STI Hz Vol.4, No.1, Part.8:(ほらいずん)新たな価値創造“サービスエクセレンス”の国際標準化-ものづくりサービス化の観点から-STI Horizon

  • PDF:PDF版をダウンロード
  • DOI: http://doi.org/10.15108/stih.00119
  • 公開日: 2018.03.20
  • 著者: 蒲生 秀典
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.4, No.1
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

ほらいずん
新たな価値創造“サービスエクセレンス”の国際標準化
-ものづくりサービス化の観点から-

科学技術予測センター 特別研究員 蒲生 秀典

概 要

工業製品のコモディティ化によって、ものづくり産業の国際競争力低下が顕在化している。ものづくりには、サービスやICTとの高度融合による高付加価値化、あるいは超多様化社会に向けた新たな価値の創造が求められている。欧州では新たな価値として、基本的なサービス品質を超える“サービスエクセレンス”が提唱されており、2017年9月には国際標準化機構(ISO)において技術委員会(TC312)の設立が決定し、標準化の議論が開始される。そこでは、企業はもちろん、非営利団体、行政組織などサービスを提供する全ての組織に適用できる、より一般的・包括的なサービス標準の策定を目指している。従来、標準は「モノ」の規格が主体であったが、現在ではマネジメント分野・サービス分野にも拡張されるなど、広く合意形成の場と位置づけられ、社会をデザインする、あるいは社会を変える手段と捉えられるようになっている。サービス標準は、我が国における「製造業のサービス化」を進める上での基盤としても重要であり、標準化プロセスには幅広い業種の企業・研究機関・行政の積極的な参画が求められる。

キーワード:サービス,標準化,ISO,ものづくり,人間工学・人間情報学

1. はじめに

工業製品のコモディティ化によって、我が国のものづくり産業における国際競争力低下が顕在化している。科学技術・学術政策研究所(NISTEP)が実施した「第10回科学技術予測調査-国際的視点からのシナリオプランニング」1)では、我が国の産業の国際競争力を強化し、将来に向けて持続的な発展を実現していくための「ものづくり」の重要な方向性として、「個人や社会の多様なニーズへの対応」による、個人のQoL(Quality of Life : 生活の質)向上と、国内外で顕在化し得る社会課題解決への貢献を取り上げた。また、我が国のものづくり現場では、多様な市場ニーズに応えるために変種変量生産への生産方式の展開において改めて重要になる「人」について、各人が安心して、能力を発揮し、学び続けることで強固な産業基盤を築くためのしくみが検討されている2)。国際競争力を強化するために、今後ものづくりには、サービスやICTとの高度融合による高付加価値化、あるいは超多様化社会に向けた新たな価値の創造が求められている。

近年欧州では、新たな価値として基本的なサービス品質を超える“サービスエクセレンス”が提唱されており、2017年9月、国際標準化機構(ISO)に新たな技術委員会(TC312)の設立が決定した。これにより今後、国際標準化への議論が開始される3)。従来、標準は「モノ」の規格が主体であったが、現在ではマネジメント分野・サービス分野にも拡張されるなど、広く合意形成の場と位置づけられ、社会をデザインする、あるいは社会を変える手段と捉えられるようになっている。本稿では、サービスエクセレンスの概要と最近のサービス関連の標準化の動向について記す。

2. サービス標準化の動向~対象はモノからコト(サービス)へ45)

標準とは関係者(ステークホルダー)間の合意であり、一般的には、提供者(企業)、利用者(顧客)、中立者(有識者)からなる。関係者が互いに合意することで、利便性を増大させる、経済性を向上させる、あるいは、社会安全を実現することが目的である。ISOに代表される標準化は、はじめは製品(モノ)を対象として確立されたが、その後ISO9000(品質システム)やISO14000(環境システム)などのマネジメント分野にも発展してきた。近年、この標準の対象がサービスにも広がっている。例えば、シェアリングエコノミーの品質標準(ISO IWA27:2017)、高齢社会のケアサービス標準(ISO IWA18:2016)などが国際標準として議論され始めている。更に最近では、これまでのモノの人間中心設計を扱ってきたISO TC159(人間工学)において、より一般的・横断的で、持続的なサービス提供の基盤となる人間中心の組織設計(ISO 27500)が策定されており、対象がモノからサービスに移行しつつある。

サービスシステムは、人間が関わり、人間の多様性に対応することで高い価値を生み出す働きを持つ。現在、カナダ、米国、日本が中心となって、組織経営を人間中心にすることを基本理念としたISO DIS27501「The Human-Centred Organization -Guidance for managers」を策定中である。ISO27500シリーズでは、製品だけでなくサービスまでを含み、更に組織の活動についても顧客のみならず従業員と社会の全ての人まで対象にする。DIS27501では、企業マネジメント、従業員、顧客間の共創価値のバランスを考えるサービス・トライアングルが示され、三者間で共創される基本機能価値、知識価値、感情価値を明らかにし、管理することが、長期的なサービスの持続に重要であるとしている。

