No.109 NOV 1997

科学技術庁科学技術政策研究所
NATIONAL INSTITUTE OF SCIENCE
AND TECHNOLOGY POLICY



目次 [Contents]  レポート紹介 Highlight of the New Report
最近の動き Current Topics


Ⅰ.レポート紹介/Highlight of the New Report

(1)「日中の技術移転に関する調査研究」
          (調査資料・データ - 50)

情報分析課 田村泰一   

1.調査概要

 当研究所で実施している「日本の技術輸出の実態」等によれば、中国と日本の関係については、
中国は、日本からの技術輸出先国としては、件数で第3番目(平成6年度実績)の国であり、日本とも経済的に密接な関係にあること
中国は、日本の隣国であり、近年、経済成長が著しい国として世界的にも注目されていること
日本から中国への技術移転は、他国に比べ資本関係を伴ってなされること
などの特徴を有していることがわかっていた。  従って、日中貿易を考える上で、日本から中国への技術移転に関する問題は、重要な位置を占めている。
 本調査研究は、平成4年度より実施している「日本の技術輸出の実態」をベースにして、総務庁、大蔵省の統計調査と比較し、統計データから得られる構造を抽出した。中国の行政機関等とディスカッションを行うとともに、経済特区及び重要産業開発区の管理委員会と、その中にある日中合弁企業に対して聞き取り調査を行った。さらに、中国に技術移転を行っている日本企業に対して聞き取り調査を実施し、技術移転に関する問題点と対策を整理した。

2.日本の技術輸出に関する傾向

 日本の中国への技術輸出の最近の傾向を、日本の技術貿易統計から他のアジア諸国への技術輸出の動向と比較しつつ分析し、日本から中国への技術輸出の 質的な特徴を、他のアジアの国・地域との比較を含めて分析した。

(1)日本企業から中国への直接投資および技術輸出の量的推移
 日本から中国へ、1992年度以降製造業の直接投資が飛躍的に拡大しており、それに伴って技術輸出件数もアジアの主要国・地域の中で最も大きく増加している。しかしそれに対する受取額は、増加はしているものの他のアジアの国・地域と比べて伸び率が低くなっている。(図1、図2)





(2)業種別の動向
 主要業種について日本から中国への技術輸出の量的推移をみた場合、件数的には各業種とも年度ごとに大きな変化があるが、対価の受取額をみると電気機械工業のみ堅調に増加している。しかしその電気機械工業においても、他のアジアの国・地域と比べて件数の増加に対する受取額の伸びは低く、技術輸出1件あたりの受取額が低くなっている。(図3、図4)





(3)日本企業の技術移転の形態について
 日本企業の中国に対する技術移転の形態は業種によって異なり、電気機械工業では直接投資に伴う技術輸出が多数を占めているのに対し、輸送用機械工業や鉄鋼業では資本を伴わない技術提携が中心である。(図5)






3.外国企業から中国への技術移転の問題

 一般に、発展途上国にとって技術移転の正否は、各国とも産業政策の根幹にかかわっており、技術移転がスムーズに行われる振興策を打ち出していくことが政府の役割になっている。技術移転が持続的かつ効果的に行われるには、
外国企業が、技術輸出を行うインセンティブが有り、先進技術を円滑に移転させること、
導入された技術が、国内で成熟させるように促進させることが必要である。
 中国については、他のアジアの国々と異なり、外国企業に対する直接投資の回収が難しく技術移転に対する対価の支払いに関して、不十分であることも傾向として得られている。
 まず前提として中国は、共産主義の国であり、経済、経営に関する感覚が十分成熟していないということが挙げられる。経済全体の運営は、市場の個別動向を把握した運営をするのではなくマクロ経済に基づく経済運営をとっている。
 また、製造工程をとって見ても生産システムを全体として捉えず、製造設備の一部を更新すれば、品質や効率が向上すると考えている。従って、企業間の連携を含めて工程全体にかかる技術的、経営的ノウハウの重要性を理解した企業運営を行っていないなどの前提がある。主な中国の技術導入上の障害については、以下の通りである。

