STI Hz Vol.2, No.1, Part.9:(レポート)地方創生と科学技術 STI Horizon

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  • DOI: http://dx.doi.org/10.15108/stih.00017
  • 公開日: 2016.03.25
  • 著者: 野澤 一博
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.02, No.01
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)


レポート

地方創生と科学技術
地域の力を集結して開発された金属3Dプリンタとレーザ加工技術
から拡がる産業展開

第3調査研究グループ 上席研究官 野澤 一博

概 要

地域活性化は我が国が直面する喫緊の課題の一つであり、地域企業が科学技術イノベーションにより付加価値の高い製品やサービスを生み出し、地域において産業振興や雇用の創出を図ることが求められている。現在、製造業の在り方を抜本的に変えるポテンシャルを持ったテクノロジーとして3Dプリンタが注目を集めているが、科学技術を活用したイノベーションとして金属3Dプリンタをブームの来る前から開発し、新市場の形成を行った中小企業が福井県にある。福井県での金属3Dプリンタの開発は、JSTの地域結集型共同研究事業や各種公的研究助成制度を活用し、地域の産学官が力を集結させ画期的な製品を開発し、企業の売上げ向上に寄与するだけでなく、多分野の新産業の創出につながるマネジメントが行われた点において、地域で科学技術をもとに付加価値の高い製品・産業を生み出したモデルケースと言える。福井県のケースでは地域の中小企業が科学技術をもとにして新製品・新技術を開発し、高付加価値化を果たしていたが、そのためには長い年月がかかっており、中小企業にとって、長期にわたるリスクと負担に耐えることができるかが問題となる。また、地域の大学と地域企業との共同研究事業は、国の支援事業が終わってしまうと、大学での研究が継続されないなどの課題が見られた。本稿では、地域で新たな核となる新産業を創出し、地域企業がリスクを軽減でき、大学で研究ノウハウなどを蓄積させるための新たなマネジメントの動きを紹介する。

キーワード:地方創生,科学技術,産学官連携,3Dプリンタ,レーザ加工技術,福井県

1. はじめに

多くの地域では人口減少や高齢化が深刻な課題となっており、地域活性化は我が国が直面する喫緊の課題の一つである。そのためには、地域企業が科学技術イノベーションにより付加価値の高い製品やサービスを生み出し、地域において産業振興と雇用創出が求められている。2016年1月に閣議決定された「第5期科学技術基本計画」においても“「地方創生」に資するイノベーションシステムの構築”の必要性が掲げられている1)。その中で実施されるべき重点的な取組として、地域が主体性を持って地域の特性に即したイノベーション推進による新産業・新事業の創出が挙げられている。つまり、地域振興における科学技術の役割と期待が増してきていると言える。

科学技術を活用した地域活性化の取組として、これまでにも経済産業省の産業クラスター計画や文部科学省の知的クラスター創成事業、都市エリア産学官連携促進事業、地域結集型共同研究事業等を通してクラスター形成の取組がなされてきた。それら、国の地域イノベーション支援事業を活用した成果として近年特に注目を集めているものに金属3Dプリンタがある。そこで本稿では福井県における金属3Dプリンタの開発・事業化の事例を通し、地方創生における科学技術イノベーションの意義や課題について検討し、考察を加える。

2. 福井県機械メーカーによる金属3Dプリンタの開発

(1) 金属3Dプリンタをブームの来る前から世界でいち早く商品化

3Dプリンタは製造業の在り方を抜本的に変えるポテンシャルを持った技術であり、近年多くの注目を集めている2)(蒲生2013)。3Dプリンタは、CADデータをもとに、樹脂や金属粉などを薄い層に積み上げて立体物を製作する技術(積層技術:additive technology)をもとにしている装置である。クリス・アンダーソン(2012)の『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』3)の出版に触発される形で、日本にもメーカーズ・ムーブメントと呼ばれる3Dプリンタを積極的に活用する動きが活発化した。従来の3Dプリンタは、樹脂等を原料としたソフトな素材での積層造形が中心であったが、ハードな素材である金属の3Dプリンタをブームの来る前からいち早く開発し、世界でいち早く商品化した中小企業が福井県にある。

