STI Hz Vol.3, No.1, Part.7: (ナイスステップな研究者から見た変化の新潮流)理化学研究所 仁科加速器研究センター 望月雪氷宇宙科学研究ユニット 望月 優子 研究ユニットリーダーインタビュー STI Horizon

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  • DOI: http://doi.org/10.15108/stih.00068
  • 公開日: 2017.03.25
  • 著者: 矢野 幸子、蒲生 秀典、伊藤 大介
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.3, No.1
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

ナイスステップな研究者から見た変化の新潮流
理化学研究所 仁科加速器研究センター
望月雪氷宇宙科学研究ユニット
望月 優子 研究ユニットリーダーインタビュー

聞き手:科学技術予測センター 特別研究員 矢野 幸子、蒲生 秀典
企画課 係員 伊藤 大介

 望月優子氏は南極のアイスコアから過去の気候変動を読み取り、将来の気候変動をより精度良く予測するための研究を行っている。望月氏は2011年2月から2014年3月まで内閣府の最先端・次世代研究開発支援プログラム(NEXT)注1に研究課題が採択され、アイスコアの酸素同位体分析等の精度・時間分解能の大幅向上やその理論的解析において優れた成果を上げた。この成果に注目し、当研究所は2014年度に「ナイスステップな研究者」の一人として望月氏を選定した。アイスコアからは過去の地球の気候変動だけでなく、銀河系内超新星爆発や太陽活動といった宇宙の情報をも得ることができる。超新星爆発と元素の合成を探究することは、「元素の起源」に迫るものである。望月氏はこのような活発な研究活動と並行して、日本天文学会の副会長や男女共同参画委員等を長年務め、「南極氷床コア科学の推進と学界におけるリーダーシップの実践」で2016年度の「湯浅年子賞金賞」(お茶の水女子大学賞)を受賞した。今回のインタビューでは、望月氏の研究テーマの変遷と若手研究者や職業人へのメッセージ、現状ではマイノリティである女性研究者を増やす意義、優れた研究成果を上げるための研究環境作りや偏見をなくす人事制度への提案を詳しく伺った。

望月 優子 研究ユニットリーダー

― 望月先生のキャリアパスについてお話を伺います。研究者の道を選んだきっかけを教えてください。大学院の博士課程に進学する際、研究者を志すに当たって迷いはありませんでしたか。

小学生のころから理科が好きで、高校生になって進路を考える際に、自分の一番好きなことをやろうと思いました。カール・セーガンの「コスモス」という本との出会い、宇宙の本が並んだ本棚の前で、自分が知らないことがたくさんあると思うと気持ちが高揚しました。良い先生に出会えたことも進路を決めたきっかけです。物理が面白くてたまらなかった。純粋に物理学と宇宙の勉強をしたいと思いました。博士課程への進学や進路に関して自分は大丈夫かという思いは常にありましたが、まずはできるところまで自分のやりたいことをやってみようと思い、大学院に進学しました。

― 先生がアイスコアを研究することに至るまでの研究テーマの変遷をお聞かせください。

大学院で中性子星を研究し、そのときに身に付けた基礎や研究の進め方が現在もベースとなっています。中性子とは、原子核を構成する粒子の一つであり、中性子星は中性子が主に集まってできている天体です。質量が太陽の8倍から20倍程度の星が終末を迎え超新星爆発を起こした後に残るのが中性子星であり、1967年に発見されました。中性子星の角運動量は徐々に減衰していくのですが、1969年に「グリッチ」と呼ばれる角運動量が急に増加するスピンアップ現象が観測されました。このスピンアップに要する膨大なエネルギーがどこからどのように供給されるのか、発見から30年たっても謎のままでした。

中性子は電荷を持たず伝導性がないため、相転移した状態を超伝導体に対して超流体と言います。私は中性子星がスピンアップするエネルギーは中性子星の内部の超流体が関係しているという当時受け入れられていた仮説の実現法を考えました。学位論文の内容はこの超流体の物性物理学と、原子核物理とを融合させたもので、宇宙物理学との学際領域でもあります。1995年に理化学研究所の基礎科学特別研究員として採用され、3年後に東京大学で学位を取得しました。

