No.124  1999 2 
科学技術庁 科学技術政策研究所
NATIONAL INSTITUTE OF SCIENCE
AND TECHNOLOGY POLICY


西島機関評価委員会委員長(左)から機関評価結果の報告書を受けとる佐藤所長

目次 [Contents]  Ⅰ.機関評価結果のまとめ                         企画課
Ⅱ.研究官等紹介                               欧州のSTSと政策分析
Ⅲ.トピックス
フランス科学技術システムベンチマ−キング(水準比較)セミナ−  佐藤所長

国科学技術振興協会(AAAS)年次総会出席               大山2調上席研究官
                         

Ⅳ.トピックス
インドネシア科学技術政策について-経済危機と科学技術-について(その2)
               インドネシア研究技術大臣科学技術顧問  高松政晴
Ⅴ.プログラム
平成10年度地域科学技術政策研究会の開催について
Ⅵ.最近の動き
総理府世論調査「将来の科学技術に関する世論調査」

Ⅰ.機関評価結果のとりまとめ

企画課

 平成10年5月より、西島安則京都市立芸術大学長を委員長とする機関評価委員会において科学技術政策研究所の機関評価が行われてきましたが、平成11年1月13日に報告書がまとめられました。概要は以下のとおりです。当研究所としましては、今回の機関評価報告書において指摘された事項等を踏まえ、改善のための具体的な取り組みの方策についての検討を開始することとしています。