(1)技術移転に関する法制度上の障害
 中国では技術に対する認識が低く、装置等に付随していると見る向きが多い。この認識が、政府の規制を含め、技術移転の対価を低く押さえる原因になっている。また、合弁企業設立、法律・税制等の制度が、複雑であり、突然変更になったり、運用担当者の裁量の余地が大きく、許認可の手続について対応を困難にしている。
 この中でも、技術移転に関係ある制度で特に障害になっているものは、技術導入契約管理条例及び同条例施行細則である。この条例については、外国企業に対して、
技術目標への到達の保証
特許技術の紛争処理の義務
移転技術の第三国輸出制限の禁止
契約期間後の技術ライセンスの所有権の自動消滅
などが明文化されており、外国企業が先進技術の移転に躊躇する結果となっている。

(2)社会的インフラストラクチャーの周辺製造産業の未成熟
 製造工程全体をシステムとして運営していないため、様々な産業基盤が未発達である。その第一は、社会インフラストラクチャーであるが、製造物や原材料を輸送する手段である鉄道、道路が整備されておらず、遠隔地との取り引きが困難になること。電気、ガス、水道などの整備が需要に追いつかず、稼働した工場が予定した生産量を上げることが出来ないこともあるようだ。
 さらに、企業間連携が体系的に行われていないため、部品等を供給する周辺製造産業の成熟度がアンバランスであり、外国企業が部品の現地調達を行おうとする場合、国内製造品と同等の品質を保証するのが難しく、キーテクノロジーについては、部品工場も併せて持ってくるか、コストが上昇しても輸入部品を使うかのいずれかを選択しなければならない。従って、移転された技術が、現地に根付いていくことを妨げる結果となっている。

(3)組織的生産システム構築のための人材不足
 中国全体が、前提に述べた社会体制にあるため、政府も含めて各企業間で連携し、生産システムを構築するためのネットワークの整合性を欠き、人材の層が薄いため、製造工程の各要素に能力の揃った人材を揃えろことが難しく外国企業が自国と同じスペックの生産システムを構築することを困難にしている。

4.中国への効果的な技術移転の対策

 上記を踏まえ、どのようにすれば効果的な技術移転が出来るのか、双方の立場からその対策を整理すると以下のようになる。

(1)技術導入に関連する諸制度の見直し
技術ロイヤリティーに対する適切な評価と十分な支払い。
外国企業の直接投資に関係している、税制、許認可手続の見直し。
移転した技術に関する外国企業の義務や権利を国際慣習並みにするため、技術導入契約管理条例と同条例施行細則の見直し。

(2)技術普及政策の推進
基礎研究成果の産業化と外国企業から導入した技術を共有し、展開するためのシステムの構築。
技術の産業化のための政府振興策(補助金等)の創設。

(3)マーケティング概念の定着
各企業が、市場原理に基づいた活動が出来る体制の整備とマーケティングの概念の定着。

(4)工業標準化の推進
工業標準を制定し、地域間、産業間での導入された技術の流通を促進。

(5)社会インフラストラクチャーの整備
原材料や製造物の輸送に必要な鉄道うや道路、生産に必要な電気、ガス、水道などの社会インフラストラクチャーの整備。

(6)周辺製造産業の整備
導入した技術に見合うように周辺製造産業の能力を強化し、部品の品質向上に努める。

(7)日本側と中国側の認識の相異
 中国が、日本企業とより深いパートナーシップを築くのであれば、
日本企業は、中国との技術貿易の実態について熟知しており、経験の短い欧米系企業に比べると慎重に対応している。
日本企業は、欧米系企業に比べて技術輸出についての経験があ まりなく、技術ライセンスも、欧米系企業がオリジナルライセンスを所有している場合が多い。
中国への移転した技術に対しては、市場限定することが出来ない。
上記事項に配慮していくことが望ましい。
 一方、日本企業側の注意すべき点としては、
技術移転や直接投資などの契約交渉等の場で、はっきりと主張すべきことは、主張し、後に問題を残さないようにするなどタフな交渉力を身につけること。
中国に直接投資の形で進出する場合は、現地の法律・制度、投資環境等について、事前調査を、十分に行った上で、投資すること。
欧米系企業のように戦略的かつ長期的な視野に立って投資できるだけの情報収集力と判断力を身につけること。
などである。



