前回機関評価実施時と比べ、科学技術を巡る環境は大きく変化、我が国は「科学技術創造立国」を選択、省庁再編・2期にわたる基本計画策定等科学技術政策の枠組みも大きく変革。NISTEPへの期待は益々増大、今こそ存在をアピールすべき時。次の5年間は「政策志向型」を第一の優先度として調査研究活動に取組むべき。
NISTEPはその基本使命の効果的達成に向け、今後の機関運営に当たり以下 1. 及び 2. の諸課題への取組みを進めるべき。
上記 1. 及び 2. の取組み推進に当たっては、以下のような所属スタッフへのインセンティブ付与が有効。
以上に加え、以下の提言項目について、文部科学省をはじめとした行政部局の取組み強化を期待。・次期科学技術基本計画策定に向けた基盤的調査研究に係る十分な予算確保及び行政部局との効果的連携体制の構築・政策研究者の意欲向上のため、行政側による政策決定プロセスでの引用・参照成果の明確化・文部科学省・外務省を通じた研究成果・情報の外交戦略への活用・NISTEP在籍行政官が行政部局復帰後に経験・知識を活かせるローテーションの確立
委員長 | 池上 徹彦 | 会津大学学長 |
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委員 | 池澤 直樹 | ㈱ 野村総合研究所コンサルティング部 チーフ・インダストリー・スペシャリスト |
委員 | 鵜野 公郎 | 慶應義塾大学政策・メディア研究科 教授 |
委員 | 笠見 昭信 | ㈱ 東芝 監査役会議長 監査役 |
委員 | 都河 明子 | 東京医科歯科大学 留学生センター・教養部 教授 |
委員 | 鳥井 弘之 | 東京工業大学原子炉工学研究所 教授 |
委員 | 中島 尚正 | 放送大学東京多摩学習センター 所長 |
委員 | 原山 優子 | 東北大学大学院工学研究科 教授 |
委員 | 松本 和子 | 早稲田大学理工学部 教授 |
委員 | 薬師寺 泰蔵 | 慶應義塾大学法学部 教授 |
今次機関評価委員会は、各委員の協力の下、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」及び「文部科学省における研究及び開発に関する評価指針」に基づき、平成14年4月より6回の会合を開催し、前回機関評価(平成10年度)の結果及びその後の対応状況を踏まえつつ科学技術政策研究所の調査研究活動を含む運営全般に関する評価を実施してまいりました。このたび、「科学技術政策研究所平成14年度機関評価報告書」を別添のとおり取りまとめましたので報告いたします。
まずは、評価対象期間における活動・成果については、大きな進展を認めることができました。
我が国の科学技術政策を巡る現状は、前回機関評価の実施時点と比べ、R&D活動の戦略的重点化及び横断的科学技術システム改革を含む政府研究開発投資の量的拡大を基軸とする第2期科学技術基本計画が策定され、また、政府全体の「司令塔」としての内閣府・総合科学技術会議が発足するとともに、公的研究機関・国立大学等では独立法人化に向けての動きが活発になる等、ここ数年で科学技術政策の枠組みも大きく変革しています。このような未曾有の「大改革」時代にあって、将来の経済・社会の発展を先導する戦略的科学技術政策の役割と、この理論的根拠となる体系的科学技術政策研究の重要性は大幅に増大してきております。
このような状況の中で、今次機関評価委員会は、今こそ、国立研究所としての科学技術政策研究所の存在理由を明確にし、それをアピールすべき時であり、次の5年間は「政策志向型」を第一の優先度として調査研究活動に取組むべきであると認識し、研究所の調査研究活動について評価を実施して参りました。本委員会の見解は、報告書にまとめたとおりでありますが、科学技術政策研究所が国内唯一の科学技術政策策定のためのシンクタンクとして社会的要請に対応したテーマに取組み、高度な政策提言機能を発揮することを目指すために、今回の機関評価の結果を活用し、課題の改善に積極的に取組んでいかれることを希望します。
最後に、機関評価の実施に際して、ヒアリングなどに協力していただいた米国NSFのBlanpied東京事務所長をはじめとする海外関係機関の専門家の方々、評価委員の皆様、被評価機関である研究所の所員の皆様など、ご協力いただいた関係各位にこの場を借りて深く御礼を申し上げます。
今次機関評価は、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」(平成 13 年 11 月内閣総理大臣決定、以下「大綱的指針」)、及び「文部科学省における研究及び開発に関する評価指針」(平成 14 年 6 月策定、以下「文部科学省指針」)に基づき、平成 10 年に実施した第 1 回機関評価の結果及びその後の対応状況を踏まえつつ、科学技術政策研究所(以下「 NISTEP 」)の調査研究活動を含む運営全般の評価を行い、評価結果を踏まえた研究資源の適切な確保・配分及び運営上の問題点の改善等を通じ、当研究所の機関としてのマネジメントの質的向上及び調査研究活動の一層効果的・効率的な推進を図る目的で実施した。
なお、今次機関評価は、 NISTEP 所長からの委嘱により、平成 13 年の省庁再編後の科学技術行政システムの枠組みを前提として NISTEP の活動及び運営のあり方を検討・評価する、という視点に基づいて実施したものである。
NISTEP は国の科学技術政策立案プロセスの一翼を担う国立研究機関であり、中期計画及び機関評価の位置づけは、法令に則し定められた目標達成のための業務遂行を使命とする独立行政法人研究機関とは本質的に異なる。具体的には、独立行政法人は主務大臣の定める中期目標に基づき、当該法人が作成、主務大臣の認可を受けた中期計画に沿って業務を遂行し、独立行政法人通則法に基づき、主務省が設置する評価委員会が当該業務の実績等に関する評価を実施しているのに対し、本機関評価委員会の役割は、法令に基づく所与の業務遂行実績の評価でなく、中期計画そのものの妥当性のチェック・検証を含めた機関運営及び調査研究実施状況全般についての評価検討を行う、一種の「運営諮問委員会」的位置づけのものである。
評価委員の選任に関しては、「科学技術政策研究所における研究に関する評価のための実施要領」(平成 14 年 3 月 14 科政研企第28号:第 1 回会合資料 1-1 参照)に基づき外部専門家等による委員会を設置し、所長が委員長を委嘱し、他の委員は委員長の推薦を受け、所長が委嘱した。なお、評価委員は、機関評価委員会設置要領(第 1 回会合資料 1-2 参照)の「任期は 2 期 6 年まで」との条件を踏まえ、委員長を含む5名を前回機関評価委員から再任し、 5 名を新任として選任した。