科学技術政策研究所機関評価委員会報告書の概要


1.はじめに
 科学技術政策研究所(以下「政策研」という)の研究課題を含む運営全般についての評価を行うため、平成10年5月に西島安則京都市立芸術大学長を委員長とする10名の委員から構成される機関評価委員会が政策研に設置された。本委員会は平成10年5月から10月までに5回の会合を開催し、政策研の活動状況についての資料の検討、幹部職員との討議等を行い、報告書をとりまとめた。
2.機関評価にあたっての委員会の考え方
 21世紀を目前に控え、科学技術政策の方向性を先見性を持って検討する必要性はますます増大しており、科学技術政策研究に対する期待は高まりつつある。本委員会は、この分野で中核的な役割を担うことが期待される政策研の運営全般について、設立以来過去10年間の活動実績を評価しつつ、今後10年間程度を展望して、政策研が将来のあり方を策定する際に反映できる意見をとりまとめた。
3.政策研の使命、機能及び役割
○ 政策研の使命は、政府の政策研究機関として、科学技術庁、科学技術会議などの行う国の科学技術政策の企画及び立案に貢献することにある。この使命を達成するために政策研が事実上兼ね備えている機能(①リサーチ機能、②データ分析・評価機能、③アドバイザリー機能、④トレーニング機能)を適切かつバランスよく活用していくことが重要である。
○ 具体的な活動にあたっては、その活動の成果の利用者が誰であるのかを意識し、活動目的を明確にした上で取り組むことが重要である。なお、その際に成果の利用者を公的な機関だけに限定するのではなく、産学官の全てに成果利用の対象者が存在するとの前提で考えるべきである。
○ 政策研の活動の成果が国の政策に一定の方向性を与え、行政庁における政策の企画及び立案に十分に生かされていくような努力が必要である。
4.過去10年間の活動実績の評価と今後の課題
 科学技術立国を標榜する我が国において、政策研のような使命、機能を有する機関が設立され、存在してきたこと自体、大きな意味を持つものであり、この分野に多くの影響を与えてきた。本委員会の全般的な評価としては、政策研の活動はおおむね良好であり、また設立以降、この10年間でいい状況になりつつある。設立当初からの一定の経過を経て、現在は調査研究の体系化ができつつあり、管理部門を含めて定員46人の小規模な機関の最初の10年としては良好な成果を出している。
(1)調査研究
○ 重要と考える9つの調査研究分野(科学技術政策、技術革新過程/研究開発マネージメント、研究開発投資と経済成長、科学技術と人間・社会、地域科学技術政策、科学技術人材、科学技術と指標・統計、技術動向、技術貿易)についての評価を行った。
○ 調査研究活動は大きく①課題対応型調査研究、②状況・方向性把握型調査研究、③理論展開型調査研究の三つのカテゴリーに分類できるが、それぞれのカテゴリー毎に今後取り組むべき課題についてもとりまとめた。個々の調査研究課題の実施にあたっては、独立して分断されておこなわれるのではなく、政策研の持つ機能をバランスよく発揮しつつ横断的、総合的な観点からの取り組みがなされるべきである。
(2)組織及び人材
○ 調査研究部門における研究職と行政職をうまく組み合わせた現在の組織編成は、概ね良好に機能しており、今後とも研究職と行政職の双方の長所を活かしつつ、両者のベストミックスに配慮した組織とすることが必要である。
○ 科学技術政策研究に対する増大する期待に十分に応えていくためには、優れた能力を有した多様な人材の確保、増大のための努力が特に必要である。特に、調査研究の質の向上及び継続性の確保のため、職員の任期の長期化、客員研究官の増員、中核的研究者の育成等に努めるべきである。
○ 我が国の科学技術政策研究は緒についたばかりであり、連携大学院等による大学等の研究機関との連携を図りつつ若手研究者の育成、受け入れに取り組むことが必要である。
(3)運営
○ 国立の研究機関として民間のシンクタンクや大学等の研究機関と競合するのではなく、科学技術政策研究の推進のための総合力を発揮し、ユニークな活動に重点をおいた運営を行うことが望ましい。
○ 増大する調査研究課題に対応するため、調査研究の個々の性格に応じて、外部の調査機関等で対応できる部分についてはそれらの効果的な活用を図るなど、当研究所の資源は、情報を分析、加工、高度化する過程に集中して活用すべきである。このためには、当研究所の予算の増加を図るとともに、外部の競争的資金の導入、活用を図ることが必要である。
(4)外部機関との連携
○ 科学技術政策研究に関する産学官の組織化を推進する上で我が国の中核的な役割を担うことを期待する。
○ 国内外の関連機関との連携、情報交換を強めることが必要である。このため、例えばフリーゾーン(共通の研究の場)のような研究及び情報交流の場、拠点としての機能が必要である。また国際的に協調して解決すべき課題も増大しており国際協力の一層の強化を図ることが必要である。
(5)その他
 政策研の活動について広く理解を得るよう努めるとともに、成果物を政策の企画及び立案に適切に反映させていくための努力が必要である。
5.将来のあり方についての提言
○ 社会の状況の変化に適切に対応し、21世紀の社会システムに対応できる科学技術政策研究が行えるような体制の見直し、整備を図っていく必要がある。政策研においては、今後5年間程度の活動計画を「中長期計画」として策定するとの構想を有している。この構想は有効であると考えるが、より長期、例えば10年先を見据えた展望を含めることも必要と考えられる。この計画においては、本報告書において検討が期待されていることについて、その具体化のための方策が含まれることを期待する。
○ 科学技術政策についての政府の専門的な調査研究機関として、新たに設置されることが予定されている教育科学技術省の政策立案に寄与することはもちろん、総合科学技術会議における調査・分析などに対しても可能な限り貢献することが望まれる。
6.まとめ
 科学技術政策研究をとりまく内外の状況は大きく変わりつつあり、それらの変化を的確に踏まえて適切に対応していくことが必要である。委員会は、本報告書において述べられている事項について、政策研において十分な検討が行われ具体的な取り組みがなされることを期待している。

(参考)   科学技術政策研究所機関評価委員会委員  (敬省略50音順)
  委員長 西島 安則 京都市立芸術大学長
    池上 徹彦 会津大学副学長
      NTTエグゼクティブアドバイザ
    池澤 直樹 (株)野村総合研究所産業コンサルティング部部長
    小田切 宏之 一橋大学大学院経済学研究科教授
      筑波大学社会工学系教授
    笠見 昭信 (株)東芝取締役専務
    小林 信一 電気通信大学大学院情報システム学研究科助教授
    鳥井 弘之 日本経済新聞社論説委員
    弘岡 正明 流通科学大学副学長
    松本 和子 早稲田大学理工学部教授
    村上 陽一郎 国際基督教大学教養学部教授

