1.3.3大学部門の研究開発費

ポイント

  • 2012年の日本の大学部門の研究開発費は3.6兆円であり、近年横ばいに推移している。また、日本(OECD推計)の値は、2.1兆円(2011年)である。
  • 研究開発費の実質額(2005年基準各国通貨)の年平均成長率を見ると、2000年代前半(2000~2005年)より2000年代後半(2005~各国最新年)の方が低くなっている国は、日本、米国、英国、中国である。
  • 主要国の大学の研究開発費の政府負担割合を見ると、各国最新の3年平均で、政府負担分が最も大きいのはフランスであり、最も小さいのは日本である。2004-2006年と比較すると、最も増加したのは韓国であり、最も減少したのは米国である。
  • 主要国の大学の研究開発費の企業負担割合を見ると、各国最新の3年平均で最も大きいのは中国であり、群を抜いている。一方、最も小さい国はフランスである。2004-2006年と比較すると、ほとんどの国で横ばい、もしくは減少しているが、最も減少したのは韓国である。
(1)各国大学部門の研究開発費

 大学をはじめとする高等教育機関は、研究開発機関としての機能も持ち、各国の研究開発システムのなかで重要な役割を果たしている。1.1.2節で示したように、主要国では国全体の研究開発費の1割~3割程度を使用している。
 高等教育機関の範囲は国によって異なるが、各国とも大学が主たるものである。また、どのレベルの機関まで調査をしているかも国によって差が出る。どの機関を対象としているかを簡単に示すと、日本は大学(大学院も含む)に加えて、短期大学、高等専門学校、大学附置研究所、および、その他の機関が含まれる(8)。米国に関してはUniversities & Colleges (年間15万ドル以上の研究開発をしている機関、FFRDCsは除く、)、ドイツはUniversities、comprehensive uni-versities、colleges of theologyなどである。フランスは国立科学研究センター(CNRS)、大学を含む高等教育機関及び、国民教育省(MEN)所管以外のグランゼコールである。大部分の国々では研究開発統計の調査範囲は全分野となっているが、米国についてはS&E(9)の分野であり、韓国は2006年まで自然科学分野のみを対象としていた(図表1-1-4参照)。
 大学部門の研究開発費を算出するには、教育活動と研究開発活動を区別して、経費を集計する必要があるが、一般的にそれは困難である。
 日本の大学の研究開発費は、総務省の研究開発統計「科学技術研究調査」による。この調査では研究開発費の内数として人件費についても集計しているが、この人件費は「研究以外の業務(教育など)」を含む総額データとなっている。
 日本の研究開発統計では、大学部門についてフルタイム換算した研究者数の統計をとっておらず、さらにすべての教員は研究者として計測されている。しかしながら、教員全員が研究のみに従事していることはあり得ない。このため全教員の人件費が研究開発費に計上されている状態は、研究開発費としては過剰計上となっていると考えるのが自然であろう。
 こうした事実はOECD側も認識しているため、OECD統計が発表する日本の研究開発費は1996年(10)以降人件費に対して、1996~2001年は0.53を乗じた値、2002年以降は0.465を乗じた値となっている。なお、2002年以降の補正係数である0.465は2002年に文部科学省が実施した「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査」から得られたFTE換算係数である。この調査は2008年にも再度実施された。この時の調査では、教員のFTE換算係数は0.362となっており、2008年以降のOECDのデータでは、2008年調査のFTE換算係数が使用されている。
 以下においては、日本の大学部門の研究開発費として、OECDで提供している値(「日本(OECD推計)」と明記)と総務省「科学技術研究調査報告」で提供している値(「日本」と明記)を掲載することとする。
 図表1-3-13(A)は大学部門の研究開発費を名目額で示している。2012年の日本の値は3兆5,624億円であり、近年横ばいに推移している。日本(OECD推計)の大学の研究開発費は、2兆1,065億円(2011年)である。各国の状況を見ると、米国とEUの増加が著しいが、近年は横ばいに推移している。ドイツは2000年代後半から増加傾向にある。一方、フランス、英国については、横ばいに推移している。中国は2000年以降、着実に増加している。
 次に各国通貨(名目額)で国毎の年平均成長率を見ると(図表1-3-13(B))、2000年代前半(2000~2005年)より2000年代後半(2005~各国最新年)の成長率の方が高い国はドイツ、フランス、韓国である。日本については、2000年代後半は、ほぼ横ばいである(日本(OECD推計)ではマイナス成長である)。なお、中国は2000年代後半が低いとはいっても18.2%と最も高い成長率である。
 物価を考慮した実質額で見ると(図表1-3-13(C))、2000年代前半より2000年代後半の成長率が高い国はドイツ、フランス、韓国である。低い国は日本、米国、英国、中国である。また、中国では、年平均成長率はもともと高い数値であるが、2000年代前半と比較すると名目額と同様に減少している。


