No.104 JUN 1997

科学技術庁科学技術政策研究所
NATIONAL INSTITUTE OF SCIENCE
AND TECHNOLOGY POLICY

目次 [Contents]レポート紹介 Highlight of the New Report
最近の動き Current Topics


Ⅰ.レポート紹介/Highlight of the New Report

科学技術指標(平成9年版)

−日本の科学技術活動の体系的分析−

(NISTEP REPORT No.50)

第1調査研究グループ  前澤 祐一  

1.はじめに

 科学技術指標は、複雑かつ多岐にわたる近年の科学技術活動の状況を的確に把握するため最新の客観的・定量的データに基づき体系的に分析することを目的としており、以下のような意義を有していると考えている。
 ・科学技術政策の企画・立案のための基礎資料
 ・科学技術に対する理解の増進に資する
 ・科学技術政策研究の基礎資料
 ・積極的な国際貢献に資する
 このため、当研究所では平成3年に科学技術指標を作成して以来、およそ3年ごとに改訂してきており、平成9年版は第3版にあたる。作成作業については、第1調査研究グループ内に実行的に科学技術指標プロジェクトチーム(前澤、神田、吉田、大貫)を編成し効率的な実施に努めた。
 なお、丹羽 所付(埼玉大学教授)が全体の助言を行うとともに、合成指標を富澤 第2研究 グループ主任研究官と共同で作成した。また、科学技術関係財団については加藤 客員研究官 (筑波大学講師)、科学技術の経済成長への寄与については永田 第1研究グループ主任研究官が作成した。
 平成9年版においては、前回の平成6年版に比べ以下の改善を図った。
 ・個別指標の充実(中学生の数学及び理科教育の国際比較、研究支援者数、生活関連科学技術課題に関する意識調査等)
 ・合成指標の充実(新たに、産業における研究開発の構造比較に関する合成指標を開発)
 ・個別指標の一部整理及び記述の平易化

2.科学技術指標の概要

 本報告書は10章から構成されており、ここでは各章ごとの内容を紹介するとともに、紙数の制限があるため、いくつかの図を基に科学技術活動の現況を簡単にみることとしたい。

第1章 科学技術指標の概要 −日本の科学技術活動の概観−

本文である第2章から第10章までの内容の要約であり、日本の科学技術活動を概観している。

第2章 学校教育における科学技術人材の育成

中等教育における理数系に関する国際比較及び高等教育における入学者数、卒業生数、卒業後の進路状況等に関する指標を紹介している。

大学主要学部の入学倍率の推移

(説明)1996年において、理工系学部の入学倍率は、他の学部が減少しているにもかかわらず、前年と同じ値となっている。

第3章 研究開発活動(研究開発費及び研究関係従事者数)

国全体の研究開発費に関し負担割合と使用割合、性格別内訳等についての国際比較を交えた指標、研究者数及び研究支援者数についての指標を紹介している。また、産業、大学、研究機関の3セクター毎に詳細な指標を紹介している。

産業の業種別の研究集約度(1995年度)

(説明)研究開発費や研究人材の投入の程度を示す指標として、売上高当たりの研究開発費と従業員当たりの研究者数を研究集約度とすると、業種別に見た場合、「医薬品工業」、「通信・電子・電気計測器工業」、「精密機械工業」等の研究集約度が製造業平均よりも高くなっている。

第4章 科学技術の支援基盤

政府の科学技術関係経費による支援とともに、科学技術関係財団、学会等の社会支援基盤に関する指標を紹介している。

第5章 研究開発の成果

論文数、論文の被引用度、特許件数に関し国際比較を交えた指標を紹介するとともに、ノーベル賞受賞者数等の表彰、日本工業規格に関する指標について記述している。

日本の論文の分野別の被引用度(1992年〜1994年の平均)

(説明)日本の論文の被引用度では、相対的に「農学」、「物理学」、「化学」、「工学」が高く、「エコロジー・環境」、「コンピュータ・サイエンス」は相対的に被引用度が低い。

第6章 科学技術の経済・社会への寄与

本章では科学技術活動の成果を経済・社会への寄与という観点から指標化しており、経済成長に及ぼす科学技術の寄与を測定するための指標を紹介するとともに、地球環境保全及び医療の2分野を対象に社会への寄与に関する多様な指標を記述している。

