1.4性格別研究開発費

ポイント

  • 性格別研究開発費とは、総研究開発費を基礎、応用、開発に分類したものであるが、日本は自然科学分野のみの研究開発費を分類している。
  • 2012年の日本の性格別研究開発費のうち基礎研究の割合は全体の15.1%である。また、各国の最新年の性格別研究開発費のうち、基礎研究の割合が大きい国はフランスであり、全体の24.4%である。一方、一番小さい国は中国で、全体の4.8%である。
  • 研究開発費を性格別に分類して見ると、他国と比較して、基礎研究が最も大きいのはフランスであり、応用研究が最も大きいのは英国であり、開発が最も大きいのは中国である。

1.4.1各国の性格別研究開発費

 性格別研究開発費とは、基礎、応用、開発というおおまかな分類に分けた内部使用研究開発費を指す。この分類はOECDのフラスカティ・マニュアルからなる定義に基づいて各国が分類している。そのため回答者による主観的推計が少なからず影響していることを考慮する必要がある。以下に、フラスカティ・マニュアルに掲載されている性格別の定義を簡単に示す。
 基礎研究(Basic research)とは何ら特定の応用や利用を考慮することなく、主として現象や観察可能な事実のもとに潜む根拠についての新しい知識を獲得するために企てられる、試験的、あるいは理論的な作業である。
 応用研究(Applied research)とは新しい知識を獲得するために企てられる独自の探索である。しかしながら、それは主として、特定の実際上の目的または目標を目指して行われる。
 (試験的)開発(Experimental development)とは体系的な作業であって、研究または実際上の経験によって獲得された既存の知識を活かすもので、新しい材料、製品、デバイスの生産、新しいプロセス、システム、サービスの導入、あるいは、これらの既に生産または導入されているものの実質的な改善を目指すものである。
 各国ともに上述した定義に基づいて、計測されていると思われるが、国によって使用されている名称が多少異なっている。たとえば、米国は「(試験的)開発」を「開発(development)」と表現しているが、フランスは「試験的開発Développement expérimental」と試験的という言葉を明記している。
 ドイツは以前より、厳密な性格別研究開発費のデータを公表しておらず、特に「大学」部門での性格別研究開発費のデータはない。ただし、2001年から「企業」部門で性格別研究開発費の計測データが掲載されるようになった(OECDデータによる)。
 また、英国は2007年から性格別研究開発費の計測データが掲載されるようになった(OECDデータによる)。
 なお、日本の性格別研究開発費(11)は自然科学分野を対象に計測しており国全体の研究開発費総額ではない。また、韓国は2006年まで自然科学分野を対象にしていたが、2007年から全分野を対象にしている。
 図表1-4-1は主要国の研究開発費を性格別に分類した割合である。基礎研究が最も大きいのはフランスであり、応用研究が最も大きいのは英国であり、開発が最も大きいのは中国である。
 2012年(12)の日本の性格別研究開発費のうち基礎研究の割合は全体の15.1%、応用研究は22.6%、開発が62.3%である。その割合は長期的に見て大きな変化は見られない。
 米国は、基礎、応用、開発の割合が日本と似ているが、近年、基礎研究の割合が減少している。
 フランスは、他国と比較して基礎研究の割合が最も大きく、最新年では24.4%である。また、基礎研究、応用研究の割合は増加しており、一方、開発の割合は減少している。
 英国では応用研究の割合が最も大きくかつ増加もしている。最新年では48.2%と半数を占めている。基礎研究は14.9%、開発は37.0%である。
 中国は基礎研究の割合が小さく最新年では4.8%であり、一方、開発の割合が大きく83.9%であり、他国と比較しても最も大きい。また、開発の割合は増加もしている。
 韓国は、2000年代に入ってから基礎研究の割合が増加している。また、応用の割合は減少していたが、近年、基礎研究、応用研究、開発ともに、その割合は横ばいに推移している。


