No.108 OCT 1997

科学技術庁科学技術政策研究所
NATIONAL INSTITUTE OF SCIENCE
AND TECHNOLOGY POLICY



目次 [Contents]  レポート紹介 Highlight of the New Report
研究会 Research Meeting
最近の動き Current Topics


Ⅰ.レポート紹介/Highlight of the New Report

(1)「地域科学技術指標策定に関する調査」の結果について
   ─地域技術革新のための科学技術資源計測の試み―
          (NISTEP REPORT No.51)

第3調査研究グループ   


1.調査目的

 近年、経済活動のグローバリゼーションの伸展のもと、地域産業の空洞化に対応する施策の展開が緊急の課題となっており、このための有効な施策の一つとして地域における科学技術活動及びその成果を活用したリージョナル・イノベーションの重要性が広く認識されているところである。しかしながら、地域における科学技術資源については空間的集積が地域により極端に異なっているとの現状認識はあるものの、その定量的把握は十分になされているとは言い難く、あるいは、把握すべき事項の理論的解明も十分ではない。
 このため、地域科学技術資源を定量的に把握する「地域科学技術指標」に関し、その策定に向けた基本的調査を実施するものである。

2.調査方法

 本調査は、科学技術政策研究所と、科学技術庁から委託を受けた(財)未来工学研究所とが協力をして実施した調査である。
 具体的には、科学技術政策研究所において、既存の調査研究成果を参考にしながら、地域科学技術指標の考え方、構成等に関して基礎的検討を行い、検討結果に基づき収集すべきデータの範囲、指標のフレームの選定等調査全体の方向性の決定を行った。なお、検討は、同研究所に設置した学識経験者等からなる「地域科学技術指標研究会」(座長:権田金治科学技術政策研究所客員総括研究官・東海大学教授)における討議を踏まえつつ行った。
 次に、この結果を踏まえ、(財)未来工学研究所において関連データを収集し、データベースの構築及び地域科学技術指標策定を試みた。また、得られたデータを用いて、科学技術資源の集積状況の分析、クラスター分析による自治体のグルーピング及びその特性の抽出を試みた。なお、作業に当たっては、個別詳細事項について有識者から意見を聴するために、「地域科学技術指標研究会分科会」を開催した。
 また、科学技術政策研究所において、本調査活動を通じて得られた今後の課題及び提言についてとりまとめを行った。

3.調査結果(概要)

(1)地域科学技術指標に関する基礎的検討
 既存の調査研究資料及び「地域科学技術指標研究会」での議論を踏まえつつ、地域科学技術指標に関し基礎的検討を行った結果、指標の構成等調査全体の方向性は次のとおりとされた。

基本的調査段階であること等から、指標は、全体の活動状況をバランスよく、数量的に表す「現状報告型」の体系を念頭に検討する。
科学技術活動は、個々の科学技術が多様な目的を達成することを特徴としているが、調査目的を踏まえ、本調査では、「知的資産や科学技術力の蓄積により新たな技術革新を促進し、地域の活性化の原動力となる」こと及び「地域の様々な要請にきめ細かく応え、住民の生活の質を向上させる」ことを地域科学技術の目標とする。
「地域」の概念については、市町村程度から国境を越えるものまで多様なものがあるが、本調査では、都道府県を単位とする。
研究開発活動は、幅広くかつ重層的な科学技術支援基盤の上で遂行されており、また、成果も、論文・特許のような直接的なものから生産活動を通じて社会に影響を与え人々の意識に影響を与えるなど間接的なものまである。さらに、研究者の暮らしの場としての地域を考えると、「科学技術風土と創造性」の関係も念頭におくべきである。したがって、地域科学技術指標においても、単に研究開発活動だけを対象とするのではなく、科学技術活動に関連した活動を含め全般的に把握できるように努める。
以上の検討を踏まえ、地域科学技術指標では、地域科学技術について、研究者の暮らしの場であり、研究開発活動を広い意味で支える「社会的基盤」・研究開発人材の育成や研究開発支援活動など研究開発活動を間接的に支える「科学技術基盤」・研究開発投入資源や研究開発体制など研究開発活動を直接支える「研究開発基盤」・論文、特許等の直接的効果や産業経済への波及等間接的効果の「研究開発成果」の4つのカテゴリー(基盤)に分ける体系を採用する。また、地域科学技術活動の成果は、知識・文化、製品・サービスとして地域の生活者に影響を与え、また、地域の生活者は、外部資源として地域科学技術活動に影響を及ぼす。(図1)

