STI Hz Vol.4, No.1, Part.2: (ほらいずん)オープンサイエンスへの取組にみるOECD グローバル・サイエンス・フォーラム(GSF)の新潮流:松原 政策分析官インタビューSTI Horizon

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  • DOI: http://doi.org/10.15108/stih.00113
  • 公開日: 2018.02.26
  • 著者: 林 和弘
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.4, No.1
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

ほらいずん
オープンサイエンスへの取組にみるOECDグローバル・
サイエンス・フォーラム(GSF)の新潮流:
松原 政策分析官インタビュー

聞き手:科学技術予測センター 上席研究官 林 和弘

概 要

情報通信技術(ICT)によるデジタル化の進展は、ビジネスの在り方や人々の生活に大きな変化をもたらそうとしている。サイエンス(科学研究)もその例外ではなく、デジタル化に伴うサイエンスの在り方の変化について、世界中の専門家が「オープンサイエンス」をキーワードとして、議論を行っている。

本記事では、2016年1月から、文部科学省よりOECDグローバル・サイエンス・フォーラム事務局に派遣されている松原政策分析官に、オープンサイエンスを巡るOECDの動向について、話を伺った。(文中の組織名や肩書は2018年1月現在のもの)

キーワード:OECD/GSF,オープンサイエンス,オープンデータ,研究データリポジトリ,研究データネットワーク

松原 太郎 OECD/GSF 政策分析官

松原 太郎 OECD/GSF 政策分析官

― オープンサイエンスに関するこれまでのOECDの取組について教えてください。

経済協力開発機構(OECD)では、科学技術政策委員会(CSTP)や、その下に設置されたグローバル・サイエンス・フォーラム(GSF)において、世界的に共通する課題の解決という観点から、オープンサイエンスに関する議論が続けられてきました。2007年には、「公的投資によって得られた研究データへのアクセスに対するOECDの原則とガイドライン」1)が公開され、この「原則とガイドライン」に基づき、OECD加盟国は、研究データの公開(オープン化)を進めてきました。

近年の急速な技術の進展に伴い、デジタルがサイエンスに与える影響力の大きさが改めて認識されるようになりました。2015年には、CSTPにおいて、「オープンサイエンスの実現」2)と題する報告書が公表されました。この報告書では、オープンサイエンスを、「公的投資によって得られた研究成果を、最低限の制限で、デジタルフォーマットによって、一般にアクセスできるようにする研究者、政府、研究ファンディング機関及び科学コミュニティの取組」と定義されています。研究データ及び論文の公開、協力の促進が主要なテーマとされていますが、ピア・レビュー、ソフトウェア、シティズン・サイエンス、クラウドファンディングなども、オープンサイエンスを構成する要素として挙げられています。

さらに、2015年10月に韓国で開催されたOECD/CSTP閣僚級会合で「グローバル及びデジタル時代に向けた科学技術イノベーション政策に関するテジョン宣言」3)が採択されました。「テジョン宣言」では、「デジタル技術の急速な発展が科学技術イノベーションを革新しつつあり、科学者の働き方や、協力、出版の在り方を変え、科学データや出版物へのアクセスの機会を高めつつある」ことに合意し、OECDにおいて、オープンサイエンスに向けた政策形成を促すこととされました。

― このような動きを踏まえ、GSFでは、どのような取組が行われているのでしょうか。

GSFの中心的なテーマの一つとして、オープンサイエンスの促進に向けた取組を積極的に進めています。「テジョン宣言」の翌月、2015年11月の第33回GSF会合で、オープンサイエンスに関する二つのテーマが採択されました。二つのテーマとも、国際的に共通した課題を扱っており、切り口は異なりますが、相互に関連したテーマです。また、これまでの国際的な議論をフォローしつつ、より多くのステークホルダー(利害関係者)の参画を得るため、オープンサイエンスを推進している国際的な機関と共同でプロジェクトを進めてきたことも共通しています。

一つ目のテーマは、個別のデータ・インフラの持続可能性に焦点を当てた「データ・リポジトリのための持続可能なビジネスモデル」です。国際科学会議(ICSU)の下に設置された科学技術データ委員会(CODATA)4)が中心となって提案された、GSFとCODATAの共同プロジェクトです。本プロジェクトでは、研究データ同盟(RDA)5)及び世界科学データシステム(WDS)6)の先行研究7)を踏まえつつ、データ・リポジトリへの(公的)投資に対する現状、新たな収入源の可能性、コストの最適化や、様々なステークホルダーにとって望ましいビジネスモデルなどを中心に、専門家会合で議論が行われました。日本からは、林和弘上席研究官(科学技術・学術政策研究所(NISTEP))が専門家会合に参画し、議論や調査に貢献しています。

