STI Hz Vol.4, No.1, Part.10:(レポート)国立大学の研究者の発明に基づいた特許出願の網羅的調査STI Horizon

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  • DOI: http://doi.org/10.15108/stih.00121
  • 公開日: 2018.03.20
  • 著者: 中山 保夫、細野 光章、富澤 宏之
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.4, No.1
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

レポート
国立大学の研究者の発明に基づいた
特許出願の網羅的調査

第2研究グループ 客員研究官 中山 保夫、客員研究官 細野 光章、総括主任研究官 富澤 宏之

概 要

科学技術・学術政策研究所(NISTEP)では、国立大学の研究者による発明に関して、1995年度から2012年度までに行われた特許出願を特許庁の公開公報等から抽出し、それらの出願情報の分析を実施した。

国立大学の研究者の発明に基づく特許は、国立大学からの出願だけではなく、Technology Licensing Organization(TLO)、ファンディング機関、企業、個人など様々な主体等から出願される。このため、多様な出願形態を考慮した方法で、国立大学の研究者が発明者として含まれる特許出願の抽出を行った。

抽出した特許出願の分析により得られた主な知見は、以下の通りである。

(1)国立大学の法人化(2004年以前)を境として国立大学法人の特許出願数が急増したことが知られているが、発明者情報により国立大学の研究者の発明に基づいた特許出願を集計した結果、国立大学の研究者の発明に基づいた特許出願は、法人化以前から漸増傾向にあったことが新たに見いだされた。

(2)今回、調査対象とした1995~2012年度に特許出願実績を持つ国立大学の研究者の実数は約4万名であり、法人化後の各年度で見ると、約7,000名である。

(3)国立大学の研究者の発明に基づいた特許出願のうち、外国出願が行われた割合は、1990年代後半の20%代半ば程度から、2010年度以降は40%超に増加している。

(4)国立大学の研究者の発明に基づき出願され、審査請求が行われた特許の査定率は、2000年代初頭には50~60%であったが、その後、右肩上がりに推移し、2010年度以降、80%強となり、我が国の特許出願の平均的な査定率(2012年度で65%強)と比較して高くなっている。

キーワード:特許出願,国立大学,職務発明,特許権,産学連携

1. 特許出願の特定方法

本調査研究は、国立大学の研究者の職務発明(以降、職務発明は「発明」と略す)について、特許権を取得するために行った出願を特定し、それら出願の書誌情報、審査情報などの各種情報を収めたデータベースを構築し、これを使い分析することにより行っている。

国立大学の研究者の発明に関して、特許を受ける権利は、国立大学の法人化以前は国が承継した発明を除いて発明者に帰属し、法人化以後は、原則、機関(国立大学法人)帰属に改められている。こうした経緯や国立大学法人が権利を承継せず、発明者帰属にさせる場合や他機関に権利譲渡することなどもあり、国立大学が出願人として出願する場合だけではなく、以下のような様々な形態で特許出願が行われる。

a)研究成果の民間等への移転促進のためにTechnology Licensing Organization(TLO)から特許出願

b)発明者(個人)又は発明者から権利譲渡された企業等から特許出願

c)出願前に大学から企業等に権利の譲渡が行われ、譲渡先から特許出願

d)補助金などにより発明が行われた場合で、ファンディング機関から特許出願

こうした国立大学の研究者の発明に基づいた特許出願(以降、「国立大学発特許出願」と称す)を公開特許公報等から抽出するためには、国立大学名による出願人検索だけでは不十分で、出願形態に合わせた抽出方法を考える必要がある。ここでは、以下のように、国立大学名による出願人検索(方法1)に加えて、方法2~5を用い可能な限り網羅的に国立大学発特許出願を抽出しデータベースに収めている。

(1)方法1-国立大学を出願人とする特許出願の抽出

出願人名に国立大学の名称が含まれる特許出願を抽出する。現86国立大学の名称に加えて、統合又は移行した17大学の名称を用いて出願人を検索する。

(2)方法2-TLOを出願人とする特許出願の抽出

外部TLO35機関(承認TLO)の名称で出願人検索を行う。広域TLOの場合、発明者の所属機関を検証し、発明者に国立大学の研究者が存在する特許出願のみを抽出する。

(3)方法3-ファンディング機関を出願人とする特許出願の抽出

科学技術振興機構ほかの6機関について出願人検索を行う。加えて、発明者の所属機関を検証し、発明者に国立大学の研究者が存在する特許出願のみを抽出する。

(4)方法4-発明者住所を利用した特許出願の抽出

発明者住所に国立大学名の記載があり、かつ当該発明者が発明当時に同大学の研究者であると確認できる特許出願を抽出する。

(5)方法5-発明者同定による特許出願の抽出

過去に発明者として特許出願に関与した国立大学研究者と、氏名の一致、及び各種情報(出願人/共同発明者構成/住所の近接性/特許全文)の類似性などにより、同一者であると判別した発明者が含まれる出願のうち、当該発明者が発明時点で同大学の研究者であったと確認できる特許出願を抽出する。(参考文献12)

