含む専門家へのインタビュー調査、産業部門の技術ロードマップのレビュー等により実施されている。今後は個々の技術よりイノベーションシステム全体を見ることが重要となること、産業および政府機関の技術ロードマップが重視されていること等が述べられた。
⑦ ドイツ(Dr. Hariolf Gruppフラウンフォーファーシステム・技術革新研究所副所長)
 DelphiⅠ、Ⅱ等のこれまでの調査が報告された。今後の方向性としては、デルファイと他の手法をミックスした新しい手法を開発することが重要である。また、社会各層からの予測調査への参加を求めるとともに調査内容等を広く公開することを目指して、インターネットも利用する予測プロセスFUTURの状況が紹介された。
⑧ オーストリア(Dr. Georg Aichholzer科学アカデミー技術評価研究所副所長)
 オーストリアでは、小国のニーズに合わせ、需要指向、問題解決指向、応用指向のアプローチによる予測調査を1996年〜1998年に実施した。この調査では、技術デルファイと並行して社会・文化・経済・政治のトレンドの把握を行う社会文化デルファイを実施した。
⑨ 韓国(Dr. Kichul Lim科学技術政策研究院研究調整部長)
 15分野を対象とし1155課題にわたり実施された第2回デルファイ調査の結果が報告された。今回の調査では、予測期間が20年から25年に拡大され、分析によりキーテクノロジーを抽出している。
⑩ 中国(Dr. Cheng Jiayu科学技術促進発展研究センター上級研究員)
 1995年のcritical technology調査および1999年の農業、情報、先端製造技術分野の技術予測調査が報告された。技術予測調査では、専門家のネットワークを通じて各種の情報が収集されるとともに技術課題のリストが作成され、重要性等についてのアンケートを経て、重要技術が選定された。
⑪ 日本(桑原輝隆科学技術政策研究所第4調査研究グループ総括上席研究官)
 過去のデルファイ調査の背景、位置付けおよび第1,2回調査の評価を紹介するとともに、技術の主要分野についてデルファイ調査での重要度の推移が国全体の研究開発費の動向と連動する傾向にあることを示した。

【セッション2】国際的な予測活動

 APEC技術予測センターよりこれまで実施されたプロジェクト、予測活動支援のネットワーク構築事例および国際レベルでのデルファイ調査の概要等が、また、EU技術展望研究所よりEUでの予測活動の状況がそれぞれ発表された。主な内容は次の通りである。
① APEC技術予測センターの予測活動(Prof. Greg Tegart APEC技術予測センター上級顧問)
 多国間プロジェクトを進める上で、参加者の予測に対する深い理解、国内視野のみでなくAPECレベルの視野が必要であること、英語を用いることによる誤解の解消等の課題のあることが示された。
② EU技術展望研究所(ITPS)の予測活動(Dr. Gustavo Fahrenkrog ITPS未来プロジェクト長)
 人口動態や社会動向を考慮しつつ、技術、競争力、雇用の3者関係について政策決定者を含めた議論が行われているFuture Projectの概要が紹介された。
③ APEC技術予測センターによる国際デルファイ調査
 (Dr. Taeyoung Shin韓国科学技術政策研究院産業技術革新研究部長)
 APEC技術予測センターが実施した国際プロジェクト「水の供給管理」「学習と文化のための技術」が報告された。これらの調査では、デルファイ法とシナリオ法を用いられている。
④ APEC技術予測ネットワークの構築(Dr. Lyretteカナダリサーチカウンシル副会長)
 現在のネットワークの拡大、情報交換促進、予測活動支援を目的とするAPEC技術予測ネットワークが紹介された。

