STI Hz Vol.5, No.2, Part.10:(レポート)今後の国立大学法人等における施設整備の充実の必要性に関するアンケート調査STI Horizon

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  • DOI: http://doi.org/10.15108/stih.00178
  • 公開日: 2019.06.25
  • 著者: 深堀 直人、林 和弘
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.5, No.2
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

レポート
今後の国立大学法人等における
施設整備の充実の必要性に関するアンケート調査

文部科学省 大臣官房文教施設企画・防災部 計画課 整備計画室長 深堀 直人
科学技術予測センター 上席研究官 林 和弘

概 要

国立大学法人等(大学共同利用機関法人、独立行政法人国立高等専門学校機構を含む。以下同じ。)は、創造性豊かな人材の養成、独創的・先端的な学術研究の推進等のための拠点として重要な役割を果たしており、その施設は、これらの活動の基盤をなすものである。

昨今、社会情勢が大きく変化していることを踏まえ、国立大学法人等を取り巻く国の各種政策が大きく転換されようとしていることから国立大学法人等の施設についても今後はソフト施策の大きな転換にしっかり応えられるよう、その整備充実を図っていく必要がある。そのため、どのような施設の整備・充実等が必要かを検討するための基礎資料として、科学技術・学術政策研究所(NISTEP)科学技術専門家ネットワークの研究者・技術者(国立大学法人等のほか、公的研究機関、民間企業等)へのアンケート調査を行った。

その結果、国立大学法人等の施設整備充実の必要性に関する設問に対し、高い割合で肯定的な回答が寄せられた。これらの結果は文部科学省が2018年10月に設置した「今後の国立大学法人等施設整備に関する有識者会議」(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shisetu/052/index.htm)においても資料として活用し、今後の施設整備の充実に向けた基本的方向性を整理することとしている。

キーワード:国立大学,施設整備,老朽化,Society5.0,地方創生

1.はじめに

国立大学法人等の施設整備は、科学技術基本計画を受け国立大学法人等施設整備5か年計画(平成28年3月29日 文部科学大臣決定)を策定し、その施設の整備充実に重点的・計画的に取り組んできた。具体的には、①耐震・老朽化対策といった安全性の確保、②オープンラボやアクティブ・ラーニング・スペースの整備など機能強化等変化への対応、③サステイナブル・キャンパスの形成を3本柱に据え、計画的な整備に取り組んでいる。

一方で、Society5.0、第4次産業革命、グローバル化の一層の推進、地方創生、人生100年時代の到来など、昨今の社会情勢の変化を踏まえ、例えば中央教育審議会では、「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」が議論されるなど、国立大学法人等を取り巻く国の各種政策が大きく転換されようとしている。国立大学法人等の施設は教育研究活動の基盤であることから、今後はソフト施策の大きな転換に応えられるよう、その整備充実を図っていく必要があることから、施設の整備・充実等がどのように必要かを検討するための基礎資料として、科学技術・学術政策研究所(以下、「NISTEP」という)科学技術専門家ネットワークに所属する専門調査員へのアンケート調査を行った。

2.調査手法

科学技術専門家ネットワークとは、科学技術の専門家から動向や見解等を収集するためNISTEP科学技術予測センターがウェブ上で運営している仕組みであり、約2,000人規模の構成員からなるネットワークである。2001年に創設以来、産学官の研究者・技術者・マネージャ等が「専門調査員」となり、NISTEPや文部科学省等などの科学技術・イノベーション政策ニーズに対応して情報・意見収集を行うネットワークを維持してきた。

今回のアンケート調査は、平成30年度の専門調査員に対しウェブアンケートにより実施した。平成30年11月21日に依頼し、同12月5日までに1,478名から回答を得た。回答率としては73.6%に上り、国立大学法人等の施設に対する関心の高さを示しているものと考えられる。

3.回答者の属性等

回答者の属性等は、図表1のとおりである。所属機関としては国立大学法人等が46%と半数近くを占め、その他民間企業等他の機関も幅広くみられる。所属機関における職務は、研究のみならずマネジメントにも携わる場合が多い。研究領域をみると、工学のほかには医歯薬学、農学など、分野は多岐にわたっていた。