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  Ⅱ.研究会等紹介

科学技術振興調整費:国際共同研究総合推進制度(2カ国間型)プロジェクトの紹介
〜欧州のSTSと政策分析〜


第2研究グル−プ 藤垣裕子

  当研究所第2研究グループでは、平成10年度科学技術振興調整費の国際協同研究総合推進制度(2国間型)の助成を受け、オランダ・アムステルダム大学との共同研究「科学技術の形成過程における研究者のコミュニケーション構造の日欧比較研究」を行っている。このプロジェクトの内容は、欧州のSTS(科学技術社会論)およびSTSと政策分析との関係を探る上で多くの情報を含んでいる。以下にこのプロジェクト概要を紹介する。
1.プロジェクトの枠組み
 この研究は、実際には、EU第12総局(科学技術政策関連)第4次Framework ProgramのTSER部門(Targeted Socio-Economic Research)プログラム「欧州科学技術情報の自己組織化(SOEIS:The Self-Organization of the European Information Society)」プロジェクトとの共同研究である。SOEISプロジェクトは欧州内の6つの大学:アムステルダム大学(オランダ)、ビーレフェルト大学(ドイツ)、サリー大学(イギリス)、ローマ大学(イタリア)、チューリヒ大学(スイス)、テラス大学(ギリシャ)の共同研究としてEUからファンドを得て1997年12月に発足した。これに対し、我が国の研究グループは、このSOEISプロジェクトのシスタープロジェクトとして位置づけられており、SOJIS(The Self-Organization of the Japanese Information Society)チームと呼ばれている。すでにEU第12総局に昨年6月に提出された研究アジェンダの報告書に、SOJISの存在が明記されている。SOJISチームのメンバは、以下の通りである。

 藤垣裕子、富沢宏之、渡部康一、田中聡(科学技術政策研究所)
 牧野淳一郎、林隆之(東京大学)
 調麻佐志(信州大学)
 平川秀幸(国際基督教大学)

2.研究アジェンダ
 SOEISは7つのタスクから成っている。いずれも、科学技術政策研究所における研究内容にとって、興味深いものが多い。

Task-1:理論的側面       担当:全大学
Task-2:科学技術情報システムのモデル化
 担当:アムステルダム大学、テラス大学 
方法論:数値シュミレーション、論文分析
Task-3:EUの科学技術政策の分析
 担当:ビーレフェルト大学、サリー大学、
方法論:構造化インタヴューとプロジェクト観察
Task-4:科学技術情報の動態分析	
 担当:アムステルダム大学、  
方法論:引用分析による科学の地図の作成、共語分析
Task-5:科学技術と社会との関係
    (市民へのアカウンタビリティ、および企業での知識共有プロセス分析)
 担当:チューリヒ大学、ローマ大学、
方法論:アクターネットワーク論
Task-6:政策への含意(来年度以降)
Task-7:科学技術ネットワークの可視化と理解および技術の科学者のコミュニケーションに与える影響
 担当:アムステルダム科学博物館、チューリヒ大学
方法論:1)展示表現法の開発、
    2)本プロジェクトのすべてのコミュニケーションの運上観察(e-mail,会議録)
3.これまでの経過 1997年12月 SOEISプロジェクト発足。 1998年 3月 第1回マネジメントミーティング(ドイツ:ビーレフェルト)        4月 SOJISプロジェクト発足。        6月 研究アジェンダ報告書のEU本部への提出。       12月 中間報告会(オランダ:アムステルダム)  SOJISは、3月のマネジメントミーティング、および12月の中間報告会に参加した。以下に12月の報告会の様子をまとめる (写真は、この12月の中間報告会の模様。) Task-2:科学技術情報システムのモデル化 (2−1)担当:テラス大学「科学技術データの複雑性およびその社会認識におけるネットワーク・コミュニケーション」について (2−2)担当:アムステルダム大学「イノベーションにおける産官学連携」について (2−3)担当:ボローニャ大学「動的な統制組織におけるイノベーション・システム」 Task-3:EUの科学技術政策の分析  担当:ビーレフェルト大学およびサリー大学「知識基盤経済における欧州のRTD(研究技術開発)     ネットワークと政策オプション:欧州RTD政策の構造と動態分析」 日本側からの貢献    ・ 日本の科学技術における優先投資分野の政策分析:ライフサイエンスにおける政策変遷および論文生産の推移をめぐって    ・ 学問分野間の論文様式および引用様式の差異について Task-4:科学技術情報の動態分析  担当:アムステルダム大学「共著関係分析による科学の地図の作成:バイオテクノロジー、情報科学および人工知能分野を対象として」について Task-5:科学技術と社会との関係 (5―1)担当:チューリヒ大学「ヨーロッパにおける核燃料廃棄物処理に関する住民運動に対する、アクターネットワーク論による分析のみ」 (5−2)担当:チューリッヒ大学およびローマ大学「企業家ネットワーク:自己組織化プロセスにおけるアイデンティティの構築」について Task-7:科学技術ネットワークの可視化と理解および技術の科学者コミュニケーションに与える影響 (7−1)担当:テラス大学「本プロジェクト内コミュニケーションのモニタリング」 (7−3)担当:ニュー・メトロポリス(オランダ科学技術センター)「科学技術情報の自己組織化の一般市民への導入」について    (科学技センター内に設置されたコンピュータを用いた市民とのコミュニケーションシステムを視察) (7−2)担当:チューリッヒ大学「コンピュータを媒体とした会議と学習」について