前回機関評価(平成 10 年度)の実施時点と比べ、経済のグローバル化の中で日本の競争力に翳りが見えはじめる等、科学技術を巡る環境は大きく変化している。さらに、我が国が「科学技術創造立国」を選択したこと、中央省庁が再編され、2期にわたる科学技術基本計画が策定されたことなど、科学技術政策の枠組みも大きく変革してきている。このような情勢の中、 NISTEP への期待は益々増大しており、今こそ存在をアピールすべき時となっている。このため、次の5年間は「政策志向型」を第一の優先度として調査研究活動に取組むべきである。
このような認識の下、前回機関評価以降の研究所の運営全般に関する総合的評価を整理すると以下の通りである。
前回機関評価委員会の提言を踏まえ、平成13年9月に中期計画が策定されたことは評価できる。但し、同計画が評価委員会の提言後2年半以上経過して策定されたのは、省庁再編及びこれに伴う研究所内部機構の改革等種々の事情があったにせよ、遅きに失した感がある。この遅れにより、計画策定から今次機関評価までの期間が1年足らずとなり、中期計画の具体化状況について実績に基づく評価が十分にできないという問題が生じている。
中期計画策定以外の主な提言事項(社会システム変化等に対応できる体制整備、総合的科学技術政策での調査・分析への支援機能・体制整備、国際的戦略立案・策定等への積極的貢献)については、その後の中央省庁再編の流れ等も踏まえ、後述の通り相応の対応が図られているものと認められる(第2回会合資料3-3、第3回会合資料2-1参照)。また、一部指摘事項については、中期計画に今後の活動計画として盛り込まれており、今後その具体化状況につき適宜フォローアップを行うべきと考えられる。
中期計画に示された今後の調査研究の方向性が網羅的で多岐にわたり、優先度付けがされていないことは問題である。このため、現状の研究資源を前提に早急に戦略的優先度付けを行い、新たに追加する重点事項には現状の資源配分ないし別途資源を確保することで対応すべきである(戦略的に優先度付けすべき課題例については、P.14「社会的要請への対応」の項参照)。戦略的優先度付けに際し、経営資源の制約等による障害があればこれを明らかにし、外部機関の有効活用、大学等との連携強化等、障害回避のための具体的方策をしっかり確立することが重要である。
なお、中期計画の目標の一つとして掲げられている「世界第一級の中核研究機関」化の実現については、その意欲は評価しうるものの、研究所の諸活動の結果として達成される目標として位置づけるべきである。研究分野やその目的において国内には NISTEP と比較できる機関はなく、国内唯一の科学技術政策策定のための研究・提言機関としての使命遂行、即ち社会的要請に対応したテーマに取組み、高度な政策提言機能を発揮することを第一の目標とすることが適当である。
NISTEP は、政策策定機関を主たる顧客としたタスクフォース的役割、すなわち短期的シンクタンク機能を担うこと、及び将来の顧客ニーズを先取りした「待伏せ的研究」や定点観測的研究を論文として準備するといった中・長期的シンクタンク機能を担うことで、政策策定側へ貢献することを最大の使命と位置づけるべきである。特に中・長期的シンクタンク機能については、顧客たる行政側も将来の政策課題を的確に絞り込めていないケースもあり、 NISTEP 側で「顧客の顧客」たる社会・産業界等の動向を直接把握し、タイムリーな提案を行うことが重要である。
日本には科学技術政策研究が未だ十分に根付いておらず、それを前提に使命遂行戦略を立てるならば、国内外の研究者を従来以上に広く取り込み、データのギブ&テイクを行うことにより、得られたデータを効果的に加工、情報発信する機能を持つ研究所を目指すことが重要である。
特に使命実現のためには、マクロな国際動向を先取りできる「知恵袋」を確保することが重要である。この場合、欧米主要国のビッグネームもさることながら、中国等の注目国のキーパーソンからの情報入手も重視すべきである。また、こうした情報収集のための国際的人脈作りの観点からは、インフォーマルな人的ネットワークの把握及び参加への努力が必要である。いずれにしても、情報収集においてはギブ&テイクが基本であり、 NISTEP として提供できる情報の創出と蓄積が最大の課題である。
NISTEP は、使命達成による顧客満足度の向上、有能な人材を引きつける「魅力」の発信といった顧客への浸透度・認知度向上を目指した種々の取組み(一種の「マーケティング」活動)によって、研究所のプレゼンス向上のための努力をすべきである。そのためには、類似機関や民間では対応困難な NISTEP ならではの「目玉商品」(Killer Product)と呼べる成果の創出が必須であり、従来から海外で評価の高い「科学技術指標」「技術予測」等のレポートと同等、もしくはそれ以上の質を維持しつつ多くの成果を発表し、 NISTEP の特長を顧客や国内外の関係機関にアピールしていく必要がある。
また、海外の政策研究機関が日本の科学技術政策に対してコメントを発表することは日常的に行われるが、その逆はほぼ皆無であるため、今後は海外に向けて諸外国の科学技術政策への意見発表や日本の科学技術政策に係る情報発信を積極的に行うことも重要である。こうした観点から、経営資源の制約を踏まえつつ、 NISTEP の主要な成果物等関連資料の英文化を進めることが必須であろう。
今後の取組みにおいては、上述の方向性を制度的に担保するための評価システムを確立する必要がある。そのためには、所外人材による機関評価を定期的に実施すると共に、所内においても計画-実施-見直し(Plan-Do-See)のフィードバックによる日常的評価サイクルを確立することが必須である。併せて、政策研究の一環として研究評価及びプログラム評価のあり方についても主要諸国の取組みを踏まえた検討・分析を行い、効果的な研究所の運営に活かすよう留意することが重要である。
第1・第2の両研究グループは、ベンチャービジネスや科学技術政策システム等の研究課題への取組みにより、一部については政策面ないし学術的に意味のある成果を創出し、学会発表や国際会議開催等を通じた情報発信により、研究所の国際的プレゼンス向上に相応の寄与を果たしている。加えて、政策当局からのコンサルテーションへの対応にも相応の労力を投入してきている状況が見て取れる。
しかし、課題事後評価ないし研究者業績評価においては、当初設定した目標が十分達成されていない、あるいは外部への研究成果の発信が十分でない状況も一部に見られ、より確実な研究進捗管理や情報発信のための努力が必要である。加えて、グループの運営及び課題設定に際しては、大学との連携強化に注力する一方で、実践的課題に立脚した検証研究の実施に軸足を置くなど、大学における学術的研究との質的差異化に配意すべきである。
第1・第2・第3の各調査研究グループは、科学技術指標、科学技術理解増進、地域科学技術振興等、我が国の科学技術政策上の重要課題についての調査研究に取組み、その成果は報告書の配布に加え、様々なコンサルテーションの機会を通じた関係行政部局への伝達等、政策立案プロセス支援の努力はなされている。