【セッション3】新たに技術予測に取り組む国への提言

 近年予測に着手した南アフリカ、ハンガリーおよびタイの経験等が発表されるとともに、今後技術予測へ取り組む国に対する専門家からの提言・意見交換が行われた。主な内容は次の通りである。
① 南アフリカの事例(Dr. Philemon Mjwara芸術・文化・科学技術省技術開発部長)
 南アフリカの技術予測では、国に利益をもたらす技術の特定、強み弱みの把握等を目的として12分野のパネルを設置し、シナリオ分析等を行ったうえでキーテクノロジーを選択したこと等が紹介された。
② ハンガリーの事例(Dr. Sandor Toth科学技術政策カウンシル事務局長)
 実施中の技術予測プログラム(TEP)が報告された。シナリオ作成、デルファイ調査等が実施され、現在、パネルが現状分析とシナリオに基づく報告書を準備中である。
③ 発展途上国の視点から見た技術予測
 (Dr. Malee Suwana - adth国立遺伝子工学・生命工学センター長)
 タイにおけるNGOや政府による活動が報告された。予測に社会環境的側面を加えていくことが望ましく、生活者ニーズへの対応、地域専門家の取込み等が今後の課題であることが示された。
④ 技術予測の権威、合理性、信頼性(Dr. Chatri SripaipanAPEC技術予測センター長)
 予測の実施に当たり適切な専門家を参加させることが合理性と信頼性を高め、これが権威につながるので、計画段階からそれらを確立する手法を検討することが重要であることが示された。
【セッション4】社会経済的ニーズを考慮した予測
 日本および英国より社会経済的ニーズを考慮した予測への取り組みについて発表があり、今後の技術予測の方向性等について参加者も交えた討議・意見交換が行われた。
① ニーズアプローチを導入した技術予測(軽部征夫東京大学国際・産学共同研究センター長)
 科学技術政策研究所で実施した「国民ニーズと技術予測に関する調査」の概要とこの成果を踏まえて実施中の「第7回技術予測調査」におけるニーズアプローチの導入等の新しい試みが紹介された。
② 第3世代の技術予測(Prof. Luke Georghiou Manchester大学教授)
 予測活動は、専門家が科学技術について予測した第1世代、産学が科学技術と市場について検討した第2世代から、今後、広範な社会の利害関係者を含め社会的要素をも取り入れた問題解決型の第3世代に移行することを示した。
 閉会の辞においてProf. Ketudat より、世界で定期的に予測コンファレンスを開催すること、「情報交換の場としてInternational Club of Technology Foresight(ICTF)をつくる」という柴田科学技術政策研究所所長案に賛同すること等が述べられた。

【まとめ】

 各セッションの議論を通じ、次のような共通認識が得られた。
① 技術予測(foresight)の必要性、有用性についての認識は、先進国だけでなく途上国も含めて一致している。
② 技術予測(foresight)の定義については、国により若干の違いは見られるものの、ほぼ共通の理解が成立している。
③ 現在、技術予測(foresight)はダイナミックな展開の時期であり、各国で最良の手法を確立すべくさまざまな手法の組合せが試みられている。技術予測調査実施国は、他国の経験から学ぶ必要があり、意見交換、情報交換が重要となる。この意味で今回の会議は有意義であった。
④ 世界における技術予測の展開に当たり、OECDのイニシアチブ(1994年の専門家会合)は第2世代に入るきっかけとなり重要な役割を果たした。しかし、現在技術予測はOECD圏外にも広がり、世界的になるとともに、各国とも技術予測に社会経済的視点を結合させ、より有効な政策ツールとしていくことを指向している。

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平成11年度「地域科学技術政策研究会」の開催について
第3調査研究グループ特別研究員 新舩 洋一

 

1.はじめに
 科学技術政策研究所では、去る3月14日(火)〜15日(水)の2日間、科学技術振興事業団サイエンスプラザ(東京都千代田区)において標記研究会を開催した。この研究会には、都道府県及び政令指定都市の科学技術政策担当者や公設試験研究機関の職員を主に約90名が参加し、「地方公共団体における研究評価の手法とあり方について」というテーマで、講演、事例報告及び意見交換が行われた。

