No.122  1998 12 
科学技術庁 科学技術政策研究所
NATIONAL INSTITUTE OF SCIENCE
AND TECHNOLOGY POLICY


地域科学技術国際会議(RESTPOR)のようす

目次 [Contents]  Ⅰ.研究会等紹介
地域科学技術国際会議              第3調研究グル−プ
Ⅱ.トピックス
マレ−シアの科学技術政策            マレ−シア科学技術環境省顧問 松崎忠男
タイにおける科学技術の受容について     宇宙開発事業団バンコック駐在員事務所長 塚本勝
Ⅲ.最近の動き

Ⅰ.研究会等紹介

第4回地域科学技術政策研究に関する国際会議(RESTPOR’98)出席
第3調研究グル−プ 柿崎文彦

 11月21日〜24日、米国ノースカロライナ州チャペルヒルにおいて、第4回地域科学技術政策研究に関する国際会議(RESTPOR '98)が開催された。当所からは佐藤所長、権田客員総括研究官、休井特別研究員、及び筆者の4名が参加した。
 「RESTPOR」(レストポール)は「REgional Science and Technology POlicy Research」から創ったユニークな会議名で、関係者の間で定着している。

 この会議は、「経済のグローバリゼーションの急速な進展の下、イノベーションを持続的に継続できる社会の実現のため、国全体の科学技術資源・枠組だけでなく、地域の科学技術資源・枠組についての政策研究も必要」との問題意識に基づき、当所の主催で第1回会合を1993年に岩手県で開催したことに始まる。ここでの議論を通じて、この会合の継続的開催への期待が高まりを見せたことから、国際的な産学官の専門家のグループを結集しつつ、第2回を日本(神奈川県)で行った。その後、第3回がEU主催によりベルギーで開催され、そして第4回会合が今回米国ノースカロライナにて開かれることとなった。

 ノースカロライナ州は大西洋に面した米国の東南部、バージニア州の南側に位置している。州都Raleigh(ローリー)はワシントンD.C.から飛行機で約1時間程の距離にある。ここには、米国における研究開発機能の集積地の一つとして有名な「リサーチ・トライアングル・パーク」がある。この州の東部に位置する三つの都市、Raleigh、Durham(デュラーム)、Chapel Hillにそれぞれノースカロライナ州立大学、デューク大学、ノースカロライナ大学(UNC)があり、これらが「リサーチ・トライアングル・パーク」の発展に重要な役割を果たしてきた。

 今回の会議は、「The Knowledge Society,Innovation,and Information Region」をテーマに、8ヶ国(米国、カナダ、英国、アイルランド、ギリシア、ブラジル、韓国、日本)と2国際機関(EU、UNIDO)より約100名が参加し、30件あまりの発表が行われた。プログラムは、リサーチ・トライアングル・パークの視察やラウンドテーブル・セッション「地域の成功事例」などに続き、6つの連続セッションA〜Fで構成された豊富な内容のものであった。

 ラウンドテーブル・セッション「地域の成功事例」では、地元ノースカロライナ(NC)をはじめとして5件の報告があった。NCでは、企業が研究施設を設立したことで地元大学の研究資源を活用するようになり、州政府が大学へ戦略的に投資を増加させてきたことが紹介された。また、石川県における地域研究開発促進拠点支援事業(日本)が紹介された。

 セッションA「Information Technology and the Changing Ways Organizations Do Business: Implications for Regional Development」では、特に情報技術に関連して米国からの発表が多く、情報技術の発展が企業活動に及ぼす影響とそれに伴う空間的立地の変化(UNC)、情報技術の成長による経済的効用の分析(Bank of America)、情報技術の発展に伴うビジネスルール・社会体制並びにリーダーの果たす役割の変化(IBM)、情報技術の教育・医療・地域交流などへの応用(米国)などのほか、「知性創出に関する意味空間及び情報社会」(政策研,権田)が報告された。

 セッションB 「Information Technology and the Virtual Region」では、欧州での情報化社会推進の現状と今後の展望(ギリシア)、インターネット需要の拡大と社会の変化(CISCO Systems)、製造業及びサービス業を含む「文化指向の経済」におけるイノベーションと地理的要素の関わり(米国)、ブラジルにおける研究と技術革新のためのネットワーク構築戦略(ブラジル)などのほか、「知識の創出と研究技術開発において仮想地域の果たす役割」(政策研,柿崎)が報告された。