2. 出願形態に合わせた特許出願の抽出の有効性

図表1は、本調査研究の方法2~5による国立大学発特許出願の抽出の有効性を端的に示したものである。方法1だけでは、国立大学法人化前の1995~2003年度で国立大学発特許出願総数の約21%、法人化後の2004~2012年度では約83%の抽出にとどまり、精度高く国立大学発特許出願の状況を再現するには方法2~5を加えることが必須となることがわかる。特に、特許を受ける権利が国の承継条件に該当する発明を除き発明者帰属であった法人化以前は、個人による出願や発明者から権利譲渡された企業等からの特許出願が多く、方法2~5による抽出が特に有効となっている。

図表1 国立大学発特許出願の抽出の有効性図表1 国立大学発特許出願の抽出の有効性

3. 特許出願数の推移

図表2の赤棒グラフは、方法1のみによる特許出願数、すなわち国立大学を出願人とする特許出願数を示している。国立大学が法人化された2004年度を境に国立大学の特許出願数は急増している。こうした状況の背景として、特許を受ける権利が機関(国立大学法人)帰属に移行したことに加えて、特許の出願実績が法人化後の大学評価の指標の一つとして扱われたこと、さらに、特許料等について、国立大学法人は国と同等に免除されたこと(産業技術力強化法附則第3条)などがその要因として考えられる。

一方、図表2の青棒グラフは、方法1~5により抽出した特許出願(国立大学発特許出願)である。国立大学の研究成果である発明を特許出願した数は、法人化を境に急増した訳ではなく、法人化以前から階段状の漸増傾向にあったことがわかる。この理由には、1998年の大学等技術移転促進法(TLO法)、翌1999年の産業活性力再生特別措置法(日本版バイドール条項)などの政策的支援が奏功していることが考えられる。

図表2 国立大学発特許出願数の推移図表2 国立大学発特許出願数の推移

4. 出願人構成の変化

図表3は、国立大学、企業、承認TLOに絞り出願人数(整数カウント)の推移を示したものである。この図から、法人化前は、企業を出願人とする特許出願が最も多かったのに対し、法人化後は、特許を受ける権利が機関帰属となったことを背景として、国立大学法人を出願人とする特許出願が最も多くなったことがわかる。出願人に承認TLO(外部型)が現れるのは1998年度以降であり、同年はTLO法の制定・施行年である。法人化後、承認TLOからの出願が先細りとなっているのは、知的財産の組織的な創出・管理・活用を図る体制を整備する大学知的財産本部整備事業が開始され、外部型TLOに代わって大学内部組織でTLO事業を実施する大学が増えたことによる。

図表3 機関別特許出願人数の推移図表3 機関別特許出願人数の推移

5. 特許出願した発明を行った国立大学の研究者

図表4には、特許出願した発明を行った国立大学の研究者の数を年度ごとに示している。図表4では、研究者の延べ数に加えて、同姓同名の別人を区別し名寄せ算出した実研究者数も示している。また、実研究者数のうち、企業と共同で発明を行った実績を持つ研究者の数も合わせて示している。この図から、特許出願した発明を行った国立大学の研究者の数は、2006年度の約7,800名をピークとして、近年は7,000名を若干下回る人数で推移していることが判明した。科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の科学技術指標(最新版は参考文献3))によれば、国立大学の自然科学系の研究者は2004年の約96,000名から2016年の約107,000名と徐々に増加している。本調査研究と研究者の定義が異なることから厳密な比較はできないが、特許出願した発明を行った国立大学の研究者は、自然科学系の研究者の一割未満と推定される。

さらに、1995年度~2012年度を通した発明の特許出願実績を持つ国立大学の実研究者数は4万人弱であり、企業と共同で発明を行った研究者は、法人化後では各年度の特許出願した発明を行った実研究者数の半数程度と考えられる。

図表5は、1995年度~2012年度の累積特許出願数別の国立大学の研究者数を示している。100件以上の特許出願実績を持つ研究者が存在する一方で、1件のみの者の割合は特許出願実績を持つ国立大学の全研究者の過半数(53%)を占めている。この研究者の特許出願実績の偏りを示すジニ係数を計算すると0.57であり、かなり偏りがある。ちなみに0.57は「1995年度~2012年度の特許出願数(累積数)上位20%の国立大学研究者による特許出願数の合計は、全国立大学の特許出願数のおおよそ65%を占める」程度の偏りといえる。