私が所属する理化学研究所仁科加速器研究センターのミッションの一つは「元素の起源の解明」です。特に鉄からウランまでの元素の半分が宇宙のどこでどのように作られたのか、まだよく分かっていません。科学が進歩した世の中なのに、これらの元素がいまだにどこでできたか分かっていないとは驚きの事実なのです。これらの元素が作られる場所の候補の一つは超新星爆発です。星の死である超新星爆発は元素を宇宙空間にばらまきます。ばらまかれた元素を材料として次世代の恒星や惑星ができ、生命が誕生する。つまり「元素の起源」の探究とは、私たちがどこから来たのかを知りたいという人間の根源的な好奇心から来る研究です。ここで、ある超新星爆発の残骸で観測される元素の量が、一般的に理解されている理論と一致しないという問題がありました。観測を中心に行っている天文学者から原子核物理の知識を求められたのがきっかけで、理論と観測結果の食い違いを原子核物理で説明しようと、更に天文学と原子核物理の学際領域の研究を進めました。

「元素の起源」を総合的に理解するためには、超新星の爆発の頻度について情報を得ることが必須です。しかし我々のいる天の川銀河系でどのくらいの頻度で超新星爆発が発生しているかは実はよく分かっていないのです。最近の観測により330年ほど前にカシオペア座Aで超新星爆発があったことや、約100年前にも銀河系内超新星爆発があったことが報告されています。このように天文観測による報告はありますが、爆発が起きた頻度は研究者によって推定値に大きなばらつきがあります。なぜ難しいかというと、私たちは天の川銀河の“中”にいるからです。そこで私はアイスコアに着目しました。

アイスコアは大気が閉じ込められた、過去の物質を分析できる貴重なタイムカプセルです。特に南極大陸の各基地やグリーンランドでのアイスコアの掘削が国際的にも盛んに行われており、研究試料として蓄積・解析されています。私がアイスコアに着目したのは、今から30年以上前の「Nature」の論文注2がきっかけで、南極点で採掘したアイスコアの硝酸イオンピークと歴史上の超新星爆発の時期が一致するというものでした。この論文は批判も多く、他のアイスコアで再現性がなかったため研究コミュニティに受け入れられないまま、30年が経過したのです。その間、超新星爆発に関する知見が蓄積されたため、私は理論的にはアイスコアの硝酸イオン濃度を計測することで超新星爆発との関係が解明できる可能性があると確信し、このアイデアを日本で実現できたらよいと思っていました。しかしチャンスがなくそのままにしていました。

2003年のある朝、何げなく新聞を開いてみると、国立極地研究所が南極のアイスコアを用いて過去34万年の氷期と間氷期のサイクルを水(H2O)の酸素原子の同位体で分析した結果が「Nature」に掲載されたという記事を見付け、驚きました。アイスコアで同位体を分析できるなら、硝酸イオンを分析することも可能です。その論文のアイスコアは南極大陸の日本の基地「ドームふじ」(標高3,810m)で掘削されたものでした。今ではドームふじのアイスコアで過去72万年までさかのぼれます。すぐに国立極地研究所にコンタクトし、1年がかりで共同研究できることになりました。2014年にはアイスコアから読み取ることのできる過去の気候変動に着目した分析結果が論文注3になり、「ナイスステップな研究者」へとつながりました。長い時間がかかりましたが、超新星爆発や太陽活動と気温の関係に関しても面白い結果が出始めています。

― 女性研究者として研究がやりにくかったという経験はありますか。

キャリアの各段階でありますね。そして、そこから学んだことも多いです。私が所属する公益社団法人日本天文学会では女性の教授・准教授は会員数全体のたった1.5%です。コミュニティの中で1%しかいない人たちに何が起きるか想像してみてください。少数派の意見は配慮されません。国際天文学連合(IAU)の日本人の人数は加盟国73か国の中で第3位であるにもかかわらず、女性研究者の割合は100人以上の会員のいる上位25か国中で最下位です。

