STI Hz Vol.4, No.1, Part.9:(ほらいずん)機能性表示食品制度を活用した食品の開発とその普及―産学官連携を事例として―STI Horizon

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  • DOI: http://doi.org/10.15108/stih.00120
  • 公開日: 2018.03.20
  • 著者: 宮ノ下 智史、重茂 浩美
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.4, No.1
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

ほらいずん
機能性表示食品制度を活用した食品の開発とその普及
―産学官連携を事例として―

科学技術予測センター 研修生 宮ノ下 智史、上席研究官 重茂 浩美

概 要

2015年に施行された機能性表示食品制度は、農林水産業・食品産業におけるイノベーション政策を推進する戦略の一つであり、同制度に基づく届出数は年々増加傾向にある。同制度が導入された背景には、農林水産業・食品産業の発展を通じた国民の健康増進や、産業競争力強化などの様々な期待が込められている。このような期待がある一方で、同制度に対しては研究開発・販売を行う側、消費者側の双方の視点において様々な課題が存在している。本稿においては、機能性表示食品制度の概要、機能性をもつ食品の開発に向けた国のプログラムの中から産学官連携による食品開発事例を取り上げ、同制度を活用した製品の開発・普及の今後の展開可能性について論じる。

キーワード:機能性表示食品,産学官連携,食品開発

1. 農林水産物・食品を取り巻く環境

我が国においては近年、国民の健康増進と産業競争力強化のための国家戦略として農林水産業に注目が集まっている。例えば2014年にスタートした「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の一つである「次世代農林水産業創造技術(アグリイノベーション創出)」では、次世代機能性農林水産物・食品の開発をキーワードとして、上記の目標に資する取組が行われている。

農林水産業分野でのイノベーション政策を推進する戦略の一つとして2015年にスタートしたのが機能性表示食品制度である。機能性表示食品は保健機能食品の一つに分類されており(図表1)、特定保健用食品にはない様々なメリットが存在している。例えば、特定保健用食品と比較してコストが低く抑えられること、届出までの期間が短期間で済むことである。同制度が導入されたことで、特定保健用食品制度を活用できなかった資金力の乏しい中小企業においても参入が比較的容易になることが期待されている。こうした背景から、国や地方自治体では様々な機能性表示食品の開発に向けたプロジェクトを展開しており、その多くが産学官連携を対象としている。同制度には国民の健康増進や、産業競争力強化など様々な期待がある一方で、消費者側の視点では、機能性表示食品に含まれる安全性・機能性を自主的に判断することが求められるといった課題も存在している。

本稿においては、機能性表示食品制度の概要、国のプログラムの中から産学官連携事例の一部を取り上げ、同制度を活用した製品の開発・普及の今後の展開について述べる。

図表1 機能性表示食品の位置づけ図表1 機能性表示食品の位置づけ

出典:資料1)を基に科学技術予測センターにて作成

2. 機能性表示食品制度について

2-1. 機能性表示食品制度の概要

機能性表示食品制度は、「安全性の確保」、「機能性表示を行うに当たって必要な科学的根拠の設定」、「適正な表示による消費者への情報提供」という概念に基づいている。

企業側には、管轄官庁である消費者庁に対して機能性表示食品を届け出る際に、安全性・機能性に関する科学的根拠の説明が課されている1)。機能性を評価する際に、科学的な根拠を説明する手法は二つある。第一の方法は、一定のルールに基づいた文献検索を行い、総合的に評価する研究レビュー(以下、システマティックレビュー)である。第二の方法は、最終製品を用いた臨床試験を行う方法である。機能性表示食品制度では前者の方法のみでも届出をすることが可能であり、特定保健用食品のような臨床試験が必ずしも必要ではないという特徴がある。また、研究開発期間の視点では事例によって差があるが、特定保健用食品の場合は研究開発開始から臨床試験、販売に至るまで数年単位の期間が必要である事例が多いことが報告されている2)。一方で、機能性表示食品に関しては、研究開発の期間は事例によって差があるのは特定保健用食品と同じであるが、販売の60日前までに消費者庁に届出をすれば良いため、販売に至るまでの期間の大幅な短縮が見込まれる。

消費者側の視点では、自主的かつ合理的な商品選択の機会の確保を促す制度であるため、機能性表示食品に記載された情報を基に、含有される安全性・機能性を自主的に判断することが求められる。

2-2. 機能性表示食品制度下の届出状況

機能性表示食品制度が施行された2015年以降、同制度に基づく届出数は2015年の時点で172件であり、2017年には525件と増加傾向にある(機能性表示食品制度届出データベース3))。機能性表示食品制度は前述のように臨床試験が必ずしも必要ではなく、届出までの期間が短くて済むことから中小企業においても機能性表示食品制度を活用する活動は広がっており、資本金1億円未満の届出者は全届出事業者の約46%を占めている(2017年3月現在4))。また、全国的にも浸透しており、47都道府県のうち、32都道府県の食品関連事業者が届出をしている。

