STI Hz Vol.5, No.2, Part.4:(レポート)全米科学振興協会(The American Association for the Advancement of Science ; AAAS)年次大会2019の報告-90分シンポジウム「国際的な科学協力 新しい潮流」の開催-STI Horizon

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  • DOI: http://doi.org/10.15108/stih.00171
  • 公開日: 2019.05.27
  • 著者: 斎藤 尚樹、大場 豪、黒木 優太郎
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.5, No.2
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

レポート
全米科学振興協会(The American Association for the Advancement of Science ; AAAS)年次大会2019の報告
-90分シンポジウム
「国際的な科学協力 新しい潮流」の開催-

科学技術予測センター 客員研究官・理化学研究所(理研)横浜事業所 所長 斎藤 尚樹
企画課 国際研究協力官 大場 豪
科学技術予測センター 研究官 黒木 優太郎

概 要

科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は、全米科学振興協会(AAAS)の年次大会においてEポスターや90分シンポジウムの開催を通してNISTEPの研究成果を発表している。2019年の年次大会では、2件のシンポジウムが採択された。そのうち「国際的な科学協力 新しい潮流」では、斎藤客員研究官を含む3名の発表者より、米国国立科学財団(NSF)による国際協力の取組や、国際規模の大学発研究ベンチャーの現状、NISTEPのサイエンスマップ2016に見る新興研究領域等の分析の紹介があった。

キーワード:全米科学振興協会(AAAS),年次大会,国際科学協力,連携の構築・強化

Ⅰ.はじめに(年次大会の概要)

AAAS年次大会は米国で最大規模の学術機関AAASが開催する大会で、科学者のみならず、教育、政策など多様な関係者が一堂に会して議論をする。第1回大会は1848年に開催され、2019年で185回目となる大変歴史のある大会である。基調講演や90分シンポジウムに加え、ワークショップ、Eポスターセッション、ビデオ上映や、日程の後半には「FAMILY SCIENCE DAYS」として親子で参加できるイベント等も用意されている。

今大会は「越境する科学」をテーマに、環境問題や感染症の問題など人類共通の課題に対し、科学的取組がセクター・分野、様々なバックグラウンド等の違いや境界をどう乗り越えていくかを軸に開催された。

  • 開催日程:2019年2月14日~17日
  • 開催地:米国ワシントンD.C.
  • 会場:マリオット・ワードマン・パーク・ホテル
  • 大会テーマ:「Science Transcending Boundaries(越境する科学)」

本稿では、科学技術・学術政策研究所(NISTEP)が企画した2件のシンポジウムのうち、「国際的な科学協力 新しい潮流」の結果を紹介する。

Ⅱ.90分シンポジウム「Global Scientific Collaborations: New Trends(国際的な科学協力 新しい潮流)」(写真1・2、図表)

Cheney博士とKoizumi上級顧問による本シンポジウムの趣旨説明

先端ICTや通信システムの発展とオープンサイエンスやオープンイノベーションの潮流の進展に伴い、科学技術がますますグローバル化する一方で、国際的流動性や移民に対する規制の強化、データシェアリング・知財マネジメントの国ごとの差異など、こうしたグローバル化やセクター間の連携を阻害するような動きも出てきている。本シンポジウムでは、欧米・アジアの多様な発表者から、科学における物理的境界や目に見えぬ障壁を乗り越えるための技法として、連携・ネットワーク強化のための政策措置や触媒組織の役割、連携によるインパクト計測と協力促進による成果が期待される領域の探索手法等の紹介とともに、連携促進に向けた公共政策・戦略に係る示唆を得るべく、聴衆との討議を行う。

写真1 シンポジウムの参加者
写真1 シンポジウムの参加者 左からディスカッサント Hazami Habib 事務局長(マレーシア科学アカデミー)、オーガナイザー David Cheney博士(米国Technology Policy International)、共同オーガナイザー 大場豪国際研究協力官、発表者 斎藤尚樹客員研究官、モデレーター Kei Koizumi氏(AAAS科学政策上級顧問)、発表者 Elizabeth Lyons博士(米国国立科学財団(NSF) 国際科学技術部プログラムディレクター、前NSF東京事務所長)、発表者 Philip Shapira教授(英国マンチェスター大学 イノベーション研究センター / 米国ジョージア工科大学)撮影:黒木