その画期的な金属3Dプリンタを開発したのは、福井県福井市に本社のある株式会社松浦機械製作所である。松浦機械製作所は年商165億円(2014年度)、従業員317名(2015年9月現在)の中小工作機械メーカーである4)。松浦機械製作所は1990年代後半からレーザの研究開発を開始し、国の研究開発補助金を活用するなどして2003年に金属3Dプリンタを商品化した。

松浦機械製作所が開発した金属3Dプリンタ注1は1台の機械で、レーザ焼結と高速切削仕上げを繰り返し行うことで造形し、マシニングセンタでの加工と同等レベルの寸法精度・面粗度を実現するハイブリッド金属3Dプリンタである(写真1参照)。


写真1 金属3Dプリンタ
(金属光造形複合加工機:LUMEX Avance-25)

出典:株式会社松浦機械製作所

金属3Dプリンタでは、カスタムメイドが図れるため多品種少量の生産が可能である。また、自由な設計ができ、複雑形状の加工が可能になった。さらに、最終形状にするための後加工(除去加工)を必要としない点がメリットとして挙げられる。このことにより写真2のような複雑な金属部品や金型の製造が可能となった。


写真2 金属3Dプリンタで製作した製品

出典:株式会社松浦機械製作所

金属3Dプリンタのメリットとしては、従来工法に比べ、設計、データ製作、機械加工のそれぞれにおいて工程時間を短縮でき、従来工法に比べ設計から仕上げ金型までのトータルの工程時間を38%程度短縮できる点が挙げられる(図表1参照)。


図表1 金属3Dプリンタによる作業時間

出典:株式会社松浦機械製作所

金属3Dプリンタにおける難点としては、切削できない面は仕上がりが粗くなってしまう点や、原料が比較的高い金属粉から作るので鋳造や切削加工による金型と比べるとコストが高くなる点が挙げられる。

金属3Dプリンタで使用する材料はマルエージング鋼、鉄、ステンレス、チタン、コバルト+クロム合金、インコネル、アルミ等の金属粉末である。加工方法は、まず加工テーブルに金属粉末を敷き詰めるスキージングが行われ、次いで金属粉末をレーザ焼結する、そしてある程度の厚さになったら造形物を切削するという三つのプロセスを繰り返すことにより積層していくことで立体物を造形していく(図表2参照)。


図表2 金属3Dプリンタの加工方法

出典:株式会社松浦機械製作所
(2) 県のもとで地域として企業化の必要性の高い分野の特定と多分野への展開

松浦機械製作所の金属3Dプリンタの開発には当初、積層技術の他にレーザ加工技術の習得という課題があった(図表3参照)。松浦機械製作所は工作機械メーカーであるので、従来の切削加工には刃物を使用していたが、刃物は加工により摩耗するという課題があった。そのため、1990年代後半には摩耗する刃物を代替するため、松浦正則社長(当時)がリーダーとして、当時普及し始めていた短パルスレーザによるアブレーション加工についての研究を進めていった。


図表3 松浦機械製作所における金属3Dプリンタ開発の沿革

出典:松浦機械製作所ホームページ及びヒアリングより作成

そのような状況時に、松下電工株式会社(現パナソニック)生産技術研究所では自社で製品開発に使用する金型製作の合理化をはかるため、金属光造形装置の開発を行っていた。しかし、松下電工では装置の開発を本業としていなかったため、以前からの取引先であり、装置開発を本業として切削技術にも秀でていた松浦機械製作所をパートナーとして金属光造形装置の研究開発を進めることとした。松下電工は松浦機械製作所に基本技術を提供し、技術者交流を行ったが、開発は松浦機械製作所が主導的な立場に立って装置の開発を行っていった。

金属3Dプリンタが製品化へと大きく展開したきっかけは2000年に科学技術振興事業団(現在の科学技術振興機構:JST)の地域結集型共同研究事業に福井県の「光ビームによる機能性材料創成技術開発」が採択されたことである5、6)

地域結集型共同研究事業とは、科学技術庁(当時)により1997年度よりスタートした事業である。事業の概要は、「地域として企業化の必要性の高い分野の個別的研究開発課題を集中的に取扱う産学官の共同研究事業であり、大学等の基礎的研究により創出された技術シーズを基にした試作品の開発等、新技術・新産業の創出に資することを目的としたプログラム」7)である。