但し、これらの取組みについても、課題事後評価ないし研究者業績評価の結果を見る限り、政策当局のコンサルテーションへの対応や対外的情報発信に不十分な面があり、調査研究の設計段階から行政部局と十分すり合わせを行うなど更なる取組み強化が必要である。また、学界等との関係においては、学会での発表実績等の国際的プレゼンス発揮の面で不活性のケースが見られ、調査研究グループでは政策の企画立案プロセスへの貢献が主要な使命とはいえ、研究成果のグローバルな展開、国際的発信強化にも目配りしたバランスのとれた取組みが必要である。
科学技術動向研究センター(以下「動向センター」)は、平成 13 年 1 月の省庁再編を機に予算・定員等の研究資源を拡大する形で NISTEP に設置され、内閣府・総合科学技術会議及び文部科学省等へのタイムリーかつ有用な重要科学技術動向に係る情報提供、一般向けの情報発信等の面で所期の予想を越える優れたパフォーマンスを発揮している。同センターは行政部局への政策提言機能、研究所全体の対外的プレゼンス向上の観点からも、研究所の調査研究活動の中で中核的かつ枢要な部門としてその存在、機能を確立しつつあると認められる。
今後は、その活動及びネットワーク機能を着実に定着・展開し、調査研究成果の「付加価値」を更に高めるよう努めるとともに、成果の提供・発信先を国内の主要企業や大学・高校等に加え、「英文版」の作成により国外の主要機関へと拡大するなど、一層のプレゼンス向上及び顧客拡大を図っていくことが重要である。また、異分野専門家の交流やこれによる新分野の創出を促進するために、動向センターの専門家ネットワークを通じた双方向コミュニケーション機能を積極的に活用すべきである。
今後の研究所の運営全般の方向性としては、諸外国との比較分析の下での国全体の科学技術システムに係る基盤的データの蓄積・整理・分析(「定点観測」的調査研究)及び国内外への成果の展開についても、相応の研究資源を投入し取組み強化を図るべきである。
その際、今日的課題に迅速かつタイムリーに取組み、政策提言及び政策シミュレーションを行うことは NISTEP の「Metabolism」(新陳代謝)を促進する上で重要であり、また、政策立案のための長期的・継続的観点からの基礎データを提示し、総合科学技術会議・文部科学省等への支援・貢献を果たすことは、組織としての「Rationale」(理論的根拠)を保持するために必要である。このことはいわば「不易と流行」(継続性と機動性)の視点に基づくものであり、研究資源の配分等に当たり両者の適切なバランスを確保することが重要である。
これら調査研究の推進に当たっては、可能な限り科学技術振興調整費等外部資金の活用可能性を模索し、委託費の活用による実務作業の外部シンクタンク等へのアウトソーシングを積極的に進める等、調査研究の一層の効率化及びインテリジェント化を図ることが重要である。更に、将来のニーズを先取りした「待伏せ研究」の効果的な推進に向けて、変化に対して柔軟に対応できる組織原理の導入・定着に意を用いるべきである。
前回機関評価(平成 10 年度)以降の活動状況を中心に、第 Ⅰ 部で述べた各評価項目毎の現状認識及び今後の課題を整理すると以下の通りである。
研究所の本来予算は、前回機関評価が行われた直後の平成11年度は643百万円であったが、平成14年度には897百万円と着実に増加してきている。総予算に占める調査研究予算の比率も、平成13年度の動向センターの設立を契機に、平成11年度の35.8%から平成14年度の49.6%へと大幅に増加してきている。
本来予算額及び調査研究予算の比率は増加しているが、外部機関を機動的に活用するための委託費が確保できないという問題もあり、必ずしも効率的な調査研究活動が実施できていない面がある。外部機関の活用は世界の趨勢であり、NISTEP でも外部機関をこれまで以上に利活用するための方策を検討する必要がある。
科学技術振興調整費、科学研究費補助金、科学技術振興事業団(以下「JST」)社会技術研究推進事業等の外部競争的資金に対しては、積極的に応募してはいるものの、結果として十分な成果が得られていないのが現状である。特に科学技術振興調整費については、制度改革に伴ってテーマの新規性やユニークさが求められるようになり、例えば平成11年度は NISTEP から「科学技術政策基礎調査」他5課題が採択され、予算配分額24百万円であったのに対して、平成13、14年度の「政策提言」他には計5課題を応募したが全て不採択という結果であり、行政ニーズに直結するような課題の採択は極めて厳しい状況になっている。
外部資金については、上記のような公的資金以外にも様々な助成財団等が研究資金の提供を行っている。外部資金を用いた委託費による外部シンクタンクの積極的活用を図る観点からも、これまであまり対象としていなかった民間の財源も十分視野に入れ、可能な限り外部資金の獲得に向け努力すべきである。
また、調査研究課題の提案に当たっては、資金提供機関のねらいや評価者の興味にも配慮し柔軟な視点でアピールするとともに、提案内容に係るプレゼンテーション能力の向上を図るなど、提案及び資金獲得能力の質的向上を図ることが重要である。
前回機関評価でも長期化すべき旨の指摘があった研究者の任期に関し、調査研究グループのリーダーについては、設立以降の平均任期 27.2 ヶ月から、前回評価以降の平均が37.3ヶ月と長期化の傾向にある。また、所長及び研究グループの リーダーの任期はほぼ横這いとなっている一方で、総務研究官の任期が設立以降の平均15.4ヶ月から、前回評価以降の平均が10.8ヶ月と短期化の傾向が顕著になっている。
プロパー研究者は、研究職3名、行政職1名の計4名であり、調査研究部門職員の1割強を占める(この他にプロパーの研究職員1名が国際機関(OECD科学技術産業局)に長期派遣中である)。なお、女性研究者の任用については、最近の任期付採用を含めこれまで主任(上席)研究官クラスへの登用実績があり評価できる。
上級職員については長期的な計画に基づいて調査研究活動を適切に統括・リードすることが重要であり、任期短縮は調査研究や運営計画の戦略的方向付け、具体化に支障を及ぼす懸念があるため、一般の研究者も含め、研究職員の安定的な任用を行うよう努力すべきである。また、「世界第一級の中核研究機関」化を意識する以上、外国人や女性研究者の積極的登用は不可欠であり、今後も開かれた研究所として広く外国人や女性を登用していくことが重要である。なお、人材の登用に当たっては、管理部門で画一的に処理すべきではなく、グループリーダー等の現場の管理者により大きな権限を与えるべきである。