機能性表示食品の食品区分について届出情報をみると、全1,241品目の内訳は加工食品(サプリメント形状)586品目、加工食品(その他)643品目であるが、生鮮食品は12品目にとどまっている(2018年1月現在)注1。また、上記の安全性・機能性評価方法については、全体の中で1,165品目が機能性関与成分に関するシステマティックレビューで機能性を評価していて、多くの事業者が臨床試験を行っていない3)

3. 産学官連携による機能性をもつ食品の開発事例

食品製造業においては中小企業の比率が高いことが知られており、企業が主導する機能性表示食品開発活動の中で新しいシーズを生み出す立場として大学・研究機関の役割が重要になる。機能性表示食品に関する情報を公開している機能性表示食品制度届出データベースにおいては、届出者名が公開されている。しかしながら、開発に関与した全ての組織の情報が必ずしも公開されていないため、産学官連携による取組の比率は明らかでない。本稿では、産学官連携の情報が報告されている大学や公的研究機関との連携によって開発された機能性をもつ食品に焦点を当てて事例を紹介する。なお、本稿で紹介するのは、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(以下、農研機構)が実施する「機能性をもつ農林水産物・食品開発プロジェクト」と文部科学省、経済産業省、農林水産省、総務省が連携して実施する「地域イノベーション戦略支援プログラム」に採択された地域の成果である注23

農研機構では、2012年度から2015年度にかけて、農産物に含まれる機能性に関する有効性の検証や栽培法の確立などを行う研究プロジェクトを実施した(「機能性をもつ農林水産物・食品開発プロジェクト」)。当該プロジェクトの成果の中には、実際に機能性表示食品として届出がなされ、市場に投入される製品が存在している(図表2)。

本稿で取り上げた成果をみると、幾つかの共通点があることが分かる。はじめに、産学官連携の基盤となる地域の特産品を用いた研究開発が行われていることが挙げられる。これは、機械工業をはじめとする他の産業にはない、地域の農林水産物を加工して製品化をする食品製造業の特徴であると言えるだろう。次に、農林水産物の生産管理法や生産プロセスを確立することで、品質などを均一化するより技術開発に特化したプロジェクトなどが挙げられる。最後に、基盤となる地域の該当地域の大学や研究機関にとどまらず、都道府県の枠を超えた連携も実現していること、企業や大学の規模も問わず連携ができていることもこれらのプロジェクトの特徴であると考えられる。最後に、農業や食品に関する研究を行う大学だけでなく、医科大学や大学の医学部などがプロジェクトの参画機関になっている事例が多いことも機能性をもつ食品の開発に関する産学官連携の特徴であるだろう。最近では、各地の医学系の大学や学部において食品の研究や臨床試験が行われている。例えば宮崎大学では、食の機能性解析拠点の構築に向けた食品臨床試験・臨床研究開発部門を医学部附属病院臨床研究支援センターの中に新設している。

一方で、製品化に成功したこれらの製品についても、販売の面では地域での販売やインターネットを通した通信販売が中心となっている。また、プロジェクトの成果の多くが、専門誌や関係団体での報道資料発表にとどまっているため、より全国的な知名度を向上させるための方策が必要である。その中でも、例えば農研機構では研修会の中で、βクリプトキサンチンの機能性研究の成果とそれを活用した消費拡大に向けたマーケティング活動の取組を紹介している5)

図表2 産学官連携による機能性をもつ食品の開発事例の概要と成果のまとめ図表2 産学官連携による機能性をもつ食品の開発事例の概要と成果のまとめ

出典:資料67)のデータ(2017年10月時点)を基に科学技術予測センターにて作成

4. 今後の展開可能性

機能性表示食品制度が導入されて以降、国や地方自治体が関与するプログラム以外にも、大学や公益財団などの組織が主体や窓口になって取組が各地で行われている。中小企業による届出もあることから、今後もこの動きは活発になると期待される。この成果として、大学側の視点では社会・市場ニーズを視野に入れた研究開発を行うことが見込まれる。また、企業や原材料を提供する農林水産業の側の視点では、比較的短期間で届出に結び付くこと、流通・小売業者などといった関連業種からの参入の例もあることから産業振興・構造の変化につながると期待されている。

上記の期待がある一方で、研究開発・販売を行う側、消費者側の双方の視点において幾つかの課題が存在している。はじめに、機能性表示食品の研究開発・販売を行う側の視点での課題をあげる。この立場での課題は、食生活の中での人に対する有効性、安全性に関するエビデンスが不足していること、各省庁や大学、企業等では機能性成分の特徴の解明に向けた取組が行われているものの、連携が不足していること、研究成果を速やかに産業で活用するためには、企業と大学や独立行政法人が研究段階から連携体制を構築する必要があることが指摘されている8)

