No.129  1999 7 
科学技術庁 科学技術政策研究所
NATIONAL INSTITUTE OF SCIENCE
AND TECHNOLOGY POLICY


中央省庁の再編に伴い、一つの省庁に出来る限り同一、又は近接の庁舎にまとめる原則の下に
文部科学省(政策研も含む)も新庁舎への入居方針が決定された。写真は現在政策研のある永
             田町合同庁舎。


 
目次 [Contents]  Ⅰ.レポート紹介
外国技術導入の動向分析(平成9年度) 情報分析課
新ビジネスモデルによる日本企業の強さの変革 前田客員研究官
Ⅱ.海外事情
米国科学振興協会(AAAS)「科学技術政策に関する年次共同討議(第24回)」出席 植田企画課長
米国出張報告 権田3調客員総括研究官
Ⅲ.トピックス
豪州の最近の科学技術事情〜「小さな政府」指向の中での技術革新政策への傾斜 斎藤在豪州日本大使館一等書記官
心に残る日本の思いで Dr.Sara Nerlove Independent Consultant to SBIR Program, NSF
Ⅳ.最近の動き


Ⅰ.レポート紹介

                    

外国技術導入の動向分析(平成9年度)−NISTEP REPORT 63−
情報分析課

 

 本調査は、「外国為替及び外国貿易管理法」による技術導入契約の締結(変更)に関する報告書等に基づき、我が国における平成9年度(平成9年4月1日〜平成10年3月31日)の外国からの技術導入2,685件の実績を取りまとめるとともに、最近における技術導入の動向分析を行っている。

 特徴的事項をいくつか挙げると、
 ○ 新規技術導入件数が激減し、10年前の水準に。
 ○ 米国からの導入割合は依然として高く、6割強を占め、シェアは拡大。
 ○ 全体件数減少の中、電子部品、通信機械で大きく増加し、化学機械も増加。
 ○ 電子部品はパソコン周辺部品、通信機械は携帯電話が主流。化学機械ではゴミ処理プラント等の環境関連。
 ○ 資本金10億円以上の企業におけるソフトウェアの導入件数が、最近10年間で初めて減少。
 ○ ソフトウェアで権利取得が、件数、割合とも2年間連続して減少。
 などである。

《新規技術導入件数》
 新規技術導入件数は 2,685件で、前年度に比べ15%(460件)減少し、10年前の水準となっている。
 技術形態別(ハード系技術、ソフトウェア、商標のみ)では、「ソフトウェア」が1,376件で15%減少し、一方、「ハード系技術」は、957件で9%の減少と「ソフトウェア」に比べ減少は緩やかである。

《技術分類別導入件数》
 技術分類別では、「電子計算機」が件数、比率とも大きく減少している。また、全体的に件数が減少する中、「電子部品・デバイス」、「有線・無線通信機械」で大きく増加し、「化学機械・装置」も増加している。「電子部品・デバイス」はパソコン周辺部品、「有線・無線通信機械」は携帯電話が主流で、「化学機械・装置」ではごみ処理プラント等の環境関連が主となっている。

《国・地域別導入件数》
 国・地域別では、米国からの導入が1,732件で前年度に比べ、9%減少し、3年連続して減少となったが、1997年度のシェアは67%に拡大している。

《資本金規模別導入件数》
 導入企業の資本金規模をみると、資本金10億円以上の企業におけるソフトウエアの導入件数が、最近10年間で初めて減少に転じている。

《権利取得件数》
 権利取得については、権利(独占権または再実施権)を伴った導入が、ソフトウェアでは2年間連続して減少し、ハード系技術では、過去2年間の横這いから減少に転じている。

 レポート担当者
写真上列左から吉水情報分析課長、清家客員研究官、下段左から山口、久野

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新ビジネスモデルによる日本企業の強さの変革
−「科学技術・新産業創造立国実現」へのシナリオ−     −POLICY STUDY No.3−
前田 昇客員研究官

