プレス発表資料

ロゴ

平成 18 年 12 月 26 日
科学技術政策研究所

科学技術への顕著な貢献 in 2006
(ナイス ステップな研究者)

科学技術政策研究所(所長 國谷実)では、昨年に引き続き科学技術に顕著な貢献を果たされた方々(ナイス ステップな研究者)の選定を行いました。選定に当たっては、科学技術政策研究所の約2000人の専門家ネットワークの意見を参考に、2006年(プロジェクト型については2005年から引き続く業績も含む)において科学技術に関する顕著な業績を上げた方々の中から、特に科学技術政策上注目すべき業績を上げた方々を選定しています。これらの方々は、国民の科学技術に対する夢を与えてくれる人でもあり、ここに広くお知らせするものです。
(お問い合わせ)
科学技術政策研究所 企画課 松室、安達
電話: 03-3581-2466(直通)
Email: office@nistep.go.jp
ホームページ: http://www.nistep.go.jp

(参考)

<研究部門>

○「被引用論文数世界一」

審良あきら静男 大阪大学微生物病研究所教授

哺乳動物は病原体の侵入に対抗するために、自然免疫機構と獲得免疫機構を持っている。これまで自然免疫機構については、非特異的な免疫反応であり、哺乳動物においては獲得免疫の成立までの一時しのぎであると考えられていた。審良教授は、自然免疫機構の役割、また抗体やT細胞受容体を介した厳密な抗原認識を伴う獲得免疫の起動においても自然免疫がきわめて重要であることを明らかにし、従来の免疫理論に大幅な修正をせまる成果を出している。

このたび同教授は、学術文献情報を提供する米国の会社*から、2004〜2005年に発表した論文が当該分野において最も多く引用されたと、2006年2月に発表された。これは、2004〜2005年の「ホットペーパー」出版数に基づく研究者のランキング("Hottest Researcher")において、審良教授が世界第一位となったというものである。「ホットペーパー」とは、過去2年間に、同社のデータベースである Web of Science に収録された論文について、最近 2カ月間に引用された回数を分野毎に解析し、被引用数上位0.1%にあたる論文のことである。審良教授は、2003年11月〜2005年10月に発表した論文の2005年9月〜10月までの2カ月間における「ホットペーパー」数が11本であり、世界第一位となった。

審良教授の業績については、ドイツの医学関連で最も権威のある賞であるロベルトコッホ賞(2004年)、紫綬褒章(2005年)を受賞するなど国内外で高い評価を得ている。今回、高被引用論文数という客観的な指標によって世界一位との評価が下されたことで、同教授のみならず、我が国の研究水準の高さが改めて評価されたと言える。なお、同社は毎年"Hottest Researcher"の発表を行っているが、日本人研究者が単独で世界第一位になったのは4年ぶりである。

* 注)世界最大級の学術文献情報データベース提供会社トムソンサイエンティフィック社

○「数学の応用を顕彰するために創設されたガウス賞受賞」

伊藤 清 京都大学名誉教授

国際数学連合は、2006年8月にマドリードで開催した国際数学者会議において、第1回ガウス賞を伊藤清京都大学名誉教授に授与することを決定した。国際数学連合は数学における唯一の世界的学術機関であり、4年に一回、国際数学者会議を開催し、数学におけるノーベル賞といわれるフィールズ賞の受賞者を決定している。「ガウス賞」は、数学研究が科学技術やビジネス、更には人々の日常生活など数学界の外に大きな影響を与えていることを踏まえ、数学の応用に対して顕彰する目的で創設された賞で、今回が第1回にあたる。

伊藤名誉教授は確率論の先駆者の一人であり、確率微分方程式論と確率解析の創始者である。同名誉教授の業績は20世紀における主要な数学的革新の一つであり、いわゆる伊藤の公式は数学の諸分野に留まらず、例えば物理学、工学、生物学など、更に近年では、経済学における数理ファイナンスに至るまで広範に応用されている。

