3.国際会議等


(1)第5回地域科学技術政策研究国際会議(RESTPOR2000)

  政策研主催、地域科学技術政策研究伊勢志摩国際会議実行委員会および(財)つくば科学万博記念財団の共催により平成12年9月5日(火)〜7日(木)の3日間、志摩観光ホテル(三重県志摩郡阿児町賢島)において開催した。

1.テーマ

  第5回地域科学技術政策研究国際会議-地域における知識創造と多様性-

2.開催趣旨

  経済の知識化とサービス化の進展が経済のグローバル化を一層加速する中、競争力のある強い地域の創出、すなわち知識の創造による地域からの技術革新が求められていることから「地域における知識創造と多様性」をテーマとした。

  本国際会議は政策研究者と政策決定者、そして民間部門からの参加者が一同に会して、科学技術と地域の問題を議論する会議である。また、本会議は日欧米の三極持ち回りで、隔年開催になっており、本会議の日本での開催は5年ぶりである。

3.参加者

  講演者:28名(海外22名、国内6名 , 日本を含む16ヶ国及び1国際機関)

  参加者:142名(一般参加者110名、科学技術庁及び三重県関係者32名)

4.概要

  9月5日は、青江政策研所長による主催者挨拶、渡海科学技術総括政務次官による来賓挨拶、ECと日本からの基調講演の後、セッション「地域科学技術政策の新パラダイム」、「集積と知の創発」、9月6日はパラレル・セッションとして、「パートナーシップの多様化」、「大学の役割」、「地域技術革新のための仕組」、「科学技術と地域」、9月7日には「地域経済の多様化」において研究発表が行われた。発表者と講演テーマは以下のとおりである。

(基調講演)

  • エスクリット(EC研究総局政策調整・戦略局長寄稿):  「欧州のリサーチエリアにおける地域的側面」(代読)
  • 石塚貢(科学技術会議議員):  「日本の科学技術と地域の役割」

セッション1:  地域科学技術政策の新パラダイム

  • マイケル・ルーガー(米・ノースカロライナ大学教授):
    「地域科学技術政策設計へのクラスター解析の利用:  ノースカロライナの事例」
  • レナ・ツィプーリ(ギリシャ・アテネ大学教授):
    「地域開発政策手法としてのナレッジ・エンハンスメント:  理論と利点と問題点」
  • シャン・ヤン(中国・科学技術省政策法規・制度改革局長):
    「中国における地域技術革新システムと科学技術開発」
  • ジャン・アラン・エロー(仏・ルイ・パスツール大学教授):
    「技術革新志向の知のネットワーク作りに地域次元は存在するか?」

セッション2:  集積と知の創発

  • 権田金治(東海大学教授・科学技術政策研究所客員総括研究官):
    「地域技術革新からみたクラスター形成と知の創出のダイナミックス
  • エルコ・アウティオ(フィンランド・ヘルシンキ工科大学教授):
    「ハイテク・クラスターの習熟過程」
  • コンラエ・リー(韓国・科学技術政策研究院研究員):
    「韓国における国及び地方政府の政策による地域技術革新クラスターの開発」

セッション3:  パートナーシップの多様化

  • ジョアキン・ギネア(スペイン・イノバテック社部長):
    「地域イノベーションの推進におけるサイエンスパーク及びビジネス・インキュベーションセンターの役割」
  • コン・デヨン(中国・社会経済システム分析研究協会会長):  「知のグローバル・パートナーシップ:
    中国の事例研究」
  • ゼニア・ヴェラスコ(フィリピン・科学技術省政策企画室長):
    「知識経済;開発におけるパートナー化」