 グローバリゼーションや情報技術革命(IT革命)の嵐が世界中を吹き荒れる中、日本の産業は戦後の閉ざされた中での成功体験からの変革が進まず、加速する世界のビジネスモデルから取り残されつつある感がする。21世紀の新しいビジネスパラダイムの中で日本企業の強さ・弱さを基本に立ち返り見直し、世界に貢献出来る日本の新たな戦略的方向性を見極めたい。
 閉ざされていた日本の産業の中にあって、日本の製造業は世界のエンジンとして新産業の育成、雇用創造に貢献してきたが、アルビン・トフラーの言う第三の波への移動の中にあって今後とも世界を牽引する力を出し得るだろうか? グローバルベース部品購買の動きの中で、大企業との縦関係で生き延びてきた日本の中小企業は生き延びることができるのだろうか? 日本の横並びのカルチャーは、新規産業を育成する起業環境を創り出しえるのか? 規制の中で育ってきた金融、流通、建築、薬品、サービス等の産業は、押し寄せる外国企業にどう対抗出来るのか?
 これらの疑問は、個々の産業別・企業別の対症療法だけでは無く、基本となる日本全体のベクトルを構築するビジネスモデルの再検討なくしては答えられない。米国の「シリコンバレーモデル」、欧州の「ユーロマネーモデル」の様な明確な基本モデルが必要である。戦後の荒廃した中での日本全体を牽引してきた統一コンセプトは、「欧米に追いつけ追い越せ」であった。WHATは明確であり、HOWに全力を割けばよかった。教育・組織・企業目標・国の政策はこの「キャッチアップモデル」がベースであった。
 今日本に必要なのは、全産業が方向性を合わせる波を見つけそれに乗ることである。弱さをカバーするよりも強さを更に強くする事が戦略論の定石であるといわれている。日本の強さを活かしつつ、世界的な新しい潮流に合ったビジネスモデルは何なのかを探し出したい。その鍵は日本のデバイスを基にした産業である。精密金型、システムLSI、工作機械、液晶ディスプレイ、DVDストーレッジ、小型モーター、精密ベアリング、ロボット等々。これらのキイデバイスにIT(情報技術)やOS(オペレーティングシステム)を結びつけ、将来の巨大な市場であるネットワークビジネスのサービス分野に影響力を持つ事ができ得るビジネスアーキテクチャーを構築する事である。
 それには製造業とサービス業の連携、大企業の変質とイノベーティブな技術開発型ベンチャーの創出、産官学の柔軟な連携等を通して、ネットエコノミーの中で日本が強さを活かしてどの様な「場」を制する事ができ得るかのコンセプトを仮説として提言した。

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Ⅱ.海外事情

米国科学振興協会(AAAS)「科学技術政策に関する年次共同討議(第24回)」出席
企画課長 植田昭彦

 

 平成11年4月14日から16日まで、米国ワシントンD.C.において開催された標記の会合に参加し、米国の科学技術政策の動向等についての情報収集を行った。この共同討議(Colloquium)の目的は米国の2000年度科学技術関連予算案を中心に米国における科学技術振興のための問題点等の課題について、科学技術関係者が一堂に会して議論することである。今回の会合は「科学技術と知識経済」をテーマに、政府関係機関、大学、シンクタンク等の関係者400名程度が参加した。本年2月に米国議会に送付された大統領予算教書が、10月より開始される新年度を目指して現在、議会で審議が行われているが、AAASにおいては議会における審議状況を逐次集計、分析するとともに、その結果をインターネット上で公表している。(www.aaas.org/spp/R&D) 以下、今回の報告、講演等の主な内容について簡単に紹介する。