一方、良質の研究者の採用を重視した結果、定員枠が埋まらず人件費の「不用額」が生じ、翌年度の人件費予算が削減されたことは大きな問題である。今後は質・量共に安定的かつ最善の任用ができるよう、任期付職員任用プロセスの効率化、安定した予算の確保、研究職員登用システムの改善提案等所要の措置を講ずるべきである。
更に、ここ一、二年で任期付職員が大幅に増加したこと等を踏まえると、前回機関評価でも指摘のあった将来を担う中核職員の更なる育成努力が必要であり、特にプロパー研究者は従来以上に情熱的かつ貪欲に研究に取組むことが望まれる。
NISTEP には平成14年 9 月現在、文部科学省を中心に行政官計11名が在籍中であるが、過去本研究所に在籍した行政官の中には、内局において NISTEP での調査研究実績に基づき「科学技術白書」を執筆する等、 NISTEP での先見的調査研究の経験を業務に有効に活かした例がある。
NISTEP に在籍した行政官に関しては、各行政部局への復帰後に在籍中の経験や知識を生かせるポジションに昇進できるようなローテーションが確立されることが望ましい。これにより、科学技術行政部局との人的連携の一層の強化も期待できるため、ローテーションの確立に向け NISTEP からも積極的なアピールを行うことが重要である。
平成 13 年 1 月の動向センター発足以来、調査研究職員の定員増を活かし、任期付研究職 6 名(うち若手育成型 3 名)、同行政職 4 名の合わせて 10 名の任期付職員を採用している(平成 14 年 9 月現在)。国内における科学技術政策研究分野の人材の層の薄さに照らし、本分野における次世代の研究人材育成について考えておくことは重要であり、研究人材の流動化が進む中で、任期付のポストを活用し、将来を担う若い人材が NISTEP で政策研究を行うことには大きな意義がある。
優秀な任期付研究者を集積させるためには NISTEP 自体のプレゼンスを向上させ、そのキャリアが社会的に高く評価されるような状況を作り出すことが必要である。また、これらの優秀な任期付研究者を外部に流出させずに主要な戦力として定着させていくためには、研究者が NISTEP におけるキャリア・プランを明確に描けるような「テニュア・トラック」を示す必要がある。
これまで私立大学からの研究者の招へいはあまり実績がなく、現在の研究グループ総括及び動向センター研究員はいずれも国立大学からの配置換ないし併任者である。また、動向センターの発足に伴い、民間企業からは特別研究員(9名)、官民人事交流採用(1名)、客員研究官(5名)といった多数の職員が種々の形態で調査研究活動に従事・参画している(平成14年9月現在)。
本分野の人材プール拡大及びネットワーク強化の観点から、私立大学との人事交流が重要なポイントの一つになるものと考えられ、今後はこれを更に拡大すべきである(P.12(3)①「国内機関との連携」の項参照)。また、国立大学が独立法人化により非公務員型の人事制度を採用する場合、従来よりも柔軟な任用が行える可能性もあるため、きちんと状況を整理し対応策を検討・準備しておく必要がある。一方、民間企業の研究者を受入れることは、民間の研究開発活動を的確に把握するのみならず、民間セクターが国の仕事を理解する上でも有用であり、更に任用を進めるべきである。
NISTEP では、前回機関評価での指摘も踏まえ「全国イノベーション調査」実施準備、科学技術指標開発整備、科学技術リテラシー調査研究など、課題に応じた複数の所横断的プロジェクト・チームを設置し、効果的な実施体制を構築している。また、広範なセクターからの客員研究官の登用も、平成11年度の23名から、平成14年7月現在で57名へと着実に進捗・拡大している。
従来型の組織では対応困難な課題にも迅速に対応できる組織として、統率力・求心力あるリーダーの下、外部の人材を含めた少数精鋭のアドホックかつ、より柔軟な「タスクフォース」を形成することが有効である。このため、タスクフォースの形成に関わる流動的な人材のプールをいかに確保するかが重要になり、また、統括者のリーダーシップのあり方や、参画研究者の裁量範囲の確保が課題となる。一方、人材プールの保持・拡大の観点からは、 NISTEP 研究職員の出身機関(及び元同僚)とのつながりの維持等、人的なネットワークを構築しておくことが有用な手段である。
中期計画の方針を踏まえ、平成14年4月より新任の研究職員を主な対象として、文部科学省職員、国内主要大学院等の学生・若手研究者も対象に加え、第1期の基礎的研修プログラムを実施した。現在は、来年度以降の本格的研修の展開に向け、第2期の実践的研修プログラムを実施しているところである。こうした次代を担う若手研究者、あるいは研究者予備軍である学生等を対象とした研修プログラムは、職員の調査研究能力の向上に加え、本分野の将来を担う人材の育成、関連大学との連携強化等の面で極めて有意義である。
学問領域としては比較的歴史の浅い科学技術政策分野の研究者の底辺を広げ、研究活動をこれまで以上に活性化するためには、政策研究を実施している NISTEP 自らが人材育成の支援を行うことが有効である。特に研修プログラムについては、研修メニュー及び対象者の更なる拡大を含め、着実な取組み強化を図るべきである。
また、科学技術政策研究を担う人材の裾野を広げるために、自然科学・人文科学系の専門家が科学技術政策をダブル・メジャー的に学ぶことのできる環境の整備を支援することも重要であり、そのような研究者を対象に NISTEP が政策研究の実態を学ぶための場を提供することも一案である。
さらに、研究者養成支援の機能に加え、より戦略的・実証的マインドを有する行政部局の政策立案担当者の養成を支援する役割を果たすことも重要であり、 NISTEP を巣立った人材が総合科学技術会議等で活躍するようになることを目指すべきである。
平成 13 年の永田町合同庁舎から現郵政事業庁舎への移転に伴い、専有面積が約 2 割減少し、特に会議室、資料等保管スペースの不足が顕著となっている。
また、大学の若手研究者等の外部人材が NISTEP のプロジェクトに参加し、共同研究を実施することは極めて重要であるが、現実には定員外の研究者に対して研究スペースを配分することができず、物理的スペースの不足が大きな制約となっている。
創造的なアイデアの創出のためには、所内で研究職員が集まり、気軽に討論できるような交流の場が必要であるが、これも物理的なスペースの関係で実現していない。
政策研究においては、大学のみならず行政部局や企業からも一時的に研究者が滞在して活発な研究活動や議論が展開されるべきであり、物理的なスペースの制約で一時滞在研究者の受入れが進まないことは問題である。また、優れた研究は様々な人材交流を通じて生まれ、磨き上げられることが多いが、そうした交流がスペースの関係で制約を受けることは大きなマイナスであり、今後の庁舎移転等を契機に必要な研究・交流スペース(知的交流サロン)を整備すべきである。