セッション4:  大学の役割

  • ジョセフ・クライナー(ドイツ・ボン大学日本研究所長):
    「日本とヨーロッパの大学;地域社会における大学の役割」
  • エットル・カルーソ(ECジョイント・リサーチセンター):
    「EU周辺地域の地域科学技術基盤開発の支援;EC共同研究センターの経験」(代読)
  • スティーヴン・コリンズ(米・ワシントン大学助教授):
    「学術的研究と地域技術革新;シアトルとワシントン大学からの洞察」
  • キンク・ティン・リー(国立シンガポール大学助教授):
    「知識基盤経済とテクノプレナーシップにおける大学の役割の増大;日本とシンガポールの事例から」
  • 柏村直樹(三重大学地域共同研究センター長):
    「地域科学技術振興における地方国立大学としての三重大学の役割、特に環境問題、バイオテクノロジー、及び技術移転問題の展望について」

セッション5:  地域技術革新のための仕組

  • スー・ジン(中国・科学技術政策研究所STAフェロー):
    「日本と中国における地域イノベーション・システムの比較研究」
  • トム・ヒギンス(アイルランド・CIRCA社会長):
    「地域技術革新のためのインフラ構造;アイルランドの事例」
  • クレール・ノーウェラース(オランダ・マーストリヒト大学教授):
    「ヨーロッパ地域における技術革新のための政策学習」
  • ヤダ・ムクダピタック(タイ・科学技術環境省政策課長):
    「APEC技術予測センターによるイノベーションの促進」
  • 柿崎文彦(科学技術政策研究所):
    「地域の産業活動からみた日本の科学技術基盤の状況」

セッション6:  科学技術と地域

  • ジャン・マジョ・クルザート(スペイン・前産業大臣):
    「技術革新と地域開発:  スペインの事例
  • 伊藤信孝(三重大学資源環境学部教授):
    「米生産による、地球規模の四重苦とその克服に関する研究;地域科学技術振興の立場からの提言と考察」
  • ジャン・ピエール・コンツェン(ベルギー・ポルトガル科学技術大臣特別顧問):
    「知識基盤社会に向けて;地域のための科学技術の新たな役割とは?」
  • 村上正一(神奈川県科学技術振興課長):
    「神奈川県における科学技術の振興;人的ネットワークの充実を目指して」
  • キングスレイ・ヘインズ(米・ジョージメイソン大学教授):
    「地域開発政策策定のための総合意思決定支援モデル;一つの探索的な試み」

セッション7:  地域経済の多様化

  • ゲラン・マークルント(スウェーデン・産業・技術開発庁技術革新部長):
    「スウェーデンにおける地域経済及び技術革新システムの多様化と強化のための戦略」
  • クヌート・コシャツキー(ドイツ・フラウンホーファー協会システム技術革新研究所部長):
    「ドイツにおける技術革新政策の地域化」
  • マイケル・ファーマー(米・ジョージア工科大学助教授):
    「既存の都市環境に対する再投資;空間的ネットワーク・アプローチ」

5.まとめ

  事例研究と理論研究の報告及び意見交換を通じ、地理的な近接性の視点のみならず、学習過程やパートナーシップを通じて知を創出するネットワークとして、地域イノベーションの促進における「知的クラスター」の役割が指摘された。


(2)国際コンファレンス:  起業家精神とナショナル・イノベーション・システム

  『起業家精神とナショナル・イノベーション・システム』と題する国際会議が平成12年11月29、30日両日に、科学技術振興事業団において開催された。

1.テーマ

  『起業家精神とナショナル・イノベーション・システム』

2.開催趣旨

  日本における今日の最も重要な課題のひとつは、起業家精神を涵養し、イノベーション(革新)を陸続と生み出すための、国全体の体制づくりである。起業家精神こそ、革新的な企業、革新的な産業、そして革新的な社会の基盤である。そのため、起業家精神に関する議論や、ハイテク分野のベンチャー企業についての議論、さらにはナショナル・イノベーション・システムに関する議論は、いろいろな機会に活発に行われている。しかし、議論の多くは逸話的な情報に基づいており、個別事例についての情報の蓄積は進んでいるものの、体系的な調査研究は未だ十分ではない。本コンファレンスは、「起業家精神とナショナル・イノベーション・システム」をテーマとする国際コンファレンスであり、おもに経験的調査研究に基づく発表で構成されている。議論の対象は様々な産業領域に及び、必ずしも特定分野に限られないが、われわれの主たる関心は科学技術に基づく新規創業企業にある。このコンファレンスでは、アメリカ、ヨーロッパ、および日本におけるこの分野の専門家が、それぞれ調査結果を持ち寄り、現状と課題を議論する。その議論が、新しいナショナル・イノベーション・システムを生み出していく一助になることが、本会議の開催目標である。