1.2000年度の米国連邦政府の研究開発予算の特徴について
① 2000年度の米国連邦予算は1兆8000億ドルである。そのうち3分の1が任意の経費であり、予算審議を経て決定される。任意の経費はイ   ンフレ率より低く抑えられ、圧縮される見通しである。
② 2000年度の研究開発予算は1997年より始まった「Spending Cap」(予算の使用制限)によって制約を受けているが、いくつかの優先度の   高い計画については大幅に増加している。
③ 2000年度の研究開発予算要求の総額は、779億ドルであり、これは1999年度予算と比べ14億ドル、1.7%の減である。779億ド   ルの内訳は、DOD(44%)、NIH(21%)、NASA(13%)、DOE(10%)、NSF(4%)、USDA(2%)であり、これら6機関で研究開発予算全体の94%を担ってい    る。1994年から2000年の変化を見ると、NIH(30%)、NSF(16%)と大幅に増加。一方、DODは減少(20%)している。
④ カーター政権以来、初めて防衛関係以外の研究開発予算が防衛関係の研究開発予算を上回った。防衛関係以外の研究開発予算は、3.6%増の    394億ドルであり、全研究開発予算の50.6% である。防衛関係の研究開発予算は、6.6%減の385億ドルである。
⑤ クリントン政権では、基礎研究は高い優先度を持ち続けている。
⑥ AAASは政府研究開発予算は2000年度がピークであると予想している。AAASの予測では、防衛関係以外の研究開発予算は、2004年度には、
  394億ドル(1999年度は381億ドル)に増加するだろう。しかしこれは予測されるインフレ率で修正すると6.7%の減少になる。また
  防衛関係の研究開発予算は、インフレ率で修正すると14.3%の減少となると予測している。
⑦ 大学における研究開発予算の支援は、2.3%増の155億ドルである。学術研究の最大のスポンサーは厚生省(大部分はNIH)の96億ドルで
  全体の62%を占める。
⑧ 米国全体の研究予算について1953―1998の変化を見ると、連邦予算はこの間横這いで、1998年時点で米国全体の3分の1を占める。   一方、民間による予算は増大しており、98年時点で全体の3分の2を占める。民間による研究開発関係経費は、連邦の研究開発費及び米国経    済全体を上回る早さで増大するであろう。アメリカ全体の研究開発予算の総額は、1999年には2360億ドル(民間分は1570億ドル)
  に達すると予想される。
⑨ 情報技術は優先度の高い分野である。多くの機関にまたがる長期的な情報技術研究とインフラ整備のための「21世紀情報技術イニシアティブ」
  に3億66百ドルが要求されている。NSF、DOE、DOD等がこのプロジェクトの中核機関である。
⑩ NIHの研究開発予算は、1999年度は20億ドルの増加を示したが、2000年度は、2.1%増、3億18百万ドル増の153億ドルとなっ
  ている。
⑪ 基礎研究と応用研究に限れば(開発研究と研究開発施設関係を除く)、DODはもはや主要な機関ではなく、NIHが最大の支援機関である。

2.Dr. Neal Lane(大統領科学技術顧問兼大統領府科学技術政策局長)による講演
 科学技術は将来の生活を形成する重要な役割を担う。現在及び将来の投資は21世紀の科学技術に大きな影響を与える。特に情報技術は幅広い分野に貢献する。ライフサイエンス、教育も重要な分野でありバランスよく進めることが必要である。国家科学技術会議(NSTC)は、国際的な科学技術交流のための大学及び政府の連携を促進する。さらに国家科学技術会議は、連邦機関が科学技術の振興において果たすべき役割についての検討を行っている。

3.Mr. Vern Elhers(下院議員)による講演
 米国は世界の中で優れた位置にいなくてはならない。科学技術は、生活、健康、自由、多くの事象の普遍的な理解に役立つ重要なものである。下院科学委員会は昨年9月に「Unlocking Our Future」と題するレポートをまとめたが、その中で次のような意見を述べている。また、このレポートのフォローアップはすぐになされるであろう。
 ①米国の科学政策は時代遅れである。②アメリカ国民は科学とその効用を理解していない。このため科学関係者の努力を支援しようとしない。③科学者は政治的に無知である。④科学、数学教育の改善、包括的な科学政策、社会的責任を承知している科学者が必要である。 さらに同レポートでは以下のような勧告を行っている。
 ① 連邦政府による基礎研究の推進。② 民間部門による応用研究の支援。③ 規制及び司法システムを通じた科学と意志決定の統合。④ 就学前から卒業後にわたる科学教育の改善

