No.131 1999 9 
科学技術庁 科学技術政策研究所
NATIONAL INSTITUTE OF SCIENCE
AND TECHNOLOGY POLICY


  平成11年7月9日オマーン国外務省経済技術協力局次長Khadijia Hassan Salman氏が政策研柴田所長を表敬訪問し、両国における科学技術の現状、政策研究分野での協力の可能性などについて意見交換を行った。
            

 
目次 [Contents]  Ⅰ.レポート紹介
研究開発関連政策が及ぼす経済効果の定量的評価手法に関する調査(中間報告) 第1研究グループ
企業の研究開発国際化の実状と国内研究開発体制への提言 田中第1研究グループ上席研究官
Ⅱ.トピックス
南アフリカのこと 南ア 芸術・文化・科学技術省 市丸 修
Ⅲ.最近の動き

Ⅰ.レポート紹介

                    

研究開発関連政策が及ぼす経済効果の定量的評価手法に関する調査(中間報告)
−NISTEP REPORT 64−
第1研究グループ

 

1. 調査の目的
 本調査の目的は、当研究所において開発されたマクロ経済モデルを精緻化するために必要な各種データを、民間企業・大学・国公立試験研究機関等に対する質問票調査を通じて収集した上で、より正確な政策シミュレーションを行うことにある。本報告書では、主に質問票調査の集計結果について言及する。調査項目は、技術知識のライフサイクル、産官学連携の進展状況、研究開発関連政策の利用状況等、多岐に渡るが、以下では、特に技術知識のライフサイクルおよび、産官学連携の実態について概観する。

2. 技術知識のライフサイクル
 民間企業1927社を対象に、研究開発活動を通じて得られた技術知識について、①それを得るために要する研究開発期間、②その技術が製品・サービス等として市場に出るまでに要する期間、③市場に出た後利益が得られる期間)、の3点を尋ねたところ、有効回答企業630社のプロジェクト毎の平均研究開発期間は3.4年、平均研究開発ラグは1.2年、平均寿命は8.7年であった。
 同様の観点から、大学・研究機関(1473機関)に所属する各研究者が携わった研究開発の結果得られた成果に関して、①その研究成果が得られるのに要した期間、②研究終了後、その成果が民間企業等にて実用化されるようになるまでに要する期間、③その研究開発の成果として得られた技術知識の寿命の程度、以上3点について調査したところ、平均研究開発期間は5.3年、平均研究開発ラグは3.2年、平均寿命は11.8年であることが明らかとなった(有効回答数932票)。

3. 公的部門から民間部門への技術知識の波及
 大学・公的研究機関と共同研究を「行ったことがある」民間企業は68.7%に上り、また5〜6割の企業が大学・公的研究機関によるコンサルティングを受けたことがあると回答していることなどから、公的機関はこれら産官学連携の形態を通じて民間企業の研究開発活動に寄与していることが伺える。一方、公的機関の保有する特許の実施許諾を受けたことのある企業は3.7%に止まっており、特許を通じた技術知識の民間への移転についてはTLOの拡充等による今後の一層の推進が期待される。

4. 今後の課題
 平成11年度調査では、質問票調査を通じて収集したデータをマクロ経済モデルに還元し、政策シミュレーションを実施するとともに、研究開発関連政策が及ぼす経済効果に関する事例研究、ヒアリング調査を通じて研究開発投資の効果的な運用に資する基礎資料を得る。
(この研究は平成10年度科学技術振興調整費により当研究所が科学技術庁から委託を受けた(株)三和総合研究所と協力して行っている。)

この記事に関する連絡先  古賀款久(こが ただひさ)第1研究グループ研究員
             平成9年4月科学技術政策研究所入所。研究開発と税制、知的ストックの成長が国際経済に及ぼす波及効果
             に関する研究他を担当。

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企業の研究開発国際化の実状と国内研究開発体制への提言 -DISCUSSION PAPER No.8-