【図表1-3-13】 主要国における大学部門の研究開発費の推移
(A)名目額(OECD購買力平価換算) 

(B)名目額(各国通貨)

(C)実質額(2005年基準各国通貨)

注:
1)大学部門の定義は国によって違いがあるため国際比較の際には注意が必要である。各国の大学部門の定義については図表1-1-4参照のこと。
2)購買力平価は、参考統計Eと同じ。
3)研究開発費は人文・社会科学を含む(韓国は2006年度まで自然科学のみ)。
<日本(OECD推計)>1996年からOECDが補正し、推計した値(大学部門の研究開発費のうち人件費をFTEにした研究開発費)。
<ドイツ>1990年までは旧西ドイツ、1991年以降は統一ドイツ。
資料:
表1-1-6と同じ。

参照:表1-3-13


 各国の総研究開発費使用額のうち大学部門が使用している研究開発費の占める割合の推移を図表1-3-14に示した。日本の大学部門の割合は、近年横ばいに推移しているが、2012年では昨年より0.2ポイント増加し20.6%となっている。
 他国を見ると、英国は増加傾向にあり、特に2000年以降増加が著しい。これは英国の大学の研究開発費が増加していることもあるが、公的部門の研究開発費の伸びが小さいことなどが影響していると考えられる。米国、ドイツは長期的に見ると、増減を繰り返しながらも、近年は増加傾向が見える。一方、中国、韓国については、割合で見ると横ばいに推移している。これは、総研究開発費自体の伸びが著しいためと考えられる。