4.Dr. Charles Vest(マサチューセッツ工科大学学長)による講演
 「Innovation : Reflection on Change」と題する以下の講演を行った。今日の産業は知識ベース化、グローバル化しつつある。またこれが新たなイノベーションを促し、新たな企業家を生み出している。MITの科学・工学分野の卒業生の35%は科学分野と全く関係のない仕事をする。MITでは今後、ライフサイエンス、環境、マネージメント、経済関係が増加する。国民、民間企業と大学との関係は変わりつつあるが、今後とも着実に変わっていかなくてはならない。

5.所感
 米国の好景気を反映してか、会議全体に多少楽観的な雰囲気が感じられた。連邦政府による研究開発予算の今後の見通しは、防衛関係以外の部門で微増、防衛関係はかなりの減となっているが、民間部門が経済成長を上回る大幅な投資を行うものと見込んでいる。特に知識社会の基盤としての情報技術の重要性が強調されると共に情報社会の進展に伴い解決すべき多くの課題が指摘されていたが、米国は情報技術分野で世界のトップにいるとの自負があるせいか多少ゆとりがあるように見受けられた。また、科学教育の重要性も多くの講演者が強調していたが、米国においても、その解決のための具体的な方法は簡単でないようである。

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米国出張報告
権田金治 第3調査研究グループ客員総括研究官

(1)米国におけるMEP(Manufacturing Extension Partnership) の実施状況に関する調査
 MEPの全容を把握するために、まずNIST(National Institute of Standards and Technology)を訪問して調査を開始した。MEPをその事業のなかみから翻訳すると「製造業(Manufacturing)近代化推進(Extension)協力事業(Partnership)」と訳すのが最も適切であろう。MEPはその対象を中小企業に置いている点で、我が国の工業系の地方公設試験研究機関が担ってきた機能にその原形があると言われている。商務省は1998年に施行された貿易法で米国の中小製造業の国際競争力を向上させるための政策を決定し、1992年までに我が国の工業系の地方公設試(Kousetsushi)に極めて類似した組織としてMTC(Manufacturing Technology Center)を全米に7箇所開設したが、その時点で計画を中止した。理由はMTCが当初期待した通りに機能しなかったことにあったと言われている。1993年にMTCに代わってMEPが新たにスタートしてから、MEPセンターの数は急速に増加し、1999年時点でセンターの数は全米50州で75箇所を、またPRセンターの数は300箇所を超えるまでになり、MEPは米国中小製造業に広く受け入れられ、評価されるようになってきた。

 MTCが失敗に終わった理由はそれが日本の公設試と同様に研究・技術開発機能を備えていた点にあり、そこで開発された技術の中小企業への技術移転をMTCの大きな役割としてきたことにあると言われてる。従って、MEPでは研究室から企業への技術移転を目的としないことが第一の特色となっている。一般に公的研究機関で開発された技術はレベルが高過ぎ、ほとんどの中小企業にとってあまり関心のない技術であったことに原因していたと評価されたからである。
 さらに、MEPの特色は先端技術のみを事業対象としていないことである。そのため、MEPでは相談に来た企業に対してまず行うことは、当該企業のビジネス・アセスメント(事業評価)であり、この段階で、(1)経営管理体制、(2)マーケッティング、(3)生産技術、(4)情報システム、(5)人材資源、の5つの視点から事業評価を行い、問題点を明らかにする。この事業評価段階は各MEPセンターにいるフィールド・エンジニアと呼ばれる高度に専門的知識を備えた人々によって行われる。第2段階では、これらの問題点の解決のための具体的な支援を行う仕組みになっている。