 また、検討において、地域科学技術資源の特徴として「集積性が高い」ことに着目した。この集積性については、研究開発成果のうち、論文・データベース等の文章化された知については拡散性が高く、集積をおこす原因とはなり得ず、ノウハウや研究の背景となる考え方等の「明示化されない知」の持つ集積性によるものと考えられた。また、このような科学技術資源の集積性から、ある地域における特定の科学技術資源は、平均に対する多少(相対優位)ではなくall or nothing(絶対優位)で判断することが必要であろう。これらから、地域科学技術指標の目標として、

地域における明示化されない知の集積状況を示すものであること
ある地域において目指す絶対優位分野を決断するに当たって、求められる地域に関する情報を示せること

が摘出された。これについては、引き続き調査検討がなされるべきである。


(2)地域科学技術指標策定の試み
 基礎的検討の結果を踏まえ、既存の各種統計及び調査資料をもとに地域科学技術指標策定を試みた。また、あわせて、背景となる各地域の概要データについても参考としてとりまとめた。なお、データは入手可能な最新年度のものを使用した。また、データについては、基本的調査段階であることを踏まえ、既存データの採集にとどめ、新たなデータ採集のためのアンケート等の実施は行っていない。

データ構築に当たっては、4つのカテゴリーをさらに性格別に細分類した上で行った。細分類を考えるに当たっては、リージョナル・イノベーションを生み出す地域における体制(リージョナル・システム・オブ・イノベーション:RSI)を念頭に行うべきであるが、RSIに関する適当な研究成果が得られなかったため、本調査では、定性的・経験的に下記項目を抽出した。

社会基盤  :「住環境・文化」・・・研究者の暮らし
       「経済」    ・・・地域の活力
       「社会的風土」 ・・・県民性など(適当なデータが収集できず)
科学技術基盤:「社会」    ・・・科学技術への興味涵養、知的刺激の惹起
       「教育」    ・・・科学技術を担う人材育成
       「研究開発支援」・・・研究開発活動の支援
研究開発基盤:「研究開発資源」・・・研究開発活動に関するヒト・モノ・カネ
       「研究開発機関」・・・研究開発活動を実施する場所
       「研究開発活動」・・・研究開発の活動状況
研究開発成果:「直接的成果」 ・・・知的資産の産出
       「間接的成果」 ・・・社会経済への波及

なお、活動の背景となる各地域の概要も併せて簡単にとりまとめた。

細分類をもとに、既存の統計類及び調査資料を幅広く検索し、得られた41のデータをもとに地域科学技術指標の構築を試みた(表1)。ただし、社会環境や民間研究開発費等の重要なデータが入手できず地域科学技術活動を十分にはあらわしていないことに留意が必要である。
また、各地域の人口や経済力に由来する差を除くためのデータの規格化及び各地域のおおよその相対的な位置を示す4分位についても指標に併記した(表1)。

表1 上位10地域の累積の程度



(3)試行的な地域科学技術指標を用いた分析

科学技術資源等の地域的偏在についての検討
 各収集データ(原データ及び規格化値)について、その47都道府県の合計値と各都道府県の値の比率(以下「比率」という。)を求め、これを基に科学技術資源等の地域的偏在状況について検討を行った。
 i)上位10地域における累積
 各データについて、比率の高い上位10地域の比率の合計を求めた。比較的偏在が大きく合計値が60を超える項目は、社会基盤では、10項目中1項目(実数)・12項目中0項目(規格化)であったのに対し、科学技術基盤・研究開発基盤では、22項目中12項目(実数)・24項目中3項目(規格化)と、一般的な社会的項目に比して、研究開発活動に近い項目において偏在が強いことが裏付けられた。
 ii)累積図による検討(人材、機関)
 各収集データ(原データ及び規格化値)について、比率の高い地域から順に並べ累積図を作成した。 この中から、人材及び機関に関する累積図を、一般的項目(人口、事業所数)、研究開発関係項目(科学者数、民間研究機関数)、科学技術支援関係項目(弁理士数、研究開発支援検査分析事業所数)により比較したところ、人材、機関いずれについても、研究開発関係には大きな偏在が認められ、さらに、科学技術支援関係では極めて極端な偏在があることが判明した。(図2)