第1研究グループ上席研究官 田中 茂

 日本の製造業の国際化が進んで生産部門の海外進出はほぼ一段落し、最近は研究開発部門の海外進出が本格化している。また、製造業の研究開発費の国外への流出が増加し、今まで言われてきた「生産部門の空洞化」だけではなく、「研究開発部門の空洞化」まで懸念する声が出ている。本当にそのような心配をする必要が現在あるのであろうか? このような観点から本稿の前半部では、日本の製造業における研究開発国際化に焦点を絞り、製造業の研究開発費の国外流出がどのような規模と要因で進んでいるかを明らかにするとともに、研究開発部門の海外進出の実状を概説した。
 まず、日本企業からの研究開発費国外流出に関しては、総務庁発行「科学技術研究調査報告」の1987年版から1997年版までのデータに基づくと、日本企業全体が国外に支出した研究開発費は1986年の225億円から1996年の1180億円と約5倍に増加している。この11年間で国外への社外支出研究開発費を大きく増加させた主な業種は、医薬品工業(約12倍)と通信・電子工業(約15倍)である。通信・電子工業は、周知のように世界を市場とする日本の代表的輸出産業で、その市場規模は巨大であり、この11年間拡大してきた。また製品が物理法則や物理現象に従って動作するscience basedなハイテク機器であるので、新法則や新現象の発見、その製品への応用可能性をモニターするためには、世界中にアンテナを張り巡らす必要があり、結果としてこの程度の研究開発費の国外支出の増加は自然である。これに対して、現在、市場がほぼ日本国内にとどまっており、市場規模もそれほど大きくない医薬品工業の研究開発費の国外支出が大きくなった理由は、何であろうか? それは、日本の多くの医薬品企業が臨床試験受託機関が多数存在しコストも低い米国などで臨床試験をアウトソーシングしており、また新薬のseedを探すための探索研究も欧米で実施しているからである。
 次に、製造業の研究開発部門の海外進出に関しては、東洋経済新報社「海外進出企業総覧'98会社別編」に記載されているデータを基に、日本の製造業の海外研究開発拠点を独自にリストアップして集計してみたところ、以下のことがわかった。海外研究開発拠点設置に熱心な業種は、医薬品業を例外として、電気機器、電子機器・部品、自動車関連および精密機器などの輸出産業業種であり、プラザ合意により大幅な円高となった1985年以降急激に海外に研究開発拠点を開設し現在もその勢いは衰えていない。しかし、拠点の過半は従業員数50人未満、資本金10億円未満の中小規模の研究開発拠点である。また、研究開発活動のみを専門とする拠点はまだ少なく、海外での生産・販売拠点内で研究開発活動を実施しているところが多い。
 また、日本企業の研究開発国際化の欧米との比較に関しては、最近発表された研究開発国際化に関するOECDの報告書とNSF発行 "Science and Engineering Indicators 1998"に記載されているデータに基づくと、資金面から見ても人的面から見ても欧米諸国に比べて日本企業の「外への研究開発国際化」も「内への研究開発国際化」も桁違いに低いレベルにある。
従って「研究開発の空洞化」を危惧する必要は現在全く無く、「世界中からの良いとこ取り」を狙ってさらに研究開発部門の海外進出を進める必要があり、一方外国人や外国企業が日本国内で研究開発を実施しやすいよう研究開発環境を整備し「内への研究開発国際化」も進める工夫が求められる。
 「新しいアイデアは異質な者との交わりから生まれる」という観点から考えると、研究開発活動を活性化して、独創的な発見、発明、技術を次々に生み出していくためには、研究開発分野において、有能なリーダーを核として複数の個人から構成される自律性を持った小組織(「モジュール」と呼ぶ)が多数存在し、その間で障害無しに研究者が移動できる開放的研究環境があり、また相互の組織が希望すれば、その間で情報が自由に往来し、異質な発想が相互交換される「場」が存在することが望ましい。また研究者や研究組織にインセンテイブを付与して研究活動を活性化するためには個人間、組織間にも競争原理が働いて、より優れた成果を上げた個人、組織は収入や研究予算、人員が増加し、そうでない場合は逆となるようにして社会全体での研究開発の効率化を実現することが望ましい。また、研究活動にとって重要な点は、研究の進展状況に伴って研究計画の変更、研究予算の増減や費目流用が可能であり、また人員の増減も可能という「融通性」(自由度)が確保されていることである。本稿の後半部では、上述のように研究開発活動を活発にするための要素、即ち、人的流動性、交流の場、競争性、融通性(自由度)をモジュール型組織モデルに取り入れて理想的な研究開発環境を説明した。そして、現在の国立試験研究機関(「国研」)、大学、民間企業が理想的環境と対比してどのような問題点があるかを述べ、それを解決していくための試案をそれぞれに対して提示した。国研に関しては、主に柔軟性と競争性を高める方向の提案をした。大学に関しては、主に競争性と自律性を高める方向の提案をした。民間企業に関しては、構成組織をモジュール化して各モジュールの自律性を高め意志決定を迅速にすること、研究開発者の人的流動性を増すこと、情報・通信技術の高度利用を進めること、国際化をさらに進めることを提案している。
なお、本Discussion Paperは、「ベンチャーと国際化の視点による新ビジネスモデルの創造」調査研究チームによる研究の一環として成ったものである。同チームでは、如何にしたら日本の科学技術力を高められ、またその科学技術力を基盤として今後どのようなビジネスモデルや戦略を構想すれば日本の産業がよみがえるのか、という視点で議論した。

