STI Hz Vol.2, No.3, Part.2: (特別インタビュー)産業競争力懇談会(COCN)理事/株式会社東芝須藤 亮 技術シニアフェローインタビュー 産業界から見た目指すべき産学官連携、人材育成の形STI Horizon

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  • DOI: http://doi.org/10.15108/stih.00033
  • 公開日: 2016.09.25
  • 著者: 赤池 伸一、中島 潤
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.2, No.3
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

特別インタビュー
産業競争力懇談会(COCN)理事/株式会社東芝
須藤 亮 技術シニアフェローインタビュー
産業界から見た目指すべき産学官連携、人材育成の形

聞き手:科学技術予測センター センター長 赤池 伸一
特別研究員 中島 潤

 産業競争力懇談会(COCN)では、2006年から現在に至るまで、産業競争力強化のため、国全体として推進すべき具体的テーマを年間10件ほど設定し社会実装に向けたシナリオを作成し、提言として取りまとめ、関連機関への働きかけや実現を図るといった活動を行っている注1。また、第5期科学技術基本計画(平成28年1月22日閣議決定)に対しては、その策定段階から委員会への参加や提言を行うなど、強く影響を与えている。

 今回、COCNで理事を務める株式会社東芝 技術シニアフェローの須藤亮氏に、将来の我が国のイノベーションシステムの在り方を見据えた、産業界から見る産学官連携の在り方や人材育成など、幅広い観点からお話を伺った。

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須藤 亮 産業競争力懇談会(COCN)理事 / 株式会社東芝 技術シニアフェロー

- シリコンバレーを拠点とした米国IT系企業の躍進、新興国の追い上げ、またIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、ビッグデータなどの新たなキーファクターの出現等、我が国のビジネス環境は現在、大きな変化が訪れているものと思われます。まず、産業界の置かれている状況、今後の展望についてお聞かせください。

まず、世の中がICT(情報通信技術)やAIに向かっているということは間違いないと思います。そういった技術を使ってより新しい価値を作っていくという方向ですね。ただ、Google Inc.やApple Inc.のソフトウェアからのアプローチと、General Electric Company(以下、GE)やドイツ系企業が進めているハードウェアからのICTへのアプローチの二つがあると思っていて、かつどちらも同じ方向を目指していると思います。GEは、Industrial Internet注2と言って、ハードウェア事業を引き続き中心事業とし、ハードウェア自体にセンシング機能を加え、大量のデータを集めることで付加価値を付けていこうという動きを見せています。一方Googleはハードウェア事業は余り強くないので、引き続きハードウェア事業にも取り組みながらも、武器であるソフトウェア事業を更に伸ばそうとしています。どちらも目指しているところは一緒なのでどちらかが勝つということではないと思います。我が国についても同じ方向に向かっていかなければいけないと思っています。我が国は今までハードウェアが得意だったこともあり、どちらかというとGE型のアプローチの方が速いのではないかと考えています。この大きな流れに乗り遅れてはいけない、目指すべき方向はきちんと見据えておかなければいけない、というのが大前提だと思っています。

また、中国などの安値攻勢に押されて今までのモデルのままだとなかなか対抗しきれないという状況ではありますが、これからはモノを作って売るだけではなくて、そこにどういう付加価値を付けてその先どういうサービスでビジネスを行っていくかという、新しいビジネスモデルを作っていかなければならないと思っています。端末を売るだけではなく、例えばテレビであればコンテンツを録画するたびに課金をするような、ビジネスモデルを変えていく動きが重要だと思います。

日本のものづくりが何となく負けているようなイメージを持たれることもあるとは思いますが、例えば自動車産業などは負けていない。今の時代でも勝っている分野はたくさんあります。どうして勝っているのだろうと考えてみると、既にICTなどの考え方をしっかり取り入れているのだと思います。

- 単にソフトウェアでシステムを組み合わせるだけではなく、そのベースに物理的な“モノ”を持っているということが日本の強みと言えるでしょうか。

そうですね。ハードを持っているというのはこれからの時代、逆に強みになってくると思います。これからより進歩すると考えられているのはセンシングの分野ですよね。今まではデータを好き勝手に集めていたのですが、これからはどういうデータを取るかという勝負になってくると思います。そうすると、ハードウェアを持っていれば、そこに付ける最先端のセンシングで先行できれば、価値のあるデータを人より早く集めることができ、次の段階にいけると思います。これからの世の中は、これは様々な先生方もおっしゃっていますが、ハードウェアから情報を取る、つまり、モノから情報を取ってくるセンシングの時代になってくるのではないかと思います。そういったときにハードウェアを持っているというのは強みになると思います。

- このような状況下で、政府やパブリック・セクターに求められる役割はどういったことが考えられますか。

文部科学省でもいろいろな取組を進めていると思いますが、企業だけですと、特に基盤研究・基礎的な研究はできなくなってきており、アカデミアと分担すべき時代になっていると思っています。そこをいかにうまくやるかということで、オープン・イノベーションという考え方がものすごく大事になってくると思っています。大学も、できれば一つの組織ではなく三つ、四つが集まり、また研究機関や企業も幾つかの組織が集まって進めるのが理想的なオープン・イノベーションの形ではないでしょうか。

