1.4性格別研究開発費

ポイント

  • 2016年の日本の性格別研究開発費のうち「基礎研究」の割合は全体の15.2%である。「応用研究」は20.7%、「開発」が64.0%である。その割合は長期的に見て大きな変化は見られない。
  • 研究開発費を性格別に分類して見ると、他国と比較して、「基礎研究」が最も大きいのはフランスであり、「応用研究」が最も大きいのは英国であり、「開発」が最も大きいのは中国である。
  • 「企業」、「大学」、「公的機関」部門の研究開発費を性格別で見ると、日本の場合、「企業」は「開発」が約8割を占め、「大学」は「基礎研究」が約6割を占めている。「公的機関」は2000年代に入るまで「基礎研究」の増加、「開発」の減少という変化あったが、2000年代に入って「基礎研究」の割合は低下した。近年は「応用研究」の割合が微増している。なお、「大学」の性格別研究開発費の割合の推移に大きな変化は見られない。
  • 中国の「企業」は「開発」の割合が100%に近い状況になっている。「大学」については「応用研究」の割合が一定量あることが特徴である。また、「基礎研究」の増加、「開発」の減少といった研究開発費の性格の変化が顕著に見られる。

1.4.1各国の性格別研究開発費

 性格別研究開発費とは、基礎、応用、開発というおおまかな分類に分けた研究開発費を指す。この分類はOECDのフラスカティ・マニュアルによる定義に基づいて各国が分類している。そのため回答者による主観的推計が分類結果に少なからず影響していることを考慮する必要がある。以下に、最新版フラスカティ・マニュアル2015に掲載されている性格別の定義を簡単に示す。
 基礎研究(Basic research)とは、何ら特定の応用や利用を考慮することなく、主として現象や観察可能な事実のもとに潜む根拠についての新しい知識を獲得するために実施される、試験的あるいは理論的な作業である。
 応用研究(Applied research)とは、新しい知識を獲得するために企てられる独自の研究である。しかしながら、それは主として、特定の実用上の目的または目標を目指している。
 (試験的)開発(Experimental development)とは、体系的な取り組みであって、研究または実用上の経験によって獲得された既存の知識を活かすもので、新しい材料、製品、デバイスの生産、新しいプロセス、システム、サービスの導入、あるいは、これらの既に生産または導入されているものの大幅な改善を目指すものである。
 各国ともに上述した定義に基づいて、性格別の研究開発費が計測されていると思われるが、国によって使用されている名称が多少異なっている。たとえば、米国は「(試験的)開発」を「開発(Development)」と表現しているが、フランスは「試験的開発(Developpement experimental)」と試験的という言葉を明記している。
 ドイツは、最近は性格別研究開発費のデータを公表しておらず、特に「大学」部門での性格別研究開発費のデータはない。ただし、2001年から「企業」部門で性格別研究開発費の計測データが掲載されるようになった(OECDデータによる)。
 また、英国は2007年から性格別研究開発費の計測データが掲載されるようになった(OECDデータによる)。
 なお、日本の性格別研究開発費(18)は自然科学分野を対象に計測しており国全体の研究開発費総額ではない。また、韓国は2006年まで自然科学分野を対象にしていたが、2007年から全分野を対象にしている。
 図表1-4-1は主要国の研究開発費の性格別割合である。「基礎研究」が最も大きいのはフランス、「応用研究」が最も大きいのは英国、「開発」が最も大きいのは中国である。
 2016年(19)の日本の性格別研究開発費のうち「基礎研究」の割合は全体の15.2%、「応用研究」は20.7%、「開発」が64.0%である。その割合は長期的に見て大きな変化は見られない。
 米国は、性格別の割合が日本と似ているが、日本よりは「基礎研究」の割合が大きく16.9%、「応用研究」の割合が小さく19.7%である。「開発」は同程度であり、63.4%である。
 フランスは、他国と比較して「基礎研究」の割合が最も大きく、最新年では23.8%である。「応用研究」の割合は2010年頃まで増加しており、最新年では37.9%と、他国と比較しても大きい方である。
 英国では「応用研究」の割合が他国と比較しても最も大きく、最新年では44.3%を占める。
 中国は「基礎研究」の割合が小さく最新年では5.2%である。一方、「開発」の割合が大きく84.5%であり、他国と比較しても最も大きい。また、「開発」の割合は2000年代中頃から増加した後、近年は横ばいに推移している。
 韓国では、2000~2010年にかけて「基礎研究」の割合は増加、「応用研究」の割合は減少していた。2010年頃から、「基礎研究」の割合の減少、「応用研究」の割合の増加がみられ、「開発」の割合はほぼ横ばいに推移している。最新年の値はそれぞれ16.0%、22.5%、61.5%である。


