STI Hz Vol.4, No.2, Part.3:(ほらいずん)日本脳科学関連学会連合協賛NISTEP専門家ワークショップ~脳科学研究の推進に向けた革新的な計測技術とAI等による解析法~開催報告(速報)STI Horizon

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  • DOI: http://doi.org/10.15108/stih.00126
  • 公開日: 2018.05.25
  • 著者: 重茂 浩美
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.4, No.2
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

ほらいずん
日本脳科学関連学会連合協賛
NISTEP専門家ワークショップ
~脳科学研究の推進に向けた革新的な計測技術と
AI等による解析法~開催報告(速報)

科学技術予測センター 上席研究官 重茂 浩美

概 要

科学技術予測センターでは、科学技術予測調査を補完する目的で、これまで理工系や医学系の学協会等と連携してケーススタディを実施し、日本の目指す未来像の実現に有用な科学技術・システムについて各専門分野・領域の観点で調査してきた。本稿では、その調査研究の一環として、2018年3月29日に日本脳科学関連学会連合の協賛により開催した専門家ワークショップの概要を紹介する。

キーワード:脳科学,計測技術,人工知能(AI)

1. 日本の目指す社会像と脳科学、人工知能(AI)、ビックデータ解析との関係

超高齢社会を迎えた我が国では、健康寿命の延伸が大きな課題となっている。科学技術予測センターが第 11回科学技術予測調査1)の一環として開催したビジョンワークショップにおいても、日本の目指す未来像の一つとして「Humanity変わりゆく生き方」が取り上げられ、その中の一つに安心・満足・健康社会が描き出された2)

上記社会の実現に向けて科学技術・イノベーション戦略を検討する上では、特に健康・医療・介護分野における研究開発とその成果の社会適用が求められるところであり、その中でも脳科学は主要な研究領域の一つとして位置づけられる。その理由の一つに、脳科学の対象である精神・神経疾患は、疾病による社会負担の大きさの指標である障害調整生命年(disability adjusted life years, DALY)で最も高いことが挙げられる(2009年に発表された世界保健機構(WHO)の統計より)。具体的な例では、認知症やうつ病等はがんと異なり死因としては現れにくいが、日常生活や労働の質の大幅な低下をもたらしており、健康社会への負のインパクトが高い疾患である。加えて脳科学は、健康・医療・介護分野はもとより、教育・訓練、事業戦略まで出口が広く、多様な社会貢献が可能であることから大きな期待が寄せられていることも、重要視される理由となっている。更に近年では、米国のBRAIN Initiativeや欧州のHuman Brain Projectなど、世界的に大型の脳科学プロジェクトが実施されており、国際的なイニシアティブ(International Brain Initiative)も発足している。我が国でも、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(以下、AMED)が9つの統合プロジェクトの一つとして「脳とこころの健康大国実現プロジェクト」を推進しており、脳科学は重要な位置づけであると言える。

近年の計測技術や情報処理技術の進展を見据えて、上記の世界的な脳科学プロジェクトでは、脳情報の読み出しや制御に関する革新的な技術の開発とともに、脳の理論や計算機科学を活用した融合型研究が推進されている。我が国でも、AMEDが2018年度に開始する「戦略的国際脳科学研究推進プログラム」において「人工知能(以下、AI)研究との連携によるニューロフィードバック等の技術開発とその応用等」 に関する研究開発課題が公募された3)。我が国の科学技術・イノベーション政策の柱となる第5期科学技術基本計画に目を向けても、Society5.0の実現に向けて、プラットフォーム構築のためにAIやビックデータ解析技術等(以下、AI等解析技術)を強化することを目指しており、脳科学との連携・融合により次世代AIの開発が推進されている。総じて、日本の目指す社会の実現に向けて脳科学やAI等解析技術が大きく貢献すると期待されている。

2. ワークショップの概要

2-1 日本脳科学関連学会連合との連携

当センターでは、科学技術予測調査を補完する目的で、これまで理工系や医学系の学協会等と連携してケーススタディを実施し、日本の目指す未来像の実現に有用な科学技術・システムについて各専門分野・領域の観点で調査してきた。脳科学に関しては、うつ病を事例とした調査実績がある4)。こうした調査研究の一環として、上記の科学技術・イノベーション戦略の動向を踏まえ、2018年3月29日に日本脳科学関連学会連合の協賛にてワークショップを開催し、脳科学研究の推進に向けたAI等解析技術に関する研究開発の方向性を議論した(以下、NISTEP専門家ワークショップ)。日本脳科学関連学会連合は、我が国の脳科学関連学会を代表する組織であり(2018年4月時点で27学会が加盟)、2012年の設立から脳科学の発展と普及を通して社会に貢献することを目的に活動している5)

