1.3.2企業部門の研究開発費

ポイント

  • 日本の企業部門の2014年の研究開発費は13.6兆円である。2009年以降、漸増傾向にあったが、2013年と比較すると、7.0%の増加である。米国の2013年では33.1兆円となり、他国と比較すると第1位の規模である。中国は、2000年代に入り大きく伸びており、2014年では29.8兆円となっている。
  • 2000年を1とした場合の各国通貨による企業部門の研究開発費の名目額と実質額の指数を見ると、名目額では、日本の最新年値は1.3となっているが、その伸びは他国と比較すると少ない。米国、ドイツ、フランスは1.6、英国は1.7である。中国の最新年値は18.7であり、急激な伸びを示している。また、韓国の伸びも4.9と著しい。一方、実質額では、日本の最新年値は1.5であり、米国、ドイツ、フランス、英国を上回っている。中国、韓国は名目額よりは少ないが、他国と比較すると際だって大きな伸びを示している。
  • 主要国における企業部門の研究開発費の対GDP比を見ると、日本の2014年の対GDP比率は2.77%である。韓国は2010年から日本を上回り、2014年値は3.36%主要国の中では著しく大きい値となっている。ドイツについては、1990年代の中頃から緩やかに増加傾向が見え、米国と同程度の比率となっている。
  • 研究開発費における製造業と非製造業の重みは、国によって異なる。日本は製造業の占める割合が大きい。
  • 日本における政府から企業への直接的支援は長期的に減少傾向である。間接的支援は増加傾向にあるが、その値は年によって大きく変化している。
  • 他国では、直接的支援が大きいのはロシア、スロベニア、米国などであり、間接的支援が大きいのはフランス、韓国、ベルギー、カナダなどである。
(1)各国企業部門の研究開発費

 企業部門の研究開発費は各国の研究開発費総額の大部分を占める。従って企業部門での値の増減が、国の総研究開発費に及ぼす影響は大きい。
 図表1-3-3(A)を見ると、日本の2014年(9)の研究開発費は13.6兆円である。2009年以降、漸増傾向にあったが、2013年と比較すると7.0%の増加である。
 米国については2008年をピークに減少していたが、近年、増加傾向が見える。2013年では33.1兆円となり、他国と比較すると第1位の規模である。
 ドイツは長期的に見ると増加傾向にあり、最新年では7.6兆円となっている。フランスも漸増している。英国は2000年代に入ると横ばいに推移していたが、ここ数年増加を見せている。中国は、2000年代に入り大きく伸びた。2012年ではEUを上回り、2014年では29.8兆円と米国に迫る勢いで増加している。また、韓国も継続して増加しており、フランス、英国を上回り、2014年では5.9兆円となっている。
 次に、2000年を1とした場合の各国通貨による研究開発費の名目額と実質額の指数を示し、2000年からの伸びを見る(図表1-3-3(B))。
 名目額で見ると、日本の最新年値は1.3となっているが、その伸びは他国と比較すると少ない。米国、ドイツ、フランスは1.6、英国は1.7である。中国の最新年値は18.7であり、急激な伸びを示している。また、韓国の伸びも4.9と著しい。
 一方、実質額で見ると、日本の最新年値は1.5であり、米国、ドイツ、フランス、英国を上回っている。中国、韓国は名目額よりは少ないが、他国と比較すると際だって大きな伸びを示している。


【図表1-3-3】 主要国における企業部門の研究開発費
(A)名目額(OECD購買力平価換算)

(B)2000年を1とした各国通貨による企業部門の研究開発費の指数

注:
1)各国企業部門の定義は図表1-1-4を参照のこと。
2)研究開発費は人文・社会科学を含む(韓国は2006年まで自然科学のみ)。
3)購買力平価は、参考統計Eと同じ。
4)実質額の計算はGDPデフレータによる(参考統計Dを使用)。
<日本>年度の値を示している。
<米国>2013年は予備値。
<ドイツ>1990年までは旧西ドイツ、1991年以降は統一ドイツ。1982、1984、1986、1988、1990、1992、1994、1996、1998、2014年値は国家の見積もり又は必要に応じてOECDの基準に一致するように事務局で修正された推定値。1993年値は他のクラスを含んでいる。2014年は暫定値。
<フランス>1992、1997、2001、2004、2006年値は、前年までのデータとの継続性が損なわれている。2014年値は暫定値。
<中国>1991~1999までは過小評価されたか、あるいは過小評価されたデータに基づいた。2000年、2009年値は前年までのデータとの継続性が損なわれている。
<英国>企業の1986、1992、2001年値は前年までのデータとの継続性が損なわれている。2014年値は国家の見積もり又は必要に応じてOECDの基準に一致するように事務局で修正された推定値であり暫定値。
<EU>各国資料に基づいたOECD事務局の見積もり・算出。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<米国>NSF,“S&E Indicators 2016”
<ドイツ、フランス、英国、中国、韓国、EU>OECD,“Main Science and Technology Indicators 2015/2”

