No.133 1999 11 
科学技術庁 科学技術政策研究所
NATIONAL INSTITUTE OF SCIENCE
AND TECHNOLOGY POLICY


 姜韓国科学技術政策研究院長(右)と柴田政策研所長(左)が両機関の研究協力等の促進のための覚書(MOU)に署名した。
            

 
目次 [Contents]  Ⅰ.レポート紹介
「公的研究機関の研究計画策定過程に関する調査」 - 調査資料 - 63 田中元第2研特別研究員
Ⅱ.海外事情
エジンバラ大学との共同研究の成果取りまとめと英国中小企業のヒアリング 権田客員総括研究官
Ⅲ.トピックス
繁栄を続けるシリコンバレー 鈴木科学技術国際交流センター専務理事
Ⅳ.最近の動き

Ⅰ.レポート紹介

                    

「公的研究機関の研究計画策定過程に関する調査」 - 調査資料 - 63
元第2研究グループ特別研究員 田中 聡

 

   本調査は、国立試験研究機関(いわゆる国研)における研究計画策定過程の有効性という視点で、プロジェクト研究の計画策定における組織的情報活動の現状を把握することを目的としている。現在、行革の流れの中で大きく変わろうとしている国研の1999年現在におけるデータを解析した。郵送質問票を用いた本サーベイ調査によって、今後の公的研究機関における研究マネジメントを展望する上での基礎データを得ることができた。
 調査対象機関は、平成10年度における科学技術振興調整費を受け取る対象となった各省庁に付置する71の国立研究機関である。回答依頼者は「研究企画責任者」(研究企画担当部署の総括責任者)および「プロジェクト・リーダー」(プロジェクト研究の総括責任者の経験を有する研究者)の合計499名である。質問票の発送は1999年1月で、有効回答者数は136名(44機関)、回収率は27.3%であった。以下に主な分析結果を要約する。

(1)国研のプロジェクト研究に関する計画策定過程を、①研究課題の募集(研究者間や研究グループ間等での調整も含む。)、②研究機関内の総合調整、③所管官庁との総合調整(予算を計上する省庁のヒアリング等も含む。)、④研究実行計画策定の4局面に区分して分析したが、「所管官庁との政策の整合性」というトップダウン指向の課題設定基準の優先順位が平均すれば低くなっていた点は興味深い。シーズ・ニーズ両面のバランスから研究課題は設定されていくようであり、その過程はどちらかといえばボトムアップ指向であるように思われる。
(2)プロジェクト研究の計画策定過程に関して、プロジェクト・リーダーの情報活動(研究機関内外における相互作用)は、実質的な意味での有用性を持っている。プロジェクト・パフォーマンスとして、口頭発表件数、論文発表件数、出願特許件数の3つの客観指標に注目し、各指標とプロジェクト・リーダーの情報活動を分析した。いずれの指標についてもパフォーマンスの低い層(LP群)より高い層(HP群)の情報活動の有用性を示すデータが得られた。
(3)研究企画責任者の情報活動には、研究機関内の様々な研究計画の策定に関わる一方で、所管官庁の行政官との接触頻度がプロジェクト・リーダーよりも高いという特性がある。行政ニーズに関しては、主として研究企画責任者が情報源とのインターフェイス機能を担っているようである。
(4)研究企画責任者のコミュニケーションは所管官庁を含めた垂直的な広がりが比較的大きいのに対して、プロジェクト・リーダーの場合は組織の枠を越えた水平的な広がりが比較的大きいことを示す分析結果が得られた。大まかにいえば、両者のコミュニケーション特性は補完的な関係にあることがうかがえる。

