STI Hz Vol.5, No.1, Part.2:(ほらいずん)欧州議会科学技術選択評価委員会(STOA)が2014年から開始した科学技術予測活動STI Horizon

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  • DOI: http://doi.org/10.15108/stih.00160
  • 公開日: 2019.02.25
  • 著者: 伊藤 裕子
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.5, No.1
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

ほらいずん
欧州議会科学技術選択評価委員会(STOA)が2014年から開始した科学技術予測活動

科学技術予測センター 主任研究官 伊藤 裕子

概 要

欧州議会科学技術選択評価委員会(STOA)は、科学技術に関する調査を行い、その成果を立法府(欧州議会)に提供して、欧州議会の政策決定を支援する組織である。STOAの活動内容は、欧州議会の現職議員から構成されるSTOA理事会が決める。このSTOA理事会の要請により、2014年から、STOAは科学技術予測活動を組織ミッションとして開始することになった。まず、2014年には、欧州議会の政策アジェンダ設定に資することを目的とした6段階から成る科学技術予測手法を開発した。この手法に基づく科学技術予測活動を2015年から開始し、これまでに5テーマのプロジェクトを実施した。2018年7月には「バイオ付加製造」についての報告書を発表した。

キーワード:立法府,政策,欧州議会,STOA,科学技術予測活動

1. はじめに

科学技術の社会的な影響を評価して政策の意思決定に利用するという考え方は、1970年代から米国の立法府である米国連邦議会の技術評価局(Office of Technology Assessment: OTA)で始まり、このOTAの影響を受けて欧州では1980年代に同様な仕組みの組織が次々と設立された1)

欧州議会科学技術選択評価委員会(Science and Technology Options Assessment, 以下STOA)は、欧州議会に1987年に設置された、OTAに類似した組織であり、科学技術に関する調査を行い、その成果や情報を欧州議会の各委員会に提供して、政策決定を支援することを組織ミッションとしている。

欧州議会調査局部門長かつSTOAの監督責任者であるウォルフガング・ヒラー(Wolfgang Hiller)氏は、2017年10月4日に国立国会図書館で開催された講演会において、「科学技術の発展のスピードが高まっている中で、政策決定に当たっては次々と新たな課題が浮上してくる。しかし、意思決定者である立法府のメンバーは科学者ではない。科学者のコミュニティには、政策形成を行うコミュニティに科学的根拠を提供するという役割があり、提供された根拠を基に政治的な決定を下すのが議員の役割である。この場合、科学技術と政策の間のインターフェース機能が重要であり、正にこの機能を果たすために欧州議会はSTOAを創設したのである」とSTOAの役割を述べている2)

近年(2014年)、STOAはこれまで実施してこなかった科学技術予測活動を組織ミッションに加えることを決定し、現在まで継続的に行っている。

本稿では、STOAが科学技術予測活動を開始するようになった経緯及びその活動内容について概説する。

2. STOAが科学技術予測活動を開始した経緯

STOAの組織は、STOAチームとSTOA理事会により構成される(図表1)。STOAは、欧州議会調査局(European Parliamentary Research Service, EPRS)の一部であるので、チームはEPRS局長及びインパクト評価・欧州付加価値部門(Impact Assessment and European Added Value)の部門長の監督下、Scientific Foresight Unit(STOA)として実働の担当者10名程度で活動している3)

STOAの活動内容を決定するのは、STOA理事会である。STOA理事会は、25名の欧州議会議員から構成される。欧州議会は1979年から5年ごとに欧州議会議員選挙を実施しているので、この欧州議会の会期末に、STOA理事会はSTOAの活動内容について評価と見直しを行っている。

欧州議会の第7会期(2009-2014)の終わりに、STOA理事会は、次の第8会期(2014-2019)からSTOAが継続的に行うべき活動として、これまで実施してこなかった科学技術予測活動を組織ミッションとして新たに加えることを決めた。

STOAの2014年次報告書には、「欧州議会への科学技術に関する助言」を基礎としたSTOAの役割の維持及び強化の一環として、科学技術予測活動をSTOAの定常的な業務に加えると記述されている。組織ミッションとしたのは、STOAが科学技術分野の予測活動を実施する欧州議会の組織体として明確に認識されるためであり、欧州議会の政策サイクルのアジェンダ設定の段階に、STOAの業務をしっかりと結び付けるためである4)という。

図表1 STOAの組織構造(2018年12月現在)図表1 STOAの組織構造(2018年12月現在)