参照:表1-3-3


 各国の経済規模の違いを考慮して研究開発費を比較するために、企業部門における研究開発費の対GDP比率を見る(図表1-3-4)。日本の2014年の対GDP比率は2.77%である。1990年以降、トップクラスにあったが、2010年からは韓国が日本を上回った。なお、韓国の2014年値は3.36%となり、主要国の中では著しく大きい値となっている。
 米国は長期的に見ると、横ばいに推移している。ドイツについては、1990年代の中頃から緩やかに増加傾向が見え、米国と同程度の比率となっている。英国、フランスについても長期的に見れば横ばいに推移している。一方、中国の値は急激に上昇しており、最新年では英国、EU、フランスの値を超えており、2014年では1.58となっている。


【図表1-3-4】 主要国における企業部門の研究開発費の対GDP比率の推移

注:
1)GDPは、参考統計Cと同じ。
2)図表1-3-3と同じ。
資料:
図表1-3-3と同じ。

参照:表1-3-4


(2)主要国産業分類別の研究開発費

 主要国における企業部門の製造業と非製造業の研究開発費について、各国最新年からの3年平均で見ると、製造業の割合は日本、ドイツ、中国、韓国では9割弱である。他方、米国、英国では製造業の割合が7割、フランスは7割強であり、非製造業の重みが他国と比較すると大きい(図表1-3-5)。


【図表1-3-5】 主要国における企業部門の製造業と非製造業の研究開発費の割合 

注:
1)各国企業部門の定義は図表1-1-4を参照のこと。
2)米国の企業部門の研究開発費には、NAICSにおける「Agriculture, Forestry, Fishing and Hunting」及び「Public Administration」は除かれている。よって、他国の非製造業と異なっているため、国際比較する際は注意が必要である。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<米国>NSF,“S&E Indicators 2016”
<ドイツ、フランス、英国、中国、韓国>OECD,“Structural Analysis (STAN) Databases”

参照:表1-3-5


 図表1-3-6は、日本、米国、ドイツの産業分類別研究開発費を示したものである。ここでいう産業分類とは、各国が国際標準産業分類を参照して、企業部門の研究開発統計調査のために設定した産業分類である。各国の標準産業分類はISIC(国際標準産業分類)に概ね対応するように設定されているが、やはり国によって多少の差異が出てくる。そのため、ここでは産業ごとに比較するのではなく、その国の研究開発費における産業構造を見ることとする。
 まず、日本の産業分類別の研究開発費を見ると、製造業では、「輸送用機械製造業」、「情報通信機械器具製造業」が大きく、ついで「医薬品製造業」が大きい。非製造業では、「学術研究、専門・技術サービス業」が大きい。
 米国について、産業分類別で見ると、製造業では、「コンピューター、電子製品工業」、「化学工業」、また「輸送用機械工業」の値が大きい。非製造業では、「情報通信業」、「専門、科学技術サービス業」が大きい。「情報通信業」については、2009年以降増加している。
 ドイツは製造業、非製造業ともに増加しているのがわかる。産業分類別で見ると「輸送用機械製造業」が特に大きく、次いで「コンピューター・精密電子機器製造業」が大きい。非製造業を見ると、「専門的科学技術活動」が大きく、かつ増加している。


【図表1-3-6】 日米独の産業分類別研究開発費
(A)日本
(B)米国
(C)ドイツ

注:
<日本>産業分類は日本標準産業分類を基に科学技術研究調査の産業分類を使用。
<米国>産業分類は北米産業分類(NAICS)を使用。
<ドイツ>産業分類はドイツ産業分類(Klassifikation der Wirtschaftszweige)を使用。:図表1-3-5と同じ。
資料:
ドイツはStifterverband Wissenschaftsstatistik, “FuE-Datenreport 2013”、その他の国は図表1-3-5と同じ。