1999年の科学技術振興事業団の地域結集型共同研究事業の応募に際し、福井大学では小林喬郎教授の高度なレーザ技術研究に着目した。同時に産業界では、松浦機械製作所が金属3Dプリンタの開発における大きな課題となるレーザ加工技術の習得があり、レーザ加工技術が地域としての企業化の必要性の高い分野としてクローズアップされることとなった。

福井県の地域結集型共同研究事業の中核機関は福井県産業振興財団(現 ふくい産業支援センター)であり、事業統括は同財団の理事を務めていた松浦機械製作所の松浦正則社長(当時)が就任した。研究統括は福井大学大学院工学研究科の小林喬郎教授であった。同事業には、ふくい産業支援センターのみならず、福井県工業技術センターも技術者10名が技術開発に従事し、事務局に職員2名をふくい産業支援センターに派遣したりするなど県を挙げての事業となっていた。

福井県の「光ビームによる機能性材料創成技術開発」には、1.高輝度Yb:YAG注2固体レーザ技術に関する研究、2.高輝度光ビーム加工技術に関する研究、3.高輝度光ビームによる薄膜形成技術に関する研究の三つのサブテーマがあった。松浦機械製作所は1.高輝度Yb:YAG固体レーザ技術に関する研究と2.高輝度光ビーム加工技術に関する研究注3に参画していた。同事業での技術的な出口としては、①機能性薄膜加工創成による光ナノ表面加工改質装置、②超微細加工によるレーザドライエッチング装置の開発、③環境エネルギーにおける選択薄膜形成装置の開発、④バイオ・医療分野として金属光造形複合加工機の四つの開発が挙げられる(図表4参照)。


図表4 福井県地域結集型共同研究事業概要

出典:福井県

地域結集型共同研究事業では、レーザの勉強会を実施し、松浦機械製作所はそこでレーザの原理、特性、機能等についての知識を習得していった。松浦機械製作所としては、焼結レーザ技術自体は松下電工から導入したが、それを積層、造形、切削するための研究を行う必要があった。松浦機械製作所では、福井県工業技術センター内に設置された実証化棟に社員2名を5年間常駐させレーザの特性を学び、レーザ加工技術の習得に努めた。

福井大学では、主に光造形加工に用いるレーザ光源の開発と超短波パルス光により新加工技術の研究をテーマとして、県内外の大学や研究機関と広域協力体制を確立し、産学官の多数の研究者コミュニティーを形成していった。

地域結集型共同研究事業の助成額は5年間で25億円という大型研究開発事業であった。そのため、福井県内外の企業、大学、公設試などの各機関から熱意あるスーパースターが集まる事業となった。地域結集型共同研究事業は、文部科学省の知的クラスター創成事業、都市エリア産学官連携促進事業に先んじる事業であり、福井県において産学官連携のモデル事業となった。福井県工業技術センターの関係者によると、それ以前の産学連携は地場で盛んな繊維産業が中心と限られた分野での展開であったが、本事業採択以降は、機械や電気・材料などいろいろな分野で組織的に産学連携が展開されるようになり、福井県として産学官連携のマネジメント能力が向上したとしている。

(3)地方発の「尖った製品」による新たな市場の形成

松浦機械製作所は、JSTの地域結集型共同研究事業に続き、より実用化に焦点を置いた2001年度補正予算における経済産業省の「新規産業創造技術開発費補助金」に採択された。そのことにより開発も順調に進み、2002年には金属3Dプリンタの試作機を開発し、翌年には製品の販売をスタートした。当時としては、市場はまだ形成されておらず、技術的にも未成熟な点が多かった中、事業化に踏み切った理由として松浦機械製作所松浦勝俊社長は「当時の松浦正則社長の熱意もあるが、会社の考えとして、会社の屋台骨が傾かない程度のリスクであれば、新しいもの、「尖った製品」を世の中に出すという会社の方針がある」と述べている。

松浦機械製作所の開発した金属3Dプリンタは世間から大きな注目を集め、技術的卓越性や革新性が評価され様々な賞を受けている。2004年には、産業・社会の発展に顕著な成果を上げた「研究開発・実用化技術」を顕彰する第33回日本産業技術大賞 文部科学大臣賞、2007年にはものづくり大賞経済産業大臣賞、第37回機械工業デザイン賞・日本商工会議所会頭賞を受けた。