 ここで注目すべきことは、各州のMEPセンターは連邦政府と州政府とのマッチング・ファンドで設立されるが、センターの運営形態、提供するサービスの内容、パートナーシップの造り方等々の事業内容については一切連邦政府は口を出さないことである。地域によって産業集積や知的資源の集積がそれぞれ異なっているからであり、これまでの科学技術も含めた経済・社会インフラの整備の状況も地域によってそれそれ異なっているからである。のみならず、こうした連邦政府の政策実施の仕方には、それぞれのセンター間で自然に競争の原理が作用するようになること、さらに独創的なイノベーション支援の仕組みが新たに開発される可能性があること等、政策の福次的効果が期待されるメリットがある。

 NIST訪問後にMEPの現場を視察するために、メリーランド州のMEPセンターであるTESを訪問した。TESはメリーランド大学のERC (Engineering Research Center) 内に設置されており、本部以外に域内からの要請にきめ細かく対応できるように5つの支所を持ち、センターの職員は20名で構成されている。当然のことながら、メリーランド州のMEPは同州政府やメリーランド大学が実施している関連事業と相互に密接に連携を取りながら進められている。これまでに企業からの問い合わせが1万件以上あり、すでに1,500件以上の支援を実施している。

 MEPで問題になっていることは、事業の信頼性、支援資源の質、ビジネスへの理解度、そして適切なアドバイスのあり方等にあり、結果的には民間コンサルタントとの競合、人材の引き抜き等々が起こっていると言われている。さらに、DOCはフィールド・エンジニアの資格制度の導入も検討しており、あと6年で資金的援助が打ち切られることを考慮するとこれからが正念場になりそうである。

(2)「米国とEUにおける民生技術政策に関する国際会議」への出席
 本会議はジョージア大学のEUセンターが主催して開催された科学技術政策に関する米国/EUのジョイント会議であったが、今後も継続的に開催される予定で、次回は来年の2月頃ヨーロッパで開催されることになっている。筆者が出席した会議は初日の3つのセッションであった。前半はEU各国の科学技術政策の紹介で、あまり新鮮味はなかったが、後半の冷戦後の米国の科学技術政策についてはその評価はかなり厳しいものであった。とくに、NASAの新たなミッションや核兵器開発産業の特異体質、陸軍の化学兵器技術の民生転用の失敗等等極めて興味ある研究報告が続いた。ここでの議論はいわゆるコンバージョンの正否にあるのではなく、軍需技術の開発政策を純粋に科学技術政策としてどう評価し、これらの技術政策の今後あり方を評価しようとするものであった。

 翌日の会議のペーパーだけを読んだ限りでは、最後のセッションの3つの論文が今後の科学技術政策の新しい方向を示唆している点で極めて興味深いものであった。特に、ハーバード大学のブランスコムの論文は、米国における科学技術政策は冷戦時代に取られて来たいわゆる"科学技術政策"から"研究・技術革新政策"へと大きく方向転換を図るべきであるとするもので、今後の科学技術政策の方向を示唆するものとして一読に価するものであった。また、最後の論文の脱工業化時代の技術政策も極めて示唆的な論文であった。

 

