STI Hz Vol.3, No.1, Part.8: (ほらいずん)新たな予測活動の展開に向けてⅢ 対談:未来洞察の思考法と予測活動の更なる発展に向けてSTI Horizon

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  • DOI: http://doi.org/10.15108/stih.00069
  • 公開日: 2017.3.25
  • 著者: 中島 潤
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.3, No.1
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

ほらいずん
新たな予測活動の展開に向けてⅢ
対談:未来洞察の思考法と予測活動の更なる発展に向けて

聞き手:科学技術予測センター 特別研究員 中島 潤

 2016年は、英国のEU離脱方針決定や米国の大統領選挙結果など、多くの人々が予測していなかったことが起きた年であったと言える。また、IoTやAIなどの情報関連技術の進展も更に加速し、まさに普及・拡大期突入目前である。今後も、社会情勢や科学技術の発展などが契機となり、従来想定していなかったような大きな変化が起こることが十分考えられる。このような状況を背景として、当研究所では不確実性を積極的に織り込んだ予測手法に改めて着目している。本稿では、予測活動の実務・研究に従事する以下の3名、鷲田祐一氏(一橋大学・教授)、七丈直弘氏(客員研究官、東京工科大学・教授)、赤池伸一氏(科学技術予測センター長)による対談をまとめた。予測活動の意義や本質、現在の予測活動やそのコミュニティが置かれている課題、今後の発展の方向性など、議論は多岐にわたった。

鷲田 祐一 一橋大学大学院商学研究科 教授

鷲田 祐一(わしだ ゆういち)
一橋大学大学院商学研究科 教授
1991年一橋大学商学部卒業、株式会社博報堂入社。以降、マーケティングやコンサルティング業に従事する傍ら2008年に東京大学総合文化研究科にて博士課程を修了。学術博士。2011年より一橋大学商学研究科准教授となり、2015年より現職。専門はマーケティング、イノベーション研究、並びに認知科学など。近著に「未来洞察のための思考法:シナリオによる問題解決 (KDDI総研叢書)」などがある。

七丈 直弘 東京工科大学コンピュータサイエンス学部 教授

七丈 直弘(しちじょう なおひろ)
東京工科大学コンピュータサイエンス学部 教授
文部科学省科学技術・学術政策研究所 客員研究官
1999年東京大学大学院工学系研究科システム量子工学科専攻修了、東京大学人工物工学研究センターへ。工学博士。その後、東京大学大学院情報学環及び早稲田大学高等研究所を経て、2012年に文部科学省科学技術・学術政策研究所にて科学技術予測業務に従事。2016年より現職。

赤池 伸一 科学技術予測センター長

赤池 伸一(あかいけ しんいち)
文部科学省科学技術・学術政策研究所科学技術予測センター長
1992年 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻修了、科学技術庁入庁。以後、文部科学省・在スウェーデン大使館・内閣府等に勤務。学術博士。2011年 一橋大学イノベーション研究センター教授、2016年 より現職。専門は科学技術・イノベーション政策、科学技術外交、ノーベル賞の授賞選考プロセスと受賞者のキャリアの研究など。

将来を予測するという行為は、人間の根源的な欲求である

赤池:鷲田先生の著書「未来洞察の思考法:シナリオによる問題解決」1)の中に、効率性や生産性から創造性や文化性を取り戻すというお話がありましたが、先生がそうお考えになる理由や、何を捉えようとしておられるのか?教えてください。

鷲田:元々認知科学を研究していたことから、創造性研究には強く興味を持っていました。デジタル技術の普及で生産性や効率といった領域では人間は人工知能に勝てなくなってきている。そうなると、人間の最後の砦はクリエイティビティ- 創造性であり、そこに関しては、一般に言われているほど人工知能が人間に迫れるとは私は思っていません。人間のクリエイティビティの問題ももっと詳しく調べる必要がありますが、純粋な意味での探求(エクスプロレーション)というのは、霊長類しか持っていない力だということは脳科学的にも言われていますし、0を1にする力はそこにあるのではないかと、強い興味を持っています。過去の学習に頼らず何かを生み出す力が存在していて、極論をすれば、それが今のあらゆる文明や文化を生み出しているのだと思います。そこによりフォーカスされる時代がこの先来るのではないかという興味を持っています。

その中で、過去の予測活動を私なりに見たところ、人間は予測する能力・手法については非常に少ない方法しか開発できていないことが分かりました。しかし、人類の歴史をたどってみても、人間は将来を予測しようとし続けているので、将来を予測したいという強力な動機があるのだと思います。農耕時代に生産性を上げるためや、科学の世界なら万物の法則を見付けようとしたり。又は人より何か先んじて知ることが膨大な利益を生むという、目先の利益を求める意味もあると思いますが、いずれにしても、先を読みたいという根源的な欲求があるのだろうと思っています。

赤池:先生がこの分野に関心を持たれたきっかけは、広告会社でお仕事をされているときかと思いますが、何かきっかけがあったのでしょうか?