2-2 ワークショップの流れ

ワークショップに先立ち、樋口輝彦 座長(国立精神・神経医療研究センター・名誉理事長)と松田哲也 副座長(玉川大学脳科学研究所・教授)と共に、1.に記した日米欧の脳科学プロジェクトの動向や文部科学省がとりまとめた「国際連携を見据えた戦略的脳科学研究の推進方策について−中間とりまとめ−」6)等の情報を整理・分析し、以下の主要な4つの研究開発領域を設定した。①トランスレーショナル・臨床研究、②モデル動物を使った種間比較研究、③全脳イメージング技術開発、④脳科学との融合・横断研究、AI関連研究。次に、これら研究開発領域に対応する12人の専門家を選出した。

ワークショップでは、図表1に示すように、上記4つの研究開発領域に対応する12人の専門家から、各領域の動向について説明いただいた。質疑応答の後、日本脳科学関連学会連合から推薦された専門家15人を交えて全体討論を行った。全体討論では、内閣官房健康・医療戦略室、文部科学省研究振興局ライフサイエンス課、AMEDからの参加者も加わり、研究開発の現状と課題や今後推進すべき内容と、基盤整備の在り方について議論された。

図表1 専門家による脳科学とAI等解析技術に関する4つの研究開発領域の動向説明図表1 専門家による脳科学とAI等解析技術に関する4つの研究開発領域の動向説明

図表2 NISTEP専門家ワークショップの様子図表2 NISTEP専門家ワークショップの様子

2-3 ワークショップにおいて議論された課題の例

12人の専門家からの動向説明と質疑応答、全体討論の内容は多岐にわたったが、本稿では、AMEDの菱山豊理事より提起され、全体討論にて活発に議論された研究開発・基盤整備に関する課題について以下に列記する。

  • 脳科学研究と精神・神経疾患研究との融合;臨床と基礎研究の連携強化による精神・神経疾患の克服
  • ライフステージに対応した精神・神経疾患研究;周産期から小児期、思春期、成人期、高齢期に至るまでの縦断的脳回路変化の解析など
  • 脳科学研究のブレークスルーをもたらす計測・解析技術開発;全脳・全細胞レベルの計測・解析技術
  • 多様なdisciplineによる融合研究;脳科学研究とAI、情報科学、エンジニアリング等の融合
  • 産学の連携強化による創薬、医療機器・研究機器開発の促進
  • リバーストランスレーショナル・リサーチの推進;ヒトの試料やデータの分析結果を動物実験へフィードバック
  • データシェアリングの推進;脳科学研究で特有の課題等を念頭に置いたデータシェアリングポリシーの策定、データの相互活用技術の開発・実用化、研究コミュニティにおけるデータ共有意識の向上などが必要

3. 今後について

本稿では、NISTEP専門家ワークショップで得られた情報のごく一部を速報として紹介した。今後、座長と副座長、ワークショップに参加した専門家とともに情報分析を進め、改めてNISTEPより詳細を報告する予定である。

謝辞

NISTEP専門家ワークショップの開催に当たり、多大な御協力を頂きました樋口輝彦 座長、松田哲也 副座長、研究動向を御説明いただいた専門家の皆様、全体討論に加わっていただいた日本脳科学関連学会連合の専門家の皆様、内閣官房健康・医療戦略室、文部科学省研究振興局ライフサイエンス課、AMEDの皆様に深謝いたします。

参考文献

1) 赤池伸一.科学技術予測の半世紀と第11回科学技術予測調査に向けて.文部科学省 科学技術・学術政策研究所 STI Horizon. 2018. Vol.4 No.2 :http://doi.org/10.15108/stih.00130(2018年6月発行予定)

2) 矢野幸子. 2040年の科学技術と社会について考える~ビジョンワークショップ開催報告~. 文部科学省 科学技術・学術政策研究所 STI Horizon. 2018. Vol.4 No.2 :http://doi.org/10.15108/stih.00125

3) AMED、平成30年度「戦略的国際脳科学研究推進プログラム」に係る公募(一次公募)について:
https://www.amed.go.jp/koubo/01/04/0104B_00001.html

4) 重茂浩美、小笠原敦、ライフイノベーション領域の科学技術シナリオプランニングに向けたうつ病に関する研究会(開催結果)、 NISTEP NOTE(政策のための科学)No.16:http://data.nistep.go.jp/dspace/handle/11035/3107

5) 日本脳科学関連学会連合:http://www.brainscience-union.jp/

6) 文部科学省科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会/学術分科会 脳科学委員会 国際連携を見据えた戦略的脳科学研究推進に関する作業部会、「国際連携を見据えた戦略的脳科学研究の推進方策について−中間取りまとめ−」、平成29年8月1日