Ⅱ.トピックス

南アフリカのこと
南ア 芸術・文化・科学技術省 市丸 修

 これをお読みの方の中にも、南アフリカをご存知の方はいらっしゃるとは思いますが、日本にとってまだまだ遠い、地の果てだと思います。そんなところに赴任して早1年少し、少しは当地にも慣れてまいりましたので簡単に近況をご紹介しようと思います。
 アフリカというと、暑い大陸、という印象があるのではないかと思いますが、南アはなかなか住むに快適なところです。さすが、ヨーロッパ人が居着きたくなったのがわかる気がします。行政の首都のプレトリアで、南回帰線より少し南といった、日本でいえば沖縄くらいの位置にありますから、かなり暑いところに感じられるかもしれませんが、実際は乾燥していてそれほど暑く感じません。日本の夏より過ごしやすいといってもいいでしょう。今は冬ですが、これまた快適です。朝晩は0度くらいになり、確かに冬なのですが、日中は日差しが強く、20度以上にあがります。真昼車に乗っていると、冷房を入れようか、と思うこともしばしばです。アフリカ大陸の南半分は、大部分が海抜1000m以上の台地にあります。ヨハネスブルグは1500mくらい、プレトリアも1300m。私の住んでいるところはプレトリアの中でももっとも高台ですから、1400mはあるでしょう。この高度のおかげで、ちょうど日本の高原の避暑地にいるような感じです。

 ご存知のとおり、南アは90年代初めまで、アパルトヘイト政策として、孤立した白人社会を築いていました。今年の6月に退陣したマンデラ大統領が、初めての黒人政権、アパルトヘイト時代の影響はまだ色濃く残っています。たとえば住まい。私の住んでいるところは、昔は白人しか住めなかった処。今は建前では誰でも住めるのですが、現実は白人か外交官くらいしか住んでいません。同じブロックに黒人が住むと、周りがなんとなく出ていって、その付近の住宅の値段も下がるのだというような話も聞きました。ともかく、白人地区の住居は植民地時代を彷彿させます。そういう意味では、90年代の初めまでは独立していなかったと言ってもいいのではないでしょうか。

 南アには国語が11もあります。昔からのアフリカーンスと共通語としての英語。前政権まではこの二つが公用語だったのですが、今の政権になり、黒人の使っている主要言語を入れたので11。黒人同士でも言葉が違うのですから、いろいろ違うところもあるのでしょうが、私にはよく分かりません。
 表面上は白人、黒人仲良くやっていますが、対立は根深いようなものがあるような気がします。例えば、白人の運転手と話をしていたとき、黒人はいい職に就くため、アフリカーンスを使いたがるのだ、というようなことを言っていました。でも、少なくとも、公務員のようなちゃんとした職を得た黒人は、アフリカーンスを敵視しています。私の職場にお茶クラブがあって、時間を決めて集まるのですが、そこにたむろしているのはほとんど白人。私と仲のよい黒人は、あそこはアフリカーンスで会話しているので行きたくない、とはっきり言っていました。元々、オランダ語の分からない黒人に指図するためにできた言葉だと聞きますし、嫌なのは当たり前のような気もします。でも、ともかく、とりあえず、過去は水に流して一緒にやっていこうとしています。
 今一番の問題は、犯罪の多さと失業率が高いことでしょうか。私のいる、芸術・文化・科学技術省の目玉商品に、イノベーション・ファンド、と言うのがあります。これからの南アに役に立つ革新を促そう、と言うものなのですが、最初に取り上げた重点3分野の1が犯罪予防です。技術革新で生活を豊かに、なんていうより前に、安全。実は私も、このファンドの犯罪予防のプロジェクトのインタヴューに行った帰りに、強盗に襲われました。笑えない話です。