鷲田:広告会社勤務時代にあるクライアントの方に言われたのですが、「こちらが最新の状況ですよ」という趣旨のプレゼンテーションを様々な場所で行っていたときにその方から「最新ではなくて次を持ってきてくれ」とはっきり言われました。そのとき、ああ、なるほどと思いました。確かに自分は“次”を持っていっていない。では“次”を持っていくためにはどうすればよいだろうかと考えたのがいわゆる“目が開いた”ときですね。そのときのやり取りを当時の同僚に伝えたところ、スキャニング注1という手法を教えていただいたのがきっかけです(図表1)。

七丈:それはいつ頃のお話ですか?

鷲田:2000年です。よく覚えています。

図表1 スキャニング法の共通の手順

出典:一橋大学 鷲田 祐一教授御提供資料

予測活動を行う意義

赤池:鷲田先生の著書の中で、定量と定性、それから帰納と演繹といった対立概念のどちらかだけではなく、予測活動においてはそれらを併用することがすごく大事と書かれていました。実はこれを読んだ際に、我々の予測活動がたどってきた道と似ていると感じました。我々の予測活動は1970年代に始まり、当初は専門家に対して技術がいつ頃実現するかということをデルファイ法注2で聞いていたのですが、2000年代に入りバックキャスティング的に将来の社会像から現在を見るという概念を取り入れました。ただ、これだけだとうまく組み合わない。かなりそこで悩み、第10回科学技術予測注3では将来ビジョンと技術の組合せから考えられるシナリオをしっかり書こうと決めました。これでもまだ不十分と考えており、これからホライズン・スキャニングを導入しようとしています。我々は別に体系化を目指してはいなかったのですが、実務の中で必要なものを取り入れ続けた結果、非常に面白いことに、一種の進化のプロセスを経て、鷲田先生がたどってきた道と似通ってきました。

予測活動を行っていく上で、定量・定性や帰納・演繹のように、鷲田先生が幾つかキーコンセプトと考えているものがあれば教えてください。

鷲田:二段推論注4をしてシナリオを描くことの意味は何かと考えて実験を行ってみたところ、面白い発見がありました。予測をしていると、その予測が外れることも当然ありますよね。予測が外れた場合、現象を引き起こしたそもそもの原因が外れていたのか、それとも結果が外れたのかに分かれます。更に言うと、原因が外れているのに結果が合っているということも起こりえます。この状況を科学者はどう捉えるのかという検証に突き当たりました。そこで面白いと感じたのは、原因となる状況について豊富に知識を持っている人ほど、原因が外れているのに結果が当たっているという現象に寛容というかフレキシブルだったことです(図表2)。そのとき彼らがどう考えているかというと、原因の付け替えをしている。「こちらの原因だった」というふうに。「そもそもの原因が違う」と他人から批判されがちなところではありますが、私はこの事後的に現象の原因を付け替えられる能力は結構すごいと思っています。何を言いたいかというと、シナリオをたてること、またそのシナリオが外れたときでも原因まで遡って検証して原因を付け替えることで、現象を理解するスピードがとても速くなります。起こった現象に対して原因まで遡って再考しているので、全体を理解する能力が格段に上がる。これがシナリオをたてる意味かと考えたわけです。

図表2 原因要素に関する柔軟な代替的解釈のイメージ図

出典:参考文献6

人工知能についても今大きく取り上げられていますが、人工知能のブームが近いうちに来ると予測したこと自体は当たっていても、そこに至る経路は結構外れていたと思います。画像認識の精度を格段に向上させる手法の発見など様々な事柄が偶然重なって劇的に進んだのではないかと。でもこういう爆発的なムーブメントが起こるときには必ずシナリオをたてて比較的長い時間をかけて推論や原因の付け替えを繰り返し、知識の総体を拡大させている人がいるのだと思います。

赤池:意地悪な言い方かもしれませんが、ともすると現状追認に陥ってしまう可能性もありますよね。そことの違いはどうお考えですか?