庁舎移転等もあり、文部科学省行政部局や内閣府との連携は着実に強化しており、所長、総務研究官他の文部科学省幹部会議への出席、動向センター長の総合科学技術会議事務局幹部会等への出席を通じ、情報交流及び行政ニーズの吸い上げも積極的に実施している。また、「科学技術動向」(月報)や報告書等の成果物の提供、講演会・セミナーへの参加呼びかけにより、行政部局との更なる連携強化を図っている。
科学技術行政部局との連携強化を図る上で、組織の主体性とのバランスに留意しつつ、主たる顧客たるべき文部科学省、総合科学技術会議など行政部局との「距離感」をどの程度に保ち、関係をどのように設定し、適合させるか等のスタンスを明らかにすることが重要である。その上で、特定目的のために行政側に(もしくは行政側から)職員が出向する、又は特定のプロジェクトについて行政官が研究官を兼務する等、ダイナミックな人事交流を実施することも検討すべきと考えられる。
一方、行政側も、例えば NISTEP の情報を文部科学省、あるいは外務省を通じて、日本の外交戦略に活かすことなどを検討すべきである。
各種講演会・セミナーの実績の積み重ね、動向センターの専門家ネットワークの本格的展開等の取組み等により、アドホックないしバーチャルな情報交流・討議機会が拡大している。また、国立教育政策研究所とは省庁再編以降、定期的な情報交換会の実施等により交流・協力を拡大している他、国立大学からは研究職員及び客員研究官を積極的に登用し、連携が強化されている。
基礎的研究と目的志向の政策研究の両者のバランスをとりながら研究活動を進める上で、最も重要な連携のパートナーは大学である。大学との連携を強化することは、結果的に大学における行政への理解を促進することにもなり、より建設的な関係の構築が期待できるため、従来以上に大学との連携を強化すべきである。その際には、政策研究大学院大学等の国立大学に加え、慶應義塾大学、早稲田大学、立命館大学等政策研究を手がける私立大学とも従来以上に連携を深めることを検討すべきである。具体的には連携大学院方式の活用等が考えられるが、将来的には、特定大学に拠点学部を設けて人材の集積を図る、あるいは、大学の研究者が NISTEP に在籍し、基礎的課題の検証研究を行うなど、大学との人材や研究テーマの交流を更に活発化することを視野に入れるべきである。
また、 NISTEP は設立以来既に十数年が経過し、数多くの研究者を輩出している。そこで、人的ネットワークの質・量両面での強化の観点から、多様な専門分野の人材により構成されるOB/OG会を組織し、これらの人材を節点とするグローバルなネットワークを研究所のプレゼンス向上に活用することを考えるべきである。更に、人的交流の強化を軸とした共通の「場」(フリーゾーン)を提供する観点から、大学や公的研究機関の研究者、OB/OG会のメンバーが気軽に立ち寄り議論を交わし、双方向の情報交換を行う場として、前述の「知的交流サロン」を所内に確保することが有意義である。
海外機関との連携・協力については、研究協力覚書(MOU)の締結等を通じ相応の重点化が図られ、従前の欧米主要国を中心とした連携・協力から、近年はアジア諸国との交流強化に移行してきている。また、OECD科学技術政策委員会(CSTP)の各種専門家会合等への主体的寄与や国際機関事務局への専門家の長期派遣等による人的貢献は着実に拡大・進展している。
政策研究機関として、海外研究機関との連携や交流は不可欠であるが、その際には、利用可能な研究資源の制約等を踏まえ、NISTEP 自らの研究ニーズ及び潜在能力等に立脚し、対象機関や協力領域についての戦略的重点化が必要である。特に、職員の海外機関への長期・短期派遣、あるいは海外機関からの研究者受入れ等の人的交流は、国際場裡での人材ネットワークの拡大やプレゼンス向上に加え、中核研究職員の育成やキャリアパスの展開の観点からも極めて重要であり、更に拡大すべきである。
但し、海外の大学や公的機関との連携・交流においては、双方ギブ&テイクの関係を保つことができるよう、情報の受・発信、人材の派遣及び受入れ体制を整備する必要がある。その際、効果的情報収集・相手国機関との連携強化を図る観点からJSTや日本学術振興会(JSPS)等関係法人の海外駐在員事務所の機能を従来以上に有効に活用すべきである。
こうした国際研究協力・交流に投入可能な研究資源の制約を踏まえれば、将来的には、外国人研究者が海外在住のまま、NISTEP のニーズを踏まえ必要な研究ないし共同研究を行ってもらい、当該研究者を一定期間招へいする制度を創設・整備することが重要である。また、海外からの研究者の招へいに際しては、政策研究者に加え、大学長・研究機関長等の招へいも有意義である。
中期計画で掲げた「成果・人材の質・量両面で世界第1級の中核研究機関を指向」及び「科学技術行政部局の政策企画・立案に積極的に貢献」の二つの目標を常に参照しつつ、調査研究課題の設定・事前評価、事後評価及び研究者業績評価を実施している。しかし、「世界第1級の中核研究機関」のイメージ及び2つの目標の重み付けについては組織としての明確な意思決定は未だなされていない状況である。
研究所の運営が適切かつ効果的に行われているかどうか、あるいは中期計画が妥当なものであるかどうかは、研究所の諸活動の結果が行政部局の予算配分部門への責任を果たしているかどうかで判断すべきである。その際、「1.総合評価」の項で述べた通り、科学技術政策策定のための研究・提言機関としての使命遂行を NISTEP としての第一の目標とすべきとの認識を踏まえ、上記2目標の戦略的重み付けを検討すべきである。
なお、中期計画については、予算配分部門がその内容を尊重するかどうかが問題となるが、特に総花的計画では相手の都合の良い予算配分に陥りがちであるため、主張すべきポイントはしっかりと強調すべきである。
調査研究課題は、中期計画に基づき、関係行政部局との連携の下、第二期基本計画に示された政策課題に対応する諸テーマを中心に設定し、これを推進している。特に、「科学技術人材育成」や「産学官連携・イノベーション政策」をはじめとして、第三期基本計画を先取りした課題の設定についても配慮している。
政策決定に直接的に利用できるかどうか分からないテーマ、すぐに役立つかどうか分からないテーマについても、定点観測的に継続して調査研究を実施しておく必要がある。そして、科学技術面での日本の強さや潜在能力の高さについて、「科学技術指標」や「科学技術動向」(月報)等の定点観測的調査研究の成果物を通じ世界にアピールしていくことが重要である。