 セッションC 「Invention in the Knowledge Society: Intellectual Property and New Modes of University」では、古い工業地帯とそこでの地域イノベーション組織(米国)、大学のバイオ科学と産業との結合・地域経済開発(米国)、経済との関わりが大学にもたらす風土変化とその効用(米国)、英国Oxfordshireにおける知識産業の誘致と集積施策(英国)などのほか、「日本における地域科学技術政策の枠組みと今後のあり方」(政策研,佐藤)が報告された。

 セッションD「Macro Policy Dimensions of the Knowledge Society」では、欧州におけるイノベーション政策の特徴と今後の施策(英国)、拡大EUにおける技術開発システムのあり方と経済的効用(EU)が報告された。

 セッションE「Information Technology and Urban Population」では、情報技術の発達による銀行融資の変化(米国)、生涯教育に情報技術を用いる「仮想大学」の役割(英国)などのほか、神奈川県における科学技術政策と情報ネットワークについての報告(日本)があった。  セッションF「Knowledge-Oriented Projects in an Information Age: Implications for Regional Economic Development」では、医療教育におけるインターネットの活用例(米国)、NCにおける高速インターネット接続プログラム(米国)のほか、福岡県における地域結集型共同研究事業について報告(日本)があった。

 これら一連のセッションの後のクロージングにおいて、理化学研究所の宮林理事から「日本の地域科学技術政策の新しい潮流」と題した講演が行われた。

 以上の様に、大学等の研究者をはじめ、ビジネスの最先端で活躍している実務者による発表も多く、発表者層の幅広さが特徴であった。発表の内容は、大学等と産業の連携、地域イノベーションシステムなどの政策研究のほか、今回のテーマに情報がとりあげられていたため、情報 技術の産業や生活への応用と影響に関するものも多く、多種多彩であった。RESTPORにおけるテーマ設定の難しさとともに、RESTPORの対象領域と関係者層の広がりも感じられた。 なお、第5回会合を2000年に日本で、第6回を2002年に欧州で開催することが合意された。RESTPORは日米欧の三極を一巡し、その枠組が国際的に定着したものと考えられる。

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  Ⅱ.トピックス

在外駐在員シリ−ズ 1

マレ−シアの科学技術政策について(その2)
マレ−シア科学技術環境省顧問 松崎忠男

 前号においては、「1.体制」及び「2.現状」について述べた。本稿においては、将来計画及び問題点等についてふれることとする。

3.将来計画
 マレーシアの国家政策は5年あるいは10年の複数の長期計画が互いに重なり合っているが、科学技術政策に関して直接的な拠り所となっているのは一昨年取りまとめられた「第7次五ケ年計画(1996-2000)」である。実用化指向の研究の推進、高い経済効果をもたらす技術分野(情報通信、マイクロエレクトロニクス、バイオテクノロジー、先端生産技術、新素材、環境・エネルギー)の推進など第6次5カ年計画の流れをくむとともに、世界レベルの大競争時代の中で技術競争力を強化していくために技術導入からオリジナルな技術開発への転換、より高度で複雑な技術開発の必要性を従来よりも強調しており、同計画の5年間に研究開発に直接充当する予算として10億リンギ(約300億円)、施設整備費等を含めた全体として約30億リンギ(約900億円)と、第6次計画に比べ3倍近い予算を予定している。ただ、昨年来の経済混乱に伴う緊縮財政により、今後本計画どおり実行するのは極めて困難な状況。

4.問題点
 以上、マレーシアの科学技術政策の現状を簡単に紹介したが、問題点について少し具体的に触れてみたい。

(乏しい人材)
 まず研究者数が約4,200人と非常に少なく、しかもその大半は農業分野であり、政府が如何にハイテク技術の振興を掲げてもその担い手が不十分なことにはなかなか実効が上がらない。量を増やすことが先決で、そのためにも教育の充実強化が肝要であるが、大学進学率は徐々に増えつつあるものの96年時点で3.7%に過ぎず、しかも自然科学専攻の大学生の比率は減少傾向にある。海外在住の研究者マレーシア人(中国系が多い)の帰国を促すため高給を保証する施策も講じられているが、研究環境に魅力が乏しく、ブミプトラ政策※のためもあってか、あまり効果はあがっていない。