鷲田:遡って考えることが大事です。現象が起こった後は、事実として起こったことを現状追認せざるを得ないですよね。しかし、その現象がなぜ起こったのかという原因まで立ち返ることが重要です。

赤池:現状起こっていることを表面的に捉えるのではなくて、もう一段裏側にある本質は何か、そこを余り固定的にではなく柔軟に考え、本質をつかむ努力をしなければいけないと。そこにたどりつかずに一段目だ
けの表面的な検証で終わってしまうと、ただ結果に流されるだけになってしまうということですね。

より本質に迫るために

鷲田:企業の方と予測活動を行った経験をお話しますと、多くの経営者は、何となくではあるが自分の組織の意思決定が遅いと感じているように思います。もう少し骨太な意思決定をしたいという潜在的な欲求が強いです。ただそれをどうすればよいのかが分からない。例えば財務系の分析をしてもやはりスピード感がない。他方、イノベーションが重要だと言われてもよく分からないから、何か新規事業をやろうか?みたいな話にすぐなってしまう。そこにこの予測という手法を当てはめると、骨太な意思決定につながると思います。必ずしも方針・道筋を一つに絞るだけではなくて、幾つか道筋があるということを考えるだけでも経営としては十分な意味があると思います。

赤池:私もこの科学技術予測センターに着任して、果たして将来の何年に技術が社会実装されている予測確率が何%かという検証にどのような意味があるのかと当初悩み、そもそもこの予測活動の意義は何だろうと考え続けているのですが、最近では、問題の本質は当事者や関係者が共通認識を持つことだと考えるに至りました。実際に意思決定をする人、当事者となる人たちを巻き込まずに、ただ一方的に数字を出すだけではいけないと考えるようになりました。

鷲田:科学技術・学術政策研究所(NISTEP)が幅広い領域でデルファイ法を使った科学技術予測や将来シナリオを作り続けることはすごく意義が大きいです。それらの活動を通じてステークホルダーを増やしているわけですし、ともすればバラバラになりがちな研究者を束ねている。その意義はとても大きいです。私がワークショップで行っているスキャニングでもそこは顕著に表れます。正直スキャニングという手法で出てきた一つ一つのアイデア自体に対して、「これが本当に実用化されるのですか?」とか、「このような手法で、過去に実用化されたものが何かありますか?」と聞かれることもあるのですが、そういう方々に対しては、とにかく一度スキャニングを体験してみてくださいと言っています。なぜかというと、予測を体験してみた皆さんが、一番面白かったのは、出てきたアイデアそのものよりもスキャニングの経験だと言うからです。その理由は、これをやると日々新聞やブログを見る視点が大きく変わるから、だと。要するに「何かあるかもしれない」という視点で見るようになるわけです。この視点が身に付くことが一番の強みで、これは私の先ほどの言い方では原因の多様化に当たるのだと思います。起こった現象自体は後で考えればよくて、なぜそれが起こったのか?というパスを、二段推論に戻って考えられる人が増える。これが実は強烈なメリットだと思います。

赤池:我々科学技術予測センターも、まさに今このホライズン・スキャニングを体系的、継続的に進めようとしている最中なのですが、この実践活動を例えばどのような場で、どう行っていますか?

七丈:スキャニングを政策形成に向けて活用をした具体的な例はありますか?

鷲田:国立研究開発法人理化学研究所(以下、理研)の事例が面白かったです。研究者たちの考え方がすごく柔軟で。

七丈:理研のどういう方たちとスキャニングを行われたのですか?

鷲田:東京大学大学院工学系研究科の堀井秀之教授と理研の中の産業連携本部の先生方のお力をお借りして参加者を募集したのですが、集まったのは若手の研究者20人くらいです。まずスキャニングを行い、その後理研の今後の研究の方向性を考える時間をとりました。合計3日間です。途中でやめた方もいますが、大部分は最後までやり遂げてくれました。出来上がったシナリオもとても力強く、凡人では描けない未来像でした。

七丈:理研は国立研究機関ですが、研究者が研究の方向性を考えるために予測という手法を使うことも最近は多いのでしょうか?

