STI Hz Vol.3, No.2, Part.5:持続可能な「高齢社会×低炭素社会」の実現に向けた取組(その3 地域の未来を創造する科学技術・システムの検討)STI Horizon



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  • DOI: http://doi.org/10.15108/stih.00079
  • 公開日: 2017.06.25
  • 著者: 予測・スキャニングユニット
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.3, No.2
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

ほらいずん
持続可能な「高齢社会低炭素社会」の実現に向けた取組
(その3 地域の未来を創造する科学技術・システムの検討)

科学技術予測センター 予測・スキャニングユニット

概 要

 科学技術予測センターでは、高齢・低炭素・地域をキーワードとして、2035年の理想とする暮らしの姿及びその実現に向けた戦略を検討する調査研究を実施している。これまでに全国4地域においてワークショップを開催し、各地域の理想とする暮らしの姿(高齢社会×低炭素社会の実現している姿)の検討を行った。本稿では、地域ワークショップで提案された「理想とする暮らしの姿」の実現に有用な科学技術・システムを抽出することを目的に、理工系の複数の学会と連携し実施したワークショップの結果について記す。関連する科学技術・システムとして、デジタルデータ・サイバー空間の活用と関連するインフラ技術(蓄電、ストレージ・伝送など)が多く挙げられた。また、「健康・暮らし」や「ものづくり・地方創生」のカテゴリーでは、個人対応技術、感性のデジタル化、適度なサポート技術などが挙げられた。高齢・低炭素社会ではこれまでのような画一的で大きな市場ニーズへの対応から、地域や個人の多様なニーズに応える科学技術が必要とされる。また、個人・感性・適度などに対応する技術には、ニーズのデータ化・解析やハードウェア(AI制御系や例えばウェアラブルデバイス)など高度な科学技術が求められる。

1. はじめに

科学技術予測センターでは、高齢・低炭素・地域をキーワードとして、2035年の理想とする暮らしの姿及びその実現に向けた戦略を検討する調査研究を2016年度に実施した1)。その目的は、将来の暮らしの姿を通じて科学技術発展の方向性を見いだすことである。本研究では、まず全国4地域(北九州市(福岡県)、上山市(山形県)、久米島町(沖縄県)、八百津町(岐阜県))においてワークショップを実施し、各地域の理想とする暮らしの姿(「高齢社会×低炭素社会」の実現している姿)の検討を行い、それぞれの地域の暮らしの姿の特徴と得られた知見について前稿(その2)2)にまとめた。本稿では、地域ワークショップで提案された「理想とする暮らしの姿」の実現に有用な科学技術・システムを抽出することを目的に、理工系の複数の学会と連携しワークショップを実施した結果について記す。

2. 学会連携ワークショップの概要

将来予測のニーズのある学協会の中から、特に地域の課題解決への寄与を考慮して、多様な社会課題に対応可能な幅広い研究領域をカバーし、学界のみではなく産業界に所属する専門家も多い3学会の協力を得てワークショップを3回実施した(図表1)。それぞれのワークショップの参加者は、大学、公的研究機関、企業等から構成される11~34名である。なお、各学会における将来検討のフェーズあるいはニーズ等によって、実施内容(対象とした年や社会像)が異なるため、ここでは地域が作成した2035年の理想とする暮らしの姿を参照し、その実現に関連する科学技術・システムの抽出を試みた応用物理学会との協働ワークショップについて中心に記す。

図表1 学会連携ワークショップの開催概要図表1 学会連携ワークショップの開催概要


3. 地域の理想とする暮らしの姿に関連する科学技術・システムの抽出~応用物理学会との協働ワークショップ~

3-1 事前検討:カテゴリー別将来社会像の作成

ワークショップに先立ち、全国4地域で描かれた理想とする暮らしの姿2)を基に、第5期科学技術基本計画3)に明示された社会課題、「健康・暮らし」、「環境・エネルギー」、「ものづくり・地方創生」、「安全安心・インフラ」の4カテゴリー別に関連する将来社会像を当センターにて作成した。各カテゴリー別の社会像については、ワークショップ検討結果を示した図表3-1~3-4に併せて示す。

3-2 ワークショップの概要

ワークショップは応用物理学会と協働で開催し、各分科会等から産学官の研究者・技術者計19名が参加した。「健康・暮らし」、「環境・エネルギー」、「ものづくり・地方創生」、「安全安心・インフラ」のカテゴリー別に、それぞれが産学官の参加者で構成されるように各グループ4~5人に分かれてディスカッションを行った。ワークショップの概要を図表2に示す。まずグループごとに、①地域の将来社会像の確認・共有・補足、②社会像に対応する科学技術・システムの抽出、③「重要度×実現可能度」軸へのマッピングとグループ化、④実現度を高めるための戦略・施策の検討の4ステップで実施し、最後にグループごとの検討結果発表と全体討論を行った。

図表2 応用物理学会との協働ワークショップ概要図表2 応用物理学会との協働ワークショップ概要


3-3 検討結果

カテゴリー別4グループの検討結果として、各グループが示した重点テーマと結果の概要を図表3-1~3-4に示す。

①健康・暮らし

全体を示すフレーズとして「未病化社会の構築」がビジョンとして示された。個人ごとにカスタマイズが行われ、健康状態等のセンシングデータに基づくアドバイスにより病院に行かなくてもよい社会が描かれた。この実現のためには、センサ技術、データマイニング、IoTの研究開発等が必要である(図表3-1)。

