コラム:自動車製造業の特許出願動向に関する分析

 我が国において、自動車製造業(1)は出荷額が約91兆円(2016年時点)であり、製造業全体の約30%を占める主要産業である(2)。近年の自動車製造業では、EV・PHV(3)のような次世代自動車の開発や予防安全・自動走行技術、IoTの進展等、様々な技術革新が起こっている(4)。本分析では、1989~2011年の期間に国内出願された特許のうち、自動車製造業の企業(2011年時点で202社)(5)が出願人に含まれる特許の出願数を技術(6)ごとに集計することによって、自動車製造業を取り巻く技術動向の変化を特許出願動向から捉えることを試みた(7)。

1.技術分野別特許出願の状況

 図表4-2-12では、1989年から2011年にかけての自動車製造業の技術分野別特許出願数および割合の推移を示す。当該図表から、自動車製造業において、特許出願数の多い主要な技術分野は輸送用機器、機械工学、電気工学であることがわかる。まず、輸送用機器は特許出願が最も多い技術分野であり、1990年代から2000年代にかけての特許出願数は、2000年代半ばに一時的に増加したのを除いて9千~1万件程度を前後し、シェアは45~50%を維持している。次に、機械工学について見てみると、1990年代から2000年代にかけての特許出願数は4千件程度を前後していたが、近年減少傾向にある。これに伴って、シェアは1990年代に20%前半であったのに対して、2000年代は10%後半と低下している。続いて、電気工学について見てみると、特許出願数については、1990年代前半は1千件にも満たないが、2000年代後半には4千件程度となり、機械工学に匹敵する水準に達している。そして、シェアも1990年代前半は5%程度であったのに対し、2000年代後半には15%以上のシェアを占めるようになっている。このことから、1990年代から2000年代にかけて、輸送用機器に次ぐ主要技術が機械工学から電気工学にシフトしてきていることがわかる。この特許出願動向は、自動車部品のモジュール化・電子化の流れに伴い、機械系に加えて電子制御系の技術の役割が高まってきていることを示し反映した結果と捉えられる。


【図表4-2-12】 自動車製造業の技術分野別特許出願の状況
(A)特許出願数

(B)割合

注:
技術分野とは、WIPOの35技術分類を科学技術・学術政策研究所で分類したもの。技術分野と35技術分類の対応表は図表4-2-7参照。
資料:
知的財産研究所 IIPパテントデータベース(2017年版)、NISTEP企業名辞書(ver.2018.1)、IIPパテントデータベースとの接続用テーブル(ver.2018.1)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表4-2-12


2.WIPO35技術分類別特許出願の状況

 図表4-2-13では、1990年・2000年・2010年(前年・後年を含む3年平均)の自動車製造業の各技術分類の特許出願数・シェア・順位の推移を示す。まず、主要な技術分野について見ていくと、機械工学に該当する技術分類(緑色)のうち、「工作機械」、「他の特殊機械」の順位は低下している。一方、電気工学に該当する技術分類(青色)は1990年と比べて全て順位が上昇しており、自動車製造業における存在感が増してきている。その他の技術分野について見ていくと、情報通信技術(桃色)においては「コンピューター技術」の順位が上昇している。これらは、次世代自動車の燃料電池や予防安全・自動走行技術、IoTに関連する技術の開発の進展が特許出願動向に表れたものと考えられる。これに加えて、「マネジメントのためのIT手法」に関する特許出願は、2000年頃まで行われていなかったが、2010年頃には行われるようになってきている。当該技術分野では、カーシェアリングに関連する特許出願などが見られ、自動車産業の新たな変化の兆しが読み取れる。また、バイオ・医薬品(黄色)では、バイオテクノロジーの順位がやや上昇しており、当該技術分類ではバイオ燃料に関連する特許出願などが見られる。


【図表4-2-13】 WIPO35技術分類別特許出願数・シェア・順位の推移

注:
技術分野とは、WIPOの35技術分類を科学技術・学術政策研究所で分類したもの。技術分野と35技術分類の対応表は図表4-2-7参照。
資料:
知的財産研究所 IIPパテントデータベース(2017年版)、NISTEP企業名辞書(ver.2018.1)、IIPパテントデータベースとの接続用テーブル(ver.2018.1)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表4-2-13


3.まとめ

 本分析では、1990年代から2000年代の自動車製造業の特許出願動向を、関連する技術動向と合わせて把握してきた。本分析を通じて、特許出願動向を把握することは、技術動向の変化の概況を把握するための有効な手段であり、さらに、新たな技術動向の兆しを捉えるための手段として活用できる可能性もあることがわかった。また、産業分類については、統計の継続性等の観点から頻繁に変わることはないが、その活動内容を特許出願等で把握することで、産業分類内の活動の変化が可視化できることを確認した。

(松本 久仁子)



(1)日本標準産業分類(小分類)の「自動車・同附属品製造業」に該当する産業。
(2)平成28年経済センサス活動調査の産業別集計結果のデータを基に科学技術・学術政策研究所が概算。
(3)EV:電気自動車。PHV:コンセントから差込プラグを用いて直接バッテリーに充電できるハイブリッド車(2つ以上の動力源を持つ自動車)。
(4)経済産業省(2015)「自動車産業を巡る構造変化とその対応について」
(5)本分析では、NISTEP企業名辞書(ver.2018.1)に掲載されている企業を扱う。なお、当該辞書に掲載されている企業は、原則、4条件(①特許出願数累積100件以上、②株式上場企業、③特許出願数の伸び率大、④NISTEP大学・公的機関名辞書掲載企業)を満足する企業の論理和で構成されている。
(6)本分析では、公開・公表の筆頭IPC分類情報を基に、技術分野およびWIPO35技術分類によって特許出願数を分類する。
(7)特定の技術に関する詳細な動向を把握するための基礎資料として、特許庁の特許出願技術動向調査が挙げられる。当該調査は国の政策として推進すべき技術分野を中心に、今後の進展が予想される特定の技術テーマを対象に実施されている。最近の自動車産業に関連する技術では、自動車エンジンの燃焼技術(平成26年度)・自動車用予防安全技術(平成27年度)・自動走行システムの運転制御(平成29年度)等の調査が行われている。