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No.102 APR 1997 | |
科学技術庁科学技術政策研究所 | ||
NATIONAL INSTITUTE OF SCIENCE | ||
AND TECHNOLOGY POLICY |
目次 [Contents] | ![]() |
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Ⅰ.国際会議報告/ International Conference
本国際ワークショップは、「研究開発推進体制のための戦略モデル −政策形成のための新しいパラダイムを求めて−」というテーマのもとに、国内外の有識者の講演と討論を通じ、世界共通の課題である有効な科学技術推進体制のあり方を探ることを目的として開催した。
(1) | 開催日 | |
平成9年3月10日(月)〜11日(火) | ||
(2) | 会 場 | |
科学技術振興事業団大会議室(東京都千代田区四番町5−3) | ||
(3) | 参加者 | |
海外招待者8名、他全188名 | ||
(4) | 体制 | |
主催:科学技術庁科学技術政策研究所 | ||
後援:(財)つくば科学万博記念財団 |
開催主旨
先進国では、経済成長に対する研究開発投資の有効性が一般に低下してきている。折しも我が国では昨年科学技術基本計画が制定され、国の研究開発予算の急増が予定されていることもあり、研究開発費の有効な利用方策が一層切実に求められている。
科学技術政策の目的は、そもそも最終的には、多くの場合科学技術の形成それ自体にあるのではなく、経済発展や環境保全等の科学技術以外の目的の寄与にある。しかし、科学技術とこれら外部価値との関係は複雑で、外部価値を実現するためには施策のレベルで様々な仕掛けや工夫が必要である。
今回のワークショップは、国内外の有識者の講演と討論を通じ、科学技術の目標となる価値自体の開発方策を検討するとともに、科学技術シーズと政策ニーズを統合するための仕掛けや仕組みとその背後にある思考の枠組みを「戦略モデル」と位置づけ、世界共通の課題である有効な科学技術推進体制のあり方について議論を行うことを目的としている。
講演概要
セッション1
このセッションでは、本ワークショップ全体の議論の枠組みを設定するとともに、政策形成の新しいパラダイムを提示する講演がなされた。
平澤 冷(科学技術政策研究所総括主任研究官、東京大学教授)
「議論の枠組みおよび政策形成のためのオートポイエティック・パラダイム」を報告した。
日本では、昨年、科学技術基本計画が策定されたが、科学技術行政機構の大枠や、より根の深い制度的問題には触れていない。この問題を考えるためには、原理的なレベルまで掘り下げて検討することが必要である。ここでは、21世紀に合致したシステムであるかどうか、産業、社会、生活などのニーズに対応可能か、研究開発のコストパフォーマンスはどうかという3点を考慮することが重要な問題となる。そこで、議論のためのフレームワークと新しい科学技術の政策形成のためのオートポイエティック・パラダイムを提案した。
まず全体の大きな枠組みとして、行政、科学技術、社会、経済のトライアングルモデルを設定するとともに、科学技術活動を3つのカテゴリーに分類し、それぞれ戦略レベル、戦術レベル、戦闘レベルの3階層モデルで表現した。また、議論すべき論点を、科学技術関連行政組織のあるべき姿、科学技術関連制度の運営体制の原理的問題、高等教育機関の研究機能の3つに集約した。
新しいパラダイムは、科学技術関連主体が関与する動的過程のダイナミックスを強化することであるとし、そのためにはインセンティブ連鎖の形成と価値開発が課題であるとしている。オートポイエティック・パラダイムは、第1に科学技術活動を学習課程(動的問題)として取り扱い、ヒューマンダイナミックスに基づくインセンティブ連鎖(行政機構も含めた)を強化することと、これを補強されるためのツールやシステムを設定すること、第2にコンテンツの充実、特に社会ニーズに対応した研究開発が重要であるとし、研究開始前の価値開発の必要性、その価値は、経済価値に基づくこととし、そのひとつの方法として、トータルコストを指標とした価値開発を提案した。
