STI Hz Vol.4, No.4, Part.7:(ほらいずん)ISO 8000 データ・クオリティの国際標準化-Society5.0の実現に向けて-STI Horizon

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  • DOI: http://doi.org/10.15108/stih.00155
  • 公開日: 2018.12.20
  • 著者: 蒲生 秀典
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.4, No.4
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

ほらいずん
ISO 8000データ・クオリティの国際標準化
-Society5.0の実現に向けて-

科学技術予測センター 特別研究員 蒲生 秀典

概 要

国際標準化機構(ISO)では、データ品質規格の中核と位置づけられるISO 8000(Data Quality)の新規パート開発が活発化している。既に国内外で普及するISO 9000 が、ビジネスプロセスに関する品質・マネジメントを対象とするのに対し、ISO 8000 は、そこで扱われる様々な「データの質」を対象とし、組織間・システム間で情報交換する際のデータ品質要件・評価の方法やプロセスを定めている。今後、ビッグデータの利活用拡大やIoT(モノのインターネット)・AI(人工知能)の普及により、増大する「データの量」の扱いと併せて「データの質」が重要な課題となってくることが予想される。現在ISO 8000 は、海外においては製造分野にとどまらず、サービスや医療分野、さらには行政や公共機関の情報公開などにも適用の広がりをみせていることから、日本の国際競争力を確保するためにも、産業界のみならず行政機関・公的研究機関を含めた産学官各機関の国際標準化協議への積極的な参加が求められる。

キーワード:ISO 8000,データ・クオリティ,国際標準,産業データ,インフォマティクス

1. はじめに

半導体集積デバイスの開発・進展によって1980年代に始まった情報化時代は、その後インターネットの普及、モバイル化、クラウド化という進化を経て、いま情報爆発の時代をむかえている。産業分野では、情報化時代の当初から製品化プロセスにおけるデジタル化が進み、膨大な情報が蓄積されてきた。その結果、それらの有効な利活用のために「情報のデジタル化」の意味再考と、その再構築が必要となっている。ドイツでは、ものづくり産業の高付加価値化、国際競争力の強化のため、膨大な産業情報を整理・再構築し、企業や産業分野、さらには国を越えて利活用することを主体としたIndustry4.0を推進している1)

我が国でも、第5期科学技術基本計画(2016年1月閣議決定)2)において、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合し、科学技術分野や産業を超えて人間中心の社会改革を実現するSociety5.0を掲げている。2018年6月にはこのビジョンの実現に向けた「統合イノベーション戦略」が閣議決定され3)、様々な分野のデータが垣根を越えてつながるデータ連携基盤を整備し、組織や分野を越えたデータの利活用等を通じた新たな価値の創出を目指している。

今後、ビッグデータの利活用拡大やIoT(モノのインターネット)・AI(人工知能)の普及に伴い、製造業に限らずサービス業や医療・行政機関などでのデータの利活用が急速に進み、データの質の重要性が増大することが予想される。本稿では、近年活発化している、データ品質に関する中核的規格に位置づけられるISO 8000(Data Quality)の国際標準化動向について記す。

2. モノからデータへ:重要となるデータ・クオリティ

産業応用の面からみた情報のデジタル化とは、現実世界の「モノ」や「コト」を様々な側面(アスペクト注1)で切り出して、情報空間へ投影(Projection、形・言葉により表現)し、相互に連携させて再構成することである(図表1)。現実世界の「モノ・コト」を、情報空間で100%表現することは不可能であり、またその目的により必要とされる側面がおのずから限定される場合もある。したがって「モノ・コト」をどのような側面で情報として切り出すかは、それを表現しようとする「意図」によって選択・制限されることになる。産業分野において情報を「構造化する」際の「意図」とは「事業目的に資する」ということであり、事業目的に沿ったアスペクトを適切に選択して「モノ・コト」の情報をデジタル化し、情報空間においてそれらの間を「関係」でつなぐことである(図表2)。そのためには、①基本単位としての“標準辞書(クラス)”、②「モノ・コト」を①を組み合わせて表現する“情報構造”、③コンピュータが直接理解可能な“表現形式”、④ネットワーク上でそれらを“交換する手順・仕組み”、そしてそれらの製品ライフサイクルを越えた永続的利活用を保証する、セキュリティ・品質・トレーサビリティ等が必要となる。例えばDigital Twinという言葉は、現実世界と情報空間が時間的・空間的に同期した状態のことであり、その状態を連続的に維持する行為・処理をDigital Twinningという。