3. サービスエクセレンス:国際標準化の動向67)

2017年9月、ドイツがISOに提案したサービスエクセレンスの国際標準化のための技術委員会(TC312: Excellence in service)設立が決定した。2018年3月6日~7日に、第1回の総会がドイツ・ベルリンで開催される。参加メンバー(Pメンバー)は、ドイツ、オランダ、英国などの欧州各国の他、日本、韓国、中国など15か国、更にオブザーバー(Oメンバー)として、米国、カナダ、シンガポール、タイなど17か国が参加(2018年1月現在)注1、事務局をDIN(Deutsche Industrie Normen : ドイツ規格協会)が担当する3)

ドイツでは、2011年にDIN SPEC77224 「Achieving Customer Delight Through Service Excellence」というサービスに関する新しい理念に関して国内標準を整備した。これをベースに、2015年にはCEN(Comité Européen de Normalisation:欧州標準化委員会)において、ドイツやオランダなど欧州8か国が参加しTS16880 「Service excellence – Creating outstanding customer experiences through service excellence」が策定された。今回設立されたISO TC312では、このサービスエクセレンスの欧州標準が基となり、国際標準化が進められることになる。

CEN TS16880では、サービスエクセレンスを「優れた顧客体験を一貫して提供する組織の能力」と定義し、組織が日常的に優れた顧客体験を創出するために必要とされるすべての能力について、包括的かつ一般的に認められたモデルを提供することを目的としている。この文書の中に示されるサービスエクセレンス・ピラミッド(図表1)では、レベル1はISO9001などの既存品質管理標準で基本的なサービス品質を管理する能力、レベル2はISO10002などの顧客要求対応に関するサービス管理能力である。CEN TS16880では、基本サービスの提供だけでは持続的な顧客獲得は困難であるという理念の基に、それより上層のレベル3(Individual Service)、レベル4(Surprising Service)を管理する組織能力をサービスエクセレンスと位置付け、その国際標準化を目指している。レベル3では、顧客は思いやりのある個別の関心に対応したテーラーメイドサービスを受けることができ、高レベルの個人的ニーズが満たされて、大きな喜びを感じる。レベル4では、顧客は自身の期待や想定を超えるサービスを受けることができ、驚きと喜びの感情を得る。これらの優れた経験を日常的に提供するための鍵は、顧客に接する従業員のエンゲージメントであるとしている。

更にCEN TS16880では、優れた顧客体験と喜びを導くために、9の要素を提示している。図表2に示すように、「顧客の喜びの達成」を中心に据え、これをサービスエクセレンスの目標として掲げている。その周囲には、要素1として「優れた顧客体験の設計と更新」が示されている。これを①戦略、②文化、③イノベーション、④運用の4つの次元が囲み、各次元はそれぞれ2つの要素で構成される。①戦略では、サービス部門だけでなく組織全体のビジョン・ミッション・戦略として取り上げる必要性(要素2)と、顧客に対応する従業員の能力を引き出すリーダーシップと管理(要素3)をあげている。②文化では、従業員の教育・評価・フィードバック(要素4)や、組織における定義・伝達・実装について(要素5)示している。③イノベーションでは、顧客のニーズ、期待、欲求を理解すること(要素6)、組織がPDCAで業務を改善し、イノベーションを促進するための学習、文化、構造化プロセス(要素7)が必要としている。④運用では、プロセスと組織構造の管理(要素8)、パフォーマンスインジケータや測定ツールを活用した、活動と結果の監視(要素9)をあげている。

今後ISOにおいて国際標準化を進める技術委員会(TC312)では、サービスエクセレンスを実現するためのガイドとなる共通文書の開発を目指す。それは、既存の個別組織の基本的な顧客サービスに適用するものではなく、企業、非営利団体、行政組織などサービスを提供する全ての組織に適用できるものとする。国際標準化のインパクトとして、技術委員会は、サービスエクセレンスの概念の共通理解と、世界的に合意された技術仕様が得られ、そのコンセプトを活用するより多くの組織が全世界的に広がるとしている。ドイツでは自動車・航空・ホテル・電気通信・IT・認証機関などの企業・団体の参加を得て、2018年1月にTC312に対応するための国内コミッティを立ち上げ、深掘りのための議論を開始している。

図表1 サービスエクセレンス ピラミッド (CEN TS16880)図表1 サービスエクセレンス ピラミッド (CEN TS16880)

出典:参考文献6)

図表2 サービスエクセレンス モデル (CEN TS16880)図表2 サービスエクセレンス モデル (CEN TS16880)

出典:参考文献6)