図表4 特許出願した発明実績を持つ国立大学の研究者数の推移図表4 特許出願した発明実績を持つ国立大学の研究者数の推移

図表5 国立大学の研究者の特許出願実績図表5 国立大学の研究者の特許出願実績

6. 外国出願

日本で特許権を取得してもその効力は日本国内にとどまる。外国において発明の保護等を受けるためには、外国の特許庁に特許出願を行う必要があり、これを外国出願という。外国出願を行う方法として、各国に直接出願をする場合と国際出願(特許協力条約(Patent Cooperation Treaty)に基づいて行われる出願でPCT出願とも呼ぶ)を経由して各国へ移行する場合の二つに大別される。

図表6は、国立大学発特許出願の国内外の出願状況を示している。棒グラフの全高が各年度の国立大学発特許の総数を示しており、系列(積み上げ要素)の下から順に外国出願である直接出願、国際出願(PCT出願)、一番上が国内のみの出願を示している。

折れ線グラフは、各年度の国立大学発特許出願数のうち外国出願が行われた数の割合である。外国出願は、1990年代の20%半ば程度から、近年は40%超に増加していることがわかる。

国際出願は、法人化直後は外国出願数の30%程度であったが、近年は知財活用支援事業(JST)などの国際出願や指定国移行の支援もあり、10%程度増加し外国出願の40%程度が国際出願(PCT出願)となっている。

図表6 外国出願の状況図表6 外国出願の状況

7. 特許査定率

図表7には、国立大学発特許出願のうち審査請求が行われた特許出願に対する特許査定率を示している。国立大学単独特許出願と企業単独特許出願は、国立大学発特許出願のうち、それぞれ出願人が国立大学のみの特許出願と企業のみの特許出願とを抽出し、その特許査定率を比較したものである。

企業単独特許出願の特許査定率は、2000年度以前は特許庁の特許行政年次報告書(最新版は参考文献4))に記載される我が国の特許出願の平均的特許査定率を下回る状況であった一方、国立大学単独特許出願の特許査定率は、低下傾向であるもののこれを上回っている。発明の内容や請求範囲もあり、特許査定を受けることが発明の質を表すとは一概にいえないものの、国に帰属する要件を満たした発明(国立大学単独特許出願)と発明者個人から権利譲渡された発明(企業単独特許出願)とは、全体として見れば特許要件とされる新規性、進歩性等で若干の差があったと見られる。

法人化後は、出願人の違いによる特許査定率の差はほぼない状況で、80%強で飽和するまで右肩上がりに推移する。法人化後のこの特許査定率は、特許行政年次報告書の特許査定率をかなり上回ることから、技術的・経済的側面での特許出願時点と審査請求時点の絞り込みといった行動の結果、特許査定される割合が増加していると考えられる。

図表7 特許査定率図表7 特許査定率

8. おわりに

本稿では、NISTEPの調査資料-266としてまとめた「国立大学の研究者の発明に基づいた特許出願の網羅的調査」から一部の内容を紹介した。

同調査資料には個別国立大学のデータも掲載しており、大学相互の状況把握・比較を行う機関分析IR(Institutional Research)の一助として活用されることも期待される。特許データには様々な分析・評価視点が存在し、コンパクトにそれらデータの取りまとめをすることは難しい。このため、今回の調査資料では特許の出願数・技術領域・審査請求・査定など基本データに絞って初回公開している。今後は、権利の保有・譲渡、発明の新規性・進歩性・影響力・持続性、グローバル戦略性など特許内容に踏み込んだ分析を行うとともに、学から産への特許を媒体とした知識移転、大学と企業を結ぶ“ハブ研究者”の同定など政策ニーズの大きいテーマについて分析を進める予定である。


注 国立大学の研究者とは教授、准教授、助教、講師といった教員のみならず、技術職員、研究員、学生、留学生などを含む。

参考文献

1) 中村達生・富澤宏之・細野光章・中山保夫・片桐宏貴・峯尾翔太,「類似度評価を加味した発明者名寄せ手法」, 第11回日本知財学会学術研究発表会, 2013年12月.

2) 峯尾翔太・中村達生・片桐広貴・大石宏晶・富澤宏之・中山保夫,「内容の類似性評価手法を利用した同一特許発明者の特定」, 研究・技術計画学会第30回年次大会, 2015年10月.
https://dspace.jaist.ac.jp/dspace/bitstream/10119/13420/1/kouen30-903.pdf

3) 科学技術・学術政策研究所, 『科学技術指標2017』, 調査資料-261, 科学技術・学術政策研究所, 2017年8月.
DOI: http://doi.org/10.15108/rm261

4) 特許庁, 『特許行政年次報告書2017年版 ~知をつなぎ時代を創る知的財産制度~』, 2017年10月.
https://www.jpo.go.jp/shiryou/toukei/gyosenenji/index.html