図2 地域的偏在についての事例(人材)

人口(実数)                           人口(規格)

科学研究者数(実数)                     科学研究者数(規格)

弁理士数(実数)                        弁理士数(規格)



地域の類型化及びその特性に関する検討
 得られた、41データをもとに「住環境・文化」・「経済」・「社会」・「教育」・「研究開発支援」・「研究開発資源(人)」・「研究開発資源(物)」・「研究開発機関」・「研究開発活動」・「研究開発成果」の10項目について指数を作成し、クラスター分析により各都道府県を類型化し、各類型毎の特性の摘出を行った。
 分析の結果、地域は、5つのグループ(クラスター)(①東京、②神奈川、茨城、③宮城、④京都、大阪、愛知、⑤残りの40道県)に類型化された。各類型の特性等を表2に示し、かつクラスター別の"指数によるレーダーチャート"を図3に示す。

表2 都道府県の類型化とその特性

都道府県

特性

今後の方向性

第1クラスター:

東京

・社会(住環境・文化)以外、全ての指数は平均を大きく上回っている。特に研究開発機関は100以上、科学技術基盤(研究開発支援)及び科学技術基盤(教育)が70を超えている。

・研究開発機関とそれを支援するサービス関係の集積及び大学の集積が大きい。

・東京への一極集中の傾向を示している。

・研究開発機能に関して強固な基盤を持っている。これは民間企業の投資が現在の基盤を形成したものである。

・社会基盤が十分でないと判断されるため、研究開発の強固な基盤に立脚し、生活者ニーズの向上に努める必要がある。

第2クラスター:

神奈川

茨城

・科学技術基盤(研究開発支援)、研究開発基盤(人材)、研究開発基盤(設備)、研究開発機関、研究開発活動、成果について平均を上回っており、特に、人材について、茨城で90以上、神奈川で70以上と高い値を示している。

・原データから前者は国立研究機関に、後者は民間研究機関によるものと考えられる。

・神奈川は民間研究機関・研究者を活用して特徴ある地域の研究開発活動につなげていくことが重要である。

・茨城は国立研究機関と民間研究機関・研究者との間の交流等を深め特色ある科学技術の基盤の形成を図ることが重要である。

第3クラスター:

宮城

・研究開発活動の値が79と他の指数に比べて際だって高い。

・原データから、公募型研究採択数の寄与が大きく、これには東北大学の教官が目立つ。

・大学と地域産業を結びつけ、シーズを産業へ応用する仕組みの強化や大学のCOE化の支援について検討することが重要である。

第4クラスター:

京都

大阪

愛知

・社会環境(住環境・文化)の指数が低い以外は比較的バランスよく構成されている。

・3府県の間でも、大学が集積し科学技術基盤(教育)が高い(京都)、研究開発機関の集積が高い(大阪)、オールラウンド(愛知)のような差がある。

・科学技術基盤、研究開発基盤にバランスの良い構造を示しているが、特色ある地域科学技術の基盤形成の方向性を打ち出し、現在のポテンシャルを活用してさらなる飛躍を目指すことが重要である。

第5クラスター:

その他

(40道県)

・分析からは、全体としての特性は見いだせないが、構成する個別のクラスターをみると、各々特徴がみられる。

・分析からは、全体としての特性が見いだせなかったが、個々の地域毎の特徴がみられる。これを検討し、地域としての特色ある科学技術・社会の振興を図ることが重要である。




図3 クラスター別の”指数によるレーダーチャート”



