No.132 1999 10 
科学技術庁 科学技術政策研究所
NATIONAL INSTITUTE OF SCIENCE
AND TECHNOLOGY POLICY


 Dr. Shaball 仏教育省・科学技術アドバイザーと科学技術 政策研究についての意見交換をする榊原総括主任研究官(右)
            

 
目次 [Contents]  Ⅰ.レポート紹介
科学技術と人間・社会との関わりについての検討課題 −調査資料No.62− 第2調査研究グループ
我が国のライフサイエンス分野における数量的分析 −Policy Study No.4− 第2研究グループ
Regionalization of Science and Technology in Japan : The Framework of Partnership between Central and Regional Governments −調査資料No.59− 第3調査研究グループ
 
Ⅱ.トピックス
研究室訪問(北陸先端科学技術大学院大学 永田研究室)
Ⅲ.海外事情
OECD科学技術指標専門家会合等への出席 富澤第2研究グループ主任研究官
PICMET '99(ポートランド・エンジニアリング・技術マネジメント国際会議)への参加 伊地知第1研究グループ研究員
Ⅳ.最近の動き

Ⅰ.レポート紹介

                    

科学技術と人間・社会との関わりについての検討課題 −調査資料 No.62−
第2調査研究グループ  大山真未、伊藤晃輔、國谷実

 

 第二調査研究グループにおいては、これまでも科学技術と人間・社会に関する問題について検討を行ってきたところであるが、近年の科学技術を巡る状況の変化にも配慮しつつ、特に当面取り上げるべき主題として、現在現実に問題が生じているか、ないしごく近い将来に問題が生ずることが予測される技術であって、早急な回答が求められている分野・事項について検討を進めることとした。このような方針の下、当グループにおいては、本年5月にPOLICY STUDY No.1「先端科学技術と法的規制<生命科学技術の規制を中心に>」を発行したが、その事前調査として、多くの学識者の方々から講演、議論の機会をいただき、その内容を踏まえて、当グループの今後の調査研究の展開の基礎及び方向性を整理したものがこの調査資料である。内容は2章構成となっており、あわせて2部構成の講演録集を付した。
 まず第1章では、科学技術と人間・社会の調査研究に当たって、現在の学問の趨勢や水準、方向性をわきまえておくことが重要であり、その意味で特に欧米で(最近では日本でも)関心の深まっているSTS(Science, Technology and Society)といわれる学問分野を中心に必要な調査研究を行った。STSが注目されるに至った前提として、第二次世界大戦後、今日に至るまでの欧米及び我が国における科学技術と社会との関わりのあり方の変化について述べ、特に1960年代の終わりから1970年代にかけて、公害問題等を契機として、欧米等の大学で科学技術と社会に関するプログラムが登場するに至ったこと等を紹介し、さらに、1990年代に入りSTS研究の新たな潮流として、現実の問題解決や社会的応用を指向する科学の様式が現れたことを指摘する、いわゆるモード論が注目されるようになったこと等、新しい科学技術論の傾向を概観した。
 次に、第2章では、第1章を踏まえて、当グループのテーマを必ずしも政策研の過去のテーマにとらわれず白地の立場から検討し直し、新しいテーマ発掘を行うこととし、そのための当グループの新しいアプローチの仕方を検討した。特に科学技術行政への反映を意識してより実践的なテーマに取り組むこととし、検討対象を、【原子力開発、宇宙開発など国が主体となって推進する科学技術】、【国が比較的中立的な立場からその推進や規制を考える科学技術】の二つに大きくジャンル分けした。このうち、当グループではまず後者について検討を加えることとし、「規制」を巡りさらに三つの形態に分類を行った。第一は研究そのものを規制することが社会的に必要と考えられるクローン技術などの生命科学技術、第二は研究そのものではないが研究の成果が大きな影響を持つために技術の社会への適用の段階で規制が必要と考えられるもので、例えば情報科学技術などの分野、第三は研究の成果が規制に反映されることが期待されている分野で、研究成果がまだ十分にあがっている見通しがない段階で、規制という形で社会への適用が求められる科学技術であり、その例は環境科学技術などである。これらについて、<いかにして規制が可能か>、<いかにして規制を正当ならしめるか>を検討することとなるが、さらに共通的な課題として、教育、リテラシー問題など基盤的問題についての検討も求められる。(図参照)