セッション2
セッション2では、本ワークショップに参加した七つの国の研究開発システムの報告が行われた。
P. ハウツ(オランダ経済省科学技術政策部長)
「ヨーロッパの産業競争力、特にオランダと米国・日本との比較:イノベーション政策のための分析といくつかの結論」と題する講演で、ヨーロッパと日本、米国の三つの地域の比較を通じた考察を述べた。経済がグローバル化しているなかで三つの地域には共通するトレンドがある一方で、それぞれの出発点、市場での地位、追求されてきた技術政策は異なる。イノベーション政策のためのグランドデザインをつくるべきか、あるいは国によって異なるオーダーメイドのアプローチが必要なのか、という点を中心的な質問として設定した。
現在、OECDの最近の報告に示されているように、知識ベースの経済へと向かうトレンドがあり、それに対応するための新しい政策が必要と考えられる。三つの地域の知識集約度と市場ポジションの発展、これまでの技術政策について比較すると、日本と米国は知識集約型に変化してきており、また、民間部門を中心としてR&Dへの投資レベルが全体的に高いことが世界市場での成功に結びついていると考えられる。ヨーロッパ諸国は、スウェーデン以外、そのような変化は明確ではない。しかし、オランダのように、ローテク産業にも先端的な生産技術を導入することにより発展することができる。なお、研究開発に関するインプットと市場におけるアウトプット、市場におけるポジションとの関係が解明されていないということを政策決定者は知っておくべきであるし、この分野の研究者と協力してこれらを明らかにするべきである。
現在、技術政策はイノベーション政策へと拡張されており、また、イノベーションのプロセスが供給側の主導によるものから需要側主導に変化していることに伴い、思考を180度転換する必要があり、政府は顧客としての立場をとるべきである。競争政策も重要であり、新しいアイディアを持つ新しいプレーヤーの参入を妨げることがないようにすることが必要である。
単一のグランドデザインがすべての国に適用できるとは思えない。同じような成分からなる政策フォームを考えることはでき、その要素の配分を国別に変えるべきと考えている。その成分となるような政策としては、知識の流通と透明度を確保するためのイノベーション・システムのインターフェイスを整備すること、政府が先進的な顧客の立場をとること、革新的な企業家精神を助長するために参入障壁を取り除くこと、知的所有権などの法律・規約の整備、教育と労働市場のマッチング、知識のマネジメント、情報とコミュニケーションの技術の活用、などである。また、政策のリードタイムが様々であり、例えば、労働者に情報技術が必要だとしても教育には時間がかかるため、政策の導入時期を考慮することが重要になっている。
L. ステンベルク(スウェーデン産業技術開発庁技術政策分析部部長)
「スウェーデンの研究、およびイノベーション政策のための挑戦と機会」について報告した。小国であるスウェーデンが注目されるのは、世界の動きとグローバリゼーションに対して敏感であるということによる。統計データによると、世界各国の色々なセンターが設置されていること、研究開発費の対GDP比率が最も高いこと、高等教育の比率が低いことなどが特徴としてあげられる。しかし、これらは統計的に正しいとしても、スウェーデンの経済、社会を適切に表わしているのか疑問である。研究開発が非常に盛んに行われているにもかかわらず、経済のパフォーマンスが良くないことは、スウェーデンについての逆説である。
スウェーデンのR&Dシステムでは、中心をなす産業部門と政府部門が二極化している点が弱点となっている。また、新しい雇用は、中小企業から創出されなければならないが、技術の大部分は大企業が管理しており、中小企業がイノベーションに投資するかが問題である。外国企業の参入やサービス産業の成長が課題である。
政府の役割は変化しており、企業や大学や公的研究機関に対して、これまでのコントロールという考え方から、「交渉」へと移行しなければならない。3つのactorの重なりと、調整機能が必要である。地域的な集約の効果については、まだ解明されていないが、地域的集約も必要であると考える。
F. マイヤークラマー(ドイツ システム・技術革新研究所所長)