【図表1-3-14】 主要国の総研究開発費に占める大学部門の割合の推移 

注:
図表1-1-1、図表1-1-6と同じ。
資料:
図表1-1-1、図表1-1-6と同じ。

参照:表1-3-14


(2)主要国における大学の研究開発費の負担構造

 図表1-3-15は主要国における大学の内部使用研究開発費の部門別負担割合、つまり大学の内部使用研究開発費のうち、各部門がどの程度、研究資金を負担しているか、また政府と企業部門が大学に負担している資金は、その部門の負担額において、どの程度の割合なのかを示したものである。
 まず、大学の内部使用研究開発費の部門別負担割合を見ると(図表1-3-15(A)、①、②)、各国最新の3年平均で、政府負担割合が最も大きいのはフランスであり、最も小さいのは日本である。2004-2006年と比較すると、政府負担分が最も増加したのは韓国であり、最も減少したのは米国である。
 企業の負担分を見ると、各国最新の3年平均で最も大きいのは中国であり、群を抜いている。一方、最も小さい国はフランスである。2004-2006年と比較すると、ほとんどの国で横ばい、もしくは減少しているが、最も減少したのは韓国である。
 各国毎にみると、2010-2012年の日本の政府負担割合は48.9%、企業の負担割合は2.5%となっている。2004-2006年と比較すると、政府負担割合は0.9ポイント減少、企業負担割合は0.3ポイントの減少である。
 米国については2010-2012年の政府負担割合は大学全体の60.2%、企業が負担している割合は5.2%となり、2004-2006年と比較すると政府負担割合は1.3ポイントの減少、対して、企業負担割合は0.1ポイント増加している。
 ドイツは政府・非営利団体からの負担が大きく、2009-2011年では全体の81.5%を占めており、また、企業負担割合も各国と比較すると14.1%と大きい。2004-2006年と比較すると、政府・非営利団体の負担割合は0.6ポイント、企業負担割合は0.1ポイントの減少である。
 フランスも政府負担割合が大きく、2009-2011年では全体の89.6%を占めており、主要国の中でも一番大きい。一方、企業負担割合は2.1%と主要国の中で一番小さい。2004-2006年と比較すると、政府負担割合は0.4ポイントの減少であり、企業負担割合は0.4ポイントの増加である。
 英国の政府負担割合は、2009-2011年で66.2%である。企業負担割合は4.1%である。2004-2006年と比較すると政府負担割合は2.5ポイント減少し、企業負担割合は0.7ポイント減少している。
 中国の政府負担割合は、2009-2011年では58.5%である。一方、企業の負担割合は他国と比較して最も大きく、34.9%である。2004-2006年と比較すると、政府負担割合は3.8ポイントの増加、一方、企業負担割合は1.8ポイントの減少である。
 韓国の政府負担割合は2009-2011年では79.8%、企業負担割合は11.2%である。2004-2006年と比較すると、政府負担割合は5.1ポイントの増加で、他国に比べて高い伸びを示している。対して、企業負担割合の伸びは3.8ポイント減少と他国と比べて高い値となっている。
 次に、政府と企業部門の研究開発費負担分のうち大学への負担分の割合を見てみる(図表1-3-15(A)、③、④)。
 政府負担分のうち大学への負担割合が最も大きいのは英国で、55.9%である。また、日本、ドイツ、フランスも約50%と半数を占めている。米国、韓国は約30%程度、最も小さいのは中国で20.8%である。
 企業負担分のうち、大学への負担割合は各国ともかなり少ない。比較的大きいのは中国、ドイツであり、約4.0%となっている。対して約1%程度なのは日本、米国、フランスとなっている。
 2004-2006年と最新年を比較すると、政府負担分のうち大学への負担割合が一番増加しているのはフランスであり、7.1ポイント増加している。一方、企業の場合はほとんどの国で成長がみられない。
 図表1-3-15(B)~(G)を見ると、外国からの負担分は各国とも少ないが、英国は11.7%と比較的大きい数値となっており、2004-2006年と比較すると、その割合は3.8ポイント増加している。


【図表1-3-15】 主要国における大学の研究資金の負担構造の変化 
(A)一覧表

(B)日本の大学の研究開発費の負担構造

日本の統計において、大学で使用される研究開発費のうち、大学による負担分とは私立大学が負担している金額を指す。そのほとんどが私立大学の自己資金による研究開発費である。


(C)米国の大学の研究開発費の負担構造


(D)ドイツの大学の研究開発費の負担構造


(E)フランスの大学の研究開発費の負担構造


(F)イギリスの大学の研究開発費の負担構造


(G)中国の大学の研究開発費の負担構造


(H)韓国の大学の研究開発費の負担構造

注:
1)3年平均値である。たとえば、10-12年は2010年から2012年の平均値。
2)矢印の中の数値は各部門の研究開発費負担分のうち、大学部門へ負担する金額の割合。たとえば、10-12年度の日本の政府の負担分のうち、大学へ負担する金額は、負担分の52.3%である。
3)その他、国際比較等の注は図表1-2-3、4と同じ。
4)米国の2012年は予備値。
資料:
図表1-2-4と同じ。

参照:表1-3-15


(3)日本と米国の大学の研究開発費の設立形態別資金構造

 図表1-3-16は日米の大学の研究開発統計の対象となっている機関数の変化である。米国(NSF)は研究開発予算を年間15万ドル以上執行している大学が対象であり、全大学を対象としているわけではない。一方、日本の科学技術研究調査では短大等も調査対象となっているが、ここでは日米比較のため4年制大学のみを取り上げている。
 最新年の日本を見ると、国立大学86、公立大学78、私立大学607であり、推移を見ると私立大学が増加しているが近年は横ばいである。
 米国の最新年を見ると、州立大学406、私立大学249である。


【図表1-3-16】 大学の機関数 
(A)日本
(B)米国

注:
日本と米国における大学の対象範囲には差異があるので国際比較する際には注意が必要である。日本の場合、4年制の大学。短大や大学共同利用機関等は含まない。米国の場合、研究開発予算を年間15万ドル以上執行している機関
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」の個票データを使用し、科学技術・学術政策研究所が再計算した。
<米国>NSF.“Higher Education Research and Development”,“Academic Research and Development Expenditures”