さらに、講演録集としてこの調査研究に当たって講演、討論をいただいた学識者の方々の発言を採録し、講演録集第1部では10人の専門家の方々から科学技術と人間・社会のいわば総論的な内容、第2部では9人の専門家の方々から科学技術の各分野や個別の施策について踏み込んだ内容をお話いただいたものを紹介した。講演の一々は学識者の深い専門的背景に基づきそれ自身で完結した論旨をもったものとなっている。 本調査資料は、先に発行したPOLICY STUDY No.1とあわせて、科学技術と人間・社会について今後の検討の方向性や材料を示すものであると考える。

(伊藤氏は1997年8月〜1999年8月の間政策研で調査研究に従事し、上記研究に参加された。現在関西電力(株)に勤務。)

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我が国のライフサイエンス分野における数量的分析 〜政策変遷、予算および論文生産の時間的推移をめぐって〜 −Policy-Study No.4−

第2研究グループ 渡部康一、藤垣裕子

 本研究の目的
 我が国の科学技術分野において、評価の取り組みが、今後活発化してくることが予想されるが、そこでは、入出力の観点で研究開発活動の効率性等の分析が重要になろう。本研究では、入力としての研究費と出力としての論文生産に焦点を当てて、その経年推移および相互関係から、我が国の研究開発の実態に迫った。また、対象分野として、現在我が国の研究開発における重要分野であるライフサイエンス研究に着目し、そのパフォーマンスの国際的な位置、他分野との優位性等について、時間的な流れの中で、特徴を描き出すことを試みた。

 研究開発全般における入出力の国際比較
 自然科学全分野について、国の研究開発支出に対する論文生産の国別シェアを年を追ってプロットすると、国毎の研究開発システムの関係が浮かび上がってくる。(図1)
 多くの国で研究費が伸び悩む中、日本では大きく増大してきている状況が分かる。米国では論文生産、研究費ともに大きいものの論文シェアを低下させてきている。また、イギリスは比較的少ない研究投資の中でも高い論文生産を誇っていることなどが分かる。
 また、研究費の伸びに対する論文シェアの伸びの点では、オランダ、イタリア、ベルギーといった比較的研究開発支出の少ない国で著しく、一方、日本では、さほど効率的ではない状況が読みとれる。
日本のライフサイエンス分野のパフォーマンス
 (政策の変遷と研究投資)
 1970年代から99年まで、ライフサイエンスに関する政策の変遷を追うために、政策大綱、科学技術会議の答申、および学術審議会、厚生科学会議などの動向を調査し、政策の変遷と執行レベルの変遷の概表を得た。さらに、研究投資の変遷も調査した。
我が国の関係省庁におけるライフサイエンス関連予算総額は着実に伸びてきてはいるが、科学技術関係経費全体に占める割合は6%弱であり、あまり重点投資されているとは言えない。研究助成金の1つである、科学技術振興調整費「総合研究」のライフサイエンス分野への予算配分額は1980年代前半に増額が図られたが、近年は頭打ちとなっており、「総合研究」全体に占める割合も1980年代後半以降減少傾向である。また、科学研究費補助金ではライフサイエンス関連課題への配分額は加速度的に増大してきている上、額的にも大きい。ただし、科研費全体に占める割合は5割弱に達しているものの、若干減少傾向である。研究機関および大学等において使用されるライフサイエンス研究費も着実に増大してきており、他分野との間でのシェアも拡大しつつあり、4割に達している。以上いずれの研究投資の内訳でも、保健・医療に関するものが大半を占めていることが特徴的である。
 (論文分析)
ライフサイエンス分野の論文生産では、米国は圧倒的なシェアを占めているが年々減少傾向である。次いでイギリスが大きなシェアを占めるが、米国と同様に減少傾向である。一方、日本は着実にシェアを拡大してきており、特にがん研究など急成長分野がある。
 また、国内の全研究分野に占めるライフサイエンスの論文生産の優位度でも、米国、イギリスでは、かつては優位であったが、年を追って減少傾向にある。逆に、オランダ、イタリア、ベルギーといった国では、1980年代にライフサイエンス研究の比率を上げてきて、現在も高い状態を維持。日本ではわずかながら優位になりつつあるものの、特に論文生産の著しい分野とはいえない。(図2)
 (我が国のライフサイエンス関連分野間での入出力比較)
 研究費と論文生産の国別シェアの経年変化の相関図から、ライフサイエンス研究のうち、基礎的な分野は期間を通して論文シェアの高い。保健・医療分野は、他の分野より投じられる研究費は圧倒的に多い割には、論文生産はかつてさほど活発ではなかった。しかし、その後論文シェアは大きく伸びてきている。農業分野では1992年に農芸化学分野の論文生産が飛躍的に伸びた影響が出ている。実験生物に関する研究開発では、研究費が額的に少額で伸びも低迷していながら、論文シェアは着実に伸びてきている状況が分かる。(図3)
 我が国の研究開発全般の中でライフサイエンス研究は、論文生産においてまだ優位であるとは言えないが、国際的にはそのシェアを着実に伸ばしつつある。さらに分野によっては、がん研究に見られるように、振興施策による研究投資に後押しされた形で、パフォーマンスの著しい分野も見られる。