日本学術会議は男女共同参画にかかわる提言等を公表しており、内閣府も2030年に指導的地位に就く女性の割合を30%にするという目標を掲げています。これを現実にするための様々な政策がとられており、実際に良い兆しは見えますが、現場ではまだまだに思います。世界経済フォーラム(WEF)の2016年の報告によれば、男女格差指数が世界144か国中で日本は111位注4です。特に若い女性研究者が置かれている日本の研究現場の現状は2、30年前から余り変わっていません。

― 研究環境の具体的な改善提案はありますか。

提案が三つあります。一つ目は、「無意識の偏見」を意識することです。アンコンシャス・バイアス(unconscious bias 注5)と呼ばれています。この「無意識の偏見」は大半の人が気付いていません。例えば黒人より白人の方が科学的思考ができる、女性より男性の方が理科が得意、有名大学卒業者の方が優秀である、などです。この無意識のバイアスが誰にでも存在することは国際的に認識されています。欧米の大学では、教員の採用と昇進の審査の担当者は無意識のバイアスの研修を受けることが義務付けられており、実際に効果をあげているそうです。

日本でも通常では気が付かない偏見の意識に気付くためのサイト注6もあります。10分くらいの簡単なテストを行うと、自分はフェアに評価していると固く信じている人も、実は内面に無意識の偏見を持っていることに気付きます。この無意識の偏見を認識することが、女性、男性にかかわらず、コミュニティに必要な優秀な方を採用するために必要なのです。

二つ目は人事評価のシステム、360度評価の導入です。今までの日本のアカデミアの人事評価は上司一人が部下を評価するもので、前述の無意識の偏見が反映される度合いが大きい。これから人口が減少していく中、優れた研究成果を上げるためには多様性を増やし、優秀な研究員を採用することがコミュニティの力になります。そのためには評価の仕方を変えていかなければなりません。従来の一方向の評価ではなくて、同僚や部下からも評価を集める、360度情報収集が有効です。この評価システムは元世界銀行の副総裁の西水美恵子さんが導入して組織改革に成功したことがよく知られています注7。アカデミアにおけるハラスメントの問題解決にもつながると思います。男女にかかわらず有能な人材が採用されて、明るく生産的で活発な職場になるはずです。

三つ目は、同じ志を持つ仲間を作ることです。研究環境における様々な問題に気が付き、自分の力が発揮できるような環境に変えていくための仲間です。研究では自分の限界まで取り組むことも時には必要ですが、頑張りすぎることはいけません。自分の状態を客観的に見るためには異分野や自分とは違う世代の仲間も必要です。心身の健康を保ちながら自分が満足できる形で研究と研究環境を改善していく。仲間に知恵をもらいながら、もちろん自分でやるべきところは自分の道を歩んでいく。これらのことは研究者に限らず、どの職業でも参考になることだと思います。

― 研究者を目指す方に御自身の経験から言えることを教えてください。

自分の能力のすべてを使って「考えきる」という経験をすることです。それによって次のステップが拓けます。私の場合、大学院生のときに、研究アイデアを指導教官から全否定されるという苦しい経験をしました注8。指導してもらえず、自分だけで学会発表をしなければならなくなりました。とにかくできる限りやってみよう、駄目なら物理の道をあきらめようと覚悟を決めて取り組みました。大学院博士課程の一定時期、朝から晩まで、夢の中でも物理のことを考えるという時期を過ごしました。ある日の明け方、夢にパッとアイデアが浮かんだのです。頭の中に映像が浮かんだ瞬間、30年来誰も解決できなかった謎の本質がひらめきました。ひらめいたのはアイデアだけだったので、理論的に証明する方法を更に考え続けるという生活を送りました。振り返ると、この時期は自分の頭で考え抜いた時期でした。当時はまだ大学院生でしたが、そのとき置かれた環境で、自分が持っている能力のすべてを使って考えきる経験をしたという自負があります。この経験が、研究者としてのその後の人生に大きくプラスに働いたと感じます。教員との関係に悩まされることなく、志を持った普通の学生が、普通に一生懸命研究でき、性別やLGBTといった属性で制限されることもなく、やりたい研究を思い切りできるという環境を作ることが重要だと思います。