3.参加者

日本人149名
外国人 米国他10ヶ国23名
172名

4.概要

  本ワークショップでは、7つのセッションから構成され、日米欧からの専門家12人の論文報告ならびに各報告に対するコメンテーターからのコメントが行われた。各セッションの概要は以下の通りである。セッション1では、起業家精神とナショナル・イノベーション・システムに関する現状と課題につき、はじめに、後藤晃氏(一橋大学)が、イノベーションの今後の意義、イノベーションを活性化するためには如何なる体制が望ましいか、の二点を議論した。一方、Robert Kneller氏(東京大学)は、独自の聞き取り調査を基礎にわが国のバイオ・ベンチャー企業の様々な特性を報告した。セッション2では、イノベーションにおける大学の役割に関する議論が行われた。Richard Dasher氏(スタンフォード大学)は、Silicon Valleyにおけるイノベーションについて、とくに大学からのspin-offとして新たに見られる組織形態を"entrepreneurial organization(起業的組織):  EO"と概念化し、このEOの役割や特徴について議論した。 これに対して、塚本芳昭氏(東京工業大学)は、大学からの技術移転の指標から見た日米独英比較、およびこれらの研究大学についてのケース・スタディを示し、今後のこの課題に対する日本における政策展開への含意を示した。

  セッション3では、地域経済と技術及び地域先端技術産業の技術・経済評価に関する2件の報告が行われた。まず、Roger Stough氏(ジョージメイソン大学)は、ワシントンDC地域を研究対象として取り上げ、地理的な面から見た技術・経済・雇用等に関する検討結果を報告した。次いで、岡田羊祐氏(一橋大学)は、特許データと産業の経済特性との相関に関する報告を行った。医薬品業界を例に、後願特許数・先行特許の引用数・クレーム数・出願国数に関する数値解析結果の日米比較を行い、両国の技術格差は1980年までは明瞭でなかったものの近年では著しい格差があると指摘した。

  セッション4では、榊原清則総括主任研究官が、わが国の起業家企業の実態と課題について報告した。科学技術政策研究所において実施し、質問票調査を基礎に、わが国の起業家企業の特徴を幅広い角度から整理した。セッション5では起業家精神の涵養というテーマの下、Arnoud De Meyer氏(INSEAD)、及び、忽那憲治氏 (大阪市立大学)の報告が行われた。De Meyer氏は、欧州におけるイノベーション促進プログラムの概要について整理し、一方、忽那氏は、株式公開市場における価格決定方式の変更とその経済効果について論じた。

  セッション6「イノベーションの意義」では、Annika Rickne氏(チャルマース工科大学)が、イノベーション・システムというコンテキストにおける新規の技術基盤企業の展開とパフォーマンスという課題について、バイオマテリアルの領域を対象にして3つの地域を選定して行った分析を基にして、まず、広義での資源の"connectivity(連結性)"という概念を用いた資源フローのネットワークを議論した。次に、地域イノベーション・システムの"functionality(機能性)"について4つの指標を通して定量的に分析した。これに対して、山口栄一氏(21世紀政策研究所)は、概念的に、科学と技術との関係、産業界における研究と大学における研究との関係を、歴史的推移や、特許や論文の定量的推移に関する日米比較を通して整理した。最後に、セッション7「未来への手だて」では、前田昇氏(高知工科大学)がハイテクベンチャーの始動に関する具体的提案を行った。