同名誉教授がガウス賞の第1回目受賞者となったことは、我が国の数学研究の底力を示すとともに、数学が最新科学技術の背後にある駆動力であることの周知に多大に貢献した。

○「スーパーコンピュータ開発の業績に対するシーモア・クレイ賞受賞」

渡辺 貞 理化学研究所次世代スーパーコンピュータ開発実施本部プロジェクトリーダー

渡辺氏は、米国の電気電子技術者協会(IEEE)のコンピュータ・ソサイエティが1997年に制定したシーモア・クレイ賞の今年度の受賞者に日本人として初めて選ばれた。本賞は、商用として成功したスーパーコンピュータを生み出した故シーモア・クレイ氏にちなみ、その氏名を冠した賞であり、高性能計算システム開発で革新的な貢献をした個人に贈られる。今回の渡辺氏の受賞理由は、「NEC社のスーパーコンピュータSXシリーズの設計におけるリーダーとしての功績」、そして「特に、世界のスーパーコンピュータ性能ランキングTOP500で2002年から2004年まで世界最高速のスーパーコンピュータであった『地球シミュレータ』の設計」である。渡辺氏はNECにおいてスーパーコンピュータの開発に長年貢献し、1983年には当時の世界最高速のスーパーコンピュータSX-2を設計している。地球シミュレータは、渡辺氏が設計したSXの基本仕様を踏襲している。現在は、文部科学省の「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」プロジェクトを推進するため、理化学研究所に本務をおき、「次世代スーパーコンピュータ」開発で陣頭指揮をとっている。

○「再生医療を可能にする画期的"万能細胞"の作製」

山中伸弥 京都大学再生医科学研究所教授
多田 高 京都大学再生医科学研究所助教授

胚性幹細胞(ES細胞)は様々な組織や臓器に分化する能力(万能性)をもつため、再生医療で臓器再生などに利用されることが期待されてきた。しかし、既に樹立したヒトのES細胞を用いて再生された臓器は、患者由来の細胞ではないために移植後に拒絶反応を引き起こすと考えられている。ES細胞のような万能性はもつが拒絶反応は起こさない"万能細胞"が求められていた。

山中教授の研究チームは、皮膚の細胞など既に分化した体細胞を、ES細胞のように万能性をもつ細胞に戻す、いわゆる「初期化」に必要な遺伝子をマウスのES細胞から4つ発見し、これらの遺伝子をマウスの皮膚細胞に導入することにより、ES細胞によく似た性質をもった誘導多能性幹細胞(iPS細胞)を世界で初めて作製した。この手法が確立すれば、今後はヒトの受精卵やクローン胚から作製されるES細胞を必要としないため、生命倫理上の問題を回避できる可能性がある。

多田助教授の研究チームは、マウスのES細胞とマウス体細胞を融合して幹細胞化することで万能性を持たせた後に、ES細胞由来の染色体のみを除去することに世界で初めて成功した。この技術をヒトの細胞に適用する研究計画は、12月14日の文部科学省「特定胚及びヒトES細胞等研究専門委員会」における審査を終え、現在、承認の手続きが行われている。

山中教授および多田助教授の研究は、それぞれ独自の方法で体細胞由来の万能細胞作成を可能にしたもので、患者の体細胞を用いれば万能性を獲得した自己細胞由来の幹細胞が得られるため、再生された臓器などを移植しても拒絶反応を避けることができる。以上のように、本研究成果は、再生医療の実現に向けて多くの利点をもたらし、再生医療推進にも大きな進展をもたらすと考えられる。