注)点線部分が実働担当部分であり、Scientific Foresight Unitとしてユニット長の下に3グループ(1つは事務局)を置いている。2014年9月に、組織名“STOA Unit”を、“Scientific Foresight Unit(STOA)”に変更した。

出典:参考文献3)より筆者作成

3. STOAが開発した科学技術予測活動の手法

STOAは、欧州議会における科学技術の政策アジェンダ設定に資する科学技術予測活動を行うことを目的として、2014年からSTOAの内部研究プロジェクトとして手法の開発を行った。

2015年には、報告書「Towards Scientific Foresight in the European Parliament」5)を発表し、この中で6段階から成る科学技術予測活動のプロセスを提示した(図表2)。Step1はトピック(テーマ)の選択、Step2はトピックに関連する科学技術の動向やインパクトの把握、Step3は社会インパクトの見える化、Step4は多様な複数のシナリオの作成、Step5は望ましいシナリオの実現(望ましくないシナリオを避ける)のための制度的な道筋づくり、Step6は予測活動の成果を欧州議会議員が利用できるように解釈付けをする、という6段階である。

STOAの科学技術予測活動の特徴は、科学技術予測の対象時期を通常の科学技術予測に比べてやや先の20~50年先の未来に設定したこと、科学技術予測活動のトピック(テーマ)を欧州議会の優先度を踏まえて選択すること、及び欧州議会議員が科学技術予測活動の成果を利用できるように得られた結果を“翻訳する”プロセスを加えたこと、と言える。

さらに、プロセス中には、STOAが従来実施してきた、科学技術予測活動ではない調査活動である“テクノロジー・アセスメント”を応用した手法が取り入れられている。テクノロジー・アセスメントは、科学技術の社会的な影響を評価(アセスメント)して意思決定などに利用しようとする考え方や活動など1)を指す。Step2において科学技術によるインパクトの種類を把握するためのチェックリストとして利用するSTEEPEDには、テクノロジー・アセスメントが使われている5)という。

STEEPEDは、社会及び文化的な価値やライフスタイルの変化といった社会的な(Social)面、技術の発展の方向性を含む技術的な(Technological)面、経済危機や生産・流通・貿易・消費といったイシューに関する経済的な(Economic)面、天然資源の利用可能性や自然生息地と地球環境の相互作用を含む環境的な(Environmental)面、政策立案や法制度及びガバナンスにおける発展や変化といった政治的法律的な(Political/legal)面、社会の多様な価値についての個々の()(こう)を含む倫理的な(Ethical)面、年齢・性別・宗教・出身・専門性・教育・収入などから見た社会の様々な面を含む属性といった人口統計学的特性(Demographic)面から成る45)

図表2 STOAの科学技術予測活動における6段階のプロセス図表2 STOAの科学技術予測活動における6段階のプロセス

出典:参考文献5)より筆者翻訳等改変

4. STOAが実施した科学技術予測活動

STOAは、6段階プロセスの「Step1欧州議会の優先度に基づくトピック選択」を経て選択した5つの科学技術等のトピックに関して、科学技術予測活動のプロジェクトを2015年から2017年に実施した4)。新たな手法開発に関する一つのプロジェクトを除いて、すべてSTOAが開発した6段階プロセスに沿って行われた。

また、プロジェクトの活動開始から報告書発表までの期間は、最短8か月で最長2年であった。

(科学技術予測活動プロジェクトのタイトル及び開始時期等)
  • サイバーフィジカルシステムの倫理(The Ethics of Cyber-Physical Systems)[2015年9月開始、2016年7月報告書発表、2017年2月アニメーション作成]
  • 欧州における精密農業と農業の未来(Precision Agriculture and the future of farming in Europe)[2015年12月開始、2016年12月報告書発表、2017年11月ELSIに関する追加報告書発表]
  • 社会・教育・仕事において障がいを持つ人を包含するための支援技術(Assistive Technologies for the inclusion of people with disabilities in society, education and jobs)[2016年2月開始、2018年1月報告書発表]
  • バイオ付加製造:医療的な回復及び人間強化のための3Dプリンティング(Additive bio-manufacturing: 3D printing for medical recovery and human enhancement)[2016年10月開始、2018年7月報告書発表]
  • ホライズン・スキャニングと科学技術動向の分析(Horizon scanning and analysis of techno-scientific trends)[2016年12月開始、2017年7月報告書発表]

5つの科学技術予測活動のプロジェクトのうち、最近(2018年7月)報告書が発表された「バイオ付加製造」と、新しい手法の開発である「ホライズン・スキャニングと科学技術動向の分析」の2つのプロジェクトに関して、その内容を簡単に紹介する。

