2.1.5研究者の流動性

 研究者の流動性を高めることは、知識生産の担い手である研究者の能力の活性化を促すとともに、労働現場においても活力ある研究環境を形成すると考えられる。

(1)米国での博士号保持者の出身状況

 研究者の流動性、もしくは国際性を表すための指標として、外国人研究者の数といった指標が考えられる。しかしながら、日本においては、外国人研究者数は計測されていない。また、米国についてもScientists & Engineers といった職業分類で見た場合での外国人のデータはあるが、狭義の研究者についての数値はない。そこで、この節では、データが利用可能な米国の博士号保持者のうちの外国人の状況を見る。
 図表2-1-13を見ると、2010年の米国における博士号保持者のうち、36.6%の47万人が外国出生者である。「工学」分野の博士号を持っている外国出生者が一番多く、56.5%を占めている。また、「コンピューター・数学科学」分野も51.7%と多い。
 次に、米国において、博士号を保持している者がどの国・地域から来て、どの専門分野で雇用されているかを見ると(図表2-1-14)、全体の雇用者のうち、30.9%が外国出身の人材である。そのうち、多いのはアジア地域出身者であり、全体のうち21.0%である。
 職業分類別に見ると、アジア地域出身者が多いのは「コンピュータ・情報科学」分野であり、42.0%となっている。また、「工学」分野も41.3%とアジア地域からの出身者が多い。
 米国では、「工学」、「コンピューター・数学科学」分野で、博士号を保持する外国出生者が多く、かつ米国で雇用されている者も多い。


【図表2-1-13】 米国における分野別博士号保持者のうちの外国出生者比率(2010年)

資料:
NSF,“SESTAT PUBLIC 2010” webサイト

参照:表2-1-13


【図表2-1-14】 米国における出身地域別、職業分野別、博士号保持者の雇用状況(2013年)

資料:
NSF,“Survey of Doctorate Recipients”

参照:表2-1-14


(2)ポストドクターの外国人割合

 次にポストドクターの外国人割合を見る。図表2-1-15は日本の大学・公的機関におけるポストドクターに占める外国人割合を示したものである。また、ここでいう分野とは、各ポストドクターが在籍している研究室の主たる研究分野を指す。
 全体での外国人比率は23.4%である。分野別に見ると、「工学」分野での外国人割合が39.1%と最も多く、次いで「理学」が23.1%となっている。


【図表2-1-15】 日本の大学・公的機関におけるポストドクターの雇用状況
(研究分野別外国人比率)(2012年12月在籍者)

注:
1)ここでのポストドクター等とは博士の学位を取得後、任期付で任用される者であり、①大学等の研究機関で研究業務に従事している者であって、教授・准教授・助教・助手等の職にない者、②独立行政法人等の研究機関において研究業務に従事している者のうち、所属する研究グループのリーダー・主任研究員等でない者を指す。(博士課程に標準修業年限以上在学し、所定の単位を修得の上退学した者(いわゆる「満期退学者」)を含む)。
2)研究分野はポストドクター等の在籍研究室の主たる分野。
3)国籍不明者13人を除く。
資料:
科学技術・学術政策研究所、文部科学省科学技術・学術政策局人材政策課、「ポストドクター等の雇用・進路に関する調査-大学・公的研究機関への全数調査(2012年度実績)-」

参照:表2-1-15


 図表2-1-16は米国の大学におけるポストドクターに占める外国人(Temporary visa holders)割合を示したものである。また、ここでいう分野とは、各ポストドクターの所属機関の分野である。
 全体での外国人の比率は52.3%と半数以上である。分野別に見ると「工学」分野が61.9%と最も高く、次いで、「物理学」分野が58.1%となっている。


【図表2-1-16】 米国の大学におけるポストドクターの雇用状況(研究分野別外国人比率)(2013年)

注:
1)ここでのポストドクターとは以下の資格の両方を満たしている者。
 ①最近の5年以内に授与された一般の博士号取得者で、博士号またはそれに相当(例えば、SCD(Doctor of Science)またはDEng(Doctor of Engineering))、医療や関連分野の第一専門職学位(MD(Doctor of Medicine)、DDS(Doctor of Dental Science)、DO(Doctor of Osteopathic Medicine/Osteopathy)、またはDVM(Doctor of Veterinary Medicine))、外国の米国の博士号に相当する者。
 ②一般に5年から7年までの期間限定任用であり、主に学問や研究のためのトレーニングをしている者、機関のユニットに所属するシニアスカラー(senior scholar)の監督の下で働いている者。
2)研究分野はポストドクターの所属機関の分野。
資料:
NSF,“Graduate Students and Postdoctorates in Science and Engineering: 2013”

参照:表2-1-16


(3)日本の研究者の部門間の流動性

 日本の研究者の新規採用(4)、転入(5)、転出(6)状況を見てみる(図表2-1-17)。2014年に全国で採用された研究者は6.3万人である。内訳は新規採用2.8万人、転入が3.6万人である。一方、転出者は5.4万人である。新規採用者は2009年をピークに減少していたが、2012年以降、微増に転じている。
 部門別に見ると、「企業」では新規採用者が最も多かったが、2011年から転出者が最も多くなっている。また、新規採用者は2009年をピークに減少し続けていたが、2012年以降、微増に転じている。
 「非営利団体・公的機関」においては、転入・転出者の方が新規採用者よりも多い。転出者は2000年代後半から転入者は長期的に減少傾向にある。
 「大学等」では新規採用者よりも転入・転出者の方が多い。転入・転出者数は2008年頃までは増加傾向であったが、それ以降は、転入者・転出者も横ばいとなった。しかし、近年、転出者については増加傾向にある。一方、新規採用者は、ほぼ横ばいに推移している。


【図表2-1-17】 研究者の新規採用・転入・転出者数
(A)総数
(B)企業
(C)非営利団体・公的機関
(D)大学等

注:
2011年までの「企業」は営利を伴う特殊法人・独立行政法人が含まれた「企業等」であった。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表2-1-17


 次に、この転入した研究者はどこから来たのかを、部門ごとに2004年と最新年で比較して見る(図表2-1-18)。
 2014年に、「企業」に転入した研究者のうち、会社から転入してきた研究者は94.9%とかなりの割合を占めている。そのうち、37.2%は親子会社からの転入である。2004年と比較すると、会社から転入してきた研究者の割合が減少し、親子会社からの転入者は増加した。
 「非営利団体・公的機関」は、同部門からの転入してきた研究者が55.4%と最も多く転入してきている。次いで多いのが、会社からの転入であり21.6%である。
 「大学等」は、同部門から43.3%の研究者が転入してきているが、他部門からの転入も多く、「非営利団体・公的機関」からの割合は39.1%と同規模になっている。「大学等」は「非営利団体・公的機関」から転入してきた研究者の割合が大きく、かつ増加もしている。
 各部門ともに、同部門からの転入が多く、部門間での研究者の流動性が高まっているとは言い難い状況になっている。


【図表2-1-18】 転入研究者数の転入元別内訳
(A)企業
(B)非営利団体・公的機関
(C)大学等

注:
2011年までの「企業」は営利を伴う特殊法人・独立行政法人が含まれた「企業等」であった。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表2-1-18



(4)いわゆる新卒者。最終学歴修了後、アルバイトやパートタイムの勤務、大学や研究機関の臨時職員としての雇用などの経験のみの者が採用された場合も含む。なお、任期付研究員については9か月以上の任期があれば新規採用者となる。
(5)外部から加わった者(新規研究者を除く)。
(6)転出者には退職者も含まれる。