多分、明確な社会的課題の解決は産業界の方が得意だと思います。「こういう課題があるのでこういうことをやりたい」という話を大学や研究機関に持っていき、基礎研究をどうやってゴールまでつなげていくかを考える、というアプローチの仕方ですね。一方で、全く分からない課題、例えば第5期科学技術基本計画にも記載されている「超スマート社会」などの新しいもの、新しい価値がまだ漠然としている課題への対応について、これは大学、特に理系だけではなく社会科学や人文科学、あるいは哲学などの文系側の方がむしろ先を見る目があるかもしれない。最初からアカデミアと産業界で一つのシナリオを作って共有した上で、同じ方向を目指す。これも新しいオープン・イノベーションの在り方だと思います。そういう意味でも、これからはシナリオを産学官で共有するという考え方はすごく重要になってくると思います。

少し脱線するかもしれませんが、COCNの活動は、プロジェクトを年間10件ほど行って、その成果を文部科学省や経済産業省などの関連する省庁に示し、我が国の今後をどうしていくべきか議論するという、正にシナリオを描いて提言するという形にしています。やはりシナリオを描くと、ある程度道筋やゴールが見えてきて、全員が同じ目標に向かって進んでいくことができるので、非常に重要な活動だと思っています。

- 次に、産学官連携の在り方についてもお聞かせください。

この話題は話し始めると長くなりますが(笑)。

全体の流れとしては、大型で、かつ「組織」対「組織」できちんと進めようという方向になってきています。今までは、企業の研究者と大学や研究機関の先生との間で、企業の部長クラスなどが詳細を把握しないうちに、50万円から200万円程度の規模で行われていたというパターンが大半でした。それが徐々に変わり、内閣府、文部科学省、経済産業省や一般社団法人日本経済団体連合会、COCNからも言っていますが、「組織」対「組織」かつ大型で実施し、費用分析もしっかり行い、必要なものについてはきちんと払うということ。今まで人件費は運営交付金で賄ったりしていたらしいですが、本当に共同研究でかかった人件費ならば共同研究費で払うべきです。必要な経費は払い、かつ「組織」対「組織」なので予算の規模も大きくなることで、理想的にいけば何年かをかけて予算規模も現在の1.5~3倍程度になるだろうと考えています。この“「組織」対「組織」”で実施するということが非常に重要です。大学側としても、どのような共同研究が進んでいるかが分かるようになり、場合によっては「この研究にはその先生だけではなくてこちらの先生も参加させたらどうだろうか?」というマネージメントもできるようになると思うので、是非進めていきたいです。

もう一つ産学官連携について言いますと、内閣府や経済産業省、文部科学省などそれぞれの府省から様々な施策がとられていますよね。最近、COCNの実行委員会でも「産業界で国の施策を整理してみたらどうか?」という話をしてみたのですよ。産学官連携というテーマで、きちんと産業界なりの評価をして行政側にフィードバックして。なかなか難しいとは思いますが、文部科学省としても一度整理してみるのはどうでしょうか。産学官連携の機運がせっかく盛り上がってきていて、お互いに「やろう!」となって話合いの場も多く持たれている中で、せっかく予算化した事業が、制度的に見えにくいことが原因で有効に使われないというのは非常にもったいないですよね。そういう事業があること自体を知らなかったという企業もあったくらいですので。産学官連携を有効に、前向きに発展させられるようにしていきたいですね。例えば、元々別の施策で行われていた類似テーマの研究を、あえて補完関係としてリンクさせたり、統合したりするのもあるかと思います。改めて、せっかく産学官連携の機運が盛り上がってきているので、これを確実に成功させていくために、もうひと段階考えていく必要があると思っています。

- 続いて人材、特に博士人材についてお聞かせください。

業種によって全く異なりますが、例えば電機業界は研究所の採用の半分近くはドクターですが、機械や建設業界はそうではありません。業種によってかなりばらつきはあるということが、次第に分かってきました。理工系人材育成に関する産学官円卓会議の議論の中でも、もう少し細かくデータを取って分析していこうという話になってきています。

ただ、ドクター本人が産業界に本当に来たいと思っているのか、という疑問もあります。本当は教授を目指したかったのだけど、という気持ちのまま産業界に就職してしまったら、本人のモチベーションが低いままになってしまいます。こういった問題を解決するには、やはりもっと雇用に流動性を持たせるのがよいのではないでしょうか。ドクターを取ったらまずは産業界に行って、3~4年したらまた大学に戻って、というような考え方ができるようになればモチベーションも保てるのではないかと思います。日本の社会ではまだまだこのような考え方は根付いていないかもしれませんが。