(2)「東アジア諸国のエネルギー消費と大気汚染対策」
             −概況と事例研究−
            (調査資料・データ - 51)

第4調査研究グループ 江幡禎則  

1.はじめに

 アジア地域には、世界人口の6割が住み、その経済活動は世界のGDP合計の24%程度を占めている。とりわけ、我が国とその近隣諸国・地域の中国、インドネシア、韓国、台湾、タイ、フィリピン、マレーシアの8ケ国地域(以下東アジア諸国という)についてみると、人口ではアジア地域の半分、経済活動では、約9割がこの地域に集中している。
 東アジア諸国は、世界の陸地面積の約1割にすぎないが、人口で3割、経済活動では2割強が集中していることになる。これらの人口増と経済活動の活発化に伴い、エネルギー消費は急増し、硫黄酸化物、窒素酸化物、二酸化炭素などの排出の増加が顕著で、局地汚染に加えて地球環境に大きな影響を与え始めている。
 我が国は世界で最高レベルの公害防止技術と省エネ技術(高効率技術)を持っていることから、東アジア諸国の汚染防止に貢献すべき役割は大きい。この様な状況の中で、我が国はこれまでも技術移転や援助等を通じて、東アジア諸国の大気汚染防止対策等に協力して来たところであるが、これまでの事例を見ると、経済性の問題、技術上の問題から援助が相手国で十分に活用されなかった場合が見られる。
 発展途上国では経済の振興が、環境対策よりも優先される場合が多いことは否めないところであるが、いくつかの国では、我が国で公害対策が本格化された1960年代の経済力に達していることから、本腰を入れて煤塵や硫黄酸化物などの環境対策に取り組み始めている。一方、経済力がまだ十分でない国では、それらの環境技術も先進国の高度、高価なものでなく、それぞれの国状に適したものが求められる。発展途上国は一般に発電や各種生産の効率が低く、省エネ技術(効率向上技術)は、経済効果に加えて環境対策効果も大きく、その普及・援助は極めて効果的であろう。
 発展途上国では身近な公害問題には敏感であるが、地球規模の環境問題には一般に関心が低い。しかし温暖化については今後の途上国での二酸化炭素などの温室効果ガスの排出増加が鍵となっている。まず当面の煤塵や硫黄酸化物などの対策や効率向上などを着実に進め、目に見える成果を上げて行けば、生活レベルの向上とも合わせて、広い環境対策への関心を深めるようになるであろう。
 本調査研究は、これらの観点から以下に示す内容について、当研究所内に設置した「地球環境保全技術の進歩に関する調査研究会」(委員長:安藤淳平中央大学名誉教授)の議論を背景としてとりまとめたものである。

 第1章では、躍進する東アジア諸国の人口、経済成長、エネルギー消費の動向や特徴、諸国の大気汚染の現状と脱硫装置の導入状況、並びにエネルギー消費見通しなどについて
 第2章では、中国での一次エネルギー消費量の約8割をしめ、大巾な増大が予想されている石炭に係わる大気汚染対策、特に酸性雨の要因の一つである硫黄酸化物対策に着目し、中国における大気汚染の現状やモデル的に導入が始まっている湿式石灰石膏法、スプレードライヤーなどの半乾式法、及び流動床など事例や問題点について
 第3章では、先進国にくらべて発電効率が低い中国、フィリピン、インドネシアの既設火力発電所の運転状況と改善のための改修の事例や問題点について
 第4章では、途上国での大気汚染の実体や効果的と思われる環境対策等についてのまとめや効率向上によるエネルギー節約と環境の改善、途上国で環境対策の成果を挙げるための要件、東アジアのCO2排出特性、火力発電の効率向上・排煙処理・二酸化炭素の相互関係、メタン、一酸化二窒素、地表オゾンなどの温暖化ガスの東アジアでの排出特性と抑制などの考察についてとりまとめを行った。以下、レポートの主な調査結果の概要について紹介する。