次に、研究計画策定過程における組織的情報活動に関する示唆を以下に示す。
(1)国研の生産性を高めていくために、研究計画策定過程の中に外部からの研究要請情報を効率的に取り込んでいくための情報活動は、次の2つの方法に集約される。1つは、行政ニーズの把握に重きをおく研究企画責任者がその情報活動範囲を横方向へ拡大していくことである。もう一つは、研究機関外部との横方向の相互作用が特徴であるプロジェクト・リーダーがその情報活動の範囲を縦方向へ拡大していくという方法である。
(2)「中央省庁等改革基本法」を文面どおりに解釈すれば、独立行政法人化後の国研には所管大臣が定める中期目標(3〜5年)を達成しなければならないという強いタイム・プレッシャーが働くものと予想される。そのような状況下でチャレンジ性のある研究課題にも取り組まなければならないということを考慮すれば、将来の情報活動はプロジェクト・リーダーに代表される研究者が担うことが効率的であるように思われる。分析結果からも、横方向のコミュニケーションが特徴であるプロジェクト・リーダーの情報活動は、口頭・論文・特許パフォーマンスに対して有用であった。このことは、研究を主たる事業とする独立行政法人としての自律性・自主性を尊重するという視点にも整合するものでもある。
(3)科学技術が今後さらに国際性を要求されることを勘案すれば、研究者の出張旅費の拡充は緊急性のある課題である。また、学会活動等に代表される情報活動(研究機関外部との相互作用)は研究計画策定過程における研究者の横方向の相互作用の有用性を高めることにも貢献するものと思われる。本調査の「自由記載」(研究推進上での制約要因や意見・要望に関する自由回答)の内容においても同様の指摘は多く見受けられた。
今回の調査における残された課題は以下のとおりである。
(1)本調査は、研究企画責任者およびプロジェクト・リーダーが研究計画策定に関する有用な情報を組織内にもたらす「インターフェイス」であるとの想定に基づいて実施した。しかし、彼ら以外の「インターフェイス」が国研内に存在する可能性については調査の対象外とした。例えば、プロジェクト・リーダーが頻繁に接触しているプロジェクトの中核メンバーがそれに該当するかもしれない。このことは、独立行政法人化後の国研がプロジェクト指向を強めていくとすれば、プロジェクト・チームという集団のゲートキーパー機能の重要性が高まることを示唆していると思われる。プロジェクト・リーダーによる情報活動の充実策と合わせて、独立行政法人化後の研究体制を視野に入れた検討・分析が必要である。
(2)マルチファンディング(研究資金源の多様化)の進展によって、研究課題の内容が複数の省庁にまたがる横断的プロジェクトがさらに増加していくものと予想される。よって、計画策定過程において関係省庁との調整を効率的に実施していくことも独立行政法人化後の国研の課題となるであろう。調査票の「自由記載」においても同様の指摘がみられた。省庁横断型プロジェクト研究に関する計画立案のための情報活動のあり方に関する調査分析により、新たな示唆を得ることができるだろう。

本件に関する問い合わせは平澤総括主任研究官までお願いします。

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Ⅱ.海外事情

エジンバラ大学との共同研究の成果取りまとめと英国中小企業のヒアリング
客員総括研究官 権田金治

 エジンバラ大学と共同研究の成果取りまとめと英国中小企業ヒアリング調査のため、英国エジンバラ大学へ出張した。

1.成果取りまとめ作業
 日欧の中小企業の国際競争力評価に関する研究はエジンバラ大学とNISTEPとの共同研究として進められているが、エジンバラ大学側は本共同研究をEC(DGXII)からの受託研究の一貫として行っている。英国からは同大学以外にオックスフォード大学が参加しており、英国以外の国・地域からはイタリア、ギリシャ、イスラエル、韓国、台湾等が参加している。研究目的は中小企業のヨーロッパ/アジアにおける競争力評価にあり、第1回の合同会議は昨年5月にエジンバラ大学で行われ、第2回が今年の5月にオックスフォードで開催されているが、第2回会合には日本からは参加していない。基本的にはECからの受託研究であるため、共同研究の作業はヨーロッパ側が中心となっておりアジアからの参加はどちらかと言えば比較のデータの提供にある。従って、当方は研究の最終目的である中小企業支援政策等の政策提言に関してどこまで関与できるかは明確ではない。
 研究は参加各国が討論のうえ中小企業の立地に関する比較優位に関する共通の調査表を作成し、それぞれ自国に持ち帰りアンケート調査を実施し、結果を報告することになっているが、参加各国はそれぞれ集計された結果を相互に活用することができるようになっている。研究の中心は産業クラスターに着目した中小企業の業態と立地特性の解明にある。また対象としている産業セクターは先端技術産業、ソフトウエア産業、および伝統産業の代表として繊維産業が選ばれている。
 調査は、企業の歴史的背景、最近の営業実績、取り引き関係、技術情報の入手先、立地環境等に関する自己評価等々が極めて広範に及んでいるが、当方の調査表はこれの一部で完全に一致するように設計されている。現在までのところ、参加各国とも調査結果を集計中で解析結果は公表されていないが、11月にイスラエルで開催予定の第3回合同会議で結果を持ち寄って報告することになっている。今回の会合では主として取りまとめの基本的方向と、一次集計結果の傾向についての討論がなされ、その後に英国における中小企業のヒアリングを行った。