図表1 アンケート結果の概要図表1 アンケート結果の概要

出典:「今後の国立大学法人等施設整備に関する有識者会議」第2回会議資料より

4.調査項目

調査項目としては、社会情勢の変化やそれを受けた国の政策や動向を踏まえ、「教育研究の多様化・高度化への対応」、「学生・研究者の多様化への対応」、「社会との連携・協力の推進への対応」の3つの大きなテーマと、それらを横断する「様々な改革に対応する際の施設整備の手法・財源」に関し、10の設問を設け、各設問に掲げる内容を実現するために、現在と比較し、施設の整備・充実・改善が必要かという問いかけに対し((9)及び(10)はその必要性に対し)、「強くそう思う」、「そう思う」、「そう思わない」、「全くそう思わない」の4つの選択肢を設けた。

具体的には、「教育研究の多様化・高度化への対応」として、(1)アクティブラーニングへの対応、(2)柔軟な教育プログラム編成、(3)Society5.0の実現やAI研究への対応、(4)研究生産性の向上やイノベーション創出への対応の4問、「学生・研究者の多様化への対応」として、(5)社会人学生の増加への対応、(6)グローバル化の推進の2問、「社会との連携・協力の推進への対応」として、(7)産学官連携の推進、(8)地方創生への貢献の2問、「様々な改革に対応する際の施設整備の手法・財源」として、(9)施設の有効活用や工夫の必要性や、(10)財源拡充の必要性の2問を設けた。

さらに、各設問で具体的な必要な施策について、自由記述で問う調査となっている。

5.調査結果の概要

回答の概要は、図表1のとおりである。なお、これらの項目への回答の集計は、設問が国立大学法人等の施設整備の充実の必要性に関するものであったことから、回答者全体の結果と国立大学法人等の関係者を除く集計結果の双方を、比較のため併記した。3つのテーマに関する調査項目全般の結果としては、施設の整備・充実について「①強くそう思う」、「②そう思う」を合わせて全体の約80%が施設整備の促進に対して肯定的な回答であった。また国立大学法人等を除いた場合もほぼ同様の結果となった。

また施設の有効活用や工夫の必要性や、財源の拡充の必要性についても肯定的な回答が90%を超えた。

その他、(10)財源拡充の必要性に関する自由記述の意見としては、施設整備だけではなく、それらの活用を支える人材面についても充実させるべきだという趣旨の意見が一番多かった。また、あらゆる財源を確保し教育・研究活動の発展に資するべきだという趣旨の意見が、同数程度寄せられた。ほかには、必ずしもその時々の社会情勢にとらわれることなく、教員、研究者が十分に研究を行える環境の確保や、新しい施設ではなく既存の有効活用を進めるべきという趣旨の意見のほか、外部組織との連携をハード・ソフト両面において強化すべきといった旨の意見があった。

6.施設整備充実に向けて

本調査は合計10の設問に対して科学技術専門家ネットワークに所属する専門家から回答を頂いた結果、どの設問についてもおおよそ8割が、これからの社会における教育研究の変革を見据え、国立大学法人等の施設の整備・充実等が必要という回答があった。この調査結果も踏まえ、前述の有識者会議において、令和元年6月に「今後の国立大学法人等施設整備に関する方向性」が取りまとめられた。具体的には「社会全体と国立大学法人等との「共創」に必要な施設整備の3つの基本的方向性」や、「3つの基本的方向性に基づく施設整備の実現に向けた検討事項」について、図表2のように整理した。

文部科学省としては、国立大学法人等の施設を整備・充実させていくためにこの方向性を踏まえ、今後、具体的な推進方策等に関して検討することとしている。

図表2 今後の国立大学法人等施設整備に係る方向性の概要図表2 今後の国立大学法人等施設整備に係る方向性の概要

出典:「今後の国立大学法人等施設整備に係る方向性について」【概要】 文部科学省公表資料

7.謝辞

本調査の実施に当たって、貴重な時間を割いて調査に御協力くださった科学技術予測センター専門調査員の方々に深く感謝申し上げる。