現在の金属3Dプリンタは、製品としては試作機であるM-Photon25Yから数えて4世代目のLUMEX Avance-25が発売されている。これまでの製品の改善点としては、切削、造形時間の加工工程を高速化、高精度化させるなどして進化している。

また、レーザ加工技術については、2002年の試作機M-Photon 25Yには地域結集型事業で研究されたNd:YAGレーザを使用していたが、2003年の実用機のM-Photon 25C、LUMEX 25Cでは、当時YAGレーザは高価であったため、比較的安価で技術的に安定したCO2レーザを使用した。2008年に開発されたLUMEX Avance-25ではより高精度で高効率加工が可能なYbファイバーレーザが使用されるなど、松浦機械製作所としてレーザ加工技術の習得・展開が進んでいった。

松浦機械製作所が開発した金属3Dプリンタの基本特許はパナソニックがもっており、装置の製造は松浦機械製作所に任せ、パナソニックにおいては特許で稼ぐビジネスモデルを取っている。松浦機械製作所は、パナソニックに技術的に依存するのではなく、自社でレーザ焼結技術に係る条件や切削加工に関する応用特許や機械要素技術に関する特許を取得して、技術的な囲い込みを行っている。

金属3Dプリンタは、当初から良い製品であるという評価を得ていたが、ほとんど売れない時期が数年も続いた。そのため、松浦機械製作所社内では金属3Dプリンタ事業の中止を図る声もあったが、同社では製品の改善を図るなどして辛抱強く事業を育成すると同時に、市場の開拓を図っていった。2012年以降のメーカーズ・ムーブメントによりデジタルファブリケーションが幅広く認知されると、金属3Dプリンタとして一躍脚光を浴びる存在となり、販売が急増していった(図表5参照)。


図表5 金属3Dプリンタ販売台数の推移

出典:株式会社松浦機械製作所

松浦機械製作所では、販路拡大のため装置のアプリケーションを広めるための開発を行っている。そのアプリケーションの一つが人工骨をはじめとする医療機器関係である。松浦機械製作所は金属3Dプリンタの医療分野への活用を想定した医療フォーラムを2011年に設立した。金属3Dプリンタでは人工骨の製造が比較的容易にできるが、研究テーマは許認可が比較的短期間である人工歯、歯科補綴物に焦点を絞り開発を行っている。同フォーラムは参加会員40名であり、年2回勉強会を開いている。また、県では2013年にふくい医療産業創出研究会を組成した。設立メンバーは県内の繊維や化学、眼鏡、表面処理などの企業のほか、福井大学、福井工業大学、ふくい産業支援センターなど29の企業、機関、医療関係者で構成されている8)。このように、県を挙げてレーザ加工技術を利用した金属3Dプリンタを基礎に医療産業の育成が図られている。

金属3Dプリンタの発売により、松浦機械製作所の会社認知度は大いに向上している。そのことは人材採用にも大きな効果を及ぼしている。松浦機械製作所の大卒・大学院卒採用は、県内出身者のみならず、県外出身者の採用も増加し、技術系の学生では金属3Dプリンタに魅力を感じ、そのような革新的な製品開発を行いたいことを志望理由とする学生が集まってきている。

また、先駆的な商品開発は政府関係者の目に留まることとなり、経済産業省からの声掛けにより、2014年には、次世代型産業用3Dプリンタ 技術開発及び超精密三次元造形システム技術開発を目的とした技術研究組合次世代3D積層造形技術総合開発機構(TRAFAM Technology Research Association for Future Additive Manufacturing)に参加することとなった。TRAFAMは産総研、JAXAをはじめとした参加機関数32機関が集う(その他に近畿大学、東北大学、民間企業28社)の大型の技術研究組合である。松浦機械製作所は次世代型産業用3Dプリンタ 技術開発で近畿大学らとともに高出力なファイバレーザ(1kw)を使用した既存製品より大型(600mm×400mm)で高速な先端装置開発を担っている9)(図表6参照)。