第7章 科学技術に対する国民の意識

科学技術全般に関する総理府広報室の世論調査結果及び生活関連科学技術課題に関する当研究所の調査結果に基づき、科学技術に対する国民の意識に関する多様な指標を紹介している。

科学技術に関する知識の情報源(1995年 2月調査)

(説明)科学技術に関する情報源について、「テレビ」を挙げた割合が最も高く、「新聞」、「一般の雑誌」と続いている。

第8章 研究開発の国際化

研究技術者の国際交流に関する指標とともに、技術貿易に関する指標を紹介している。

技術輸出額の地域別・主要産業別内訳(1995年度)

技術輸入額の地域別・主要産業別内訳(1995年度)

(説明)技術輸出を地域別にみると、アジア(西アジアを除く)が5割と最も多く、北米、ヨーロッパと続いている。一方、技術輸入については、北米が7割以上を占めており、ヨーロッパが3割弱となっている。

第9章 地域における科学技術活動

本章では地域における多面的な科学技術活動を把握するため、学校教育、労働力、博物館等地域科学技術の基盤に関する指標、産学官における研究開発活動に関する指標、工業製品出荷額等科学技術と地域の経済活動に関する指標を紹介している。

第10章 合成指標

合成指標は、科学技術活動を1ないし2程度の少数の指標によって代表させることを目的として当研究所が開発したものであり、科学技術総合力の国際比較に加えて、今回新しく作成した産業別研究開発の構造比較に関する合成指標を紹介している。

科学技術総合指標とGDPの関係

(説明)科学技術総合指標とGDPとを比較すると、各国の値がほぼ直線的に分布しており、GDPと科学技術総合指標との間に相関があること、経済力と科学技術総合力がともに増進していることがわかる。また、各国の動きをみることにより、米国はGDPの伸びに比べて科学技術総合力の伸びが相対的に小さく、ドイツとフランスは科学技術総合力の伸びが相対的に大きく、日本は米国とドイツ・フランスの中間の傾向であること、などの特徴が読みとれる。

3.今後の展開

 近年科学技術は急激かつダイナミックに発展しており、また経済、社会、文化等に対する影響力は益々大きくなりつつある。このように急速かつ複雑に進化しつつある科学技術活動の諸様相を的確に把握するためには、新しい状況に対応すべく科学技術指標の改善・改良を図っていく必要がある。このためには、最新の科学技術政策研究の成果を適宜反映するとともに、科学技術活動に携わる幅広い関係者との積極的な情報交換が必要と考えている。
 また、科学技術指標は、可能な限り国際的な整合性を図ることが重要であり、このため経済協力開発機構(OECD)等との国際協力を推進しているところであるが、今後一層国際的な場におけるわが国の情報発信力を強化する必要がある。さらに、発展途上国をはじめとして多くの国が科学技術指標に多大な関心を有しており、この面でもわが国の積極的な国際貢献が求められていると考えている。
 最後に、科学技術指標の更なる改善に資するため、今回作成した本報告書に対し幅広い関係者の方々の忌憚のないご意見を期待したい。


Ⅱ.最近の動き/Current Topics

○ 研究会等/Research Meetings

 5月29日(木)、顧問会議を開催し、研究所より平成8年度のトピックス、平成9年度の研究計画及び当面の研究所の運営方針を説明した。顧問からは、研究所の役割、政策研究の手法、今後の運営等についてご意見をいただいた。
 なお、新たに吉川弘之文部省学術顧問(前東京大学総長)を当研究所の顧問にお迎えした。

○ 講演会等/Lectures at NISTEP
5/8 (木) 「『サービスマネージメント』における価値づくり」について
 近藤 隆雄 (多摩大学教授)
5/16(金)「英国国立研究機関の民営化について」
 John Hobday (Head of PFI Directorate)
 Gregor McGregor(Head of National Measurement Directorate)
5/29(木)「製品開発における価値づくり」
 伊藤 利朗 (三菱電機(株)専務取締役)