2.内 容

1)エネルギー消費と大気汚染対策の動向
 アジア地域は、その人口増と経済発展によりエネルギー消費が著しく、1993年現在世界の一次エネルギー消費量の約24%を占めるに至っている。今後もエネルギー消費は高い伸びが予想されており、例えば中国では、その消費量は2000年には1991年の約1.4倍、2010年には約2.1倍と予想されている (表1)。消費量の増大もさることながら、石炭等の固体燃料がエネルギー消費で大きな位置を占め続けることから、それに係わる対策技術の重要性が高い。
 東アジア諸国では工業の急速な発展や自動車の著しい増加により、大都市部や工場周辺で煤煙や硫黄酸化物による被害がではじめ、中国などの都市では煤煙や硫黄酸化の観測値がWHOの基準をかなり上回る状況にある(表2)。この為、硫黄酸化物の対策として台湾では排煙脱硫、韓国では燃料の低硫黄化が進み、中国やタイでも一部の発電所で排煙脱硫が始まっている(表3)。それ以外の諸国においても、経済の高成長が続くとみられていることから、いずれ本格的な環境対策が大切になっていくと思われ、それぞれの国状に適した環境対策が必要であろう。


表1 中国のエネルギー源別需要量と燃料構成の見通し


表2 東アジアのおもな都市の大気汚染の状況


表3 各国脱硫黄設備等の導入状況

2)中国の大気汚染防止設備と技術
 中国の主要燃料は石炭で、年間のSO2排出は約2000万t(表4)あって米国の排出に近づき我が国の十数倍もある。大気汚染の最も著しい場所は西南部の重慶地区で、高硫黄炭を大量に用いるためSO2や煤塵による汚れが大きく、雨も酸性化している。


表4 中国全土における大気汚染物質の排出状況


 重慶地区の新設の石炭火力発電所(四川省 ルォファン[luo-huang] 発電所)では、SO2の90%以上と煤塵を除去するため、我が国の湿式石灰石膏法の本格的設備が建設され、運転が行われている。排煙脱硫、とりわけ石灰石膏法は多くの国で装置や運転のトラブルに見舞われており、中国で順調に建設し運転していることは、中国側担当者と技術を提供し運転の指導に当たった我が国メーカーとの優れた協力と努力の成果として高く評価される。
 我が国の石炭火力発電所の大部分の排煙脱硫方式は湿式石灰石膏法で、高い脱硫率が得られるが設備費が高価である上に水の消費量も多い。中国政府は全ての新設の火力発電所には脱硫設備をつける目標をたてており、西南部以外の大部分の地域では石炭の硫黄分が低いので、比較的脱硫率は低く設備費も少ない半乾式石灰法(スプレードライヤー法など)の採用を考えている。
 スプレードライヤーのわが国の技術による試験設備(山東省 黄島発電所)が運転中で、石炭の質やボイラーの運転条件の変動に対応して良好な運転をするための努力が行われ、中国も自分自身の技術の確立する努力をしている。
 石炭の流動床も、比較的安価な脱硫法として我が国の技術や中国独自の技術で試験を行っており、低品位炭を比較的簡単に燃やして60-80%程度の脱硫をするには好都合なので、広く採用される可能性がある。
 中国では家庭や中小の工場で塊状の石炭を多く使用するため汚染が大きいので、これに変わるものとしてバイオブリケット(石炭と植物の粉に石灰を加えて造粒したもの)の使用は煤塵とSO2を減らす方法として有望と思われる。
 現在種々の方法が試みられているが、中国では石炭の質や汚染の状況が地域によってさまざまなので、対策としてはそれぞれの状況に応じて採用され進展するものと考えられる。なお、多量に発生する石炭の灰と石灰を含む副生品の利用や処理は、大きな課題の一つとなってくると思われる。