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Regionalization of Science and Technology in Japan : The Framework of Partnership between Central and Regional Governments」 −調査資料 No.59−

第3調査研究グループ ステイーブン・コリンズ

 私は、昨年9月3日から3ヶ月間の短期STAフェローとして第3調査研究グループの地域における科学技術振興の方向を対象に調査を行いました。何故このテーマに興味を持つようになったのかというと、科学技術の研究・技術開発活動の地域開発は日本における科学技術政策の重要課題の一つとなっているからです。地方公共団体では地域経済活動の活性化を主要な目的として、地域の経済基盤及び科学技術資源を勘案しつつ新規施策を展開しています。地域によりその対応は極めて多様です。私の調査目的は、地域科学技術政策形成過程における政府と地方公共団体の役割分担などの相互関係をイノベーション・システムの視点から検証することでした。
 こうした政策と政策形成過程をより深く理解する為に、ヒアリング調査を行うとともに、科学技術政策に関連した資料を収集することにしました。科学技術庁を初めそれぞれの省庁を訪問して地域の科学技術振興策を担当している方々にお話を伺いました。国だけでなく、宮城県と神奈川県のそれぞれの地方公共団体と研究所も訪問しました。この地方公共団体の中で、神奈川県の神奈川サイエンス・パーク、宮城県の泉インダストリアル・パークと東北インテリジェント・コスモスの研究設備を見学させてもらいました。これに加えて、地域の地域科学技術政策についての資料やレポートを集めて検討しました。

 この研究の結果から、次のような結論に到達しました。

 以上のように地域における科学技術振興の重要性が高まると思います。都道府県においては、科学技術振興策を審議する審議会を設立するとともに、独自の科学技術政策大綱や指針などを策定する科学技術政策への積極的に取り組む地方公共団体が多くなりました。これからも地域産業の活性化や地域住民の生活基準の向上等を図る為、地域における科学技術振興策の必要性が増え続けるに違いありません。
 将来的には、地域におけるイノベーションや技術開発をもっと深く理解する為に、もっと時間をかけて勉強しなければならないことがたくさんあります。これにつきましては、昨年12月にワシントン大学(米国ワシントン州)と科学技術政策研究所とはMemorandum Of Understanding (MOU)を結びました。このMOUによって、私は第3調査研究グループの研究員の皆様と協力して、地域イノベーション・システムを中心に今後研究していきたいと思います。
 最後にこのような訪日、研究の機会を与えていただいた、科学技術庁、科学技術振興事業団に対し深く感謝いたします。

この記事に関する連絡先 柿崎文彦(かきざき ふみひこ)第3調査研究グループ主任研究官

Ⅱ.トピックス

研究室訪問 −北陸先端科学技術大学院大学 永田研究室−

 石川県能美郡辰口町の北陸先端科学技術大学院大学を訪問いたしました。
 地元では「北陸先端大学院」と呼ばれている本大学院大学は、金沢市と小松市のほぼ中間にあって、辰口の丘陵地にその偉容がそびえています。国内外の国公私立大学はもとより、民間の第一線の研究機関などから広く招へいされた最高レベルの教授陣が集まり、最先端の施設設備を備えたインテリジェントキャンパスの一角にある永田先生の研究室を訪問しました。
 永田先生は、当政策研第1研究グループで主任研究官として活躍され、平成10年4月に北陸先端科学技術大学院大学(知識科学研究科)へ進まれました。