図表6 次世代3D積層造形技術総合開発機構研究体制

(注)赤枠はNISTEPで加筆
出典:技術研究組合次世代3D積層造形技術総合開発機構ホームページ

金属3Dプリンタは競合他社の注目も集めるようになり、(株)ソディック、DMG森精機(株)、ヤマザキマザック(株)などの大手工作機械メーカーも参入してきた。金属3Dプリンタの造形方法には2種類あり、松浦機械製作所とソディックは金属粉末を断面形状に溶融する「粉末床溶融結合」方式、DMG森精機とヤマザキマザックは集中的に金属粉末を吹き付け、レーザー・クラッディング(肉盛り)する「指向性エネルギー堆積」方式の機械を販売している10)。大手企業が金属3Dプリンタに参入してくることに対し、松浦勝俊社長は「大手企業が参入することにより、市場が拡大し、マツウラの製品の認知度も上がり、弊社としても好ましい」と鷹揚である。これも、長年培った高い技術力と先行者としてのノウハウの蓄積から生まれた自信からの発言と言える。

(4) レーザ加工技術が地域の中核的技術となるよう地域を挙げて育成

地域結集型共同研究事業以前の福井県では、レーザ加工技術を持った企業が皆無に等しく、またレーザ加工技術に関心のある企業もごくわずかしかなかった。しかし、地域結集型共同研究事業が開始される十余年程前から福井県工業技術センターと福井大学が中心となって地域の新たな科学技術を調査して育成する産学官研究会などを企画することにより次第にレーザ加工技術に対する関心が高まってきた。

その後の地域結集型共同研究事業の採択を契機に、2002年に福井県工業技術センター内にレーザ技術実証化センターが開設され、福井大学内の地域共同研究センターやベンチャービジネスラボラトリー内にも光加工用レーザ装置や計測装置の導入が行われ、多数の教職員が装置や実験室の運営に携わることで、県内企業がレーザ技術を活用しやすくする場が構築された。

それらの動きを踏まえ、近畿経済産業局の近畿ものづくりクラスター事業で近畿局内の有力企業が参加する中、福井県が「レーザ微細加工技術研究会」の中心的役割を果たした。2005年には福井県は産業振興指針である「最先端技術のメッカづくり基本指針」11)で、①先端マテリアル創成・加工技術、②チタン・マグネシウム加工技術、③レーザ高度利用技術、④バイオテクノロジー、⑤原子力関連産業を五つのコア技術と策定した。レーザ加工技術は地域の中核的技術として認知されていった。

レーザ加工技術に関し、福井県では松浦機械製作所を中心とした地域結集型共同研究事業を嚆矢として、JSTの育成研究やA-STEP、経済産業省地域新生コンソーシアム研究開発事業などに採択され、地域企業内にレーザ加工技術が蓄積されていった。これら共同研究に参加した研究者のみならず、多くの大学学部卒業生・大学院修了生が地域の企業に就職することで、地域に特色ある産業の芽が育っていった。

県内企業がレーザ加工技術を活用した例として、(株)シャルマンはレーザの微細接合技術を活用した革新的なメガネフレームを開発したり、医療分野への進出を果たしている。セーレン(株)ではレーザを活用した電磁シールド材の配線技術の開発に貢献している。レーザは金属微細加工装置、マシニングセンタ等に装備され、高機能性繊維材料、機能性レンズ、金属表面加工、薄膜加工等に応用され、その加工技術をもとに、繊維・産業・メガネ等の県内の様々な産業で活用されている。

地域に蓄積されたレーザ加工技術と並行する形で、高出力系レーザ技術の活用による企業・機関の誘致も進んでいる。例えば、2008年には関西電子ビーム(株)、2009年には日本原子力研究開発機構敦賀本部・レーザ―共同研究所、2013年にはナ・デックスプロダクツ(株)レーザ研究センターが県内に設立された(図表7参照)。


図表7 レーザ技術を活用した新産業創出

出典:福井県工業技術センター

福井県工業技術センターでは、レーザ加工なら他県でもできるが、福井県の企業はいろいろな素材を知っているのが強みであるとしている。現在、工業技術センターでは独自に、医療分野や自動車分野での使用を想定し、微細で真っすぐな深い穴があけられる高度なレーザ加工技術の開発を行っている。

このように、レーザ加工技術という汎用的技術は地域内に拡散され、活用されている。福井県では地域結集型共同研究事業を契機として、県内外の資源が一つのテーマに集中的に集められ、一つの技術領域での卓越性を創出することができた。