○ 海外出張報告

米国出張報告

第2研究グループ  柿崎 文彦  


 米国で科学技術政策が形成される過程の事例等を調査するため3月24日〜30日の間、National Science Foundation (NSF)を訪問した。
 連邦政府としての科学技術における戦略の策定は、大統領府(OSTP等)、内閣(DOD,DOE等)及び独立機関(NASA, NSF等)にそれぞれ課せられたミッションの他、クリントン政権の下で連邦政府機関の科学技術政策を調整するために設置されたNational Science and Technology Council (NSTC)と、民間の有識者による大統領への諮問機関であるPresident's Committee of Advisors on Science and Technology (PCAST)で主要な機能を担っている。最近の主要な活動として、米国の科学技術政策に関する報告書(A Report to the Congress, Science and Technology Shaping the Twenty-First Century)が大統領府(報告書のとりまとめはOSTPが行っている)から議会に対して報告されたところである(4月9日議会に報告)。
 高次の国家目標、先ごろの一般教書で述べられた教育の重視などはその時の世界情勢にもよるが政権担当者の意識が最も発揮されるところである。高次の科学技術政策それ自体の戦略性分析は大変興味深い研究対象であるが、社会学あるいは政治学などの広範な見識が必要であろう。一方、政府機関ごとの科学技術政策の策定はそれぞれが有するミッションを高次のレベルにおける国家目標と調和させることが要求されるため、プログラムの策定や予算要求等の戦略性を知ることには政策科学としての分析対象となり、そのプロセスを知ることは科学技術政策の国際比較に関する研究として興味深い。
 このような認識の下、米国の連邦政府機関として当研究所設立当初から密接な交流を行ってきた国立科学財団(NSF)を訪問し科学技術政策の形成プロセス等についてインタビュー等を行った。また、NSFがspecial reportとして作成中の「The Science and Technology Resources of Japan: A Comaprison with the United States」についても、その内容に関するカウンターパートとしてのコメントを求められていたため、このための意見交換と調整も行った。このほか、訪問期間中3月26日〜28日に米国科学審議会(NSB)の第342回会合が開催されたためタスクフォースの一部と本会議を傍聴する機会があった。米国の科学技術政策、NSBの役割を考えると「科学政策」という方が適切かもしれないが、NSB-NSFの枠組みにおける科学技術政策の形成過程の一端について、そのプロセスが進行する場をリアルタイムで体験できたことは貴重な経験であった。以下、その概要を報告する。

(1)科学技術人材に関するデータベース(SESTAT)

 SESTATの最大の特徴はFTE(専従者換算)ではなく、人頭ベースの科学技術人材に関するデータを提供し、WWWを用いて約300項目の統計的データ(科学技術に関連する職業への従事者数等)を公開していることである。米国のみならずインターネット接続が可能であれば誰でも検索可能である(http://srsstats.sbe.nsf.gov/SESTAT3.HTML)。
 データベースの母集団は20万人の個人情報で、調査票、面接及び電話の手法を用い回答率は約80%で、統計的には1993年4月時点で大学卒業以上の約3000万人(科学技術の分野で何らかの学位を有する約1000万人を含む)についての推計値が得られる。
 このデータベースの主要な開発目的は科学技術分野における労働力や雇用の状況を把握することにあり、米国の政策課題の一つと対応している。データソースは以下の三つの委託調査である。
 ・ National Survey of College Graduates (U.S. Bureau of the Census による調査で1990年の国勢調査台帳から1993年のサンプルを抽出、SESTAT のサンプルとしては最大のもの)
 ・ National survey of Recent College Graduates (1990年4月1日から1992年6月30日の間に米国の教育機関から学士及び修士を得た人材に関する情報源で、The Institute for Social Research of Temple University がサンプルを抽出し、Westat, Inc. が調査を実施)
 ・ Survey of Doctrate Recipients (1942年1月1日から1992年6月30日の間に米国の教育機関から博士の学位を得た人材に関する情報源で、the National Research Council による調査)

(2)Management of Technological Innovation (MOTI)