2.研究会の概要
(1) 1日目
 開会に先立って、当研究所の柴田所長が挨拶を行った。柴田所長は、挨拶の中で、本研究会のテーマである研究評価の重要性や本研究会の意義等について述べるとともに、本研究会を今後も継続して開催していきたいと希望している旨述べた。続いて、岩手県立大学の西澤潤一学長から、「21世紀における科学技術の役割」という題名の基調講演が行われた。西澤学長は、炭酸ガス問題や送電方法を例にあげ、現在の科学技術を正しく利用すれば21世紀における人類の危機、特に環境問題を解決できるだろうと説明されるとともに、科学技術活動によって環境を守る産業や情報化社会に対応した産業を興していくことの重要性について述べられた。次に、科学技術庁の崎谷長官官房審議官から「科学技術政策の動向と課題」という題名の講演が行われた。崎谷審議官は、科学技術計画、平成12年度科学技術関係予算、新たな科学技術行政体制及び今後の課題と次期科学技術基本計画等の紹介を通じて、国における科学技術政策の概要と国の目ざすべき姿について述べられた。午後に入り、まず、当研究所の平澤冷総括主任研究官から「地域になじむ研究開発評価の枠組み―比較評価論の観点から―」という題名で、評価の枠組み、諸外国における研究評価の概要紹介及び地域になじむ研究評価の仕組みに関する講演が行われた。
 続いて、事例報告として、理化学研究所の大窪道章調査役から、理化学研究所において実施されている研究評価及び機関評価の仕組みについて、既に実施した機関評価の際のスケジュールや評価の活用状況を交えて報告がなされた。
 次に、兵庫県知事公室の落合正晴課長補佐から、兵庫県が実施した県立試験研究機関に関する評価に関して、その背景や経緯を交えた形で報告がなされた。
 続いて、大阪府立産業技術総合研究所の米田明彦次長から、同研究所における業務評価の仕組み等に関して報告がなされた。 最後に、科学技術政策研究所の権田金治客員総括研究官から、地方公共団体の公設試験研究機関の現状についての説明並びに公設試験研究機関の課題を解決するに当たっての評価手法及びあり方に関する講演が行われた。
(2) 2日目
 科学技術庁科学技術政策局評価推進室の佐野太室長から、国における研究開発の評価の仕組み、評価の現状及び今後の課題等について講演が行われた。続いて、参加者全員による自由討議が行われた。ここでは、研究評価等の現状についていくつかの地方公共団体から説明がなされるとともに、公設試験研究機関の担当者の立場からの研究評価に関する意見も出されるなど、それぞれの立場から様々な意見が述べられた。

3.おわりに
 本研究会は今回が5回目であったが、「研究評価」をテーマとして取り上げた今回は、地方公共団体から過去最多の90名の参加があり、「研究評価」に関する地方公共団体の関心の高さがうかがわれた。本研究会は当研究所にとって地方公共団体の科学技術政策担当者と直接意見交換を行える貴重な場であり、今後の調査研究を進める上で非常に有益であることから、今後も継続していく予定である。
なお、本研究会の内容については、後日報告書として取りまとめる予定である。

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Ⅱ.レポート紹介



我が国における製造業の集積と競争力変化に関する考察 - Discussion Paper No.15 -
第1調査研究グループ上席研究官 中田哲也、第3調査研究グループ客員研究官 権田金治

1 はじめに
 産業の競争力について議論する場合、地域という観点が重要かつ有益である。19世紀の末、A.マーシャルは、ある産業が集積立地することによるメリット(外部経済効果)について理論的枠組みを提供しており、現在においても、例えば、M.ポーターは、クラスター(集積)が競争力の源泉であると指摘している。
本稿は、近年における我が国製造業の立地と集積の動向を概観し、一定の指標を用いて新たな産業集積の動きがみられることを明らかにするとともに、その背景にある事情等について紹介する。

2 近年における我が国製造業の立地動向
 1985年にける我が国における製造業の事業所数は439千であったが、92年以降減少のテンポを速め、97年には393千と約18%の減少を示した。産業別にみると、繊維工業(▲49%)、木製品製造業(▲32%)の減少が大きい。
 一方、地域(都道府県)別の動向をみると、東京都(▲38%)、大阪府(▲24%)など大都市圏(集積地)における減少が著しく、また、地域別/産業別の特化係数について85年と97年を比較しても、集積が進んだという状況はみられない。このような既存の指標からは、集積が進んだという事実は確認されなかった。