福井県工業技術センターでは、レーザ加工技術の促進ばかりではなく、2010年に多彩な積層造形装置を活用できる3D試作センターを開設した。これまで、樹脂や石膏など5種類の造形装置を整備し用途に応じ対応してきたが、さらに2015年2月には松浦機械製作所製の金属3Dプリンタを導入し、県内の中小企業にとっても金属3Dプリンタを活用しやすい環境を整備した12)

このように、福井県ではレーザ加工技術を軸に、様々な製品分野へと応用展開し、新産業の創出を図っている。

3. 地域企業の科学技術による高付加価値化と課題

地域の企業が、技術開発により新商品を開発し、新しい革新を生み出し、雇用と稼ぐ力を強化することが求められている。福井県の松浦機械製作所の金属3Dプリンタの開発は、産学官連携により科学技術を活用した画期的な製品を開発し、売上げ向上にも寄与している点だけでなく、多分野の新産業の創出につながるマネジメントが行われたモデルケースと言える。

2015年4月に改訂された「福井経済新戦略」13)では、自社技術だけでなく他社や大学等が持つ技術等を組み合わせ、革新的なビジネスモデルや製品の開発につなげていく「オープンイノベーション」の発想に立った仕組みを地域内につくるとしている。その基本戦略の筆頭に挙げているのが「地域のイノベーションの仕組みをつくる」であるとして、県内企業と大学との共同研究のより一層の推進を図ることを目指している。地域でのオープンイノベーションを促進させるために、福井県では、県内の大学や公設試験研究所(公設試)のみならず、国の機関、県内企業等も含めた連携体制の構築を図るべく2015年6月にはふくいオープンイノベーション推進機構を設置した。そこでは、宇宙産業、医療産業、炭素繊維産業、ウェアラブル製品、次世代農業技術の五つの分野の振興を図っていく予定である。

県の新戦略を遂行するには、地域企業が科学技術を習得して先端的な製品を作り出すことが必要である。そのためには、地域にある大学の知識・知見が重要な役割を果たす。また、レーザ加工技術という先端技術を地元の中小企業に定着させるためには、大学との連携ばかりではなく、県の工業技術センターの役割が大きかった。企業は大学から新技術の理論・原理を学んだり、現象の意味を知るために解析依頼するなどして知識を得る。しかし、知識だけでは新技術は現場に実装できない。企業は公設試等において試行錯誤しながら条件出しを行い、現場への適用を図っていく。つまり、地域において科学技術の定着を図るためには大学の研究開発力と公設試の技術指導の両輪が必要である。

福井大学と科学技術・学術政策研究所では2013年に福井県における産学官連携の動向について調査を行った14)。その調査によると、福井県の企業において大学・高専と連携経験のある企業の比率は38.0%であり、一方、連携経験なしの企業は61.1%あった(図表8参照)。現在の福井県企業の産学連携の実施率は決して低くはないが、地域企業と大学・高専の連携拡大の余地はまだあると言える。福井県には技術力のある中堅・中小企業が多くあるので、今後、これら企業が大学・高専を活用し、高付加価値のある製品・技術を開発して、収益を上げていくことが望まれている。


図表8 福井県における大学・高専との連携の有無と内容(n=229)

出典:科学技術・学術政策研究所「福井県における国立大学等と地域企業の連携に関する調査報告」

福井大学では、以前から産学連携については熱心に取り組んできた。しかし、今までの産学連携はシーズ提供型であったため、大学のシーズからの事業化展開では事業化に時間がかかっていた。その反省を踏まえ、現在の産学連携ではニーズ牽引型アプローチを図り、学と官が並走して企業の事業化を支援するとしている。

また、全国の公設試の予算の推移を見てみると、2002年の2089億円から2012年には1441億円と右肩下がりであり、10年間で31%減少している(図表9)。そのため、現在の公設試の予算削減の減少は、地域における科学技術イノベーションを創出する力を弱体化させる危険性が高い。そのため、地域における公設試の役割を再認識する必要がある。


図表9 都道府県(政令市含む)公設試予算推移

出典:文部科学省「都道府県等における科学技術に関連する予算調査」をNISTEPで集計

福井県の企業による金属3Dプリンタは製品化にはそれほど時間はかからなかったが、事業としての成功までは10年以上の年月を必要とした。確かにメーカーズ・ムーブメントの潮流に乗り、近年大幅に売上げを伸ばしているが、長い間にわたりユーザーの意見を聞きながら製品を改良していったり、アプリケーションを開発するなどして、松浦機械製作所自ら市場を創造するなどの努力を重ね、事業として軌道に乗せていった賜物と言える。