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Ⅲ.トピックス

豪州の最近の科学技術事情〜「小さな政府」指向の中での技術革新政策への傾斜(その2 )
在豪州日本大使館  斎藤 尚樹

4.連邦政府行政機構及び研究機関再編の動き

(1)豪州の科学技術政策の今後の方向性について、97年6月、連邦主任科学者ストッカー博士より①分野横断的提言機能の強化、②省庁内部の提言・
   調整機能強化、③政府研究機関の共同戦略計画の策定等を主な柱とする提言がなされた。連邦政府は本提言を受け、分野横断的調整及び国家的
   重点政策策定のため98年に従来の「科学工学会議」(PMSEC)に代わる科学・工学・技術及び教育・研修に係る首相の最高諮問機関「科学・工学・
   技術革新会議」(PMSEIC)を設置するとともに、各省庁内部の提言・調整機能強化のため「主任科学官」「科学アドバイザー」等のハイレベルの
   ポスト設置を進めている。また、連邦政府は複数の政府研究機関に共通する対象分野である海洋科学について、関係各界との協議を経て総合的
   研究開発計画の策定を行った。
(2)CSIRO、ANSTO、AIMSの3つの連邦政府研究機関は、研究計画の経済・社会ニーズへの適応を図るとともに、積極的な外部資金の導入を進めており、
   これら3機関の97/98年度の運営経費(総額8.3億ドル)のうち約35%(2.9億ドル)は政府以外の外部資金により賄われている。特に豪国内最大
   の政府研究機関であるCSIROは、97年7月に大規模な機構再編を実施し、従来の計33の研究部門を研究内容・目的の観点から24の部門に整理再編
   することにより、部門間の研究内容の重複排除、管理部門のスリム化による運営の効率化を進めている。
(3)98年の総選挙後に行われた各省庁の所掌事務再編に伴い、連邦政府における科学技術行政の責任省庁である旧産業・科学・観光省に旧第一次産業・
   エネルギー省(DPIE)のエネルギー行政部門が移管される等により「産業・科学・資源省」(DISR)が発足した。これに伴い、資源エネルギー関連
   のR&D政策がDISRの所管に一本化された他、CSIRO、ANSTO、AIMSの3機関に加え、旧DPIE傘下の地質調査所(AGSO)もDISRの所管となった。
  (科学技術行政機構図参照)

5.アジア諸国との国際科学技術協力

 豪州は日本をはじめとしたアジア各国との間で、以下の通り二国間協定等に基づく積極的な科学技術協力・研究者交流を進めている。
(1)中国:二国間協定に基づく科学技術合同委員会を累次開催するとともに、水管理、大気汚染、材料科学等の分野で合同ワークショップを開催。
  また、CSIROが85年以来中国科学アカデミーとの取決めに基づく研究協力・交流を推進中。
(2)インドネシア:二国間協定に基づく合同運営委員会を毎年開催し、重点分野としてバイオ技術、鉱業・鉱山区域環境回復、水質管理等に係る協力につき合意。今後、関連分野の戦略フォーラム等を開催するとともに、政府の「技術移転プログラム」を通じ同国との戦略的研究協力を推進予定。加えて、CSIROがインドネシア大、LIPI等との間で鉱業、保健、畜産、環境等の分野での研究協力・交流を推進中。
(3)韓国:科学技術協力協定締結の準備が完了し、バイオ技術・エネルギー・環境技術・光工学等の分野で共同シンポジウム開催を含めた研究協力を実施・準備中。
(4)マレーシア:協力活動のレビュー・合意のため政府間で合同科学技術会合を開催するとともに、バイオ技術に係るワークショップ等を開催。
  CSIROがマレーシア標準・産業研究所(SIRIM)との間で93年以来協力覚書(MOU)に基づく計測技術に係る協力を推進する一方、98年2月にはサラワク州政府と森林学・林業分野での研究協力に係るMOUを締結。
(5)タイ:CSIROがタイ科学技術研究所(TISTR)との間で93年以降MOUに基づき製造技術・腐食等の分野での協力・交流を実施中。

 日本との二国間協力については、科学技術協力協定に基づく合同委員会が82年以降計8回開催(本年5月末に第9回開催予定)され、合計100件以上の継続・新規協力課題が提案されるなど、政府間ベースでの協力活動はいわば「飽和状態」に近い状況に立ち至っている。今後、二国間協力に係る両国の政府予算が相応の制約を受ける中、地球環境・海洋科学・バイオ技術といった双方の共通関心分野につき、如何にして相互利益に資する重点的研究協力を進めることができるかが重要な課題となりつつあると言える。
 上記に加え、豪州はAPEC(産業科学技術WG=本年は豪州がリード・シェパードを務める)をはじめとしたアジア・太平洋域内の多国間協力の場においても、これまで日本とともに主導的役割を果たしてきた。日豪ともに限られた海外開発援助(ODA)関係予算の一層の効率的運用が求められる中、環境・保健医療といった「人間の安全保障」分野での域内協力・人材育成への取組みが喫緊の課題となってきており、科学技術分野においてもこうした域内共通の問題への取組みを積極的に支援すべく、日豪間の連携・協調によるアジア各国との効果的協力・交流を進めていくべき状況にあると言えよう。