参照:表1-3-6


(3)企業の売上高当たりの研究開発費

 図表1-3-7は日本と米国における企業部門の売上高当たりの研究開発費の割合の推移である。これを全産業と製造業のそれぞれについて示している。
 日本の製造業の値は全産業の値より高く、製造業の方が非製造業より研究集約的である。一方、米国の値は、2000年頃に製造業と全産業の値が同程度になったが、その後は製造業の方が全産業より高い値となっている。


【図表1-3-7】 企業部門の売上高当たりの研究開発費

注:
<日本>
 1)年度の値を示している。
 2)売上高あたりの研究開発費の全産業は2001年度値から「金融保険業を除く全産業」。
 3)産業分類は日本標準産業分類を基に科学技術研究調査の産業分類を使用している。
 4)産業分類の改定に伴い、科学技術研究調査の産業分類は1996、2002、2008、2013年版において変更している。
<米国>
 1)産業分類は1998年まではSIC、1999年からはNAICSを使用。
 2)2001年からFFRDCsを除いている。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<米国>NSF,“R&D Industry 各年”,“Business Research and De-velopment and Innovation”

参照:表1-3-7


(4)企業への政府による直接的・間接的支援

 企業の研究開発のための政府による支援の状況を示す。
 「直接的支援(企業の研究開発費のうち政府が負担した金額)」及び「間接的支援(企業の法人税のうち、研究開発税制優遇措置により控除された税額)」を対GDP比で見ると(図表1-3-8(A))、日本は間接的支援の方が大きい。他国を見ると、直接的支援が最も大きいのはロシアであり、次いでスロベニア、米国、ハンガリーも大きい。間接的支援が大きいのはフランス、韓国、ベルギー、カナダなどである。
 なお、韓国やフランスについては直接的支援、間接的支援ともに大きい。
 次に、日本についての政府からの直接的、間接的支援の推移を見ると(図表1-3-8(B))、政府から企業への直接的支援は長期的には減少傾向にあり、近年は横ばいである。一方、間接的支援は、2004年に著しく増加し、その後2008年には減少し、2013年には再び増加している。
 研究開発税制優遇措置額の変化には、いくつかの要因が考えられる。一つは研究開発税制優遇措置の変更である。大きな制度改正は数年ごとにあるが、細かな制度改正はほぼ毎年実施されている。二つめは特定企業の税制優遇措置額の変化である。例えば、連結法人の法人税額の特別控除額について、2013年のデータを見ると、上位10社で全体の70%を占めており、対象年の特定の企業の研究開発税制優遇措置額によって全体の額が大きく変化する事が分かる。最後に、市場経済(景気・不景気)の変化である。税法上の所得(=益金?損金)がない場合、優遇税制措置の適用が発生しない。
 間接的支援の2004年の急増については、2003年に導入された「試験研究費の総額にかかる税額控除制度」による制度上の税額控除額の増加が主な理由と考えられ、この制度を活用する企業が2004年に増えたと推測される。2008年の減少については、法人税全額の減少が、控除額の減少につながったと考えられる。2013年の増加については、特定企業による税制優遇措置額の増加によるものと考えられる。


【図表1-3-8】 企業の研究開発のための政府による直接的支援、間接的支援
(A)主要国比較(2013年)

注:
1)直接的支援とは、企業の研究開発費のうち政府が負担した金額の対GDP比率
2)間接的支援とは、企業の法人税のうち、研究開発税制優遇措置により控除された税額の対GDP比率
3)各国からの推計値 (NESTIが行った研究開発税制優遇調査による)、予備値も含まれる。
4)ロシア、アイスランドは2011年、米国、ベルギー、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイスは2012年。その他の国は2013年。
5)エストニア、ドイツ、ニュージーランド、スウェーデン、スイスは研究開発税制優遇のデータが提供されなかった。
資料:
OECD “STI Scoreboard 2015”

参照:表1-3-8


(B)日本の推移

資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」、国税庁、「会社標本調査」、2011年はOECD, “STI Scoreboard 2013”、2012年はOECD, “R&D Tax Incentive Indicators”、2013年はOECD “STI Scoreboard 2015”

参照:表1-3-8



(9)この節の日本は、国際比較の際には「年」を用いている。本来は「年度」である。日本のみを記述している節では「年度」を用いている。