STI Hz Vol.4, No.2, Part.7:(特別インタビュー)総合科学技術・イノベーション会議 上山 隆大 議員インタビュー-総合科学技術・イノベーション会議の「いま」と「これから」-STI Horizon

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  • DOI: http://doi.org/10.15108/stih.00128
  • 公開日: 2018.06.25
  • 著者: 赤池 伸一、葛谷 暢重、白川 展之
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.4, No.2
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

特別インタビュー
総合科学技術・イノベーション会議 上山 隆大 議員インタビュー
-総合科学技術・イノベーション会議の
「いま」と「これから」-

聞き手:上席フェロー 赤池 伸一
企画課 課長補佐 葛谷 暢重
科学技術予測センター 主任研究官 白川 展之

我が国の国際競争力の維持・向上のためには、科学技術によるイノベーションの創出が喫緊の課題である。また、研究力の向上や大学改革等の効果的な施策を行うためには、エビデンスに基づく政策立案が求められている。こうした中、イノベーションの源泉である知の創造において、大学への期待が高まっている。

総合科学技術・イノベーション会議議員の常勤議員として重責を担う上山隆大議員に、今後の科学技術・イノベーション政策と大学の在り方、エビデンスベースの政策立案の推進などについて幅広くお話を伺った。

上山 隆大 総合科学技術・イノベーション会議 議員

上山 隆大 総合科学技術・イノベーション会議 議員

- 新体制となった総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)において、今後、どのような点に力を入れていくべきとお考えでしょうか。

就任後二年弱を経て今までの仕事が横断的に展開し始めたという実感を持っています。私自身は、元々は「日本のアカデミアを何とかしなければならない」という想いから、知識基盤社会において、大学と科学技術・イノベーション(STI)政策とを密接に絡ませる政策展開を実現すること、これを自分の一番のミッションと考え仕事をしてきました。

CSTIの日々の仕事は、ワーキンググループ会合、委員会、本会議などです。CSTIからの提案は、各省の調整を経てようやく政策として実現していくものです。振り返ってみますと、組織の制約がある中、制度改革につなげることが一年目の仕事でした。結果的に、法律改正や税制等にも関与することになりました。研究開発プロジェクトを実施する予算執行に加え、研究開発税制、ベンチャーなど、横割りで大所高所の政策課題を議論できるようになりました。CSTIとしての議論が広がりを見せたことは非常に良かったと思っています。

- CSTIでは、以前は巨大な研究開発プロジェクトを中心に施策展開を進めてきましたが、現在では科学技術システム全体について、経済的な観点も含め、横断的に議論するようになった印象ですね。前身の総合科学技術会議の設置法制定時には、横断的事項についてはうたわれてはいたものの、現在のようにイノベーション促進のために、税・財政、ひいては社会・経済システムの全体像を考える議論がなされるようになったことは隔世の感があります。

確かに、会議体が設置された当初の想定よりも、政策的な議論の幅が広がったと思います。ただ、社会全体からの後押しもないと物事が動かない面があるのも事実です。CSTIが今後どこまで議論の幅を広げるべきか、またそれが自分のミッションなのかと自問することもありますね。ただ、活動を振り返って思うのは、省庁横断的な動きが確実に広がっています。

ライフワークである大学支援で言うと、やりたい方向にグリップが効いて進んでいると思います。何より、大学改革がSTI政策の一丁目一番地の重要施策になるというのはかつて考えられなかったことです。また、研究開発よりイノベーションを起こそうとする勢いが強くなっているようにも感じられます。もちろん全ての我々の提案が受け入れられるわけではありませんし、財政や制度的な制約もあり実現は簡単ではありません。しかし、全般的には考えていた方向へ動いています。どこまでできるかわかりませんが、今後も努力していきたいと思っています。

- 科学技術政策に関する首相への助言を行う会議体が、イノベーション政策へと拡大していく過程で、議論が広がりを見せたわけですが、将来どういう影響があるのか行政官としては興味深いです。

そうですね。日本のアカデミア、科学技術がある種のデッドエンドに来ていることの裏返しだとも思います。

特に若手行政官は、このままでは従来のままの行政システム自体が将来破綻しかねないという問題意識は強いです。若い行政官なら改革は不可避だと考えるのは自然なことでしょう。しかし、縦割りの中で、行政官にとっては、所掌の政策領域を超えた改革は難しいものです。行動力がある省庁でも、所掌の政策領域範囲内で閉じてしまいがちです。行政官個々人の改革への想いをCSTIでは受け止めていく必要があるでしょう。科学技術は、高等教育、産業政策、外交、国家戦略といった幅広い政策領域と関わります。そこで、CSTIを政策ツールとして用いると、変革のための勢いを生じさせることができます。現在のスタッフの間で、新たな潮流が生まれているのは確かです。

- 日本の科学研究力などが政策的に議論になる中、知識の創造における政府の役割についてどう考えられますか?