 アフリカと言えば、動物でしょう。なぜか、ここでは野生動物のことをゲームと言います。あの遊びのゲームです。ゲーム・リザーブと言えば動物保護区、ゲーム・ミートは、これは野生ではないと思いますが、ワニとかダチョウ、インパラと言った動物の肉です。みんな結構おいしい。各地に動物保護区があり、観光目的の私設動物保護区もあるのですが、何しろ規模はすごいものがあります。一番大きなクルーガーパークは、四国と同程度の大きさだそうで、あまりに広いところに放し飼いの動物が生活しているわけですから、お目当ての動物に合えるかどうかは運次第と言ったところです。それでも、サイだ、ライオンだ、チータだ、と難しいことをいわなければ、いろんな動物に巡り合えます。もちろん、それは特定の場所であって、町中にキリンが棲んでいるわけではありません。でも、自由に飛べる鳥くらいだったら、私の家の庭にも結構変わったのが遊びにきます。

 さて、私は科学技術政策の専門家と言うことで当地に派遣されました。南アの科学技術庁に相当する、芸術・文化・科学技術省は、現政権になって初めて設置されました。新しく設置されたとき、カナダ等の援助で、これからどうやっていくべきか、と言う基本的な考えをまとめ、今その実施に入っていると言うところです。政策研究をなさっている方々の前でおこがましい話ではありますが、全体構想は非常に立派にできています。途上国にありがちだと言われている、むやみに背伸びしたものでもない。基礎研究の重要性を認識しながらも、当面は少ない財政資源をいかに現実の生活に役に立てるか、ということに腐心しています。それはそれで正しい行き方のような気がし、政策アドバイザーといってなにを助言できるのかと苦労するところではありますが、そのあたりのお話は機会がありましたらまた申し上げたいと思います。

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Ⅲ.最近の動き

○ 人事往来

 

  ・7月6日付で佐藤征夫所長が辞職(7月21日付で日本原子力研究所理事に採用)し、
   後任には柴田治呂通商産業省官房審議官が所長に就任した。
 ・7月5日付で國谷実総務研究官が辞職(7月6日付で核燃料サイクル機構に採用)し、
  後任に木村良科学技術振興事業団国際室長が総務研究官に就任した。
 
○ 講演会
     ・7/30  「研究と技術の移転についての大学と産業界との協力−米国の経験からの教訓−」
  Yong LEE:Professor, Department of Political Science, Iowa State University 
○ 主要来訪者一覧
      ・7/9   Mr.Ahti Salo:Professor, Systems Analysis Laboratory, Helsinki University of Technology
  Mr.Jukka-Pekka Salmenkaita/Mr.Ville Saarikoski
・7/27   Mr.William A. Blanpied:米国大使館 米国国立科学財団東京事務所所長

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編集後記

   ひまわりは、いつでも太陽に向かって咲いていて、暑さを栄養にしているように見えます。
 研究所年報(10年度版)はいかがでしたでしょうか。
 政策研ニュースの庶務に音楽家がおり、コンサートに誘ってくれます。大きなオーケストラで、いつでも大編成の曲が選ばれています。今回は「復活」でした。こんなに大所帯でもメンバーが組みなれているせいか、個人の練習からパート毎への練習へと組み上げて、総合練習で仕上げをするのにあまり苦労はないそうです。100を超える楽器により一つの意思表示をするのですから、チームワークとしては大変な事業です。いつでもどの曲でもそれに応えられる能力(感覚、技量)を常時整えるのが必要だなと思いました。
 席がパーカッションの近くだったので、動きがよく見えました。管楽器と弦楽器が主旋律なのに対して、パーカッションは曲の味付けの場合が多いようです。それを支援部隊に例えると、その働き方やタイミングなどを研究することができました。  政策研ニュースが研究情報を発信する場合に、編集担当はその支援的役割となります。ドラやシンバルの音に痺れながらも、支援部隊の役割をしみじみと考えました。常時、技を磨いておかなくてはと。
 この暑さをいっぱい取り入れて更に発展を図りたいものです。(Y)


編集・発行

科学技術庁科学技術政策研究所広報委員会(政策研ニュース担当:情報分析課)

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