(1) 「バイオ付加製造:医療的な回復及び人間強化のための3Dプリンティング」6)

付加製造(Additive manufacturing, AM)は、「3Dプリンティングとしても知られる、コンピュータ・デザインを用いて、層の上に層を重ねることにより物体を構築すること」7)とNPOの国際標準化機関であるASTM Internationalで定義されている技術である。近年、人工関節や人工骨及び義手や義足といった医療・福祉分野での応用が期待されている8)

STOAの科学技術予測活動のプロジェクトでは、付加製造の中でもバイオ付加製造(additive bio-manufacturing, bio-AM)が取り上げられた。プロジェクトの対象のバイオ付加製造は、治療目的あるいは“人間強化(human enhancement)”といった非治療目的のために3Dプリンティングを利用する技術であり、使用する材料は生物材料も人工材料も含むとされた。さらに、人間強化は、スポーツ選手などによって行われるかもしれない生物機能のリハビリ・サポート・増強といった肉体改造を含む。

プロジェクトの報告書の中で、バイオ付加製造はまだ新しく開発中の技術であるため、健康医療に革命をもたらすかもしれないし、意図しない副作用を発生させるかもしれないなど、将来のインパクトは様々な面で不確かであり、かつ技術の「責任ある開発(responsible development)」を促すためにどのようなアクション(推進や規制など)が必要かも不明であると述べられた。

プロジェクトは、図表2で示した6段階により実施された。まず、付加製造の科学技術の動向及びこれまでの技術の変遷について広く収集し、その分析を基に、健康医療分野のバイオ付加製造の将来的な応用の代表例を抽出し、研究や開発が進められている状況(論文等)を示した。バイオ付加製造の応用例は次の通り:「(イメージング技術を利用した)診断や外科手術のツール」・「デジタル情報を利用した歯科治療及び補聴器」・「(侵襲及び非侵襲の)義肢や装具」・「再生医療及び臓器プリンティング」・「(個別化医療のための)ドラッグデリバリー」・「(培養肉in vitro meat含む)フードプリンティング」。

さらに、人文社会科学の観点から、文化(映画やSF小説等)の中で、3Dプリンティングがどう取り扱われてきたかを分析し、3Dプリンティングは「トロイの木馬」・「身体の比喩」・「薄気味悪い」とされてきたと分析した。

次に、STEEPEDの面からバイオ付加製造について分析を行った。具体的には、倫理面では「安全性」・「セキュリティ」・「データ利用とプライバシー」・「動物実験の減少又は増加」・「臓器移植に関する課題」の観点から、社会的面では「社会正義とアクセシビリティ」・「雇用創出又は失業」・「誇大広告」・「治療と(人間)強化の間の境界のあいまいさ」の観点から、さらに、経済的な面、人口統計学的特性の面、環境の面から実施した。

詳細な分析の対象として、上記のバイオ付加製造の応用例から、「義肢や装具」・「歯科治療」・「再生医療及び臓器プリンティング」の3つの科学技術を取り上げ、それぞれに対して専門家へのインタビュー及び、図表2のStep3のワークショップを実施することにより、それぞれの科学技術の発展の潜在的な道筋を検討した。

ワークショップでは、「義肢や装具」・「歯科治療」・「再生医療及び臓器プリンティング」の3つのバイオ付加製造の応用例を対象に、それぞれに対するSTEEPEDの面を明らかにするために3グループに分かれてブレインストーミングを行った。

次に、将来のバイオ付加製造の応用にもっとも影響を与える軸として、「技術の進展度」と「(技術に)支援的な規制のレベル」の2軸を置いて4象限(A~D)とした(図表3左)。技術に関してBとDは「先端的な技術が利用可能」、AとCは「技術の進展は僅か」とし、規制に関してAとBは「(技術に)高支援の規制で、広範囲の適用」、CとDは「(技術に)支援の少ない規制で、低レベルの適用」とした。このA~Dのフレームを用いて、バイオ付加製造の3つの応用例のそれぞれに対して、規制と技術の進展度により、社会でのバイオ付加製造の役割がどう変化するかを短い文章で記述し、シナリオの素案とした。

また、最終的にシナリオに入れるべき、社会的な影響をもたらす要因や規制の要件が、A~Dごとにまとめられた。例えば、Dでは、「EUのライフサイエンスの研究開発の急速な進展」・「美容目的の研究開発の普及」・「バイオ付加製造の制限的な規制」・「市民の個性化及び自主性」・「健康医療サービスの民営化と元の政府支援」・「すべてに注意する」・「DIY(自身でやる)コミュニティの強力な存在、しかし国やEUによる制御や規制がない」が示された。