4. 日本におけるサービス標準化の現状と今後の展望

日本では、日本規格協会、日本品質管理学会、サービス学会や経済団体連合会などのメンバーからなるサービス標準化委員会が組織され、上記のサービスエクセレンス標準を含む、様々なサービス国際標準への対応戦略や、これらに対応した国内フォーラム標準の検討を進めている。ドイツや英国は、まず国内で議論した標準をCEN やISO に提案し、国際的な合意を取り付けることで国際標準化のイニシアチブをとっている。一方、我が国に目を向けると現行の日本工業規格(JIS)では、対象が製品か建造物に限定されており、サービスは標準の対象外である。この点については2017年に産業構造審議会の下部委員会で議論され、国際的な製造業のサービス化の流れに国内産業が立ち後れないために、学会や産業界が横断的に議論する国内合意の場の必要性について提言がなされている8)。また、従来は研究開発、標準化、規制引用、認証体制の整備が順次進むのが通例であったが、近年は世界の潮流として、それぞれが同時進行で開発されるようになっており、研究開発段階から標準化や認証までを一体的に進める体制作りも急ぐ必要がある45)

サービスエクセレンスなどサービスの標準化はその対象がより一般的・包括的となり、新たな社会システム構築にも関わりを持つようになっている。したがって標準化プロセスには幅広い業種の企業・研究機関・行政の積極的な参加が求められる。また、日本ではGDPの7割超を占める製造業のサービス化を進めるための基盤としても注目される。今あるモノ・技術を利用したサービスにとどまらず、科学技術の進展を注視し、将来技術を先駆的に活用したサービスの開発も、特に日本の強みである製品(モノ)を基点とした製品・サービスの国際競争力の強化の観点から重要となる。更に事業の国際展開では、現地でのサービス品質の保証注2は課題である。物流や福祉をはじめとして、今後アジアなどで発展途上国への展開が期待される分野では、既に一部の業種において標準化の議論が進んでいるが、他のサービス分野・業種でも国際展開を行う上でサービス品質の保証が不可欠となってきている。この点について、標準化の観点からはサービス品質の定量化が重要となる。ここでは人間工学や人間情報学における研究、キッズデザインのガイドライン策定事例9)など、これまで日本で先進的に取り組んできた計測技術、データ解析、計算科学などの研究開発成果の活用が期待される。

謝辞

本稿の執筆に当たり、国立研究開発法人産業技術総合研究所人間情報研究部門 持丸正明研究部門長、竹中毅グループ長、山本吉伸主任研究員に貴重な御意見を頂きました。ここに感謝の意を表します。


注1 Pメンバー(15か国):バルバドス、ベルギー、中国、コロンビア、フィンランド、フランス、ドイツ、インド、アイルランド、日本、韓国、オランダ、サウジアラビア、スウェーデン、英国
  Oメンバー(17か国):ブルガリア、カナダ、キプロス、チェコ共和国、エジプト、ハンガリー、イラン、イスラエル、マレーシア、ノルウェー、シンガポール、スロバキア、南アフリカ、スペイン、スイス、タイ、米国

注2 例えば、日本の「旅館」サービスを国外で展開する場合、国外でも特定の範囲では日本国内同等のサービスを受けられるなど。

参考文献

1) 科学技術・学術政策研究所;「第10回科学技術予測調査 国際的視点からのシナリオプランニング」,NISTEP REPORT No.164 (2015年9月): http://data.nistep.go.jp/dspace/handle/11035/3079

2) 岩井匡代、「100年ライフ時代の人が主役となる新たなものづくり~労働価値の変換と経済成長に向けて~」、Symposium on Human Informatics ~超多様化社会に向けた標準・認証・制度つくり:モノ中心から人間中心への動き~、つくば (2017.9.26)

3) ISO TC312 Excellence in service : https://www.iso.org/committee/6721315.html

4) 持丸正明、「超多様化社会に応える人間中心思想をモノからサービスへ、そして組織経営へ」、Symposium on Human Informatics ~超多様化社会に向けた標準・認証・制度つくり:モノ中心から人間中心への動き~、つくば (2017.9.26)

5) 持丸正明、戸谷圭子、「サービスの国際標準化動向」、サービソロジー、4、40 (2017)

6) Daniel Rickert、「Service Standardization – from basics to Service Excellence」、第2回サービス標準化フォーラム サービスエクセレンスの実現-共創を取り入れた標準化-、東京 (2017.11.1

7) Jean-Pierre Thomassen & Eric de Haan; “How to create a service excellence organization”, White paper about the European service excellence model and the European technical specification CEN/TS 16880 (2016)

8) 産業構造審議会 産業技術環境分科会 基準認証小委員会今後の基準認証の在り方-ルール形成を通じたグローバル市場の獲得に向けて-答申(平成29年10月11日):
http://www.meti.go.jp/report/whitepaper/data/pdf/20171011001_1.pdf

9) 杉山智康、「キッズデザインガイドラインと認証の取り組み」、Symposium on Human Informatics ~超多様化社会に向けた標準・認証・制度つくり:モノ中心から人間中心への動き~、つくば (2017.9.26)