○「驚異的なスピードでの超新星発見と天文学発展への貢献」

板垣公一 アマチュア天文家

2005年に4個(通算16個)の超新星を発見し、日本におけるそれまでの超新星発見最多記録14個(2004年に串田麗樹氏が達成)を更新した後、今年に入ってから11個という驚異的なスピードで超新星を発見し、現時点で通算27個という日本記録を保持している。これは、アマチュア天文家としては世界的に見ても驚異的な記録と言える。超新星の出現は予測できない上に観測可能な期間が限られているため(一般的には数ヶ月から1年程度)、発見が早いほど専門的な研究への貢献度が大きい。なかでも、今年10月9日(世界時)にやまねこ座の銀河UGC4904の中で発見した超新星は、2年前に一旦やや明るさを増した後に再び暗くなった星(それを発見したのも板垣氏)がついに爆発したものと見られているが、このような挙動は従来の理論では説明のつかないもので、専門家の熱い注目を集めている。わが国のアマチュア天文家の活躍は定評があるが、特に板垣氏の今年の活躍は、アマチュアの活動が専門的な研究を進展させることを如実に示した点からも意義が大きい。

<プロジェクト部門>

○「小惑星探査機『はやぶさ』の地球帰還への挑戦」

宇宙航空研究開発機構小惑星探査機「はやぶさ」チーム
代表:川口淳一郎プログラムマネージャー

小惑星探査機『はやぶさ』は、2003年の5月にM-Vロケット 5 号機によって打ち上げられ、2005年9月に小惑星イトカワに到達し、ランデブーに成功した。『はやぶさ』は世界で初めて往復の惑星間飛行を行うミッションに従事しており、また、小惑星から試料を採取し地球に持ち帰る小惑星サンプルリターンに挑戦した世界で初めての探査機である。これまで人類が地球以外の天体から試料を持ち帰ったのは月探査を行ったアポロ計画のみであり、我が国の『はやぶさ』の試みは、世界の宇宙科学史上においても画期的な挑戦であった。

『はやぶさ』は、イトカワ表面の状態がよく分かる精細な写真を数多く取得することに成功するなど、科学的に価値の高い貴重な観測データをたくさん得ることに成功し、その画像は世界的にも広く報じられた。その解析を通じて太陽系の生成に関する知見の拡大が期待される。また、『はやぶさ』には燃費や効率のよい電気推進エンジン(イオンエンジン)が搭載されているほか、自分が行くべき方向を自律的に見定めることができる自律航行など、さまざまな技術的チャレンジが盛り込まれ、それらの実証にも成功した。

「はやぶさ」は、燃料漏洩で噴出したガスの影響で姿勢異常が生じ、一時は地球帰還が危ぶまれたが、科学者チームの懸命の努力が続けられた結果、今年になり、帰還の可能性に目処がつきつつある。このように科学者が英知を絞って困難に取り組む姿勢は、国民、特に青少年に対し、夢に挑戦する科学技術の素晴らしさを認識させ、勇気と希望、感動を与えた。

○「実物大の建物を振動させる世界に類のない先進的施設の開発運用」

防災科学技術研究所実大三次元震動破壊実験施設(E-ディフェンス)の開発運用チーム 代表:中島正愛兵庫耐震工学研究センター長、小川信行千葉科学大学教授(元兵庫耐震工学研究センター施設整備プロジェクトリーダー)

実大三次元振動破壊実験施設(E-ディフェンス)は、実物大の建物を実際に振動させて強度等を測定できるという他に類のない世界最大の施設である。阪神淡路大震災では、長周期パルス波による揺れが甚大な被害をもたらした。その事実を教訓に、そうした揺れを実物大の構造物に対して実際に再現して高速度、大変位下での震動破壊実験を可能とすることを目的に建設が進められ、2005年3月に完成した。2006年からは本格的運用が開始されており、1970年代の鉄筋コンクリート構造マンション(90世帯が入る中規模マンション)、昭和56年以前の旧耐震設計基準による木造住宅2棟(耐震補強有と無しの同時比較)の震動破壊実験や、地震時の地盤破壊の代表的な現象である液状化とそれによる側方流動を引き起こさせた実験等、14件の実規模震動実験が実施されている。これらの実験を通じ、建物等について、崩壊及び損傷の規模とその過程や耐震補強の有効性等を明らかにするとともに、耐震研究や耐震技術開発に必要な実規模の破壊現象のデータが初めて得られ、今後の地震防災対策を進める上で多大な貢献をしつつある。