鷲田:元々結構多いと思います。私はどちらかというと民間企業、マーケティングに近い方が興味を持つだろうと思っていたのですが、研究者が興味を持つ方が多いと感じています。

七丈:最近はどちらかというと社会像、研究者の社会的責任、社会課題解決型の研究という大きな流れがあるので、将来社会をしっかり予測してみようということでしょうか。

鷲田:流れとしてはそうではないかと思います。

赤池:確かに社会課題と技術を結び付けることはとても重要なのですが、1対1で直線的に結び付けることは難しいので、先ほどのお話のように中間概念を持たせることが大事なのだと思います。そもそもの本質は何か?という議論があって、その本質と技術・研究をつなぐ、課題をつなぐ。その構造を理解した上で、何をコンセプトとして提示するかがミソなのではないでしょうか。直接社会課題と技術を結び付けようとすると、すばらしい発想が狭まってしまいますよね。

七丈:そうですね。直接結び付けようとすると全然面白くなくなってしまう。科学研究はある意味メタファみたいなもので、研究そのものがどうというより、そこで表現しているコンセプトそのものが別の方法に転用可能なわけですよね。方法論なり考え方であるとか。

また、今赤池さんや鷲田先生がおっしゃったような話は、予測活動が陥りやすいわなだとも考えられます。予測するという行為自体すごくクリエイティブな、マインドセットを変えるための活動であるはずなのに、予測活動自体が目的化してしまって、無理やり伝えるようなアウトプットや形骸化したプロセスだけが残り、クリエイティブな思考が全く発現しなくなってしまうと意味がなくなってしまう。

更なる予測活動の普及のためにはどういった視点が必要か?

鷲田:もっと外交や軍事など政策的な課題に取り組んでいくべきではないでしょうか。また日本の場合は自然災害も多くあります。文部科学省やNISTEPでも既に一部取り組まれているかもしれませんが、今時点、政治的な問題や政策の科学といった領域で、国の機能として内閣府や外務省、防衛省などと省庁横断的な連携はできていないと思っており、そこが少し残念です。

赤池:国際機関などの予測活動のコミュニティには、安全保障の問題や外交などに予測の専門家は大勢います。むしろテクノロジー専門の方が少数派なくらい。

鷲田:実際の政治をどうするかという観点を別にしても、少なくとも外交や国政に関しては、コミュニティを作る意味でも省庁横断機能はあった方がよいと思いますね。

七丈:例えば米国では、CIAとNSAとFBIなどのインテリジェンス機関があり、Office of Director of National Intelligenceというそれらをまとめる機能があることでインテリジェンス機関が全てつながっているのですよね。

鷲田:日本の場合は外務省と防衛省などと文部科学省やNISTEPが連携する、あと例えばエネルギー関連なら経済産業省や資源エネルギー庁とも連携して戦略を立てるという考えは悪くないと思います。これらの分野はすごく経済的な影響が大きいので、何か大きな変化が起こったときにそれが経済的にどういう影響を及ぼすのか、ある程度シナリオを作れる状態にしておくべきだと思います。

予測活動が向かうべき、発展の方向性

七丈:今後の予測活動の方向性をどうお考えでしょうか。これは、言わば「フォーサイトのフォーサイト」ということですね。

鷲田:私自身としては、やはり予測という行為を、いつかは国のインテリジェンス機能の中で使えるように引き上げていきたいという欲求があります。科学技術に関与する幾つかの省庁は皆それぞれ将来を考えていると思いますが、それ以外の様々な、いわゆる文系分野の政治や経済、文化といった領域の予測活動を主導できる機能はNISTEPなのではないかと思います。外からだとそう見えます。先ほども述べたとおり、政治や経済、文化という領域も国の在り方や戦略に与える影響は大きいので、そこを拡充していくべきだと感じています。ですからこういう機会に呼んでいただけるのは予測活動の発展に貢献するという意味でも、私としてはとても有り難く思っています。そこで、せっかくですのでこの先ステップを広げていくのであれば、今申し上げたように省庁横断型の活動にしていくことに寄与していきたいという考えがあります。

七丈:私も本当にそう思います。私の知り合いの方で英国のとあるシンクタンクに出向している方がいるのですが、そのように各省庁でそれぞれシンクタンク的機能を担っている人は結構いるはずです。

赤池:我々も参加させていただいている科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)の「人と情報のエコシステム(HITE)」内のプロジェクト「未来洞察手法を用いた情報社会技術問題のシナリオ化」7)についても触れたいと思いますが、今後どのような方針で進めていこうとお考えですか?