[ 筆者プロフィール ]
 斎藤 尚樹(さいとう・なおき) 在豪州日本大使館一等書記官
 1962(昭和37)年神奈川県生まれ。1987(昭和62)年東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了、同年科学技術庁入庁。科学技術政策研究所設立時、企画課に在籍。以降、官房広報室、政務次官秘書、青森県庁(むつ小川原開発室)出向、国際課を経て、97年より現職。

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心に残る日本の思いで
Dr.Sara Nerlove
Independent Consultant to SBIR Program, NSF

 私が初めて日本を訪れたのは1966年でした。私はスタンフォード大学で文化人類学の博士課程の学生で、博士論文の研究を行うために東アフリカへ行く途中でした。この日本への初めての旅で私の記憶に残ったことの一つに、日本人の細やかな心に触れる経験をしたことがあります。それは、日本に到着して初めての夕食をしたときに起こったことですが、レストランの従業員が、私が左利きだと気づくとすぐに、左利きの人が食事を取り易いようにとテーブルサービスをわざわざ変更してくれたことでした。 その時以来、日本は大変大きな変革を遂げてきましたが、そのような変革にもかかわらず、あの1966年の初めての夕食の時に気遣ってくれたことと同じような気配りを(今回の)私の二度目の訪問中にも経験しました。今回の1ヶ月の訪問の目的は、日本の中小企業のイノベーション研究の支援政策について研究することでした。この研究は、オニール博士と協力して短期フェローシップ制度により実施されました。(「政策研ニュース」)の前号(No.128)オニール博士の記事をご覧下さい。)
 私は、米国連邦政府における中小企業イノベーション研究(SBIR)プログラム・マネジャーの見地から、またオニール博士は国際的技術移転の支援に力を入れていた米国大手会社で得た彼の経験による広い見識から、この研究に取り組みました。
 私が以前に受けた日本人の心の細やかさと思いやりについての印象が呼び起こされるすべてのひとときや場面に大変感謝しています。私は大変暖かく歓迎されたと感じました。そのような心のこもった誠意がNISTEPの方々に当てはまります。佐藤征夫所長はじめ、権田金治先生や第3調査研究グループの渡辺俊彦総括、三島眞理さんが、日本での私達の時間をより有効にかつ実りのあるものに高めるために、大変苦労して下さいました。
 権田教授の細部まで行き届いた旅程により、熊本から始まり、兵庫、大阪、浜松、宮城を通り、岩手に終わる桜前線をたどりながら調査をすることができました。
 東京でのいくつかの会合の後、私達はこれらの6つの県を訪問しました。そしてプログラムと活動に関わる多くのリーダーと会い、中小企業を支援するためのいくつかの研究所と施設を訪問しました。NISTEPで私達の希望したスケジュール以外でも、私は何人かのスタッフと非常に興味深い会談をすることができ、グループプレゼンテーション同様に、個人レベルでアメリカのSBIRプログラムに関する詳細な情報を共有することができました。この訪問の最後の数日間、前田昇教授と近藤一徳研究員が私が関心を持っている、慶應義塾大学の、ベンチャービジネス・プログラムのことを教えて下さいました。アメリカでは多くの主要な研究所が、一流のマネジメント・スクールを持っていますが、これとは対照的に、日本では、設立された研究所(すなわち国立大学)には、マネジメント・スクール又はマネジメント・プログラムがありません。私立大学及び特に慶応義塾大学が持っているタイプのプログラムは起業家活動と中小企業の支援に関連して重要な役割を果たすことが出来ると思われます。私達の会話から出てきた別の話題としては、通産省は日本のベンチャービジネスの成長を促進する目的の一環としてプレ・カレッジの教育に関心を持っているということでした。確かに、次世代に目を向け、変革の基礎を築くことはきわめて重要なことです。
 中小企業の支援のために立てられた初期や新規のプログラムや活動からの成果物を測定し、分析し、かつ追跡するために指標を開発したり、データを収集したりする上で、NISTEPは、非常に重要な役割を担っていると思われます。
 私の日本についての新たな認識はすでにアメリカから出発する前に始まっていました。旅の良いところは期待への思いを巡らせることです。この期待は新しい考えや経験を広げてくれます。日本への訪問の計画中、余暇を利用して、私はワシントンD.C.のナショナル・ギャラリー・オブ・アートで江戸時代の文化と芸術のすばらしい展示品と、それに関連した実演や講演に参加しました。例えば歌舞伎の舞台裏の様子や日本舞踊、生け花、火消しの妙技、太鼓などです。私は旅行の情報を探すために、ジャパン・インフォメーション・カルチャー・センターに行き、ホンマ・カズアキさんのすべて竹から作られた工芸品や様々な分野の芸術品を含む素晴らしい展示品を観たり、フジイ・クニエ主催による琴、三味線、尺八の演奏や徳川時代の室内楽を聴いたりしました。
 日本に滞在したとき、私は非常に精巧にできている江戸・東京博物館を訪問して、江戸時代の芸術文化の視野を広げる機会がありました。博物館ではガイド付きツアーがありました。私達のガイドはかわいい着物と帯で身を包んだチャーミングな女性で、とてもにこやかに展示品を説明してくれました。
 最後に、この旅は有益で、素晴らしく、魅惑的で、興味をかきたてられた旅でありましたが、一方で、私が見て、聞いて、読んだことをよく理解して、十分消化する時間とやすらぎを私に待ち望ませた旅でもありました。