今後、注目すべきテーマとしては、「社会の安心・安全(高齢者福祉・介護以外)」、「人間の安全保障(ヒューマン・セキュリティ)」、「国際競争力強化の観点からの科学技術人材育成」、「政府の研究開発投資の経済効果」、「社会の変化予測」、「レギュラトリ・サイエンス(科学技術の進歩を人の健康や生活のために調整し活用する科学)」、「萌芽的分野の動向」、「海外の科学技術政策動向」等が挙げられ、これらテーマに関する国内外の情報の迅速な収集と日本の政策へのフィードバックが望まれる。また、発信能力の弱さから光の当たりにくい地域の傑出した科学技術についても関心が高まっていることから、地域の研究開発・イノベーション活動を支援するための調査研究を強化することを検討すべきである。
調査研究課題は、年度末又は年度当初に各グループリーダー等から所長以下幹部による研究計画案のヒアリング及び所要の事前評価を実施し、その結果に基づいて設定される。研究課題の提案は個々の研究者の発意、各グループからの発意、所長からのトップダウンが中心であり、個々の課題提案に当たっては、必要に応じ事前に関係行政部局との討議が行われる場合もある。
研究計画については、中期計画上の位置づけや目標設定及び手法の妥当性、科学的合理性及び政策推進上の含意等の項目に則して事前評価が実施され、その結果に基づき当該年度の研究計画及び資源配分案が決定される。
調査研究課題を設定する際は、当該課題が日本の政策決定者にとって重要なものであるか、予想される研究成果が政策決定に十分に役立つ質を維持できるか、という2つの基準を重視すべきである。この点では、第三期科学技術基本計画の策定に向け、第一期及び第二期の科学技術基本計画の政策評価ないしレビューをテーマとして採りあげるのは重要なことである。また、現在の政策ニーズと同時に将来の政策ニーズにもバランス良く対応していくことが重要であり、比較的短期の課題への対応に加え、 NISTEP としての長期的・戦略的な検討にも研究資源の一定割合を充てるべきである。
その際、全般的には研究テーマが多すぎるので、組織として取組むべき課題の継続性に留意しつつ、前任者からの継続課題は思い切って整理し、テーマを絞って新しい研究課題に積極的に挑戦する姿勢が重要である。
なお、社会科学の分野では調査研究の方法論がまだ十分に確立していない面があるため、まずは方法論やディシプリンの確立を主眼とし、政策研究の牽引的役割を果たせるように努めることが重要である。更に、課題の設定や仮説の構築には、先見性、予見性、俯瞰性の視点を重視し、これにより他のシンクタンクとの差別化が図られるよう努力すべきである。
中期計画では総合科学技術会議の支援と第三期科学技術基本計画策定のための貢献を目標に掲げているが、これについては適切と考えられる。また、調査研究の方向性に関し、「研究開発システムに関する研究」、「技術の経済・社会ニーズへの適応過程に関する研究」、「科学技術と社会との包括的な関係に関する研究」の3つの研究領域が示されているが、先進国における政策研究領域として適切である。
3つの研究領域のサブ・トピックス(中項目)は数が多く、政策決定者のニーズへの対応を目的とした組織としてより重点化を図るべき状況にある。また、各研究領域の中項目について優先度が設定されていないことも問題である。これだけ多くの中項目を研究対象として、なおかつ「世界第1級の中核研究機関」を目指すという目標の達成は研究資源の制約があり極めて困難と言わざるを得ない。「世界第1級の中核研究機関」を目指す以前に、まずは国家的要請への対応に重点を置くべきであり、その際に取組むべき中項目の戦略的優先順位を設定し、重要度に従ってテーマを絞り込む必要がある。
NISTEP が世界に向けて情報発信している調査研究成果として、「科学技術指標」のレポートは各国の科学技術の専門家に活用され、高い評価を受けている。また、「技術予測調査」のレポートも世界的に高い評価を受けており、当該分野では世界のトップランナー的存在となっている。この技術予測に関しては、中国やベトナムの専門機関・部局から継続的に研究員を受入れて調査研究スキルを供与しており、アジア諸国を中心に世界の中核的機関としての役割を十分に果たしている。
今後は、欧米の科学技術政策に注目することも必要であるが、もう一つの方向性として、国際社会でのアジア諸国のプレゼンス向上に鑑み、日本が科学技術に関するアジアのリーダーとなるために貢献することも重要である。アジア各国との連携を深め、人的ネットワークを構築する中で、共同研究プロジェクト等を仕掛けるなど、アジア各国を対象とした調査研究・交流活動を強化していくことが考えられる。こうした取組みを通じ、アジアにおける科学技術を巡る問題を把握し、対応のための提言を行うなど、アジアの「中核センター」となるような活動を推進すべきである。
研究成果物の関係部局への配布、セミナー・講演会への参加呼びかけ等により、科学技術行政部局への定常的な情報提供を行っている。所内においては、文部科学省行政部局、総合科学技術会議事務局等への日常的コンサルテーション活動を課題評価・研究者業績評価の重要項目として設定し、政策企画・立案プロセスへの貢献に向けた職員の意識付けを行っている。
NISTEP の調査研究活動を評価する場合、政策決定に研究成果がどの程度寄与したかが最大のポイントであり、総合科学技術会議や文部科学省にどのような「くさび」が打てるかを常に念頭に置いて具体的政策オプションを提案するなど、政策提言機能を更に充実する必要がある。今後、特に期待されるのは、長期的視点に基づいた重点分野の設定に関わる提言を行うなど、官僚メカニズムによらない大所高所からのグランドデザイン的な政策提言を総合科学技術会議等に示し、審議会の提言の素案作りに主導的な役割を果たすことである。この場合には、欧米先進国の政策立案プロセスをベンチマーキングとしてレビューする等により、世界的な視野から日本の政策形成を評価・分析することに注力すべきであり、必要な人材を集中的に投入する等により、タイミングよく政策提言を行うことが重要である。また、有効な政策提言を行うためには、欧米の政策提言機関とその提言活用メカニズムを把握し、世界に伍するメカニズムの構築に向け NISTEP に足りない点があればそれを補強していくことも検討すべきであろう。
なお、行政側には、政策研究の評価の効率化及び政策研究に携わる研究者を督励する観点から、政策決定のプロセスで引用、あるいは参照した NISTEP の成果物について出典を明記することを要望する。
研究所としての主要な成果物である「NISTEP REPORT」は所内セミナーでの原案発表・討議、所議での審議・了承、所長決裁を経て発行しており、外部発表に先立ち文部科学省局議で報告するとともに、同筆頭課長等会議で配布し、同省幹部・関係部局、総合科学技術会議有識者議員・事務局にも適宜配布している。また、その内容については積極的なプレス発表と、早期のHP掲載を心掛けている。一方、「POLICY STUDY」、「調査資料」、「DISCUSSION PAPER」等の成果物は、グループ長承認後、所長決裁を得て発行しており、所内連絡会議での報告・配布、及び適宜行政部局担当者への配布を行っているが、プレス発表の如何は内容等に則し個別に検討している。HPへの掲載については、できるだけ早期に行うことを心掛けている。