「ドイツの科学、テクノロジー、およびイノベーション − 1990年代の変化と挑戦」と題した講演を行った。ドイツの現状(高い失業率、研究開発費の対GNP比低下など)を述べたあと、各国との比較もふまえた様々なデータを参照しながら、国としての技術専門化、国の技術革新の制度、大学の機能役割の変化、の3点から分析を行なった。
まず技術専門化においては、GNPに対する研究開発投資が少ない国では非常に特許範囲が狭く専門化が進んでいるのに対し、ドイツでは専門化が進んでおらず、研究開発分野が幅広いことが示された。また国の技術革新を支える制度に関しては、R&D予算の3分の2が産業界からでていること、自動車製造業およびバイオテクノロジー産業において、企業と研究機関・大学との間に良好な関係ができつつあることが指摘された。
続いて基礎研究と応用研究の相互作用についてやはり独自のデータに基づいた分析が公表され、それを大学の役割論と合わせて話が展開された。基礎研究と応用研究の新しい架け橋のためにいくつかの案が提示され、複雑かつ実際的な産業の問題を魅力的な基礎課題に変換する必要性、あるいは研究者へのインセンティブシステムを変え、関係を強化すると同時に分担も損なわないシステムが必要であると述べた。
最後に、研究開発システムの革新を推進する科学技術政策を全体の政策のなかに組み込んでいくこと、資金拠出組織の細分化、地域の役割、政府の超国家的役割、民間に対する政府の役割などの重要性を指摘した。
P. ラレド(フランス 鉱山大学イノベーション社会学センター教授)
「フランスの科学技術政策の変遷:“ナショナル”から“マルチ”レベルの政策形成へ」と題した講演を行った。イノベーションに関して、基礎研究から応用研究へというリニアモデルではなく、ネットワークモデルへという新しいモデルを提示し、その組織的制度的枠組みについてフランスを中心にEUの例を述べた。
リニアモデルとネットワークモデルとでは、国家介入のしかたが異なる。リニアモデル(基礎研究から応用研究へ、リレー競走のようにバトンが渡されていくモデル)における国家の役割は、公共財である基礎研究への投資、公共財のためのイノベーション、市場の失敗への対処、の三つが挙げられた。これに対しネットワークモデル(リレー競走ではなく、ループ状の反復・学習プロセス)においては、知識のプールに対する介入は必要がなくなり、代わりにネットワークの収斂方向に終始一貫性を持たせるための監視が必要となる。この場合、国の政策として重要なのは、調整・交渉、公共性の高い問題(エイズ対策や環境技術など)の外部委託、そして公的分野研究におけるコントラクト形式の導入である。こうすると、取り上げるべき問題もその優先順位も機関ごとに異なってきて、大学も対応性と特化性を増す。すべての大学や研究機関を対象とした一般的アプローチではなくなってくる。このようなネットワークモデルに基づいて、EUの研究開発制度では次のような特徴が出現しつつある。1)科学技術の公共政策策定に、国家以外の多くのプレーヤーが参加するようになり、その調整が必要となっている。2)国家レベルでも、グローバルな枠組みから具体的な形で政策移転が見られるようになってきた。3)先見性と評価が、新しい戦略の枠組みとなりつつある。
G. ハネ(米国 科学技術政策局政策・計画特別補佐官)
「新しいウェブ(WEB)への取り組み:アメリカ合衆国のポスト冷戦の科学技術政策」と題した講演で、クリントン大統領が先月行なった一般教書演説を中心に、最近の米国の科学技術政策について報告した。
大統領の一般教書演説によって、米国の科学技術における優先順位が明らかになり、また科学技術の分野間の関係が明確になった。近年とりわけ強調されている課題はパートナーシップである。1989年にアドバンストテクノロジープログラムが設立され、92年からは次世代自動車、環境技術、エネルギー効率、建築、輸送、そして高度情報通信基盤構想といった優先研究開発構想が出現したのが、パートナーシップの始まりと考えられる。パートナーシップの例として3例紹介した。政府は産業界、労働組合、医療組合とともにイノベーターとなり、新しい技術開発のリスクを共有してパートナーシップをビジネスの中にシフトさせた。