2.中小企業ヒアリング調査
(1)アルバ・センター:英国のDTI(貿易産業省)主導で開発されたセンターで、デザイン産業を中心としたクラスター開発を目的としており、新しいタイプのサイエンスパークと言える。エレクトロニクス産業の基盤技術である各種デザイン技術の開発を産学官連携のもとで民間主導型で推進することを目的にしているが、重要なことは新しい市場開拓のためのフレームがうまく設計されていることにある。従来のサイエンスパークでは研究・技術開発に主眼が置かれていたが、市場開拓のための仕組みは出来ていなかった。この点は今後、日本でもサイエンスパークの開発にあたって参考にすべきこととして示唆的であった。
(2)コンピュータ・ソフト開発企業:アルバ・キャンパス内にあるコンピュータ・ソフト開発会社で設立間もないベンチャー企業。顧客は同地域内の大企業が大部分で高速演算回路の理論開発を行っている。社長は同地域内の企業からのスピンオフ。センターが提供する各種サービスをうまく活用しながら技術開発を行っているが、立地条件に関してはセンターほど肯定的ではなかった。
(3)ゲームソフト開発企業ベンチャー:エジンバラの郊外に立地するコンピュータ・ゲームソフト開発ベンチャー企業で、エジンバラ大学からのスピンオフで92年に従業員10名で設立された。設立当時の社長の年令は27才で現在の従業員は90名で間もなく株式を公開する予定。同地域で注目されているベンチャー企業である。売り上げは急速に伸びているが、製品のライフサイクルが短い割に、開発に時間がかかる点にゲームソフトの開発の難しさがある。そのための体制造りが勝敗の決めてとなっている。勤務形態は完全フレックス制を敷いているが、この点は我が国のゲームソフト・ベンチャーと類似している。また、ゲームソフトの開発は開発者自身の個性に強く依存しているため、人事管理上のノウハウも企業としての成否を決定づけるものと言われているが、この点でも状況は日本と極めて類似していたことが印象的であった。立地条件に関しては経営者の立場と従業員の立場に相違があり、前者が肯定的であったのに比べ、実際に開発に関わっている後者は必ずしも良好とは言えないとの意見が多かった。経営者から見れば同地域に他のビジネス機会や雇用機会がないことが逆に現状を支えていると言えよう。

 本研究は11月に参加各国が一同に会してイスラエルで第3回の合同会議を開催する予定となっており、そこでこれまでの研究成果を討論の上まとめることになっている。報告書としては2000年の春ごろまでに完成させる予定であるが、異なった国が参加したマルチラテラルな国際共同研究であるだけに、中小企業の国際競争力に関して、比較に耐えられるだけの共通的な評価軸が開発されるか否か、現在のところ予断を許さない状況にある。アンケート調査で共通した部分は評価に耐え得る情報が得られることが期待されるが、立地要因に関するヒヤリング調査結果については、各国それぞれの異なった事例が得られることが期待されており中小企業を取り巻く研究・技術開発の相違が明らかにされることが期待されている。

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Ⅲ.トピックス

繁栄を続けるシリコンバレー
(社)科学技術国際交流センター(JISTEC)専務理事 鈴木治夫

 サンフランシスコ空港から車で30分ほど南のカリフォルニア州メンロパーク市内のJISTECアメリカ事務所に勤務している間に、外野席ないし場外から、周囲のシリコンバレーの様子を垣間見ていた。

 シリコンバレーも、10年ほど前は、日本企業などの追い上げで、将来が悲観され、他の産業都市と同様に、やがて衰退してしまうのではないかと見られたという。その後、インターネットの発達に関連して、再び活況を呈している。
 アメリカ人にとっても、他と違う不思議な地域として、最近また研究の対象となっている。その象徴的なものは、東部のハーバード大学ビジネススクールが、ベンチャーキャピタル企業の多いメンロパーク市内に、この地域のビジネスについての恒久的な研究センターを設けたことである。また昨年11月には、経済学者などではなく、文化人類学者が多数集まって、この地域の特徴についての分析結果のシンポジウムを開いている。
 現在のカリフォルニアの人々はかなり開放的である。また特にシリコンバレーでは、他の企業の経営者や、技術者と議論することが容易であるという独特のオープンな情報カルチャーがある。快適な気候のせいもあり、服装もかなりカジュアルである。職場でもネクタイ無しの人が多い。ペットの犬を会社に連れてくるのを認めているところもある。人間関係も上下の意識とか、肩書きとかをあまり気にしない。様々な会合にでていても、人々は、実に自由闊達に意見を述べ合っていた。
 サンフランシスコ地域は、約150年前のゴールドラッシュを契機として発展した。地元の新聞では、この記憶が根付いているため、カリフォルニアの人々は一攫千金が大好きな気質を持っているという記述があった。現在は、ここでの成功で巨万の富を得た人々の大邸宅などが、近所に目に見える形で存在している。また、億万長者が毎日何人誕生しているなどという話題をあちこちで日常的に楽し気に語り合っている。起業を狙う個人への評価も、金儲け意欲の強弱が大きなポイントになる。
 日本では、新産業育成とか、ベンチャー企業設立支援とかに、各省庁が支援施策を打ち出すとか、県や市が、支援策を打ち出すとかいう報道を良くみかける。ところが、シリコンバレーの人々の会合や、新聞記事などを見ていても、米国連邦政府の支援策とか州政府の支援策とか、全くといいほど話題に出てこなかった。起業の際に政府の補助金や委託費などをあてにするという発想も聞こえてこなかった。
 シリコンバレーの草創期の事情はまた違うとして、現在はこの地域には、ハイテク企業、大学、ベンチャー・キャピタル会社、法律事務所、会計事務所、銀行などが集積していて、ベンチャー企業立ち上げの成功、失敗の経験を積んだ様々な人材が、新しいベンチャー企業の設立に協力している。当然であるが、技術以外にも市場のニーズの見極め、資金集め、販売などで、様々な有能な人材が結集しないとベンチャー企業は成功・発展しない。資金を提供する側は、5年程度で、株式公開や企業売却で儲けることをねらって資金提供をし、経営に口も出している。現在のシリコンバレーでは、この集積効果のため、短期間に会社のスタートアップが出来るとのこと。有能な技術者などが、少ない給料でも、スタートアップ企業のために働きたがる。日本では、トップクラスの技術者などをスタートアップ会社が雇うことは難しい。優秀な人達は既存の大会社に就職したがる。シリコンバレーには日本企業の子会社も多いが、日本の人事・給与体系を引きずっていて、優秀なアメリカ人の採用が難しいとのこと。とくに、ストックオプションが無いといった途端に、その会社への就職意欲を失うアメリカ人が多いとのことであった。
 製造は、米国内や外国の人件費や土地代の安い所の、製造受託専門会社に委託することが多くなっている。
どんなに着想の良い先端技術でも、突出していて10年、15年早すぎる技術は儲からないことが多いとのこと。中心となる技術の他に、一つの製品を構成する他の部品や技術が必要である。これらが、ある程度安く入手できないと製品価格が高くなりすぎて売れない。したがって、ハイテクとはいっても、他人より、数ヶ月先行している程度の技術が商売の種になるとのこと。勿論、絶えず、改良や進歩をしないと、競争に負けてしまう。とにかく、スピードと効率をとことん追求している。むき出しの資本主義である。