(4)今後の課題及び提言
 調査研究を通じ、次の6つの事項が今後の課題及び提言として摘出された。
地域の特性を踏まえた科学技術振興施策
 科学技術資源の集積は地域により極端に異なり、また、その集積内容をみると、産主導型、学主導型、官主導型、バランス型と各々特性が認められる。
 このように資源の集積状況や内容が異なる地域に振興施策を講じるに当たっては、均一の施策は地域間格差拡大につながる可能性もあり、国は、画一化された施策ではなく,地域の性格の差に柔軟に対応できる施策を行うべきであり、また、各地域においても、横並びではなく、当該地域の特性を踏まえた施策展開を図るべきである。
「比較優位」から「絶対優位」へ
 科学技術は極めて強い集積性を有しており、各地域毎の相対的優位に比例して分布するものではなく、一つまたは少数の地域に集中分布するものである。このため、地域科学技術政策の策定に当たっては、「比較優位」ではなく「絶対優位」を目指すものでなければならない。また、各地域がどのような分野において絶対優位を目指していくか等地域科学技術振興施策を検討するに当たっては横並び施策ではなく、戦略的に個々の地域が決断していくことが必要である。また、地域科学技術指標においても、各地域の目指す「絶対優位」の検討に資するデータを集めていくことが課題である。
リージョナル・システム・オブ・イノベーションの解明
 地域における技術革新(リージョナル・イノベーション)を生み出す体制については、域内経済開発の手段として重要性が認識されているが、これまでほとんど研究がなされていない。このため、今後、リージョナル・イノベーションを生み出す地域における体制(Regional System of Innovation:RSI)の解明に向けた研究がなされていくことが期待される。
地域科学技術資源の集積性と「明示化されない知」
 科学技術資源は「明示化されない知」に由来する強い集積性を持つ。地域科学技術振興施策において科学技術に関する「明示化されない知」の集積及びその産業への展開が重要である。また、地域科学技術指標においては、「明示化されない知」の集積の指標化が課題である。
科学技術と風土
 地域科学技術の振興において、地域の科学技術風土(創造性に関わる風土・文化)が重要である。具体的には、ヒト・モノ・カネという研究開発資源の集積を図るのみならず"animal spirit"にあふれた地域社会の構築を図ることが必要である。
 地域科学技術指標においても、社会に関する諸要素のうち研究開発活動に与える影響について調査研究を行い、研究開発に与える影響の大きい要素を特定する等、地域科学技術に関する社会的基盤をより明らかに示していくことが課題である。
中小企業を念頭においた地域科学技術
 大企業においては、その研究開発成果は企業内で地域を越えて容易に移動され利用される。地域における大企業の研究開発成果をいかに地域に定着させるかは重要な課題ではあるものの、一般に、地方自治体の地域科学技術振興施策を検討する際には中小企業を念頭におくのが適切な場合が多い。更に、パブリック・セクターは民間が実施し難い分野を実施すべきことから、地方自治体が進めていくことが望ましい研究開発分野は「中小企業の行っている研究開発分野の川上(基礎研究等)」と考えられる。
 また、国においては基礎的な大規模研究開発を進めていくべきであるが、これに伴って生じた中小技術を地方自治体や中小企業に移転(スピンオフ)し、また地方自治体が開発した研究開発であっても、その進展により大規模研究開発とすることがふさわしくなったものについては、国への移管(ナショナル・プロジェクト化)を進めることが重要である。
下図は、研究開発活動のターゲットを模式化したものである。


4.結論

 地域科学技術指標に関する基礎的検討をもとに、既存の統計類から地域科学技術指標の策定を試み、41のデータからなる指標を作成した。
 さらにデータをもとに、科学技術資源の集積状況、都道府県の類型化及び特性の検討を実施し、科学技術資源が偏在する傾向を持っていることを図表により確認するとともに、また、都道府県を5つのグループに分け、その特性等について検討をした。
 最後に、本調査を通じて得られた今後の課題及び提言として、①地域統制を踏まえた科学技術振興施策、②リージョナル・システム・オブ・イノベーションの解明、③地域科学技術資源の集積性と明示化されない知、④「比較優位」から「絶対優位」へ、⑤科学技術と環境、⑥中小企業を念頭においた地域科学技術の5項目が摘出された。