3 動態的な指標による集積の把握の取組み
 次に、「集積」の動態的な過程に着目する以下の指標を用い、地域における製造業の立地と集積の状況について把握することを試みた。いずれの指標も地域別(都道府県別)/産業別(中分類の23業種)に計測され、1985〜97年のポイント差で表される。
 ① 産業内競争力変化指数
  ある産業の全国の事業所数に占める当該地域のシェアの変化(ポイント差) で、その産業における当該地域の競争力の変化を表していると考えられる。
 ② 地域内競争力変化指数
  ある地域の全事業所数に占める当該産業の構成比の変化(ポイント差)で、 その地域における当該産業の競争力の変化を表していると考えられる。 これらの指数を全ての地域/産業毎に計測し、プロットしたものが図である。
 図の第Ⅱ及び第Ⅲ象限に属するのは、全国の当該産業の事業所数に占めるシェアを低下させた地域/産業であり、東京都や大阪府における多くの産業が含まれている。特に、東京都については、多くの産業が横軸に沿ってプロットされており、多くの産業が総じて競争力を低下させたことを示している。
 第Ⅲ象限に属するのは、産業内競争力を低下させつつ地域内の競争力も低下させた地域/産業で、京都府、鹿児島県の繊維工業等が含まれる。
 第Ⅳ象限に属する地域/産業は、地域における構成比は低下させたものの全国シェアは逆に高めた地域/産業で、石川県、福井県における繊維工業等が含まれる。これら両県においても繊維工業の事業所数は大きく減少したものの、全国平均ほどの落ち込みはなかったため結果として全国シェアが上昇したもので、いわば「縮小過程における集積」の状況がみられる。
 さて、第Ⅰ象限に属するのが、地域内構成比を高め、かつ、全国の事業所数に占めるシェアを高めた地域/産業である。際立っているのは青森県、秋田県等における衣服等製造業(アパレル)であり、製造品出荷額等も伸びている。これら地域はアパレルの伝統的産地ではないが、大きく事業所数を増加させ、かつ、製造品出荷額等も伸びている状況は、「新たな集積」の動きと捉えることが可能と思われる。
また、ここで示した2つの指数を産業別、地域別にプロットすることにより、産業毎の立地変化の程度や都道府県毎の産業構造変化の状況を概観することができる。それぞれ特徴のある動きを示しているので、関心のある方は報告書を参照願いたい。

4 青森県、秋田県における衣服等製造業の動向
 青森県及び秋田県における衣服等製造業の「新たな集積」の背景には、以下のような事情がある。
 第1は、政策的な対応である。これら両県では、1960年代以降、積極的な企業誘致策がとられ、特に、農村地域における就業機会を確保するために労働集約的な衣服等製造業がターゲットとされた。
 第2は、業界団体の取組である。例えば、両県においてはそれぞれ「産業振興協議会」等いくつかの団体があり、ビジョンの策定、ファッションフェアの開催、独自ブランドの開発等、業界として独自に様々な事業に取り組んでいる。
 第3は地域におけるリーダーの存在である。秋田県のある経営者(地元出身者)は「地域との共生」を経営理念としており、また、青森県のある誘致企業の経営者(県外出身者)は、県内業界のリーダーとして活躍されている。

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Ⅲ.海外事情



ワシントン大学との研究協力についての意見交換
第3調査研究グループ主任研究官 柿崎文彦

 3月6日〜10日に期間、当所とワシントン大学(米国ワシントン州)との間の研究協力に関する打合せを行うことを目的に同大学Bothell校を訪問した。あわせて、同大学のテクノロジー・ライセンシング・オフィスとスピン・オフ企業を訪問し、米国の大学と産業界との連携の事例について知見を得ることとなった。
 当所とワシントン大学との交流は、Steven Collins氏(ワシントン大学教養学部助教授)が1998年9月から3ヶ月間、STAフェローとして当所に滞在し、日本の地域科学技術政策について調査研究を実施したことに始まる。そして、同大学との研究交流に関する覚書が交換されたのは1998年12月のことである。その後、この書簡に基づき、1999年8月に同大学Steven Collins氏が当所を訪問し、その際に日米の地域科学技術政策に関する比較研究をについて打診があった(この経緯などについては政策研ニュース1999年10月号に同氏の寄稿が掲載されている)。
 その際に、比較的早い段階で共同研究の成果が得られることを前提に、当所で先行的な調査研究を実施した「製造業の空間移動と地域産業の構造変化(NISTEP Report No.60)」の手法を用い、米国における製造業の集積あるいは分散に関する定量的分析が可能かどうか探索型の研究を提示した。また、併せてNISTEP Report No.60にて公表した調査研究の方法論及び手法などを説明するとともにその基本となる資料一式を提供した。
 その後、電子メールを介して意見交換を行い、米国の製造業についてデータの収集と分析を行うこととなっため、今回の訪問ではその分析結果を中心に意見交換を行った。
 収集済みのデータは、全米50州ごとの事業所数と従業者数について、産業中分類(2桁)20業種、収集期間は1977年から1995年である。米国の製造業についても分散あるいは集積を伴いつつ成長あるいは衰退を示す産業のあることが確認された。「集積衰退型」産業の代表的な事例はたばこ製造業と繊維製造業との中間結果が得られている。一方、自動車産業、航空機産業など輸送機械製造業はそれらの産業立地が米国の特定の都市に集中していることから典型的な「集積成長型」産業として示されるはずである。しかしながら、これら二つの典型的な産業は産業中分類のレベルでは同一の産業分類に属してしまうため、現段階では明確なパターンは得られていない。このため、米国の製造業に関する空間移動の詳細な分析は今後も継続する必要があり、重ねて意見交換の機会が必要との共通する認識に至った。
 このように、日米の比較研究をレポートとして取りまとめるためには産業分類の調整などを行う必要があるものの、この共同研究の中間成果は本年9月に開催されるRESTPOR 2000にて論文として発表される予定である。
 共同研究に関する打合せのほか、Steven Collins 氏のコーディネートにより学内セミナーが開催され、当所の調査研究活動について発表する機会を与えられた。このセミナーにはワシントン大学Bothell校のWarren W. Buck 学長をはじめ、ファカルティー・スタッフ20名が参加した。技術予測、技術経営、地域科学技術などの分野を中心に多くの質問があり、当所の活動内容に対して高い関心のあることが感じられた。この後、Warren W. Buck 学長と個別に懇談し、当所との間の研究協力は順調に進んでいるとの見解が示され、今後も研究者の交換をなどを通じて協力関係を進展させていきたいとの意向が示された。