シナリオは2035年の一人の人間のストーリーで、「健康医療制度や政府の役割」と「3Dプリンティング技術の成熟度や利用可能性」といった、主要な2つの影響要因の変化に関して、4つのシナリオが作成された(図表3右)。シナリオのエピソードは次の通り:シナリオ1(A)「EUのファンドによる市民社会組織(CSO)は子供たちに義肢装具を提供しているが、子供たちの医療データや義肢装具の知的財産に適切な保護をしていなかった」、シナリオ2(B)「ベンと彼の息子デイビーは、3Dプリンティングによる新しい歯がデイビーの歯や生活を改善すると言われたが、彼らの生活は苦しい」、シナリオ3(C)「デンマーク在住の18歳ブロガーの双子の姉弟ルビとサイは、ベルリンのDIYスタジオで、カラフルなボディ宝石(自己細胞を利用)を施術した」、シナリオ4(D)「フランソワは自分の鼻を某セレブの鼻の3Dプリンティング版に交換したが、しばらくしてセレブは顔データを利用されていることに気付いた」(カッコ内のA~Dは図表3左と対応)。これらのエピソードから生じる社会的な問題と政策的な課題についてもシナリオ内に具体的に書き込んでいる。

さらに、シナリオ作成などでの議論を基に、次のような項目ごとの課題が抽出された。規制に関する課題として、「バイオ材料と非バイオ材料との境界があいまい」・「データ・知的財産・プライバシーの所有権」・「安全性やインフォームドコンセントの問題に関する規制の確立」・「製品開発・検証・検査の要求仕様及び標準化の確立」が挙げられた。社会的な利益の分配に関する課題として、「健康医療部門の費用の増加」・「労働市場に関するインパクト」・「義肢の供給に関する重要性」・「治療と治療以外の身体改造の境界があいまい」が挙げられた。市民参加に関する課題として、「バイオ付加製造における責任の配分」・「研究者やステークホルダーの公共の役割」・「シチズンサイエンスの未来」が挙げられた。

政策オプションとして、規制に関するオプションは「包括的な規制の枠組み」あるいは「個別事例ごとの規制の適用」、利益の分配に関するオプションは「バイオ付加製造の応用に等しくアクセス可能とするイノベーション政策」あるいは「競争力のある技術としてのバイオ付加製造に関するオープンなイノベーション政策」、市民参加に関するオプションは「バイオ付加製造の応用の開発に公共的価値を強めるための市民参加」あるいは「創造性・ノウハウ・地域イノベーション連携を育むための市民が(けん)(いん)するバイオ付加製造の応用」が挙げられた。

図表3 バイオ付加製造のシナリオの軸と4つのシナリオ図表3 バイオ付加製造のシナリオの軸と4つのシナリオ

出典:参考文献6)より筆者翻訳
(2) 「ホライズン・スキャニングと科学技術動向の分析」9)

ホライズン・スキャニングは、主に科学技術予測活動の一部分として、科学技術に関する新しい兆しや潜在的な課題を広く探索して把握することを目的とした手法であり、欧州などの政府機関で2000年頃から実施されている10)。文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は、KIDSASHI (Knowledge Integration through Detecting Signals by Assessing/Scanning the Horizon for Innovation)というホライズン・スキャニングのシステムを2016年から開発10)し、国内の約300の大学や研究機関等が発表する科学技術に関するニュースリリースを自動収集して分析等を行い、成果の一部をウェブに公開している11)

STOAは、「ホライズン・スキャニングと科学技術動向の分析」のプロジェクトにおいて、ホライズン・スキャニングと科学技術動向の分析から、科学技術予測活動で取り上げるべき科学技術トピックを抽出するという手法を開発した。

分析に利用したデータは、STOAがホライズン・スキャニングとして収集した、2017年1月から4月までの科学技術に関連するニュース記事(16,491報)とソーシャルメディア(Twitter)の内容(830万ツイート)である。これらの記事やツイートに対して、trending topic algorithmを用いて「話題になっているトピック」を抽出し、出現頻度や関連する文章を分析し、類似性によるクラスター化を行った。ツイートについては、書き込みに込められた感情を分析する、センチメント分析により、ネガティブなツイートとポジティブなツイートを分類し、それぞれに含まれる内容について分析した。さらに、センチメント分析等を基に、トピックごとに論争スコア(controversy score)を算出し、ランキングを示した。また、ステークホルダー(アカデミア・企業・メディア・専門家・一般人など)ごとのツイート内容の傾向について比較分析を行った。