【図表1-4-1】 主要国の性格別研究開発費の割合の推移 

注:
日本の研究開発費は自然科学のみ(韓国は2006年まで)。他の国の研究開発費は、自然科学と人文科学の合計であるため、国際比較する際には注意が必要である。
<日本>year scaleは、年度。
<米国>2012年値は予備値。
<英国>国家の見積もり又は推定値。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<米国>NSF,“National Patterns of R&D Resources: 2011–12 Data Update”
<ドイツ、フランス、英国、中国>OECD,“Research & Development Statistics 2013”
<韓国>韓国科学技術統計サービス(webサイト)

参照:表1-4-1


1.4.2各国の基礎研究

 次に、各国の基礎研究を、どの部門が担っているかを見る。基礎研究は短期的な投資収益は低いが、科学技術の知的資本を築き、未来の基盤を構築するために重要である。基礎研究費の使用部門別割合の推移(図表1-4-2)を見ると、ほとんどの国で「大学」部門が大きな割合を占めている。
 2012年の日本の基礎研究費は2.4兆円、うち、「大学」部門が占める割合は51.8%である。また、「企業」部門の割合も比較的大きい。
 米国の最新年の基礎研究費は7.8兆円、「大学」部門の割合が最も大きく53.5%を占めている。米国では「非営利団体」部門の割合も12.9%あり、割合も増加している。
 最新年のフランスの基礎研究費は1.4兆円、うち「大学」部門が占める割合は71.3%で、他国と比較してもかなり大きい。部門ごとの割合に大きな変化はないが、「公的機関」部門の1998、1999年の値にぶれがあるのは、推計方法や調査票等に関する変更が行われたことによるものであり、この間のデータの連続性はないと考えたほうがよい。
 最新年の英国の基礎研究費は627億円、うち「大学」部門が占める割合は58.2%であり、最も大きい。
 中国については、「公的機関」部門の割合が大きかったが、近年は「大学」部門の割合が増加している。一方、「企業」部門の割合は小さく、企業での基礎研究はほとんどされていないことがわかる。
 韓国では、2000年以降急速に基礎研究費が増加しているのが見える。最新年では1.1兆円となっている。なお、韓国は「企業」部門が基礎研究の主たる部門になっており、最新年では56.4%の割合を示している。


【図表1-4-2】 主要国の部門別の基礎研究費 
使用額(OECD購買力平価換算) 使用割合
(A)
日本
(B)
米国
(C)
フランス
(D)
英国
(E)
中国
(F)
韓国

注:
1)日本の研究開発費は自然科学のみ(韓国は2006年まで)。他の国の研究開発費は、自然科学と人文科学の合計であるため、国際比較する際には注意が必要である。
2)購買力平価換算は、参考統計Eと同じ。
3)英国の値は全てが国家の見積もり又は推定値である。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<米国>NSF,“National Patterns of R&D Resources: 2011–12 Data Update”
<フランス、英国、中国、韓国>OECD,“Research & Development Statistics 2013”

参照:表1-4-2


コラム:研究開発費の変化についての国際比較

 一定の期間における研究開発費の変化についてのデータは、研究開発の動向を把握するための有用な指標である。また、研究開発のアウトプットの指標の動向を理解する上でも、インプット側の指標である研究開発費の変化を適切に把握することが重要である。
 第1章では、多くの図表で各種の研究開発費の推移を示したが、国際比較に際して、通貨換算のために購買力平価を用いており、その変動に影響されるため、研究開発費の変化を詳細に見るには適していない。そのため、以下では、通貨換算せず、各国の研究開発費の2000年における金額を100とした指数により、最近の研究開発費の変化についての国際比較を試みた。
 なお、このような指数は、物価の変動の影響を除いた実質値を作成することが可能であれば、研究開発費の本来的な変化をより良く反映した指標となる。しかし、各国共通の方法による研究開発費デフレータが作成されていないため、ここでは、名目値のみについて指数を作成した。名目値については、経験的な実感に合うという利点もある。
 なお、各国の指数を図に示す際に、中国と韓国については、指数の変動が他の主要国と比べて著しく大きいため、最新年の指数の数値のみを図中に示した。