【図表1-4-1】 主要国の性格別研究開発費の内訳 

注:
日本の研究開発費は自然科学のみ、韓国は2006年まで自然科学のみである。他の国の研究開発費は、自然科学と人文・社会科学の合計であるため、国際比較する際には注意が必要である。
<日本>年度の値を示している。
<米国>2015年は予備値、2016年は見積り値である。
<フランス>2004、2010年において時系列の連続性は失われている。
<英国>見積り値。
<中国>2009年において時系列の連続性は失われている。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<米国>NSF,“National Patterns of R&D Resources: 2015-16 Data
<フランス、英国、中国>OECD,“Research & Development Sta-tistics”
<韓国>国家科学技術知識情報サービス(webサイト)

参照:表1-4-1


1.4.2主要国の部門別の性格別研究開発費

 「企業」、「大学」、「公的機関」部門の研究開発費を性格別の割合で見る(図表1-4-2)。
 日本の「企業」は「開発」が最も多く、その割合も漸増傾向にあり、最新年では約8割を占めている。「大学」では「基礎研究」が最も多く約5割を占めている。2つの部門の性格別研究開発費の構成に大きな変化はない。「公的機関」は2000年代に入るまで「基礎研究」の増加、「開発」の減少という変化があったが、2000年代に入って「基礎研究」の割合は低下した。ただし、「公的機関」については、2001年に国営研究機関の一部と特殊法人が独立行政法人化により、特殊法人・独立行政法人となったことに留意されたい。
 米国の「企業」は「開発」の割合が多くを占め、「大学」では「基礎研究」が多くを占めている。「大学の「基礎研究」の割合は、2008年頃まで増加をしていたが、その後は「応用研究」、「開発」に増加が見られる。「公的機関」は「開発」が最も多い。
 フランスの「企業」は2000年代に入り、「開発」の減少、「応用研究」の増加が見られた。「大学」では、ほとんどが「基礎研究」であるが、2014年に割合が大きく低下した。詳細は不明であるが、計算方法の変化によるものと考えられる。
 英国の性格別研究開発費は見積り数値、もしくは推定値である。「企業」については近年「開発」が増加している。「公的機関」については2010年から性格別研究開発費の定義が変更されたため時系列比較をする際には注意が必要である。
 中国の「企業」は「開発」の割合が増加しており、100%に近い状況になっている。「大学」では「基礎研究」の増加、「開発」の減少といった変化が顕著に見られる。一方で、「応用研究」の割合が一定量で推移している。また、「公的機関」では、「開発」が最も大きいが、2000年代後半からは大きな変化は見られない。近年、「基礎研究」の増加が見られる。
 韓国の「企業」では「開発」が多くを占めている。「大学」は「基礎研究」が最も大きいが、他国と比較すると「応用研究」、「開発」の割合も大きい。「公的機関では、2000年代半ばから「基礎研究」の増加、「応用研究」の減少が見られる。


【図表1-4-2】 主要国の部門別の性格別研究開発費の内訳 

(A)日本
(a)企業 (b)大学 (c)公的機関

(B)米国
(a)企業 (b)大学 (c)公的機関

(C)フランス
(a)企業 (b)大学 (c)公的機関

(D)英国
(a)企業 (b)大学 (c)公的機関

(E)中国
(a)企業 (b)大学 (c)公的機関

(F)韓国
(a)企業 (b)大学 (c)公的機関

注:
日本の研究開発費は自然科学のみ、韓国は2006年まで自然科学のみである。他の国の研究開発費は、自然科学と人文・社会科学の合計であるため、国際比較する際には注意が必要である。
<米国>2015年は予備値、2016年は見積り値である。
<フランス>企業の1992、1997、2001、2004、2006年、大学の2000、2004、2014年及び公的機関の1992、1997、2000、2010年において時系列の継続性は失われている。
<英国>見積り値である。公的機関の2010年において時系列の連続性は失われている。
<中国>企業の2000、2009年、公的機関の2009年において時系列の連続性は失われている。企業は1999年値まで過小評価されたか、あるいは過小評価されたデータに基づいた。
<韓国>企業の2000~2006年、大学と公的機関の2006年までは定義が異なる。2007年において時系列の連続性は失われている。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<米国>NSF,“National Patterns of R&D Resources: 2015-16 Data Update”
<フランス、英国、中国、韓国>OECD,“Research & Development Statistics”

参照:表1-4-2



(18)日本の研究開発統計調査「科学技術研究調査」での性格別研究開発費の定義は以下のとおりであり、対象は自然科学分野のみである。
基礎研究:特別な応用、用途を直接に考慮することなく、仮説や理論を形成するため、又は現象や観察可能な事実に関して新しい知識を得るために行われる理論的又は実験的研究をいう。
応用研究:基礎研究によって発見された知識を利用して、特定の目標を定めて実用化の可能性を確かめる研究や、既に実用化されている方法に関して、新たな応用方法を探索する研究をいう。
開発研究:基礎研究、応用研究及び実際の経験から得た知識の利用であり、新しい材料、装置、製品、システム、工程等の導入又は既存のこれらのものの改良をねらいとする研究をいう。
(19)この節の日本は、国際比較の際には「年」を用いている。本来は「年度」である。日本のみを記述している節では「年度」を用いている。