二つ目のテーマは、データ・インフラの国際的な協調や相互運用性(interoperability)、ネットワークに焦点を当てた「オープンサイエンスに向けたデータ・インフラの国際的協調」です。GSFとWDSの共同プロジェクトとして進められました。国際的なデータ・ネットワークが立ち上げられる一方、研究データが十分に共有されず、異なる国や学問領域の間で、データに相互運用性が欠けている例が散見されます。このような認識の下、専門家会合では、ネットワークの必要性、相互運用性、国際的な枠組み、ガバナンス、持続可能性を中心に、議論が行われました。日本からは、村山泰啓研究統括(情報通信研究機構(NICT))が専門家会合に参画し、議論や調査に貢献しています。

ビジネスモデルのテーマでは、専門家会合に加えて、多様なステークホルダーの視点を取り入れるため、ワークショップを2回開催しました。第1回ワークショップは、2016年11月にパリで開催され、データ・リポジトリの関係者を中心に、「収入源とコスト最適化」について議論されました。2017年3月、ベルギーにある欧州委員会(EC)本部で開催された第2回ワークショップは、各国の政府やファンディング機関、出版社などから、50名以上が参加し、新たなビジネスモデルや収入源の可能性について、具体的な取組の紹介、経済的な分析、政策的な示唆について議論されました。もう一つのテーマである国際的協調についても、上記ビジネスモデルの2回目のワークショップと連続して、EC本部でワークショップが開催されました。国際的協調のワークショップでは、欧州オープンサイエンスクラウドや国際的なデータ・ネットワークでの取組の紹介があり、ネットワーク化に向けた課題、ガバナンス、持続可能性などについて議論されました。

専門家会合やワークショップでの議論、ケーススタディ調査・インタビュー(ビジネスモデルは48のリポジトリ、国際的協調は32のネットワークを対象に実施)及び分析を踏まえ、2017年12月、以下の二つの報告書が取りまとめられました。

(1)持続可能な研究データ・リポジトリのためのビジネスモデル8)

本報告書では、研究データ・リポジトリを構成する六つの要素(図表1参照)が抽出されるとともに、七つの主要なファンディング・ソースのSWOT分析、五つの革新的なビジネスモデル及び三つのコスト最適化アプローチを掘り下げています。政策提言は以下の五つです。

  1. 全てのステークホルダーは、研究データ・リポジトリが、オープンサイエンスのインフラとして不可欠であることを認識すべきである。
  2. 全ての研究データ・リポジトリは、明確なビジネスモデルを持つべきである。
  3. 政策決定者、研究ファンディング機関及び他のステークホルダーは、データ・リポジトリに、どのように投資すべきか、また、異なった環境下における様々なビジネスモデルの利点と欠点について検討すべきである。
  4. 研究データ・リポジトリは、政策的規制及び(ファンディングを含めた)インセンティブによって、誘導され、調整されるべきである。
  5. 財務的な持続可能性の観点から、長期にわたって、デジタル資産を効果的に運営するために、コスト最適化の機会が追求されるべきである。

図表1 研究データ・リポジトリのビジネスモデルの要素図表1 研究データ・リポジトリのビジネスモデルの要素

出典:OECD (2017a)を基に科学技術予測センターで和訳
(2)国際的な研究データ・ネットワークの協調と支援9)

二つ目の報告書では、国際的な研究データ・ネットワークの構造の多様性や複雑性、相互運用性の確保、異なる国や文化にまたがるオープン化、ファンディングや持続可能性について、定性的な分析による結果が示されました。ネットワークの持続可能性の議論は、一つ目の報告書に関連しています。政策提言は以下の八つです。

  1. 責任を有する各国当局が特定され、その当局は、オープンデータに対する共通の定義とその合意に向けて取り組むべきである。
  2. 政府は、異なる公的研究データの共有に向け、法的・倫理的枠組みに共同で合意し、その実施に向けて、取り組む必要がある。
  3. 全てのステークホルダーは、国際的な研究データ・ネットワークが、オープンサイエンスのためのインフラ全体の中で、決定的な重要性を持つことを認識する必要がある。
  4. 責任を有する各国及び国際当局は、研究インフラのための長期的な戦略計画及び支援プロセスに、データ・ネットワークを含めなければならない。
  5. 国際的なデータ・ネットワークの設立、発展、運用及び支援をするに当たり、「組織的な」側面を考慮すべきである。
  6. ファンディング機関及びホスト機関は、国際的に調整されたデータ・ネットワークを、長期的な戦略投資ととらえ、支援し、適切に関与すべきである。
  7. ネットワークは、異なったステークホルダーに提供する価値や成功の基準を含め、明確なビジネスモデルを持つべきであり、これらの基準は、定期的に測定されるべきである。
  8. ファンディング機関は、データ・ネットワークの長期的に果たすべき役割、支援及び調整の改善に向けた国際的な議論やフォーラムに積極的に参加すべきである。

