2.1.5研究者の流動性

 研究者の流動性を高めることは、知識生産の担い手である研究者の能力の活性化を促すとともに、労働現場においても活力ある研究環境を形成すると考えられる。

(1)米国での博士号保持者の出身状況

 研究者の流動性、もしくは国際性を表すための指標として、外国人研究者の数といった指標が考えられる。しかしながら、日本においては、外国人研究者数は計測されていない。また、米国についてもScientists & Engineers といった職業分類で見た場合での外国人のデータはあるが、狭義の研究者についての数値はない。そこで、この節では、データが利用可能な米国の博士号保持者のうちの外国人の状況を見る。
 図表2-1-13を見ると、2013年の米国における博士号保持者のうち、35.7%の48.5万人が外国出生者である。「工学」分野の博士号を持っている外国出生者が一番多く、57.7%を占めている。また、「コンピューター・数学科学」分野も52.9%と多い。
 次に、米国において、博士号を保持している者がどの国・地域から来て、どの専門分野で雇用されているかを見ると(図表2-1-14)、全体の雇用者のうち、34.2%が外国出身の人材である。そのうち、多いのはアジア地域出身者であり、全体のうち23.2%である。
 職業分類別に見ると、アジア地域出身者が多いのは「工学」分野であり、45.7%となっている。また、「コンピュータ・情報科学」分野も43.8%とアジア地域からの出身者が多い。
 米国では、「工学」、「コンピューター・数学科学」分野で、博士号を保持する外国出生者が多く、かつ米国で雇用されている者も多い。


【図表2-1-13】 米国における分野別博士号保持者のうちの外国出生者比率(2013年)

資料:
NSF,“SESTAT PUBLIC 2013” webサイト

参照:表2-1-13


【図表2-1-14】 米国における出身地域別、職業分野別、博士号保持者の雇用状況(2015年)

注:
四捨五入の関係上、職業分野の合計は100%になっていない場合がある。
資料:
NSF,“Survey of Doctorate Recipients”

参照:表2-1-14


(2)ポストドクターの外国人割合

 次に日本と米国のポストドクターの外国人割合を見る。
 図表2-1-15は日本の大学・公的機関におけるポストドクター等(5)に占める外国人割合を示したものである。また、ここでいう分野とは、各ポストドクター等が在籍している研究室の主たる研究分野を指す。
 全体での外国人比率は27.9%である。分野別に見ると、「工学」分野での外国人割合が46.0%と最も多く、次いで「理学」分野が27.1%となっている。


【図表2-1-15】 日本の大学・公的機関におけるポストドクター等の雇用状況
  (研究分野別外国人比率)(2015年度)

注:
1)ここでのポストドクター等とは博士の学位を取得した者又は所定の単位を修得の上博士課程を退学した者(いわゆる「満期退学者」)のうち、任期付で採用されている者で、①大学や大学共同利用機関で研究業務に従事している者であって、教授・准教授・助教・助手等の学校教育法第92条に基づく教育・研究に従事する職にない者、又は、②独立行政法人等の公的研究機関(国立試験研究機関、公設試験研究機関を含む。)において研究業務に従事している者のうち、所属する研究グループのリーダー・主任研究員等の管理的な職にない者をいう。
2)研究分野はポストドクター等の在籍研究室の主たる分野。
3)国籍不明者11人を除く。
資料:
科学技術・学術政策研究所、文部科学省科学技術・学術政策局人材政策課、「ポストドクター等の雇用・進路に関する調査(2015年度実績)」

参照:表2-1-15


 図表2-1-16は米国の大学におけるポストドクターに占める外国人(Temporary visa holders)割合を示したものである。また、ここでいう分野とは、各ポストドクターの所属機関の分野である。
 全体での外国人の比率は53.9%と半数以上である。分野別に見ると「工学」分野が66.8%と最も高く、次いで、「物理学」分野が61.8%となっている。


【図表2-1-16】 米国の大学におけるポストドクターの雇用状況(研究分野別外国人比率)(2016年)

注:
1)ここでのポストドクターとは以下の資格の両方を満たしている者。
①最近の5年以内に授与された一般の博士号取得者で、博士号またはそれに相当(例えば、SCD(Doctor of Science)またはDEng(Doctor of Engineering))、医療や関連分野の第一専門職学位(MD(Doctor of Medicine)、DDS(Doctor of Dental Science)、DO(Doctor of Osteopathic Medicine/Osteopathy)、またはDVM(Doctor of Veterinary Medicine))、外国の米国の博士号に相当する者。
②一般に5年から7年までの期間限定任用であり、主に学問や研究のためのトレーニングをしている者、機関のユニットに所属するシニアスカラー(senior scholar)の監督の下で働いている者。
2)研究分野はポストドクターの所属機関の分野。
資料:
NSF,“Graduate Students and Postdoctorates in Science and Engineering: 2016”.