4.今後のプロジェクト運営
 SOEISプロジェクトの運営は、以下のように予定されている。本年4月18日には、イギリスのサリー大学において、プロジェクトマネジメントミーティングが予定されている、これは、同16〜17日のサリー大学主催「欧州における研究政策の構造とダイナミクス(The Structure and Dynamics of Research Policy in Europe)」会議(EASSTの助成)に連携している。また、6月17〜20日にローマ大学において、full-プロジェクトミーティング、10月28〜31日にギリシャのテラス大学において最終報告書作成準備会議と同時にpolicy-forumの開催が予定されている。

*SOEIS、SOJISプロジェクトについての情報(プロジェクト運営、メンバ、交信記録、これまでの報告書)についてはホームページ:http://www.duth.gr/soeis/ 参照。


Ⅲ.海外事情

フランスの科学技術システムのベンチマ−キング(水準比較)セミナ−に参加
所長  佐藤 征夫

  フランス首相府の計画総庁(Commissariat General du Plan)の要請により、去る1月22日、同庁が進めている「国際競争下における研究とイノベーションに関するフランスの役割と戦略」調査プロジェクトの各国比較に関するセミナーで日本の科学技術システムについて講演を行った。

 本調査プロジェクトは、フランス首相府の計画総庁が、首相の求めに応じて開始したものであり、2つの目的をもっている。一つは、他の工業国とのグローバルな競争下においてフランスがどのような位置にあるか比較することであり、もう一つは、ヨーロッパ統一を考慮に入れながら、将来のシナリオを描き、フランスにとって可能な戦略を明らかにすることである。

 このために、「アウトソーシングの増大など、企業のR&D活動の国際化に伴ってもたらされるフランスのシステムに対する挑戦」、「イノベーションのための人的資源と公的関与の役割」、「R&D税額控除、イノベーション補助金等の公的インセンティブの評価」など5つのテーマが選ばれ、それぞれに対応したワーキング・グループ(W.G.1-5)が設けられ、総合グループが全体の調整を行うことになっている。

 筆者が招聘されたW.G.2では、「産業との協同の爆発的増大、特許化努力の進展、急激ともいえる大学人による企業起こしなど、各国において公的な研究システムが大きな変化をしてきているが、このような変化が、新しい研究・イノベーション政策形成や関連する体制整備にどのような影響や意味を持つことになるのかは明らかではない.」との認識から、フランスの「研究、技術、イノベーション」システムのベンチマーキング(水準比較)を集中的に行うことを任務としている。