もう1つ一般教書演説で強調されたことはイノベーションパートナーシップである。連邦政府は州とともに連邦の科学技術のアクセス性を高め、規制手続きも簡略化していく必要がある。またより大きなパートナーシップは、全世界共通の懸案事項に対する協調課題でもある。政府間の科学技術間の共同協定のほか、国際フォーラムでの活動も盛んになっている。これまでは共同研究、戦略的な提携、直接投資という形態で行われてきたが、現在起こりつつあるのは知識と利用のリンクである。そこではネットワークを通じてのイノベーションの活用が必要である。ウェブという概念は様々な団体、グループによる知識の共有を意味する。ここで重要なことは、目的の合意、参加者の期待の明確化、また成果の配分の明確化であり、共有をやめる段階についても認識する必要がある。しかし場合によっては感情的な対立を生ずることもあり、つねに柔軟な調整が必要になる。
R. ブルック(英国 工学・物理化学研究会議チーフエグゼクティブ)
「国家研究の優先度の設定」と題した報告を行った。1993年から英国政府は公的資金を活用する研究の仕組みを変えた。制度の改革と研究にかなりの資金を投入したものの、充分な成果が得られなかったため、白書を作成して研究協議会の仕組みを変えた。これは初めての試みである。現在、英国には、医学、社会学(経済学も入る)、環境、生物学、素粒子物理学や天文学のような大規模科学、物理科学の6つの研究協議会がある。これらの研究協議会は、研究と教育のみならずユーザーのニーズに注意を払うこと、国家の競争力と国民の生活の質を高めることもめざさなくてはならない。
研究協議会の仕組みで重要なことは、プロジェクトの優先順位の選択と、プロジェクトの選択の分離である。プロジェクトの優先順位づけは、同僚の研究者集団のピアレビューで審査したものを協議会がとりまとめるというトップダウンで行なわれる。プロジェクトの良否が研究者の判断にゆだねられるため、ここに参画する研究者の資質が非常に重要となる。いっぽうプロジェクトの選択に際しては、提案者が提案書を協議会に提出する。その提案ごとにすべての分野の大学研究者が参加して採決をとり、パネルで順位を決定して、全体の予算から振り分けを行なう。研究者が優先順位を決定するシステムでは、研究者同士の評価が弱点になる。
このように科学競技会では非常に緩やかな、トップダウンによる優先順位の設定方法を行なう一方で、個々の研究者が提案したアイデアが同僚の研究者によって審査されているのだが、これが問題になりつつある。評価とは研究のあとに行なわれるのであり、この段階で重要なのはむしろ政策的な視点での審査である。
宮林正恭(科学技術政策研究所所長)
「日本のナショナルR&Dシステムの現状と今後」について述べた。我が国ではすでに1880年代から、自然科学と技術を原理から利用を一体的なものとしてとらえる、スペクトル的連続性をもつ概念設定ができていたと考えられる。この考え方は西欧的な科学技術の考え方とはかなり違うために議論が混乱してきた。現在では大学研究を産業化するというベンチャー論も盛んだが、これは見かたによってはすでに戦前の理化学研究所で行なわれていたとも言える。第二次世界大戦後は、科学技術の研究開発において大学グループとそれ以外のセクターがお互いに独自の行動をとっていくというダブルトラック路線が、ナショナルR&Dシステムを決定づけることになり、これがいろいろな形で影響を及ぼしてきた。ダブルトラックには功罪があり、功の方は民間企業がイノベーションシステムの中核であるという認識をもち、迅速に行動してきたことが挙げられる。
一方、いわゆるコンセプトや原理の創出の産業化では、こうした民間企業の特性がむしろ弱点となり、ライフサイエンス、ソフトウエア等で非常に遅れをとっている。従って、日本のR&Dシステムは、大学とそれ以外との垣根をいかに低くするかというところが非常に大きなポイントになっている。国際化が進展する中で、国家運営の原理だけでは大企業あるいは国際企業は機動的な対応が困難な状況になっている。企業のR&Dシステムと国全体としてのR&Dシステムとの整合性は、今後の課題の一つである。国全体としてのR&Dシステムに対応できる科学技術政策の形成が重要であるとともに、日本では科学技術に対する国民の意識がかなり高いこともあり、国のR&Dシステムの中に、そのような国民意識をどの様に反映させるかもまた大きな課題である。