5.まとめ

  本ワークショップでは、起業家精神とナショナル・イノベーション・システムにかかわる問題を、日・米・欧における調査研究を基礎に幅広く議論した。具体的な論点としては、各国におけるイノベーションに関わる諸局面の実態や種々の制度等の現状、ならびにこれらの課題、および、各国における起業家企業の経営実態と直面する問題点、を柱に、日米欧の事例分析等を踏まえた経験的研究ならびに計量経済学的分析の結果が紹介された。各国のイノベーション・システムは、一面では、その生成過程で、径路依存的な側面を持ち合わせているため、単純な比較は難しい。しかし、同時に、各国の実情・経験の中には、わが国の起業家企業を取り巻く環境に酷似する点もいくつか見受けられる。特に、資本市場の整備とその影響、産業における科学的知見の重要性の増大、バイオ・ベンチャーに代表される産学連携の加速、人材の流動性に関する変化、等は、わが国においても指摘される点である。これらの点は、今後、ナショナル・イノベーション・システムを検討するうえで有力な手がかりになると言えるだろう。


(3)科学技術政策研究討論会

  科学技術政策研究所と、中華人民共和国の科学技術部 科学技術発展促進研究中心(NRCSTD:  National Research Center for Science and Technology Development)との共催により、2000年8月25日(金)に、中国北京市の長富宮飯店において、以下の通り、科学技術政策研究討論会が開催された。

1.開催趣旨

  昨年度に、当研究所と中国科学技術部科学技術発展促進研究中心との間で相互協力の覚書が締結され、また、「日中科学技術協力協定」が締結されて20周年となったことから、今回、この20周年を記念する行事の一環として本研究討論会が開催された。

2.参加者

  日本側からは、当研究所の所長および研究員が発表者として参加するとともに、駐華日本大使館、核燃料サイクル機構北京事務所からも参加した。一方、中国側からは、発表者はすべて科学技術発展促進研究中心の研究員であり、発表後の議論を中心に行ったのは、科学技術発展促進研究中心の主任のほか、中国社会科学院、中国科学院、国務院発展研究中心などの研究者ら、ならびに、科学技術部の専門家らであった。このほか、中国からは、マスメディアなどを含め、約40名ほどが傍聴していた。

3.概要

  午前は、科学技術発展促進研究中心の周元主任助理が、午後は、科学技術政策研究所の小林信一総括主任研究官が、それぞれ司会を務めるかたちで進められた。4つの議題が設定され、各議題ごとに、日本側と中国側からそれぞれ発表を行い、両国からの発表を踏まえて議論が行われた。議題と各発表の題目および発表者は、次のとおりであった:

議題1:  新経済時代に向けた科学技術体制の改革

  • 「新経済時代に向けた科学技術体制の改革   -日本のケース」小林 信一
  • 「イノベーションに向けた科学技術体制の改革」柳 卸林

議題2:  ハイテクの産業化 < 高新技術産業化 >

  • 「科学技術に基づく起業   -日本の現状」伊地知 寛博
  • 「中国におけるハイテク技術の産業化の現状、課題及び対策の検討」高 昌林

議題3:  ハイテクパーク、サイエンスパークの発展

  • 「日本におけるサイエンス & テクノロジーパークの現状」新舩 洋一
  • 「中国におけるハイテク産業発展区の発展」高 志前

議題4:  国家科学技術戦略と政府の役割

  • 「新科学技術基本計画策定の状況」青江 茂
  • 「新世紀に向けた中国における科学技術発展の戦略」楊 起全

4.まとめ

  本研究討論会を通じて、次のようなことがまとめとして得られた:

  • 日中両国は、社会・経済等の体制や状況がきわめて異なっている。しかし、ともに科学技術体制の大きな変革期にある。体制や状況がきわめて異なっているがゆえに、むしろ相互比較を通じて、自国の問題点・課題について明確になってくる部分がある。たとえば、日本の問題点・課題としては、大学による研究成果の産業化への転換が浮かび上がってくる。
  • また、イノベーション政策などについても、国の発展段階が異なるが、その違いがありながら学びあって比較する意味があるだろう。
  • そこで、違いを認識しながら相互に学びあうような今後の協力・共同研究の進展が期待される。

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