コラム:人文・社会科学系学生の進路・就職状況(修士・博士)

 科学技術指標の「高等教育」の章では、学生の進路状況として主に「理工」系(理学系と工学系)に注目している。本コラムでは「人文・社会科学」系(人文科学系と社会科学系)学生に着目し、特に修士課程、博士課程修了者の進路状況を見る。

1.人文・社会科学系学生の進路状況

(1)修士課程修了者の進路

 「人文・社会科学」系修士課程修了者の進路を長期的に見ると(図表3-3-10)、1980年代では、「就職者」、「進学者」ともに約30%であったが、「就職者」の割合が増加し、2016年では56.3%となっている。他方、「進学者」の割合は減少し、2016年では13.0%となった。また、「その他」の割合が増加する一方(1981年:17.8%→2016年:26.6%)で、「不明」の割合は減少している。
 なお、ここでの「その他」とは学校基本調査における「専修学校・外国の学校等入学者」、「一時的な仕事に就いた者」、「左記以外の者」の合計である。


【図表3-3-10】人文・社会科学系修士課程修了者の進路

注:
図表3-3-1と同じ。
資料:
文部科学省、「学校基本調査報告書」

参照:表3-3-10


(2)博士課程修了者の進路

 「人文・社会科学」系博士課程修了者の進路を長期的に見ると(図表3-3-11)、1981年では55.9%であった「就職者」は2005年頃まで減少が続いていたが、その後は増加し2016年では、45.1%となった。ただし、「無期雇用」は全体の29.8%、「有期雇用」者は15.3%である。また、「その他」の割合は2000年頃まで増加していたが、その後は微減している。「不明」の割合は増減を繰り返しながら横ばいに推移している。


【図表3-3-11】人文・社会科学系博士課程修了者の進路

注:
図表3-3-1と同じ。
資料:
文部科学省、「学校基本調査報告書」

参照:表3-3-11


2.人文・社会科学系学生の就職状況(産業分類別)

(1)修士課程修了者のうちの就職者

 「人文・社会科学」系修士課程修了者のうちの就職者を産業分類別に見ると(図表3-3-12)、「非製造業」への就職者が多い。1980年代前半では「教育」及び「サービス業関連(教育、研究以外)」が30%台で推移していた。その後は「教育」が継続して減少する一方で「サービス業関連(教育、研究以外)」は漸増傾向が続き、2016年では42.8%となった。「教育」は10.0%である。また、「その他」については2000年代において増加した後は35~40%で横ばいに推移している。「製造業」の割合は少なく、増減を繰り返しながら約10%に推移している。
 なお、「人文・社会科学」系修士課程修了者の場合、「サービス業関連(教育、研究以外)」において多くを占めているのは「専門・技術サービス業」であり、財務及び会計に関する監査、調査、相談のサービス等を指す。
 また、非製造業の「その他」には、「公務」、「卸売業、小売業」、「金融業、保険業」などが含まれており、「人文・社会科学」系修士課程修了者の場合、最も大きい産業は「公務」である。

【図表3-3-12】人文・社会科学系修士課程修了者のうちの就職者(産業分類別の就職状況)

注:
図表3-3-4と同じ。
資料:
文部科学省、「学校基本調査報告書」

参照:表3-3-12


(2)博士課程修了者のうちの就職者

 「人文・社会科学」系博士課程修了者のうちの就職者を産業分類別に見ると(図表3-3-13)、1980年代前半ではでは「教育」が90%弱を占めていたが、その後は減少が続き、2016年では56.6%となった。その一方で、「サービス業関連(教育、研究以外)」及び「その他」は継続して増加し、2016年では「サービス業関連(教育、研究以外)」は17.3%、「その他」は16.8%となった。「研究」については、近年では7~8%台で推移している。

【図表3-3-13】人文・社会科学系博士課程修了者のうちの就職者(産業分類別の就職状況)

注:
図表3-3-4と同じ。
資料:
文部科学省、「学校基本調査報告書」

参照:表3-3-13


3.まとめ

 「人文・社会科学」系修士課程修了者は、博士を目指すよりも就職する者が増えている。その就職先は非製造業が多く、サービス業関連に集中している。また、1980年代から1990年代にかけて、サービス業関連の中でも、学校教育に携わる者は減少し、他のサービス業関連に就職している者が増えるといった現象が起きた。
 「人文・社会科学」系博士課程修了者は就職する者が増えたとはいえ、全体の半数しか就職できていない。また、有期雇用が就職者の3割を占めている。卒業後すぐに安定した職業に就けているとは言いがたい結果である。就職先を見ると、非製造業が多くを占めている。当初は学校教育に携わる者が圧倒的に多かったが、他のサービス業に就職する者も増えており、対して学校教育に携わる者は継続的に減っている。
 今回、初の試みとして、「人文・社会科学」系学生の進路状況に目を向けたが、「理工」系の修士、博士課程修了者よりも、課程修了後すぐに安定したポストに就いていないことが分かった。また、「人文・社会科学」系の博士課程修了者は、「理工」系の博士課程修了者と比較すると、まだ多様な産業に就職できていないことが分かった。
 日本は学士号取得者では「人文・社会科学」系の学生が多いが、修士号・博士号取得者では、他国と比較しても、その数が少ない状況(3.4節参照のこと)にある。「人文・社会科学」系の修士号や博士号を持つ高度知識人材の活用が進まないと、この傾向は更に進む可能性が示唆される。

(神田由美子)