最近よく考えるのですが、公共の役割とは民間の取れないリスクを小さくすることです。民間ができないことを補完する役割です。そして、あらゆる政策には実験的な要素が必要だということです。つまり、政策は一定の範囲で失敗しうる。そうでないと新しいことに取り組めません。日本では、アカウンタビリティの意味が過度に単純化され、失敗してはいけない、PDCAが「効率を上げる」、「失敗しない」といった意味で使われているきらいがありますね。そもそも政策とは、考えられる条件の下で正しいと思って実施した上で、次の政策につながる学習が重要です。そのためのよりよい社会を創るコンセンサス形成が重要なのです。

私は、知識基盤社会においては、大学を中心とした公共空間を豊かにする知の創造がSTI政策の根幹であると考えています。公共空間をできるだけ豊かにして社会に還元する視点が重要です。そこで一人一人のアクターに最大限ポテンシャルを発揮させるには、自分たちが自分たちのために活動することで競争を促進させることが重要になります。

国別の社会システムは異なり、米国のやり方が日本でそのまま当てはまるわけではありません。様々なアプローチが考えられます。高等教育に関して言えば、日本の制度は英国や米国など様々な制度が組み合わされる形になっているので、日本独自の道を模索せざるを得ないと思われます。例えば英国では、個々の大学の評価をしっかり行い、徐々に水準を底上げしていく方針を採っています。ただ、英国に比べて圧倒的に大学数が多い我が国では、人口減少への対応策は不可避です。

研究大学に関しては米国型に近い型で競争を促進することが必要でしょう。そのためには、今のように一部のトップ大学だけが飛び抜けた状態から、競争が機能するように改革していく必要があります。トップ大学とそれ以外の大学との差を縮め競争が機能する環境を整備することが重要です。この発想は、米国のメジャーリーグと同じです。現状の不均等な資源配分を基に競争しても競争にならないので、競争環境を整えた上で競争させるわけです。

私が、科学技術政策の研究者として米国に関する研究をしていたことから、米国流の制度を導入すべきというのが私の考えだと捉えられる方がおられるので強調したいのですが、日本ならではの特徴を踏まえた制度設計が重要と認識しています。一朝一夕に制度は変わりませんし、実態を所与として日本なりの政策を精緻に形成していく以外に対応策はないのです。

- エビデンスベースの政策立案についてどうお考えでしょうか?

アカデミアのキュリオシティ・ドリブンの研究は、それ自体は良いことです。しかし、そのような研究と行政との間には(かい)()がある気がします。政策研究を行うのであれば、行政に生かされるべきです。

例えば、ものづくりの現場では様々な人々のインタラクションの中で、要素技術を組み合わせてイノベーションを起こしています。研究者だった自分がCSTIで、実践する機会を得た経験からは、研究者は政策に関与する機会を積極的に生かすべきだと思います。審議会で議論する範囲を超えて、政策研究で専門家との深い相互交渉がないのはもったいない気がするのです。一方、行政の側から政策研究がいかにあるべきか、アカデミックな政策研究がどうあるべきか声を上げることも必要でしょう。

- 政策研究のためのエビデンス・データの整備が重要になります。

府省横断的な課題に関する内閣府の政策討議の場においても、エビデンスが重視される流れが出てきていますし、私自身は良い動きだと思います。個人的には、エビデンスベースのポリシーを大上段にやるべきだと考えて実践し始めたわけではありません。統計などではわからない大学のデータや科学技術政策関連の根拠データを丸投げせずに自分で集めようとしたのがきっかけでした。農業、経済・産業政策などそれぞれの政策分野でもエビデンスベースの政策を求める動きがあります。CSTIにおける自分の取組が、政策討議で各府省の局長級と議論するといった場を通じて、将来的な府省間連携まで進むような動きを残すことができればと考えています。

ただ、現在の大学に関して基盤的経費と競争的資金の関係で、競争的資金の獲得実績のみで研究者の評価を行うことは明らかに間違いなので、やめるべきです。現場に深刻な()()をもたらしています。大学の研究者は、論文作成だけが職務ではありません。次世代の担い手である学生を教育し、研究し、その延長上の研究活動に競争的資金が用いられるわけです。これらは一体のインセンティブシステムとして機能しているもので、大学組織、カリキュラム、学生がいなくては成立しない環境にあるのです。このことは、高等教育と産業政策をつなぐSTI政策では、文部科学省だけではなく他の府省も理解しておく必要があります。

- エビデンスベースの政策において行政側に求められるものは何でしょうか?