図表3-1 「健康・暮らし」関連の将来社会像と提案された科学技術・システム例図表3-1 「健康・暮らし」関連の将来社会像と提案された科学技術・システム例


②環境・エネルギー

人の移動や物流の最適化が重要とされ、鉄道、自動車、家庭、ロボット、個別の機器、小型センサが普及している将来社会の共通技術として、蓄電技術が取り上げられた。また、取り組むべき課題として、新原理電池研究、材料開発、蓄電の高エネルギー化・軽量化・低コスト化などが示された(図表3-2)。

図表3-2 「環境・エネルギー」関連の将来社会像と提案された科学技術・システム例図表3-2 「環境・エネルギー」関連の将来社会像と提案された科学技術・システム例


③ものづくり・地方創生

情報技術を活用して地域視点で世界市場に展開するグローカルビジネスが重要とされた。地方の強み、例えば伝統品(モノに限らず祭りなどの文化も含めて)を世界に発信、産業につなげることなどである。取り組むべき課題として、極リアル再現技術、暗黙知の形式知化、高度バーチャル技術等が挙げられた(図表3-3)。

図表3-3 「ものづくり・地方創生」関連の将来社会像と提案された科学技術・システム例図表3-3 「ものづくり・地方創生」関連の将来社会像と提案された科学技術・システム例


④安全安心・インフラ

情報インフラ(ソフトインフラ)が注目された。情報量が爆発的に増えてもスケールメリットは少なく、一方で情報が増えると蓄えるためにエネルギー消費が増大することに配慮が必要とされた。取り組むべき課題として、情報の取捨選択技術、大人数会議のためのバーチャルリアリティ技術、国際レベルのコミュニケーションのための意識改革、制度・ルール作り等が挙げられた(図表3-4)。

図表3-4 「安全安心・インフラ」関連の将来社会像と提案された科学技術・システム例図表3-4 「安全安心・インフラ」関連の将来社会像と提案された科学技術・システム例

4. 学会連携ワークショップの結果

前述した応用物理学会との協働ワークショップによる検討結果を基に、他の学会による検討結果も参照して、地域の将来社会像を実現するために関係する科学技術・システム例を図表4に示す。この結果を基に続いて実施された総合ワークショップでは、各地域と学会の代表者及び高齢・低炭素の専門家を加えて議論し、自治体ごとの戦略・施策を導いた。その結果については、一連の地域ワークショップのまとめとして次稿(その4)で示すこととする。


図表4 地域の将来社会像に関連する科学技術・システム例図表4 地域の将来社会像に関連する科学技術・システム例<

5. まとめと科学技術の方向性への示唆

2035年の高齢社会×低炭素社会の理想とする暮らしの姿を地域の視点を入れて作成し、次に学界・産業界の科学技術の専門家の視点から有用となる科学技術・システムの抽出を試みた。本研究で得られた図表4の結果は、多様な将来ニーズを持つ地域と、学界や産業界の持つ科学技術シーズのマッチングの試みと捉えることができる。この結果を基に地域ごとに検討した科学技術・システムに関する戦略については次稿で記し、ここでは学会ワークショップにおいて提案された科学技術・システム全体についてその方向性を示す。

全般的には、デジタルデータ・サイバー空間の活用と関連するインフラ技術(蓄電、ストレージ・伝送など)が多く挙げられた。また、「健康・暮らし」や「ものづくり・地方創生」では、個人対応技術、感性のデジタル化、適度なサポート技術などが挙げられた。高齢・低炭素社会ではこれまでのような画一的で大きな市場ニーズへの対応から、地域や個別対応の多様なニーズに応える科学技術が必要とされる。また、個別・感性・適度などに対応する技術には、ニーズのデータ化・解析やハードウェア(AI制御系や例えばウェアラブルデバイス)など、これまでとは異なる意味で高度な科学技術が求められる。また、これらの社会実装には生産や流通の低コスト化が必須であり、今回多く挙げられたデジタルデータ・サイバー空間の活用と、マスカスタマイゼーションなどの低コストでの個別対応の実現手段としてのデザイン・研究・開発・生産・流通のプラットフォームの再構築あるいは変革が不可欠となるであろう。

謝辞

本研究を進めるに当たり、ワークショップ開催に多大な御尽力、御協力をいただきました公益社団法人応用物理学会、一般社団法人日本機械学会、日本学術振興会水の先進理工学第183委員会、及び、参加者の皆様に感謝いたします。

参考文献

1)科学技術予測センター、「地域の特徴を生かした未来社会の姿~2035年の高齢社会×低炭素社会~」、調査資料-259、文部科学省科学技術・学術政策研究所(2017年6月)

2)予測・スキャニングユニット、「持続可能な「高齢社会×低炭素社会」の実現に向けた取組(その2 地域における理想とする暮らしの姿の検討)」、STI Horizon Vol.3 No.1(2017):http://doi.org/10.15108/stih.00070

3)第5期科学技術基本計画、2016年1月22日閣議決定 
内閣府HP:http://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/5honbun.pdf