セッション3
このセッションは、国の科学技術戦略のあり方を技術経営の観点から検討することを目的として、2件の講演により構成された。
T. デュラン(フランス パリ中央高等学院教授)
「企業における技術およびイノベーションのマネジメントの観点からみたナショナルR&Dシステムの優先課題」と題する講演を行なった。まず企業の戦略的な技術経営に用いられる技術ポートフォリオの考え方を紹介し、競争力を高めるための手段として研究開発を行う企業にとって、どのようなイノベーションへの投資が重要なのかを議論した。企業にとっては、支配的な技術のトラジェクトリー(軌跡)を形成する連続的な改善、すなわちインクレメンタル・イノベーションが、競争力を高める上で重要であるとされる。しかし、このような技術経営のルールを、長期的な視点が必要とされる公共政策に直ちに適用することはできない。また、公的部門が基礎研究を行ない、民間部門が応用研究や開発を行なうという従来のシステムが変わってきた点に言及した。大企業が科学的なコミュニティに参加し、公的部門が基礎研究を外部に委託するといった近年の動向は、リニアモデルでは理解できないと指摘している。
D. C. モーリー(米国 カリフォルニア大学バークレー校教授)
「米国のナショナル・イノベーション・システム:構造と知識フローにおける最近の発展」と題する講演では、米国の科学技術政策の変化が民間の研究開発に及ぼした影響が検討された。米国では連邦政府の研究開発支出に占める防衛関連の割合が依然として高く、この傾向は2000年まで続くと考えられる。しかし、1980年代以降、産業の競争力が重視されるようになってから、科学技術政策に変化が見られるようになった。知的財産権の保護強化に伴い大学の研究成果の産業への普及が進展したこと、独占禁止政策の見直しにより共同研究が容易になったこと、防衛関連の研究予算を使用して民間部門の技術開発をサポートするプログラムが実施されたこと、などがその例として挙げられた。また、こうした変化の結果として、知的資産の国際的な流動性が高まったことや、政策が変化しやすい環境の下で大学と企業のパートナーシップなどが、新たに困難なマネジメントの課題となっていることを指摘した。
ディスカッション・セッション
最後のセッションとして、平澤冷総括主任研究官の司会により、セッション1から3までの講演をふまえて、講演者と一般参加者を交えた議論が行われた。
(ディスカッション・セッションの報告も含むより詳細なワークショップの報告書は、現在作成中。完成次第、公表の予定。)
地域科学技術政策チーム
科学技術政策研究所は、1997年3月18日、19日に全共連ビル会議室(東京都千代田区)において、「地域科学技術政策研究会」を開催した。この研究会は、地方自治体(都道府県及び政令指定都市)の科学技術政策担当者に集まりいただき、最近の科学技術政策を巡る動向に関する講演や当研究所における関係の調査研究状況の説明に対し忌憚ない質問をいただくとともに、各地方自治体担当者間でも議論をいただいた。この研究会には、37道府県・7政令指定都市から50名の科学技術政策担当者の出席を得ることが出来た。当研究所としては、これを通じ地方自治体の科学技術政策の状況や国への要望を生きた形で吸収し、今後の当研究所における地域科学技術に関する調査研究の向上を図っていくこととしたい。
以下に研究会の概要を報告する。
−講演−
地域科学技術に関し、参加者に共通の認識を提供するため、学識経験者による2つの講演を設けた。
ひとつは中央大学経済学部斎藤教授から「これからの地方における科学技術政策の展開について」と題し、最近の世界状況から説き起こし、地方における科学技術政策のキーポイントまで講演いただいた。
講演では、「現在はグローカル(glocal=global+local)な時代」であり、「国が企業を選ぶ時代から、企業が国・地域を選ぶ時代」にかわっているが、「魅力的な地域を創れば企業は自然と集まってくる」のであり、そのためには、自分の地域を「機会地域(コニュニティ地域、ネットワーク地域)」にすることが必要であり、政策的には「3C戦略(Creativity、Chance、Commun icationの開発)」が重要であるとのことであった。