(本稿はSTAフェローとして1ヶ月間、平成11年4月28日まで滞在されたDr.Sara Nerloveの文章を第3調査研究グループの三島さんの翻訳により記事にしたものです。)

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Ⅳ. 最近の動き

○ 講演会 

・5/31 「Industrial Innovation - How much is too much?」
 Dr. Christoph von Braun:Independent Consultant and Researcher

・6/11 「Technology commercialization policy」
 Dr. Christopher T. Hill:Vice Provost for Research, Professor
 of Public Policy and Technology, George Maison University

○ 主要来訪者一覧

・5/27  Dr. Yuri D. Denisov:Senior Researcher Russian Academy of Sciences Institute of Oriental Studies

・6/10  Mr. Herbert J. Allgeier :EC:Director-general , Joint Research Centre European Commission

○ 海外出張

・5/1-8  桑原4調総括上席研究官 (カナダ)

・5/14-22 前澤1調総括主任研究官(パリ、ブリュッセル)

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編集後記

 日差しが夏になりました。南の国では一年中夏であり、いつでも同じ花が咲いていますが、日本では、四季おりおりに草や木々が思い思いの花を付けてくれるのはうれしいことです。
 研究所の情報をtimelyに読者の皆様にお送りするためにはどうしてもdeadlineを厳しくしがちです。Deadline とはもともとは囚人が死刑になるかどうかの境界線を指した言葉だそうですが、編集担当では原稿の締切に使用します。
 この時期、本ニュースの原稿締切、昨年の研究活動を報告する研究所年報の原稿締切及び研究の進捗により、セミナー資料や研究報告書用の原稿等々が重なり、締切に追われがちです。
 早めに発行を済ませて、ゆったりと夏休みをとり、次に備えて英気を養いたいものです。
 研究所年報(10年度版)は近く発行されますのでどうぞご期待下さい。(Y)

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