また事業の中身を細かくみていくと、製品化プロセスの各フェーズ(設計・開発・試作・製造・流通・販売・保守など)においてもアスペクトは異なる。例えば基本設計のアスペクトとは「性能・機能」であり、「製造」においては「形状・構成」、製品引渡し時には「ドキュメント」という具合である。このような思想に基づき構造化・再整理された情報を企業・産業分野・国を越えて「つなぐ」ためには、国際コンセンサスに基づく共通の取決めが不可欠となってくる。産業分野において欧州を中心に推進されているIndustry4.0は、国際標準群の整備によりそれを実現しようとしている。

図表1 現実世界のモノの情報化図表1 現実世界のモノの情報化

出典:参考文献1)

図表2 産業における情報の構造化図表2 産業における情報の構造化

出典:参考文献1)

3. データ・クオリティの国際標準化動向

国際標準化機構(ISO)では、データ品質規格の中核と位置づけられるISO 8000(Data Quality)4)の新規パート開発が活発化している。ISO 8000は、既に国内外で広く普及するISO 9000の関連規格で、ISO 9000が「ビジネスプロセスに関する品質・マネジメント」を対象とするのに対し、ISO 8000は、そこで扱われる様々な「データの品質」を対象としており、前節で述べた組織間・システム間で情報交換する際のデータ品質要件・品質評価の方法やプロセスを定める規格である。

ISO 8000は、TC 184注2/SC 4注3の中の、Industrial Data Qualityを担当する作業グループWG 13で協議されている。前節で述べた産業データの利活用に関する重要な国際標準としては、情報の構造化(形式知化)(形状を扱うISO 10303、製品ライフサイクル情報全般を扱うISO 15926、オントロジー辞書の最重要標準であるIEC 61360/62656等)、セキュリティ(ISO/IEC 15408、IEC 62443等)、セーフティ(IEC 61508等)がある。また産業データの真正性・トレーサビリティに関しては、ISO/TC 307注4においてBlockchainの国際標準開発が議論されている(図表3)。

ISO 9000では対象がビジネスプロセスであったことから、規格適合評価においては、認証機関の審査員による評価を主としたが、ISO 8000では、図表4に示すように、3つのクライテリアのレベル(Syntactic, Semantic, Pragmatic Quality)において、明示的、完全で、コンピュータ処理可能なデータ品質要件を定めるという大きな特徴がある。そのため膨大な産業情報に対して属人性を排除した厳密なデータ品質評価を瞬時に行うことができるなどの点で、Society5.0が目指す安全・安心で豊かな情報社会の重要な役割を担う可能性もある。米国では特定の形式の情報に対するISO 8000の適合評価を請け負う認証ビジネス5)が既に始まっている。

ISO 8000シリーズの各規格は、Part 1概要(2011年)、Part 2用語(2017年)など13のパートが発行済みであり、また引き続き現在7つのパートが開発中である(図表5)。海外においては既に、ドイツ・鉄道ネットワーク(Part 150)、韓国・政府機関(Part 61)、サウジアラビア・サプライチェーン(Part 115)などで、ISO 8000に準拠したデータ運用がされている。事業全体のデータ品質のシステム的自動管理が可能となるため、海外では鉄道・ヘルスケア・鉱業・石油ガス・金融・自動車・海事・電力など幅広い分野で適用され大きな効果を上げている(図表6)。6)

図表3 産業データの構造化の概念図表3 産業データの構造化の概念

参考文献1)を基に科学技術予測センターにて作成

図表4 ISO 8000の適合評価方法図表4 ISO 8000の適合評価方法

出典:参考文献1)

図表5 ISO 8000シリーズの構成と主な規格(開発中含む)図表5 ISO 8000シリーズの構成と主な規格(開発中含む)

出典:参考文献6)

図表6 ISO 8000シリーズの適用事例図表6 ISO 8000シリーズの適用事例

出典:参考文献6)

4. Society5.0の実現に向けて

科学技術・学術政策研究所(NISTEP)が実施した「第10回科学技術予測調査−国際的視点によるシナリオプランニング」7)では、我が国の産業の国際競争力を強化し、将来に向けて持続的な発展を実現していくための「ものづくり」の重要な方向性として、ICTやサービスとの高度融合による高付加価値化、あるいは新たな価値創造が挙げられた(図表7)。Industry4.0を掲げるドイツを中心とする欧州では、ものづくり分野での新たな価値創造と国際競争力確保のために、国際標準化を積極的に主導している。近年サービス分野では、新たな価値の創造を目指し、基本的なサービス品質を超える“サービスエクセレンス”が提唱され、2017年9月にはISOに新たな技術委員会(TC 312)が設立され国際標準化への議論が開始されている8)。ISO 8000においても、ものづくりとICTの様々な融合を実現する際の基幹ルールとなる。