・University of Washington, Office of Technology Transfer(OTT) 訪問
 OTTはワシントン大学のTLO(Technology Licensing Office)の一つで、同大学で最も大きなキャンパスであるSeattle校の近くに位置している。OTTのDavid P. Brown氏によれば、1980年に制定されたBaye-Dole法が大学における研究成果の普及に果たした役割は大きく、特に、ワシントン州では州の法律により、州立大学における知的成果の移転が半ば義務づけられていることから、OTTの事業は継続して拡大傾向にあるとのことである。技術移転は基本的にワシントン州の雇用や経済活動の拡大を目的としているので、相手方の企業は原則としてワシントン州の企業とされている。
 現在のところ特許によるロイヤリティー収入が多くを占めているが、近い将来にソフトウェアの著作権の割合が増加するものと予想され、技術をバックグラウンドとするスタッフのほか、法律対応に能力を発揮できるスタッフを採用していく予定とのことであった。

・Sonosite社(ワシントン大学のスピンオフ企業の一つ)訪問
 同社は、ハンディ・サイズの医療用エコー装置を主要製品とし、最も急成長をしているスピンオフ企業で、画像処理用のマイクロチップの設計と最終製品の販売のみを行い、製造はすべてアウトソーシングしている。1997年にスタッフ28人(ほとんどが技術者)で独立し、現在では140人(うち約60人はマーケティング及び財務)の規模に至っている。大学との連携のメリットとして、応用物理学あるいは臨床医学の専門家と緻密な情報交換が得られることと、また製品の利用者としての助言がすぐに得られることが述べられた。

 当所とワシントン大学との研究協力に関する書簡交換は比較的新しいものの一つであるが、今回の訪問により、地域科学技術政策の分野における共同研究の目標が明確なものになり、その成果公表についても実現可能性が確かなものであることが明らかとなった。

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Ⅳ.最近の動き


○ 人事往来
  • 3/31付けで安藤忠志総務課長が退職。
    後任には4/1付けで永田豊(科学技術政策局政策課長補佐)が総務課長に就任した。
  • 3/31平澤冷第2研究グループ総括主任研究官が退職(4/1付けで政策研究大学院大学教授)。
    後任には4/1付けで小林信一電気通信大学大学院情報システム研究科助教授が就任(併任)した。



○ 主要来訪者一覧
・3/1   Dr. Syedjalaludin:プトラ大学副学長 マレーシア
・3/6   Dr. Sippanondha Ketudat:タイ前教育大臣 タイ
・3/16   Dr. Joe COATES:Coates & Jarrat Inc.社長 米国
・3/27-28 Dr. 王 元(Dr. Wang Yuan):中国科学技術部 科学技術促進発展研究中心所長中国


○ 講演会
・3/16   21世紀の先端技術について.
 (a research organization committed exclusively to the study of the future.)
 Dr.Joe. Coates:President of Coates & Jarratt, Inc米国




編集後記

   



科学技術庁科学技術政策研究所広報委員会(政策研ニュース担当:情報分析課)

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