3)火力発電所の効率上の問題
 発展途上国は熱効率や生産効率が低いので、効率を上げて燃料や資源の消費を減らすことは環境対策としても効果的である。中国で酸性雨の降る地域及び汚染の大きい主要地域の新設の石炭火力発電所に全部脱硫設備をつけた場合、年間のSO2の低減量を118万トンとすることについても、費用面から実施は簡単ではないが、これは中国の年間のSO2排出量の6%に相当するので燃料の利用効率を6%(相対値)以上高めればこの脱硫よりも大きなSO2低減が得られることになり、経済性の向上も期待される。
 アジアの発展途上国では火力発電の効率は30%(総発熱量送電端ベース)程度から次第に向上しているところが多いが、低下を示している国もある。低下は新設の発電設備が乏しく、古い設備の老朽化が進んでいるためである。本報告では火力発電所の効率向上について調査を行い大要つぎのようなことがわかった。
 中国遼寧省錦州の200MWの石炭火力発電設備は中国製の標準設備で、1983年に運転を開始し、さまざまな事故を克服して運転を続けている。年間の利用率は目標の68.5%に達せず、熱効率は31.5%(我が国では同程度の設備で利用率86%、熱効率36%程度である)。熱効率低下の大きな原因は、空気予熱機と復水器の内部の汚れによる熱伝導の低下で、これらの十分な掃除で汚れがつきにくくなる。
 フィリピンのマニラ南東70kmにあるマラヤ発電所の重油火力の1号機300MW、2号機350MWの場合は故障が多く、年間の起動停止は10-30回に及び、利用率は1号機69%、2号機77%程度であった。前者は1987年に後者は1986年にリハビリテイションが行われ、利用率はそれぞれ80%と85%程度に熱効率は34%程度に改善された。しかしその後の運転で熱効率は再び低下し、1993年にはともに30%を割った(図1)。リハビリテイションを再度行う場合の費用は、1号機約1億ドル(米ドル)で費用回収は約7年後、2号機ではこれより短期間で回収できることになる。しかし従来の運転状況では設備が速やかに劣化してしまうので、保守、管理、運転の改善が必要で、技術だけでなく、良く運営しようという関係者一同の意欲が大切であって、このための措置が必要である。


図1 発電所設備の利用率と発電効率の変化

(図中の数字は年間の起動停止の回数)
出典)フィリピン・マラヤ発電所信頼度向上計画事前調査報告書(1994国際協力事業団)


4)まとめ(発展途上国での効果的な環境対策)
排煙脱硫は、多くの費用や資材を要するだけでなく装置の腐食や運転のトラブルも起こしやすく、順調な運転には、技術や経験を要し、途上国での普及には、なお、多くの時間を要する。このため安価な運転容易な技術の開発と運転要員などの人材の育成が必要である。
高濃度のSO2(1500ppm程度以上)を多量に排出する場合は、湿式脱硫が適当だがSO2濃度が1000ppm程度以下では乾式 、半乾式などの簡易脱硫方式でも効果的である。しかし、既存の方式ではかなりコストがかかり、ガスの量や組成の変動による運転上のトラブルを生じやすく、さらに、石灰石や石灰を多量に使用し再利用が難しいことなどから、さらによい脱硫法の確立が望まれる。
流動床も、大規模、長期間の使用によっては石灰石を多量に使用するので、廃棄物の問題以外にCO2の多量発生及び低温燃焼によって発生するN2O(一酸化二窒素)が温室効果の大きいガスで、その影響が問題になるであろう。
汚染物の濃度や周囲の状況にもよるが、工場の煙突が低い場合、当面の策として、煙突を高くすることも有効である。また、中小規模の工場では、特に高濃度のSOxを排出する場合を除いては、排煙脱硫は適当ではなく、低硫黄燃料、バイオブリケットなどの使用が適当である。
効率が低い途上国の効率向上は経済的効果ばかりでなく、CO2の排出や他の大気汚染物質の排出抑制に効果的である。
途上国の火力発電所などでは、低下した利用率や熱効率を回復させるため改修する例が見られるが、改修しても運転が不適切で短期間に熱効率を下げてしまう場合があり、設備や技術以外に関係者の意欲が大切であり、意欲を向上させるために担当者の先進国での研修や報奨制度の導入等の工夫も大切と考えられる。