参照:表1-3-16


 次に日本と米国における形態別の大学の資金構造とその変化を示す。
 図表1-3-17(A)は日本の大学(4年制大学)を国・公・私立大学別に分けて資金構造を示したものである。全大学では「政府」からの資金が4割を占め、「私立大学」からの資金は5割であり、企業やその他の部門からの資金は少ない。
 2010-2012年の国立大学の割合を見ると、「政府」からの資金が93.1%を占めている。2005-2007年と比較するとほとんど横ばいである。また、「企業」からの資金は4.9%と少ない数値であり、かつ減少もしている。公立大学も似た傾向にある。一方、2010-2012年の私立大学についてみると、私立大学からの資金が89.7%を占めているが、そのほとんどが自己資金である。政府からの資金は2010-2012年で8.7%であり、2005-2007年と比較しても変化はない。また、企業からの資金は1.3%と、非常に少ない。
 図表1-3-17(B)は米国の大学の研究開発費の資金構造を州・私立大学に分けて示したものである。全大学では、「連邦政府」及び「州・地方政府」が約7割を占め、「機関資金(企業、財団、その他の外部資金源からの、使途が特化されていない資金。プロジェクトの間接経費を含む)」が約2割を占めている。
 2010-2012年の州立大学と私立大学を比較して見ると、「連邦政府」及び「州・地方政府」からの資金の割合は、州立大学(65.0%)より、私立大学(72.8%)の方が大きい。逆に「機関資金」の割合は州立大学(22.9%)の方が私立大学(13.5%)より大きい。


【図表1-3-17】 日本と米国における大学の資金構造 

(A)日本

(B)米国

注:
国際比較注意については図表1-3-15を参照のこと。
<米国>
 1)機関資金とは企業、財団、その他の外部資金源からの、使途が特化されていない資金。プロジェクトの間接経費を含む。
 2)その他資金とは他に分類されない資金源。たとえば、研究の目的で個人が寄付した資金を含む。2010から「非営利団体」からのデータが取得された。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」の個票データを使用し、科学技術・学術政策研究所が再計算した。
<米国>2009年までNSF,“Academic R&D Expenditures”、2010年からNSF,“Higher Education Research and Development”

参照:表1-3-17


(4)日本と米国の大学の総事業費に占める研究開発費の比較

 日本と米国の大学の総事業費(総支出額)に占める研究開発費の割合を比較する。その際、日本、米国ともに学位授与権利のある4年制の大学を対象とし、2010年から2012年の3年間の平均値を用いた。
 日本の場合、総務省が実施している研究開発統計で総支出額、研究開発費ともに計測されているためこのデータを使用する。図表1-3-18を見ると、全大学の総支出額に占める研究開発費の割合は40.0%である。大学形態別に見ると、国立大学が45.1%と一番大きい。公立大学を見ると36.2%、私立大学は37.9%となっている。


【図表1-3-18】 日本の大学の総支出額に占める研究開発費
(A)割合
(B)金額

注:
4年制の大学。短大や共同利用機関等は含まれていない。購買力平価換算は参考統計Eを使用した。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表1-3-18


 米国の場合、NSFの研究開発統計には大学の総事業費(総支出額)がないので、NCES(National Center for Education Statistics:全米教育統計センター)のIPEDSのデータを使用する。IPEDSは米国の中等後教育(高等教育を含む)に関するデータベースであり、総支出額と研究経費(Research)があるので、その値を用いて日本と比較する。IPEDSでは研究に関連する予算で、教育などと明確に分離出来ない場合は教育経費(Instruction)に計上されている。そのため、研究経費(Research)については過少計上となっている。また、その他にもAcademic supportという項目があり、コンピューターセンターや図書館の運営といった費用が計上されているため、この項目にも研究に関連する費用が含まれていると考えられる。なお、IPEDSの統計では研究経費(Research)についても、他の項目同様にSalaries and wagesが計上されており、人件費を含む整理になっている。
 図表1-3-19を見ると、全支出額に占める研究経費の割合は、全大学では11.2%であり、州立大学は12.0%、私立大学は10.1%である。
 日本と比較すると、日本の大学の研究開発費は総事業費の4割を占め、一方米国の大学の研究経費の割合は1割である。日本、米国ともに公営の大学の方が研究開発費(経費)の占める割合は大きい。日本の国立大学の研究開発の割合は米国の州立大学の約4倍とかなりの差がある。