(1)研究開発費の総額

 2000年を100とした指数により、主要国の研究開発費の総額の変化を比較すると、2000年以降、主要国のなかで日本の増加が最も小さかったことが分かる(図表1-5-1)。
 最新年の指数を見ると日本は2012年に106であるのに対し、米国は168、ドイツ、フランス、英国は、最新年の指数が150付近の値となっており、この10年間ほどの期間に研究開発費が1.5倍程度に増加したことがわかる。また、同じ期間に韓国は4倍、中国は10倍以上の増加となっている。


【図表1-5-1】 主要国の研究開発費の指数の推移

資料:
図表1-1-1と同じ。

参照:表1-5-1


(2)政府の科学技術予算

 次に、各国政府の科学技術予算の変化について数を用いて比較すると、中国と韓国以外では、長期的には米国の伸びが目立っており、2012年の指数は172となっている(図表1-5-2)。なお、米国の2009年の指数はその前後と比較して高いが、「2009年米国再生・再投資法」により、リーマンショックに対する景気対策として取られた予算措置の影響が大きい。日本は全般的に横ばいであり、2012年の指数は112で、主要国のなかでフランスと並んで低い値となっている。


【図表1-5-2】 政府の科学技術予算の指数の推移

資料:
図表1-2-1と同じ。

参照:表1-5-2

(3)大学部門の研究開発費

 大学部門の研究開発費の変化の適切な把握は、研究開発アウトプットの主要指標である科学論文の量的・質的データの変化の要因を考える上で重要である。日本を含むほとんどの国で、論文生産の中心は大学部門となっているためである。
 大学部門の研究開発費についての指数の推移を見ると(図表1-5-3)、日本のみが、わずかな増加に留まっている。2012年の指数は111であり、図に示した国の中で最も低い値となっている。他の国の最新年の指数は、米国が204、英国が193と2000年の約2倍になっており、ドイツ(175)とフランス(165)も日本よりはるかに大きい値となっている。


【図表1-5-3】 大学部門の研究開発費の指数の推移

資料:
図表1-3-13と同じ。

参照:表1-5-3


(4)まとめ

 以上のデータを総合的に見た時、日本や他の主要国の特徴として、どのようなことが言えるだろうか。
 日本については、いずれの指数の伸びとも他の主要国より小さい。なかでも、大学部門の研究開発費の伸びが他の主要国と比較して特に小さいことが特徴である。しかも、政府の科学技術関係予算については欧州の主要国も日本と同様に伸びが小さいにも関わらず、大学部門では日本のみが研究開発費の伸びが小さいことが、この10年間ほどの日本の特徴となっている。
 他の主要国については、日本とは異なり、大学部門の研究開発費の伸びが大きいことが共通する特徴と言える。特に、ドイツ、フランス、英国については、政府の科学技術予算の伸びが低調であるにも関わらず、大学部門の研究開発費の堅調な伸びが示されており、また、国全体の研究開発費に比べても伸びが大きいことから、これらの国で研究開発における大学の位置づけが高まっていることがうかがえる。
 米国については、国全体の研究開発費に比べて大学部門の研究開発費の伸びが大きいことはドイツ、フランス、英国と同様であるが、政府の科学技術予算も国全体の研究開発費を超える大きな伸びとなっている。
 中国と韓国については、いずれの指数についても伸びが著しいが、国全体の研究開発費の伸びに比べて、政府の科学技術予算と大学部門の研究開発費の伸びは相対的に小さく、本コラムでは図に示さなかった産業部門の研究開発費の伸びが特に大きいことが分かる。
(富澤 宏之)



(11)日本の研究開発統計調査「科学技術研究調査」での性格別研究開発費の定義は以下のとおりであり、対象は自然科学分野のみである。
基礎研究:特別な応用、用途を直接に考慮することなく、仮説や理論を形成するため、又は現象や観察可能な事実に関して新しい知識を得るために行われる理論的又は実験的研究をいう。
応用研究:基礎研究によって発見された知識を利用して、特定の目標を定めて実用化の可能性を確かめる研究や、既に実用化されている方法に関して、新たな応用方法を探索する研究をいう。
開発研究:基礎研究、応用研究及び実際の経験から得た知識の利用であり、新しい材料、装置、製品、システム、工程等の導入又は既存のこれらのものの改良をねらいとする研究をいう。
(12)この節の日本の場合は、国際比較の際には「年」を用いている。本来は「年度」である。