 W.G.2は、フランスの産官学から選ばれた約25人のメンバーから構成され、昨年11月、12月及び今年1月と3回に分けてセミナーを開き、EU6か国、イスラエル、米国、日本および韓国の専門家(米国のみ2名、米国以外は各1名)からそれぞれの国の研究、技術、イノベーション(RTI)システムについて聴取した。その結果をグループ・メンバーで検討し、フランスのRTIシステムの位置付けについてレポートをとりまとめることとなっている。

 各国からの専門家は、前以て、次のような項目についてのペーパー(本文30頁以内プラス図表)を書くよう要請された。即ち、①各国のRTIシステムの包括的概観、②国の優先事項およびその形成過程、③優先的プログラムの存在、その相対的重要性および働き、④公的セクターの研究組織、⑤公的研究と産業との間の連携および産業的研究とイノベーションのためのインセンティブ、⑥RTIシステムの変動過程における国際化の役割、⑦地域のRTI政策の重要性と主要な焦点および国の政策との明確な結びつけ、⑧軍事的RTIの重要性およびポスト"冷戦"時代に伴う変化やそれに関連した予算削減の影響などである。

 昨年11月のセッションでは、英国マンチェスター大学の工学科学技術政策研究所長の他、スペイン、フィンランドおよびイスラエルからプレゼンテーションがあった。また、12月のセッションでは、ドイツ・フラウンホウファー・システム・イノベーション研究所長の他イタリアおよびスペインからのプレゼンテーションが行われた。

 筆者が参加した今回1月のセッションでは、21日の午前中に米国カリフォルニア大学の DavidMowery 教授から "The Changing Structure of the US National Innovation System" と題するプレゼンテーションが、また、午後には、ジョージア工科大学公共政策学部の Barry Boseman 教授から "Research Policy Trend in the United States: Advanced Technology Program, Dual-Use Defense Technology, and the Development of the National Laboratories"とのペーパーに基ずくプレゼンテーションが行われた。

 22日は、朝9時から12時半過ぎまで、筆者からペーパー"The Structure and Perspective of Science and Technology Policy in Japan" およびOHPにより日本の科学技術政策の枠組み、政策形成システム、諮問機関、技術予測と優先度付け、研究評価などについて説明するとともに、行政改革の動きについても説明をした。グループ・メンバーがとくに関心をもって質問してきた事項は、行政改革、技術予測および研究評価であったが、他の事項についても質問があり、3時間半が短く感じられた程であった。

 22日の午後は、韓国の科学技術政策管理研究所の Dr.Sung Chul Chung から "Research,Development and Innovation System in Korea"と題するペーパーによる韓国の科学技術システムの変遷と現状について説明があった。

 今回のフランスにおけるイノベーション・システム変革への動きは、1980年代初めの研究技術大臣主導の研究開発システム改革以来の大きなものと思える。しかも、国際情勢の大きな変化を受けての国際的な競争力の強化という観点から、より広い視野と奥行きをもった改革を狙いとしていると考えられる。

 しかしながら、1980年代初めの時は、社会党政権誕生後間もない時期の実力大臣のイニシアティブによるモメンタムのある動きで、その後の体制の根幹を決める法律制定に結びついたが、今回は、どのような形で、この調査プロジェクトが実際のシステム変更へと結実するかは、今のところはっきりしていない。夏前後にはレポートが出されるとのことである。

 何れにせよ、フランスがこのような規模で、かつオープンに、各国専門家からのヒアリングを行ない、冷静に国際社会の中での自国の位置づけをしながら国内システムの改革を進めようとしている柔軟な態度には驚かされた。今回のプロジェクトを、研究開発の直接担当大臣(省)ではなく、フランス全体の大きなシステム改革担当部局である首相府の計画総庁が担当していることからも、より大きな変革につながる可能性があり、今後の動きに注目していくべきと考える。

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米国科学振興協会(AAAS)年次総会出席
第2調査研究グル−プ 大山真未