【図表1-3-19】 米国の大学の総支出額に占める研究経費(IPEDSデータ)
(A)割合
(B)金額

注:
4年制の大学(4-year institution)である。私立大学の一部である営利の大学についてはResearchにPublic serviceが加えられた値が計上されている。ただし、この値は全私立大学の研究経費のうち0.03%程度である。購買力平価換算は参考統計Eを使用した。
資料:
NCES,IPEDS,“Digest of Education Statistics”

参照:表1-3-19


 次に、IPEDSの研究経費に代えてNSFによる米国の大学の研究開発費を用いて比較する。
 NSFの研究開発統計では研究開発費を年間15万ドル以上使っている大学を対象範囲としており、大学数も912(2011年)であるが、2,962大学(うち682が州立大学)(2012年)を対象としているIPEDSの研究経費より約2兆円多い。これは前述のとおり、IPEDSの研究経費が過少計上されているためであると思われる。また、NSFの対象となっていない大学の研究開発費は1大学15万ドル以下とすると、合計してもその寄与は小さいので、NSFによる研究開発費とIPEDSの総支出額を比較することは一定の合理性を持つ。
 図表1-3-20を見ると、この場合、全大学の総支出額に占める研究開発費の割合は15.1%である。大学形態別に見ると州立大学が17.3%、私立大学が12.1%となっている。
 なお、NSFでも研究開発費について、教育などと分けられないものは含めない、という方針で調査を実施している。


【図表1-3-20】 米国の大学の総支出額に占める研究開発費(NSFデータ)
(A)割合
(B)金額

注:
4年制の大学(4-year institution)である。購買力平価換算は参考統計Eを使用した。
資料:
総支出額:NCES,IPEDS,“Digest of Education Statistics”
研究開発費:2009年までNSF,“Academic R&D Expenditures”
2010年からNSF,“Higher Education Research and Development”

参照:表1-3-20


 日本の大学の場合、研究開発費は研究者(教員、医局員その他研究員等)の人件費を、研究専従率を考慮せずに計上していることが多く、過剰計上となっている。人件費分を研究専従率で補正したOECDの研究開発費を使用すると、約4割減少するが、それでも総支出額に占める研究開発費は、3割程度となる。
 このような補正を試みても、日本と米国の大学における総事業費と研究開発費の関係には大きな差異があり、大学の研究開発費の日米比較を適切に行うためには検討すべき点が残されている(図表1-3-21)。


【図表1-3-21】 日本と米国の大学の研究開発費に関する統計の比較

資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<米国>NCES,IPEDS
    NSF, “Academic R&D Expenditures”, “Higher Education Research and Development Survey (HERD)”


(5)日本の大学部門の研究開発費

 日本の大学における研究開発費は前述のとおり、人件費に研究以外の活動分も含まれているという点に注意しなければならないが、この節では、「科学技術研究調査報告」で公表している大学等の研究開発費のデータを用いて国公私立大学別の研究開発費使用額を見る(図表1-3-22)。
 2012年度の日本の大学全体の研究開発費は、3.6兆円であり、うち自然科学分野では2.3兆円、人文・社会科学分野で1.3兆円となっている。対前年度比を見ると、全体で0.6%の増加であり、うち自然科学分野では0.8%の増加、人文・社会科学分野では0.4%の増加であり、ほとんど変化はない。
 研究開発費全体を国・公・私立大学別で見ると、2012年度では、国立1.5兆円、公立0.2兆円、私立1.9兆円であり、私立大学の研究開発費が半数以上を占めている。
 ただし、自然科学分野のみで見ると、国立1.2兆円、公立0.2兆円、私立0.9兆円となり、国立大学が半数以上を占める。
 また、人文・社会科学分野になると、国立0.3兆円、公立0.1兆円、私立0.9兆円となり、私立大学が大多数を占める。
 国立大学は自然科学分野(理学、工学、農学、保健)において、研究開発費使用額の割合を多く占めていることがわかる。これに対して私立大学は、人文・社会科学分野の研究開発費使用額の割合が多いといえる。