左からディスカッサント Hazami Habib 事務局長(マレーシア科学アカデミー)、オーガナイザー David Cheney博士(米国Technology Policy International)、共同オーガナイザー 大場豪国際研究協力官、発表者 斎藤尚樹客員研究官、モデレーター Kei Koizumi氏(AAAS科学政策上級顧問)、発表者 Elizabeth Lyons博士(米国国立科学財団(NSF) 国際科学技術部プログラムディレクター、前NSF東京事務所長)、発表者 Philip Shapira教授(英国マンチェスター大学 イノベーション研究センター / 米国ジョージア工科大学)撮影:黒木

写真2 シンポジウムの様子
写真2 シンポジウムの様子 撮影:黒木

撮影:黒木

図表 大会の施設内で配布したシンポジウムの概要図表 大会の施設内で配布したシンポジウムの概要

発表者1 Elizabeth Lyons博士 「NSFの『Big Ideas』による国際科学協力と今後の展望」

Lyons博士からは、米国国立科学財団(NSF)による「10 Big Ideas」の概要と事例が発表された。一例として、AccelNet、Navigating New Arctic、INCLUDES、Windows on Universe等の取組が紹介され、本プログラムを通じた国際ネットワーク構築強化と研究統合支援、参加者の多様性の向上、データシェア促進、データソースの接続・統合による国際協力のパートナー探索の取組(NSF MUTIPLIER)とともに、今後の展望が述べられた。

発表者2 Philip Shapira教授 「国際大学研究ベンチャー(IURVs)の境界を越えた活動」

Shapira教授からは、大学を取り巻く状況・責務の変遷と今後の展望(知識ハブとしての役割、ポスト工業時代の知識駆動型産業への貢献等)や、国際大学発研究ベンチャー(IURVs=大学当局による海外での長期的な研究プレゼンス確立の取組)の勃興と具体事例(フランス、ロレーヌ地域圏に位置する米国ジョージア工科大学の施設や、モスクワに位置する米国マサチューセッツ工科大学の施設等)の紹介があった。その他、IURVsの現状や以下4つの特性が述べられた。

  • 1)地理的分布について、IURVs全412拠点のうち125拠点が中国にある。
  • 2)母体大学に関して、日本は東京大学、京都大学、外2大学による29の拠点数がIURVsの総拠点数において、英国と香港に次いで世界3位にランクインしている。
  • 3)IURVsの活動内容としては、教育、研究、開発、実用化が挙げられる。
  • 4)研究分野ごとの分布を見ると、アジア・アフリカでは自然科学・工学系が有力で、欧州と南米では社会科学分野の拠点も多数存在する。
発表者3 斎藤 尚樹 「新たな研究フロンティア開拓における越境協力のインパクト」

斎藤より、まずR&Dパフォーマンス分析事例として、NISTEPの調査結果である国別研究開発パフォーマンスの計量分析・ベンチマーク1)、サイエンスマップ20162)に見る注目・新興研究領域の動向分析などを基に、国際共著のインパクトや、科学研究の強みとイノベーションの成果の国際展開について説明した。また、理化学研究所(理研)の研究パフォーマンスと国際連携プロジェクトに見る国際研究協力・人材交流のインパクトや、境界を越えた連携・協働推進のインパクトと諸課題についても紹介した。続いて、連携に向けたビジョンの構築・共有のための「科学技術予測3)」の有効性や、予測結果を活用した研究ファンディング戦略策定の取組について発表し、境界を越えて協力を進めていくための体系的戦略・課題について言及した。

パネル討議(司会: Koizumi上級顧問)

冒頭、ディスカッサントのHabib事務局長より、3件の発表の総括に加え、自身の持論を次のように述べた。「強力な国際科学ネットワークの構築に必要となるのは、①各プラットフォーム若しくは各ネットワークの知識群としての機能発揮と、②地域や国の課題解決への貢献を目的とした、新しく破壊的なイノベーションの発展であり、この2つを通して大学や研究者たちが国際科学協力へ活発に参加できる。また、効果的な国際科学協力は関係者間の信頼構築がなされて初めて可能となる。もし我々に信頼や明確な指標がなければ、多くの科学的な協力やネットワークの構築は不可能だ。」