 平成11年1月21日(木)〜23日(土)、米国カリフォルニア州アナハイムにおいて開催された、米国科学振興協会(AAAS)年次総会に参加し、特に現在第2調査研究グループで進めている「科学技術と人間・社会」に関する調査に資するために、米国等における科学技術政策等について情報収集を行った。
 AAASは、米国における科学と技術に係る全ての分野の振興と、国民の理解増進を図ることを目的として、1848年に設立された非営利団体である。会員は全世界で約150万人であり、「サイエンス」誌の発行元として知られている。昨年は、AAAS設立150周年にあたり、フィラデルフィアでの総会に、当研究所から佐藤所長がスピーカーとして参加した。
 今年の総会は、Challenges for a New Centuryというテーマの下に行われ、プログラムは多岐にわたり、著名な行政担当者等によるレクチャーのほか、120程のセッションが開かれた。以下、いくつかのレクチャー、セッションについて簡単に紹介する。

○レクチャー(Science and Technology :Priorities for the 21st Century)
 NSF長官リタ・コルウェルをモデレーターとして、大統領科学顧問ニール・レーン、英国Office of Science and Technologyロバート・メイのスピーチが行われ、科学技術分野での国際協力の促進の必要性や、地球規模での相互依存の進行などが指摘された。

○セッション (Science Innovation / Medicine in the 21st century : meeting the genomic
challenge)  人の遺伝子研究の進捗の現状と、これに伴うプライバシー保護等の社会的、倫理的、法的問題について、医学研究者、法学者、ジャーナリストらから報告が行われた。

○セッション (Science, Engineering, and Public Policy / How will new accountability requirements affect the environment for research ?)
 米国における研究評価を巡り、Government Performance and Result Act (GPRA)の下での、評価手法、メカニズム、特徴等について報告が行われた。

○セッション (Science, Engineering, and Public Policy / Science policy in the next millenium :Emerging issues in Congress)
 昨年9月発表の米議会下院科学委員会報告書 Unlocking the Futureのとりまとめに当たったV.J.Ehlers下院議員らから、議会においても科学技術振興の意識が高まっており、科学教育、創造的基礎研究、interdisciplinaryな研究等が重要である旨指摘された。

以上、いくつかのレクチャー、セッションを通じて、キーワードとして、研究開発における国際協力、interdisciplinaryな取り組み、科学教育などの重要性が指摘され、分野別では情報科学技術におけるデータ管理の在り方や生命科学技術分野における倫理的問題等の社会的側面への関心が高かったように思う。
 情報、生命、環境等の科学技術諸分野から、科学技術政策、科学教育に至る非常に幅広い内容をカバーする本総会の全体像の要約は難しいが、米国において科学者、科学技術政策関係者らが一つの大きな勢力となっていることがみてとれ、またゴア副大統領のスピーチが行われるなど、政府サイドの本総会への関心の高さも伺える。
 なお、来年はSeience in an Uncertain Milleniumのタイトルで、2月17日〜22日に、ワシントンで開催予定。

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Ⅳ.トピックス

在外駐在員シリ−ズ3

インドネシアの科学技術政策について―経済危機と科学技術―について(その2)


インドネシア国研究・技術担当大臣顧問 高松政晴

前号においては、「体制」について述べた。本稿においては、予算等についてふれることとする。

3.予算
 インドネシアは我が国と同じように会計年度は4月始まり3月終わりとなっている。1998/1999(このように表記される)年の科学・技術分野の予算は大蔵省の資料によると経常費:4100億ルピア(70億円)、開発予算:1兆1440億ルピア(190億円)となっている。このうち予算的には LIPI(インドネシア国科学院)の規模が大きい。BPPT(技術応用評価庁)は、経常費、開発予算それぞれ640億ルピア、1180億ルピアとなっている。

 各省庁からの予算要求はRISTEKで国家5ヶ年計画に沿ったものかチェックを受けた後、国家開発企画庁(BAPPENAS)へ提出され、そこで査定を受け、大蔵省から予算の配算を受けるというシステムになっている。従って国家開発企画庁が大きな力を持っている。

4.経済危機と科学技術
 インドネシアでは工業化の早期達成を旗印に科学技術の振興を図ってきたが、その中心的な人物がハビビ大統領であった。彼は1974年西ドイツの航空機製造会社MBBの副社長のポストを辞し、スハルト大統領の要請を受け、帰国し、その後20年間研究・技術大臣を勤めた。彼の政策は戦略企業庁傘下の国営企業を工業化の中心と位置づけ、他の民間企業に技術移転を図り、全体のレベルアップを図ろうとするものであった。特に航空技術の振興に力を注ぎ、1995年には国産プロペラ機N-250の処女飛行に成功している。