○ 本大学院大学の特徴をお話しいただけますか。
 本学は、独立大学院大学設置の構想の下に、学部を持たない大学院として誕生しました。既設学部の伝統、学風その他にとらわれることなく、新しい理想を実践できることが大きな特徴です。
 入学試験選抜は、面接が主体です。知識科学研究科の場合、筆記試験はなく、「知識科学研究科で何を研究するか」と言う小論文をA41枚で提出してもらい、その内容に関する面接試験を行っています。一方、教育プログラムは、コースワークを中心とした組織的指導によって進められていて、単位取得には相当の努力が要求されます。入るのは比較的容易でも、相当の実力をつけなければ修了できないシステムです。
○ 研究科、講座にはどのような特徴がありますか。
 先端科学技術を冠する独立大学院には、本学の他、奈良先端科学技術大学院大学があります。
 独立大学院が構想されていた当時、産業界からの人材養成ニーズの高かったハイテク分野には、マイクロエレクトロニクス、新素材、バイオテクノロジーの3分野があったわけですが、これに対応して本学でははじめに情報科学と材料科学の2研究科が設立され、奈良先端には情報科学とバイオサイエンスの2研究科が設立されました。第3研究科の設置に当たっては、産業界の新たなニーズが再考され、本学には知識科学研究科が、奈良には物質創生科学研究科が誕生しています。
 知識科学研究科は、「知識創造」という切り口で諸科学の再編を目指す文理融合型の研究科です。初代学長の慶伊富長先生が、本研究科の特徴を「理工系のビジネススクール」と表現されていたことが印象に残っています。現在の本研究科には、社会科学系4講座、自然科学系4講座、情報科学系4講座の他、研究機関や企業との連携講座が6つ、寄付講座が1つあります。
○ 政策研でのご研究と本大学でのご研究にはなにか違いのようなものがありますか。
研究するための時間は、政策研では十分にありましたね。
 大学はまず基本的に教育を行う場ですから、こちらに来てからは、講義ノートの作成や研究室での学生の指導にかなりの時間を割いています。そういう意味では研究に割ける時間は少なくなりましたね。
 幸い研究予算の面では、社会科学系の研究を行う者にとっては潤沢であると考えております。ただ、知識科学研究科が設立されてから間もないので、社会科学系の書籍・資料等が整備されることは今後の課題として残されています。
 政策研でご指導頂いた野中郁次郎先生は本研究科の科長に就任されており、また後藤晃先生には私の所属する研究開発プロセス論講座の教授をご併任頂いています。
 政策研在職当時から引き続きこの先生方との共同研究ができていることは、大変な幸運と考えております。
○ 政策研との協力関係についてお考えを教えて下さい。
 これまで、政策研の客員研究官として、第1研究グループで科学技術と社会・経済の関連についての理論的・実証的な研究を実施してきました。例えば、最近レポートを公表できたテーマとして、科学技術振興調整費による「研究開発関連政策が及ぼす経済効果の定量的評価手法に関する調査」があります。今後もイノベーション関連の研究テーマ等で協力できればと考えています。
○ 今後の研究動向または、興味のあるテーマがありましたら教えて下さい。
 最近、「スキル」の伝承という観点から「能」に興味を持ち、「伝統芸能における知の伝承とコラボレーション」というテーマに着手しています。  能は、シテ方、ワキ方、囃方などの各役割が完全な縦割り分業でスキルを伝承しており、しかも各役割ごとに様々な流派があって、一つの舞台を構成する流派の組合せに多様なバリエーションが存在します。そのような舞台に必要な複雑なコラボレーションが、どのように成立しているのかを調べています。

 金沢というところが、伝統文化を身近に感じやすいところということもあり、本ご研究その他のご研究でのご成功を楽しみにしております。また、これまでそういう目で鑑賞してこなかったので、今度機会をつくって組織論という観点からお能を鑑賞したいとおもいます。本日は大変有り難うございました。