国内では、産業データ全般に関する国際標準の審議を対象とするISO/TC 184/SC 4に対応する国内審議団体として、一般財団法人製造科学技術センター内にSC 4国内対策委員会が設置されている。一方、内閣府では、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)傘下のSociety5.0重要課題ワーキンググループやデータ連携基盤サブワーキンググループなどが活動を推進しており、これら2つのコミュニティの橋渡しを目的として、産学官によるSociety5.0国際標準化タスクフォースが2018年3月に発足し、その後国内審議団体の立ち上げとSociety5.0国際標準化の準備を進めている9)。これらSociety5.0ワーキンググループにおいて、データ品質は重要な課題として挙がっている。

ISO 8000の開発状況であるが、開発の始まった初期(2006年~)及びPart 311の開発においては日本が強く関与していた。しかし現在の審議の中心は韓国が提案しているPart 60シリーズであり、一方日本の産業界の関心は薄く、積極的に審議に参加する状態にはない。今後IoTの普及や様々な計測・観測技術の進展により、情報・データが増大することが予想される中、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合するSociety5.0において、国際競争力の確保などを実効的かつ戦略的に実現するための課題の一つとしてデータ品質が重要課題の一つとして挙がっている点を鑑みれば、その中核規格と位置づけられるISO 8000の国際標準開発審議への積極的参加は不可欠である。ISO 9000に関連する重要な規格として「キリ番」がつけられたISO 8000は、今後製造分野にとどまらず、サービスや医療分野、さらには行政や公共機関の各種データベースの構築・公開にも及ぶと予想される。

これまで、日本は業界ごとの国際標準化には積極的に参画してきたが、今後は、公共サービスを含む産業全体を包括するISO 8000の新規規格策定に、業界そして産学官の垣根を越えて提案段階から参画する必要がある。特に産業分野ごとに固有のデータ品質を定めるパート(300番代)は、日本のものづくりの強みを国際標準によりリードできる機会でもある。日本の国際競争力を確保するために、「ルールフォロワー」から「ルールメーカー」へ、自ら国際市場を切り開くべく、国際標準協議への積極的参加が求められる。

図表7 ものづくりの高付加価値化に関わる国際標準図表7 ものづくりの高付加価値化に関わる国際標準

謝辞

本稿は、2018年7月25日に開催されたNISTEP講演会1)を基にまとめたものである。講演会の講師である、三菱重工業株式会社 苑田義明主席技師(ISO /TC 184/SC 4/WG 3国内対策委員会 委員長)には貴重な御意見を頂くとともに、図表資料を御提供いただきました。ここに感謝の意を表します。


注1 本稿では、ISO/IEC 81346が定める製品プロダクトサイクルにおけるアスペクト(情報整理・構造化の中心となるとらえ方)の意味で用いる。

注2 第184専門委員会。Automation systems and integrationを所掌する。

注3 第4分科委員会。Industrial dataに関する国際標準を所掌する。本分科委員会は、投票権を持つPメンバー15か国(中国、フランス、ドイツ、イタリア、日本、韓国、オランダ、ノルウェー、ロシア、南アフリカ、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、米国)、及び投票権を持たないOメンバー15か国・地域(オーストリア、ベラルーシ、ベルギー、チェコ、デンマーク、フィンランド、香港、ハンガリー、リトアニア、モンゴル、ポルトガル、ルーマニア、サウジアラビア、セルビア、スロバキア)から構成される。(2018年10月現在)4)

注4 第307専門委員会。Blockchain and distributed ledger technologies (ブロックチェーンと分散型台帳技術)を所掌する。

参考文献

1) 苑田義明、 「ISO 8000:データ・クオリティの国際標準化~Society5.0ビジョン実現に向けて〜」、NISTEP講演会(2018年7月)

2) 内閣府 「第5期科学技術基本計画」(平成28年1月22日閣議決定);
http://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/5honbun.pdf

3) 内閣府 「統合イノベーション戦略」(平成30年6月15日閣議決定);
http://www8.cao.go.jp/cstp/tougosenryaku/tougo_honbun.pdf

4) ISO(国際標準化機構)ホームページ; https://www.iso.org/committee/54158.html?view=participation

5) 米ECCMA “ISO 8000 Master Data Quality Manager”制度;https://eccma.org/certification/

6) Timothy M. King、 「ISO 8000」、 ISO 8000(データ品質規格群)セミナー(2018年5月、東京)

7) 科学技術・学術政策研究所;「第 10 回科学技術予測調査 国際的視点からのシナリオプランニング」,NISTEP REPORT No.164(2015 年 9 月): http://hdl.handle.net/11035/3079

8) 蒲生秀典、「新たな価値創造“サービスエクセレンス”の国際標準化-ものづくりサービス化の観点から-」; 文部科学省 科学技術・学術政策研究所STI Horizon 2018. Vol.4 No.1:http://doi.org/10.15108/stih.00119

9) 実施報告 SDGs(Society5.0):国際コンセンサスへのアプローチ 2018年3月30日 標準化タスクフォース:
http://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/society5_0/3kai/siryo2.pdf