 しかし、1997年央のタイのバーツ下落にはじまるアジア経済の混乱にインドネシアも巻き込まれ、通貨ルピアの下落、一部銀行の閉鎖、ジャカルタで建設ラッシュであったビルディングの工事中止等を引き起こした。このような経済危機に対し、今までハイテク(特に航空機技術)に資金を投入してきたことの反省が出てきている。戦略企業庁の国営企業についても造船会社については、うまくいっているが、航空機会社は難しいという評価がされている。BPPTでも地方への技術移転、応用可能な技術の開発、研究者のインセンティブを高める方策を実施している。具体的には、小規模のエビ養殖、水耕栽培農業等の技術開発、地域技術サービスセンターの設置、ロイヤリティーの一部を本人も受けとれるようにする等の方策である。

5.各国との協力
 ジャカルタ市内をみると日本企業マークの車が走り回っているが、携帯電話にはヨーロッパ標準が採用されていることに見られるように、科学技術の分野では、歴史的なつながりもあり、欧米各国との協力が活発に進められている。EUとは人工衛星のデータを利用した米の収穫予想のプロジェクトが進められている。インドネシアでは米が主食となっているが、その収穫予測は我が国のように正確ではない。最近のように米が足りなさそうだとの予想が出されても、どの程度の輸入量が必要なのか正確なところは分からず、この面での補足データが期待されている。ノルウェーとはブイを展開し、海洋環境を監視し、水質管理、沿岸管理、漁業、天気予報に利用するプロジェクトが進められているほか、バルナ・ジャヤVIIIがノルウェーで建造され、11月にLIPIに引き渡されている。また、リモートセンシングデータを利用した資源探査(カナダ)、火山活動監視(スポット・イマージュ社)やバイオテクノロジー分野でのドイツとの協力が進められている。

5.我が国との協力
 我が国との間では、現在のところ主な協力プロジェクトとして、宇宙開発事業団と航空宇宙庁との間で日本の衛星データを農業の分野で利用するパイロットプロジェクトの準備が進められており、また、海洋科学技術センターとBPPTとの間でブイを使用した海洋−大気変動に関する共同研究を実施している。

 インドネシアは我が国と同じように環太平洋火山帯に位置しており、また、地勢学的に見ても、重要な位置を占めている。我が国から多額の経済援助がなされているが、科学技術の面でもさらなる貢献が求められている。例えば、昨年インドネシアではカリマンタン島、スマトラ島の森林火災で周辺各国に多大なる影響を与えたが、この関連では
 ・人工衛星を利用したホット・スポットの早期発見
 ・大気の流れモデルを利用した煙害の拡散予測等
が自然災害対策として役に立つのではと思う。また、森林火災を引き起こしたエル・ニーニョ現象を解明するために、
 ・インドネシア上空での大気循環観測
 ・ブイによるインドネシア海域での海流・水温等の測定
 ・これらの観測データを解析する国際研究拠点の整備
も国際的な協力の下に進められるとよいのではと思う。また、インドネシアは各国へ留学生を送り出し(従って政府機関の幹部は英語の堪能な人が多い)、また、各国からも技術指導、工場の誘致がなされているが、技術が根付き、新しい技術を生み出すまでには至っていない。そこで
 ・技術習得・移転・創造に関するセミナー
 ・知的所有権活性化のセミナー
を開催すれば大きな関心を受けるものと思われる。これらのプロジェクト、セミナーを実現させ、インドネシア・日本の科学技術の面での協力が強化されることを願っている。
                     著者紹介   たかまつ まさはる
                     東京大学工学部卒業
昭和47年5月科学技術庁入庁
       平成9年7月から現職