― 上記の取組に加え、CSTPやGSFで、どのような取組が行われているのでしょうか。

OECD全体としても、デジタル化は重要な課題であり、2017年1月に、「デジタル化に向けて:成長と福祉のための変革に向けた取組の実現」10)という組織横断プロジェクトを立ち上げました。CSTPでは、2015年10月の「テジョン宣言」に加え、OECD全体の動きを踏まえ、「科学イノベーション政策及びガバナンスのデジタル化(DSIP)」プロジェクトを2017年に立ち上げました。また、イノベーション技術政策作業部会(TIP)の「デジタル・イノベーション」プロジェクトや、2016年9月に開催された「OECDブルースカイ・フォーラム」の議論を踏まえた、科学技術指標専門家作業部会(NESTI)でのデジタル化に対応した取組など、CSTPの下にある各作業部会においても、デジタル化に関する取組が行われています。

また、CSTPは、2016年10月、「オープンサイエンス、オープンイノベーション及び科学技術イノベーションのデジタル化」に関するワークショップを開催しています。同ワークショップでは、デジタル化がもたらす科学の変革、データや出版物へのアクセス、新たに必要とされるスキルなど、オープンサイエンスに向けた全体の枠組みの発展について議論されました。さらに、2017年6月、韓国と共同でオープンサイエンスに関するワークショップを開催し、「オープンな研究アジェンダ設定」及び「研究インフラへのアクセスに向けたデジタル・プラットフォーム」について議論されました。日本からは、林和弘上席研究官(NISTEP)及び村山泰啓研究統括(NICT)に、日本の取組を紹介いただくとともに、パネルディスカッションに参加いただいています。これらの取組と並行して、ケース調査も行われました。その成果は、「オープン及びインクルーシブ(包括的)サイエンス」に関するGSF-CSTP共同プロジェクト(さらに、韓国科学技術政策研究院(STEPI)との共同プロジェクト)の二つのレポート11)として、2017年12月に取りまとめられました。

(1)オープンな研究アジェンダ設定12)

科学プロセスへの市民参加が、オープンサイエンスにおける重要な政策テーマになっていることから、第1段階である研究アジェンダの共同設定について、七つのケースを分析しています。市民が参加することにより、従来の研究アジェンダ設定のやり方を補完するとともに、新規発想や相互理解の向上などの利点が挙げられています。一方、市民参加が成功するためには、目的や方法、責任の明確化が必要であり、デジタルツールと人的交流の両方が重要であるとされています。日本からは、社会技術研究開発センター(JST/RISTEX)のケースが採用されています。

(2)研究インフラへのアクセスを促進するためのデジタル・プラットフォーム13)

研究インフラへのアクセスのオープン化を進めるためには、既存の研究インフラの情報を収集、分析、発信するデジタル・プラットフォーム(メタデータ・カタログと関連サービス)が必要です。報告書では、八つの異なるデジタル・研究インフラ・プラットフォームのケースを分析し、現状の正確な分析の必要性や目的の明確化など、プラットフォームの発展に必要な要素を抽出しています。

GSFでは、「持続可能な研究データ・リポジトリのためのビジネスモデル」と「国際的な研究データ・ネットワークの協調と支援」の二つのプロジェクトが終了し、オープンサイエンスに関する新たなテーマの検討を開始しました。2017年10月、オープンデータに関するワークショップを開催し、(1)研究インフラから発生するビッグデータのマネジメントとアクセス・ポリシー、及び(2)デジタル化によって必要とされる科学者のスキルについて議論されました。一つ目のテーマでは、増大するデータの共有、資源制約下でのデータの管理、データの活用に向けたメタデータの必要性、二つ目のテーマでは、データ・サイエンティストの労働市場の整備、それぞれの分野や組織で必要とされるスキルなどについて発言がありました。2018年3月に、CSTPとGSFが共同で「科学技術イノベーションの公的データへのアクセス拡大に向けた原則」に関するワークショップを開催するとともに、4月には、GSFとNESTIが共同で「オープンサイエンスの促進と測定」に関するワークショップを開催する予定です。