STOAはターゲットとする科学技術トピックを選択する前段階として、現在論争となっている科学技術であって、かつSTOAの4つの重点領域(環境効率的な輸送と近代的エネルギーによる解決・天然資源の持続可能な管理・インターネットの将来性と課題・健康及び生命科学の新技術)に含まれる24の科学技術トピックを抽出した。さらに、STOA理事会の示唆や潜在的なインパクトの大きさから、最終的に8つの科学技術トピック(ビッグデータ・遺伝子工学・電気自動車・自動運転車・アルゴリズムのインパクト・スクリーン依存・フェイクニュース・バイオテロリズム)を選択した。

さらに、STOAは、8つの科学技術トピックのそれぞれに関して、話題となっているサブトピック、利用されている技術及び応用先、好機と懸念などの様々な面について、前述のニュース記事やツイートにどのように示されているのかを深掘り分析した。

一つの例として、「自動運転車(autonomous cars)」では、ニュース記事は自動車企業でのビジネスモデルの変化や交通渋滞に関する良い効果のような、未来志向の技術の宣伝や、将来のインパクト領域から構成されていた。Twitterのポジティブとネガティブのツイートのバランスは取れており、ネガティブなツイートの大部分は、自動運転車の事故への恐れであり、ポジティブな感情を含むツイートの大部分は、技術の進歩や安全に対する自動運転車の将来インパクトに関連していた。幾つかのステークホルダーのグループは、自動運転車が早ければ次の10年で日常生活の一部になるだろうとオンライン上で議論していた、という。

報告書9)では、プロジェクトの成果として、ホライズン・スキャニングと科学技術動向分析の組合せは、STOAの活動の計画立案や実行において、戦略的な意思決定を支援したり検討プロセスにひらめきを与えたりすることを可能にしたと、述べている。

5. おわりに

STOAは本稿で紹介した科学技術予測活動以外に、組織発足当初からのミッションであるテクノロジー・アセスメントのプロジェクト(2017年は5テーマ)を実施し、更にSTOA理事会の求めに応じて、科学技術をテーマにした講演会等を年間に15以上開催している。また、MEP-Scientist Pairing Schemeという、欧州議会議員と科学者との一対一のペアをつくり、様々な対話の機会を提供し、互いの理解を促すというプロジェクトも実施している2)。加えて、ソーシャルメディアを利用して社会への成果発信を行うとともに、「欧州サイエンス・メディアハブ」という欧州議会として正確な科学及び技術の知識を発信するためのハブを構築し、欧州議会議員・科学者・メディアの連携を深める取組を実施している2)

このような科学技術を中心に置いた様々なプロジェクトや組織連携を常に実施していることが、STOAの強みであり、科学技術予測活動においても良い影響を与えていると考えられる。

参考文献

1) 大磯輝将、「諸外国の議会テクノロジーアセスメント」、レファレンス、p49-66、平成23年7月号、2011.

2) 公益社団法人日本工学アカデミー、「政策決定と科学的リテラシー:科学技術に関する調査プロジェクト報告書」、調査資料2017-7、国立国会図書館発行(2018年3月30日).

3) Team, STOA. http://www.europarl.europa.eu/stoa/en/about/team

4) Scientific Foresight Unit (STOA), European Parliamentary Research Service, Science and Technology Options Assessment, Annual Report.

5) Scientific Foresight Unit (STOA), European Parliamentary Research Service, “Towards Scientific Foresight in the European Parliament,” 2015.

6) Scientific Foresight Unit (STOA), European Parliamentary Research Service, “Additive bio-manufacturing: 3D printing for medical recovery and human enhancement,” 2018.

7) Additive Manufacturing Overview, ASTM International
https://www.astm.org/industry/additive-manufacturing-overview.html

8) 楢原弘之、「付加製造技術(additive manufacturing, 3Dプリンタ)の概要と動向」、人工臓器44巻1号:32-36、2015.

9) Scientific Foresight Unit (STOA), European Parliamentary Research Service, “Horizon scanning and analysis of techno-scientific trends,” 2017.

10) 文部科学省科学技術・学術政策研究所 「兆しを捉えるための新手法~NISTEPのホライズン・スキャニング“KIDSASHI”~」, NISTEP Policy Study No.16, 2018. http://doi.org/10.15108/ps016

11) KIDSASHI, https://stfc.nistep.go.jp/horizon2030/index.php/ja