鷲田:慶應義塾大学常任理事の國領二郎教授が領域総括ということもあり、まずは情報科学から始めるのかなと考えています。情報科学について日本の産業は連敗が続いているので、ここで何か一矢報いることに貢献したいと。今話題のAIやIoTの普及が目前なので、ここで何かを成し遂げることは研究機構としては良いと思います。ただライフサイエンスやその他様々な産業、保安技術、エネルギーなどの分野にも波及していけると更にいいなと思います。國領さんもプラットフォーム化していきたいとおっしゃっているので、そのように育てていきたいです。ですが、RISTEXの事業はあくまで時限的なプロジェクトですので、この枠組みの中でできるのはそこまでかと思っています。その後、どこかで研究成果を受け取ってストックしていくことが必要です。NISTEPはきちんとストックを作ってノウハウを蓄積していく組織だと思っていますので、そういう意味ではNISTEPに研究成果を受け取ってもらえたらいいなと(笑)

赤池:我々も、2~3年ほどで人がかなり入れ変わることもあり、プロパーの研究員も含めて、組織としてこういった予測活動のノウハウをどう蓄積していくかが課題です。データベースなど目に見えるものは作っていますが、ノウハウといった無形の部分をどうつないでいくか。今は長く所属している研究員と新たに配属された研究員を組み合わせて、ノウハウが組織として蓄積されるように意識しているのですが、やはり実践を積み重ねるしかないかと思っています。

鷲田:そうですね。ノウハウの蓄積、あるいは手法として蓄積していくということはとても難しい。私の周りでも、この予測という分野には5,6人ほどのコミュニティしかなくてなかなか広がらない。何名か新たに興味を持ってくださっている先生もいて少しずつ普及させようと御尽力いただいていますが、まだまだ大きな力にはなっていない。正式に授業としてクレジットを出しているのも現時点では多分一橋大学だけではないかと思います。一校しかないのは残念です。もっと増やすべきですし、増やしていきたいと思っています。


注1 「その時点での考え方や計画に対する、潜在的脅威、可能性、あるいは将来の発展方向性の体系的評価」と表現されるホライズン・スキャニングの手法の一環。ここでは、「突発的な「未来の芽」「兆し」の定性データを用いて、未来の社会変化仮説を構築する方法」として、鷲田氏が研究活動で使用している手法を指す2)

注2 集計結果を提示した上で同じ質問を同じ回答者に繰り返して再考を促し、意見を収れんさせるアンケート手法であり、当研究所の科学技術予測において以前から使われている。

注3 当研究所が2013年~2015年にかけて行った、我が国の科学技術の中長期的発展を展望する総合科学技術予測調査3~5)

注4 目の前の何らかの不確実性に対して、独自の仮定をまず置き、その上でそれによって起こる結果も合わせて想定する、言わば未検証の仮説の上に仮説を積み重ねるという考え方6)

参考文献

1)鷲田祐一、未来洞察のための思考法:シナリオによる問題解決、KDDI総研叢書(2016年5月)

2)新たな予測活動の展開に向けて-科学技術予測の歴史とホライズン・スキャニングの導入-、STI Horizon Vol.2, No.3、科学技術予測センター(2016年9月):http://doi.org/10.15108/stih.00037

3)第10回科学技術予測調査 国際的視点からのシナリオプランニング、NISTEP REPORT No.164、科学技術動向研究センター(2015年9月):http://hdl.handle.net/11035/3079

4)第10回科学技術予測調査 分野別科学技術予測、調査資料-240、科学技術動向研究センター(2015年9月):http://hdl.handle.net/11035/3080

5)第10回科学技術予測調査 科学技術予測に資する将来社会ビジョンの検討~2013年度実施ワークショップの記録~、調査資料-248、科学技術動向研究センター(2016年3月):http://hdl.handle.net/11035/3142

6)ワークショップ型会議での非言語コミュニケーションの特徴分析、鷲田祐一、組織科学 Vol.49, No.4(2016年6月):https://www.jstage.jst.go.jp/article/soshikikagaku/49/4/49_16/_article/-char/ja/

7)科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX) 公募型研究開発領域 「人と情報のエコシステム(HITE)」HP:http://ristex.jst.go.jp/hite/