会場の聴衆との質疑応答(写真3)

Q: 昨今の世界規模での政治的緊張による科学協力や、科学に係る特定のパートナーシップへの影響はあるか。

A: 他のスピーカーからの応答に続き斎藤より、「NISTEPは中・韓の政府系シンクタンク機関とともに政策研究に関する3か国共同のセミナー(追記 日中韓科学技術政策セミナー)を持ち回りで毎年開催している。数年前、日韓や日中関係が悪化した時期でも、こうした3か国協力会合は従来通り継続した。科学による国際協力は、経済や物理的な国際交流といった他分野の協力の基盤にもなる。科学技術は政治情勢に左右されない共通のゴールを設定しやすく、他の分野に比して国際協力の継続がしやすい上、これをベースとして他の分野の連携につなげていくことも可能」と発言した。

Q: アフリカ諸国との地球規模課題解決に向けた科学技術面での連携・協力の在り方として、開発援助的アプローチに加え、アフリカの大学における人材育成にも主体的に取り組むべきだ。(アフリカ出身の方からのコメント)

A: 斎藤より、2019年の8月末に横浜で第7回アフリカ開発会議(TICAD7)を開催予定である旨と、こうした機会を通じたSDGsの目標達成への貢献、世界のパトロンへの活動アピールを行うことの有効性・重要性について発言した。また、Habib事務局長より、感染症対策等では科学的啓発活動やオープンサイエンス・オープンデータのアプローチも重要である旨のコメントがあった。加えてLyons博士からは、米国国立衛生研究所(NIH)等の感染症等研究支援の取組や、NSFと米国国際開発庁(USAID)との連携による開発機関タイアップ型の科学技術協力促進プログラム「PEER」についての説明がなされた。

写真3 聴衆からの質疑に答える参加者たち写真3 聴衆からの質疑に答える参加者たち 撮影:黒木

撮影:黒木

Ⅲ.おわりに

本シンポジウムには最大で80名ほどの聴衆が集い、盛会の内に終了した。今回の年次大会で共通の論点として採り上げられたのは、地域レベルにおいて国際連携・協力に向けたリソースが決定的に不足する中、市民にも分かりやすい国際連携・協力の具体的な利点をどう説明・アピールし、理解や支援を得ていくか、といった点であった。これらテーマに加え、ここ数年の年次大会における大きな関心事となっている科学技術のアウェアネス向上・市民参画の促進と、専門人材育成・スキル開発に係るセッションやイベントも多く開催された。このほか、女性や外国人研究者をはじめとする多様性推進への取組を重要視する声が多く聞かれた。

また、展示ブースでは英国と欧州連合(EU)がそれぞれ精力的なプロモーション活動を展開していた。これに加え、2019年はドイツと韓国が各々単一ブースを出展し、国を挙げての広報活動・ネットワークづくりを行っていた。他方で、中国やシンガポール等のプロモーションは比較的低調な印象であった。

2020年の年次大会は「Envisioning Tomorrow’s Earth(未来の地球を想像する)」のテーマの下、西海岸のシアトルにて開催される。世界の主要なバイオクラスターの一つでもある同地の土地柄を考慮すれば、環境・生命科学や生態系保全等の分野を中心に、活発な議論がされるものと期待される。

参考文献

1) 文部科学省科学技術・学術政策研究所、科学研究のベンチマーキング2017 ―論文分析でみる世界の研究活動の変化と日本の状況―、調査資料-262、2017 年8 月 http://doi.org/10.15108/rm262

2) 文部科学省科学技術・学術政策研究所、サイエンスマップ2016 ―論文データベース分析(2011-2016 年)による注目される研究領域の動向調査―、NISTEP REPORT NO.178、2018 年10 月 http://doi.org/10.15108/nr178

3) 文部科学省科学技術・学術政策研究所、第10 回科学技術予測調査:分野別科学技術予測、調査資料-240、2015 年9 月 http://hdl.handle.net/11035/3080