(2)「韓・日両国の技術格差に関する考察」
   ―特別研究員:柳寅哲氏による報告(抄)―

第2研究グループ   

 1997年3月から9月まで、韓国科学技術処行政官の柳寅哲氏が第2研究グループに特別研究員として所属した。氏の提出した原稿の抄禄を以下に紹介する。
 本レポートは日本と韓国の技術格差の原因について、技術文化的な側面および産業発達過程の2つの側面から論じている。まず技術文化の側面では、韓国において上層階級による肉体労働の蔑視の傾向があるのに対し、日本においてはこの傾向が少ないことをあげている。その例として、大卒新入社員の多くがいち早く生産現場に配置される例をあげている。そのほかには、日韓間の論理的思考のありかたの違い、美意識の違いなどが文化的側面の違いとして例示されている。技術文化の側面以外では、地理的要因、産業化プロセスといった面から比較が論じられている。
 いずれも主張を支持するデータの多くを収集した上での議論ではないが、日韓の比較を試みる上でポイントとなるであろう、非常に興味深い論点が列挙されている。







Ⅱ. 研究会/Research Meeting

研究・技術計画学会第12回年次学術大会報告

 標記大会が、9月26日(金)、27日(土)の両日にわたり、筑波大学大学会館を会場にして開催された。科学技術基本計画の閣議決定後1年が経過し、また、同計画を「先取り」して整備された筑波地区での開催とあり、同計画で謳われている目標を今一度点検してみる良い機会でもあったため、パネル討論、特別講演などでそれに類したテーマが企画された。また、これらの企画だけでなく一般講演においても活発な議論が展開された。以下にその概要について報告する。

〔一般講演〕
 地域・地方・空間、技術革新、創造性開発、連携・共同研究・技術移転、研究開発マネジメント、研究開発評価・指標、科学技術政策の7テーマで、45の発表が行われた。当研究所からは、坂田和徳、田中誠徳、柿崎文彦、藤垣裕子、伊地知寛博、木場隆夫、富澤宏之、永田晃也が筆頭発表者として報告し、計9つの演題が発表された。

〔パネル討論〕
 荒磯恒久(北海道大学)、徳田昌則(東北大学)、玉井克哉(東京大学)、橋本正洋(通商産業省)、神戸芳郎(研究学園都市コミュニティケーブルサービス)、大滝義博(ジャフコ)の各氏をパネリストに迎え、「科学技術基本計画の実質化策−研究者の流動化とシニア任期制−」についてパネル討論が行われた。
 任期制導入の意義に関しては、メリットとして教育・研究の活性化、若手育成等があげられる反面、デメリットとして長期的視野に立った研究への支障等が指摘され、シニアへの適用はさらに難しいといった意見もあった。現実的な導入に向けては、全国一斉ではなく、一部機関におけるモデル的な実施が提案された。また、会場からは任期満了後の処遇についての質問等がなされた。

〔特別講演〕
 柏木寛氏(トッパン・グループ総研、慶應義塾大学)は、「産業科学技術立国と国研の役割−技術と科学、そして科学技術−」と題して、文化と伝統に支えられた科学技術の進展、科学技術の経済や政治との関わり等について講演された。
 丸山瑛一氏(技術研究組合オングストロームテクノロジ研究機構)は、「産・官・学共同研究の新しい試み」と題して講演され、基礎研究(大学)と製品開発(企業)の関わりにおけるリニアモデルと併行モデルを提示し、科学技術基本計画の実質化局面におけるリニアモデルとの決別の必要性を訴えた。また、アトムテクノロジー研究体(JRCAT)における科学技術基本計画を先取りした運営形態についての紹介がなされた。
 尾身幸次氏(経済企画庁長官)は、「科学技術創造立国と国会議員−科学技術創造立国の実現と国会議員、研究者の役割−」と題して、自ら手掛けた科学技術基本法や科学技術基本計画の制定経緯等について講演され、研究現場における競争的環境の創出とともに産・官・学の連携体制の実現への意欲を示された。また、日本のシリコンバレーとしてのつくばへの期待を述べられた。