Ⅲ.最近の動き/Current Topics

○ 講演会等/Lectures at NISTEP


○ 主要来訪者一覧/Foreign Visitors to NISTEP


○ 海外出張


○ 海外出張報告

「APEC科学技術産業都市ネットワーク」会議に出席して

第3調査研究グループ 権田金冶

 「APEC科学技術産業都市ネットワーク」構想は1996年11月25日のSPEC 経済閣僚会議の非公式会談にて中国側から提案されたものである。会議は大きく分けて三部構成となっており、第一部はリサーチパークに関する事例報告、第二部はAPEC加盟各国政府代表によるラウンドテーブル会議、第三部は現地視察であった。日本からの出席者は科学技術庁から3名(内1名は現地からの参加)、通産省から2名、外務省から1名(現地大使館員)、民間から4名の合計10名。会議は全体として極めて盛況で、SPEC加盟18国および地域から100名以上の参加があった。
 開会に先立ち、中国側から江沢民総書記からの祝辞が代読され、基調講演は中国国家科学技術委員会の副委員長のXu Guanhua 氏が行なった。第一部の事例報告では主としてSPEC加盟各国からのリサーチパークに関する現状報告が行なわれ、総報告数は追加報告を加えると全部で21件(内日本からは4件)であったが、同時に会場外でも参加各機関からの資料配布やブースによる展示などが活発に行なわれた。
 第二部は各国政府代表によるラウンドテーブル会議であったが、会議の運営は本構想の提案国である、中国主導で進められた感が強い。議事は、中国のSSTCからの代表が議長になり、APECの事務局から2名が参加した上で、18の国・地域からの代表によって進められた。会議では、まず事務局より今回の準備会議の「結論とりまとめ」案が提案され、会議内容についての修正・追加が加えられた。なお、「結論とりまとめ」には第二回会議を1998年10月22−23日にオーストラリアで開催し、引き続き1999年に第三回会議をフィリピンで、更に2000年に第四回会議を米国で開催する予定であることを明記した。引き続き、中国側から提案されたSTIPネットワークの「コンセプト・ペーパー」の原案について集中討論が加えられた。議論の結果一部修正が加えられ最終合意された。内容については、当方はいささか不満であったが、IST ワーキングで修正可能とのことであったので、これ以上の修正は要求しなかった。
 全体としての印象は、前回(95年)もそうであったが、ことリサーチパークに関する本会議では全体的に中国のリーダーシップが一層強くなってきた印象を強く受けた。と言うより、日本では外国に比べ、何故かリサーチパークやインキュベータについての関心が官民共にあまり強くないため、従って国のみならず地方公共団体に於いてもその推進に本気で取り組んでいる所が少なく、地域経済開発におけるその役割が充分理解されているとは言えないのが現状である。もちろん、APEC諸国におけるISTPの地域経済開発に於ける役割についての認識も加盟国によって温度差があるが、どちらかと言えばアジア諸国の方がその重要性は高く評価しているが、後発であるが故に今日までその開発や運営のためのノウハウの蓄積は少なく、従って、それだけ全体として議論のレベルは低かった。
 米国、カナダ、オーストラリアからはいずれもリサーチパークの開発や運営に関する専門家(民間人)が参加し、自らが蓄積して来たノウハウを売り込みに来ているような印象が強かった。従って、リサーチパークの開発・運営の先進国であるこれら諸国に取っては、中国が提案するISTPネットワークの設立は自らのノウハウを売り込めると言う点で歓迎であろうが、日本に取っては何がメリットなのかよく見えない。一方、中国を始め東南アジア諸国に取っては、リサーチパークの開発・運営の技術が導入できると言うメリットがあり、ネットワークへの参加の意義は大きい。特に、中国を始めとするAPEC加盟のアジア諸国に取って、ISTPネットワークの構築は大きな目的の一つであるが、この点に関しても我が国のメリットは少ない。本来、このようなネットワークの構築は民間ベースで進められるべき性格のものであると思われる。実際、このようなネットワークはすでに非営利の団体により世界にいろいろな形で構築されており、政府が関与したものはない。