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Ⅴ.プログラム

平成10年度地域科学技術政策研究会の開催について  第3調査研究グル−プ

  当研究所では現在、第3調査研究グループを中心にして、都道府県等の地域における科学技術振興政策に関する調査研究を実施しています。
 今後の地域科学技術政策関連の調査研究をより適切なものとすることなどを目的として、下欄により来る3月16日(火)、17日(水)に標記研究会を開催することとしました。この研究会には、都道府県及び政令指定都市の科学技術振興施策を担当している方々にお集まりいただき、地域科学技術政策の抱える問題点について議論していただく予定です。

1 日時                
 平成11年3月16日(火) 9:30〜17:00                
     3月17日(水) 9:30〜12:00                
2 場所                
  砂防会館別館2階「穂高」(〒102−0093 東京都千代田区平河町2−7−5)                
3 参加予定者                
  都道府県及び政令指定都市の科学技術振興政策担当者等                
  講演者、関係省庁講演者、科学技術庁科学技術振興局、科学技術政策研究所等                
4 プログラム (内容については変更の可能性があります。)                
 テーマ 「科学技術を活用して地域再生に如何に取組むか」                
 1日目                
 (1)開会挨拶                
 (2)講演                
    ・富山国際大学学長 石坂誠一                
     「地域科学技術の振興と地域に展開する大学の役割」                
 (3)関係省庁からの講演                
    ・科学技術庁(木阪官房審議官)、通商産業省(羽山官房審議官)                
 (4)科学技術政策研究所からの報告(3報告)                
 (5)地方公共団体報告(3団体からの報告)                
 2日目                
 (1)講演                
    ・科学技術政策研究所客員総括研究官(東海大学教授) 権田金治                
     「地方公共団体は科学技術の活用により地域再生に如何に取り組むべきか−現状と今後」                
(2)全体討論                
    ・参加者全員による自由討論                
    ・まとめ                
 (3)閉会挨拶                

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Ⅵ.最近の動き

○ 総理府世論調査「将来の科学技術に関する世論調査」の公表    第2調査研究グル−プ

 1998年10月〜11月に一般国民3000名を対象に現在及び将来の科学技術に対する国民の意識をアンケート調査した。その結果が2月上旬、発表された。調査票の設計にあたっては科学技術政策研究所が協力を行った。ごく簡単に特徴を記すと、「将来の科学技術が果たす役割」についての設問では、「安全性の向上」、「効率性の向上」が重要であるとした人が8割を超えた。公的機関が中心となって進めるべき科学技術分野として上位にあげられるのは、地球・自然環境の保全、廃棄物の処理・処分、資源の開発やリサイクル、高齢者や身体障害者の生活の補助などが上位となっている。(この概要は3月号に掲載します。)

○ 講演会等の開催

・1/11 「社会とのコミュニケ―ションにおける科学技術への関心喚起と理解増進」
倉本昌昭((財)科学技術広報財団理事長)
・1/18 「英国のフォ−サイトプログラム」
ベンマ−チン(サセックス大学 SPRU所長)
・1/26 「新しい政策研究の方向について」
ベンマ−チン(サセックス大学 SPRU所長)

○ 海外出張

・1/19-24 佐藤所長(フランス)
・1/20-25 大山2調上席研究官(アメリカ)

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編集後記

 1月号は、新年にあたり研究所員の抱負を掲載いたしましたが、ご期待に添えるものでしたでしょうか。また、別途お願いいたしました政策研ニュースに対するご意見アンケートにつきましては、ご回答を賜りご協力有り難うございました。今後の編集に際しての銘とさせていただきます。
 本号は、1月号で速報致しました機関評価結果の報告に関する概要を掲載致しましたが、これは報告書として刊行するほか、ホームページにも掲載する予定です。どうぞご利用下さい。また、当研究所で実施中のヨーロッパの STSとの政策分析に関する共同研究のご紹介、1月にフランス政府が行った科学技術システムのベンチマーキング(水準比較)セミナーについての様子、さらに1月開催のゴア副大統領が参加したAAAS年次総会に関する報告の他、シリーズのアジアの科学技術政策(インドネシアの2回目)を掲載いたしました。
 次号は本号で速報いたしました世論調査の概要および各種調査研究の成果をご紹介致します。どうぞご期待ください。(Y)

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