〔シンポジウム〕
 吉崎亮造(筑波大学先端学際領域研究センター)、松永隆司(農林水産省食品総合研究所)、田村浩一郎(通商産業省工業技術院電子技術総合研究所)、能見利彦(通商産業省工業技術院産業技術融合領域研究所)、ロバート・ルイス(筑波研究コンソーシアム)、大西楢平(日本電気基礎研究所)の各氏からの事例紹介をもとに、シンポジウム「研究所の挑戦・筑波の挑戦−科学技術基本計画の実質化に向けて−」が行われた。
 会場からの質疑応答も交え、田村氏の紹介中のドメイン指向型の研究室制とミッション指向型のラボ制の存立形態についての意見交換等がなされた。また、科学技術基本計画の実質化に向けて、研究者側からの積極的な働きかけ、(平易な言葉による)アカウンタビリティの必要性がある旨の総括的な意見が出された。







Ⅲ.最近の動き/Current Topics

○ 講演会等/Lectures at NISTEP


○ 主要来訪者一覧/Foreign Visitors to NISTEP


○ 人事往来


○ 海外出張


○ 海外出張報告

アムステルダム大学科学技術動態学科訪問と研究会での講演

第2研究グループ 藤垣裕子

 去る1997年6月27日〜7月5日、オランダアムステルダム大学Science and Technology Dynamics部門訪問および学内の研究会(AVRIL:Amsterdam Virtual Research Institute and Laboratory研究会)での講演を行った様子を報告する。

1)Science and Technology Dynamics部門は、1982年に、アムステルダム大学とオランダ政府の共同によって、科学技術研究のセンターオブエクセレンスとして設立された。助教授教授合わせて7人のスタッフからなり、その他情報部門に属するテクニカルスタッフと大学院生約30人(博士課程の学生が各教官に2人、その国籍はオランダに限らず、カナダ、アメリカ、フランスなどから留学生が来ている。)である。研究内容は、STS(Science Technology Studies,科学技術論)全般に渡っており、具体的には、1.Scientometrics(科学論文を単位とした科学研究動向の追跡、「科学の地図」作成、数量的結果と科学哲学研究との架橋、あるいは科学研究活動のモデル化など)、2.科学技術の発達の社会への影響の研究(たとえば医学におけるNMRやCTスキャンの発達によって医学的診断がどう変わったか、その市民への影響など)、3.科学技術政策への基礎資料の提供(例:研究資金の配分における優先順位をどう決定するかの研究など)である。図書室における科学技術関連の欧文雑誌数は26冊にのぼり(management関連を除いての数である)このリストは非常に参考になった。このように、アムステルダム大学の訪問において、科学技術政策立案の基礎資料となる科学技術論分野の研究のありかた、および科学技術の発達の社会に与える影響の社会学的研究の例を得ることができた。
2)講演はAVRILmeeting(アムステルダム超機関研究集団の会合:注参照)のなかに組み込まれて行われた。アムステルダム大学に限らず市内他の機関からの参加者が半数をしめた。50分の発表のあと活発な質疑応答が行われた。

 注) EUの第12総局(科学技術政策関連)のもとにRTD(Research and Technology Development)第4次Framework Programme(1994-1998)という20の研究プログラムが存在しており、TSER(Targeted Socio-Economic Research)はそのプログラムの1つである。TSERでは科学技術政策評価、科学技術教育、科学技術の社会への影響、欧州の社会的統合に関する研究、などの社会学経済学を対象とした研究に対して予算が配分される。AVRILはアムステルダム市内のさまざまな研究機関に所属する研究者から成る研究グループであり、「The Self-Organization of the European Information Society」というプロジェクトを上記TSERのプログラムに提出して、このほど500,000ECU(7月現在約6,300万円)の研究助成を得た。このプロジェクトはAVRILが中心になって、欧州内7つの大学(ドイツのビーレフェルトの他イタリア、スイス、フランスなど)の共同研究として運営されている。