 シリコンバレー発展には、スタンフォード大学が大きく貢献したといわれている。大学の教員や卒業生が、ベンチャー企業設立に関わったり、大学所有地に企業向けの建物を建て、貸したとか。日本からこの大学に引き抜かれたある教授に伺うと、設立後約50年間は、「OK大学」と言われ、誰でも入れる大学だつたという。最近のシリコンバレーの発展や、ノーベル賞受賞者の多いことなどで、次第に有名度が増しているとのこと。ただし、この大学の卒業生が受賞というわけではない。1999年2月時点で、大学在籍の(名誉教授を含めて存命中の)ノーベル賞受賞者は16名であった。経歴をみると、全員が米国内外の他の大学の卒業生である。1名のみ、他の大学で修士号まで取り、博士号はスタンフォード大学から取得している。この大学が、ノーベル賞を貰いそうな優秀な学者を世界中からスカウトしてくるという戦略を取っているという噂も当たっているのかも知れない。金儲けとは別の側面ではあるが、大学間の競争も激しい。

 

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Ⅳ.最近の動き

○ 主要来訪者一覧
・9/13 Prof. Fransman Martin(Ph.D):エジンバラ大学日本・欧州研究センター所長
・9/14 Dr. 姜 光男 (Kwang Nham Kang):韓国科学技術政策研究所所長
・9/17 Dr. Jan Baldem Mennicken:日独協力評議会 Secretariat
・9/30 Mr. Brian Ferrar:英国貿易産業省管理業務課長
○ 「科学技術政策研究所」特別展
・未来の国民生活を予測した「技術予測調査」の研究成果等本研究所の活動内容をパネルやパンフレットを通じて紹介。
 於:10/13(水)〜22(金)未来科学技術情報館
・特別講演会
 10/14(木)「科学技術と地域社会」
       講師:科学技術政策研究所客員総括研究官 権田金治
 10/15(金)「技術予測調査について」
       講師:科学技術政策研究所第4調査研究グループ総括上席研究官 桑原輝隆

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編集後記

 北の大雪山から紅葉の便りが届きました。関東地方が錦秋をまとうのは月末頃となるのでしょうか。
 当研究所は科学技術政策研究の分野における国内外の研究機関や研究者と連携をとり、協力して研究を進めております。海外研究機関との情報交換、共同研究、研究者の受け入れ、国際ワークショップ開催等です。これらの効率的な実施のために覚え書きを締結することがあります。表紙の写真は、韓国科学技術政策研究所(STEPI)との覚書の署名交換です。
 さて、政策研ニュースでは、来る2000年に向け、特集を検討しております。さらに、紙面の刷新を図るなど、よりよき情報の提供に努めて参りますのでご期待下さい。(Y)



科学技術庁科学技術政策研究所広報委員会(政策研ニュース担当:情報分析課)

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