CSTPでは、これまで進められてきたデジタル化に関する様々な取組について、2018年後半に公表予定の「STI Outlook 2018」において、その成果を取りまとめるとともに、「CSTP総合レポート」作成に向けた動きもあります。GSFでのオープンサイエンスに関する取組についても、CSTPの成果に反映される予定です。

― 最後に、何か伝えたいことはありますか。

「デジタル化が科学研究にどのような影響を与えるのか」という問いに対し、科学コミュニティのレベルから、ECなどのリージョナルなレベル、そして、グローバルなレベルで、大学関係者だけではなく、政府関係者やファンディング機関、学協会や出版業界なども巻き込んで、活発な議論が行われています。オープンサイエンスは、デジタル化の進展や科学研究に対する考え方によって、その影響も変わりうるため、確固たる回答はありません。

オープンサイエンスに関する海外の動向をフォローすることも大切ですが、日本の科学研究の置かれた環境や競争優位性を踏まえたオープンサイエンスの在り方を、日本の関係者が自ら作り上げていく必要があります。デジタル化の進展を踏まえ、2016年1月に閣議決定された「第5期科学技術基本計画」14)において、Society 5.0(「超スマート社会」の実現)が打ち出され、政府が一丸となってその取組が進められています。オープンサイエンスについても、国内の様々な関係者が一体となって、主体的に明日の科学研究を切り拓く議論が進められていくことを期待しています。

最後に、OECDで勤務する大変貴重な機会を与えていただいた文部科学省、及び、岩瀬公一GSFビューロメンバー(副議長)をはじめ、GSFの活動を支えていただいている日本の関係者の皆様方に心から感謝の気持ちを申し上げます。

※なお、インタビューでの内容は、個人としての見解であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。

参考文献

1) OECD(2007),OECD Principles and Guidelines for Access to Research Data from Public Funding, OECD Publishing, Paris, https://www.oecd.org/sti/sci-tech/38500813.pdf

2) OECD(2015),“Making Open Science a Reality”,OECD Science, Technology and Industry Policy Papers, No. 25, OECD Publishing, Paris, http://dx.doi.org/10.1787/5jrs2f963zs1-en

3) Daejeon Declaration on Science, Technology, and Innovation Policies for the Global and Digital Age:
http://www.oecd.org/sti/daejeon-declaration-2015.htm

4) CODATA(Committee on Data for Science and Technology)は、科学技術分野のデータの品質・信頼性・管理・利活用等の向上・改善を目的として、1966年にICSUの下に設置された分野横断型の国際委員会。日本からは、日本学術会議が加盟。http://www.codata.org/

5) RDA(Research Data Alliance)は、世界中の専門家が、円滑なデータ共有に向けた課題を検討するため、2013年に創設された国際的な会合。2016年3月、第7回総会を日本で開催。https://www.rd-alliance.org/

6) WDS(World Data System)は、高品質な科学データやデータサービス等の長期的な管理を目的として、2008年にICSUの下に設置された分野横断型の組織。https://www.icsu-wds.org/

7) RDA-WDS Working Group on Cost Recovery for Data Centres, “Income Streams for Data Repositories”: https://doi.org/10.5281/zenodo.46693

8) OECD(2017 a),“Business models for sustainable research data repositories”,OECD Science, Technology and Industry Policy Papers, No. 47, OECD Publishing, Paris, http://dx.doi.org/10.1787/302b12bb-en

9) OECD(2017 b),“Co-ordination and support of international research data networks”,OECD Science, Technology and Industry Policy Papers, No. 51, OECD Publishing, Paris,
http://dx.doi.org/10.1787/e92fa89e-en

10) Going Digital: Making the Transformation Work for Growth and Well-being(Going Digital project)

11) 「オープンかつ包括的な科学協力の枠組み」についての報告書も取りまとめられる予定。

12) OECD(2017 c),“Open research agenda setting”,OECD Science, Technology and Industry Policy Papers, No. 50, OECD Publishing, Paris, http://dx.doi.org/10.1787/74edb6a8-en

13) OECD(2017 d),“Digital platforms for facilitating access to research infrastructures”,OECD Science, Technology and Industry Policy Papers, No. 49, OECD Publishing, Paris,
http://dx.doi.org/10.1787/8288d208-en

14) 第5期科学技術基本計画(2016年1月22日閣議決定)
http://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/5honbun.pdf