なお、研究者個人の学会発表については、研究者業績評価のための基礎資料としての「届出書」の提出を求めるだけで、事前承認等は不要であり、発表の自由が保証されている。
理工学系の調査研究成果の取扱いは知的財産権の問題等があり、ある程度の制限もやむを得ないが、科学技術政策分野の調査研究成果の発表は自由度を高くすべきである。もちろん、研究所の成果物として発表する「NISTEP REPORT」については、品質管理的な意味合いで所内でのチェックが必要であろうが、個人のアイデアを前面に出すような成果は「DISCUSSION PAPER」等で自由に発表できるようにすべきである。その際、個人の発表に対する批判は個人が責任を負うこととして、研究所としての発表と個人の発表を柔軟に組み合わせ、有効な情報発信を行うことが重要である。
現段階では、 NISTEP 側から調査研究成果を一方向的に外部に提供することが多く、主たる顧客たるべき文部科学省等の行政部局はじめ、外部からどう認知されているかを把握し、調査研究活動にフィードバックするための特段のメカニズムは存在しない。唯一、科学技術動向月報については読者アンケートを実施し、その結果を原稿作成及び編集作業にフィードバックした実績がある。
NISTEP が研究の質の割に社会的に認知されていないのは、情報発信の方法(アイキャッチ)に問題があるためと考えられる。今後は組織の認知度に関する認識を強く持ち、文部科学省や総合科学技術会議等に対し研究所の認知度を高めるために努力する必要がある。例えば、講演会・セミナーは行政部局の職員が参加しやすい場所や時間帯に設定し、多くの参加が得られるようにする等の対応も重要である。
また、組織の存在感を高めるために、「科学技術動向」(月報)や各種講演会、専門家ネットワーク等により大きな価値を持たせることが必要で、これらの情報提供に一種の「マーケティング」の視点を導入することを検討してもよいであろう。
NISTEP のホームページ(英文含む、以下HP)へのアクセス件数は、平成12年4月からの13ヶ月間で8万7千件であり、物質・材料研究機構の22万3千件、経済産業研究所の21万2千件、農林水産政策研究所の4万5千件と比較すると、前2者とはアクセス件数にかなり差がある。また、研究所の報告書別アクセス件数の上位は、技術予測調査、科学技術動向月報等、動向センターの成果物に集中している。その他には、科学技術指標・技術貿易等の政策基礎データ、ベンチャー・企業戦略、産学官連携・イノベーション、人材育成・理解増進等の領域でアクセス件数が多い状況にある。
NISTEP と経済産業研究所他のHPのアクセス数には大きな開きがあるが、これには情報発信力の差もあるものの、研究分野及び閲覧者の母数の相違も影響しており、過度に気にすべきでない。HPの活用に関しては、むしろ政策決定者が使える情報を的確に提供すること、科学技術政策の議論ができる「プラットフォーム」を提供することが重要である。このため、講演会の概要等を可能な限りWebで発表する等、情報を「単発型」から「蓄積型」に転換し、多くの関係者が利用可能な「知識ベース」の構築を促進することが必要である。
「科学技術指標」、「日本の技術輸出の実態」については財務省印刷局から出版されており、また「技術予測調査」も発行部数が多く対外的な露出度は比較的高い。しかしながら、これらは例外的であり、全体的には行政部局等の関係者以外に報告書が配布されることは比較的少ない状況である。
研究成果をどのようなメディア、形態で供給するかについては検討する必要がある。例えば、CD-ROM等には相応の利点もあるが、蓄積性や保存性を考えるとこれらの新しい記憶媒体が利用される期間は意外に短期間であり、書籍の形態で研究成果を供給した方が良いように思われる。特に調査研究成果を出版物として世間の目にさらすことは重要であり、そのことが NISTEP そのものの認知度向上にもつながると期待されることから、成果の出版について前向きに検討すべきである。
前回機関評価以降、 NISTEP のHPへのアクセス件数が大幅に増大する中で、海外からのアクセスも着実に増加してきている。特にアメリカ、イギリス、ドイツ、カナダ等の欧米主要国に加え、台湾、韓国等のアジア各国・地域からのアクセスの多さが顕著である。HP上で調査研究成果の英語版(概要・要約版のみを含む)を公開している割合は、NISTEP REPORT が86%、調査資料が19%(平成14年5月現在)となっており、アクセス件数の増加はこれらの成果とみることができる。
また、「科学技術指標」、「技術予測調査」に関してはCD-ROM版の英文報告書を作成し、既に提供中である。更に、科学技術動向月報については英語版作成の準備を進めており、3ヶ月分の特集記事を四半期毎に発行することを計画している。
NISTEP の役割は日本の科学技術政策に対して提言を行うことであり、限られた資源の多くを研究成果の英訳に注ぎ込む必要はない。しかしながら、主要な成果について英語版のレポートを発表することは、海外において NISTEP の認知度や評価を高める効果があることも認識すべきであり、主要な研究成果については積極的に英語で発信していくことが重要である。もちろん、研究資源との兼ね合いもあるが、少なくとも報告書の目次や概要の英語化は必須であろう。また、国際的なプレゼンス向上のために、『Nature』や『Science』等の一流国際科学雑誌を活用し、「ニュース」、「コラム」欄等への投稿を端緒としつつ、研究成果や研究情報の発信を目指すべきであろう。
現在、「科学技術動向」(月報)は、約1500部(平成14年8月現在、うち400部が文部科学省及び内閣府向け)を発行しており、その内容はHP上でも提供している。月報の作成に当たっては、向こう3ヶ月分の特集予定を予め行政部局に提示し、調査・編集方針について適宜意見交換を実施する等、政策ニーズの適時的確な把握・反映に努めている。
「科学技術動向」(月報)は外部からの評判が高く、 NISTEP のプレゼンス向上のための主要な役割を担う成果物として期待が大きい。そのため、今後は行政部局や専門家、 NISTEP 関係者だけでなく、主要な大学・研究機関の長や高校理科教諭へも配布し、これを通じて情報発信や理解増進の機能を強化することを検討すべきである。また、産業界に対しても電子メールによる周知等を通じ、HP上で「科学技術動向」(月報)が閲覧できることをより幅広くアピールし、情報交流のネットワーク拡大を図るべきである。
課題事後評価の評価項目は、主として「目標達成状況」と「成果の質」の2軸であり、投入した研究資源を適切に把握・参照して評価を実施している。特に、成果の質に関しては、中期計画に示された「今後の取組み目標」に則し、科学的価値及び政策立案プロセスへの関連性をベースに、成果の公開に関わる項目を加味して評価している。