参照:表2-1-16


(3)日本の研究者の部門間の流動性

 日本の研究者の新規採用(6)、転入(7)、転出(8)状況を見てみる(図表2-1-17)。2017年に全国で採用された研究者は7.0万人である。内訳は新規採用3.2万人、転入者が3.8万人である。一方、転出者は5.6万人である。新規採用者は2009年をピークに減少していたが、2012年以降、増加に転じている。
 部門別に見ると、「企業」では、2000年代後半は、新規採用者が最も多かったが、2011年から転出者が最も多くなっている。また、新規採用者は2009年をピークに減少していたが、2012年以降、増加に転じ、2016~2017年では13.4%増加している。
 「非営利団体・公的機関」においては、転入・転出者の方が新規採用者よりも多い。転出者は2000年代後半から減少傾向にある。転入者は2010年代に入ると、ほぼ横ばいに推移している。
 「大学等」では新規採用者よりも転入・転出者の方が多い。転入・転出者数は2008年頃までは増加傾向であったが、その後は横ばいとなり、近年は微増している。一方、新規採用者は、長期的に微減である。


【図表2-1-17】 研究者の新規採用・転入・転出者数
(A)総数
(B)企業
(C)非営利団体・公的機関
(D)大学等

注:
1)2011年までの「企業」は営利を伴う特殊法人・独立行政法人が含まれた「企業等」である。
2)2013年までの転入者数は、総数から新規採用者数を引いた数である。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表2-1-17


 部門間における転入研究者の流れを見る(図表2-1-18)。
 多くの研究者の転入先となっている部門は「大学等」部門である。一方、「企業」部門、「大学等」部門はそのほとんどが同部門に流れており、他部門への転入は少ない。
 また、「公的機関」部門や「非営利団体」部門については「大学等」部門へ転入している研究者が多い。
 転入者のうち博士号を持った研究者の割合を見ると、「公的機関」が最も大きく、30.0%である。「非営利団体」では26.2%であり、「企業」では3.9%となっている。なお、大学等については調査されていない。各部門での研究者のうち、博士号取得者の割合は「公的機関」では47.0%、「非営利団体」では35.6%、「企業」では4.4%である。いずれも部門でも転入研究者における博士号取得者の割合の方が小さい傾向にある。


【図表2-1-18】 部門間における転入研究者の流れ(2017年)

注:
1)「その他」とは、外国の組織から転入した者の他、自営業の者、無職の者(1年以上)を指す。その他の部門は国内の組織である。
2)2017年の各部門における研究者数(HC)は、企業:547,344人、公的機関:34,235人、大学等:326,233人、非営利団体:9,913人である。
3)四捨五入の関係上、合計が100%にならない場合がある。
4)大学等の転入者における博士号取得者の数値はない。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表2-1-18


 次に新規採用研究者の配属された部署での研究内容を示す(図表2-1-19(A))。
 まず、新規採用研究者数を部門別で見ると、「企業」が最も多く2.4万人、配属部署での研究内容は「工学」が58.3%、「理学」が23.2%を占めている。次いで新規採用研究者数の多いのは「大学等」であるが、「企業」の約1/3の0.7万人、配属部署での研究内容は、「保健」が最も大きく、53.0%、次いで「自然科学以外」が22.2%を占めている。
 また、新規採用研究者のうち博士号取得者の割合を見ると、「企業」では3.8%、「公的機関」では32.2%、「非営利団体」では23.7%となっている。転入研究者における博士号取得者の割合より低い部門は「企業」、「非営利団体」であり、高い部門は「公的機関」であるが、いずれの部門でもそれほどの差異はない。
 男女別で見ると「(図表2-1-19(B)、(C))、「企業」での新規採用研究者数が最も多く、「大学等」が続くが、差異は男性の方が大きく、女性の方が小さい傾向にある。また、「企業」における新規採用研究者の博士号取得者は女性の方が大きい(男性3.7%、女性4.6%)。


【図表2-1-19】 部門別で見た新規採用研究者の配属された部署での研究内容(2017年)
(A)全体
(B)男性研究者
(C)女性研究者

注:
大学等の新規採用者における博士号取得者の数値はない。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表2-1-19


 最後に、新規採用者、転入者における男女の状況を見る(図表2-1-20)。
 新規採用研究者では、いずれの部門においても女性と比べて男性の新規採用研究者が多い。特に「企業」部門でその状況は顕著であるが、男性、女性共に新規採用研究者数が増加しているのも「企業」部門である。女性の新規採用研究者の割合は2017年において、「企業」部門では約2割であり、「公的機関」部門、「大学等」部門では約3割である。いずれの部門でも、研究者に占める女性の割合よりも、新規採用に占める女性の割合の方が高いことから、女性研究者割合は今後も増加すると考えられる。
 転入研究者でも、各部門において女性と比べて男性の転入研究者が多い。女性の転入研究者の割合は2017年において、「企業」では約1割、「公的機関」では約2割、「大学等」では約3割である。


【図表2-1-20】 男女別研究者の新規採用・転入者
(A)新規採用研究者
(B)転入研究者

資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表2-1-20



(5)ここでのポストドクター等とは博士の学位を取得した者又は所定の単位を修得の上博士課程を退学した者(いわゆる「満期退学者」)のうち、任期付で採用されている者で、①大学や大学共同利用機関で研究業務に従事している者であって、教授・准教授・助教・助手等の学校教育法第 92 条に基づく教育・研究に従事する職にない者、又は、②独立行政法人等の公的研究機関(国立試験研究機関、公設試験研究機関を含む。)において研究業務に従事している者のうち、所属する研究グループのリーダー・主任研究員等の管理的な職にない者をいう。
(6)いわゆる新卒者。最終学歴修了後、アルバイトやパートタイムの勤務、大学や研究機関の臨時職員としての雇用などの経験のみの者が採用された場合も含む。なお、任期付研究員については9か月以上の任期があれば新規採用者となる。
(7)外部から加わった者(新規研究者を除く)
(8)転出者には退職者も含まれる。