行政官のリテラシーが重要です。行政官の行動原理は、予算を獲得されれば良いと考えがちですが、こうした行動を変えるのは容易ではありません。

一方、厳しい財政制約の下では科学技術予算の純増は困難です。従来の研究開発のプロジェクトに予算を獲得する方向から、全体の支出をイノベーション促進のために誘導するという方策が現実的です。こうした中で、伝統的な行政官の行動様式に合致した改革のための施策の好例が、平成30年度予算の「科学技術イノベーション転換」です。このような取組も含め、科学技術予算としては、総額で、関連予算が2,500億円、率にして7%増え、Nature誌から取材を受け海外にも報道され、広く知られるようになっています。

現状の政策スキームの下で、国立大学運営費交付金等の基盤的経費に関しては大幅な増額は見込めません。単に国立大学の交付金を増やせと審議会で言っても、社会からの支持は得られないでしょう。間接的経費、別の競争的資金が合算されて、全体で科学技術・高等教育関連の支出を増やす道筋を付けるのが現実的です。即ち、アカデミアにとっては、もう一つの財布を増やすという考え方です。このことは、財政制約を抱える財政当局にとっても悪い話ではないと思います。こうした、インセンティブに即した制度設計が政策の企画立案には重要です。

また、民間側も、大学への支出を3倍増するとされておられますが、有言実行で着実に実績を出すようコミットしていただきたいと考えています。加えて、大学が意欲的なエッジの効いた取組を自由に行うためには、企業以外の一般の個人などの民間からの寄附が重要になります。

米国や英国の大学などは、大学、博物館などに向けた未着手の有望な寄附マーケットとして日本の中間層の高齢者層をターゲットとして捉えているといった話も聞いています。公共的なものに自身の資産を供したいという欲求は世界共通です。プライベートセクターからの寄附が増加すれば、大学の財務は好転します。こうしたことに対しては、寄附・信託のコンサルティングや寄附の専門家を大学で雇用するなどの施策を行っていきたいと思っています。しかし、日本では、指定国立大学のレベルであっても、米国のカリフォルニア大学バークレー校やイェール大学といった一流校のように、寄附を組織としての経営戦略の根幹に位置付けるところまで至っていません。

この原因には、国立大学は、交付金が国から運営資金が交付され、学生からは授業料を徴収する一方、日本の大学が学生に十分投資しえていない現状があると考えられます。

この結果、組織としての母校には愛着が湧かない状況になっているのではないでしょうか。卒業生が成功し稼げるようになったときに大学に寄附を行うといった好循環を創出されることが、日本においても必要なのです。

こうした循環は、大学が自らの資金で地域で公共的空間を創出することにもつながります。地域で人材を育成し雇用を創出する仕組みとして政策的に個別の大学が取組を行うことは、社会の公器として、意義深いことです。例えば、各大学の自発的な意志に基づき、寄附を原資に低所得者に重点的に配分する奨学金を学生に与えるアドミッションポリシーを定めるといったことは、極めて公共性が高い取組になります。

私は、決して大学人の悪口を言っているのではありません。知識基盤社会の日本のエンジンとして、日本の大学が世界一流の輝ける組織になってほしいと思っているのです。

- これまでお伺いしてきた大学を中心とした科学技術イノベーション政策への問題意識は、御自身の過去の研究とどのような関わりがありますか?

1989年にスタンフォード大学で博士課程を始めた際の衝撃は忘れられません。シリコンバレーなど海外に行った人などは、皆同じ感想を持ったと思います。また、米国の大学は天国だと感じてそこで働きたいと思った人も多いでしょう。私は、科学技術政策の歴史的研究に関心を持っていたので、そこで新たな調査研究を始めたのです。当時は、今ほど明確なイメージはなかったわけですが、カリフォルニア大学バークレー校、サンフランシスコ校、といった大学のメディカルスクール、エンジニアリングスクールを調査する中で政策研究としてアカデミアの在り方の違いに深く考える良い機会を得ました。その結果も含めて、「日本の研究者・学生がかわいそうだ、更に次の世代への貢献可能なことは何か」を考えているうち、お声がけがあり現在の政策現場での実践につながっています。

- 創設30周年を迎える科学技術・学術政策研究所(NISTEP)に一言お願いします。

行政組織の中に置かれた研究組織では、行政が求めるデータを随時提供するミッションと研究者の行動原理には相克があるかもしれません。組織に貢献することと、論文を執筆し研究者として認知されることには、両立し難い面もあります。しかし、優秀な研究者がいることも知っています。一緒にコラボレーションをしていきたいと思うような方もいます。イシューに応じて連携していければと思います。

むしろ、NISTEPに限らない話として、科学技術政策という独立した専門分野が確立され研究者としてキャリアを確立できるようになることが必要でしょう。政策に必要なものが先鋭に見えるからこそ研究が蓄積されるといった好循環が創出されるよう、専門家集団との関係を改めて考えていかないといけないと思います。このことは、時限的に数億円の予算を投入しても確立できるものではありません。科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進(SciREX)事業などは専門家集団との関係を形成するきっかけになっています。ただし、実学としての体系化が今後の課題と言えます。

NISTEPの次のステップに期待したいですね。

(2018年3月5日インタビュー)

議員室にて左から、白川、上山議員、赤池、葛谷

議員室にて左から、白川、上山議員、赤池、葛谷