<イノベーション部門>

○「オープンなイノベーションシステムの提案と展開」

北野宏明 科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(SORST)北野共生システムプロジェクト総括責任者、
石黒 周 研究開発型NPO振興機構専務理事、
浅田 稔 大阪大学大学院教授

イノベーションをもたらす研究システムへの関心が高まっている中で、近年、従来のシステムとは異なる新しいオープンな研究システムが研究者により提案され、実施されている。それは明確なゴールを掲げ、それに共鳴する研究者等による自発的なネットワークによりNPOを活用して研究開発を実施するという方式である。そのさきがけとして、1990年代半ばより、日本の研究者を中心として完全自律型ヒューマノイドロボットを開発し、実際にロボットにサッカー競技を行わせるというRoboCup活動が提案された。その後、RoboCupは国際的なフェデレーション(スイス法人)が創設され、また日本委員会がNPOとして設置された。2005年には第9回RoboCup世界大会が大阪で開催され35カ国4000人の研究者の参加を得て着実な研究成果を挙げるとともに、18万人の来場者を得るなど一般に大きな関心を集めた。このシステムは、更に、細胞のシュミレーションモデルとそれに基づく臓器モデルの構築等を目指す「システムバイオロジー研究機構」(2006年同機構主催でシステムバイオロジー国際会議が開催された)、レスキューロボット等災害救助システムの開発を目指す「国際レスキューシステム研究機構」等へと展開され、国際的にも関心を集めている。

北野、浅田、石黒氏は、新しい研究システムの構想、RoboCup構想の企画、その具体的な実施に参画するとともに、さらにそのシステムの他分野への展開にも尽力している。

<成果普及・理解増進・男女共同参画部門>

○「脳研究への関心を喚起」

川島隆太 東北大学加齢医学研究所教授

一般人から見ると科学技術の基礎研究は日常生活とは縁遠いものと思われがちである。その中にあって川島教授は、脳科学の先端的基礎研究に留まらず、認知症の予防・改善や脳の健全な発達を支援するシステムの開発など、脳科学の知識と技術を医療・教育現場等で活用するための社会技術研究を精力的に推進している。また、企業の製品開発への助言・評価を軸とした産学連携を積極的に実施し、その成果は、「脳を鍛える」シリーズなどで巨大な市場を創出する結果となって現れている。これは、産学連携の注目すべき先例であると同時に、脳研究に関する一般の関心を大いに喚起することに繋がっており、科学技術の社会への浸透と理解増進に多大な貢献をしている。

○「研究者自らの行う理解増進活動・女性研究者育成支援態勢整備の促進」

北原和夫 国際基督教大学教養学部教授、
大隅典子 東北大学大学院・医学系研究科・創生応用医学研究センター・形態形成解析分野教授

科学技術の理解増進や女性の参画活動の必要性が強く認識される中で、研究者自身の社会への働きかけが必要となっている。特に研究者における組織的な活動はこの2〜3年において顕著であった。北原教授はこのような活動の中で中心的な役割を果たした。日本学術会議における若者の理科離れ問題への対応の活動のほか、世界物理年日本委員会における事業、国際物理オリンピックへの日本参加、サイエンスリテラシーの増進のための研究などに貢献している。

大隅教授は、男女共同参画学協会連絡会第4期委員長(2005.10.8〜2006.10.6)として、第3期科学技術基本計画に女性研究者支援のための施策を盛り込むことに尽力し、同基本計画のもと、女性研究者支援元年として本年に各種施策が開始されるにあたっての端緒を作り出すとともに、学協会へのアンケート調査や意見集約などを通して、そのさらなる充実のための提言などを行う中心となってきた。また東北大学においても、次世代の女性研究者育成を目指す「サイエンスエンジェル制度」の発案・発足に尽力した。