5.4研究開発とイノベーションの関係

ポイント

  • 日本のプロダクト・イノベーション実現企業の割合は主要国と比較すると低く、減少もしているが、ドイツ、英国、韓国でも減少している。
  • 一方、プロセス・イノベーション実現企業の割合については、主要国と比較すると低いが、日本のみが増加している。
  • より新規性の高いプロダクト・イノベーションを実現した企業は研究開発を実施している割合が高い。

(1)イノベーション実現企業割合の国際比較

 科学技術・学術政策研究所では、常用雇用者数10人以上の企業を対象とした我が国の企業のイノベーション活動の実態や動向を把握することを目的した「第3回全国イノベーション調査」を実施し、調査結果をとりまとめた(6)。この節では日本のイノベーション活動の状況をいくつか紹介する。
 全国イノベーション調査は総務省承認の政府統計で、科学技術政策研究所(2013年7月に科学技術・学術政策研究所に改組)が2003年1月に統計報告の徴集として、我が国で初めて実施した。その後、一般統計として2009年7月に第2回調査を、2013年1月に第3回調査をそれぞれ実施した。いずれの回も、「オスロ・マニュアル(7)」に準拠している。さらに、OECD等での国際比較が、EU加盟国等のCommunity Innovation Survey (CIS)(8)をベースとして行われることから、第1回調査と第3回調査の調査票と調査方法は、結果の国際比較性を高めるためにCISにも準拠した(9)。よって、時系列比較をする際には第1回調査(調査対象期間1999-2001年)と第3回調査(調査対象期間2009-2011年度)を比較している。
 オスロ・マニュアルに基づくイノベーションの定義として「自社にとって新しいものや方法を導入すること」、「他社が導入していても、自社にとって新しければ良い」ことを前提にし、第3回調査では4つのイノベーションの状況を見ている(図5-4-1)。過去2回の調査では、①プロダクト/②プロセス・イノベーションの実現状況等を調査し、第3回調査では、③組織/④マーケティング・イノベーションの実現状況等も調査した。


【図表5-4-1】 イノベーションの内容

資料:
文部科学省科学技術・学術政策研究所、「第3回全国イノベーション調査報告」


 図表5-4-2は、各国の調査においてイノベーションを実現した企業の割合である。
 まず、プロダクト・ノベーションを実現した企業の割合を、各国の新しい調査時期で見ると(図表5-4-2(A))、日本は最も低く15.8%である。最も高いのはドイツであり41.5%となっている。また、以前の調査時期と比較してみると、フランス以外の国、全てが減少しており、最も大きく減少したのは韓国である。
 次にプロセス・イノベーションを実現した企業の割合を各国の新しい結果で見ると(図表5-4-2(B))、日本はドイツ、フランスよりも低いが英国よりは高く15.6%である。以前の調査時期と比較してみると、日本のみが増加し、他国は全て減少している。
 次に組織イノベーションを実現した企業の割合を見ると(図表5-4-2(C))、日本は他国と比較すると低く、28.3%である。最も高いのはドイツであり、46.4%である。
 また、マーケティング・イノベーションを実現した企業の割合を見ると(図表5-4-2(D))、日本の値は22.5%であり、ドイツ、フランスよりは低いが英国よりは高い。
 日本の各イノベーション実現企業の割合は主要国と比較すると低いが、プロセス/マーケティング・イノベーション実現企業の割合については英国を上回っている。なお、プロセス・イノベーションについては以前の調査と比較すると日本のみが増加している。


【図表5-4-2】 主要国のイノベーションを実現した企業の割合
(A)プロダクト・イノベーションを実現した企業の割合

(B)プロセス・イノベーションを実現した企業の割合

(C)組織イノベーションを実現した企業の割合

(D)マーケティング・イノベーションを実現した企業の割合

注:
1)日本は「年度」、他国は「年」である。
2)中国、米国のデータは新しい方の結果のみを掲載している。
3)数値は母集団での全企業に占める割合の推計値である。日本の数値は国際比較のために他国と同様の基準に合わせて、CIS2010の中核対象産業のみを含めた全産業(中核)の推計値である。また、韓国の値は製造業であり、プロダクト・イノベーションは製品のみを対象としている。
資料:
1)文部科学省科学技術・学術政策研究所、「第3回全国イノベーション調査報告」
2)ドイツ、フランス、英国、韓国の2002-2004年値、日本の1999-2001年値はOECD,“Innovation in Firms”から引用した。
3)米国、中国、韓国の数値はOECD Science, Technology and Scoreboard 2013から引用した。なお、米国の数値は2010 Business R&D and Innovation Survey(BRDIS;調査対象年2008年-2010年)の結果であり、中国の数値は Industrial Enterprises Innovation Survey(調査対象年2004年-2006年)の結果であり、韓国の数値は2008 Korean Innovation Survey(調査対象年 2005年-2007年)の結果である。
4)英国、フランス、ドイツの数値はEurostat database に収録されているCIS2010(調査対象年2008年-2010年)の結果から引用した。

参照:表5-4-2


(2)日本のイノベーション実現企業における研究開発実施状況

 研究開発と関係の強いと考えられるプロダクト/プロセス・イノベーション実現企業を対象とし、研究開発の実施状況を見る(図表5-4-3)。
 プロダクト・イノベーションについて、市場にとっては新しくないものの「自社にとってのみ新しい」と、自社にとって新しいのはもちろんのこと「市場にとって(も)新しい」に分類し、研究開発の実施状況を見ると、「自社にとってのみ新しいプロダクト・イノベーション実現企業」の場合は34.1%であるが、より新規性の高い「市場にとって新しい」プロダクト・イノベーション実現企業が研究開発を実施した割合は74.4%である。
 また、プロセス・イノベーション実現企業の場合は44.0%が研究開発を実施している。


【図表5-4-3】日本のイノベーション実現企業における研究開発の実施状況

注:
調査対象期間は2009-11年度である。
資料:
文部科学省科学技術・学術政策研究所、「第3回全国イノベーション調査報告」

参照:表5-4-3

 以上に示した各イノベーション実現企業の割合は、企業の規模を考慮しない企業数ベースの集計結果であり、企業数の多い中小企業の状況がより強くデータに表れている。これとは別の見方として、各国における規模別の企業数の分布の違いを考慮した集計、あるいは直接的に企業の規模による重みを付けた集計も考えられるが、そのような集計を国際的に整合性のある形で行うためには、今後の研究の進展が望まれる。



(6)科学技術・学術政策研究所、NISTEP REPORT No.156「第3回全国イノベーション調査報告書」(2014.3)。
(7)オスロ・マニュアルは、イノベーション・データの収集と解釈のためのガイドラインで、最新版の第3版は、OECDと欧州統計局(Eurostat)が共同で作成した。
(8)EU加盟国を含む欧州経済領域(EEA)協定締結国は、European Commission Regulation No. 1450/2004により、調査の実施を前提としたイノベーションに関する所定の指標を、欧州委員会へ提供することが義務づけられている。これら欧州諸国では、1994年から定期的にCISを実施している。CISもオスロ・マニュアルに準拠しており、その調査票(CIS harmonised survey questionnaire)や調査方法(CIS Methodological Recommendation)を統一して調査を実施している。なお、OECD等が国際比較を行うために各国からデータを収集する際には、CISの調査事項が参照される。
(9)第2回調査は当研究所におけるイノベーション研究での必要性を重視したことから、オスロ・マニュアルには準拠したが、CISへの準拠度合いは弱かった。