また、製品としてどのように提供するかという視点では、機能性表示食品の販売までは至るものの、一部の食品を除いては売上げには結び付いていないという点が課題である。この原因としては、多くの食品は生産・販売を行う地域を除いては認知度も低く、機能性表示食品制度の恩恵を受けられていないと考えられる。食品市場では、消費者の意思決定は、価格や企業イメージ、パッケージ、味をはじめとして様々な要素を総合的に判断する傾向にある。機能性表示食品制度はその表示を掲げるだけで製品が売れるものではなく、科学的根拠の範囲内で、いかに分かりやすくその製品の良い点を伝え、販路拡大、広告宣伝をするかが重要となってくる。

次に、消費者側の視点でみると、機能性表示食品制度に対する誤解がある点が課題である。一部の消費者の間では、特定保健用食品制度と同様の制度であるという誤解が生まれている。具体的には、特定保健用食品としての認可を得るには、「特定保健用食品として販売するためには、製品ごとに食品の有効性や安全性について審査を受け、表示について国の許可を受ける必要があります。」10)とされているが、機能性表示食品制度においては、このプロセスは必要がない。今後は、機能性表示食品制度について消費者の理解を得るための(けい)(もう)・普及の取組が必要であると考えられる。

最近では、機能性表示食品がもつ機能に関する誇大な表記についての指摘をされた例もある。消費者の信頼を損ね、制度そのものへの不信感が募る事態になりかねない。機能性表示食品制度は消費者の自主的かつ合理的な商品選択の機会の確保を促す制度であるからこそ、届出を行う企業は安全性、機能性に関する誤解が生じない科学的根拠の表示とその普及に努める必要がある。適切な表記を基にした販売促進活動を行うことで、消費者の認知度や売上げが向上し、地域活性や制度活用の活発化につながることが期待される。

5. まとめ

機能性表示食品制度が開始されてから、同制度を活用する取組は徐々に拡大傾向にある。しかしながら、研究開発・販売を行う側、消費者側のいずれの視点においても課題が残っており、解決に向けた取組が必要である。内閣府総合科学技術・イノベーション会議の政策討議9)においても、バイオテクノロジーによるイノベーションが議題にされており、生活習慣病リスクの低減、健康寿命の延伸、農林水産物の高付加価値化による生産者所得の向上などを目指すべき経済社会像に掲げており、その実現に向けた食のヘルスケア産業の創出に向けた戦略が検討されている。機能性表示食品制度を活用した食品の開発は、その戦略に貢献すると期待される。

謝辞

本稿を執筆するに当たって、鷲見芳彦客員研究官には有益なコメント及びアドバイスを頂いた。ここに改めて御礼申し上げる。


注1 本稿においては、届出が取り下げられたものや変更が加えられたものも含んでいる。

注2 これらの中から取り上げたのは、「機能性をもつ農林水産物・食品開発プロジェクト」については、2017年3月に公表された研究成果集から抽出した。「地域イノベーション戦略支援プログラム」については、2015年の成果報告書の中から機能性食品に関する課題を抽出した。これらの中には本稿で取り上げた以外にも様々な事例の報告がある。

注3 これらの事例を対象とした理由は、事業を開始してから一定期間が経過しており、その成果を考慮しやすいためである。

注4 地域については、研究開発を主に実施した地域、若しくは機能性表示食品制度に対する届出を行った届出者が存在する地域である。

注5 届出日は、機能性表示食品として消費者庁に届出がなされた日である。なお、記述がない項目についても、届出が行われている可能性があることに注意する必要がある。

参考文献

1) 消費者庁.(2015).食品関連事業者の方へ「機能性表示食品」制度がはじまります!.
http://www.caa.go.jp/foods/pdf/150810_2.pdf

2) 一般財団法人 医療経済研究・社会保険福祉協会.(2009).「食品機能と健康」に関するアンケート報告書.

3) 消費者庁.機能性表示食品制度届出データベース. http://www.caa.go.jp/foods/index23.html

4) 湯田直樹.(2017).届出状況から読み解く機能性表示食品.健康・栄養食品研究, 16(1), 1-10.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhnfa/16/1/16_160101/_article/-char/ja

5) 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構.(2017).平成29年度 農研機構「カンキツ新技術・新品種研修」開催要領.http://www.naro.affrc.go.jp/event/list/2017/11/078132.html

6) 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構.機能性をもつ農林水産物・食品開発プロジェクト研究成果集. http://www.naro.affrc.go.jp/project/f_foodpro/files/results_collection.pdf

7) 文部科学省.平成27年度 地域イノベーション戦略支援プログラム(成果事例集).
http://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/chiiki/program/1375649.htm

8) 農林水産技術会議事務局.(2013).農林水産物と健康に関する研究開発について.
http://www.affrc.maff.go.jp/docs/kinousei_pro/pdf/senryaku.pdf

9) 内閣府.(2017).政策討議「バイオ戦略策定に向けて」 (バイオテクノロジーによるイノベーションを促進する上での課題及び戦略策定について). http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/20171012.html

10) 消費者庁.特定保健用食品とは(健康や栄養に関する表示の制度について).
http://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin86.pdf

上記全てのURLは2018年2月末日時点のもの