 MOTI は1993年から始められ、その目的はイノベーション・マネージメントに関する研究を支援し、科学技術の商用化を図ることにある。産学共同の研究が主な対象で、研究分野の優先順位としては環境、情報分野が主となっているが、今後の展開が期待される分野であれば拡大が可能である(これは米国の国家科学技術戦略に対応している)。研究費の助成額は総額で150万ドル、平均すると1プロジェクト当たりの助成額は30〜40万ドルで、1年に5テーマ程度を採択している。
 このプログラムのもう一つの特徴は、研究・技術開発とイノベーションにおけるorganizational culture の育成である。イノベーションにおけるリスクの共有、ダウンサイジング、リエンジニアリング、製造プロセスにおけるデザインを通じて共通される知識、次世代の人材を育成することで、これは米国科学技術政策政策の達成目標としてすでに大統領が提示しているパートナーシップ、リーダーシップ、そして教育の重視という高次の政策目標と対応している。
 プロジェクトを採択するまでのスケジュールと手法は、提出されたプロポーザルを4月1日に専門家(あらかじめ選定されているとのこと)に郵送し、ピアー・レビューを行い、5月30日までに優れたテーマを選定することになっている。
 採択された課題の提案者に課せられる義務は年1回報告書を提出することと、年に1度二日にわたりグループ・レビューを受けることである。特に重視される点は異業種、セクター間のパートナーシップと研究のOutcome(類似語にOutput とImpacts があるが区別して用いられている。Outcome の概念は「新たな分野やディシプリンを開発すること」とされている)となっている。
 なお、MOTI により得られた知的所有権等はすべてプロジェクト実施者のものでNSFは何ら権利を所有しない。MOTI はイノベーションを支援するためのプログラムであること、そしてDOEやDODのプログラムにおける商用化に際しての失敗事例から得た教訓とのことである。

(3)NSBのタスクフォースの傍聴

 複数のタスクフォースが同時並行で行われていたため、個人的な関心からGovernment Performance and Results Act (GPRA)及びScience and Engineering Indicatorsに関する審議を傍聴した。
 GPRAは1993年に超党派の合意により制定された法律で、すべての連邦政府機関における個々のプログラムを対象とした行政機関のコスト/パフォーマンスの内部評価を定めたものである。これは評価手法の開発、評価プロセスそして得られた結果を議会に報告する義務が課せられている。また、行政機関の情報公開ということでアカウンタビリティを保証するものである。特に、研究・技術開発を実施する政府機関にとってGPRAは研究評価として位置づけられる。
 NSFではGPRAに示されたプロセスを実施するために次のモデルを採用している。
  INPUTS → OUTPUTS → OUTCOMES → IMPACTS
 各々の用語は次のように定義されている。
 ・ INPUTSとは研究及び教育のプロセスで必要となる(人材を含む)資源と資本
 ・ OUTPUTSとは直ちに判断でき、かつ測定可能な研究及び教育の効果
 ・ OUTCOMESとはプログラムを実施することで達成のできた長期的な成果
 ・ IMPACTSとはプログラムを実施したことで得られた、当初予期した利益と予期することのできなかったポジティブ及びネガティブな結果

 GPRA に引き続き行われたScience and Engineering Indicators に関しては、1998年に公表を予定している報告書について、NSFがGPRAの中に位置づけている定量的もしくは定性的な測定に関して担当部局の責任者から科学技術の「経済的・社会的インパクト」測定するためのデータの選択等について提案が行われ、概ね原案は了承された。


(4)第342回NSB本会議(一般公開)

 非公開のタスクフォースや複数のスクフォースが並行して開催されていたため審議されたアジェンダは多様であった。採択された審議事項の中で重要なことは、NSF に申請したグラントの評価する基準(ピアーレビュー(Merit Reviewが正式名称である)の記入様式)の改正である。このタスクフォースでは1995年から検討を開始し原案を作成の上、1996年12月より1997年1月までWWWに評価基準の案を公開した。この結果、325件のコメント(95%がe-mail)が寄せらた(内訳は、80%が大学関係者で、内60%がレビュアーの経験を有する)。その後、タスクフォースにて検討を行い審議の案件とした経緯がある。従来はプロポーザルの学術的な質に関する評価とプロポーザルの社会に対する影響度の評価の各々について記述の上、各々を同じウエイトで5段階の評価(非常に優れている、等)を与えるものであったが、新たに採択されたものは、二つの評価基準は変更しないが、従来各々の基準に関する5段階評価を廃止し、プロポーザルの質と社会性について記述を行ったうえで、総合的な所見として5段階の評価を与えることになった。併せて、この二つの評価基準を評価者に説明する際の文書のワーディングが大幅に変更された。このほか、他のタスクフォースでの審議経過等が報告された。