― 望月先生は日本天文学会の副会長もされています。学会の要職に就くことに抵抗はありませんでしたか。

私どもの研究センター命名の由来となっている、現代物理学の父、仁科芳雄先生がおっしゃったことに、「環境は人を創り、人は環境を創る」という言葉があります。私自身、30代後半で日本学術会議天文学研究連絡委員会委員(現在の連携会員)に学会選挙で上位で選ばれ、委員長の池内了先生からの御推薦もあってこの委員会の幹事を引き受けることになりました。結果的に学界の諸活動に主体的に関わることになり、広く深い経験ができました。自分の研究活動に加えて、「そのときにできる範囲で」研究環境を良い方向に変えていく活動に関わることも大切だと思います。

若い研究者が事務局的な仕事を引き受けることは、大御所の先生に対して恐れ多い気持ちになる上に、自分の研究の時間も取られてしまうと敬遠しがちですが、良いこともたくさんあります。例えば研究会のオーガナイザーはどうでしょうか。単に運営会議に参加するだけではなく、誰がどのような発言をして、実際に物事がどのように動き、発展や改善に向かっていくかという過程を知ることで、視野が広がり、次には自分が主体的に研究分野を発展させたり、研究環境がより良くなるよう貢献することができます。例えば科研費申請に通称(旧姓)を使えるようになったのも、身近では日本天文学会や日本物理学会の年会託児室の開設も、このような研究者の活動から生まれました。

― 自己研さんしつつ、独創的な研究活動を継続するための工夫はありますか?

自己の成長の段階を知り、研究者として人として成長していきたいと思っています。ポスドクの頃、当仁科加速器研究センターの矢野安重・前センター長から次のような「人を見る目」をお伺いしました。

研究員レベルは、知識、経験、技、センス、やる気。リーダーレベルは、人望、指導力、組織力。研究代表者レベルは、先見の明に基づく構想力、人脈を作る政治力、強運を呼び込む力。後に行くほど難しいとのことでした。今自分がいるレベルのこれらの基準が自分にあるかどうかを時折自問し、なるべく今より一つ上のレベルの力を身に付けられるよう自分なりに心がけてきました。これは研究者以外にも役に立つ習慣だと思います。

取材を終えて

既存の研究分野が融合する新しい分野を目指して研究してきたという望月先生。領域どうしが融合する分野でも、根無し草にならないよう、どちらかに軸足を置く確固たる基礎が必要だという。女性研究者を含むマイノリティの研究環境改善については、アジア諸国の中でも日本は立ち遅れており、中国、台湾、韓国に水をあけられていると感じているとのことであった。日本は30年前から変わっていない、このままではいけないという言葉に実感が込められている。多様性を認め、誰もが研究しやすい環境が日本の科学技術推進に必要であることは言うまでもない。具体策が望まれる。


注1 グリーン・イノベーション分野採択提案一覧 http://www8.cao.go.jp/cstp/sentan/jisedai_saitakuichiran_green.html

注2 R. T. Rood et al.: X- or γ rays from Supernovae in glacial ice. Nature, 282, 701-770, 1979.

注3 M. Sigl et al.: Insights from Antarctica on volcanic forcing during the Common Era, Nature Climate Change, 4, 693‒697, 2014.

注5 採用者、人事評価者、社会科学研究においてunconscious bias(無意識の偏見)についての配慮の必要性に関する記載がインターネットで多く見られる。

注6 https://implicit.harvard.edu/implicit/japan/「Project Implicit」は、全米科学財団(NSF)が開設したサイト

注7 西水美恵子、毎日新聞 2014年4月6日「時代の風」女性の登用促進策

注8 「アカデミック世界のマイノリティ 第23回『勇気をもって流れを変えよう』」(江口ひより著)、科学、岩波書店、第75巻第6号、768-773頁、2005年