(技術開発に対する姿勢)
 研究者や技能労働者の研究、技術開発への取り組みについては、積極性がなく上からの指示を待つ受け身の姿勢が目立ち(人種間の緊張関係、宗教等の要因が絡み、マレーシア人全体に言えることであるが)、また処遇の関係もあってかマネジメント指向が強い。企業経営者については、時間をかけて自ら技術を開発しようとする姿勢は弱く、無ければ買えばいいとする安易な考えの持ち主が多い。さらに若者は3Kを嫌い、生産現場はバングラデシュやインドネシアからの出稼ぎに少なからず頼っている状況である。

(実情にマッチしない技術開発政策)
 マレーシアの経済発展の原動力となってきたのは車や家電製品の組立産業が中心であるが、 supporting industryが未だ十分には育っておらず部品の現地調達率も十分ではない。にもかかわらず先端技術に一挙に挑戦しようとするような野心的な構想がまま見受けられるが、現実とのギャップが大きい。
 また、政府の技術政策は基本的に税制のインセンティブとIRPAその他の補助金の重点技術分野への投入によるものであるが、最近できた各種の制度も応募が少なくて予算を消化出来ないといった状況である。政府が積極的に民間をインボルブしていくべきだと思うが、政策スキームを作ってそれに応募するのを待つといった感が強い。

(技術移転)
 人材問題が大きなネックとなっているマレーシアにとっては、技術移転の円滑化は極めて重要なテーマであるが、対日本でみると、マレーシア側のジョブホッピング、基礎学力(数学)不足、積極性の欠如など、日本側の英語(マレー語)力不足、マニュアル文化の欠如など双方それぞれ言い分があり、なかなか溝は埋まらない。欧米諸国にとっては、言葉やマニュアルといった問題は少ないが、積極性の欠如、基礎学力不足を指摘する声が多い。

 これらの問題の多くは、文化、宗教あるいはマレー人優先政策であるブミプトラ政策※など社会制度に根差すものであり、一朝一夕に解決できそうな問題ではない。しかしそういった中にあっても、2年前から可能となった私立大学の設立により大学教育が量的に強化されはじめていることなどに明るい材料があるといえよう。

※ ブミプトラとは「土地の子」の意味で、マレー人の特権を認める民族差別政策。雇用、教育、土地所有、政府許認可等でマレー人に優先権が与えられている。現在の民族比率は、マレー系58%、中国系25%、インド系7%、その他10%。

著者紹介
まつざき ただお
東京大学工学部卒業 昭和52年4月科学技術庁入庁
平成8年12月から現職

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在外駐在員シリ−ズ 2

タイにおける科学技術の受容について(雑感)

宇宙開発事業団バンコク駐在員事務所長 塚本勝
(元第2調査研究グル−プ総括上席研究官)