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Ⅲ.海外事情

OECD科学技術指標専門家会合等への出席
第2研究グループ 富澤宏之

 平成11年7月1日より2日まで、パリのOECD本部で開催されたOECD科学技術指標専門家会合(NESTI会合)に参加した。当会合は、OECDの科学技術政策委員会(CSTP)の下部ワーキンググループであるNESTIの年次会合として、毎年開催されているものであり、科学技術統計・指標に関する国際的調整・協力の推進および情報交換を目的としている。また、6月30日に同会場で開催された「イノベーション調査に関するOECD−EUROSTAT合同ワークショップ」にも参加した。これは、EUの統計局であるEUROSTATがNESTIと共催して開催したものである。
 NESTI会合に先立って行われた合同ワークショップは、国レベルでのイノベーション調査に関する国際協調や情報交換を目的としている。本ワークショップが開催された背景としては、知識重視社会(Knowledge based society)を支える新知識創造活動を統計によって把握するためには、科学技術に関わる部分のみを対象とする場合でも研究開発活動を調査するだけでは十分でなく、人材育成や組織的な情報共有への取り組みをはじめとする意図的なイノベーション活動を調査することが必要であるとの認識が各国において高まっていることがあげられる。主要議題は、(1)政策策定者が必要とする情報は何か、(2)各国のイノベーション調査の実施状況、(3)イノベーションの範囲の拡大、(4)重要性の高い統計の種類、等であった。なお、本ワークショップが対象としたような国レベルのイノベーション調査は、OECDとEUが中心となって調査項目の国際標準を作成し、必要に応じて各国が実施している。日本では、科学技術政策研究所がOECD流の調査項目を一部取り入れた調査研究を行い、NISTEP REPORT No.48「イノベーションの専有可能性と技術機会サーベイデータによる日米比較研究」(第1研究グループ, 1997年3月)として公表している。
 NESTI会合においては、(1)NESTIの将来計画、(2)技術の国際化に関するマニュアル案、(3)フラスカティ・マニュアルの改善提案、(4)イノベーション調査とオスロマニュアルの改訂、(5)他の組織との協調、(6)特許指標マニュアルの改善提案、(7)科学技術人材、(8)データ収集/普及の向上の方策、などの議題のもとに研究発表と議論が行われた。このうち、(3)の議題においては、研究開発活動に関する統計指標についての標準的なマニュアルであるフラスカティマニュアルについて、サービス業の研究開発活動の捕捉拡大、研究開発以外の政府の科学技術振興活動に関する指標の開発、イノベーション調査の結果との整合性の確保等の観点から、改訂を検討する必要性が提起され、作業グループで検討していくこととなった。
 両会議を通じて、研究開発・技術の国際化、サービス産業の比率拡大、国のイノベーションシステムへの関心の増大などの動向に対応して、新しい科学技術統計指標に対する要求が各国で高まっており、また各国で具体的な取り組みが始まっていることが感じられた。例えば、NESTIの活動の将来の方向性について根津DSTI局長から、NESTIに期待することは技術が経済成長、雇用創出に重要な役割を果たすことを科学技術指標によってハイレベルの政策決定者にもわかりやすくしめすことであるとの非常に明快な発言があり、各国の参加者から、その方向を支持し、特にイノベーションシステムないし科学技術システムが効果的・効率的に機能しているかを示す指標を明らかにし、かつ、その解釈の仕方などを政策策定者に示すことの重要性を指摘する発言があった。

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PICMET '99(ポートランド・エンジニアリング・技術マネジメント国際会議)への参加
第1研究グループ 伊地知 寛博