もう一つの講演は、我が国における地域科学技術振興機関の最先端を歩んでこられた株式会社ケイエスピーの馬場専務取締役に「KSPにおけるビジネス・インキュベーションの経験について」と題し、KSPをはじめとするかながわサイエンスパークの状況と経験について講演いただいた。
講演では、「近年では外資系企業の入居が寄与して、入居率は高い状況にある」こと、「ベンチャー企業への融資環境が近年大きく変化しており、以前は『やむなく』KSPが貸す場合があったが、最近では融資源が多様化している。このような中、KSPが核となった形での金融コンソーシアムが生まれつつある」こと、また「KSP自身も年俸制、階層制廃止等のリストラを講じている」こと等が述べられた。
−地域科学技術関連施策説明−
関係省庁の地域科学技術関係施策について、農林水産省、通商産業省、自治省、科学技術庁から説明いただいた。
主に、各省庁の平成9年度施策について説明がなされた。平成8年7月の「科学技術基本計画」において講ずることとされた施策・措置等7つのうちのひとつに地域における科学技術の振興があげられたこと、平成7年12月の科学技術会議の「地域における科学技術活動の活性化に関する基本指針」答申等をうけ、各省庁の平成9年度の地域科学技術関係施策はいずれも大幅な拡充がなされていることがわかった。
−科学技術政策研究所からの報告−
権田客員研究官(東海大学教授)から、地域科学技術を巡る内外動向について報告があった。
この中では、昨年9月にブラッセルで開催された地域科学技術政策国際ワークショップ(RESTPOR)の概要をはじめとする地域科学技術を巡る海外での動向が説明された。特に、情報化が地域間格差を拡大するか縮小するかについて2つの対立する議論があり、これは来年米国で開催される次回のRESTPORの一つのテーマに予定されているとのことであった。また、地域科学技術政策について、その特徴を総合調整政策と客体創出政策にあるとされ、また、最近の研究結果から産業は形式知依存型と暗黙知依存型があり、各地域において科学技術政策を考える場合には、地域の持つ資源の特性及び産業自体の特性の両者を把握することが重要である旨説明がなされた。
また、添嶋総括上席研究官から、科学技術振興調整費ソフト調査の一つとして実施中の「地域科学技術指標策定に関する調査」について説明があった。
この中では、「地域科学技術指標」の概念や調査のため実施した研究会における主な議論内容の説明がなされ、地域科学技術活動を考えるにあたっては、ヒト・モノ・カネといった科学技術資源のほか社会環境・自然環境にも目を向けるべきであること、また、科学技術資源が空間的に極めて偏った分布を示していること等が紹介された。
坂田上席研究官から、実施中の「地域における科学技術振興に関する調査研究」について説明があった。
これは、地域科学技術振興施策の状況などについて、地方自治体(都道府県・政令指定都市)の関係経費をもとに調査分析を行うものであり、平成2年度、4年度に引き続き、第3回アンケートの回収中である。回収済みのアンケートをみる限りでは、地方自治体の科学技術関係経費は国の科学技術予算同様に伸びを示しており、また、公募形式研究開発制度を創設した県が増加しているとの紹介があった。
−討議−
参加者により、分科会形式及び全体会方式により、地域科学技術振興施策について討議を行った。
分科会は、「大綱策定のあり方」、「科学技術政策の総合的推進のための具体的事業」、「科学技術政策の総合的推進と組織体制」をテーマとした。
分科会においては、地域科学技術において地域の特徴を踏まえるべきことはわかるが具体的な判断は困難、目的・哲学の明確化の重要性、外部資源・専門家の活用や情報獲得のためのネットワークの重要性等、地方自治体における直接の経験を踏まえた討議がなされた。
全体会は、特定のテーマを設けずにフリーディスカッションとしたが、産学官協力推進における大学の現状、公設試験研究機関の研究テーマ設定方法、地域の意見の国の科学技術政策への反映手段等多様な意見が出された。
以上、地域科学技術研究会の概要を紹介してきたが、最後に、研究会で講演・説明いただいた先生方や関係省庁の担当官あるいは多忙の中研究会に出席いただいた地方自治体の科学技術政策担当者へのお礼の言葉をもって締めくくらせていただきたい。