もう一つは、産学官連携のような形で、例えばドクターコース時代に共同研究を経験すれば、学生も産業界の事情が分かり「産業界に行ってみようか」と前向きに希望する学生も増えるのではないかと思います。そういう意味でも、産学官連携でお互いにコミュニケーションを取るというのは大事だと思いますし、雇用の流動性確保にもつながると思います。逆に産業界も「あそこにはドクターコースの良い学生が大勢いるじゃないか」ということを見ることができます。

ただし、ドクターの学位を取ったそれだけで優遇、例えば給料を2倍3倍にするというのは日本の企業ではなかなか難しいと思います。もちろん年齢分の差などはあると思いますが、ドクターだけを優遇するのではなく、ある年齢になったら学歴は関係なく、スタートラインは同じです。

- あくまで能力で公正に評価するということですね。

そうです。ある方からも以前「ドクターの称号を与える方にも義務がある」というお話がありました。良い処遇を与えられるような能力のある人にドクターの称号を与えるべきだということです。特に民間企業を希望するようなドクターには、自分の専門だけではなくてドクターとしての資質も問われると思うので、そこはきちんと持っていてほしいです。そういう人材には、その資質に応じた処遇をしっかり与えられるはずだと思います。最近、特に若い人は真面目なので、もうのんびり研究をやるような人はいないと思いますし、逆に休日にも働きたいと言っているような若手研究者を上司が止めたりしている状況ですけどね(笑)。

- 第10回科学技術予測調査注3の中で「個々の要素技術を全体最適化したシステムとしての作りこみが必要」と記述されていますが、今後は人材育成や研究を通じた“システム思考”の強化が重要となってきますでしょうか。

この予測調査の際、私はエネルギーに関して執筆しましたが、エネルギーの分野に限らず重要ですね。総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)注4などでも「全体を見るのだ」と盛んに言っています。話をエネルギーに戻すと、エネルギーを作る・運ぶ・使うところ全部で一つの大きいシステムと考えられ、また個々のサブシステムがあって成り立っています。その中で例えば、再生可能エネルギーと、既存の火力などの発電機の動きとを同期させて安定的にかつ電圧・周波数等を変化させずに送るには、非常に高度な技術が必要です。また、そこまでの全体のシステムを見るのはエネルギーセキュリティ上不可欠です。このシステムとしての対応がきちんとできれば、別の新たな価値が出てきてもっといろいろなことができるようになってきます。例えばですが、通信にも使ってみるとか。そして新たな価値を生み出せれば、産業界が更に積極的にビジネスモデルを考えるようになり、最終的に新たな産業が成立するという好循環を回せるようになります。このように、システム思考で新たな価値を生み出せる人材が求められています。ただ、エネルギー分野についてはそのような人材が特に足りていないのです。貴重なノウハウや優秀な人材が一部に偏って集まってしまっています。また、電力に関わる強電系は大学では正直今余り学生に人気がない(笑)。CSTIなどでもこの分野の人材育成が重要だということは理解しており、今正に議論をしています。

- 最後に、より良い科学技術政策、特にエビデンスに基づいた科学技術イノベーション政策立案に向け、当研究所が留意すべき点や今後への期待などありましたらお聞かせください。

将来をきちんと予測していくという活動は、とても大事なことです。特に文部科学省でこそしっかりやらなければいけないと思います。今の流れに押されてしまうことなく、10年、20年、50年先をきちんと見据えなければいけないと思います。産業界ばかりを交えて協議をしていると、気付いたら産業界寄りの思考になってしまうようなときもあると思います。

とはいえ、将来を予測するというのはとても難しいですよね。難しいですが、我々はそこに期待したいと思っています。産業界でも10年、50年後を予測するような活動や議論をしているのですが、やはりどうしても限界があります。自分の事業や業界に基づいた予測になってしまうためです。そこで「別の見方をすると、こういう世界・将来があるのではないか?」というのを出してもらえると、それを一つのネタにして、その世界・将来に対してどう取り組んでいこうか、という議論ができると思います。私が研究所所長、CTOだったときにも「もっと面白いアイデアはないのか!?」と聞いて回ったのですが、私自身でも思い付くようなものしか出てこなくて。「夢物語でもいいから何かないのか!」って(笑)。是非、皆さんのこれからの活動、新しいチャレンジに期待しています。


注1 COCNの活動内容については、以下のホームページを参照:http://www.cocn.jp/index.html

注2 米国が推進する取組で、Industrial Internet Consortiumという組織が主導。GEはこの組織の中核企業。詳細はIndustrial Internet Consortiumホームページを参照:http://www.iiconsortium.org/index.htm

注3 詳細については、科学技術・学術政策研究所編『第10 回科学技術予測調査 分野別科学技術予測』内、「5.1.3 エネルギー消費」項を参照:http://data.nistep.go.jp/dspace/handle/11035/3080

注4 総合科学技術・イノベーション会議の詳細については、以下のホームページを参照:http://www8.cao.go.jp/cstp/