 1999年7月25日から29日にかけて、アメリカ合衆国オレゴン州ポートランドにおいて開催されたPICMET '99: Portland International Conference on Management of Engineering and Technology(ポートランド・エンジニアリング・技術マネジメント国際会議)[PICMETは、/pikmet/と発音する]に参加した。PICMETは、2年ごとに開催される技術マネジメント研究の分野での国際会議である。(会議としての)PICMET '99は、(機関としての)PICMET '99の主催で開かれ、ポートランド州立大学工学部エンジニアリング・技術マネジメント学科の後援で、IEEE*1オレゴン支部、IEEEエンジニアリング・マネジメント学会、INFORMS*2技術マネジメント部会および日本を本拠とする研究・技術計画学会が協力団体となっている。会議全体のタイトルとして、"Technology and Innovation Management: Setting the Pace for the Third Millennium(技術とイノベーションのマネジメント:第3千年期のための歩調設定)"が掲げられていた。
 PICMETは、エンジニアリング・ベースでの技術マネジメントに関する世界最大規模の国際会議である。会議には、45か国から約700人が参加し、約550の発表が論文・ポスター・パネルの各セッションで行われた。著者を機関別に見ると、240以上の大学および約100の大学以外の組織に及んでいた。
 本出張では、出張者らを著者とする論文を提出して会議において口頭発表を行うとともに、他の発表を通じてmanagement of technology(技術マネジメント[技術経営、あるいは略してMOTと呼ばれることもある])やmanagement of engineering(エンジニアリング・マネジメント)に関する最近の研究の動向を把握する機会に恵まれた。本稿では、以下、この会議の概要について述べたみたい。
 全体のプログラム構成は、26日から29日にかけて、毎朝90分の全体セッションが行われ、その後夕方までは、90分を1単位とするセッションが14の会場で並行して設定されて行われた。また付加的に、ワークショップ、エグゼクティブ・フォーラム、現地見学も組まれていた。
 まず、会議全体の印象として、参加者に非常に多様な広がりがあることが感じられた。アメリカのみならず、ヨーロッパ、アジア、アフリカからも多数参加しており、まさしく"international conference"となっていた。また、内容的にみても、さまざまな視点やアプローチによる論文が報告された。これは、世界的に見て非常に多数の研究者が、management of technology(技術マネジメント)あるいはmanagement of innovation(イノベーション・マネジメント)の分野に関与していることを示すものであると言えよう。研究者の立場として見れば多くの競争者がいることを意味し、また、研究のユーザから見れば多種多様な知識・情報が世界中にあることを意味している。
 それから、会議での各発表を通して見た、研究全体の印象について述べてみたい。第一に、すでに今回の会議のタイトルにも示されているように、ますます「イノベーション」に関連した研究への関心が高まってきている。エンジニアリング・マネジメントから研究開発マネジメント・技術マネジメント、そしてイノベーション・マネジメントへと、定性的な面での研究領域の拡がりがうかがえる。
 第二に、「測定(measurement)」することがますます深化してきているように思われる。研究面から見れば、これは定量的な面での研究領域の拡がりを意味する。実務面でも、概念上各種の項目(指標)を検討するだけではなく、実際に測定してその分析結果をマネジメントに生かすことの重要性が強調されてきているとともに、先進的な組織においてはそれが実践されていることがうかがえた。
 最後に、会議全体を通して感じた、日本の技術マネジメントに対する捉えられ方について触れたい。まず、4日間あった全体セッションでは日本からのスピーカーが皆無であり、プレゼンスの低下を窺わせた。また、研究発表の中において日本を国際比較の対象に含めているものがあったが、その多くの場合において近年の日本における実践面での技術マネジメントを悪い例として捉えていた。このように、日本における技術マネジメントに対して世界からの注目が薄くなってきているように感じられた。

*1 IEEE(I triple-Eと発音する)とは、The Institute of Electrical and Electronics Engineers(電気電子学会[強いて直訳すれば、「電気・電子工学者学会」])の略であり、U.S.を本拠とする世界的な、電気・電子・情報を中心としてそれに関連する科学・工学の学会である。中には、技術分野ごとに36の学会(society)がある。また、技術の標準化活動を行っている。
*2 INFORMSとは、The Institute for Operations Research and the Management Sciences(オペレーションズ・リサーチおよびマネジメント・サイエンス学会)の略であり、オペレーションズ・リサーチおよびマネジメント・サイエンス(管理科学)の学会である

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Ⅳ.最近の動き

○ 主要来訪者一覧
・8/13 アンジェリーノ参事官:フランス大使館
・8/18 Dr.楊 喜勝(Heeseung Yang):韓国科学技術評価院 研究事業調査評価団長
・8/20 Prof.Aymen A. Kayal(Ph.D.):King Fahd University of Petroleum & Minerals(KFUPM), Dhahran, Saudi Arabia
・8/24 Dr.Jia-Lang Seng:Associate Professor, National Cheng-chi University

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編集後記

  研究室訪問はいかがでしたか。北陸先端科学技術大学院大学は、緑に囲まれ、設備も最新で、良い環境にあり、とても感心いたしました。図書館には「新大陸がまだ発見されていなかった中世において、世界の果て "ヘラクレスの門"から科学の帆船が未知の世界へと旅立つ場面」のレリーフ他、希少価値資料がたくさん保存されていて、大変興味をそそりました。
 また、この度フランスの教育省からChaball氏を(表紙写真)をお迎えして、科学技術政策研究とりわけ研究開発型起業の政策研究等についての意見交換を行いました。(Y)



科学技術庁科学技術政策研究所広報委員会(政策研ニュース担当:情報分析課)

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