(なお、本研究会について、別途、報告書として内容をとりまとめる予定である。)
地域科学技術政策研究会の内容 1.講演 (1)「これからの地方における科学技術政策の展開について」 中央大学経済学部 教授 斎藤 優 (2)「KSPにおけるビジネス・インキュベーションの経験について」 株式会社ケイエスピー 専務取締役 馬場 昭男 2.関係省庁の地域科学技術関連施策説明 (1)農林水産省 農林水産技術会議事務局地域研究振興課 課長補佐 水野 隆史 (2)通商産業省 工業技術院地域技術課 課長補佐 湯田 正俊 (3)自治省 大臣官房企画室 課長補佐 時澤 忠 (4)科学技術庁 科学技術振興局研究基盤課地域科学技術振興室 室長補佐 田中 康治 3.科学技術政策研究所からの報告 (1)「地域科学技術政策を巡る内外の動向」 科学技術政策研究所 客員研究官(東海大学教授) 権田 金治 (2)「地域科学技術指標策定に関する調査」 科学技術政策研究所第3調査研究グループ 総括上席研究官 添嶋 一 (3)「地域における科学技術振興に関する調査研究」 科学技術政策研究所第3調査研究グループ 上席研究官 坂田 和徳 4.討議 (1) 分科会 ① 大綱策定のあり方について ② 科学技術政策の総合的推進のための具体的事業について ③ 科学技術政策の総合的推進と組織体制のあり方について (2) 全体討議 |
○ 研究会等/Research Meetings ・3/3(月) 平成8年度第2回技術予測委員会 ・3/10(月)〜3/11(火) 国際ワークショップ ・3/18(火)〜3/19(水) 地域科学技術政策研究会 ・3/18(火) 第6回先端科学技術動向調査委員会 ・3/26(水) 第5回地域科学技術指標研究会 ・3/26(水) 平成8年度第3回技術予測委員会
○ 講演会等/Lectures at NISTEP ・3/5(水) 「旭硝子における研究開発マネジメント」 内田啓一 (旭硝子中央研究所) ・3/12(水) 「OSTPの活動状況について」 Dr.Gerald Hane (米国科学技術政策局 政策・計画特別補佐官) ・3/19(水) 「中国の科学技術現状紹介」 張 麗琴(Zhang Liqin)(中国科学技術協会管理科学研究中心) ・3/21(金) 「技術政策の新しい方向性」 Dr.Cowling (米国 ワーウィック大学 Department of Economics) ・3/24(月) 「新しい科学技術研究のシステム」 Dr. kathy Garden(ニュージランド科学技術研究省 首席科学技術政策顧問) 「国立研究所のマネジメントの変化」 Dr. William Andrew Matthews(ニュージランド国立水資源環境研究所 管理部長)
○ 主要来訪者一覧/Foreign Visitors to NISTEP ・3/6 菫 端斌( Jin Duanbin )ほか3名 (台湾 台湾経済研究院研究六所 所長) ・3/6 Prof. Luke Georghiou (英国 マンチェスター大学PRESTディレクター) ・3/17 譚 瑞混( Ryakun Rose Tan) (台湾 中央大学工学管理研究所教授) ・3/21 葉 丹(Ye Dan)ほか2名 (中国 国家科学委員会中国科学技術促進発展研究中心常務副主任研究員) ・3/24 Bma M.PasatiBp (フィリピン Science Education Institute,DOST) ・4/2 Dr.Sandor Toth (駐日ハンガリー大使館 Counsellor,S&T Affairs)
○ 人事往来 ・ 3月31日付けで、総務課長吉田優氏が退職し、後任には4月1日付けで、安藤忠志 航空宇宙技術研究所安全施設課長が就任しました。
○ 海外出張 ・3/4〜3/12 林総務研究官(中国) ・3/4〜3/14 田村情報分析課長補佐(中国) ・3/9〜3/15 瀬谷 第2調査研究グループ主任研究官(英国、仏国) ・3/19〜3/26 平澤 第2研究グループ総括主任研究官(韓国、仏国、英国) ・3/24〜3/30 柿崎 第2研究グループ主任研究官(米国) ・3/30〜4/10 木場 第2調査研究グループ上席研究官(英国、デンマーク)