科学技術政策研究所創立10周年誠におめでとうございます。
 私は1996年6月よりタイ国バンコクに赴任し、主として宇宙開発事業団のリモートセンシング衛星データを当事業団バンコク受信局にて受信・処理し東南アジアで利用してもらう国際協力の仕事に従事しています。以下に、独断と偏見も多少あるかも知れませんが、タイでの感想を記してみたいと思います。
 タイの人たちは一般的に利便性、快適性を好み、新しいものを積極的に受け入れる傾向が強いと思います。人々の性格は私の見るところ、「いい加減」で「自分勝手」ですが、一方では「楽観的」で「おおらか」「大変寛容」でもあります。また、「大雑把」ですが、逆に何事にも「バランス感覚」に富んでいると言えます。急速な国際化により世界中から人、もの、金、情報など良いものから悪いものまですべてが流れ込んできますが、この国ではそれを極めて率直にかつ積極的に受容していると思います。
 科学技術も例外ではありません。科学の方は多くの人にとって興味の対象とならず興味を持つ優秀な学生の多くは留学して英語で直接学びます。技術は積極的に受け入れます。多くは日本などからの製品の輸入という形で、また国内財閥企業や在タイ日系企業の作る製品として、多くの人が技術の成果を享受しています。製品は豊かさの象徴であり、技術はその源として尊敬されます。特にアジアの優等生である日本の製品はいたるところに溢れ、性能や品質も良いため、「日本は技術でこれだけの経済大国になったのだから我々も技術を獲得することが大事だ。技術に強くなることが大事だ。」と思っている人が多いと思います。技術の獲得は国の発展の手段であり、国家目標の1つです。このような背景から、タイの第8次経済社会開発計画(1997〜2001年)には、「技術移転」と「科学技術人材の開発」が中心テーマの1つとして掲げられています。
 ところで、宇宙技術は日本以上に途上国で役立っているのではないかと思います。気象衛星ひまわりは東南アジアでもなくてはならない存在ですし、最近は通信衛星を利用した携帯電話の普及により電話の普及率が大きく伸びてきています。衛星を使った遠隔教育や遠隔医療も、離島などの多いインドネシアやフィリピンの方が需要が高いのではないかと思います。アジアの多くの国では地図の作成・更新は航空測量が高価なためなかなか進展しなかったのですが、最近はリモートセンシング衛星の解像度が良くなってきたため、一部の地図は衛星データを使って作られるようになりました。リモートセンシング技術は環境問題や災害監視でも有用性が認められており、宇宙開発事業団としてもこの分野で今後一層アジアに貢献できるように努力しております。宇宙技術は非常に高度なので使う側も先進国ばかりと思われるかも知れませんが、技術の成果は様々なインフラの不足している途上国の方が今後より多く享受していくのかもしれません。
 タイでは受け入れるのも早いかわりに心変わりも迅速に行われれます。例えば、昨年来の経済危機に際しても、その後タイはIMFの優等生と言われるくらい迅速かつ率直にIMFプログラムに対応してきました。私などはもう少し頑固さがあってもいいのではないかと思うこともあります。タイではこれまで技術の受容も比較的スムーズに行われてきましたが、最近、技術の受け入れにあたってそのプラスとマイナスの面での葛藤が出始めてきました。原子力発電をめぐってはその安全問題とエネルギー確保の問題との兼ね合いで議論が続いています。農薬や都市部の大気・河川の汚染の問題、エビ養殖に伴うマングローブ林の減少の問題などがしばしば新聞を賑わします。日本よりも急激に情報化の波が押し寄せており困惑する人も出ています。積極的に技術を受容しつつ、また急速に社会が変貌していく中で、技術のプラス面と同時にそのマイナス面も国民レベルで知られるようになりました。
 今後タイという国がどのように技術を受容していくか、どのように科学技術とつきあっていくのだろうか、大変興味があります。私は今後もタイは持ち前の率直さとバランス感覚で、もしかしたら日本以上に上手に、科学技術とのつきあいを進めていくのではないかと思います。この点も含め、3年近く暮らし、日本の次の故郷となったこの国を今後も見守っていきたいと思っています。

著者紹介
つかもと まさる
京都大学工学部卒業 昭和55年4月科学技術庁入庁
平成8年6月から現職

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Ⅲ.最近の動き

○ 海外出張

・11/28-12/3 平澤2研総括主任研究官

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編集後記

 変革の時代における管理者のあり方についての研究会に参加した。
 そこにプレゼンテーションの科目があった。与えられたテーマで討議を行い、結果を発表しあうのである。
 管理者は、組織の中にあって、組織を的確、迅速に方向付けを行うとともにそのことを理解させ、実践にうつすものである、という認識のもとに討議がすすめられた。組織としてその実践内容を内外に示す必要があるため、管理者は組織内にあっては、構成員が協調性、マナー等を身につけ、組織内戦力としていかに地力を発揮すべきか、組織外にあっては、自らが組織の目指すものが時宜を得、いかに生産性がある事業か、といったことを外に向かって説明する必要がある。そのためにはプレゼンテーションをどう効果的に行うかを討議していたように思う。
 変革の時代にあっては、これらの要素の他に、各人の自発性・積極性が求められる。特に研究所の場合は、創造性・独創性がこれまで以上に求められるのであろう。しかし、残念ながらこれらの要素は、教育・訓練で身につくようなものではないようだ。されば、個人個人がそれぞれに見合った方法で自らを磨かなくてはならないだろう。
 さて、本年最後のニュースをお届けいたしました。ご希望にお応えした記事をお届けすることが出来たでしょうか。
 次年度も読者の方々を始め、科学技術政策研究関連各方面や、世界の声に耳を傾けて、時宜に適した政策研ニュースをお届けしたいものです。(Y)

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