NISTEP は国家的・社会的な要請に沿って研究を実施する機関であり、成果の質を他の学術研究機関と同様の観点から評価すべきではない。従って、学術論文の発表実績等を重視する現状の評価指標は、組織の使命に照らして考えると必ずしも適切ではない。事後評価では、むしろ先見的・俯瞰的な問題意識やアプローチ法の創造性を重視すべきであり、また、先導的な指針や社会的に意味のある成果がどの程度出ているかをチェックすべきである。
また、こうした「先見性」に加え、他の機関との「連携度」や「統合度」も組織としてのネットワーク拡大に当たって重要であり、新たな評価項目として導入を検討すべきである。
なお、評価は、評価点の実数値と重みの2軸で考えるべきである。評価項目の重み付けをどのように設定するかが NISTEP の方向性を決める組織のビジョン(戦略)となることから、慎重に検討し、トップダウンで評価項目の重み付けを決定すべきである。
成果の質的評価において、中期目標1「世界第1級の中核研究機関化」については、論文発表、招待講演、学会発表等の実績が評価項目であり、中期目標2「行政部局における政策の企画立案への貢献」については、行政部局からのコンサルテーションへの対応、政策立案への具体的寄与等の実績が評価項目となる。これら2つの目標の重み付けについて、組織として明確な意志決定は未だなされていない状況である。
NISTEP が論文生産を第一に考える機関でないことは明らかであるが、政策提言を行う場合においても、その根底にある考え方を論文で明らかにしないと表面だけの政策提言になりかねない。このため、 NISTEP には政策提言と論文発表の両方の機能を果たすことが求められる。特に、専門志向でなく、実践に役立つ基本的考え方を明らかにする政策志向でクロスディシプリンの論文の発表は、大学で行われることは少なく、国が運営する知識集約型組織としての重要な役割である。
これらの論文を評価する際には、論文の数ではなく社会的な影響の大きさや査読付きジャーナルへの掲載実績等で質を評価すべきであることは言うまでもない。
なお、上述のような政策志向の論文発表と関わりが深いのは研究グループであるが、これらグループについては、重要な顧客と言える学界の「顧客満足度」は高いのか、学界だけが顧客であって良いか等につき、今後十分な検討を行うことが必要である。
中期計画に示された目標の達成に貢献できるような優れた研究者を育て、不活性な部分があればその活性化を図るために業績評価を実施しており、その結果を研究者の処遇や資源配分に反映することとしている。平成14年4月からは中期計画に示された「今後の取組み目標」に則し、業績評価のための試行的データ取得が始まっているが、各項目の重み付けについては今後検討を行う予定である。
研究者が事前に目標を宣言し、事後的に目標達成度を評価する体制をとると、年々累積的に業績は向上してくる。このように、個々の研究者の業績評価をシステム全体のパフォーマンスを向上させるための要素として捉え、「蓄積型」の評価を実施していくことが重要である。また、 NISTEP がより挑戦的な評価項目を設定し、あるいは独創的な評価システムを考案して、自ら試行実験を行うことによって、研究者の評価システムのあり方について提言を行うべきである。
中期計画に示された2つの目標の達成に向け、可能な限り定量的・客観的な評価基準・尺度を設定し、研究者の多様な能力・適性にも配慮し、企画・管理等の能力も含めた質を重視した評価を実施することとしている。
評価に際しては、研究的な業務への従事者だけでなく調査的な業務への従事者についても、業務の実態をきちんと評価できる項目を用意する必要がある。また、セミナーの傍聴とある程度時間を要するコンサルテーションを、同じように1件とカウントするかどうかについては十分な検討が必要である。
今後、評価指標として導入を検討すべき項目としては、プロジェクトの立案(企画力)、人材の収集(動員力)、プロジェクトの運営(統率力)、資金の調達(説明力、説得力)等が挙げられる。更に、国民・社会との対話機会への参画、講演会等一般に対する理解増進活動への取組み、政府審議会等への参画といった「社会貢献」への取組みについても、業績評価の視点に加えるよう配意すべきである。
将来的には、外部からどのように見られているかについても評価項目に導入すべきであり、成果の「顧客満足度」を評価に加えること、あるいはコンサルテーション結果や報告書の提言が政策決定に役立ったか否かを行政側に評価してもらうこと等について検討を行うべきである。また、研究者の業績評価に当たっても課題評価の場合と同様に「先見性」についての評価が重要であるが、通常は評価時点で先見性の有無が明確になっていないことが多いため、それなりの見識を備えた評価者が必要である。
現状の業績評価は、個々の研究者の自己申告を基にグループリーダー等が「総合所見」をまとめ、所長他が当該評価結果を確認するという方法を採っているが、評価の具体的手法や基準等は今後の検討課題となっている。評価結果は、プロパー研究員については可能な限り昇級・昇格に反映させ、また、出向・派遣職員の場合には、派遣元機関に伝達し、以降のキャリアパス展開に活用できるよう配慮することとしている。
業績に係わる質の評価を効果的に実施するには、組織又は部門の使命を明確化し、これと連動して評価を行う等、個々の業務内容を考慮したきめ細かな対応が必要である。また、業績評価では、評価項目に関するデータベースの正確性や信頼性が重要になることから、個々の研究者に対し確実なデータ取得と記録の意識付けをしっかりと行う必要がある。これら評価項目のデータベース化に当たっては、継続的に実施し習慣化することにより、データのブラッシュアップを図ることが重要である。
なお、評価結果の反映について、特に優秀な任期付研究職員に関しては、在任中の評価がその後の文部科学省での処遇(例えば、パーマネント職員として採用される、優先的に再任される等)につながるように、 NISTEP 側からも積極的な働きかけを行うべきである。
NISTEP はその基本使命の効果的達成に向け、今後の機関運営に当たり以下の1.及び2.の諸課題への取組みを進めるべきである。
調査研究成果の質の向上を図り、政策立案プロセスに対し積極的に寄与していくため、調査研究の実施に当たり「顧客」を明定するとともに、以下の提言について取組みを進めるべきである。
外部資源の積極的活用等を通じ、より「開かれた研究所」への展開を図り、成果の発信機能や認知度向上(マーケティング)活動を強化するための提言は以下の通りである。
上記1.及び2.の取組み推進に当たっては、以下のような所属スタッフへのインセンティブ付与が有効である。
以上に加え、以下の提言項目について、文部科学省をはじめとした行政部局の格段の配慮と取組みの強化を期待したい。