【図表1-3-22】 国公私立大学別の研究開発費
(A)全体
(B)自然科学
(C)人文・社会科学

注:
「人文・社会科学」には「その他」も含む。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表1-3-22


 大学等の研究開発費に関して学問分野別の割合の推移を見る。ここでの学問分野とは、学部、研究施設内で行われている研究の内容を指す。組織の中で研究分野が複数にわたる場合は最も中心であると判断された研究の学問分野を示している。
 図表1-3-23を見ると、分野ごとの変化が小さいことがわかる。ここに示した学問分野は、上述のとおり学部等の組織の種類による区分であるため、この図から研究開発の内容面での変化は読みとりにくい。
 しかしながら、長期的に見ると、保健、人文社会科学が増加しているのが見える。


【図表1-3-23】 大学等における研究開発費の学問分野別割合の推移

注:
学問分野の区分は、学部等の組織の種類による区分である。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表1-3-23


 近年、大学のポテンシャルを活用しようとする取り組みが、世界の各国で進められている。大学は、イノベーションの源泉である知識の創造という点で、他に代替しえない組織であるが、その一方で、大学で産み出された知識を他に移転することは容易でない。このような認識を背景に、産学連携を強力に推進する機運が高まっている。
 産学連携の状況を示す指標のひとつとして、大学が企業から受け入れた研究開発費をとりあげる(図表1-3-24)。大学等が企業部門より受け入れた研究開発費の推移を見ると、90年代の伸びは停滞気味であった。2000年代に入ると著しい増加を示していたが、2007年度をピークに減少に転じている。しかし、2011、2012年度と連続して増加し、最新年は881億円となった。ただし、同年度における大学等の内部使用研究開発費(3.6兆円)の2.5%に過ぎない。
 国・公・私立大学の区分別に見ると、企業部門から受け入れた研究開発費は国立の金額が最も多く、2012年度で602億円と全体の約7割を占める。


【図表1-3-24】 大学等における内部使用研究費のうち企業から受け入れた金額の推移

資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表1-3-24


(6)日本の大学部門の費目別研究開発費

 大学等の内部使用研究開発費に関して費目別の内訳を見ると、「人件費」が多く、2012年度の「人件費」は2兆2,684億円で、全体の63.7%を占めている(図表1-3-25)。次に大きいのが「有形固定試算購入費」である。この費目は年によって増減のバラつきが見える。
 国立・私立大学別でみると、2012年度の国立大学の「人件費」は8,072億円であり、2000年代に入ってからは横ばいに推移している。また、割合は全体の54.7%であり、長期的にみると減少している。また、次に多くを占めている「有形固定資産購入費」について見ると、年によって増減のバラつきが激しい。
 私立大学でも「人件費」の割合は大きく2012年度では、1兆3,208億円であり、増加し続けている。また、割合は全体の70.2%である。次に大きいのは「有形固定資産購入費」であるが、私立大学では、国立大学ほど、増減のバラつきが見えない。


【図表1-3-25】 大学等における費目別研究開発費
(A)全体
(B)国立大学
(C)私立大学

注:
2001年度より、新たに「リース料」が調査項目に加わった。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表1-3-25



(8)日本の大学部門の統計資料として本章で用いる総務省統計局「科学技術研究調査報告」においては、大学は学部(大学院の場合は研究科)ごとに調査されており、その総数は2010年3月31日現在では2,341である。また、「その他の機関」とは、大学共同利用機関法人、独立行政法人大学評価・学位授与機構、独立行政法人国立大学財務・経営センター、独立行政法人メディア教育開発センター、大学に設置されている博物館、センター、施設等である。
(9)S&EとはScience and Engineering: Computer sciences, Environmental sciences, Life sciences, Mathematical sciences, Physical sciences, Psychology, Social sciences, Engineeringであり、EducationやHumanities等は含まれていない。
(10)この節の日本の場合は、国際比較の際には「年」を用いている。本来は「年度」である。