科学技術をもとにして新製品・新技術を開発し、高付加価値化を果たすためには長い年月がかかる。地域の中小企業にとっては、長期にわたるリスクと負担に耐えることができるかが課題となる。

また、地域の大学における地域企業との共同研究事業は、国の支援事業が終わってしまうと、地域企業が資本力に乏しいため、大学での研究が継続されないことが多い、そうすると、引き続き地域企業を支え得る地域の大学でせっかく培われ、蓄積された知識・技術が霧散してしまうことが多い。そのため、国等の継続的なサポートが必要と言える。

謝辞

本記事作成に当たり、多くの方の御協力を頂きました。インタビューや資料提供に御協力くださいました株式会社松浦機械製作所、福井県工業技術センター、福井大学の関係者の皆様に感謝申し上げます。


注1 松浦機械製作所では製品カテゴリー名を金属光造形複合加工機としているが、一般的には金属3Dプリンタの方が認知度が高いため、本稿では「金属3Dプリンタ」で統一する。

注2 YAGとはイットリウム、アルミニウム、ガーネットで構成される屈折率の高いダイヤモンドに似た一種の人工宝石である。

注3 サブテーマ2.高輝度光ビーム加工技術の研究リーダーは福井大学工学部の岩井善郎教授(現 理事・副学長)が務めた。

参考文献

1) 第5期科学技術基本計画 2016年1月 22 日 閣議決定:
http://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/index5.html

2) 蒲生 秀典 デジタルファブリケーションの最近の動向―3Dプリンタを利用した新しいものづくりの可能性―
文部科学省科学技術・学術政策研究所 科学技術動向2013年8月号pp19-26:
http://hdl.handle.net/11035/2416

3) クリス・アンダーソン(著)関美和(翻訳)『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』2012年 NHK出版

4) 株式会社松浦機械製作所 ホームページ:http://www.matsuura.co.jp/japan/

5) 地域結集型共同研究事業 事業最終報告書 福井県 「光ビームによる機能性材料加工創成技術開発」
文部科学省・科学技術振興事業団:
http://sherry1.tokyo.jst.go.jp/jstreport/browse/jst200303/200505/0/_contents/-char/ja/

6) 地域結集型共同研究事業 追跡評価報告書平成12年度事業開始地域(秋田県、福井県、静岡県、横浜市、神戸市) 独立行政法人 科学技術振興機構 イノベーション推進本部 地域事業推進部 2009年8月:
http://www.jst.go.jp/chiiki/kesshu/hyouka/091211/h12tsuiseki_h.pdf

7) JSTの地域結集型共同研究事業2013年度まで続いた。
JST地域事業15年史:http://www.jst.go.jp/chiiki/15nennsi/15-08.pdf

8) 福井新聞「福井の技術力 医療に」2013年7月26日

9) 技術研究組合次世代3D積層造形技術総合開発機構(TRAFAM Technology Research Association for Future Additive Manufacturing) ホームページ:https://trafam.or.jp/top/

10) 日経ものづくり 一段上をいく最新工作機械、3DプリントやFSWの機能を組み込む 日経BP 2014年12月号57-65

11) 福井県産力戦略本部策定「最先端技術のメッカづくり基本指針」 2005年3月:
https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/chisangi/sangakukan/meccasisin_d/fil/001.pdf

12) 福井県工業技術センター ホームページ:http://www.fklab.fukui.fukui.jp/kougi/

13) 福井経済新戦略(改訂版) 福井県経済新戦略推進本部 2015年4月
(福井経済新戦略は2010年12月に策定された。):
http://www.pref.fukui.jp/doc/sansei/fens-actionplan/sinsenryaku_d/fil/009.pdf

14) 福井県における国立大学等と地域企業の連携に関する調査報告
DISCUSSION PAPER No.99 文部科学省科学技術・学術政策研究所 2013年10月:
http://data.nistep.go.jp/dspace/bitstream/11035/2430/3/NISTEP-DP99-FullJ.pdf